International Lavor Movement 2012/05/01(No.429 p48)
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2012/05/01発行 No.429
定価 315円(本体価格300円+税)
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月刊『国際労働運動』(429号1-1)(2012/05/01)
■羅針盤 3・11階級闘争の新時代を開く
▼3・11から1年、あらゆる制動と分断を超えた歴史的闘争として「原発いらない!3・11福島県民大集会」が、郡山市に1万6千人の労働者・学生・農漁民・市民を大結集してかちとられた。またこの福島現地の闘いを最先頭に、全国、全世界で労働者人民が「原発なくせ!」と立ち上がった。この3・11福島の感動的高揚を切り開いた力は、国鉄を先頭に労働組合が外注化阻止・非正規職撤廃の闘いと同時に、反原発を真っ向から掲げ、組合旗を林立させ総決起したことだ。3・11県民大集会で登壇し発言した鈴木美穂さん(高校2年生)は、「原発がなければ、津波や倒壊による被害者を助けに行けました。人の命も守れないのに、電力とか経済とか言っている場合ではないはずです」と、怒りを込めて訴えた。
▼3・11大震災は、死者1万5854人、今なお行方不明者3155人、避難者34万393
5人に及ぶ空前の大災害となった。その1周年の日に、墓参もできない状況をつくり出しているのが原発大事故だ。それは途方もない放射性物質を大地と海にまき散らし、人びとの生活と命、未来を奪っている。
▼ところが、これを引き起こした張本人の政府や東京電力など日帝支配階級は一切責任を取らないばかりか、労働者人民に一層の犠牲を強い、分断と搾取の攻撃を強めている。これに対し私たちはこの1年間、被災地の仲間を先頭に、総力で生きるための闘い、国鉄決戦と反原発闘争に決起してきた。
▼大恐慌と3・11情勢に立ち向かい、最末期帝国主義と新自由主義を打ち倒し、労働者と労働組合の根源的な力を軸に、プロレタリア世界革命に勝利していく決定的な飛躍点に、今立っている。
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月刊『国際労働運動』(429号2-1)(2012/05/01)
■News & Review 韓国
KTX民営化策動に鉄道労組が反対闘争
韓米FTA発効の日に“廃棄”誓う
□韓国政府がKTX民営化を策動
昨年末に政府国土海洋部からKTX(韓国高速鉄道)の新線部分開業と同時にKTX運営を民営化するという構想が打ち出され大問題になっている。政府は今年上半期中に民営を引き受ける会社を選定するとしている。それと同時に鉄道施設維持保守業務の外注化が問題に浮かび上がっている。KTX民営化が大きな社会問題として浮かび上がる中で、政府は官製討論会を開催するなど世論づくりに躍起になっている。
政府はKTXを民営化する理由として「競争導入による運営の効率化、運賃引き下げによる利用者の利便」を押し出しているが、これは労働者を非正規化に追い込み、安くこき使い、大企業に巨大な利益を差し出すむき出しの新自由主義政策そのものである。
そういう中、KTXの建設を担っている鉄道施設公団内部で、当局が職員に対してさまざまなインターネットサイトに「民営化賛成」の意見を書き込ませるヤラセを指示し、実施状況を点検していたことを、公団の労組幹部が内部告発するということがあった。これに対して公団当局がこの労組幹部を公団の名誉を毀損したという理由で懲戒処分するというとんでもないことが起こった。これに対して公共運輸連盟と鉄道労組は全面闘争を宣布して立ち上がっている。
一方、鉄道労組は民営化を阻止するための署名運動を強力に進めている。鉄道労組が3月13日にホームページに発表したところによると、1月中旬から全国主要駅で始めた署名運動に20万人が署名した。鉄道労組組合員は「市民が多く署名してくれて驚いている。列をなして署名する時もあった。署名運動が広く知られて20万人が署名したが、これから100万署名を突破するだろう」「年をとった50〜60代の人は保守的だからあまり署名に参加しないだろうと思っていたが、年寄りも意外と多い」と感想を述べている。また署名してくれる人が「今の与党は支持するが、KTXや公共部門の民営化には反対する」と言う人もいたと述べている。
