International Lavor Movement 2012/05/01(No.429 p48)
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2012/05/01発行 No.429
定価 315円(本体価格300円+税)
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月刊『国際労働運動』(429号1-1)(2012/05/01)
■羅針盤 3・11階級闘争の新時代を開く
▼3・11から1年、あらゆる制動と分断を超えた歴史的闘争として「原発いらない!3・11福島県民大集会」が、郡山市に1万6千人の労働者・学生・農漁民・市民を大結集してかちとられた。またこの福島現地の闘いを最先頭に、全国、全世界で労働者人民が「原発なくせ!」と立ち上がった。この3・11福島の感動的高揚を切り開いた力は、国鉄を先頭に労働組合が外注化阻止・非正規職撤廃の闘いと同時に、反原発を真っ向から掲げ、組合旗を林立させ総決起したことだ。3・11県民大集会で登壇し発言した鈴木美穂さん(高校2年生)は、「原発がなければ、津波や倒壊による被害者を助けに行けました。人の命も守れないのに、電力とか経済とか言っている場合ではないはずです」と、怒りを込めて訴えた。
▼3・11大震災は、死者1万5854人、今なお行方不明者3155人、避難者34万393
5人に及ぶ空前の大災害となった。その1周年の日に、墓参もできない状況をつくり出しているのが原発大事故だ。それは途方もない放射性物質を大地と海にまき散らし、人びとの生活と命、未来を奪っている。
▼ところが、これを引き起こした張本人の政府や東京電力など日帝支配階級は一切責任を取らないばかりか、労働者人民に一層の犠牲を強い、分断と搾取の攻撃を強めている。これに対し私たちはこの1年間、被災地の仲間を先頭に、総力で生きるための闘い、国鉄決戦と反原発闘争に決起してきた。
▼大恐慌と3・11情勢に立ち向かい、最末期帝国主義と新自由主義を打ち倒し、労働者と労働組合の根源的な力を軸に、プロレタリア世界革命に勝利していく決定的な飛躍点に、今立っている。
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月刊『国際労働運動』(429号2-1)(2012/05/01)
■News & Review 韓国
KTX民営化策動に鉄道労組が反対闘争
韓米FTA発効の日に“廃棄”誓う
□韓国政府がKTX民営化を策動
昨年末に政府国土海洋部からKTX(韓国高速鉄道)の新線部分開業と同時にKTX運営を民営化するという構想が打ち出され大問題になっている。政府は今年上半期中に民営を引き受ける会社を選定するとしている。それと同時に鉄道施設維持保守業務の外注化が問題に浮かび上がっている。KTX民営化が大きな社会問題として浮かび上がる中で、政府は官製討論会を開催するなど世論づくりに躍起になっている。
政府はKTXを民営化する理由として「競争導入による運営の効率化、運賃引き下げによる利用者の利便」を押し出しているが、これは労働者を非正規化に追い込み、安くこき使い、大企業に巨大な利益を差し出すむき出しの新自由主義政策そのものである。
そういう中、KTXの建設を担っている鉄道施設公団内部で、当局が職員に対してさまざまなインターネットサイトに「民営化賛成」の意見を書き込ませるヤラセを指示し、実施状況を点検していたことを、公団の労組幹部が内部告発するということがあった。これに対して公団当局がこの労組幹部を公団の名誉を毀損したという理由で懲戒処分するというとんでもないことが起こった。これに対して公共運輸連盟と鉄道労組は全面闘争を宣布して立ち上がっている。
一方、鉄道労組は民営化を阻止するための署名運動を強力に進めている。鉄道労組が3月13日にホームページに発表したところによると、1月中旬から全国主要駅で始めた署名運動に20万人が署名した。鉄道労組組合員は「市民が多く署名してくれて驚いている。列をなして署名する時もあった。署名運動が広く知られて20万人が署名したが、これから100万署名を突破するだろう」「年をとった50〜60代の人は保守的だからあまり署名に参加しないだろうと思っていたが、年寄りも意外と多い」と感想を述べている。また署名してくれる人が「今の与党は支持するが、KTXや公共部門の民営化には反対する」と言う人もいたと述べている。
鉄道労組は3月にある定期代議員大会でこれからの闘争方針を明らかにして闘い続けるとしている。
□発効の日を廃棄の闘いの初日にする
