SANRIZUKA 2003/09/01(No638
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暫定滑走路開港以来の三里塚闘争は、公団総裁・黒野による「北側延伸」攻撃をめぐるたたかいだった。東峰区住民を追い出して滑走路を二五〇〇bに延長しようとする公団は、権力を背景にした脅迫と買収をくり返した。浮き彫りになったことは、彼らの一貫した農民無視の姿勢だ。萩原進事務局次長にたたかいのポイントを語ってもらった。(編集部)
――〇三年前半の三里塚現地のたたかいについて伺います。暫定滑走路開港から一年半。現在の局面をどう考えますか。
今年は俺ら東峰部落や天神峰の農家を屈服させるための、公団の焦りに満ちた攻撃が続いていた。暫定滑走路開港以来の攻防が、ひとつの決着に向かって煮詰まっていく。そんな手応えを感じている。
昨年の開港で、ご存じの「四十b飛行」という現実が始まった。農家の頭の上四十bをジェット機が毎日飛ぶ。通常考えられない事態だよな。国ぐるみの地上げだ。公団は反対農家をつぶせると思っていた。
ところが一軒の農家も屈服しなかった。みんながんばり抜いた。話し合いだとか言いながら、ここまで権力に足蹴にされて負けるわけにはいかないという思いが、どの農家も共通してあったと思う。
それで公団は追いつめられて、あの手この手で攻めてきた。なにしろ開港は犯罪だ。人権侵害という次元を超えている。国家の犯罪。マスコミはほとんど報道しないから隠されてるけど、多くの人の知るところとなりつつある。
――具体的な攻防のポイントは?
攻撃は目に見える部分と水面下の両面であった。情報戦も熾烈だった。奴らは農家を脅して屈服させることが目的だから。最大の攻撃は暫定滑走路の「北側延伸」というアドバルーンだろうな。俺らが用地交渉に応じないなら北側に伸ばしてジャンボ機を飛ばすという脅迫。
そこまでやるか(?)という攻撃でしょ。マスコミもこぞってこの脅迫記事を書いた。ジャンボが飛んだら東峰は今度こそ生きられない環境になると。
――それで「北延伸」についての真相解明に力を入れたわけですね。
暫定滑走路を二五〇〇bにする、というのが公団の悲願なんだよ。二一八〇bでは中型機しか飛べない。滑走路を阻んでいる農家の屈服を前提に開港したけどみんな頑張った。これは公団の計算外なんだ。それで北側延伸と言い出した。なりふり構わず。
なにしろ暫定のまま北に伸ばしてもジャンボ機は滑走路に入れないんだよ。ここが重要。駐機場から滑走路への入り口の連絡誘導路が基準より狭くて曲がっていてダメなんだよ。元パイロットの専門家も呼んで詳しく調査した。マスコミはこの事実を調べもしないで、黒野(総裁)の「北延伸」発言を垂れ流したけど、北延伸は意味がないわけ。何百億使って工事やってもジャンボは飛べない。
そのことを詳しく公表した。無意味な工事までやって農家を脅迫するのは止めろと強く要求した。その後、新聞もこの北延伸に関して公団の提灯記事をあまり書かなくなったでしょ。ウソが暴かれたんですよ。
――公団が焦る理由は、来年四月の民営化移行という問題もあります。
なにしろ成田空港で発着してるアジア便の大半が羽田に移るということだろ? 羽田の本格的な再国際化と新滑走路完成が〇九年。これまでのタブーが国交省のなかで公然と動き出した。成田の暫定を二五〇〇bにするのはもう絶望的だと分かってきた。成田はアウトだと烙印を押される寸前だ。へたをすれば暫定滑走路は閉鎖もあり得ると言われ出した。
――できたばかりの滑走路が不要になるとは、大変な危機感でしょうね。
大変なことですよ。「遂に二本目の滑走路が完成」と鳴り物入りで開港したわけだから。それが欠陥滑走路で使い物にならないことがバレてしまった。誘導路もグニャグニャ。市東孝雄さんの畑とか現闘本部とか一坪共有地とかいろいろ空港の中にあってズタズタ。案の定、曲がった誘導路で飛行機同士の接触事故が起こった(※注1=〇二年十二月)。「絶対起こる」といわれていたオーバーラン事故も起こった(※注2=〇三年一月)。大惨事寸前ですよ。しかも欠陥は改善しようがない。事故はこれから何度でも起きる。
