International Lavor Movement 2013/11/01(No.447 p48)

ホームページへ週刊『前進』季刊『共産主義者』月刊『コミューン』出版物案内週刊『三里塚』販売書店案内連絡先English

2013/11/01発行 No.447

定価 315円(本体価格300円+税)


第447号の目次
 

表紙の画像

表紙の写真 シティーカレッジオブサンフランシスコの廃校反対(2月21日)

羅針盤 11・3全国労働者集会へ 記事を読む
■News & Review ヨーロッパ
頻発するヨーロッパの鉄道事故  民営化・外注化への怒りが噴出
記事を読む
■News & Review 日本
大軍拡に踏み込む安倍政権を打倒しよう  国鉄決戦・反原発決戦の力で大反撃を
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■News & Review 日本
動労千葉控訴審、不当労働行為を認定  「解雇有効」の反動判決弾劾し最高裁闘争へ
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特集 アメリカの大学闘争 大学企業化を粉砕するカリフォルニアの闘い 記事を読む
●資料 福島県立医科大学知的財産取扱規程(抜粋) 記事を読む
Photo News 記事を読む
世界経済の焦点
首切り自由化の「成長戦略」  労働規制の全面撤廃をもくろむ安倍
記事を読む
世界の労働組合 韓国編  金属労組キリュン電子分会 記事を読む
国際労働運動の暦 11月14日  ■1971年渋谷闘争■
沖縄返還協定に反撃
沖縄基地永続化を狙う攻撃に渋谷を戦場に労働者人民が渾身の決起
記事を読む
日誌 8月 2013 記事を読む
編集後記 記事を読む
裏表紙の写真 学校民営化に反対するメキシコの学生と教師(9月12日)

月刊『国際労働運動』(447号1-1)(2013/11/01)

羅針盤

羅針盤 11・3全国労働者集会へ

▼1047名解雇撤回闘争の勝利をめざす動労千葉の鉄建公団訴訟で9月25日、東京高裁(難波孝一裁判長)は、動労千葉争議団9人の「解雇撤回・JR復帰」の訴えを退ける反動判決を下した。断じて許すことはできない。国鉄闘争全国運動は翌26日、呼びかけ人会議を開き、最高裁段階で絶対に勝利するために、「解雇撤回・JR復帰」の第2次10万筆署名運動を全国でさらに展開することを決定した。その最大の突破口として、動労千葉、関西生コン支部、港合同の3労組と国鉄闘争全国運動が呼びかける11・3全国労働者集会の1万人大結集に向け、1カ月間のオルグ戦に総決起しよう。
▼9・25判決は、国鉄当局が「差別して不利益に取り扱う目的、動機(不当労働行為意思)の下に、本件名簿不記載基準を策定し」たことを明確に認めた。それでも苦し紛れのペテン的言辞で、解雇は有効と強弁した。しかしこれは、まったく道理に合わない。動労千葉の闘いに追い詰められながら、ただただ「分割・民営化は正しかった」と言い張るための政治的判決でしかない。しかし、一審の白石判決と同様に、東京高裁・難波裁判長が国鉄当局の不当労働行為を認定せざるをえなかったことは決定的である。
▼ いよいよ2014年の最高裁決戦に向け闘いの火ぶたが切られた。「不当労働行為である以上、結論は原状回復以外にない。全解雇者を職場に戻せ!」――この声を、6千万労働者階級全体のものとしよう。第1次署名運動を超える怒りと勝利の確信に燃え、第2次署名運動を全国の職場で圧倒的に展開しよう。その突破口が11・3労働者集会だ。職場でオルグ、オルグを積み重ね、組織を拡大し、総結集しよう。

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月刊『国際労働運動』(447号2-1)(2013/11/01)

News&Reviw

■News & Review ヨーロッパ

頻発するヨーロッパの鉄道事故

民営化・外注化への怒りが噴出

 全世界で頻発する鉄道事故

 JR北海道におけるJR資本の鉄道交通の破壊・解体は、全日本のJRで起こっている事態だ。動労千葉の闘いが突き出しているように、JR千葉支社による千葉鉄道サービス(CTS)への検修・構内業務の外注化が生み出している安全の破滅的状態は、国鉄分割・民営化の必然的結果である。
 しかし、問題は日本だけではない。この数年間、全世界で鉄道事故が頻発している。表に示されたのは、その氷山の一角だ。ヨーロッパ鉄道管理局(ERA)は、「2011年には、2342件の鉄道事故が起きており、そのうちの44件が多くの死者を出す重大事故で、死者の総数は1183人に上る」「脱線・衝突は、EU諸国で、2日に1件は起きている」と発表している。運転士を含む数十人の死亡、列車の脱線・衝突(追突・正面衝突)・爆発炎上・暴走など、鉄道の安全がいたるところで根底から破壊されているのだ。

 民営化・外注化・非正規職化の結果

 世界大恐慌が激化する中で、まだ民営化が鉄道に及んでいない諸国を含めて、公共サービス部門に対する新自由主義の重圧、市場原理・競争原理の貫徹のための規制緩和・外注化などが、鉄道・交通機関のこのような破綻を全世界的に生み出しているのだ。
 「『誤った軌道を暴走するドイツと世界の鉄道民営化』(W・ウォルフ著/2007年)という著作は、「鉄道民営化がすでに行われた日本、イギリス、アメリカ、スウェーデン、アフリカ、南アメリカなどの諸国に共通する事態」として、次のような「八つの致命的結末」を指摘している。
▼ 鉄道民営化の八つの害悪
「@統一的な鉄道体制の分割、A職場の削減、賃金の切り下げ、Bサービスの悪化、C地域交通の大都市間高速鉄道による置きかえ、D鉄道事業への公的補助金の増加、E自動車産業、バス会社、航空会社などの営利団体などとの競争の激化、F駅が、都市と交通のシンボル的な役割を失った、G鉄道事業所有の不動産の投資対象化」
 鉄道の(分割・)民営化は、まず第一に、鉄道・交通労働者へのすさまじい攻撃としてかけられた。ドイツ鉄道の現場では、「鉄道の要員は、1994年から2006年の期間に半減した(38万5千人から18万人へ)。実質賃金が低下、労働条件は悪化した。一方、ドイツ鉄道(DB)の企業利益は、2005年と2007年の間に3倍化した」(GDL〔ドイツ機関士労組〕機関紙より)という怒りの声が上げられている。
 職場には、派遣労働者制度が公然と導入され、正規雇用労働者が解雇され、パート労働者や非熟練労働者に置き換えられている。これは、鉄道労働者全体に対する賃下げ攻撃を意味している。
 この結果、第二に、鉄道輸送の安全の崩壊が全面的に生じた。まず、外注化・下請け化によって操車場・検修工場などが、専門知識も経験もノウハウもない民間の下請け会社にゆだねられ、検修・保線部門の軽視、手抜きが普遍化して、事故即発の状況になっているということである。
 さらに第三の問題として、ヨーロッパの鉄道網において圧倒的な比重を持つドイツ鉄道株式会社は、国際的競争と道路交通・航空機交通との競合関係での生き残りをめざして、遠距離交通、国際交通・運輸、高速鉄道に投資の重点を置いて、ローカル路線の廃止、駅の廃止、改札窓口の閉鎖、追い越し待機線路の廃止、などを強行してきた。
 こうして、全世界的な鉄道事故頻発の現実が、必然的に生み出されているのだ。

 民営化による重大鉄道事故

 1994年に開始されたドイツ鉄道の民営化によって、鉄道事故が全土で多発するにいたった。1998年のICE(都市間高速列車)の脱線転覆、2009年から2010年にかけての首都ベルリン都市交通の破綻、20
11年ドイツ東部ホールドルフでの列車衝突事故という三つの重大事故がその頂点である。ドイツ鉄道が、重点的に投資を集中してきた都市間高速列車、過密なダイヤの重圧下にあった巨大都市交通、そして過疎地での貨物輸送、というそれぞれに異なった種類の領域において、鉄道民営化の弱点が最も鮮明に暴露されたのであった。
〔1993年に民営化されたイギリス鉄道における安全の崩壊、再国有化については別の機会に述べたい〕

 EUにおける民営化の展開

 日米英における新自由主義が、1974〜75年恐慌の衝撃を受けて、レーガン・サッチャー・中曽根政権の下で1980年代に展開されていったのに対して、EUにおける新自由主義攻撃は、1990年代に入ってから、初めて本格的に開始された。
 1989〜91年のソ連・東欧スターリン主義体制の崩壊とドイツの再統一を軸とした東欧諸国のEUへの吸収という戦後ヨーロッパ体制の大転換の過程で、これら諸国のの国有企業・施設の大規模な民営化、規制緩和が強行されていった。それはまさに新自由主義の ショック・ドクトリン=¥ユ撃的国家暴力的方法で、東欧労働者人民の抵抗を先制的に封殺して遂行され、欧米資本が乱入して、工場・インフラ・金融機関などを捨て値で買収した。
 こうした過程を経て、2004年の「東方拡大」によってEUは、ほぼヨーロッパ全土にわたる統一体となった。これに先立って、1999年にポーランド・チェコ・ハンガリーの中欧3カ国はNATOに加盟している。
 このような東欧諸国に対する新自由主義政策の強行は、EUにとって、自国における「戦後改革」の遺産である国有企業・施設の民営化と規制緩和、戦後的階級関係の転覆のてことなった。EUは、1991年に、ヨーロッパ鉄道網の再編に関する指導原理を発表し、民営化の必要性を示唆した。

 90年代に民営化が本格化したドイツ

 

ドイツでは、1990年の連邦郵便(ブンデスポスト)の三分割(郵便・金融・通信)・民営化に続いて、1994年に、旧西ドイツの国鉄と旧東ドイツの国鉄が合併して、政府が株主のドイツ鉄道会社が設立された。1999年に、「上下分離」(列車の運行・営業部門と線路などインフラの管理部門の分離)と「オープン・アクセス」(鉄道業務への自由参入)制度が導入され、部門ごとに分社化・細分化され、子会社は1000社を数えるに至っている。民営化の完成として、ドイツ鉄道の株式市場への上場が、2004年ごろから、政府によって計画されてきたが、反対運動の高まりと世界大恐慌の爆発によって棚上げとなり、現在に至っている。
第6章 民営化と闘う労働組合
鉄道民営化の攻撃は、ドイツの鉄道・交通労働組合・労働運動の内部に分岐を生み出した。トランスネットとGDBA(ドイツ鉄道員労組)【注】は、基本的に民営化を認め、大量解雇・賃下げ、労働者の分断との闘いを放棄したために、職場に「無気力とあきらめ、組合に対する不信が支配」するに至ったと報告されている。
これに対し、ドイツ機関士労組(GDL)【注】は、鉄道業務の細分化・分社化による鉄道・運輸労働者の分断攻撃に対し、鉄道・運輸労働者の階級的団結のために、組合の枠を越えた統一賃金要求を提出した。そして機関士や列車の乗務員だけでなく、関係業務のすべて(車掌・食堂労働者・清掃労働者など)に組織化を拡大し、独自の団体交渉を展開している。他の2組合との統一的な協定締結交渉は、こうした基本方針の違いから、決裂した。
【注】トランスネット:運輸・サービス・交通網にわたって21万人を組織/GDBA(ドイツ鉄道員労組):交通、運送、サービス、通信事業などの労働者を組織、組合員3万人)〔この二つの交通労組が、2010年12月に合併して、民営化推進の立場に立つドイツ交通・運輸労組(EVG)を結成した。組織員は24万人〕/GDL(ドイツ機関士労組:組合員3・7万人、運転士の80%、乗務員の33%を組織)
機関士労組は、07年の7月から翌08年の1月に至る約半年にわたって、「30%の賃上げと時間短縮」を要求して数次のストを行い、ついに都市交通、近距離交通、貨物輸送など全ドイツの交通を揺るがす62時間全面ストを、あらゆる弾圧・体制内2労組によるスト破りと対決して闘いぬいたのである。これに対し、組合の枠を越えて多くの職場から「ストライキ断固支持」のメールが集中し、各地、各単産の多くの組合支部が、上部機関の制止をふりきって、連帯デモ・集会を行った。マスコミの世論調査の結果は「60%がストを支持」であった。
この鉄道ストは、統一サービス労組(ver-di)をはじめとするいくつかの体制内労組を下部から揺り動かしてストに立たせ、07年は「ドイツ・ストライキ共和国」と呼ばれる階級情勢をつくりだしたのである。
機関士労組は、大恐慌―欧州危機の下での11年の協約闘争では、民営化による分断を打破すべく鉄道事業における統一賃金要求を提出して、再度ストライキを闘った。その間、09年には、首都ベルリンの都市交通(S-Bahn)で、架線、線路、車両などの相次ぐ事故が発生、半年にわたる混乱状態に陥り、「ベルリンの交通カオス」という事態になった。このような保線・検修業務の解体状況に対して、機関士労組のベルリン支部は、闘いの先頭に立っている。
この機関士労組の戦闘的翼は、JR外注化決戦を闘う動労千葉・動労水戸を先頭とする階級的労働運動に対し、国際連帯のあいさつを送ってきており、11月労働者集会での合流が期待されている。
(川武信夫)

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(写真 GDLの2011年3月のストライキ)

■ベルリン交通労働者から動労千葉への連帯のあいさつ

―2012年6・10国鉄全国集会へ向けて―

私たち「ベルリン都市鉄道の民営化に反対する行動委員会」(2011年の12月結成)は、ベルリン都市鉄道のさまざまな分野で働く男性・女性の鉄道労働者によってつくられています。……私たちは現在、ドイツ連邦政府・ベルリン州政府・ドイツ鉄道が、伝統的なベルリン都市鉄道を破壊し民営化しようと進めているプランに対して闘っています。……私たちは、旧日本国有鉄道の破壊と民営化に対して、みなさんがすでに数十年間にわたって闘いぬいてきたことについて、重大な関心をもって注目してきました。私たちは、みなさんの要求とスローガンに全面的な支持を表明します。
国鉄の分割・民営化反対!国鉄1047名解雇撤回!
闘う労働組合の復権を! 新自由主義と闘う労働組合の全世界的ネットワークを形成しよう! 戦闘的な連帯の挨拶を送ります。

ベルリン都市鉄道の民営化に反対する行動委員会

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月刊『国際労働運動』(447号2-2)(2013/11/01)

News&Reviw

■News & Review 日本

大軍拡に踏み込む安倍政権を打倒しよう

国鉄決戦・反原発決戦の力で大反撃を

 日帝・安倍は9月12日、外交・安全保障政策の指針となる「国家安全保障戦略」の策定に向けた「安全保障と防衛力に関する懇談会」(有識者懇談会)の初会合を開いた。
 安倍は、この懇談会で、外交・安全保障政策の中長期的な指針となる「国家安全保障戦略」を、年内に取りまとめることを目指すほか、年末に見直しをする防衛大綱にも、意見を反映させるという。
 安倍の改憲・戦争攻撃が激化している。集団的自衛権の政府解釈について行使容認へのクーデター的変更、国家安全保障会議(日本版NSC)の設立のための関連法案と秘密保護法案の臨時国会提出、大軍拡を狙う新防衛大綱への見直し、そして現に進行している自衛隊の北朝鮮・中国への侵略戦争軍隊化がある。
 7月26日、防衛省は防衛大綱の中間報告を発表した。中間報告は、「敵」のミサイル基地を直接たたく「敵基地攻撃能力」や、離島防衛を口実とした自衛隊の「海兵隊機能」の強化、北朝鮮・中国を監視する無人機の導入、さらには「武器輸出三原則」の事実上の撤廃など、大軍拡を打ち出した。断じて許すことはできない。
 以下、自衛隊の侵略戦争軍隊化の動きを中心に具体的な事項を取り上げていく。