3月15日午前0時をもって韓米FTAが発効した。
発効前日の夜、ソウルの清渓川にFTA発効中止を求めて労働者市民が集まり、怒りの声を響き渡らせた。
「韓米FTA阻止汎国民運動本部」主催で午後7時から清渓川で「韓米FTA廃棄!カンジョンを救え!最後のローソク集会」を開催した。この集会には1000人以上の労働者市民が参加してローソクを持って数時間先に迫ったFTAの発効を弾劾した。
韓米FTA廃棄のために14日間の断食―籠城を行ってきた汎国民運動本部のイガンシル共同代表は「アメリカは相手国の利益のために再交渉をしたことがただの一度もない」「経済主権が消えうせるFTA廃棄のために進歩政党が院内交渉団体になり、進歩的政権交代を実現しなければならない」と述べた。民主労総のキムヨンフン委員長も「民主労総は15日0時を期して闘争に立つ」「3月31日、4月1日のカンジョンを守る闘争から、6月警告ゼネスト、8月民主労総ゼネストまで民主労総が全力を尽くして総力闘争に出る」と誓った。
FTA締結の最大被害者である農民たちも切迫した心情を伝えた。全農のイガンソク議長とカトリック農民会のイサンシク会長は「この間、安全な食べ物を生産するために汗を流して黙々と努力してきたが、FTAが発効すれば長い間のすべての努力が水泡になる」として「国籍不明の食べ物から国民の食膳を守るためにFTAを廃棄しなければならない」と述べた。
民主統合党のチョンドンヨン議員、統合進歩党のチョジュンフ共同代表なども参加した。
聖公会大のある学生が舞台に上がり、「数日前、キムジンスク民主労総指導委員の講演を聞いたのだが、『楽しく最後まで笑いながら闘わなくてはならない』と話された。だから皆さんを楽しくさせるために踊りを準備してきた」と言って舞台で踊りを踊って参加者たちの大きな拍手を受けた。最年少発言者は中学生だった。彼は「われわれもFTA反対だ。分かっている。われわれの未来を奪われるな」と言って熱烈な反応を受けた。
ローソク集会は午後9時頃に終わった。参加者たちは青瓦台に抗議書簡を伝達するために行進をしようとしたが、清渓広場入り口を封鎖した警察に妨げられた。行進隊伍は方向を変えて清渓川に沿って行進を続けた。この行進で11人が警察に連行された。
汎国民運動本部は翌15日朝、光化門広場で記者会見を開き、総選挙と大統領選挙で勝利して必ず廃棄に持ち込むことを宣言した。
(写真上 韓米FTA発効前夜に怒りの声を上げる労働者ら【3月14日 ソウル】)
(写真下 1月30日に開かれた官製討論会に抗議する「KTX民営化阻止と鉄道公共性強化のための汎国民対策委員会」の労働者)
□起亜自動車で昼間2交替試験運用
起亜自動車が3月26日から2週間、昼間連続2交替制度をモデル運用することになった。今回の試験実施は今後施行される昼間連続2交替勤務形態の基準になるものと予想される。金属労組起亜車支部(ペジェジョン支部長)は12日、会社側と昼間連続2交替モデル運用関連細部事項を長時間の論議の末に合意した。
起亜自動車支部は昨年、賃金交渉妥結の時このような試験運用を会社と合意していた。
昼間2交替制度はユソン企業労組が「夜は寝よう」と闘って現代自動車の介入もあってかちとれずにいるものである。今後の製造業現場の3交替連続操業の廃止に大きな影響を与えるだろう。
(写真 起亜自動車の生産ライン現場)
□「青年ユニオン」、組合としての認定かちとる
青年ユニオンが組合創設から2年の闘いでソウル市から労組設立証書を受け取った。
ソウル市は3月12日、青年ユニオンが提出した「ソウル青年ユニオン」設立申告を受理した。これでソウル青年ユニオンは公式に合法労組の地位を獲得した。
青年ユニオンは昨年4月、労働組合法に基づき求職者青年1人と職業人青年1人で組んでソウルと水原、仁川、釜山、大邱などの自治体に「青年ユニオン1」から「青年ユニオン27」まで労組設立申告書を提出した。青年ユニオンは2010年2月13日創立以後、雇用労働部に対して4回も労組設立申告をしたが突き返されていた。組合員に求職者など労働者以外の者が含まれるので労働組合として認められないという理由だ。雇用労働部から青年ユニオン中央次元の労組設立が認定されたものではないにしても、今回のソウル市の労組設立認定は他の地域の判決と訴訟にも影響を与えるものと見られている。
青年ユニオンは15日午前、果川政府総合庁舎前で記者会見を開き、雇用労働部が労組設立申告を突き返したことへの糾弾を行った。