鉄道労組は3月にある定期代議員大会でこれからの闘争方針を明らかにして闘い続けるとしている。
□発効の日を廃棄の闘いの初日にする
3月15日午前0時をもって韓米FTAが発効した。
発効前日の夜、ソウルの清渓川にFTA発効中止を求めて労働者市民が集まり、怒りの声を響き渡らせた。
「韓米FTA阻止汎国民運動本部」主催で午後7時から清渓川で「韓米FTA廃棄!カンジョンを救え!最後のローソク集会」を開催した。この集会には1000人以上の労働者市民が参加してローソクを持って数時間先に迫ったFTAの発効を弾劾した。
韓米FTA廃棄のために14日間の断食―籠城を行ってきた汎国民運動本部のイガンシル共同代表は「アメリカは相手国の利益のために再交渉をしたことがただの一度もない」「経済主権が消えうせるFTA廃棄のために進歩政党が院内交渉団体になり、進歩的政権交代を実現しなければならない」と述べた。民主労総のキムヨンフン委員長も「民主労総は15日0時を期して闘争に立つ」「3月31日、4月1日のカンジョンを守る闘争から、6月警告ゼネスト、8月民主労総ゼネストまで民主労総が全力を尽くして総力闘争に出る」と誓った。
FTA締結の最大被害者である農民たちも切迫した心情を伝えた。全農のイガンソク議長とカトリック農民会のイサンシク会長は「この間、安全な食べ物を生産するために汗を流して黙々と努力してきたが、FTAが発効すれば長い間のすべての努力が水泡になる」として「国籍不明の食べ物から国民の食膳を守るためにFTAを廃棄しなければならない」と述べた。
民主統合党のチョンドンヨン議員、統合進歩党のチョジュンフ共同代表なども参加した。
聖公会大のある学生が舞台に上がり、「数日前、キムジンスク民主労総指導委員の講演を聞いたのだが、『楽しく最後まで笑いながら闘わなくてはならない』と話された。だから皆さんを楽しくさせるために踊りを準備してきた」と言って舞台で踊りを踊って参加者たちの大きな拍手を受けた。最年少発言者は中学生だった。彼は「われわれもFTA反対だ。分かっている。われわれの未来を奪われるな」と言って熱烈な反応を受けた。
ローソク集会は午後9時頃に終わった。参加者たちは青瓦台に抗議書簡を伝達するために行進をしようとしたが、清渓広場入り口を封鎖した警察に妨げられた。行進隊伍は方向を変えて清渓川に沿って行進を続けた。この行進で11人が警察に連行された。
汎国民運動本部は翌15日朝、光化門広場で記者会見を開き、総選挙と大統領選挙で勝利して必ず廃棄に持ち込むことを宣言した。
(写真上 韓米FTA発効前夜に怒りの声を上げる労働者ら【3月14日 ソウル】)
(写真下 1月30日に開かれた官製討論会に抗議する「KTX民営化阻止と鉄道公共性強化のための汎国民対策委員会」の労働者)
□起亜自動車で昼間2交替試験運用
起亜自動車が3月26日から2週間、昼間連続2交替制度をモデル運用することになった。今回の試験実施は今後施行される昼間連続2交替勤務形態の基準になるものと予想される。金属労組起亜車支部(ペジェジョン支部長)は12日、会社側と昼間連続2交替モデル運用関連細部事項を長時間の論議の末に合意した。
起亜自動車支部は昨年、賃金交渉妥結の時このような試験運用を会社と合意していた。
昼間2交替制度はユソン企業労組が「夜は寝よう」と闘って現代自動車の介入もあってかちとれずにいるものである。今後の製造業現場の3交替連続操業の廃止に大きな影響を与えるだろう。
(写真 起亜自動車の生産ライン現場)
□「青年ユニオン」、組合としての認定かちとる
青年ユニオンが組合創設から2年の闘いでソウル市から労組設立証書を受け取った。
ソウル市は3月12日、青年ユニオンが提出した「ソウル青年ユニオン」設立申告を受理した。これでソウル青年ユニオンは公式に合法労組の地位を獲得した。