 護衛艦の衣をまとった空母「いずも」進水式

 8月6日、横浜市のジャパンマリンユナイテッド(IHIの造船部門やユニバーサル造船などが統合して発足)の横浜事業所磯子工場で、海上自衛隊最大のヘリコプター搭載護衛艦の命名・進水式が行われ、「いずも」と命名された。名目は護衛艦だが、どこから見ても空母である。
 「いずも」は全長248b、これまで海自最大の護衛艦だった「ひゅうが」より50b以上長く、基準排水量は1万
9500d。5機のヘリが同時発着可能で、9機を使って作戦が行える。艦首から艦尾まで貫く全通甲板があり、戦闘機の搭載も可能なようになっている。
 「いずも」は今後1年余りをかけて各種設備や武器の装備が進められ、15年3月に正式就役の予定だ。海上自衛隊は「いずも」と同型の護衛艦(空母)1隻を現在建造中で、14年に進水予定だ。2隻の護衛艦(空母)は完成後、それぞれ横須賀基地と佐世保基地に配備される。
 「いずも」は、第2次世界大戦当時、旧日本海軍の空母「飛龍」の基準排水量1万7
300d、全長227・35bを上回り、当時の米海軍のヨークタウン級航空母艦(基準排水量1万9800d、全長247b)と同規模となる。護衛艦(例えばイージス艦)を伴った艦隊のプラットフォーム(航空機艦載用)として運用することを前提としている。つまり空母であるということだ。
 ある専門家は「甲板の厚さを変えれば、垂直離着陸の戦闘機も搭載可能になるのではないか」と言う。
 中国の各紙から「護衛艦の上着を着た准空母」「最新鋭ステルス戦闘機F35を搭載すれば、本当の空母になりうる」、また「いずも」の名称について「日本による対中侵略戦争の際に使われた艦船と同じ名だ」などの弾劾が行われた。韓国の新聞も大きく取り上げ、「規模や運用能力から見れば事実上の空母だ」と指摘した。
 憲法第9条の趣旨についての政府見解は以下のように述べている。
 「保持し得る自衛力
 ……相手国の国土の壊滅的破壊のためにのみ用いられる、いわゆる攻撃的兵器を保有することは、これにより直ちに自衛のための必要最小限度の範囲を超えることとなるため、いかなる場合にも許されません。したがって、例えば、ICBM(大陸間弾道ミサイル)、長距離戦略爆撃機、あるいは攻撃型空母を自衛隊が保有することは許されないと考えています」
 この政府見解は、憲法9条の核心を骨抜きにし、破壊しているものだ。その政府見解においてさえICBM、長距離戦略爆撃機、攻撃型空母は許されないとしている。日帝・安倍は自らの政府見解を完全に踏みにじっている。断じて許されない。
(写真 空母そのものの自衛隊の護衛艦「いずも」)

 戦略爆撃機B29の護衛訓練する空自F15編隊

 東京新聞(8月13日)によると、米空軍の演習「レッド・フラッグ・アラスカ(RFA)」で、航空自衛隊のF15戦闘機が米戦略爆撃機B52の爆撃訓練に参加していたことが分かった。これは空幕発行の部内誌に載った参加隊員の体験記から判明した。これは米軍の北朝鮮・中国への戦略爆撃機B52による長距離爆撃を自衛隊が護衛するという、明らかに集団的自衛権の行使を前提にした訓練だ。許すことができないものだ。
 空自部隊は、1996年度から米アラスカ州の米空軍演習に参加しており、F15戦闘機部隊は03年度から派遣されている。
 同紙が入手した空自の月刊部内誌「飛行と安全」12年7月号には、同演習での攻勢対航空(敵航空基地攻撃)訓練中、空自F15編隊がB52による爆撃を想定し、「果敢に先陣を切って経路を啓開し、粘り強く戦闘を継続してB52を援護」したという隊員の体験記が載っている。
 空自広報室は、同紙の取材に、その事実はないと否定したが、「他の参加国を含め任務遂行に支障を生じさせる恐れ」を理由に詳しい内容を伏せているという。
 北朝鮮や中国を想定した敵地爆撃訓練である。しかもこれは核戦略爆撃機であり、政府見解でも強調しているように最も破壊的で攻撃的なものであり、自衛隊がこれを護衛することはとんでもないことだ。しかも隊員の言葉は、B52の爆弾投下によって膨大な人々が一瞬にして殺される戦争に従事していることがまったく抜けている。自分が原爆を投下しているのと同じことなのだ。
 これは防衛計画の大綱中間報告における「敵基地の攻撃」である。それが日米共同演習として、やられているということだ。
 ことの詳細を広報室が伏せているのは明らかに憲法9条に違反しているからだ。遠く米国での訓練だから発覚するはずがない、と思って、労働者人民をだましてやっているのだ。卑劣な行為だ。

 安倍が自衛隊ジブチ基地を訪問

 安倍は8月27日、アフリカのジブチを訪問し、ソマリア沖の「海賊対策」を名目に派遣されている自衛隊の海外基地を視察した。これは戦後日帝が初めて持つ海外基地だ。「専守防衛」を建前とする日帝がなぜ海外に軍事基地を保有しているのか。これこそ憲法違反も甚だしいではないか。
 ソマリア沖のアデン湾で、「海賊」が多発していることを口実として、日帝は09年に憲法9条を踏みにじる形で、自衛隊の海上警備行動を超拡大適用して海上自衛隊の護衛艦を派兵し、その後、自衛隊の海外派兵法である海賊対処法をつくり護衛艦2隻、P3C哨戒機を派遣してきた。これは米帝のソマリア侵略戦争の一翼をなしている。
 11年7月にジブチに自衛隊基地が開設され、現在では護衛艦2隻の乗組員(約420人)、ジブチに設営されたP3C対潜哨戒機3機のための「海賊対処航空隊」、機体と施設の警備にあたる「陸上自衛隊中央即応部隊」などの150人。さらに日本からの物資補給の航空自衛隊の輸送機、交替要員と後方隊員まで総勢1000人近い態勢になっている。これだけの規模の海外基地を維持するのには相当な費用がかかる。今までなかったこうした侵略戦争と直結した軍事費は膨らむ一方だ。結局のところ消費税増税など労働者階級人民に犠牲を集中するのだ。
 安倍は8月25日、バーレーンで米海軍第5艦隊司令官ミラーと会談し、海自P3C哨戒機の多国籍軍への編入要請に対し「前向きに検討したい」と応じた。安倍政権はすでに2隻の護衛艦のうち、1隻を12月から多国籍軍に編入することを決定している。これは許すことができない。多国籍軍として軍事行動を展開するということは、「共に行動する他国艦船が攻撃された場合、それに実力で反撃する」集団的自衛権の行使そのものだ。シーレーン確保に向けた集団的自衛権行使の先取りが公然と推し進められているのだ。日米安保の世界安保への転換だ。
 日帝は、日帝の生命線であるアフリカ・中東の一角に自衛隊の拠点を確保した。ここは大産油地帯だ。しかも帝国主義と大国間の争闘戦の戦場であり、戦争が絶えない所だ。米帝のイラク・アフガニスタン侵略戦争、さらにはシリア侵略戦争情勢の渦中にある。日帝・安倍はこの中東で日帝が先頭に立つ侵略戦争に踏み込もうとしている。それは日帝の自滅の道であり、「海賊対策」でその第一歩を踏み出したのだ。エジプト革命を先頭に決起する中東・アフリカの労働者階級人民との国際連帯を深め日帝の侵略戦争を粉砕しよう。

 インフラ輸出と位置づけ武器輸出

 日帝が武器(防衛装備品と称している)の輸出を成長戦略の柱であるインフラ輸出と位置付け、関連施設の建設や保守・運用も一体的に売り込むパッケージ型として輸出することが明らかになった。武器を輸出できれば、その保守・点検・部品の設備や人員が必要になる。それを含めてパッケージにして輸出しようというのだ。
 武器輸出三原則に抵触しないよう武器を民間転用して輸出に道を開き、防衛産業のテコ入れを図ろうというものだ。米新軍事戦略に則って、対中国を見据えたインドや東南アジア諸国との軍事協力関係の強化を図る狙いがある。
 「パッケージ型インフラ輸出」の第1弾として狙っているのは、航空自衛隊が14年度に配備予定のC2輸送機や、海上自衛隊の救難飛行艇US2。C2は貨物機として、US2は消防飛行艇として転用しようとしている。
 US2については、インドとの間でパッケージ型インフラ輸出に向けた準備に着手しており、13年度中にも輸出手続きに入る。
 これは明らかに民間軍需産業の一貫した要求に応えるものだ。軍事産業は、日本経団連などを通じて武器輸出三原則の緩和を叫んできた。
 武器(装備品)の輸出は、武器輸出三原則の制約で自衛隊向けの納入に限定されてきたが、その制約を軍需産業の要求に応えて一方的に解除して、民間転用すれば可能だと政策転換したのだ。民間軍事産業が国家予算で製造したものを、民間転用して、政府が後押しして輸出するというのだから、民間軍事産業にとっても願ってもないことだ。
 労働者階級の要求には何一つ応えないばかりか賃下げ、首切り、社会保障削減、そして消費税の大増税に走る日帝が、軍事産業には大盤振る舞いだ。消費増税のほとんどは大企業に回るが、さらに軍需産業のために使われるのだ。日帝の不況対策は最終的には、戦争、軍需産業に集中されていく。大恐慌下の30年代のアメリカ、日本そしてドイツのすべてがこの道をたどった。こんなことは許しはしない。

(図 防衛関係費【11年ぶりの増加】)

 防衛予算右肩上がりへ

 13年度の予算で、防衛費は右肩上がりに転じた。昨年度から400億円も増加した。安倍は防衛費を増額すると何度も繰り返している。12年度の補正予算では防衛費220
0億円も認める大盤振る舞いだった。装備の拡大と人員増を進めている。そして防衛省は、14年度の防衛予算でも大軍拡のための大幅な予算要求をしている。
▼無人偵察機グローバルホーク
 防衛省は来年(14年)度予算の概算要求で、高高度滞空型無人偵察機グローバルホークを導入する費用2億円を計上し、15年度に導入する方針だ。
 グローバルホークは、旅客機の飛行高度を上回る1万8
000bの上空を30時間以上連続で飛行し、「敵」地の艦船や航空機をとらえる。三沢基地を軸に配置場所を検討するとしている。
 日帝が無人偵察機を導入するのは初めて。14〜18年度で3機購入し、地上施設整備も含めた費用は1000億円前後となる。ものすごい高額兵器だ。
 米軍事戦略のための一環を担うものだ。日本周辺の情報収集、警戒・監視の強化は、日米両政府が進める日米防衛協力指針(ガイドライン)改定の柱となる。中国・北朝鮮侵略戦争の最前線の武器だ。日帝は、「実力の行使を伴わず、集団的自衛権の行使には当たらない」などと言い訳するが大ペテンだ。
▼オスプレイ、自衛隊が15年度に導入へ
 防衛省は、米軍が沖縄に配備して、絶対反対の闘争が爆発している垂直離着陸輸送機MV22オスプレイを、早ければ15年度から自衛隊に導入すると言っている。とんでもない暴挙を策動している。
 沖縄では8月5日夕、嘉手納基地所属のHH60救難ヘリが宜野座村のキャンプ・ハンセンの山林に墜落し炎上する事故が起きた。墜落現場から2`の位置には民家が点在し、沖縄自動車道(高速道路)からはわずか1`、農作業中の人もいた。県民の命を脅かしている。
 にもかかわらず安倍は、14年度予算の概算要求でオスプレイ導入に向けた調査費として約1億円を計上するとしている。
 オスプレイの事故が続いている。最近では8月26日、米西部ネバダ州で米軍普天間飛行場配備機と同型のMV22オスプレイが着陸に失敗した。事故機から乗員が脱出した後に機体が炎上した。墜落事故だったとみられる。
 一方、在沖米海兵隊は8月29日、事故を知りながらも事故機と同型機のオスプレイを米軍岩国基地(山口県)から普天間飛行場に長距離飛行させている。まったく破廉恥だ。
 この墜落事故について、当該機が事故当時、回転翼航空機特有のボルテックス・リング(VRS)状態が発生し、制御不能となっていた可能性があることが9月1日までに分かった。ボルテックス・リング状態とは、回転翼機特有の失速現象。下降する際に両方の回転翼の先端に渦巻き状の気流が発生し、機体を押し下げるなどコントロールが困難になる状態を指す。
 安倍はあろうことか沖縄の労働者人民がこぞって反対しているオスプレイの、自衛隊への配備を強行しようとしている。安倍は自衛隊オスプレイ導入の理由を中国の釣魚台周辺での活動が活発とか、離島奪還作戦だと言うが、本当の狙いは、オスプレイに対する激しい反対運動を抑え込もうということだ。しかしこれは逆に沖縄のオスプレイ配備絶対反対運動の火に油を注ぐものになり、全土の自衛隊のオスプレイ配備反対運動を高揚させるものになる。
 さらに自衛隊へのオスプレイ導入の策動は、米海兵隊と同じだ。米新軍事戦略に基づく対中国侵略戦争に向かって、日米共同の戦争態勢をつくるためだ。安倍は「尖閣列島を守れ」と叫ぶが、それを水路に対中国の大侵略戦争を構えているのだ。「尖閣列島は日本の領土だ」などと言っては安倍の思うツボだ。米日帝は中国全土を侵略しようとしているのだ。労働者には国境はないのだ。日米帝国主義の侵略戦争には国際連帯で闘うことだ。
▼水陸両用車
 さらに防衛省は、14年度予算の概算要求に島しょ防衛と称して陸上自衛隊に「水陸両用準備隊」を新設し、それに伴う水陸両用車2両(13億円)を入れている。これは陸自の海兵隊化の一環であり、侵略戦争の最前線の突撃部隊化の攻撃である。
▼海自輸送艦「おおすみ」を大幅改修
 さらに防衛省は、「海兵隊機能」の強化として、海上自衛隊の「おおすみ」型輸送艦(基準排水量8900d)を大規模改修して、隊員を乗せ、水陸両用車やオスプレイを載せて侵略戦争の前線に突入できるようにしようというのだ。日帝は、これまで「おおすみ」を輸送艦と呼んできた。それを本来の役割である強襲揚陸艦に変えるということだ。「いずも」が護衛艦という衣をまとった空母であるように、「おおすみ」は輸送艦という衣をまとった強襲揚陸艦である。敵地に殴り込む部隊を上陸させる艦船だ。
▼那覇に飛行警戒隊設置
 防衛省は、航空自衛隊那覇基地に早期警戒機E2Cを運用する「飛行警戒監視隊」を設置することを決めた。
 E2Cは三沢基地に飛行警戒隊が13機、早期警戒機に管制機能を併せ持つAWACSは浜松基地を拠点に飛行警戒管制隊が運用している。
 これを米新軍事戦略に基づく対中国侵略戦争の観点から三沢の13機の半数程度を那覇基地に移す。
 米軍沖縄基地の強化と並行して進む自衛隊沖縄基地の強化は、沖縄をますます戦争の島へと変えていく。「沖縄を基地の島から国際連帯の島へ」変えていくために国鉄決戦と反原発決戦を柱に闘い抜こう。
 日帝・安倍の手口はデタラメきわまりない。福島第一原発の「汚染水はコントロールされている」発言に明瞭だ。ヒトラーと同じでウソも百万回つけば真実になるを地で行っている。これには全人民が怒っている。同じように、安倍の改憲なしの改憲の先取り実行にも怒りをたぎらせている。山本太郎さんに集中した67万票は、全国1000万の怒りとなっている。労働者人民が生きる社会をメチャクチャに破壊する新自由主義はもう終わりだ。もう安倍には任せておけない。全国で闘いが始まっている。改憲・戦争の安倍を国鉄決戦・反原発決戦で粉砕し、打倒しよう。
 (宇和島 洋)

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月刊『国際労働運動』(447号2-3)(2013/11/01)

News&Reviw

■News & Review 日本

動労千葉控訴審、不当労働行為を認定

「解雇有効」の反動判決弾劾し最高裁闘争へ

(写真 難波判決を弾劾し、裁判所に向け怒りのシュプレヒコール【9月25日 霞が関】)