青年ユニオンは「労働組合設立は申告制だという趣旨を理解せず、国家人権委の勧告もソウル行政法院の判決も無視したまま知らんぷりで一貫している。この雇用労働部のおろかさは一体どこから出てくるのか」「雇用労働部は今からでも青年ユニオン労働組合設立申告を突き返すという非常識な行いを反省して、青年の権利を保障することを要求する」と言っている。
また、青年ユニオンの労組地位獲得により、公式的に労働3権を認定されたのだから、ソウル地域青年の労働権と、求職者の交渉権実現に立ち上がるという計画を示している。彼らは「劣悪な労働条件に苦しむ青年たちの生活改善のための事業と、将来就業する企業を対象に採用と条件に関する団体交渉に立つ」「経総、全経連と交渉に立つ青年たちの姿を遠からず見ることになるだろう」表明している。
(写真 証書を受け取った青年ユニオン)
□非正規職のない世の中へ“希望広場”
「希望のトゥボギ(歩み)」を企画した「非正規職のない世の中作り」(ピオプセ)が今度は「希望広場」をやり出した。
3月10日午後6時、ソウル市庁広場で開かれた「希望広場」はこれまでの集会とは違う様相だった。そこは文字通り「広場」だった。700人余りの参加者たちは非正規職の苦痛と整理解雇の悲しみに対する共感で集まったのだが、悲壮さや決意にあふれた掛け声の代わりに歌、終始一貫浮かべる笑顔で言いたいことを言っていた。
若いプロのバンドの演奏で会場は大いに盛り上がった。参加者が舞台に上がり、一緒に踊ったりもした。コンサートの締めを飾った「ハックルベリフィン」のイギヨン氏はどうして「希望広場」に参加することになったのかという質問に「双龍闘争の時も、キリュン闘争の時も一緒にやった。今回も電話を受けて日程も確信しないまま受諾した」「政治でニュースで、非正規職という言葉をとても簡単にしょっちゅう使うのを見ると、彼らがどれほど辛いのか、実際にどんな生活をしているのかが分からなくなる」「周辺のすべての人たちが辛い生活をしている。言葉や考えよりも辛い生活を実体化することが重要だ」と非正規職問題に対する考えを表明した。イヨンギ氏は以前とは違う集会のやり方について「同時代を生きる人たちが互いに理解して今の文化を通して洗練されて面白い広場を作れたらいいと思う」と肯定的な考えを表明した。
夜10時から始まった「希望トークショー」ではパクキワン統一問題研究所所長、キムジンスク民主労総釜山本部指導委員、闘争事業場労働者らが出て「整理解雇」と「非正規職」の問題を話した。「希望バス」と「希望トゥボギ」、それから「希望広場」まで続く力と怒りは「整理解雇、非正規職撤廃」に続くだろうと希望≠述べた。
キムジンスク指導委員は「政治家たちはいつも分裂し、烏合の衆だが、大衆はいつも賢く賢明だった」「今、希望バスとローソク集会などで市民社会と労働者の怒りが集まっており、この怒りをどんな希望の器に盛るかが問題」だと言った。
パクキワン統一問題研究所所長は「今、非正規職労働者たちの闘いは自分の体をぶち割って資本をぶち割る岩のようだ」「しかし、粉になった彼らが自分のペースに合わせて再び生き返り立ち上がるようになるだろう」と強調した。
双龍自動車、ユソン企業、KEC、起亜車社内下請など非正規職、整理解雇事業場の労働者たちも労働の希望について話した。
12カ所の長期闘争事業場労働者たちと連帯団体など100人は希望広場を始まりとして、市庁広場での無期限篭城に突入した。
(大森民雄)
(写真 歌や踊りで「非正規職のない世の中作り」を訴えた【3月10日 ソウル市庁舎前】)
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月刊『国際労働運動』(429号2-2)(2012/05/01)
■News & Review/シリア
新自由主義のアサド独裁権力に反乱
米帝による抱え込みの策動を許すな
□1年近く続く人民決起
世界大恐慌の激化のただなかで、昨年冒頭のチュニジア蜂起・エジプト革命の炎は、リビア・バーレーン・イエメン・シリアなどに波及し、中東の反革命の砦=イスラエルでついに労働者階級のゼネスト決起を呼び起こすにいたっている。この中で、中東の中心に位置するシリアにおけるアサド政権打倒の人民的決起は、昨年3月以来、1年近く、政府軍と民間白色団体の残虐をきわめる攻撃に対し、ストを含め、全土にわたり粘り強く続けられている。
対中国対決政策と並んで、イランの孤立化を狙う米帝にとって、「イランの盟友」を称してきたシリア・アサド政権の崩壊は、自らの利益にかなうものである。しかし、「アサド打倒」を掲げて決起したシリア労働者人民の闘いが、新自由主義攻撃と対決する中東全域の労働者階級の階級的決起の起爆剤になることを恐れる米帝は、亡命者の反政府運動組織や政府軍からの脱走兵を中心とする武装集団を抱え込み、アサド打倒を自らのヘゲモニーのもとに遂行し、「リビア型」のかいらい政権をデッチあげ、中東の労働者革命を圧殺しようとしている。