民営化を前にして、こういうことが国交省で全部問題になったわけ。°親方日の丸″空港が民間資本に移るわけでしょ? こんな滑走路で営業になるわけないですよ。莫大な投資をして売掛金が一銭も回収できない状態。航空会社にも愛想つかされてアジア便は羽田に移ると。社会的にも成田の失政が決定的な形で暴かれる瞬間が近づいている。三十七年間の農民殺しの因果がめぐってきたということですよ。
だから公団は、何が何でも反対派農家をたたきだそうと焦っている。俺らを抹殺できなければ彼らは犯罪者だからね。農民殺しの歴史が満天下に明らかになる。だから一坪共有地を強奪する裁判を始めたり、東峰部落を全部つぶして貨物地区を造るなんてアドバルーンを挙げてみたり。東峰区への「謝罪」文書を流してみたりと。なりふり構わぬ感じだよ、黒野は。
――当面の現地攻防の目標をどこに置きますか。
暫定滑走路の閉鎖。不要な滑走路をただちに閉鎖すべきであることを改めて世に問いたい。そのために全国の皆さんの力をもう一度お借りしたい。十月の全国集会は近年にない大規模な集会として成功させたい。これが最大の課題です。
――全国の仲間との連帯について、いま考えていることは何ですか。
三里塚闘争は農民闘争だ。土地を武器にたたかう。これが基本。そして同時に反対同盟は、すべての労働者や学生と連帯して闘うことを重視してきた。労農学共闘。闘う人民に開かれた闘争。
そして実力闘争。国家権力が相手だから、そもそも実力で闘わなければ闘争は成り立たなかった。機動隊の大群が押し寄せて力ずくでやられてお終いという攻撃だったからね。それで三里塚の北総大地は大勢の学生や労働者が集まる戦場となってきた。逮捕・流血を恐れず闘うことは三里塚では常識だった。俺だって何度逮捕されたか分からない。
三里塚はこれまで世の中で突出していたかもしれない。過激な闘いだと言われてきた。しかしこれからの時代は違う。三里塚の状況が当たり前になる時代が押し寄せてきた。
団結し力を結集し、逮捕を恐れずたたかう考え方がなければ、ささやかな権利さえも守ることはできない。そういう時代ですよ。だから三里塚はすべての労働者人民との連帯を求めている。
――人民がやられっぱなしなんてあり得ない時代だと。
世界はすでにそうなっているじゃないか。中東で、イラクで、何千人もの大勢の人間が米軍の最新兵器で無残に殺された。一片の大儀もない戦争で。それに対して多くの人民が命を捨ててまで闘う。闘わなければ生きていけない人たちが膨大に生まれている。そういう時代を現代の帝国主義は作り出してきた。
日本がイラク戦争を支持して出兵するのは大変な事態ですよ。日本もアメリカみたいになる。もう始まってるんだよ。戦前に完全に逆戻り。それが今の日本だ。三里塚闘争の地平と経験がものをいう時代です。
――反対同盟は結成当初から「軍事空港反対」のスローガンを掲げてきましたが…。
軍事空港の問題だってそうでしょ? 成田は民間空港なんだから軍事空港なんてありえないと新聞は書いてきた。それがどうですか。朝鮮有事の際には米軍が強制的に使うことなった。有事法制ができて、空港の労働者は強制的に動員される。成田を飛び立つ爆撃機が平壌を爆撃するという事態が目の前まで迫っている。法律に従えばこれに反対できない。さあどうする。戦争協力を拒否すれば犯罪者にされてしまう。それが有事法制でしょ。
最終的に、国家に逆らう覚悟がなければ闘えなくなるんですよ。反戦闘争は自分たちの生活をかけた闘いにならざるを得ない。すべての闘いがそうだ。だから団結して闘う。三里塚のような闘いが意味を持ってくる。
――三里塚と共に長年、労農連帯で闘ってきた動労千葉がアメリカの労働者の注目を浴びています。
動労千葉の労働者が俄然注目を集めているのは当然だと思う。労働者が次々と首を切られて権利を剥奪される時代でしょ。日本では大きな労働組合がスト一本打てなくなって、政党も社民や共産が全部転向してね。民主は戦時立法に賛成した。そのなかで動労千葉は敢然とストライキでたたかった。凄いよ。注目を集めるのは当然だと思う。この闘いの姿勢こそが、世界の労働者や農民との連帯を生み出すと確信できる。希望の星なんだよ。