青年ユニオンは昨年4月、労働組合法に基づき求職者青年1人と職業人青年1人で組んでソウルと水原、仁川、釜山、大邱などの自治体に「青年ユニオン1」から「青年ユニオン27」まで労組設立申告書を提出した。青年ユニオンは2010年2月13日創立以後、雇用労働部に対して4回も労組設立申告をしたが突き返されていた。組合員に求職者など労働者以外の者が含まれるので労働組合として認められないという理由だ。雇用労働部から青年ユニオン中央次元の労組設立が認定されたものではないにしても、今回のソウル市の労組設立認定は他の地域の判決と訴訟にも影響を与えるものと見られている。
青年ユニオンは15日午前、果川政府総合庁舎前で記者会見を開き、雇用労働部が労組設立申告を突き返したことへの糾弾を行った。
青年ユニオンは「労働組合設立は申告制だという趣旨を理解せず、国家人権委の勧告もソウル行政法院の判決も無視したまま知らんぷりで一貫している。この雇用労働部のおろかさは一体どこから出てくるのか」「雇用労働部は今からでも青年ユニオン労働組合設立申告を突き返すという非常識な行いを反省して、青年の権利を保障することを要求する」と言っている。
また、青年ユニオンの労組地位獲得により、公式的に労働3権を認定されたのだから、ソウル地域青年の労働権と、求職者の交渉権実現に立ち上がるという計画を示している。彼らは「劣悪な労働条件に苦しむ青年たちの生活改善のための事業と、将来就業する企業を対象に採用と条件に関する団体交渉に立つ」「経総、全経連と交渉に立つ青年たちの姿を遠からず見ることになるだろう」表明している。
(写真 証書を受け取った青年ユニオン)
□非正規職のない世の中へ“希望広場”
「希望のトゥボギ(歩み)」を企画した「非正規職のない世の中作り」(ピオプセ)が今度は「希望広場」をやり出した。
3月10日午後6時、ソウル市庁広場で開かれた「希望広場」はこれまでの集会とは違う様相だった。そこは文字通り「広場」だった。700人余りの参加者たちは非正規職の苦痛と整理解雇の悲しみに対する共感で集まったのだが、悲壮さや決意にあふれた掛け声の代わりに歌、終始一貫浮かべる笑顔で言いたいことを言っていた。
若いプロのバンドの演奏で会場は大いに盛り上がった。参加者が舞台に上がり、一緒に踊ったりもした。コンサートの締めを飾った「ハックルベリフィン」のイギヨン氏はどうして「希望広場」に参加することになったのかという質問に「双龍闘争の時も、キリュン闘争の時も一緒にやった。今回も電話を受けて日程も確信しないまま受諾した」「政治でニュースで、非正規職という言葉をとても簡単にしょっちゅう使うのを見ると、彼らがどれほど辛いのか、実際にどんな生活をしているのかが分からなくなる」「周辺のすべての人たちが辛い生活をしている。言葉や考えよりも辛い生活を実体化することが重要だ」と非正規職問題に対する考えを表明した。イヨンギ氏は以前とは違う集会のやり方について「同時代を生きる人たちが互いに理解して今の文化を通して洗練されて面白い広場を作れたらいいと思う」と肯定的な考えを表明した。
夜10時から始まった「希望トークショー」ではパクキワン統一問題研究所所長、キムジンスク民主労総釜山本部指導委員、闘争事業場労働者らが出て「整理解雇」と「非正規職」の問題を話した。「希望バス」と「希望トゥボギ」、それから「希望広場」まで続く力と怒りは「整理解雇、非正規職撤廃」に続くだろうと希望≠述べた。
キムジンスク指導委員は「政治家たちはいつも分裂し、烏合の衆だが、大衆はいつも賢く賢明だった」「今、希望バスとローソク集会などで市民社会と労働者の怒りが集まっており、この怒りをどんな希望の器に盛るかが問題」だと言った。
パクキワン統一問題研究所所長は「今、非正規職労働者たちの闘いは自分の体をぶち割って資本をぶち割る岩のようだ」「しかし、粉になった彼らが自分のペースに合わせて再び生き返り立ち上がるようになるだろう」と強調した。
双龍自動車、ユソン企業、KEC、起亜車社内下請など非正規職、整理解雇事業場の労働者たちも労働の希望について話した。
12カ所の長期闘争事業場労働者たちと連帯団体など100人は希望広場を始まりとして、市庁広場での無期限篭城に突入した。
(大森民雄)
(写真 歌や踊りで「非正規職のない世の中作り」を訴えた【3月10日 ソウル市庁舎前】)
