COMMUNE 2000/09/01(No298 p48)

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 特集/9・3自衛隊の治安出動演習弾劾

 第1章 「9・3防災訓練」=治安出動演習を許すな

 第3節 本格的治安出動態勢作りへ突進

 自衛隊は「災害派遣計画」を円滑に実行するために、防災訓練を徹底的に活用してきた。
 これまで自衛隊は、4度の大規模防災演習を行っている。「南関東地域震災災害派遣計画」に基づく91年6月の「陸上自衛隊東部方面隊大規模震災対処演習」、同年8月の北海道大演習場での「ビッグレスキュー’91」、95年9月の「陸上自衛隊南関東地域震災災害派遣計画」を全体的に検証するための演習、99年の東京・有明での9・1「防災訓練」だ。
 95年の演習については、詳細はひた隠しに隠されており、毎年行われる演習などが詳しく記載されている防衛庁出版の「防衛年鑑」や朝雲新聞社発行の「防衛ハンドブック」などにも一切言及がないが、91年と99年の演習については一定の資料があるので、それについて具体的に検討し、その実態が治安出動訓練そのものであることを明らかにしておきたい。

 陸自大規模震災対処演習

 「南関東地域震災災害派遣計画」に基づく演習では、指揮所演習に52個部隊、2万1千人、航空機約80機、車両等2550両が参加し、機能別訓練は江戸川河川敷と関山演習場(新潟県妙高村)で行われた。
 江戸川河川敷で行われた演習は、第1師団の参加部隊10個部隊、人員1530名、航空機約20機、車両等350両が参加した。関山演習場では、第12師団の参加部隊7個部隊、人員1580名、航空機約20機、車両等約370両が参加した。
 江戸川河川敷での演習の「訓練内容」は次のようなものであった。
1部隊空輸のための航空機の初動展開、2上空及び地上からの偵察・避難誘導活動、3空中機動、水上機動による救援部隊の進出、4道路の啓開・消火活動、5道路の復旧・架橋、6救援活動、7救援部隊の進出、8ビルからの救出・救助

 治安出動訓練とのオーバーラップ

 このような訓練内容を治安出動計画と比較してみると見事にオーバーラップしていることがわかる。
 自衛隊の治安出動計画は以下のように要約できる。1空中偵察、2地上での情報収集・情報統制・交通規制、3指揮通信網の設置、4政府要人等の救出・輸送、5ヘリ、戦車による暴徒鎮圧のための威圧行動、6武器使用。
 治安出動の1は演習の2に対応し、同2は演習の4、5に対応している。演習の6の救援活動には、わずか20機のヘリしか動員されないため、一般住民の空中からの救助にはあてられず、治安出動の4の「政府要人等の救出・輸送」のみが問題となる。
 演習では、道路の啓開、復旧活動を重視し、大量の車両の進出を最大の目的にしていることがわかるが、これらの車両は住民の救助ではなく、治安出動の「暴徒鎮圧」、政府要人の警護・輸送を目的とするものだ。
 「南関東地域震災災害派遣計画」の中には兵站計画があり、その中には武器の補給が明記されている。「各部隊の任務」の項には、第1武器隊、第313武器支援隊の項があり、練馬駐屯地に武器の交付所・整備所を設けると明記されている。つまり、各部隊が武器をもって出動することが前提となっているため、武器の補給所の規定のみがしるされているのだ。演習でも治安出動の6の武器使用が考慮されているのである。

 「ビッグレスキュー91」

 同年8月、9日間にわたって北海道・島松の1万fにおよぶ大演習場で、統裁部、実施部隊あわせて3300人、車両1000両、ヘリ40機を動員しておこなわれた大規模「防災演習」は、現東京都参与の志方が陸自北部方面隊総監として立案、統裁した演習として、9・3演習の原型をなすものだ。この演習は「緊急医療支援訓練」と称されているが、内実は治安出動訓練以外のなにものでもない。
 演習は偵察ヘリOH-6、固定翼機LRによる「被災状況の偵察」で開始された。次に空挺隊員がパラシュートで降下してヘリの誘導を行う。同時に消火剤を積載した中型ヘリが空から消火に当たり火災を鎮火させた後、UH-1Hヘリの編隊が飛来し、ヘリポートの構築と負傷者の救出・収容を行う。
 ヘリポート構築後、救急隊員を乗せた第二波、第三波のCH-47チヌークやバートルヘリが降着し、負傷者・被災者の救出・治療が行われる。
 続いて地上から、折り畳み式の81式自走架柱橋と67式戦車橋が孤立した地域に架橋していく。同時に不整地での走行に適した装甲救急車が被災地へと突入していく。
 さらにブルドーザーが道路を啓開し、除染車が被災地域を消毒して回り、化学防護車が有毒ガスの検知を行う。その中を救急車30台がサイレンを鳴らして駆け回る。
 演習を指揮する前進航空基地には指揮所、野外気象装置、野外管制装置、無線標識装置、対空レーダー、航空機野外整備所等が設置された。
 後方支援のためには、給水・給食・入浴・洗濯・宿泊・輸送および装備の整備等が実施された。
 9・3演習はこの演習を基礎として、さらにそれを質的・量的にエスカレートしたものになることはまちがいない。