アメリカやヨーロッパ、そして世界中で大規模な反戦デモが起こっているけど、中心部隊は労働者や農民たちだ。学生たちも先頭をきって立ち上がっている。みんな一体なんだよ。同じ敵に向かって立ち上がっているわけ。そういう地球規模のたたかいの中に三里塚もある。
苦しい時代を、歯を食いしばって戦い抜いてきたかいがあったと実感する。この日本でも嵐のような闘争の時代はすぐそこまで来ている。もう自民党政権が金ですべてを解決できる時代は確実に終わった。永田町ですべてを決められる時代も終わったということだ。政党も大再編が始まるだろうな。
――今日のお話の結論をお願いします。
三里塚の闘い。そして動労千葉の労働者の闘い。長年培った労農連帯。ここに勝利へのカギがある。前に進もうといいたい。反対同盟はすべてのみなさんとの連帯を改めて訴えます。十月集会で大勢の仲間の皆さんとお会いすることを楽しみにしています。
(八月十七日 談)
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成田民営化を目前に控えた空港公団・黒野総裁は、暫定滑走路(二一八〇b)の二五〇〇b化を阻んでいる東峰・天神峰地区の地権者農民を屈服させることに全力をあげ、北側延伸計画なるものを「脅しのカード」(黒野)としてちらつかせてきた。用地交渉に応じなければ暫定滑走路を北側に伸ばしてジャンボ機を飛ばすぞという脅しだ。大型機の騒音は桁外れで、滑走路南端直近に住む地権者は今度こそ出て行く以外になくなるという脅しだ。理不尽きわまる国家ぐるみの°地上げ″だが、実は「北側延伸」ではジャンボ機は飛べない。反対同盟は事の真相を詳細に暴くことに成功した。
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●反対同盟と東峰区の反撃
反対同盟は六月二十二日の記者会見で「北延伸」工事がいかに無意味かについての調査結果を詳細に公表した。暫定滑走路は未買収地に挟まれた誘導路の幅(障害物までの距離)が狭く、湾曲していることが致命的で、現状のまま滑走路を北に延長してもジャンボ機は滑走路に入れない。(※写真と解説)
暫定滑走路の短さ(二一八〇b)が問題になる理由は、この離島空港なみの滑走路では、成田空港発着の九割近くを占めるジャンボ機が使えないというものだった。つまり未買収地をそのままにして暫定滑走路を北側に延伸しても、巨額の予算(公団試算で三百数十億円)を使って工事を行う意味がないのだ。
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また暫定滑走路の北端は、東関道(高速道路)までの距離が七百二十bしかない。仮に滑走路を北側に三百二十b伸ばして二五〇〇b滑走路にすると、進入灯などを設置するアプローチ・エリアは四〇〇bしか取れない。これは国際基準(九〇〇b)の半分以下だ。結局、「延長」した滑走路内に進入灯を食い込ませて運用することになる。つまり「北側延長」では実質的な滑走路長はほどんど変わらないのである。
結局、暫定滑走路の延長問題は、未買収地問題の全面的解決による南側への延長、すなわち東峰地区を更地にする平行滑走路の本来計画以外に成立しないのである。これは航空専門家の詳細な調査もあり、関係者にとっては周知の事実だった。
公団の関心も実は南側への延長だけである。そのために「北側延伸」を脅し材料に東峰区住民への脅迫を続けているのだ。朝日新聞などはこの問題の背景を一行も分析もできずに「北延伸の体制整う」との公団リーク記事を垂れ流し、大恥をかいた。(5・17付千葉版=本紙633〜635号参照)
黒野はこの後も「北延伸は(脅しの)カードとして残す」(7月11日の成田民営化法案可決時の会見)と言い張っているが、実に不謹慎だ。三月に行った東峰区住民への「謝罪」(前号参照)は何だったのか。彼らは結局、農民たちを人として扱っていない。三十七年にも及ぶ三里塚闘争の根本原因は権力を盾にした農民無視だ。この根本問題は何ひとつ変わっていないのである。
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●「空港の恩恵」ゼロ化
暫定滑走路の開港は新たな騒音被害の拡大を周辺住民にもたらした。批判は強まるばかりだ。七月四日には地元の騒音対策協議会が「北延伸反対」の決議をあげた。