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月刊『国際労働運動』(429号2-2)(2012/05/01)
■News & Review/シリア
新自由主義のアサド独裁権力に反乱
米帝による抱え込みの策動を許すな
□1年近く続く人民決起
世界大恐慌の激化のただなかで、昨年冒頭のチュニジア蜂起・エジプト革命の炎は、リビア・バーレーン・イエメン・シリアなどに波及し、中東の反革命の砦=イスラエルでついに労働者階級のゼネスト決起を呼び起こすにいたっている。この中で、中東の中心に位置するシリアにおけるアサド政権打倒の人民的決起は、昨年3月以来、1年近く、政府軍と民間白色団体の残虐をきわめる攻撃に対し、ストを含め、全土にわたり粘り強く続けられている。
対中国対決政策と並んで、イランの孤立化を狙う米帝にとって、「イランの盟友」を称してきたシリア・アサド政権の崩壊は、自らの利益にかなうものである。しかし、「アサド打倒」を掲げて決起したシリア労働者人民の闘いが、新自由主義攻撃と対決する中東全域の労働者階級の階級的決起の起爆剤になることを恐れる米帝は、亡命者の反政府運動組織や政府軍からの脱走兵を中心とする武装集団を抱え込み、アサド打倒を自らのヘゲモニーのもとに遂行し、「リビア型」のかいらい政権をデッチあげ、中東の労働者革命を圧殺しようとしている。
□チュニジア、エジプトに続き闘いが全土で爆発
1月チュニジア、2月エジプトと、反動的独裁権力が労働者人民の決起で、しかも労働組合を軸に結集した階級的実力で、相次いで打倒されていったことは、アサド政権の暴力的軍事独裁政権の下で苦しんできたシリア民衆に、「俺たちも、私たちもやれる」という巨大な激励を与えた。
昨年3月18日金曜日(イスラムの礼拝日)、首都ダマスカスの南ダルアーで、空前のデモ・集会が爆発した。先に1月、壁に「アサド打倒は人民の声」と書いたために高校生たちが逮捕され、拷問されたことへの抗議がきっかけだった。軍隊が出動、戒厳令のもとに町全体を包囲、デモ隊に発砲、電気・水道・ガスなどのインフラを一切ストップし、住民の生活の根元を絶つ攻撃を行った。しかし、シリア労働者人民は、震え上がるどころか、ダルアーを先頭に、全国でデモを継続し、毎金曜日が闘争日となった。【シリアは、総人口2500万人。イスラム教徒スンニ派が74%。だから、彼らの毎週金曜の礼拝日が、闘争日になるのは、きわめて自然のことであり、闘争自体が宗教的排他的に行われているわけではなく、〈金曜日の決起〉には「少数派」のアラウイ派(シーア派)、キリスト教徒〔総人口中、それぞれ10%〕も、さらには少数民族のクルド人〔人口の8%〕も、大衆的に合流・参加している。アサド政権は、少数派のアラウイ派に依拠したバース党独裁を行っているが、多くのアラウイ派住民は、アサド反対を表明している】
1月以来の内外の爆発的展開に対してアサド政権は、3月26日、非常事態法の撤廃、政治犯の釈放、内閣改造など、一連の譲歩策を発表しながら、弾圧をエスカレートさせ、デモ・集会の参加者に対し、戦車やヘリ、重火器まで投入するにいたった。デモへのあまりの残虐な発砲を拒否する兵士が続出、さらに武器をもって軍から脱走し、反乱に合流してくる兵士が数千規模で生じた。
3月に開始された大衆的な反乱は、各地に分散した活動家、青年たちが中心となり、独自に地域共闘委員会などのゆるやかな結合体をつくって拡大していったものである。既成政党、そして労働組合も、アサドの政治体制の一部に組み込まれてきたからである。
□ゼネストへと発展
ついに5月17日、地域共闘委員会から、全国ゼネストのアピールが発せられたが、体制内労働組合(GFTU)が、これを「陰謀」と呼んで反対し、不発に終わった。ついで6月6日にハマの住民たちが、5万人デモに対する軍隊の発砲に対する抗議として、ストライキに立った。交通機関、商店などが閉鎖され、軍隊の介入で中止させられるまで、3日間続けられた。7月7日、こんどはホムスがストに立ち上がり、〈地域防衛委員会〉を組織して、軍隊の攻撃からストを防衛した。