 「名簿不記載基準は不当」と再び認定

 9月25日、東京高裁第12民事部(難波孝一裁判長)で、動労千葉鉄建公団訴訟控訴審の判決が言い渡された。原告・動労千葉争議団9人の「解雇撤回・JR復帰」の訴えを退け、国鉄清算事業団による90年4月1日解雇を「有効」とする反動判決であった。満腔の怒りを込めて徹底弾劾しなければならない。
 他方で、難波裁判長は、国鉄当局がJR設立委員会に提出した採用候補者名簿の作成の際に、名簿不記載基準を策定して原告らをJR不採用としたことについては、一審東京地裁・白石判決と同様、不当労働行為と明確に認定し、被告・鉄道運輸機構に慰謝料500万円の支払いを命じた。損害賠償請求権に関する消滅時効を主張した鉄道運輸機構の主張も退けた。
 この日の裁判には、動労千葉の争議団を先頭とする組合員と支援の約200人が集まった。「東京高裁は解雇撤回の判決を出せ!」と激しいシュプレヒコールをたたきつけ、裁判に臨んだ。傍聴席に入りきれない多くの人々が法廷外で判決を待った。
 法廷に現れた難波裁判長は、控訴審の開始にあたって「(1047名闘争の裁判を)まだやっていたんですか?」と不遜にも言い放った姿とは異なり、原告らの怒りに怯えて表情をこわばらせたまま主文を読み上げた。反動判決だ! 「解雇撤回以外にあり得ないだろう!」「逃げるな!」と、傍聴席から怒りの声が浴びせられた。難波は傍聴席を見ることもできないまま脱兎のごとく背後の扉から逃げ去った。

 国労に対する05年9・15判決を覆す

 判決は、国鉄当局が当初は動労千葉所属の組合員を基本的には採用候補者名簿に記載する方針で同名簿の作成準備を進めていたにもかかわらず、改革労協(現・JR総連)に突き上げられて〈停職6カ月または停職2回以上〉という名簿不記載基準を策定し、動労千葉組合員などを名簿から排除したことについて、原判決を踏襲し、「国鉄分割・民営化に反対する姿勢を示していた労働組合に属する職員を、このような労働組合に所属していること自体を理由として、差別して不利益に取り扱う目的、動機(不当労働行為意思)の下に、本件名簿不記載基準を策定し、一審原告らに対しても、これに従ってJR東日本の採用候補者名簿に記載しなかった」と認定した。
 これは、国労闘争団の訴訟において、難波裁判長が出した05年9・15判決を自ら覆すものだ。9・15判決は、動労千葉争議団と同様の名簿不記載基準によってJR不採用となった本州の国労闘争団員については、その基準は「合理的」として、慰謝料の対象からさえ外していたのだ。しかし、今回の判決は、それとまったく異なる結論を出した。これは、後述するように、この間の動労千葉と弁護団の粘り強い裁判闘争と、5万筆に迫る署名運動を始めとする支援運動の力だ。その点で、大反動を押し返して、この判決をもぎり取ったと言うことができる。

 「解雇撤回」の結論から逃れる詭弁

 しかし、難波裁判長は、この不当労働行為認定の後は、「解雇撤回・JR復帰」の結論から逃れようとあがきにあがいている。
 採用手続きの核心部における不当労働行為を認定したのなら、〈原状回復=解雇撤回〉が絶対の原則だ。原告が採用候補者名簿に記載されていたものとして扱い、JR東日本職員としての地位を確認するしかないはずだ。
 にもかかわらず難波裁判長は、「仮に、一審原告に対して本件名簿不記載が行われなかったと仮定した場合でも、原告がJR東日本の採用候補者名簿に記載された上、同社に採用されたはずであるとの証明はいまだなされていない」と強弁し、原告の訴えを却下した。
 しかし現実には採用候補者名簿に記載された職員は例外なくJRに採用されている。だから、判決はとんでもないペテンと詭弁を弄するのだ。
 「JR東日本は、国鉄とは別個独立の新法人であり、経済活動の一環として雇用契約締結の自由を有しており、自己の営業のために労働者を雇用するに当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、自由にこれを決定することができる以上、採用候補者名簿に記載されることが、直ちに同社に採用されることを意味するものではない」
 JRと国鉄は別法人でありJRには採用の自由があると、あくまでも国鉄改革法の枠組みにしがみついているのだ。
 さらに、次のようにも言う。
 「JR各社(その設立委員)は、採用候補者名簿に記載された国鉄職員全員を採用したが、これは、国鉄において、本件基準〔国鉄在職中の勤務状況からみて、当社の業務にふさわしい者であること〕に照らして採用することが不相応であると判断する職員を採用候補者名簿に記載しないとする方針の下に同名簿を作成していたことを前提としたからである。仮に、採用希望者の全員を同名簿に記載する方針の下で同名簿が作成された場合においては、JR各社(その設立委員)が同名簿記載の者全員を採用したか否かは明らかではないというべき」
 JRが採用候補者名簿に記載された職員を全員を採用したことを難波といえども否定できない。だから、難波は国鉄が選別しなかったのなら、JRが選別=採用差別をした可能性がある。JRがやれば「採用の自由」だから不当労働行為にはならない≠ニいう論理をデッチあげるのだ。
 だがこれは、国鉄改革法の狙いとも矛盾する。国鉄改革法は、国鉄とJRは別法人だから、国鉄が不当労働行為をやっても、その責任はJRに及ばない≠ニいう虚構をつくるためのものだった。ところが、難波は、JRが採用差別をしてもいいのだ、と言っている。とにかく、「国鉄とJRは別法人」という国鉄改革法の枠組みを守り抜くために、こうした矛盾だらけの詭弁を使うしかないところに追い込まれているのだ。
 一審判決では、「本件名簿不記載基準が策定されなければ、原告らは採用候補者名簿に記載され、その結果、JR東日本に採用されたはずであるといいうる」として、JR不採用から3年間の賃金差額(JRで働いていた場合と清算事業団在籍時の賃金差額。1人あたり約240万〜12
7万円)の支払いを命じていた。これは、実質的にJRの責任を認めたに等しいものだった。国鉄改革法の枠組みを食い破る一歩手前まで来ていたのだ。だが、難波裁判長は、前記のような詭弁でこれを完全に否定し、賃金差額の支払い命令を取り消した。
 その上で難波裁判長は「本件不記載行為がなければ原告らがJR東日本に採用されたはずであるとまでは認められないものの、本件の事実関係の下では、原告らが採用された可能性は相当程度あったことも否定できない」とし、JRに採用されることへの期待を侵害されたことへの慰謝料500万円の支払いを命じた。原判決の慰謝料は300
万円であったから、200万円の増額であるが、こんなものは問題にもならない。
 判決後の総括集会では、当該の高石正博さんが「不当労働行為だったのなら原職に戻るのは当たり前だ。そのことを一生懸命訴え、物販と署名で全国を回る」と述べ、中村仁さんも「『不当解雇であっても金で解決できる』という判決を確定させるわけにはいかない。分割・民営化以来の攻撃を押し返し、若い人たちが労働者としての誇りをもって生きていける道筋をつけたい」と訴えた。
(写真 総括集会で葉山岳夫弁護士の解説に聞き入る参加者【港区虎ノ門】)

 大反動を運動の力で押し返した

 このような反動判決であるにもかかわらず、難波裁判長をして、不当労働行為を認めさせたのは、2010年の「4・9政治解決」の大反動を押し返し、「解雇撤回・JR復帰」の原則を貫いて不屈に闘ってきた成果である。
 裁判闘争においては、一審東京地裁で、元国鉄職員課補佐の伊藤嘉道を証人として引きずり出し、元国鉄職員局次長・葛西敬之(現・JR東海会長)らの指示により、いったんは採用候補者名簿に記載された動労千葉の原告らを、過去の停職処分を理由とした名簿不記載基準を急きょ策定して排除したことを証言させたことが決定的であった。これが一審の東京地裁・白石裁判長による不当労働行為認定の判決に結実した。
 だが、その白石裁判長が、この春に突然更迭され(白石事件)、東京高裁においては、難波裁判長が一人の証人調べもすることなく、5・8結審を強行した。それ以来の「4カ月決戦」の中では、6・9国鉄闘争全国運動全国集会に1800人が結集し、10万筆署名に全力を挙げる決意を打ち固め、署名は9月26日の集約で4万4327筆に達した。
 さらに、9・25判決の直前の9月10日には、動労千葉争議団と同じ基準でJR不採用になった国労秋田闘争団の小玉忠憲さんの鉄道運輸機構訴訟において、解雇を有効とし、消滅時効により賠償さえ拒否し、不当労働行為も否定した、最高裁の上告棄却決定が出された。これは、東京高裁・難波裁判長に超反動判決を出せと迫る、国家意思の突きつけだった。
 こうした中で、9月15日には、動労千葉と国鉄闘争全国運動の呼びかけにより東京・代々木公園で総決起集会が開催され、1100人の労働者人民が集まった。「国鉄分割・民営化に決着をつけ、安倍政権による国鉄分割・民営化を数十倍する『民営化地獄』に社会をたたき込む攻撃を絶対に粉砕してやる、このことを通して闘う労働組合を甦らせよう」(田中康宏動労千葉委員長)という決意を共同のものとして、判決日を迎えたのである。

 最高裁への新たな署名を武器に11・3集会へ

 9・25判決を受けて、翌26日には国鉄闘争全国運動の呼びかけ人会議が開かれ、最高裁に向けた新たな署名運動を開始すること、JR北海道の相次ぐ事故に示される安全の全面崩壊という現実に怒りも新たに、26年間のすべてをかけて、国鉄分割・民営化を問い直す闘いに総決起することを確認した。
 この最高裁署名をもって直ちにあらゆる職場に入り、署名を組織することと一体で職場の団結をつくり出そう。そのすべてを、全日建運輸連帯労組関西生コン支部、全国金属機械労組港合同、動労千葉、そして国鉄闘争全国運動が呼びかける11・3全国労働者総決起集会に結集しよう。
 安倍政権は、「成長戦略」の名の下に、労働者に対する全面戦争に打って出ようとしている。「国家戦略特区」と称して「雇用特区」=解雇特区≠つくる。「限定正社員制度」と称して労働者の総非正規職化を強行する。福島原発事故の汚染水問題を「すべてはコントロールされていて安全だ」と言いなし、原発再稼働に踏み込もうとしている。さらに消費税増税も決定した。
 すべての怒りを11・3に総結集しよう。それをステップに、JR外注化粉砕と、解雇撤回の最高裁決戦へと攻め上ろう。
 (大沢 康)
(写真 「東京高裁は解雇撤回の判決を出せ!」。判決に向け1100人が拳を上げた【9月25日 代々木公園】)

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月刊『国際労働運動』(447号3-1)(2013/11/01)

(写真 カリフォルニア大学バークレー校のストライキ。左が日本の全学連派遣団【2010年3月4日】)

特集

 特集 アメリカの大学闘争 大学企業化を粉砕するカリフォルニアの闘い

 はじめに

 日本の「大学改革」は「グローバル人材」「ワールドクラスの大学」「産学連携」を合言葉に強行され、大学が営利企業化・ブラック企業化している。これはアメリカを軸とする全世界的な争闘戦の中で生まれてきた現実だ。
 そのアメリカで今年8月、オバマ政権の治安弾圧の最高責任者、ナポリターノ国家安全保障省長官がカリフォルニア大学総長に就任した。
 第T章では、核開発などを担うアメリカ帝国主義の戦略的機関であるカリフォルニア大学が大学の企業化の先頭に立っている現実を考える。
 第U章では、それを体内から覆す巨大で根底的な大学闘争の歴史と現在をみていく。
 第V章で、学費ローンで学生を食い物にする大学・金融資本こそ、資本主義の最末期の腐敗と破綻であり、怒りの大決起が起こっていることを明らかにする。

第1章

 軍産学複合体を基盤に 大学を企業にする新自由主義

 戦略的な中軸を担うカリフォルニア大学

 アメリカ帝国主義は、29年世界恐慌を、ニューディール政策の公共投資で乗り切ったように言われている。だが、実際には、第2次大戦による軍需生産拡大と世界的な生産力の破壊によらなければ、それは「解決」しかなった。
 しかも、第2次大戦が終わると間もなく戦後不況に突入してしまった。アメリカは、その後、ソ連との軍拡競争と朝鮮戦争、ベトナム戦争……イラク戦争と現在に至るまで絶えず軍隊を肥大化させ、戦争をしていかなければ、成り立たない体制になっている。
 29年恐慌は、単に通常の景気の浮き沈みの問題ではない。過剰資本・過剰生産力がどうにもならないほど蓄積され、その矛盾が爆発したということだ。そのため、そのはけ口を軍需生産に求めざるえなくなっているのだ。単に軍拡をしているだけではダメだ。実際に戦争をして兵器を消費することで、さらに大規模に拡大しなければならない。絶えず拡大していく。また、軍事的緊張をつくり出し大軍拡競争をして軍需生産を拡大しなければならない。
 あと一つには、戦争と圧倒的な軍事力の誇示によって、アメリカの世界支配体制を維持することなしには、アメリカ資本主義は生き残れないという問題がある。
 こうして、軍需生産が全産業部門の最先端であり中軸になってきた。現在では、軍事費が国家予算の半分以上を占めるに至っている。
 だから、巨大独占資本の幹部が国防長官を始めとする軍事行政官となり、また軍幹部が企業の取締役になって、軍と産業が人的にも一体化している。これが一般に「軍産複合体」と呼ばれている。
 大学もそれの不可欠の構成要素になっている。だから、「軍産学複合体」とも呼ばれる。

 核兵器・最先端兵器の開発拠点――カリフォルニア大学

 カリフォルニア大学(UC)は、現在約2万人の教授団と19万人の職員、そして23万6千人の学生を有する巨大な組織だ。全カリフォルニアに10のキャンパス、五つの大病院がある。最大のキャンパスであるロサンゼルス校(UCLA)は、ロッキード・マーチンや旧ダグラスなどの軍需産業と密接に結びついている。特に、UCの中で最古のキャンパスであるバークレー校(UCB)は、軍産学複合体の戦略拠点だ。
 広島、長崎の原爆を開発しマンハッタン計画の中心だったロスアラモス国立研究所は、その後も核を始めとする軍事研究の軸だ。戦後の米軍の核弾頭の大部分を製造してきたのはローレンス・リバモア国立研究所だ。ローレンス・バークレー国立研究所もウラン濃縮を担当するなどマンハッタン計画の軸であり、その後も軍事に関係した基礎・応用研究を続けている。この三つの研究所はエネルギー省所属だが、実際に運営しているのは、バークレー校だ。
 また、バークレー校にある海洋研究所は、米海軍とBPなどの企業の献金で成り立っている。BPはイギリスに本拠を置く石油会社で、軍需産業とは言われていないが、アメリカ帝国主義の軍事的な中東支配によって存立できている会社だ。
  バークレー校は、同じサンフランシスコ湾岸地域にあるシリコンバレーと関係が深く、IT関連企業と連携した研究も多い。国防省の補助金を受けた研究で、UNIX系の基本ソフトであるBSD(バークレー・ソフトウェア・ディストリビューション)を開発したことでも有名だ。
 バークレー校の教授や出身者のノーベル賞受賞者は、71人にもなる。ロサンゼルス校は13人だ。もちろん、ノーベル賞は、帝国主義の利益にかなうように運用されている。だから核関連の基礎・応用研究などの受賞者が多いのである。
 以上のように、カリフォルニア大学は、アメリカ帝国主義にとって戦略的に不可欠な大学なのだ。
(写真 原爆投下後の広島市街(1945年10月26日撮影)。ロスアラモス国立研究所のホームページは、今でも、こうした資料を同研究所の「歴史的功績」として掲載している)

 赤狩りとの攻防と公立大学のビジネス企業化

 