同協議会は、これまで「騒音の見返り」と引き替えに公団に協力してきたが、事態は一変した。民営化によって空港周辺環境対策の責任は国から民間資本に移る。資本は利益第一主義だ。周辺対策は限りなくゼロ化するだろう。
これまで騒音地域は過疎化と地価下落で大きな損害を被った。バラマキ行政も不可能になった今日、「共存共栄」の甘言と金ですべてを解決するという時代は確実に終わりを遂げつつある。
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黒野総裁は、七月三十日の成田民営化法案可決に際しての会見で、民営化後の空港周辺の騒音対策が危ぶまれていることを聞かれ、「常識的に必要がないことはやらない」と早くも煙幕を張った。
この問題では、今年二月に千葉県と空港周辺自治体が国交省との間で民営化後も新空港会社が周辺対策を引き継ぐとの「覚書」を交わした。
しかし国交省側はあくまで新会社の義務の明細を法文化することを拒否。周辺対策はあくまで「約束事」となった。国は補償を法的義務化を拒否したのだ。
(つづく)
写真は、第2ターミナルと暫定滑走路を結ぶ連絡誘導路だ。ジャンボ機の通過に必要な誘導路の幅は航空法施行規則で「101b以上」と定められているが、この誘導路は93・5bしかなく、規定より7・5bも狭い。しかも急勾配の坂となっているうえ、クランク状に強く湾曲している。ジャンボ機はここを通過できないのである
【注1・接触事故】
天神峰・市東孝雄さん宅前の誘導路で起こった。離陸待機していた日本エアシステム機の後方をルフトハンザ機が自走通過した際に、尾翼と主翼が接触した。日本エアの機長が衝撃に気づいて離陸を中止できなければ大惨事につながるところだった。公団は事故の発生を二十四時間以上隠していた。
【注2・オーバーラン事故】
雨天で着陸した全日空機が滑走路南端をオーバーランし約七十b暴走、航空灯火をなぎ倒し、草地でようやく停止した。目の前五十bに東峰神社の陥没があり、わずかの差で大惨事となる寸前だった。公団は事故原因の究明も待たずに運航を再開したが、再発は必至である。
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イラクにおいて、米英軍による軍事占領が続けられる一方、北朝鮮への侵略戦争の危機が強まっている。在韓米軍は開戦準備のため前線部隊を後方に下げ、ストライカー部隊(迅速機動旅団)の新配備を打ち出した。有事三法の成立による日本全土の空港、港湾、鉄道、道路の確保がブッシュ政権の戦争計画を支えている。中でも、指定公共機関に指名された成田空港、関西新空港を始めとした空港の軍事基地化が重大な役割を果たす。成田空港の軍事的動員はきわめて現実的な攻撃となった。有事法制に反対しつづける航空関係労働者と連帯し、三里塚闘争三十八年の地平に立って成田の軍事基地化を阻止しよう。
(写真 すでに成田空港の軍事使用は始まっている【2001年2月4日 自衛隊C130】)
米国ブッシュ政権は、二〇〇〇年五月に創設した「ストライカー」部隊(迅速機動旅団)の初の海外演習をソウル北方二十キロ抱川(ポチョン)の在韓米軍ロドリゲス演習場で行った。
ストライカー部隊はIBCT(新型機動戦闘旅団)とも呼ばれ、現代戦に対応するための機動性、即応性を高めた緊急展開部隊だ。今回の演習は北朝鮮の地形把握などを目的とした露骨な対「北」戦争挑発として行われた。
この部隊は兵員、戦車、自走砲などを丸ごと航空輸送で展開する想定となっており、対北朝鮮侵略戦争はじめ、アメリカの新たな世界的戦争計画の中核をなす。
「一個旅団戦闘チーム」(一万人規模の兵員と装備、補給支援体制含む)なら九十六時間以内、一個師団(二万人)なら百二十時間、五個師団でも三十日以内に世界のどこでも展開できると称する。
最終的には六旅団ができるが、今回、米西海岸ワシントン州のフォートルイス基地に新設された一旅団が韓国に派兵された。韓国に常駐するのは確実と見られている。
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