そして、10月26日、アサド打倒のゼネストが全土に呼びかけられた。当日のアラブ連盟代表団のシリア訪問、ダマスカスでの政府支持集会などに対抗するためである。ホムス、ハマ、ダルラなどの主要都市で、商店の閉店ストに並んで、ついに公共サービス労働者がストに入り、交通機関・公共機関などがストップ。各所で軍隊との衝突が起こり、死者も出た。3月の反乱開始から半年、ついに労働者階級がゼネストという階級的武器をもって登場したのだ。2012年に入り、シリアの反乱は、ますます内戦・内乱的様相を呈している。
□米帝の介入と反政府運動の抱え込み策動
アサド政権に対する民衆反乱の爆発に、西アジア・北アフリカの反動諸政権は、チュニジア・エジプトとの合流を恐怖し、従来のシリアとの敵対関係を超えて、当初はアサド政権支持を表明した。4月6日には、ロシア政府もシリア政府への支持を宣言。【ロシアはソ連時代からシリアに経済援助・武器輸出を行い、シリアの地中海沿岸に海軍基地を持っている】
こうした動きに対し、米帝オバマ政権は5月18日、対シリア経済制裁を発表して、シリア反乱への介入を公然と開始した。6月初旬に国連安保理事会で討議を開始し、その後、国連総会へも提起、アラブ連盟も引き込んで、「シリアの人権侵害弾劾」を策動した。安保理ではロシアと中国の反対で阻止され、総会では決議をしたものの、「アサド制裁」に国連を動員することはできなかった。そこで米帝は、2012年2月24日になって、チュニジアで、「シリア友人」の会議を〔中ロの2国を抜きにした〕いわば「有志の会」のような形で開催した。この国際会議は、アメリカと、シリアに隣接するトルコが積極的な推進者となり、国連、アラブ連盟、EUなどが参加、50〜60カ国が出席した。議題として「停戦の実現・人道的援助の実施」などが掲げられたが、米帝の最大の狙いは、この会議に引き入れた「シリア国民評議会」(SNC)というシリア亡命者中心の反政府組織〔トルコで結成され、シリア国内では大衆的基礎を持たない〕を「国際的に」承認し、「シリア型」のかいらい政権としてアサド打倒の軸に据えて、シリア反乱のヘゲモニーを、現地で闘うシリア労働者人民の手から奪うことにあった。
こうして、「シリア友人」の会議で承認された「シリア国民評議会」は会議終了後ただちに、「軍事局」を設け、そのもとに「自由シリア軍」(FSA)〔会議に出席はしなかったが、トルコを出撃拠点、武器供給源として戦闘行為を行っている〕を包摂し、「シリア国外からの武器供与」(サウジとカタールはすでに武器援助を公言)のルートを一本化することに乗り出した。「シリア友人」の会議での「人道援助」決定の内容は、「シリア国内の反政府派に必要な物資を供給するための安全なルートを確保する」という口実で、リビアでやったような「飛行禁止区域」を、シリア・トルコ国境地帯に設定するという内容を含んでいる。こうして、米帝は、かいらい政権を育成しつつ、「リビア型の」軍事介入にいつでも突入できる体制を確立したのだ。
□シリアにおける新自由主義攻撃の暴力的展開
シリア労働者人民の怒りが向けられているのは、ハフェズ=アル=アサド(1970〜2000)とバシャール=アル=アサド(2000〜)の2代にわたって強行されてきた新自由主義攻撃である。それは、国営・公営企業の民営化、農業の企業化の促進、外国資本の導入(そのための免税などの優遇措置)などを柱としており、バース党支配下の軍事独裁政権による強権支配を通して実施されていった。その間、シリアは、1970年から現在までの全期間、非常事態法の下で、憲法が停止されるという例外的国家≠フ状態にあったのだ。
非常事態法の永続的継続を正当化したのが、名ばかりとなった「対イスラエル戦争」であった。この恐怖政治によって、一切の民主主義的権利が抑圧され、反対派が流血の弾圧・大量虐殺によってせん滅されていった。シリア共産党をはじめとする野党勢力、そして労働組合は、「国民進歩戦線」の名のもとにアサド体制に抱え込まれ、新自由主義攻撃を容認し、体制の一部となっていたのである。こうしたシリア社会の内部では、民営化に伴う利権の発生をめぐって、アサド一家を中心とする同族支配・派閥政治のもとでの汚職・腐敗が広がり、深まっていった。