《大学教育は学生にスキルを販売するビジネスであり、学生はそれを購入する消費者である》
《研究大学は知識という商品を生産する工場である》
これは、従来から比喩として言われていたことだが、新自由主義の時代には、文字どおりの意味で「大学はビジネス企業でなければならない」と正面から主張されるようになった。
「大学は象牙の塔であってはならない」「社会と密接に結びついた存在でなければならない」「意識改革が必要だ」と主張されるようになった。
字面だけみると、かつて学生運動の側から言われていたことと似ているが、意味は正反対だ。新自由主義大学改革で言う「社会」とは、労働者階級や中間層を含んだ社会全体のことではない。それは、ビジネス社会のことなのだ。新自由主義大学改革、大学の社会化とは、「学生が卒業してから企業に就職して初めて『社会』(ビジネス)が分かるようでは遅い」「大学が企業と一体化せねばならない」「大学自身もビジネスにならねばならない」ということだ。
カリフォルニア大学は、もともと軍産学複合体の中軸であったことを利して、新自由主義大学改革の先頭を切って、大学のビジネス企業化を推進していった。
というより、新自由主義の登場以前から、大学の営利企業化を推進していたのだ。
軍産学複合体の中軸であったカリフォルニア大学は、それに対する闘いの拠点でもあった。
戦後革命運動の高揚への反動として、1947〜57年にマッカーシーの赤狩りが吹き荒れた。下院非米活動委員会には、多くの著名人が召喚された。ここで屈した者も多かったが、アメリカのフォークソングの父と言われるピート・シーガーは、下院連邦議会の非米活動委員会に招集された時、そもそも国民に思想や交友関係などを聞くことそのものが間違っていると主張し、一切の質問への返答を拒否した。業界から完全に干されただけではなく、議会侮辱罪で告発され、10年の刑を宣告されたが屈しなかった。
シーガーは戦後スターリン主義に疑問を持ち、非米活動委員会への召喚の6年前には共産党から離れていたが、だからといって党員ではないと誓約することは、国家権力が国民の思想信条に介入することを認めることになるし、また、党員あぶりだしへの加担となり、密告と変わらない恥ずべき行為だと考えて返答拒否を貫いたのだ。
全米の各職場でも、非共産主義者誓約の強制に対して、闘いが起きた。その一つの拠点がカリフォルニア大学だった。誓約を拒否した全米の大学教員の半分が、カリフォルニア大学教員だった。しかも、学生と教職員組合の闘いの力で、誓約を拒否した教員の追放策動を阻止し、彼らを守りきったのだ。
こうした赤狩りをめぐる激闘の渦中で理事を務め、総長に昇格したクラーク・カーは、カリフォルニア大学の労組、学生運動対策に腐心するとともに、全米の大学運営の根本的な改革を主張するイデオローグになっていく。63年の著作『大学の効用』で、「大学=企業」論をもとにした大学改革を主張している。
これに対しては、次章でのべる巨大な学生運動がたたきつけられ、彼の構想はそのまま実現したわけではない。
帝国主義の危機の最末期的深まりの中で登場した新自由主義は、このカーが提唱した大学像を実現するために、全世界的に大攻撃をかけてきたのだ。

(図1カリフォルニア大学の職員数(全キャンパス合計)(棒グラフは、職員総数に0.0289をかけて、91年の値を管理職員の高さに合わせている)

(図2カリフォルニア大生の年間平均学費の増加)

(図3 学費ローン負債総額とクレジットカード負債総額)

 理事会の独裁

 

カリフォルニア大学の運営は、教授会ではなく、理事会が全権を握っている。理事の任命権は州知事が持っていて、大部分の理事が、銀行、不動産、軍事産業、石油産業などの代表だ。管理部門は肥大化し、管理職員が大幅に増加している (図1)
大恐慌と州財政の破綻を理由にして、教職員の賃金はカットされ、授業や他の学生へのサービスは大幅に低下しているが、理事たちの報酬は、大幅に引き上げられている。
授業料は、新自由主義の到来とともに急速に上げられ、1980年から2011年までで、実質6倍近くになっている (図2)。これは授業料を大学の収入にするためだけに行われているのではない。授業料値上げで、学費ローンに頼らざるをえなくさせることが大きな狙いだ。カリフォルニア大学の理事会には大銀行の幹部が多い。大学は金融資本の一翼なのだ。
全米の学費ローンの負債総額は、クレジットカード負債総額よりも大きい (図3)。アメリカは、あらゆるものをカードで払い、カード使用率が高いことで有名だ。しかも、クレジットカードは全世代のあらゆる階層が使う。その負債の総額より学費ローン負債のほうが大きいとは異常だ。
法制度的にも学費ローンは、自己破産ができないなど、カード負債とは別の扱いになっている。卒業した学生が失業し、支払い不能になっても、延滞金と金利でますますふくれあがる借金にとことん追いまくられる。
また、銀行側の「ミス」で督促状が送られてきて、抗議の電話をかけても、コールセンターをたらいまわしされ、結局時間切れになって、延滞扱いされ、窮地に追い込まれるケースも多い。詐欺そのものだ。
金融資本の代表が牛耳る理事会が授業料値上げを決め、学生をローンに依存させている事態に、怒りが爆発しないはずがない。

(図4 アメリカ経済、FIRE(金融・保険・不動産)が主役に(国内総生産(GDP)に占める割合【%】)

 経済の金融化と研究大学の危機

 60〜70年代のアメリカの産業的衰退、日本、ドイツなどの輸出攻勢に対する敗北によって、アメリカ経済は、銀行、証券、不動産、保険にますます傾斜していった。この経済の金融化は、FIRE化とも呼ばれている(金融・保険・不動産の頭文字= 図4)。
 この経済の金融化で、アメリカ帝国主義のあらゆるところで、実際に現場を動かし知っている労働者を軽視し、単なる頭数に還元し、人件費が安ければ良い、どんどん使い捨てのパート、非正規雇用にしろ、外注化しろという攻撃が蔓延していく。
 こうした軽視・軽蔑は、労働者に対してだけではなく、現実を知っているあらゆるエキスパートにも向けられるようになった。「特殊事情ばかり語るな」「既得権にしがみつくな」「聖域なき改革を」と。
 アメリカ帝国主義にとって最も死活がかかった領域であるはずの軍事でも、こうしたエキスパート軽視は横行している。9・11とアフガニスタン、イラク戦争への突入の過程でも、その後の戦争と占領継続の過程でも、アメリカの国防省、国務省、CIAや諸大学でアフガニスタン、中東の言語や政治・社会・文化、戦争のための地形などあらゆることを研究してきた専門家たちが、排除された。その人間が右派であろうとなかろうと、脇に追いやられ、ブッシュ政権のお気に入りだけで戦争政策の決定が行われたのだ。また、ベトナム戦争やソ連のアフガニスタン侵攻の戦史を研究し、それを軍事的教訓として蓄積していた国防省、米軍の人間たちも同様に排除された。ベトナムで戦場を経験した元米参謀総長パウエルがブッシュ政権の国務長官となり、イラク戦争突入にあたって主要な役割を果たしながらも、ベトナム戦争の軍事的教訓を口にしたとたんに、政権から排除されたことはひとつの例である。
 こうして、素人集団の戦争指導が行われ、アメリカはベトナム戦争時以上の泥沼に陥っているが、それでもエキスパート軽視の問題は、今も変わっていない。
 製造業においても、製造部門のエキスパートは軽視され、財務部門のみが幅をきかせ、「キャッシュフロー経営」「ROE(株主資本利益率)」など単純な指標でなでぎっていくことが横行する。トップ技師の意見さえ無視し、経営から排除していった。事故機を続発させているボーイングがその一例だ。
 このような自分自身の利益からいっても不合理きわまりない行動をとるのが、新自由主義というものだ。
 こうした全社会的なエキスパート軽視の中で、エキスパートの集団である研究大学は、重大なイデオロギー危機に陥る。
 また、07〜08年のウォール街の崩壊・大恐慌への突入は、新自由主義イデオロギーの崩壊的危機をもたらした。労働者人民の恨みと憎しみが今、爆発している。
 この意味でも、大学は、新自由主義の弱点なのだ。

第2章

 「知的財産権」で大学支配の転換 企業以上の成果主義査定

 大学での「知的財産権」(「知的所有権」)の問題は、それが大学の営利企業化の側面とともに、大学支配のあり方を根底的に変えるものとしてとらえる必要がある。

 知的財産権を大学経営の柱に

 研究成果は特許などの「知的財産権」にされる。カリフォルニア大学は、総長の直轄機関として技術移転事務本部を設置し、大学が所有する特許のライセンス料や侵害訴訟での和解金などで年間2億j近い収入になる。カリフォルニア大学が米国特許を獲得した件数は、最新の統計(2011年)で、エクソン・モービルやメルク(化学)などの巨大資本に伍している。遺伝子操作作物で悪名高いモンサント社に対しては、大学所有の特許をライセンス供与するとともに、他方で特許侵害の訴訟を起こして、巨額の損害賠償を得ている。こうした収入以上に重要なことは、技術移転事務本部が、企業との共同研究や共同の特許訴訟などの中心となり、その面から桁違いに巨額の収入をもたらしていることだ(図8参照)。
 だから、知的財産権は、大学のビジネス企業化の柱なのである。

 アメリカの衰退と知的財産重視戦略

 特許権、著作権、意匠権、商標権、ノウハウなどの企業秘密などを総称して「知的財産権」と言う。この用語が多用されるようになったのは、新自由主義になってからだ。「知的財産」(知財)は新自由主義の重要なキーワードなのである。
 それ以前の長い歴史の中でこの用語があまり使われなかったのには、理由がある。他の財産権と一緒に扱うには矛盾が多すぎるということだ。
 確かに資本主義である以上、発明や創作に対して特許権などを設定して代価をつけなければならない。しかし、発明も創作も、人類の共同の作業の上に成り立っている。どこまでが模倣で、どこからその人の発明・創作か、一義的には決定しづらい。しかも、一般の商品が他人に使われれば減るのとは反対に、知識は使われてもそれ自体は減らない。現在よくいわれるような「著作権侵害は泥棒だ」という主張は、フィクションにすぎない。ブルジョア法でも、窃盗罪は適用されず、民法で処理する以外にはなかったのだ。
 このように知識に排他的な「財産権」を設定するということは矛盾に満ちているため、「知的財産権」なるものを基軸的国家戦略とすることはできなかったのだ。
 没落したアメリカ帝国主義が苦しまぎれにしがみついたのが、「知的財産権」戦略なのだ。矛盾に満ち、客観的で正確な基準がありえないものであるからこそ、アメリカ帝国主義がまだ残っている総合的な国力(軍事的な世界支配の力、巨大な国内市場など)にものを言わせて、自分に都合がよい基準を他に押し付けることができるということだ。
 また、アメリカに最後に残された民需の産業分野、IT産業にとっては、自己の規格を世界標準とすることに、死活がかかっている。そのためにも知的財産重視の国家戦略が必要だった。
 このように、「知的財産権」基軸化戦略は、産業的に衰退したアメリカ資本主義が延命するために始まり、他もそれに対抗するために導入していったものだ。
 こうして「知的財産権」の主張が全社会的に蔓延し、教育と研究の中心である大学では、それが基軸とされるようになった。従来は公共性と公開の討論を一応は原則としてきた学問研究が、逆転された。知識は共有財産から私有財産に転換された。公開に代わって、守秘義務が課せられるようになった。
 もちろん、大学が一般企業と同じ企業とされる以上、知的財産も、他の商品の生産と同じ扱いだ。生産労働をした者の財産ではなく、その雇い主の財産となる。生産者は自分の生産物から疎外される。知的財産権保護とは、資本家保護のことである。
 知的財産権は、個々の知識の取り扱いだけでなく、大学の原則そのものを転換する。だから、知的財産に主要にかかわる理、工、法、ビジネス系だけでなく、他の社会・人文系も根本的に変質させることになる。
 管理、査定の強化は、あらゆる分野に及ぶ。
 だが、こうした知的財産権の嵐のただ中から、その正反対の動きも起こっている。軍から資金を得たバークレー校のコンピュータソフトウェア研究プロジェクトの中から、知的財産権を設定しない無料のUNIX系基本ソフト、BSDが作り出され、世界的に大きな影響を与えた。
 「知的財産権」なるものは、ブルジョアジーにとっても矛盾の塊なのであり、至るところから、反対の動きを引き起こさざるをえない。
 だが、それでもますます知的財産戦略に生き残りをかけざるをえないのだ。
(図8 60〜70年代に年間10万件で推移していた特許出願件数が80年代から急増した)

 GATS・TRIPSによる知的財産権の 世界的な強制

 WTO(世界貿易機関)の交渉を通じて締結された、GATS(サービス貿易に関する一般協定、95年発効)とその中に設けられたTRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定、96年発効)は、大学運営に大きな影響を及ぼしている。
 GATSによるサービス貿易の自由化・規制緩和の中にには、金融、保険、通信、流通、建設などと並んで教育サービスが含まれている。
 教育を貿易品目として扱うことが条約によって国際的に強制される。教育を営利目的の商品として扱わないと、非関税障壁とされ、条約違反になる。また、営利企業の教育サービスに公立学校と同等の権利を与えなければならず、教育企業にも公立学校と同じ補助金を獲得する道が開かれた。これは、教育バウチャー制を通じた教育の民営化を促進していく。
 そして、TRIPSは、各国それぞれの制度で運用されてきた特許、著作権などの制度をアメリカの都合に合わせて変更させ、また「知的財産権侵害」に対する取り締り徹底を迫るものだ。もともと自然界に存在するもので、19
80年より前にはアメリカでさえ特許が付与されなかった生物そのものへの特許さえ、世界的に強制されていく。
 知的財産権保護の名の下に、医薬品の臨床試験データに守秘義務が課せられ、第三者がその真偽を検証することができなくなる。また、ジェネリック医薬品(特許期限切れ薬品の他会社による製造)も困難になり、貧困層の安価な薬品の入手の道が閉ざされる。
 また、11年4月に署名されたACTA(模倣品・海賊版拡散防止条約)は、日本の知的財産戦略本部とアメリカの間の交渉から始まったもので、日米、EUと7カ国が署名している(未発効)。ACTA交渉は、最初から内容が秘密にされる異様な交渉だった。著作権侵害を非親告罪とし、また、ネットの切断の権限を認めるなど、国家権力の言論弾圧を無制約にエスカレートさせる。
 GATS、TRIPS、ACTAによるいわゆる教育サービスの自由化と知的財産権保護は、独占資本の世界的な独占の強化のためのものだ。そのために大学が動員される。こうして、大学自体も国際的な規模で変質を迫られる。
 民営化、ビジネス化が強行され、また世界的な大学の格付け競争、大学のブランド商品化が進められる。

 アカウンタビリティーと査定

 企業化とともに、労務管理も企業並みにしなければならないとして、査定制度、成果主義が導入された。
 しかし、一般企業では、言われるほどには成果主義は実施されていない。新自由主義のイデオローグの言うことを真に受けて「成果主義賃金」などをそのまま導入した企業は多くないし、そうした企業は、むしろ業績が悪化している。
 もともと、労働は多数の協働によって行われる。また、成果といっても短期的な目に見えるものも、長期的なものもある。何をもって個人の成果とするのか、誰がどの尺度で成果を測定するのか、簡単には決められない。成果主義で個人のモチベーションが上がり、企業業績に反映するなどという単純なものではない。
 しかし新自由主義の大学改革は、従来の大学のあり方を破壊するために、極めてイデオロギー的、攻撃的に成果主義を強行していく。
 そのために「アカウンタビリティー」(「説明責任」と訳される)が強調され、膨大な報告書の提出が義務化された。
 また、研究者の査定のために、学術誌への論文掲載数、論文の被引用数がカウントされ、締め付けが強化される。先に述べたように、一方では知的財産権のために秘密が求められるが、他方では、一つでも多く発表することが求められるのだ。
 このような締め付けとストレスが、大学のヒエラルヒーによって下へ下へと転嫁されていく。