□チュニジア、エジプトに続き闘いが全土で爆発
1月チュニジア、2月エジプトと、反動的独裁権力が労働者人民の決起で、しかも労働組合を軸に結集した階級的実力で、相次いで打倒されていったことは、アサド政権の暴力的軍事独裁政権の下で苦しんできたシリア民衆に、「俺たちも、私たちもやれる」という巨大な激励を与えた。
昨年3月18日金曜日(イスラムの礼拝日)、首都ダマスカスの南ダルアーで、空前のデモ・集会が爆発した。先に1月、壁に「アサド打倒は人民の声」と書いたために高校生たちが逮捕され、拷問されたことへの抗議がきっかけだった。軍隊が出動、戒厳令のもとに町全体を包囲、デモ隊に発砲、電気・水道・ガスなどのインフラを一切ストップし、住民の生活の根元を絶つ攻撃を行った。しかし、シリア労働者人民は、震え上がるどころか、ダルアーを先頭に、全国でデモを継続し、毎金曜日が闘争日となった。【シリアは、総人口2500万人。イスラム教徒スンニ派が74%。だから、彼らの毎週金曜の礼拝日が、闘争日になるのは、きわめて自然のことであり、闘争自体が宗教的排他的に行われているわけではなく、〈金曜日の決起〉には「少数派」のアラウイ派(シーア派)、キリスト教徒〔総人口中、それぞれ10%〕も、さらには少数民族のクルド人〔人口の8%〕も、大衆的に合流・参加している。アサド政権は、少数派のアラウイ派に依拠したバース党独裁を行っているが、多くのアラウイ派住民は、アサド反対を表明している】
1月以来の内外の爆発的展開に対してアサド政権は、3月26日、非常事態法の撤廃、政治犯の釈放、内閣改造など、一連の譲歩策を発表しながら、弾圧をエスカレートさせ、デモ・集会の参加者に対し、戦車やヘリ、重火器まで投入するにいたった。デモへのあまりの残虐な発砲を拒否する兵士が続出、さらに武器をもって軍から脱走し、反乱に合流してくる兵士が数千規模で生じた。
3月に開始された大衆的な反乱は、各地に分散した活動家、青年たちが中心となり、独自に地域共闘委員会などのゆるやかな結合体をつくって拡大していったものである。既成政党、そして労働組合も、アサドの政治体制の一部に組み込まれてきたからである。
□ゼネストへと発展
ついに5月17日、地域共闘委員会から、全国ゼネストのアピールが発せられたが、体制内労働組合(GFTU)が、これを「陰謀」と呼んで反対し、不発に終わった。ついで6月6日にハマの住民たちが、5万人デモに対する軍隊の発砲に対する抗議として、ストライキに立った。交通機関、商店などが閉鎖され、軍隊の介入で中止させられるまで、3日間続けられた。7月7日、こんどはホムスがストに立ち上がり、〈地域防衛委員会〉を組織して、軍隊の攻撃からストを防衛した。
そして、10月26日、アサド打倒のゼネストが全土に呼びかけられた。当日のアラブ連盟代表団のシリア訪問、ダマスカスでの政府支持集会などに対抗するためである。ホムス、ハマ、ダルラなどの主要都市で、商店の閉店ストに並んで、ついに公共サービス労働者がストに入り、交通機関・公共機関などがストップ。各所で軍隊との衝突が起こり、死者も出た。3月の反乱開始から半年、ついに労働者階級がゼネストという階級的武器をもって登場したのだ。2012年に入り、シリアの反乱は、ますます内戦・内乱的様相を呈している。
□米帝の介入と反政府運動の抱え込み策動
アサド政権に対する民衆反乱の爆発に、西アジア・北アフリカの反動諸政権は、チュニジア・エジプトとの合流を恐怖し、従来のシリアとの敵対関係を超えて、当初はアサド政権支持を表明した。4月6日には、ロシア政府もシリア政府への支持を宣言。【ロシアはソ連時代からシリアに経済援助・武器輸出を行い、シリアの地中海沿岸に海軍基地を持っている】
こうした動きに対し、米帝オバマ政権は5月18日、対シリア経済制裁を発表して、シリア反乱への介入を公然と開始した。6月初旬に国連安保理事会で討議を開始し、その後、国連総会へも提起、アラブ連盟も引き込んで、「シリアの人権侵害弾劾」を策動した。安保理ではロシアと中国の反対で阻止され、総会では決議をしたものの、「アサド制裁」に国連を動員することはできなかった。そこで米帝は、2012年2月24日になって、チュニジアで、「シリア友人」の会議を〔中ロの2国を抜きにした〕いわば「有志の会」のような形で開催した。この国際会議は、アメリカと、シリアに隣接するトルコが積極的な推進者となり、国連、アラブ連盟、EUなどが参加、50〜60カ国が出席した。議題として「停戦の実現・人道的援助の実施」などが掲げられたが、米帝の最大の狙いは、この会議に引き入れた「シリア国民評議会」(SNC)というシリア亡命者中心の反政府組織〔トルコで結成され、シリア国内では大衆的基礎を持たない〕を「国際的に」承認し、「シリア型」のかいらい政権としてアサド打倒の軸に据えて、シリア反乱のヘゲモニーを、現地で闘うシリア労働者人民の手から奪うことにあった。