では、アサド政権による新自由主義攻撃がもたらした社会的現実は何か。それは、シリアの総人口の3分の1が、生存水準以下の生活を強いられている(国連統計)という恐るべき現実である。失業率は15%とも、20%ともいわれており、とりわけ人口の67%を占める青年層の失業が巨大な数に上っている。中東諸国では比較的高い水準にある教育を受けた青年たち〔大学卒業者〕の75%が、職のない状況に置かれている。現在、街頭に出て、抵抗闘争を牽引している主力はこうした若者たちである。
労働者にとっては不安定雇用が常態となり、低賃金に抑えられ、賃上げ闘争の権利も奪われている。とりわけ、民営化の嵐にさらされた公共サービス労働者の生活は激変した。昼は教育労働者、夜はタクシーの運転士、というようなダブル・ジョブが、当たり前の現実になっているという。
農民たちは、新自由主義政策による農業の企業化の波にさらされ、〔第2次大戦後の農地改革でいったん手に入れた〕農地を手放さざるをえなくなり、貧困にあえいでいる。建設業・不動産業・サービス業が、投機的資金の投資対象となった。戦後シリアの経済を曲がりなりにも支えてきた石油・天然ガスからの収入が、資源の枯渇とともに衰退している。
「市場経済のグローバリゼーション」「世界市場への参入」などの強制のもとで、労働者・農民・人民の労働と生活が、国際競争力強化・市場原理の容赦ない貫徹によって、収奪にさらされていった。とりわけ、2000年にバシャール=アル=アサドが、父の死後、政権を継承したことが、新自由主義政策攻撃の転機となり、IMF・世界銀行やEUへの急速な接近が開始された。
こうした民営化=市場経済の徹底化とは、戦後中東民族解放闘争の高揚と歪曲の産物であるアラブ社会主義=i労働者権力によってかちとらられる社会主義とは無縁の軍事独裁政権による官僚的国有化経済)の残存物の一掃≠ノよる帝国主義世界経済への包摂、国内の階級闘争の絶滅攻撃であり、アサド政権の内外の危機からの延命策だった。【ソ連スターリン主義は、このような体制を支持し、他方では米帝主導のイスラエル建国(=パレスチナ分割)をいちはやく承認したのだ】
□「パレスチナとの連帯」
この新自由主義政策の強行の過程は、パレスチナ解放闘争の裏切りを伴っている。それは、エジプトのサダト政権が、米帝の主導のもとにイスラエルとの和平(1978年キャンプ・デービッド)を進めながら、新自由主義政策を全面的に推進していった過程と共通する。アサドは当時、サダトの政策をパレスチナ人民への裏切りだとして弾劾し、イラク、リビアなどとともに「拒否戦線」を結成していたのだ。そのエジプトやサウジを中心とする「大アラブ自由貿易協定」に、2005年に参加し、2007年にはトルコ(西アジアにおけるNATOの拠点)とも「自由貿易協定」を締結した。そのトルコを通じてイスラエルとの交渉を開始していたと、アサド政権自身が発表していた。
今や、アサド政権の「対イスラエル戦争」の看板の正体は暴露され、「パレスチナ人民との連帯」は、アサド打倒を叫ぶシリア労働者人民の掲げるスローガンとなっている。
シリア反乱を勝利に導くかぎは、階級的労働組合の再生と労働者階級の階級的指導部の形成にある。
(川武信夫)
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月刊『国際労働運動』(429号2-3)(2012/05/01)
■News & Review/日本
原発いらない! 3・11福島県民大集会
球場埋めた1万6千人、福島の女たち先頭にデモ
(写真 1万6千人がスタンドを埋めた【3月11日 郡山市開成山野球場】)
「原発なくせ!」「この社会を変えよう!」。福島県内を始め全国から郡山市・開成山野球場に1万6千人の労働者民衆が集まった。「フクシマの思い」を新たにし、怒りを増幅させ、全国・全世界に向け叫びを発した。東日本大震災と福島第一原発事故1周年の3月11日、政府は全国を「慰霊」「復興」一色に染め上げようと図ったが、フクシマの根源的な怒りがそれをぶち破った。
「原発いらない!3・11福島県民大集会」は、主催者発表で1万6千人、実際にはそれをも上回る2万人近い労働者人民が結集した。日本全国百カ所近くで数万人が闘い、世界中で数十万人が立ち上がった3・11、この闘いの頂点が郡山集会だった。