 終身雇用の破壊

 身分保障が諸悪の根源とされ、終身雇用が縮小された。さらにパートタイム化、非正規職化が強行され、研究職、教育職の不安定化、貧困化が進められている。
 「おごそかなものとして、これまで畏敬の念をもって見られてきたすべての職業から後光をはぎ取ってしまった。医者、法律家、詩人、学者を、ブルジョアジーのお雇いの賃金労働者に変えてしまった」(『共産党宣言』)という資本主義の姿が、新自由主義の下で、誰にも否定できない形で現れている。ここでもブルジョアジーは、自分たちの墓掘り人をつくり出している。

 アメリカの世界的影響力確保の要

 特許権の出願件数、所有件数やノーベル賞などによって作られた「国際的権威」「ワールドクラスの大学」の名声によって、カリフォルニア大学は、世界各国から留学生や研究者を集めている。他の大学も多かれ少なかれ同様だ。
 アメリカの大学は、世界中からポスドク(博士研究員)を集めていて、ポスドクの半数以上が短期滞在ビザの保有の外国人になっている(07年の調査)。ポスドクが、不安定雇用・低賃金の熟練労働者として研究開発に利用されているのは、アメリカの新自由主義大学改革から始まり、世界的な現象になっている。
 また、海外からの留学生・研究員は、アメリカ資本の人材供給源や研究成果の源泉になるとともに、アメリカ帝国主義の世界的な影響力を確保、拡大していくために不可欠のものになっている。
 たとえば、現在アメリカのIT産業は、製造だけではなく研究部門までもインドなどへの外注化を進めているが、それもアメリカの諸大学の大量の留学生や海外からの研究者の存在を基礎にして可能になったことだ。
 また、シカゴ大学留学経験者グループ=シカゴボーイズが1973年のチリの軍事クーデターの後で軍事独裁政権の専制支配を使って新自由主義の実験≠したことが典型的な例だが、同様なアメリカの政治的・軍事的な影響力の行使が、世界各国から来た留学生・研究者を通して行われている。

第3章

 労働者解放へ闘う大学闘争 レーガン反革命に屈せず

 前章で明らかにしたように、カリフォルニア大学はアメリカ帝国主義の戦略的中軸だ。まさにその体内から根底的な反乱が巻き起こっている。

 禁止命令を打ち破った大学病院スト

 今年5月、300人の解雇・配転、退職者不補充などに反対して、カリフォルニア大学の病院職員、ビル管理、清掃労働者などを組織するAFSCMEローカル3299(州・
郡・市職員連盟第3299支部、2万2千人、うち1万2
千人が病院職員)が病院ストに決起した。
 全マスコミの総攻撃と4月のピケット闘争に対する10人逮捕の弾圧、そして裁判所のストライキ差し止め命令の恫喝を跳ね除けての戦闘的なストだった。07〜08年の大恐慌突入以降、戦闘的な労組も含めてほとんどの労組が、裁判所の差し止め命令に違反した場合の罰金、投獄を恐れ、ストを貫徹できなかった。だが、AFSCME3299は恫喝に屈せず最後までストライキ体制を強化したため、裁判所も全面的な差し止め命令を出せず、部分的なスト制限にとどめざるをえなくなった。
 オバマ政権による歳出の強制削減と賃金の20〜30%カットに直面する全米の公務員にとって、このストは大きな激励となった。
 こうした闘いが可能になったのは、闘う勢力がAFSCME3299の体制内執行部を打倒し、新たな指導体制を確立したからだ。
 08年の恐慌、予算削減の嵐の中で5日間ストに総決起した組合員は、3%の賃上げという歴史的勝利をかちとった。だがその後、執行部は大学側との癒着を深め、年金基金への労働者拠出の増額という形で、実質的な賃下げ合意を行ってしまった。
 闘う潮流は、バークレーのキャンパスバスを外注化したバスに対する実力阻止のピケット闘争などの戦闘的闘いを展開しつつ、広大なカリフォルニア州に散らばる各職場で指導部を形成し、11年10月の選挙で66%の得票で信認をかちとった。

 労働者と学生の一体化

 また、学生活動家との統一組織SWAT(スチューデント・ワーカーズ・アクション・チーム)をつくったことが大きな力となった。SWATは、2010年3月14日の全カリフォルニア一斉教育闘争を主導した、カリフォルニア大学学生ストライキの中心となった。このストでは、AFSCME3299の組合員も学生や他の大学労組とともに、ピケットラインにたった。
 学生運動の側からは、こうして労働者と同一の活動家組織をつくって闘う中で、学生運動自身の労働者性を問い直す討論が行われた。
 アメリカでも全世界でも学生数が大幅に増え、学生のほとんどが労働者家族出身者になっている。また、大学自体がビジネス化し、学生がむきだしの搾取・収奪の対象になっている。学生運動は確かに労働組合運動とは直接に同じではないが、学生運動自体が労働者階級の闘いだという面が大きいということだ。
 学生に対する階級的な抑圧に対して、学生自身が団結して闘うことを軸にしようと言われている。
 また、すぐ近くのサンフランシスコでは、シティーカレッジの学生と教職員が、カレッジの存亡をかけた闘いに決起している。

 シティーカレッジ・オブ・サンフランシスコの閉鎖反対運動

 シティーカレッジ・オブ・サンフランシスコは、学生数3万以上で、全米最大の公立短大だ。今年7月、短大認証委員会が、短大としての認証を取り消す決定をした。同委員会は公的機関ではない。しかし、それにもかかわらず、この委員会の一方的で極めて不透明なプロセスで行われた認証取り消し決定が基準にされて、政府資金が打ち切られ、カレッジの閉鎖が強行されるというのだ。
 これは、このカレッジの労働組合AFT2121(アメリカ教員連盟第2121支部)を丸ごと破壊する攻撃だ。AFT2121は、職場、パート労働者を組合に組織するとともに、その正規職化のために闘って多くの勝利をかちとり、またILWUローカル10(国際港湾倉庫労組第10支部)が主導した08年のイラク反戦全港湾封鎖闘争やオキュパイ運動に積極的に参加してきた階級的な組合だ。
 またこの認証取り消し決定は、カレッジの民営化や、閉校による、用地の再開発・不動産投機を狙っている。
 AFT2121と学生は、認証取り消し決定の撤回を求めてデモと占拠闘争で闘っている。
(写真 AFSCMEローカル3299の病院ストライキ【5月21日 カリフォルニア大学ロサンゼルス校】)

 ナポリターノをカリフォルニア大学総長に

 カリフォルニア大学の学生運動とAFSCME3299、
そしてAFT2121やシティーカレッジの学生たちが、体制内的運動の枠を越え、労働者階級人民が団結した時に発揮できる無限の力を示し始めたからこそ、オバマ政権は震え上がり、国土安全保障長官の任務を放り出してでもカリフォルニア大学に行けとナポリターノを送り出したのだ。
 オバマに書簡を送った日本共産党など、オバマを民主的、進歩的だ、あるいは、少なくともブッシュよりましだと言っている勢力が多いが、まったく逆だ。オバマは、従来のレベルの「民主主義」さえ破壊し、専制国家化を強行しているのだ。
 オバマは、近代国家の胎動の時期からつくられてきた基本的原則をことごとく破壊している。
 2012年度NDAA(国防権限法)で、容疑者を裁判なしで無期限に拘留できると定めた。こんなことを法律の条文に明記することは、従来も行われてきた個々の憲法違反、人権侵害とは次元が違う。17世紀以来の人身保護令の原則を正面から否定し、破壊するものだ。
 今年4月、ボストンマラソンでの爆弾事件後、オバマは、軍をボストン市一帯に展開し、礼状なしの家宅捜査や夜間外出禁止令などを強行した。被疑者には黙秘権を認めないことを発表した。
 従来も礼状なしの家宅捜査や黙秘権の蹂躙は存在したが、オバマのように、それをこれほど大規模に、しかも公然と居直って行ったことはかつてなかった。
 この8月にカリフォルニア大学総長に就任したジャネット・ナポリターノは、このオバマ政権による専制国家化の先頭に立ってきた人物だ。
 国家安全保障省内の移民税関捜査局は、ナポリターノの指令によって「国境の軍事化」を強行した。国境に長大なフェンスを設置するとともに、大量の軍部隊を展開した。09年の彼女の就任以来、数千人のメキシコ人が国境地帯で殺害されている。
 また、約100万人の移民労働者を強制送還している。
 さらに、全米不審行為通報運動(SAR)を開始した。ウォルマート(スーパーマッケット)、ホテル、メジャーリーグ、公共交通機関と連携して、通報運動を繰り広げ、相互監視社会化を推進した。
 そして、2億jを投入して、米国内に無人機を展開した。パキスタンなどで無差別爆撃をしているあの無人機を国内の治安弾圧にも投入したのだ。
 だが、アメリカの学生、労働者人民は弾圧には屈しない。
 オバマの専制国家化は、共和・民主の2大政党制のペテンをはぎとり、「ストライキなどは、共和党よりましな民主党の選挙戦に不利になる」として労働者自身の闘いを抑えこんできた体制内指導部に対する一般組合員の怒りに火をつける。今、闘う労働組合の再生がさまざまなところで前進している。
 この闘いをさらに理解するために、ここで60年代の学生運動を振り返ってみてみよう。

 バークレーのフリースピーチ運動

 もともとバークレーの60年代の学生運動は、「労働者階級の解放は労働者自身の事業である」という思想の復権に、大きな役割を果たしたものだった。
 ベトナム反戦運動、公民権運動などの宣伝を禁止する大学当局に対し、64年に「フリースピーチ運動」が巨大な規模で爆発した。バークレーの中心地、スプロールプラザで演説を始めた学生を弾圧するために駆けつけたパトカーを数千人の学生が取り囲み、パトカーの屋根の上を演壇にした大演説会が開かれたのだ。
 これは、夏休みに南部の公民権運動に参加していた学生たちが大学に帰り、今までの活動家集団の枠を越え、全学生規模の実力闘争を実現したものだった。これが、60年代の全米の学生運動の出発点を切り開いた。
 これは、その名称も含めて、20世紀初めのIWW(世界産業別労働者組合)の闘いを継承するものだった。IWWは、資本家と労働者の非和解性と「一人への攻撃は皆への攻撃」のスローガンを掲げ、労働者の団結こそが資本主義を打倒できるという主張を掲げた労働組合だ。IWWの元祖フリースピーチ運動は、労働組合組織化の宣伝を弾圧する諸都市の当局に対して、全米からその都市に駆けつけ、留置所がいっぱいになり、警察も逮捕をあきらめるまで、次々に街頭で演説し続けるものだった。組合員自身が実力闘争で闘い、それによって組織を拡大する運動だった。
 64年のバークレーの闘いは、「労働者階級の解放は労働者自身の事業」というテーゼを中心に置くハル・ドレイパーらの潮流の主導で闘われた。彼は30年代以来のアメリカのトロツキストで、戦時下の造船所ストを組織した経験もある。後に『社会主義の二つの精神』(66年)、『労働組合とマルクス主義』(70年)、『マルクス、エンゲルスと労働者階級の自己解放』(71年)などを発表している。これらは、労働者自身が自らを解放し、社会の主人公として社会を運営していく労働者階級自己解放こそがマルクス主義の根本思想であり、上からの救済主義である新旧の様々な「社会主義」がまったく異質なのはもちろん、「マルクス主義者」の大部分も労働者自己解放の思想を継承していないことを明らかにしたものだ。彼は、レーニンをその例外としている。
 フリースピーチ運動の中心になった学生、マリオ・サビオは、「バークレーの闘いがなぜ起こったのか。……アメリカは黒人などこの社会から排除されてきた人々以外にとってはバラダイスだと思っている人にとっては不思議かもしれない。しかし、こんな考えは間違っている。アメリカの黒人に対する抑圧は、社会全体に対する抑圧をさらに極端にしたものにすぎない。……中産階級でさえ、たとえ豊かであったとしても、抑圧されていることは明らかだ。バークレーの学生の状況は、アメリカの高等教育の誤りが凝縮されている」と述べ、南部諸州やサンフランシスコ湾岸地域での公民権運動への参加を始めとする学外での政治活動の経験と「ほとんどが労働者階級か中産階級下層の出身であるバークレーの学生」に対してクラーク・カー総長がつくり出した、大量生産工場型の教育と抑圧に対する闘いが、大規模で継続的な決起を生み出した、と語っている。
 現在の視点から重要なことは、当時のクラーク・カー総長が、全米の大学改革のイデオローグとして大学のビジネス企業化を先行的に行っていたということだ。彼の著書では、比喩ではなく文字通りの意味で「大学は工場だ」と主張されている。
 その「大学工場」の中での学生の抑圧に対する当然の怒りの爆発を、自己解放の闘いとして組織していったからこそ、空前の大衆的決起になったのだ。
 このフリースピーチ運動は、現在の学生運動に通じる問題を提起しているといえる。
(写真 フリースピーチ運動の大爆発。弾圧に来た警察を数千人の学生が包囲。警察車両の屋根を演壇に大集会(1964年10月2日 バークレー校スプロールブラザ】)

 学生弾圧をメインスローガンにレーガンが登場

 80年代に大統領として全世界の新自由主義化を推進したレーガンは、まずカリフォルニア州知事の権力を取るところから出発した。アメリカ帝国主義ブルジョアジーは、レーガン州政の実績を見て彼を信認し、大統領にしたのだ。
 レーガンが66年の共和党内の州知事候補選びでメインスローガンにしたのが、「福祉依存者を働かせろ」と「バークレーのごたごたを片付けろ」だった。特に後者が大喝采を浴び、候補者として押し立てられた。それだけ大学闘争は、支配階級全体を脅かす決定的な意味を持っているということだ。
 29年世界恐慌の下での30年代階級闘争を押さえ込むために行われたニューディール政策、そして戦後も続けられたニューディール型の経済政策と政治支配体制は、重大な転機を迎えていたのだ。
 政治体制的には、ニューディールは、アメリカ共産党を始めとして体制内「左派」の支持によって成り立ってきた。だが、バークレーを先頭にした闘いは、この共産党=スターリン主義や社会民主主義的な既成左翼を意識的に乗り越えるものだった。
 だから、特に、既成左翼の枠を大衆的規模で突破した先進地、カリフォルニア州ではもはやニューディール型の政治支配体制を続けるわけにはいかなくなったのだ。
 レーガンは州知事に当選すると、大学企業化の旗手クラーク・カー総長さえ生ぬるいとして解任し、さらに69年には大学闘争に対してハイウェーパトロールや州兵を動員し、学生を射殺するなどの大弾圧をした。
 こうしたレーガン州政の弾圧を評価して、アメリカのブルジョアジーは彼を大統領にしたのだ。新自由主義は、血を滴らせて誕生したのだ。
 だが、学生運動はむしろ全米に拡大した。
 翌70年にはカンボジアに拡大したアメリカの侵略戦争に反対するオハイオ州のケント州立大学の反戦闘争に対して州兵部隊が発砲し、4人の学生が殺され、多数が負傷した。その後の全米学生の怒りの決起が右派ニクソン政権をベトナムからの撤兵に追い込む力となった。
 バークレーの学生運動がレーガンの弾圧に屈せず、闘い続けたことが、世界の歴史を変えたのだ。