 99年9・1防災演習

 昨年の9月1日には、東京都江東区有明で東京を中心とする7都県市の合同「防災訓練」が行われ、陸海空3自衛隊合計550人が参加した。この演習は新安保ガイドライン体制確立のための一大治安出動訓練として位置づけられ、自衛隊からは航空機14機、車両60台、輸送艦など艦船5隻などが参加した。
 演習にはOH-6観測ヘリ、UH60-JAヘリ、装甲指揮通信車、架柱橋、道路上の障害排除用のバケットローダー、陸自オートバイ部隊、輸送艦「おじか」などが参加し、偵察行動訓練、被災したビルからの救出訓練という口実での市街戦訓練、船舶輸送訓練、などが実戦さながらにおこなわれた。
 また自治体、民間など90機関が動員され、新ガイドラインの自治体・民間の戦争協力動員の訓練も行われた。後方支援訓練も実施された。
 3自衛隊を「統合調整」する統合幕僚会議が初めて主導する図上演習も実施され、新ガイドラインの「調整メカニズム」を始動させる演習ともなった。
 この演習をもって、日帝は明らかに新ガイドライン体制確立を目指した自衛隊の演習を大々的に実施する方向へと完全に踏み切ったのだ。
 だが他方で、この演習や前記91年の演習はまだ限界があるものであった。昨年の演習は3自衛隊の実働部隊の統合演習として行われたものではないし、陸海空の自衛隊は個々バラバラに参加したものだ。会場も100b×45bの狭いものであり、部隊の出動数もそれほど多くはない。自衛隊が主導権を握った訓練でもなかった。
 91年の北海道での演習も「緊急医療支援訓練」として行われたため、第一線級の戦闘部隊は出動せず、それを支援する施設科、航空科、通信科、化学科、武器科、輸送科などの出動にとどまった。
 演習場所も市街地から離れた地域であり、実戦的訓練としては不満が残った。これらの限界を乗り越えるために実施されるのが今年の9・3演習なのだ。
 初の3自衛隊統合の実働演習、昨年の10倍近くの動員数、10カ所におよぶ市街地での文字通りの市街戦訓練、そして第一線級の戦闘部隊の動員、自衛隊による訓練の完全な主導権の掌握など、すさまじいまでのエスカレーションが目指されているのだ。日帝はこの演習をもって新ガイドライン体制の確立を目指す本格的治安出動演習についに踏み切ったのだ。

 新たな治安出動態勢

 自衛隊がこれまで以上に治安出動訓練を強化するようになったのは、新安保ガイドライン体制の早急な確立のためにそれが必要になってきたからである。
 日本国内における治安出動は自衛隊創設以来の「本来の任務」であったが、90年代に入って「湾岸戦争」への掃海艇派遣、カンボジアやモザンビークでのPKOへの参加などの海外派兵が始まると、そのための体制整備に重点が置かれるようになり、国内での治安出動態勢の強化政策はいったん後景化する。
 しかし90年代中頃に至って、朝鮮危機の深刻化のなかで、在日米軍から自衛隊に対する1095項目の支援要望事項が出され、周辺事態法の制定が問題になり始めると、再び新たな重要性をもって治安出動態勢の確立が目指されるようになる。
 とりわけ「北朝鮮などによる武装ゲリラによる攻撃」に対応するためとして、国内での自衛隊の本格的に武装した治安出動態勢の確立が急務とされるようになる。これまでの自衛隊の治安出動は、警察の補完勢力として大規模デモや民衆暴動の鎮圧を想定したものであった。ところが周辺事態のもとでの治安出動は、重武装のゲリラ勢力との本格的戦闘を想定しており、これまでの治安出動態勢では対応できない。
 こうしたなかで防衛庁と警察庁の間で、治安出動の際の自衛隊と警察の役割分担を決めた協定を見直し、目的を「北朝鮮などによる武装ゲリラ対策」に絞ったうえで、自衛隊の治安出動における位置を警察の補完勢力から、主要勢力へと転換する方針が検討され、今年3月には協定の改訂作業が始まっている。
 1954年に当時の防衛庁長官と国家公安委員長との間で締結された「治安出動の際における治安の維持に関する協定」では、自衛隊と警察の役割分担は、@暴動の直接鎮圧及び防護対象の警備に関し、おおむね警察力をもって担任し得る場合は自衛隊は警察の支援後処として行動するA防護対象の警備に関して警察力が不足する場合においては、自衛隊は後方の防護対象よりその警備を担任するB暴動の直接鎮圧に関して警察力が不足する場合においては、自衛隊は警察と協力して暴動の直接鎮圧に当たるものとする、となっていた。
 今回の見直しでは、「暴動」という部分を武装ゲリラへの対応を主眼とした「警察力で対応できない緊急事態」などに置き換え、自衛隊が治安出動の前面に躍り出ることになる。
 これに伴って、自衛隊は「武装ゲリラに対応する」ための師団編成の再編を開始している。