「収束宣言」「除染」キャンペーンによるフクシマ分断・圧殺攻撃と、それをテコとした再稼働策動を根底から覆す怒りが爆発したのだ。
会場のいたる所に労働組合の旗・のぼりが林立した。国労郡山工場支部の赤旗が翻った。福島県教組は緑色・ピンク・黄色などののぼりを掲げて大挙参加した。自治体労働者、医療労働者、そして非正規、交通、民間の労働者たちが色とりどりの組合旗やのぼりを押し立て会場に陣取った。
午後1時から、オープニングコンサートが行われた。フクシマの代表が古里への思いをこめた詩を朗読した。歌手の加藤登紀子さんが、チェルノブイリ原発事故の直後に被災地の大コンサートで歌われた「百万本のバラ」や「パワー・トゥー・ザ・ピープル」など数曲を、フクシマに心を寄せ、原発廃絶を訴えて熱唱した。
(写真 高校生・鈴木美穂さんをはじめ福島の6人が怒りを込めて発言)
□「変えよう日本」訴え
午後2時から集会が始まった。実行委員長の竹中柳一さんの開会のことばなどに続き、ノーベル賞作家の大江健三郎さんが連帯のあいさつ。大江さんは「原発をすべて廃止すれば子どもたちが、そのまた子どもたちが原発事故で放射能の害をこうむることは絶対にない」と、ほとばしる怒りで原発全廃を訴えた。会場から「そうだ!」の声が発せられ、拍手が起こった。
福島から6人が登壇し、200万福島県民の苦悩、原発と放射能、政府への怒りを語った。二本松市で有機農業を営む菅野正寿さんは「人間と原発とは共存できない」「『頑張ろう日本』でなく『変えよう日本』。今日をその転換点に」と呼びかけた。警戒区域にある富岡高校から郡山市の県立あさか開成高校に転校した鈴木美穂さんは「人の命も守れないのに、電力とか経済とか言っている場合ではないはずです」と訴えた。浪江町の橘柳子さんは「いつの時代でも国策で苦しみ悲しむのは罪のない民衆だ」と根底からの弾劾の声を発した。
発言者一人ひとりの「フクシマの叫び」が会場に響きわたり、参加者の心を打った。「原発をなくそう!」「社会を変えよう!」が全参加者の一つの意思となった。金のためなら人の命を奪おうとも原発にしがみつく資本家どもの支配を焼き尽くすまで、どこまでも燃えさかる火となった。
地震が発生した2時46分、参加者全員で黙祷を行い、誰もが自らの力で原発を廃絶させると誓った。
(写真 福島の女たちを先頭に福島県民、全国農民会議などのデモが続く)
□労組などが大デモ
怒りの集会宣言が発せられ、郡山市内デモに出発した。「怒 福島隊」ののぼりが掲げられた。国労郡山工場支部、福島県教組をはじめ福島県内各地の労働組合・団体が続いた。動労千葉、動労水戸、共に闘う国労の会、郵政非正規ユニオンなどが途絶えることなく進んだ。
「子どもたちを疎開させて」の横断幕を掲げた「原発いらない福島の女たち」のデモ。福島の怒りを圧殺しようとするさまざまなもくろみを打ち砕き、いつも福島と全国の闘いの先頭に立ってきた女性たちだ。
萩原進さんや市東孝雄さんなど総決起した三里塚反対同盟を先頭に、全国農民会議の色鮮やかな緑色ののぼりを掲げた堂々たる農民の隊列。「原発なくせ!」のコールと太鼓を力強く響かせたNAZEN(すべての原発いますぐなくそう!全国会議=な全)の1500人のデモは、圧倒的な注目で、地元の少年たちも飛び入り参加! 全学連の大隊列の柱は「怒 福島大」ののぼりで登場した福島大生たち。沿道の市民も大きな拍手で歓迎する。
出発点で、「原発いらない福島の女たち」の椎名千恵子さんがNAZENの隊列の先頭に立ち「日々闘ってかちとっていかなければ『原発いらない』は続いていかない」と訴えた。デモ終了地点の郡山市役所前で行われた総括集会では、子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク代表世話人の佐藤幸子さんがマイクを握り、「福島から発信した声が日本中を変えます。みんながつながれば大きなことができます」と呼びかけた。
3・11福島県民集会は大成功した。フクシマの怒りが根底から解き放たれた。全国の労働者・民衆がそれと一層強くつながった。
(若宮 透)
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3・11福島県民大集会発言(要旨)
■日本の変革のスタートを!