 住民提案13号「納税者の反乱」

 現在も続くカリフォルニア州の構造的な財政問題は、78年の住民提案13号によってつくられた。これは、レーガンの支持層とマスコミが、デマゴギッシュな大宣伝をし、また既成労組幹部もそれにのっかって減税運動(いわゆる「納税者の反乱」)をしたことの中から生まれた、住民投票の州法だ。
 「第一条(a)不動産に課せられる従価税の最高額は、当該不動産の貨幣価格の1%とする。……」
 高額な不動産を所有するブルジョアジーを徹底的に優遇する税制だ。これによって、全米で最も財政が豊かな州のひとつだったカリフォルニアが、財政逼迫し、教育予算、福祉予算を大幅カットしていくことになる。
 新自由主義の「小さな政府」「自助努力」のイデオロギーが、これによって勢いを得ていった。それに屈したAFL―CIO(米国労働総同盟・産業別組合会議)傘下の既成労組は、組合大会にまで減税運動の指導者を呼び演説させるありさまだった。
 79年のレーガンの共和党大統領候補選挙戦のスローガンは、ほとんど減税一本に絞られた。
 この住民提案13の廃止は、後に述べる10年3・4の闘争でも、現在のサンフランシスコシティーカレッジの闘いでも、大衆的なスローガンになっている。
第8節 めちゃくちゃなレーガノミクス
 81年に就任したレーガン政権は、日本の国鉄分割・民営化、イギリスの炭鉱労組破壊と並んで世界の新自由主義の3大突破口となった連邦航空管制官労組(PATCO)の全員解雇を行い、体制内労働運動を屈服させた。それとともに、金持ち大減税を実施し、同時に大軍拡で莫大な予算を使うというめちゃくちゃな政策を行った。レーガノミクスだ。
 レーガノミクスに対して、レーガンに対立して立った共和党大統領候補のブッシュ(父)は「呪術経済学」だと批判した。ブッシュは、共和党右派の政治家だったが、多くの右派も新自由主義政策を支持していなかったのだ。あまりにでたらめで、破綻が目に見えていたからだ。新自由主義とは、最末期帝国主義の悪あがきにすぎず、最初から非合理きわまるものだったのだ。
 レーガン時代はまた、史上類例がないほど大規模な政府の市場介入が行われている。新自由主義の表向きの建前は市場原理主義、レッセフェール(自由放任)だが、実際は逆である。99%には無制限の競争、1%には政府の保護と独占――これがレーガンがやったことだ。

 ツービッグ・ツーフェイル

 アメリカ帝国主義は、戦後世界の唯一の基軸国だ。圧倒的に巨大だ。そのアメリカで財政赤字と国際収支の赤字が雪だるま式に膨れ上がった。巨大な債権国だったアメリカが、レーガン時代に債務国に転落し、累積債務はますます拡大した。
 そのレーガノミクスの中でコンチネンタル・イリノイ銀行が84年に破綻した。
 コンチネンタル・イリノイは一時400億jの資産を有した全米7位の銀行だったため、「ツービッグ・ツーフェイル」(大きすぎてつぶせない)とされ、連邦預金保険公社などが全面的に出動して救済した。これ以降、ツービッグ・ツーフェイルが全米、全世界の流行語となる。
 これは、一資本の問題ではない。アメリカそのものがツービッグ・ツーフェイルだということだ。つまり、アメリカ帝国主義が超巨大で、唯一の基軸国であるために、破綻すればするほど、「つぶすわけにはいかない」という力が働くということだ。
 自分の破綻を居直り、「どうだ、自分がつぶれたらお前だって」と脅しの材料にし、それで生き延びようということだ。
 アメリカを基軸とする世界体制、そして資本主義そのものが死の間際にあるのだ。

 新自由主義―グローバル化との闘い

 新自由主義が全米・全世界を席巻するようになっても、カリフォルニア大学を始めとするアメリカの大学闘争は、闘いを継続した。ブッシュ(父)政権下でのNAFTA(北米自由貿易圏)締結反対闘争や99年のシアトルのWTOサミット反対闘争、そして9・11後の反戦闘争など、大学闘争は、新自由主義との闘いの拠点であり続けたのだ。
 そして特に大きな転換点になったのが、07年のサブプライムローンの破綻、パリバ・ショク、08年リーマン・ショック後の教育予算の大幅カット、解雇、民営化の波に立ち向かった闘いだ。
 全米第2の巨大都市で4万5千人の小中高の教育労働者を組織するUTLA(ロサンゼルス統一教組)は、予算カット攻撃、解雇攻撃に対して、08年の早朝ストとピケット、09年の大デモと座り込み実力闘争、ハンストで闘いぬいた。それは、カリフォルニア大学のさまざまな職員組合の協約改定期ストライキに引き継がれていった。学生は、職員組合のピケットに共に参加し、また大学予算カット反対、賃下げ・解雇反対の独自の大デモを行った。
 これらが10年3月4日のカリフォルニア100万人決起をつくり出し、階級闘争全体に巨大な影響を与えた。

 バークレー校を中心に10年3・4教育闘争

 10年3月4日、カリフォルニア州の教育予算の大幅カット、人員削減、授業料大幅値上げ、民営化に対して、州全土の幼稚園、小中高から大学まで全過程の教育労働者、生徒、学生、保護者100万人が一斉にストライキ、デモ、ピケットに決起した。これに激励され、この日、他の31の州でも呼応して教育闘争が行われ、全米的な大闘争になった。
 大恐慌、ウォール街救済の負担を労働者人民に転嫁する攻撃に対する大反撃ののろしがあげられた。
 この100万人決起は、教育関係だけではなく、公務員労働者にも巨大な激励になった。「公務員は身分保障に甘えている」「公立学校は民間の厳しさがわかっていない」「民営化と競争で教育を改革せよ」「選択の自由を」というマスコミの公務員バッシング、民営化キャンペーンを打ち破ったからだ。授業料値上げ、民営化策動の張本人であるカリフォルニア大学のユードフ総長さえこの大衆的決起にうろたえ、「意義があるデモだ」と言わざるをえなくなった。
 2011年2月、ウィスコンシン州の公務員労組からの団体交渉権の剥奪、事実上の争議権の剥奪に反対し、10万人の州議事堂前連日集会、議事堂占拠や、学校の山猫ストライキの闘いが行われた。これも、この100万人決起に激励されて行われたものだ。そしてこのウィスコンシン州の闘いがインスピレーションになって、ウォール街占拠闘争が爆発し、全米に広がった。
 こうした全米的な闘いが切り開いた3・4決起の中心を担ったのが、バークレー校を中心とするカリフォルニア大学学生のストライキだったのだ。
 労働協約闘争を終えたばかりでストライキができない大学職員の諸労組も、学生ストとの連帯ということで、共にピケットラインに立ち、また、その上部機関であるAFT(アメリカ教員連盟)の州連盟も3・4教育闘争に賛同し、巨大な動員を生み出していったのだ。
 また、従来は、K―12(幼稚園から12学年=高校3年まで)と高等教育とが別々の組合に属し、運動も別々だったが、3・4では、全部一緒に決起し、団結した。画期的なことだ。
 K―12の労働組合は、NEA(全米教育協会)とAFT(アメリカ教員連盟〔若干は高等教育職員も含む〕)を合わせて409万人に上り、アメリカの組織労働者の中で他を引き離して最大の勢力だ。それが大学闘争と結合し、恐慌下の予算カット、解雇、民営化と闘う階級闘争の最前線にいる。
 また、2010年3・4闘争は、新自由主義、財政カットと教育民営化に対して共通の闘いを貫いている日本の全学連の派遣団が駆けつけ、ピケットライン、デモ、集会を共に担った。

 大学占拠闘争

 08年のリーマン・ショック以後、カリフォルニア大学理事会は、毎年大幅な授業料値上げを繰り返している。その値上げが議題になる理事会の開催に対して、そのたびにカリフォルニア大学10のキャンパスから多くの学生が結集し、会場前でスクラムを組んで理事会開会実力阻止闘争を闘った。
 そして、11年には、バークレーの隣町、オークランドのオキュパイ運動に学生が大結集し、ILWU(国際港湾倉庫労組)を軸とする11月2日オークランドゼネスト闘争・港湾封鎖を共に闘った。そしてオキュパイ運動を大学に持ち帰って闘いぬいた。
 1%に対する99%の闘いとして、敵をはっきりさせ、労働者人民の巨大な団結で勝利する展望を開いたのだ。
   *    *    
 ここまでアメリカの大学闘争について述べたことから明らかなように、大学闘争には、帝国主義の戦略的攻撃を真っ向から受けて立ち、帝国主義中枢と真正面から闘って世界を変える力がある。
 労働者階級自己解放の闘いを貫くことによって、大学と教育は、新自由主義の根本的な破綻点であることが暴かれ、闘いが爆発的に巨大化する。
 新自由主義の殺し文句は、「国際競争」だ。だが、それは自分たちが敗北してしまうという泣き言に過ぎない。われは、帝国主義の国際競争での敗北を歓迎し、労働者人民同士の国境を越えた団結で帝国主義を打倒する。
 動労千葉、階級的労働運動を軸にして、組織し、組織し、組織しぬいて、新自由主義大学改革を粉砕し、革命を実現しよう。
(写真 バークレー校のオキュパイ運動【11年11月15日 スプロールブラザ】)

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月刊『国際労働運動』(447号3-2)(2013/11/01)

●資料 福島県立医科大学知的財産取扱規程(抜粋)

 国公立大学の法人化とともに、知的財産戦略が産学連携の柱にすえられ、全国の大学に「知的財産本部」などの名称の機関が設置された。
 たとえば、福島県立医科大学では「知的財産管理オフィス」が設置され、以下のような取扱い規程がつくられた。職員の発明等の権利が大学法人に帰属すること、守秘義務を徹底すること、そして産学連携を推進することが柱である。
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 公立大学法人福島県立医科大学知的財産取扱規程(抜粋)

(平成18年4月1日規程第61号)
一部改正 平成19年4月1日規程第60号
一部改正 平成20年4月1日規程第9号
一部改正 平成22年5月20日規程第17号
(目的)
第1条 この規程は、公立大学法人福島県立医科大学(以下「法人」という。)の職員等が行った発明等の取扱いについて規定し、その発明者としての権利を保障し、知的財産の創出の促進及び成果の普及を図り、もって社会に貢献することを目的とする。

(用語の定義)
第2条 この規程における、用語の定義は次のとおりとする。
「発明等」とは、次に掲げるものをいう。
ア 特許権の対象となり得る発明
イ 実用新案権の対象となり得る考案
ウ 匠権、回路配置利用権又はプログラム等の著作権の対象となり得る創作
エ 品種登録に係る権利の対象となり得る育成
オ その他の技術情報に係る権利(ノウハウ等)の対象となり得る案出または創出等
「職務発明等」とは、法人が費用その他の支援をして行う研究等又は法人が管理する施設設備を利用して行う研究等に基づき職員等が行った発明等をいう。
「知的財産権」とは、次に掲げるものをいう。
ア 特許法に規定する特許権及び特許を受ける権利、実用新案法に規定する実用新案権及び実用新案登録を受ける権利
イ 著作権法第2条第1項第10号の2のプログラム著作物、同項第10号の3のデータベースの著作物に係る著作権法第21条から第28条に規定する著作権及び外国におけるこれらの権利に相当する権利
ウ ア又はイに掲げる権利以外であって、秘匿することが可能な財産的価値のある技術情報等に係る権利
「発明者等」とは、発明等を行った職員等をいう。
「第三者」とは、法人以外の個人又は団体をいう。
「職員等」とは、次に掲げる者をいう。
ア 法人の教授、准教授、講師、助教及び助手(以下「教員」という。)
イ 法人の教員以外の職員
ウ 法人との間で研究の成果である発明等について別に定める方法により契約が締結されている者

(権利の帰属)
第3条 職務発明等に係る知的財産権は、法人がこれを承継する。
ただし、その知的財産権を法人が承継しないものと決定したときは、この限りでない。
2 職員等が第三者と共同して職務発明等を行ったときは、当該職員等が有する当該職務発明等に係る知的財産権の共有持分を法人が承継する。ただし、その知的財産権の共有持分を法人が承継しないものと決定したときは、この限りでない。
3 発明者等が有する知的財産権の共有持分を法人が承継した場合には、法人と当該第三者との間で協議の上、当該職務発明等に係る知的財産権の出願及び権利維持等並びに第三者に対する実施許諾等を行う。

(届出及び受理)
第4条 職員等は、職務発明等に該当する発明等を行ったときは、速やかに所属する講座等の長(以下「所属長」という。)を経由して発明等届出書(様式第1号)を理事長に届け出るものとする。

(発明等の審査等)
第5条 理事長は、前条第1項に規定する届出があったときは、知的財産管理活用オフィス(以下「知財オフィス」という。)の審査を経て、権利の承継、出願等の要否等を決定するものとする。

(出願)
第9条 法人は、第5条第1項の規定により知的財産権を承継すると決定した職務発明等については、速やかに当該職務発明等に係る知的財産権の出願を行う。ただし、法人が承継した知的財産権が第2条第3号のイ又はウに該当する場合は、この限りでない。
2 発明者等は、出願に関する諸手続きについて協力を要請されたときは、これに応じなければならない。

(出願審査請求)
第10条 法人は、前条の規定により出願を行った知的財産権については、必要に応じて発明者等と協議をし、知財オフィスの審査を経て、出願審査請求の要否を決定するものとする。

(発明者の研究活動上の使用)
第13条 発明者等は、この規程に基づいて法人が知的財産権を承継した職務発明等について実施権を主張しない。ただし、自己の研究活動等のために自ら実施する場合は、この限りでない。

(補償金の支払い)
第14条 法人は、この規程に基づいて法人が知的財産権を承継した職務発明等の出願若しくは実施により、又は第三者に対する当該知的財産権の実施許諾若しくは処分により、法人が利益を得た場合には、当該職務発明等を行った者に対し、法人が別に定める補償金を支払う。

(退職時の取扱い)
第15条 職員等が退職した場合においても、当該退職する前に第4条第1項の規定に基づき届けられた職務発明等が、第5条第1項に規定する職務発明であると認められるときは、当該退職した職員等に対しこの規程を適用する。

(守秘義務)
第17条 発明者等、知財オフィスの関係者及びその他の教職員で発明等の内容を知り得た者は、必要な期間中、その一切の事項について秘密を守らなければならない。

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月刊『国際労働運動』(447号4-1)(2013/11/01)

Photo News

 (写真@)

 (写真A)

 ●韓国の全国教職員労働組合弾圧に反撃

 

韓国政府雇用労働部は、9月23日、解雇者を組合員と認める現在の規約を是正し、解雇者の組合活動を制限するように通知してきた。さらに、10月23日までに規約を是正しなければ、全教組の設立取り消しを通知すると通告してきた。これに対し全教組は、組織を非常体制に転換し、9月26日以降の指導部の無期限ハンスト座り込みをはじめ、総力闘争に突入することを宣言した (写真@A)。パククネ政権の労働組合弾圧強化政策への反撃が開始された。

 (写真BC)

 ●中国でストライキ指導者奪還の闘い爆発

 

今年の5月7日から続いている広東省深せん(土川)の廸威信家具用品有限会社の工場での300人の労働者のストライキで、不当逮捕された指導者を奪還する闘いが連日続いている (写真BC)。ストライキ指導者の呉貴軍氏は、すでに120日以上も拘留されている。習近平体制の労働運動弾圧強化に対して、廸威信家具用品有限会社の労働者は、すべての労働者の最前線で反撃を開始している。

 (写真D)

 (写真E)

 ●メキシコで教育の民営化反対闘争続く

 

メキシコの教育労働者たちは、教師評価制度の導入と学校の民営化に反対して、3カ月前からソカロ広場を占拠して抗議闘争を展開している (写真D)。これに対しペニャ・ニエト大統領は、メキシコの独立記念日に広場を使用するとして、9月13日、警察を導入して広場の座り込み闘争をしていた教育労働者たちを排除した (写真E)。だが、教師たちは約1.6km離れた場所で新たな座り込み闘争を再開し、あくまで教育の民営化に反対する闘いを継続する決意を示している。

  (写真F)

  (写真G)

 ●マハラの繊維労働者、スト突入

 2011年のエジプト革命で決定的役割を果たした、マハラの国営繊維工場の労働者1万人は、8月26日、ボーナスの支払いと、工場の経営者の辞任を要求してストライキに突入した (写真F)。マハラの労働者たち2万4000人は、7月にも、ボーナスが半分しか支払われなかったことに抗議してストライキを打ち抜き、8月の給料支払いの際に、残りの半分を支払うという約束をかちとった (写真G)。今回のストライキはこの約束が守られなかったことに対する抗議のストだ。軍部支配の強化の下でも、マハラの労働者たちは意気高く闘ってエジプトの労働者階級の前衛部隊としての役割を果たしている。

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月刊『国際労働運動』(447号5-1)(2013/11/01)