こうして、「シリア友人」の会議で承認された「シリア国民評議会」は会議終了後ただちに、「軍事局」を設け、そのもとに「自由シリア軍」(FSA)〔会議に出席はしなかったが、トルコを出撃拠点、武器供給源として戦闘行為を行っている〕を包摂し、「シリア国外からの武器供与」(サウジとカタールはすでに武器援助を公言)のルートを一本化することに乗り出した。「シリア友人」の会議での「人道援助」決定の内容は、「シリア国内の反政府派に必要な物資を供給するための安全なルートを確保する」という口実で、リビアでやったような「飛行禁止区域」を、シリア・トルコ国境地帯に設定するという内容を含んでいる。こうして、米帝は、かいらい政権を育成しつつ、「リビア型の」軍事介入にいつでも突入できる体制を確立したのだ。
□シリアにおける新自由主義攻撃の暴力的展開
シリア労働者人民の怒りが向けられているのは、ハフェズ=アル=アサド(1970〜2000)とバシャール=アル=アサド(2000〜)の2代にわたって強行されてきた新自由主義攻撃である。それは、国営・公営企業の民営化、農業の企業化の促進、外国資本の導入(そのための免税などの優遇措置)などを柱としており、バース党支配下の軍事独裁政権による強権支配を通して実施されていった。その間、シリアは、1970年から現在までの全期間、非常事態法の下で、憲法が停止されるという例外的国家≠フ状態にあったのだ。
非常事態法の永続的継続を正当化したのが、名ばかりとなった「対イスラエル戦争」であった。この恐怖政治によって、一切の民主主義的権利が抑圧され、反対派が流血の弾圧・大量虐殺によってせん滅されていった。シリア共産党をはじめとする野党勢力、そして労働組合は、「国民進歩戦線」の名のもとにアサド体制に抱え込まれ、新自由主義攻撃を容認し、体制の一部となっていたのである。こうしたシリア社会の内部では、民営化に伴う利権の発生をめぐって、アサド一家を中心とする同族支配・派閥政治のもとでの汚職・腐敗が広がり、深まっていった。
では、アサド政権による新自由主義攻撃がもたらした社会的現実は何か。それは、シリアの総人口の3分の1が、生存水準以下の生活を強いられている(国連統計)という恐るべき現実である。失業率は15%とも、20%ともいわれており、とりわけ人口の67%を占める青年層の失業が巨大な数に上っている。中東諸国では比較的高い水準にある教育を受けた青年たち〔大学卒業者〕の75%が、職のない状況に置かれている。現在、街頭に出て、抵抗闘争を牽引している主力はこうした若者たちである。
労働者にとっては不安定雇用が常態となり、低賃金に抑えられ、賃上げ闘争の権利も奪われている。とりわけ、民営化の嵐にさらされた公共サービス労働者の生活は激変した。昼は教育労働者、夜はタクシーの運転士、というようなダブル・ジョブが、当たり前の現実になっているという。
農民たちは、新自由主義政策による農業の企業化の波にさらされ、〔第2次大戦後の農地改革でいったん手に入れた〕農地を手放さざるをえなくなり、貧困にあえいでいる。建設業・不動産業・サービス業が、投機的資金の投資対象となった。戦後シリアの経済を曲がりなりにも支えてきた石油・天然ガスからの収入が、資源の枯渇とともに衰退している。
「市場経済のグローバリゼーション」「世界市場への参入」などの強制のもとで、労働者・農民・人民の労働と生活が、国際競争力強化・市場原理の容赦ない貫徹によって、収奪にさらされていった。とりわけ、2000年にバシャール=アル=アサドが、父の死後、政権を継承したことが、新自由主義政策攻撃の転機となり、IMF・世界銀行やEUへの急速な接近が開始された。
こうした民営化=市場経済の徹底化とは、戦後中東民族解放闘争の高揚と歪曲の産物であるアラブ社会主義=i労働者権力によってかちとらられる社会主義とは無縁の軍事独裁政権による官僚的国有化経済)の残存物の一掃≠ノよる帝国主義世界経済への包摂、国内の階級闘争の絶滅攻撃であり、アサド政権の内外の危機からの延命策だった。【ソ連スターリン主義は、このような体制を支持し、他方では米帝主導のイスラエル建国(=パレスチナ分割)をいちはやく承認したのだ】