 陸自師団機能の再編

 日帝はすでに95年に閣議決定した防衛計画大綱で、陸上自衛隊を18万人から16万人に減らし、従来の「13個師団・2個混成団」を「9個師団・6個旅団」に編成替えすることを決定している。
 この方針に沿って、今年2月には、2001年度からの次期中期防衛力整備計画の策定作業の中で、新たに北海道の第5、第11師団を旅団にレベルダウンする一方、沖縄の第1混成団、四国の第2混成団を旅団に格上げすることを決定し、6個師団体制を確定した。
 これはソ連邦の崩壊とロシアからの脅威の低下、朝鮮・中国情勢の危機的展開と日帝の朝鮮・中国侵略戦争体制の強化に対応し、「北の守り」から新安保ガイドライン体制下の「西への備え」へシフトするものとして打ち出された方針だ。この体制は2001年度達成をめどとしている。
 これと並行して師団を4種類に分類し、新安保ガイドライン体制下で果たすべきそれぞれの役割を明確化した。
 第1のものは、「政経中枢師団」と名付けられ、東京、大阪など都市部の防備に重点を置き、「ゲリラやテロ対策」を主眼に比較的軽装備の師団となる。
 第2の「沿岸配備師団・旅団」は直接の脅威の可能性が高いとされる地域に配備され、戦車や大砲などの重装備で「敵」の上陸阻止に当たるとされている。
 第3の「戦略機動師団・旅団」は、担当地区の防衛とともに、北朝鮮や中国などを視野に入れた広域的な部隊の運用に対応し、他地区に増援に向かう役割も担うとされている。この師団も「ゲリラやテロの同時多発などの事態に対応する」重要な任務を担うとされる。
 第4の「機動打撃師団」は戦車を中心に強力な火力をもつ北海道の第7師団で、北海道防衛のかなめとするとされている。
 このうち南関東の第1師団と近畿の第3師団で構成される「政経中枢師団」は政治経済の中枢を防衛する文字通りの「治安出動部隊」となる。9・3演習は「政経中枢師団」である第1師団の治安出動能力をチェックする演習となるのだ。それは朝鮮・中国侵略戦争をいかに遂行するかという観点から、自衛隊の侵略軍としての飛躍をかけたものとして実施されるのだ。こうした観点からも自衛隊にとっては9・3演習は新ガイドライン体制確立のために重要な意味を持っているのだ。
 次期中期防衛力整備計画では、もう一つ重要な師団編成上の変更が行われる。いわゆる「対ゲリラ特殊作戦部隊」の設置である。「対ゲリラ対処」の突撃部隊であるこの部隊は、防衛庁長官または陸上自衛隊東部方面総監の直轄部隊として東京周辺に一つだけ設置し、3、4個中隊の300人以上で構成する。隊員は陸自内で募集・選抜されるが、当面は特に機動力に優れた精鋭部隊である習志野の第1空挺団の中からレンジャー訓練の経験が豊富な隊員が抜擢されるようである。
 部隊の任務は、有事の際、原発や空港・港湾施設、在日米軍や自衛隊基地などの重要施設の防護のほか、都市型ゲリラ対処や、従来の戦争では想定されなかったさまざまな事態に対処できる捜索、包囲、撃破などの「対遊撃行動」とされる。
 2001年度からは米国の特殊部隊に隊員を派遣し、対ゲリラ戦訓練に参加させるほか、必要な装備や作戦を研究する。
 9・3演習には習志野の第1空挺団の参加が予想されるが、そうなればこの演習が対ゲリラ対処訓練の絶好の機会とされるであろう。

 9・3演習粉砕に決起しよう

 われわれは以上見てきたような新ガイドライン体制確立を目的とし、関東大震災の時の朝鮮人・中国人虐殺の歴史を繰り返そうとするファシスト石原による9・3治安出動演習強行を絶対に許すことはできない。闘う朝鮮・中国-アジア人民と連帯して、9・3演習阻止のための怒りの決起を実現し、ファシスト石原打倒、日帝・森政権の朝鮮・中国、アジア侵略戦争体制確立攻撃粉砕の一大決戦を叩きつけなければならない。

 ●特集/9・3自衛隊治安出動演習弾劾 特集(2)周辺事態を想定し激変する自衛隊の軍事演習につづく