世界経済の焦点

世界経済の焦点

首切り自由化の「成長戦略」

労働規制の全面撤廃をもくろむ安倍

第一章 「正社員改革」にターゲット絞る
 安倍政権の「成長戦略」の柱は労働規制の大幅な撤廃、とりわけ解雇の自由化だ。安倍は「大胆な金融政策」を第1の矢、「機動的な財政政策」を第2の矢、「民間投資を喚起する成長戦略」を3本の矢に位置づけているが、その本命は「成長戦略」だ。6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」と「規制改革実施計画」は、その具体的中身を示している。
 「規制改革実施計画」は規制改革会議が6月5日に公表した「規制改革に関する答申」を下敷きにしているが、同答申は「民間の投資促進の観点を重視し、その阻害要因を除去する」と唱えている。資本の自由な展開にとって最大の「阻害要因」となるのは、労働者が闘いによってかちとってきた解雇規制や労働時間規制などの諸権利だ。だから、規制改革会議のもとに設置された「雇用ワーキンググループ」の報告書は、「無期雇用、無限定社員、雇用終了ルールである解雇権濫用法理の三要素は、相互に強い補完性を有し、正社員改革を困難にしてきた」と、解雇規制への憎しみをむき出しにしている。
 規制改革会議では、「企業は雇用を巡る調整に関して『数量調整』よりもあまりに『価格調整』=賃金の抑制・低下及び非正規雇用の活用に頼り過ぎた」「『価格調整』に偏り過ぎた雇用を巡る調整のバランスを取り戻すべき」「賃金を上げるのであれば、雇用の柔軟性を高める政策を実行すべき」などという議論もなされた。これは、実際にはすでに大きく損なわれている公務員の身分保障が、非正規職に低賃金を強いている原因であるかのように言うデマゴギーだ。
 同時にそれは、賃上げを求めるなら解雇規制の撤廃を認めろ≠ニいう連合幹部への恫喝でもある。インフレ策をとる安倍に賃上げを期待した連合は、その屈服にとことんつけ込まれている。安倍は連合を分裂させ、旧総評系の官公労を切り離すことさえ狙っている。政府首脳と経団連など財界団体代表、連合幹部を集めての政労使会議の設定も根本的な目的はそこにある。
 労働規制を解体する攻撃は、労働組合破壊と一体のものとして仕掛けられている。

 総非正規職化狙う「限定正社員」制度

 「規制改革実施計画」は、「限定正社員」制度の導入を雇用政策の柱に打ち出した。同計画では「ジョブ型正社員」という、意味の不明確な用語が使われているが、要は地域や職種が限定された社員ということだ。
 限定つきだから、職種限定社員の場合、所属する部門が廃止されれば直ちに解雇、地域限定社員の場合、その地域の事業所がなくなれば即解雇だ。「正社員」とは名ばかりの非正規雇用そのものだ。
 今でも建前としては「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない」解雇は無効だ。企業業績の悪化を理由とする解雇も、整理解雇4要件(@解雇を必要とする経営上の理由があること、A解雇を回避するために努力を尽くすこと、B被解雇者の選定に合理性があること、C労組との協議を尽くすなど解雇手続きに妥当性があること)を満たさなければならない。だから、企業の中の一部門が廃止されても、労働者を他の部門に移すなどして、資本は解雇を極力避けなければならなかった。
 こうした建前は、現実にはほとんど無視されている。だが、「限定正社員」であれば、その建前さえ無視した安易な解雇が可能になる。
 他方、職種や地域に限定のない正社員の場合は、どの部門、どの地域に配転を命じられても従う義務を負わされる。労働者はこれまで、資本が命じる不当な配転に対し、不当労働行為として争うなどの闘いを積み重ねてきた。しかし、今後はどんな理不尽な配転命令でも従う義務があるとされかねない。
 日本郵政資本が導入をたくらみ、JP労組中央が推進する「新一般職」は、紛れもなく「限定正社員」だ。しかも郵政資本は、12年4月時点で18万1千人いた労働者を最終的に15万9500人に減らし、うち6万5500人を時給制または月給制でも短時間の非正規社員、4万7300人を新一般職とする計画だ。正規雇用はごく一部の幹部社員に限られる。
 ここに典型的に示されるように、現在の正社員のほとんどを非正規職化することが安倍の狙いだ。

 派遣法も抜本改悪

 「規制改革実施計画」は、労働者派遣制度の抜本改革をうたっている。
 これまでは「通訳」や「事務用機器操作」などのいわゆる「専門26業務」以外は、企業が派遣労働を利用できる期間が原則1年・最長3年に制限されていた。その規制を取り払い、すべてを専門26業務と同じ扱いにするというのが狙われている改悪の中身だ。
 従来の規制は、臨時的・一時的な業務に限って派遣労働を認めるという趣旨で設けられていた。これが撤廃されれば、企業はあらゆる業務について派遣労働を常に利用できるようになる。
 他方、一人の派遣労働者が同一企業・同一業務で就労できる期間は、「専門26業種」も含めて最長3年に制限される。企業は労働者を入れ換えれば無期限に派遣労働を使えるが、派遣労働者は最長でも3年しか同じ企業では働けない。まさに最悪の制度だ。

 労基法適用除外の「国家戦略特区」

 

「規制改革に関する答申」は、労働時間規制の見直しや解雇の金銭解決制度の導入を検討課題に掲げている。
安倍は、第1次内閣時の07年、労働時間規制を撤廃するホワイトカラー・エグゼンプションの導入を企て、労働者から「残業代ゼロ法案」と徹底弾劾された過去を持つ。「残業代ゼロ法」の挫折は、第1次安倍内閣が倒壊する一因になった。それをまたぞろ持ち出してきたのだ。
解雇の金銭解決制度とは、裁判で「不当解雇」と認定された場合でも、使用者がカネを払えば労働者を職場復帰させなくていいというものだ。安倍政権は、裁判で勝っても職場に戻りたがらない労働者もいる≠アとを導入の口実にしているが、そんなことは理由にならない。今でも、どんな場合であれ労働者には退職の自由がある。退職の自由もない労働は、まさに奴隷労働にほかならないからだ。
資本が解雇の金銭解決制度の導入にこだわるのは、カネさえ払えば労組活動家を好き勝手に職場から追い出せるようにしたいからだ。こんなものが導入されたら、不当労働行為を禁止した労働組合法は空文になってしまう。
安倍政権は、労働時間規制の撤廃や解雇の金銭解決制度については、ひとまず「国家戦略特区」で実施に移そうとしている。だが、特区に想定されているのは「東京圏」「大阪圏」「愛知圏」だ。およそそれは、限定された地域での施策とは言えない。
大阪市長・橋下徹と大阪府知事・松井一郎は、大阪府・大阪市合同の国家戦略特区プロジェクト提案を直ちに政府に提出した。「岩盤規制に風穴を開け、民によるイノベーションを創出」と銘打たれたその提案には、「労働時間規制や解雇規制の適用除外など労働法制の緩和を行う」とあからさまに書かれている。
さらに、労働契約に解雇事由を書き込んでおけば、それに該当する場合は即、解雇できる制度を特区に導入することも、産業競争力会議での検討対象になっている。例えば「遅刻すれば解雇」と雇用契約にあれば、遅刻を理由に直ちに解雇されてしまうのだ。
しかも、こうしたことが認められたら不当労働行為が横行するという懸念に対して、産業競争力会議国家戦略特区ワーキンググループは「監視機能強化を特区内で行う」と回答した。いわば「特区特別労働委員会」を創設するという構想だ。
安倍は、9月20日の産業競争力会議課題別会合で、秋の臨時国会に提出する国家戦略特区関連法案に労働時間規制除外・解雇規制緩和を盛り込むよう指示した。大激突は始まったのだ。

 

(図 労働者の平均年収は大幅に低下【国税庁「民間給与実態統計調査」から】、非正規雇用労働者の割合は年々増大【総務省「就業構造基本調査」から】)

 「人材ビジネス」が雇用保険を山分け

 「成長戦略」のマスタープランとしての位置を持つ「日本再興戦略」は、「世界で一番企業が活動しやすいビジネス環境」「世界でトップレベルの雇用環境」をスローガンに、「雇用政策の基本を行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型へと大胆に転換する」と押し出している。資本による搾取が世界で最も野放図に展開できる国にするために、国家の政策目標も積極的な解雇の推進に置くというのである。
 その具体策に最初に挙げられているのは、雇用調整助成金の大幅な縮小と労働移動支援助成金の大幅な拡充だ。雇用調整助成金とは、不況の中で事業を縮小した企業が、労働者を解雇せず休業などの形で雇用を維持した場合、その企業を国が助成する制度だ。労働移動支援助成金とは、首切りの対象となった労働者への職業訓練や再就職あっせんなどを企業が「人材ビジネス」に委託した場合、その委託費を国が補助するというものだ。まさに解雇奨励金だ。
 この方針を受けて出された厚生労働省の14年度予算概算要求では、労働移動支援助成金に301億円、雇用調整助成金に545億円が計上された。13年度予算では労働移動支援助成金はわずか1億9千
万円で雇用調整助成金が1175億円だったことと比べれば、大きく様変わりした。
 言うまでもなく「人材ビジネス」の再就職あっせんなど何の当てにもならない。安倍は「失業なき労働移動」を唱えるが、首を切られた労働者がすぐに再就職できる保証はまったくない。
 「民でできるものは民へ」と叫んで小泉政権が行った「市場化テスト」では、皮肉なことにハローワークのほうが「民間人材ビジネス」より求人開拓事業などではるかに良好な実績を収めている。
 にもかかわらず安倍は、「人材ビジネス」に公金をばらまくというのだ。もはやこれは雇用政策でも何でもない。社会保障会計の中では例外的に黒字を維持している雇用保険に「人材ビジネス」が群がって、その財源を今のうちに山分けしてしまおうということだ。しかも、こうした政策を決定したのは、人材派遣会社パソナの会長でもある慶応大教授の竹中平蔵ら産業競争力会議のメンバーだ。
 だが、こんなやり方がやすやすと通用するはずがない。労働時間規制などの労働規制は、「長い期間にわたって資本家階級と労働者階級の間に多かれ少なかれ隠然と行われていた内乱の産物」(マルクス『資本論』)だ。それは、「特区」などという安易で性急なやり方によって破壊できるものでは断じてない。
 連合による労働者支配は崩れ始め、新自由主義に対する労働者の反乱はついに開始された。2020年東京オリンピック開催決定は、労働者の怒りをさらにかき立てている。安倍のプランはすべて、労働者の反撃をまったく想定せずに組み立てられている。労働組合が本気で立ち向かえば、安倍の思惑はもろくも崩れ去る。安倍政権もろとも、解雇自由化・総非正規職化の「成長戦略」を粉砕することはできる。11・3労働者集会への1万人結集の実現に、勝利の道がある。
 (岩谷芳之)

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月刊『国際労働運動』(447号6-1)(2013/11/01)

世界の労働組合

世界の労働組合 韓国編

金属労組キリュン電子分会

 キリュン電子分会(ユフンヒ分会長)は、韓国の金属労組傘下の労働組合で、正式名称は全国金属労働組合ソウル支部南部地域支会キリュン電子分会。2005年の結成以来、解雇撤回・職場復帰、不法派遣の中止と正規職転換を求めて闘いを続け、韓国における非正規職闘争の象徴となった。

 ■製造工程での不法派遣

 キリュン電子株式会社は、衛星ラジオやカーナビゲーションなど衛星受信機器を製造する、アジアセメント系列のコスダック(中小・ベンチャー企業向け株式市場)上場企業で、事業場はソウルの九老(クロ)デジタル工業団地内にあった。(現在は近隣の銅雀区新大方洞に移転)
 同社は2005年当時、大部分が女性の生産職労働者250人のうち210人を不法派遣の形態で使用していた。
 1997年11月の韓国通貨危機直後に制定された韓国の派遣法(派遣勤労者保護等に関する法律。98年2月制定、7月施行)は、現在も製造業の直接生産工程における派遣労働者の使用を禁じているが(日本では2004年に解禁)、キリュン電子では2003年から2年5カ月にわたり業務請負の形を装って労働者を製造工程で使用していた。
 また、正規職も含めて基本給を低く抑えられ、組長級の正規職が基本給最低100万(当時約10万円)に賞与金700%、契約職は基本給70万に同200%、請負労働者に至っては当時の最低賃金ぎりぎりの65万だった(韓国労働者の05年8月の月平均賃金は約160万)。この低賃金がキリュン電子05年度黒字500億の源だった。

(写真 労使合意調印式に臨むキリュン電子分会【2010年11月1日】)

 ■労働組合の結成と闘争の開始

 2005年4月、会社側は200名もの非正規職を携帯メールによる通知1本で集団解雇した。解雇理由は、「雑談」「管理者への口答え」などだった。
 これに対し労働者側は6月に政府・労働部に対する陳情を行ったのち、7月に正規職と契約職、請負職約180人で労働組合を結成した。
 労組結成後も会社側は、作業現場への監視カメラ設置、期間満了の契約職と請負い職に対する雇い止め、組合役員の配置転換、労組脱退強要など不当労働行為を重ねた。
 8月に労働部が「不法派遣」の判定を出して以降も会社側は態度を改めなかったため、組合側は同月24日、工場占拠籠城に突入した。10月、警察が入って組合員を強制排除・逮捕し、以後、組合員は工場正門前にテントを設置し、籠城闘争に入った。一方、会社側は、不法派遣判定に対してはわずか500万の罰金で切り抜ける一方、組合員に対しては計54億もの損害賠償・仮差し押えをしかけた。
 闘争開始千日を迎えた2008年5月11日、組合は戦術を拡大し、組合員4人が鉄塔で籠城。支持者1000人の声明とハンストがこれに続いた。
 その後も組合と支援は様々な戦術で闘争を続け、とりわけキムソヨン分会長(当時)のハンストは、入退院を繰り返しながら9月12日まで94日間続けられた。

 ■1895日目の労使合意

 2008年6月の大法院での組合側敗訴(不当解雇事実の不認定)、10月の社屋移転後も組合は旧工場正門での占拠籠城を続けるが、2010年8月、撤去攻撃が始まった。これに対し組合員は重機を占拠し、正門警備室の撤去を阻止する一方、3度目のハンストに突入した。
 組合側の籠城により、旧工場跡地の買収者が再開発に手を付けられない中、同年11月1日、ついに労使合意が成立し、キリュン電子側は合意時点の全組合員10人の直接雇用を約束した。会社側が非正規職解雇者を正規職として直接雇用するとしたのは、韓国の長期非正規職闘争の中では初めてのことだった。
 合意内容にはこの他に、△相互に提起された告訴・告発、損害賠償・仮差し押さえ請求訴訟などの取り下げ、△籠城、集会、デモ、誹謗の中止、等の内容が含まれていた。さらに組合側は、会社の厳しい経営状況を考慮して雇用時点を1年6カ月(最長3年)遅らせることで譲歩し、会社側も、雇用時までの生活賃金を支給するとした。2005年8月24日の籠城突入から1895日目にかちとられた合意だった。

 ■原則堅持し、新たな闘いへ

 キリュン闘争の勝利は極限的な闘争戦術で語られることが多いが、その根底には、職場を越えた連帯と広範な社会的支援、何よりも正規職化による職場復帰という原則の堅持があった。会社側は、組合による請負会社設立など懐柔策を執拗に持ちかけたが組合側は拒否した。
 2013年5月2日、組合員10人はついに職場復帰をかちとったが、会社側は組合員を業務に就かせず、賃金未払いも続いたため、組合側はこの8月29日、新たな闘いを宣言した。

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月刊『国際労働運動』(447号7-1)(2013/11/01)

国際労働運動の暦

国際労働運動の暦 11月14日

■1971年渋谷闘争■

沖縄返還協定に反撃

沖縄基地永続化を狙う攻撃に渋谷を戦場に労働者人民が渾身の決起

 