□「パレスチナとの連帯」
この新自由主義政策の強行の過程は、パレスチナ解放闘争の裏切りを伴っている。それは、エジプトのサダト政権が、米帝の主導のもとにイスラエルとの和平(1978年キャンプ・デービッド)を進めながら、新自由主義政策を全面的に推進していった過程と共通する。アサドは当時、サダトの政策をパレスチナ人民への裏切りだとして弾劾し、イラク、リビアなどとともに「拒否戦線」を結成していたのだ。そのエジプトやサウジを中心とする「大アラブ自由貿易協定」に、2005年に参加し、2007年にはトルコ(西アジアにおけるNATOの拠点)とも「自由貿易協定」を締結した。そのトルコを通じてイスラエルとの交渉を開始していたと、アサド政権自身が発表していた。
今や、アサド政権の「対イスラエル戦争」の看板の正体は暴露され、「パレスチナ人民との連帯」は、アサド打倒を叫ぶシリア労働者人民の掲げるスローガンとなっている。
シリア反乱を勝利に導くかぎは、階級的労働組合の再生と労働者階級の階級的指導部の形成にある。
(川武信夫)
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月刊『国際労働運動』(429号2-3)(2012/05/01)
■News & Review/日本
原発いらない! 3・11福島県民大集会
球場埋めた1万6千人、福島の女たち先頭にデモ
(写真 1万6千人がスタンドを埋めた【3月11日 郡山市開成山野球場】)
「原発なくせ!」「この社会を変えよう!」。福島県内を始め全国から郡山市・開成山野球場に1万6千人の労働者民衆が集まった。「フクシマの思い」を新たにし、怒りを増幅させ、全国・全世界に向け叫びを発した。東日本大震災と福島第一原発事故1周年の3月11日、政府は全国を「慰霊」「復興」一色に染め上げようと図ったが、フクシマの根源的な怒りがそれをぶち破った。
「原発いらない!3・11福島県民大集会」は、主催者発表で1万6千人、実際にはそれをも上回る2万人近い労働者人民が結集した。日本全国百カ所近くで数万人が闘い、世界中で数十万人が立ち上がった3・11、この闘いの頂点が郡山集会だった。
「収束宣言」「除染」キャンペーンによるフクシマ分断・圧殺攻撃と、それをテコとした再稼働策動を根底から覆す怒りが爆発したのだ。
会場のいたる所に労働組合の旗・のぼりが林立した。国労郡山工場支部の赤旗が翻った。福島県教組は緑色・ピンク・黄色などののぼりを掲げて大挙参加した。自治体労働者、医療労働者、そして非正規、交通、民間の労働者たちが色とりどりの組合旗やのぼりを押し立て会場に陣取った。
午後1時から、オープニングコンサートが行われた。フクシマの代表が古里への思いをこめた詩を朗読した。歌手の加藤登紀子さんが、チェルノブイリ原発事故の直後に被災地の大コンサートで歌われた「百万本のバラ」や「パワー・トゥー・ザ・ピープル」など数曲を、フクシマに心を寄せ、原発廃絶を訴えて熱唱した。
(写真 高校生・鈴木美穂さんをはじめ福島の6人が怒りを込めて発言)
□「変えよう日本」訴え
午後2時から集会が始まった。実行委員長の竹中柳一さんの開会のことばなどに続き、ノーベル賞作家の大江健三郎さんが連帯のあいさつ。大江さんは「原発をすべて廃止すれば子どもたちが、そのまた子どもたちが原発事故で放射能の害をこうむることは絶対にない」と、ほとばしる怒りで原発全廃を訴えた。会場から「そうだ!」の声が発せられ、拍手が起こった。
福島から6人が登壇し、200万福島県民の苦悩、原発と放射能、政府への怒りを語った。二本松市で有機農業を営む菅野正寿さんは「人間と原発とは共存できない」「『頑張ろう日本』でなく『変えよう日本』。今日をその転換点に」と呼びかけた。警戒区域にある富岡高校から郡山市の県立あさか開成高校に転校した鈴木美穂さんは「人の命も守れないのに、電力とか経済とか言っている場合ではないはずです」と訴えた。浪江町の橘柳子さんは「いつの時代でも国策で苦しみ悲しむのは罪のない民衆だ」と根底からの弾劾の声を発した。
発言者一人ひとりの「フクシマの叫び」が会場に響きわたり、参加者の心を打った。「原発をなくそう!」「社会を変えよう!」が全参加者の一つの意思となった。金のためなら人の命を奪おうとも原発にしがみつく資本家どもの支配を焼き尽くすまで、どこまでも燃えさかる火となった。
地震が発生した2時46分、参加者全員で黙祷を行い、誰もが自らの力で原発を廃絶させると誓った。
(写真 福島の女たちを先頭に福島県民、全国農民会議などのデモが続く)
□労組などが大デモ