1971年11・14渋谷闘争は、沖縄「返還」協定に対する労働者階級人民の根底的な怒りの決起であり、闘う沖縄労働者人民のゼネスト決起に応える闘いだった。その4日前の沖縄全県ゼネストは、労働者学生の暴動闘争に発展し、機動隊との壮絶な死闘戦となった。それを引き継いでの首都における決起として渋谷闘争は闘われた。今日、星野文昭同志がデッチあげの無期懲役攻撃を受けて獄中39年の闘いを貫いている、そのもととなった渋谷闘争とはそもそもどのような闘いだったのだろうか。
沖縄「返還」協定とは何か。太平洋戦争末期、日本帝国主義は「国体護持」の捨て石として沖縄戦に突入し沖縄全県民を戦火の中にたたき込み、大量殺戮と、生き地獄を強制した。そして沖縄を占領した米帝は本土から切り離して独自の軍政を敷き、日本独立の19
52年4・28サンフランシスコ条約で日本から分離軍事支配を継続した。その後、銃剣とブルドーザーによる土地接収と基地建設拡大などで苦難を強いられた沖縄県民は、本土復帰の要求をもってこれと闘った。この闘いに追いつめられた日米帝は、この願いを逆手にとって、「施政権返還」による沖縄基地の永久固定化を図ったのである。
沖縄労働者人民は、この狙いを見抜き、ペテン的「返還」協定反対の闘いに立ち上がった。本土において、「沖縄奪還、安保粉砕・日帝打倒」を掲げ、この闘いの最先頭で闘ったのが、67年10・8佐藤訪ベトナム阻止闘争以来、70年安保・沖縄闘争を牽引してきた中核派の勢力、反戦青年委員会と全学連の労働者学生だった。
●機動隊の暴力支配に挑戦
69年4・28沖縄奪還闘争で「首都制圧・官邸占拠」を掲げた中核派に対し、権力は破防法弾圧を発動し、本多延嘉革共同書記長らを逮捕・起訴した。この恫喝をもはねのけ4・28闘争は爆発し、その年10、11月には連続的な武装的決起が実現した。70年6月の安保闘争の高揚に続いて、71年の6月返還協定調印から秋の批准国会へと闘いは上り詰めていった。10、11月闘争に対しては再び破防法個人適用が発動された。
東京都内のデモは禁止され、首都に戒厳令的な弾圧体制が敷かれた。そしてこの敵の弾圧体制の軸になっているのは、機動隊暴力であることもはっきりしてきた。中核派は、この機動隊支配を打ち破る暴動闘争を起こそう、その戦場は渋谷だと公然と呼びかけた。
この日、渋谷は文字通り厳戒体制下におかれ、1万
2千人の機動隊が支配する死の街の様相を呈した。中核派の部隊は、各所から渋谷を目指した。そのうち、池袋から山手線で渋谷入りを図った軍団は権力に襲われ、大阪の教育労働者、永田典子同志が機動隊に殺された。
こうした中で、小田急線代々木八幡駅から登場した星野同志が率いる隊列が機動隊の阻止線を破って東急本店前に登場した。これとは別に井の頭線から渋谷に向かい、東大駒場駅で下車した部隊は、神泉から道玄坂の一帯で機動隊との激戦の戦端を開いた。
●数万の群衆が渋谷で闘う
一方、中核派の「渋谷大暴動」の訴えに応えた数万人の労働者人民が渋谷に押し寄せ、正規部隊の登場と機動隊との激戦を合図に渋谷の至るところで決起した。バリケードが築かれ、石が集められ、機動隊と各所で衝突が起こった。
この闘いは、夜遅くまで機動隊支配を打ち破って闘い抜かれ、日帝支配階級を震え上がらせた。闘いは、直後の19日、日比谷―銀座の暴動闘争に受け継がれ、首都を完全に圧倒した。
この闘いに追いつめられた権力は、一方ではカクマル反革命をそそのかして武装襲撃を加えるとともに、星野文昭同志に対するデッチあげ逮捕・無期懲役の攻撃で階級的報復に訴えてきたのだ。日本の労働者階級人民が、帝国主義の沖縄圧殺攻撃に対して数万の規模で階級的に反撃したこと。星野奪還闘争は、その闘いの継続としてもあるのだ。

(写真 東急本店前で闘う中核派。中央トラックの前が星野文昭同志【1971年11月14日】)

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1972年沖縄「返還」をめぐる動き
69. 2. 4 B52撤去2・4ゼネスト中止
4.28 沖縄奪還大闘争、破防法弾圧
10.21 高田馬場−新宿戦闘
11.16 佐藤訪米阻止、蒲田─羽田闘争
11.17 佐藤・ニクソン日米首脳会談、72年沖縄返還で合意
70.11.15 初の国政参加選挙
12.20 コザ暴動
71. 5.19 沖縄全県ゼネスト
6.17 沖縄返還協定調印
9.16 三里塚第2次強制代執行阻止闘争
11.10 沖縄全県ゼネスト、暴動闘争
11.14 返還協定批准阻止渋谷暴動闘争
11.19 返還協定批准阻止日比谷暴動闘争
12. 4 カクマルによる反革命襲撃
72. 1. 8 沖縄返還の期日決定
3. 7 全軍労無期限スト突入
5.15 沖縄返還、沖縄処分抗議県民総決起大会

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月刊『国際労働運動』(447号8-1)(2013/11/01)

日誌

日誌 8月 2013

1日東京 NAZEN品川を結成
JR大井町駅前の「きゅりあん」においてNAZEN品川結成集会が25人の参加で行われた
2日東京 金曜行動、汚染水止めろ≠フ叫び
恒例の首相官邸前・反原発金曜行動が行われ、多くの労働者市民が怒りをたたきつけた。
5日広島 ヒロシマ世界大会に650人
広島市中区のアステールプラザ中ホールで、「再稼働阻止・全原発廃炉・ヒロシマ世界大会」が「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」(NAZEN)と「被爆68周年8・6ヒロシマ大行動実行委員会」の共催で開かれた。核と原発に反対して闘っている労働者民衆650人が全世界から結集し、画期的な集会となった。
5日広島 広島産別集会 労組拠点建設推進を
広島市のアステールプラザで闘う労働者の産別集会がかちとられた
●国鉄 国鉄産別集会は基調報告を動労西日本の山田和広書記長が行った。動労千葉の川崎昌浩さんが特別報告、被曝労働拒否の闘いを動労水戸の石井真一委員長と国労郡山工場支部の橋本光一さんが行う画期的集会となった
●自治体 自治体労働者総決起集会は、60人を超える結集で大成功した。4・26自治労ストを闘い抜き、労組拠点・青年部建設の大前進をかちとった青年労働者の発言が全体をリードした
●教労 「国鉄1047名解雇撤回!/教育の民営化絶対反対!/非正規職撤廃!/職場からストライキで闘う日教組をつくろう」と題し全国教育労働者交流集会が行われた
●全逓 郵政労働者交流集会では、全逓労働者部会の岩本正治代表が基調提起した。職場報告では郵政非正規ユニオンの齋藤裕介委員長が、この間の闘いと組織拡大を報告した
●医療・福祉 全国から集まった医療・福祉労働者は安倍政権と真っ向から闘う山本太郎選挙の勝利を確信し、基調報告は「国鉄労働運動破壊に全産別の労働者と反撃しよう。10万筆署名を武器に職場を組織しよう!」と訴えた
●合同・一般 闘う合同・一般労組総決起集会が70人の結集でもたれ国鉄4カ月決戦と全国協1千人建設を固く決意するものとなった
 また、電通労働者も産別交流会を開催した
5日広島 青年集会、9・15集会総決起を
オキナワとヒロシマを結ぶ全国青年労働者交流集会がアステールプラザで開催された
5日広島 学生集会、全国に自治会を
アステールプラザで行われた全国学生集会 ヒロシマは、広大生を先頭に大成功をかちとった
6日 広島 怒りのデモが安倍を撃つ
早朝、「被爆68周年 8・6ヒロシマ大行動実行委員会」が呼びかけた集会とデモで、全国、全世界の怒りが安倍首相と中国電力にたたきつけられた。デモに先立ち、原爆ドーム前で「8・6ヒロシマ・アピール集会」が開催され、950人に膨れ上がった
6日広島 ヒロシマ大行動、全原発の廃炉を誓う
被爆68周年8・6ヒロシマ大行動実行委員会が主催した「8・6ヒロシマ大行動大集会」が広島県立総合体育館小アリーナで行われた。地元広島はもとより、海外や福島からの参加者を含めて1250人が参加し、その後の市内デモと併せて大成功を収めた。広島市の繁華街を通るデモはどこでも注目の的だ。年輩の女性が歩み寄り、「60年代、70年代に労働組合で活動していた。このところ労働運動が停滞していて悔しかった。こうやって労働組合が闘っているのに感動しました」と思いを語り、デモ隊と交歓した
6日広島 中電に島根原発再稼働反対申し入れ
8・6ヒロシマの一環として、中国電力本社(広島市)への申し入れ行動が行われた
7日福岡 玄海、川内原発再稼働やめろ!
炎天を突いて8・6広島−8・9長崎反戦反核闘争全国統一実行委とNAZEN福岡とが一緒になって、川内原発1、2号機、玄海原発3、4号機の再稼働申請の撤回を求める九州電力本社抗議行動を闘い抜いた
9日長崎 被爆者が原発廃炉を安倍に迫る
長崎に原爆が投下されて68年目、8・9安倍首相平和祈念式典出席弾劾デモが、8・6広島−8・9長崎反戦反核闘争全国統一実行委員会の主催で闘われた。原発再稼働と改憲・戦争に突き進む安倍、非正規職化と労組破壊の安倍に対する怒りの集会・デモとして闘われた
9日長崎 長崎集会、福島と結び被曝と闘う
すべての原発いますぐなくそう!全国会議ナガサキ(NAZENナガサキ)主催の「核をなくせ!原発をなくせ!フクシマの怒りとともに8・9長崎集会」が長崎県勤労福祉会館で開かれ、75人が集まった。冒頭、主催者が「NAZENナガサキ結成から1年6カ月、7月には高島で福島の子どもたちを迎えて保養をやり、68周年8・9長崎集会をやるまで力をつけました」とあいさつした
10〜12日大分 自治労全国保育集会で署名80筆
大分市で自治労全国保育集会が開かれ、約1500人が参加した。国労小倉地区闘争団の羽廣憲さんとともに労組交流センターの10人が会場の大分文化会館の正面に陣取り、「子ども子育て新システムは公立保育所の全廃、職員の全員解雇・非正規化だ!」という横断幕を広げ、ビラまきと国鉄10万署名に取り組んだ
15日東京 8・15労働者・市民のつどい
「憲法改悪と戦争に絶対反対! 8・15労働者・市民のつどい」が東京・なかのゼロ小ホールで開催され、520人が結集した。戦争・改憲と原発再稼働に突き進む安倍政権と真っ向から対決し、警視庁公安の異様な弾圧体制を打ち破って改憲阻止・安倍打倒を誓った
16日東京 官邸前行動、原発反対の声聞け
「終戦記念日」の翌日、首相官邸・国会前に多くの労働者民衆が集まり、原発再稼働に突き進む安倍を弾劾して闘いぬいた
18日福岡 九州革共同集会かちとる
福岡市で革共同九州政治集会が行われた。革共同50年の闘いと2006年九州地方委員会再建から7年の闘いを総括し、今秋決戦を闘う決意を打ちかためた
18日東京 NAZEN江戸川を結成
江戸川グリーンパレスで佐藤幸子さん講演会が80人の参加で開かれ、NAZEN江戸川の結成がかちとられた
20〜22日長野 JP労組大会で宣伝活動
長野市で開催されたJP労組第6回定期全国大会で中央本部は「新人事・給与制度」の妥結承認を図り、「新一般職」の導入を狙った。しかし多くの代議員が反対票を投じた。本部方針に多数の反対が出たのは07年のJP労組結成以来初めてのことだ
22日東京 動労千葉、控訴審の弁論再開要求
動労千葉鉄建公団訴訟控訴審の弁論再開を求めて、東京高裁第12民事部(難波孝一裁判長)に対する要請と、「解雇撤回・JR復帰」を求める10万筆署名の第3次提出行動が意気高く闘い抜かれた
23日東京 金曜行動、汚染水流出に憤り
首相官邸前・国会前で恒例の反原発金曜行動が闘われた。汚染水問題で重大事態が次々と明らかになり、危機感を持った労働者人民が駆けつけ怒りの声を上げた。とりわけ全国の原発立地の住民の発言が多数あり注目を浴びた。
24〜25日大阪 婦人民主クラブ全国協議会開く
婦人民主クラブ全国協議会第30回全国総会が大阪で開催され、北海道から沖縄まで全国から会員・読者が結集した
25〜27日神奈川 日教組大会でアピール
日教組第101回定期大会が神奈川県横須賀市のベイサイド・ポケットで行われた。全国労組交流センター教育労働者部会は大会代議員・傍聴者に「賃下げ・民営化・労組破壊攻撃にストライキで闘う日教組をつくろう」「『教育の民営化』絶対反対・安倍政権打倒」と訴えるビラを配り、宣伝活動を行った。併せて動労千葉鉄建公団訴訟の「解雇撤回・JR復帰」署名を呼びかけ、多数の署名が集まった
25日千葉 自治労連大会で署名活動
東京労組交流センター自治体労働者部会は、自治労連第35回定期大会へのビラまきと署名活動を行った
25日千葉 三里塚反対同盟、判決後初の一斉行動
三里塚芝山連合空港反対同盟は、市東孝雄さんの農地裁判判決後最初の一斉行動を行った。「農地取り上げに反対する緊急3万人署名」は、全国の労農学人民の必死の取り組みによって、限られた期間内で1万1922筆の署名を集約し、反対同盟はこれを7月17日に千葉地裁に提出した
26〜28日大阪 自治労大阪大会で大宣伝活動
24日から始まった青年部、女性部、現業評議会、公共民間などの総会に続いて、自治労第86回定期全国大会が大阪城ホールで開催された。国鉄解雇撤回署名は812筆、参加者の2割に達した。『前進』販売も20部を超えた。大会2日目夜、「今こそストライキで闘おう」と呼びかける8・27自治体労働者全国集会は、橋下徹大阪市長と真っ向から闘う大阪市職、市従、大交(大阪交通労組)、市教組の労働者を先頭に、会場を埋める141人の大結集で感動的にかちとられた。集会賛同は180。国鉄署名と合わせて992筆。1千人に迫る大会参加者が解雇撤回・解雇絶対反対で闘う意思を表明した
30日東京 放射能の毒水だ! 官邸前行動
首相官邸前・国会前で恒例の反原発金曜行動が闘われた。28日の東京電力本店前緊急抗議闘争の直後にもかかわらず、多くの人びとが汚染水問題で怒りをたたきつけた
30日東京 全国水平同盟杉並支部を結成
杉並区内で全国水平同盟杉並支部結成大会がかちとられた。大阪での7・14全国水平同盟結成から間をおかず、西郡(にしごおり)支部に続く二つ目の、しかも東日本初の支部結成だ。世界大恐慌下で生きるために新自由主義に立ち向かう労働者人民が団結し、搾取と収奪のための階級分断をうち破って、資本主義を打倒する闘いの拠点がうち立てられた

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月刊『国際労働運動』(447号9-1)(2013/11/01)

編集後記

編集後記

 JR北海道の相次ぐ事故・脱線とレール異常の多発は、絶対に許せない超重大事態だ。それは9・25判決の反動性・破綻性と根っこはひとつであり、国鉄分割・民営化と新自由主義攻撃の反労働者性、破綻を突き出している。一切の元凶は分割・民営化の強行にあり、JR総連カクマルを先兵化し、闘う労働組合を解体した結果である。
 北海道では保線部門で多くの国労組合員の首を切り、職場から追放し、人と技術の継承を断ち切った。民営化後もJR北海道はメンテナンス部門の外注化や要員削減を強行し、1万4千人いた社員を半減させた。それを助けたのが国交省による線路・車両の検査周期等の規制緩和だ。政府・国交省も同罪なのだ。JR資本の手先となってきたJR総連カクマルの裏切りと犯罪性、国労本部の屈服も許せない。

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