怒りの集会宣言が発せられ、郡山市内デモに出発した。「怒 福島隊」ののぼりが掲げられた。国労郡山工場支部、福島県教組をはじめ福島県内各地の労働組合・団体が続いた。動労千葉、動労水戸、共に闘う国労の会、郵政非正規ユニオンなどが途絶えることなく進んだ。
「子どもたちを疎開させて」の横断幕を掲げた「原発いらない福島の女たち」のデモ。福島の怒りを圧殺しようとするさまざまなもくろみを打ち砕き、いつも福島と全国の闘いの先頭に立ってきた女性たちだ。
萩原進さんや市東孝雄さんなど総決起した三里塚反対同盟を先頭に、全国農民会議の色鮮やかな緑色ののぼりを掲げた堂々たる農民の隊列。「原発なくせ!」のコールと太鼓を力強く響かせたNAZEN(すべての原発いますぐなくそう!全国会議=な全)の1500人のデモは、圧倒的な注目で、地元の少年たちも飛び入り参加! 全学連の大隊列の柱は「怒 福島大」ののぼりで登場した福島大生たち。沿道の市民も大きな拍手で歓迎する。
出発点で、「原発いらない福島の女たち」の椎名千恵子さんがNAZENの隊列の先頭に立ち「日々闘ってかちとっていかなければ『原発いらない』は続いていかない」と訴えた。デモ終了地点の郡山市役所前で行われた総括集会では、子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク代表世話人の佐藤幸子さんがマイクを握り、「福島から発信した声が日本中を変えます。みんながつながれば大きなことができます」と呼びかけた。
3・11福島県民集会は大成功した。フクシマの怒りが根底から解き放たれた。全国の労働者・民衆がそれと一層強くつながった。
(若宮 透)
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3・11福島県民大集会発言(要旨)
■日本の変革のスタートを!
福島県教職員組合委員長 竹中柳一さん
地震、津波により、多くの人びとが命と財産を失いました。福島県民は原子力発電所の事故の結果としての放射性物質の拡散により、不安と苦しみの中で生活しています。
数々の災害や戦争などの多くの困難を克服し、現在の豊かな暮らしの基礎を築いてくれた先人の尊い努力が放射性物質によって失われようとしています。同時に、福島県の将来を担う子どもたちや若い世代を失おうとしています。
現在の私たちの苦しい状況をお互い共有しながら、今後についての思いと決意を新たにすべきだと考え、この集会を企画しました。この集会が福島と日本の新しい変革のスタートとなることを願い、開会を宣言します。
■この国の原発すべて廃止に
さようなら原発1000万人署名呼びかけ人/作家 大江健三郎さん
3・11の後も原発の再稼働を考えている人たちがいます。いくつもの原発の地盤が活断層の上にかかっているという警告を無視してきた学者が、今も再稼働を決める中にいる。大事故が起これば、今を生きる私たちのみならず、未来社会に生きる人間みなに大きく長期間の影響があることを思い知りました。
私たちに求められているのは、原発の事故を絶対になくすことです。絶対になどということができるのか。できます。この国の原発をすべて廃止すればいい。私たちや私たちの子どもたちが原発の事故により大きい放射能の害を被るということは絶対にない。
■毎日否応なく迫られる不安
山形県に小学生の子どもを避難させている福島市の菅野智子さん
原発事故以降、毎日いや応なく迫られる不安。逃げる・逃げない、食べる・食べない、洗濯物を外に干す・干さない、子どもにマスクをさせる・させないなどさまざまな苦渋の選択をしなければなりませんでした。「10年後に後悔したくない」と夏休みに山形県米沢市に避難しました。自主避難は経済的な負担があり、二重生活の住宅ローンも重くのしかかります。
子どもたちは米沢市の学校に転校しました。不満も言わず元気に過ごしていますが、時折、「原発がなければ転校もなかった。福島の方が楽しかった」とさみしそうな顔をします。
原発事故がなければ福島を離れることはありませんでした。米沢に来ても、福島が好きだという気持ちは変わりません。
■今こそ「変えよう日本!」
二本松市で有機農業を営む菅野正寿さん
原発事故から1年。とりわけ健康な作物と家畜を育んできた有機農業者への打撃は深刻です。粘土質の有機的な土壌ほど作物へのセシウムの移行が低減されることがわかり、有機農業が再生の光であることが見えてきました。
玄米は98・4%が50ベクレル以下。500ベクレル以上の0・3%の玄米のセンセーショナルな報道が、どれだけ農民を苦しめたか。福島県民が加害者のような報道に怒りを持っています。マスコミが追及すべきは電力会社と国ではないか!
生産者と消費者を分断するのではなく、都市も農村も力を合わせて、大資本中心の日本のあり方を変えましょう。「頑張ろう日本」ではなく「変えよう日本」。今日を転換点にしよう。
■全国に福島の魚を届けたい
相馬市で漁業を営む佐藤美恵さん
私は港町に生まれ育った漁師の妻です。夫が所属する相馬・双葉共同漁業組合は全国有数の規模を誇っていました。私はその日も明け方5時から市場で魚を販売し、午後、自宅に戻り、魚の加工販売の準備をしていました。その時、あの地震が起きた。やっと高台へ駆け上がりました。見えた光景はまるで地獄でした。両親は家ごと津波で流されて帰らぬ人となりました。
漁師たちは漁に出るために魚具を一つひとつそろえてきました。しかし放射能がそれを許しません。毎週、魚のサンプリングをして、期待しては落胆の繰り返しです。
夫たちはもう一度、漁師として働きたい。私は夫の獲った魚を売る仕事がしたい。おいしかった福島の魚を全国のみなさんに届けたいのです。
■東電と国は避難村つくれ
飯舘村から福島市に避難している菅野哲さん
飯舘村の農家は農地も牛もすべて失い、涙を流して廃業しました。もう飯舘村で農業を行うことができない。どうやって生きろというのですか? 飯舘村は3月15日に44・7_シーベルトでした。この高い放射線の中で村民は長時間、被曝させられた。死の灰をまき散らしておいて「放射能は無主物だ」と言う。何ごとですか? 原発事故は人災です。東京電力と国はきちんと責任を取ってください。元のように美しい村で安心して暮らせるよう、新しい避難村を建設してください。
原発事故を二度と繰り返してはいけません。もっと声を大きく全国に世界に訴えていきましょう!
■命守れず何が電力や経済か
富岡高校からあさか開成高校に転校した高校2年生・鈴木美穂さん
地元は郡山ですが、サッカーがしたくて富岡高校に進学し、サッカーに明け暮れる日々を送っていました。
地震の翌日には川内村に避難しました。1号機が爆発し、川内村も危なくなり、郡山に避難することになりました。私を郡山まで送ってくれた先生は泣いていました。先生には原発に働く知人がいたのです。今も危険な事故現場で働く人がいることを考えると胸が痛みます。
原発がなければ、津波や倒壊の被害に遭った方々を助けに行けました。それを思うと怒りと悲しみでいっぱいです。人の命も守れないのに、電力とか経済とか言っている場合ではないはずです。
■戦争時と同じ国の棄民政策
浪江町から本宮市に避難し仮設住宅で暮らす橘柳子さん
浪江町は原発のない町、しかし原発が隣接する町です。現在は本宮市の仮設住宅に入居中です。それまで9カ所の避難所を転々としました。
事故後の避難で、戦争終結後、中国大陸を徒歩で集結地に向かった記憶がよみがえりました。徒歩が車になっただけ、延々続く車列とその数日間の生活は苦しかった戦争そのものでした。私は国策により二度も棄民にされる恐怖におびえました。いつの時も国策で苦しむのは罪のない弱い民衆です。
未来に生きる子どものことを考え、脱原発・反原発の実現を課題に生きていくことが唯一の希望かもしれません。
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月刊『国際労働運動』(429号A-1)(2012/05/01)
■編集後記
3・11福島県民大集会で新しい時代、新しい闘いが始まった。反原発闘争、被災地の闘いはこれから本格的全面的に拡大していく。これまでの我慢して抑えてきた怒りが根底的に爆発していく。誰もが必ず立ち上がる時が来た。立ち上がる喜びを知っている歴史的存在、それが労働者階級だ。
だからこそ、どういう路線で組織し闘うのかが決定的になる。新自由主義と対決し、外注化阻止・非正規職撤廃の要求と怒りを労働組合に組織し、動労千葉を支援する会に組織しよう。何よりも6・10大集会に向けて国鉄闘争全国運動の前進を全力で切り開いていこう。
3・11の地平を発展させ、福島診療所建設運動で闘いの拠点をつくろう。3・11県民大集会は、被災地を先頭とした怒りを解き放った。原発はなくせると誰もが確信することができた。
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