福島県教職員組合委員長 竹中柳一さん
地震、津波により、多くの人びとが命と財産を失いました。福島県民は原子力発電所の事故の結果としての放射性物質の拡散により、不安と苦しみの中で生活しています。
数々の災害や戦争などの多くの困難を克服し、現在の豊かな暮らしの基礎を築いてくれた先人の尊い努力が放射性物質によって失われようとしています。同時に、福島県の将来を担う子どもたちや若い世代を失おうとしています。
現在の私たちの苦しい状況をお互い共有しながら、今後についての思いと決意を新たにすべきだと考え、この集会を企画しました。この集会が福島と日本の新しい変革のスタートとなることを願い、開会を宣言します。
■この国の原発すべて廃止に
さようなら原発1000万人署名呼びかけ人/作家 大江健三郎さん
3・11の後も原発の再稼働を考えている人たちがいます。いくつもの原発の地盤が活断層の上にかかっているという警告を無視してきた学者が、今も再稼働を決める中にいる。大事故が起これば、今を生きる私たちのみならず、未来社会に生きる人間みなに大きく長期間の影響があることを思い知りました。
私たちに求められているのは、原発の事故を絶対になくすことです。絶対になどということができるのか。できます。この国の原発をすべて廃止すればいい。私たちや私たちの子どもたちが原発の事故により大きい放射能の害を被るということは絶対にない。
■毎日否応なく迫られる不安
山形県に小学生の子どもを避難させている福島市の菅野智子さん
原発事故以降、毎日いや応なく迫られる不安。逃げる・逃げない、食べる・食べない、洗濯物を外に干す・干さない、子どもにマスクをさせる・させないなどさまざまな苦渋の選択をしなければなりませんでした。「10年後に後悔したくない」と夏休みに山形県米沢市に避難しました。自主避難は経済的な負担があり、二重生活の住宅ローンも重くのしかかります。
子どもたちは米沢市の学校に転校しました。不満も言わず元気に過ごしていますが、時折、「原発がなければ転校もなかった。福島の方が楽しかった」とさみしそうな顔をします。
原発事故がなければ福島を離れることはありませんでした。米沢に来ても、福島が好きだという気持ちは変わりません。
■今こそ「変えよう日本!」
二本松市で有機農業を営む菅野正寿さん
原発事故から1年。とりわけ健康な作物と家畜を育んできた有機農業者への打撃は深刻です。粘土質の有機的な土壌ほど作物へのセシウムの移行が低減されることがわかり、有機農業が再生の光であることが見えてきました。
玄米は98・4%が50ベクレル以下。500ベクレル以上の0・3%の玄米のセンセーショナルな報道が、どれだけ農民を苦しめたか。福島県民が加害者のような報道に怒りを持っています。マスコミが追及すべきは電力会社と国ではないか!
生産者と消費者を分断するのではなく、都市も農村も力を合わせて、大資本中心の日本のあり方を変えましょう。「頑張ろう日本」ではなく「変えよう日本」。今日を転換点にしよう。
■全国に福島の魚を届けたい
相馬市で漁業を営む佐藤美恵さん
私は港町に生まれ育った漁師の妻です。夫が所属する相馬・双葉共同漁業組合は全国有数の規模を誇っていました。私はその日も明け方5時から市場で魚を販売し、午後、自宅に戻り、魚の加工販売の準備をしていました。その時、あの地震が起きた。やっと高台へ駆け上がりました。見えた光景はまるで地獄でした。両親は家ごと津波で流されて帰らぬ人となりました。
漁師たちは漁に出るために魚具を一つひとつそろえてきました。しかし放射能がそれを許しません。毎週、魚のサンプリングをして、期待しては落胆の繰り返しです。
夫たちはもう一度、漁師として働きたい。私は夫の獲った魚を売る仕事がしたい。おいしかった福島の魚を全国のみなさんに届けたいのです。
■東電と国は避難村つくれ
飯舘村から福島市に避難している菅野哲さん
飯舘村の農家は農地も牛もすべて失い、涙を流して廃業しました。もう飯舘村で農業を行うことができない。どうやって生きろというのですか? 飯舘村は3月15日に44・7_シーベルトでした。この高い放射線の中で村民は長時間、被曝させられた。死の灰をまき散らしておいて「放射能は無主物だ」と言う。何ごとですか? 原発事故は人災です。東京電力と国はきちんと責任を取ってください。元のように美しい村で安心して暮らせるよう、新しい避難村を建設してください。
原発事故を二度と繰り返してはいけません。もっと声を大きく全国に世界に訴えていきましょう!
■命守れず何が電力や経済か
富岡高校からあさか開成高校に転校した高校2年生・鈴木美穂さん
地元は郡山ですが、サッカーがしたくて富岡高校に進学し、サッカーに明け暮れる日々を送っていました。
地震の翌日には川内村に避難しました。1号機が爆発し、川内村も危なくなり、郡山に避難することになりました。私を郡山まで送ってくれた先生は泣いていました。先生には原発に働く知人がいたのです。今も危険な事故現場で働く人がいることを考えると胸が痛みます。
原発がなければ、津波や倒壊の被害に遭った方々を助けに行けました。それを思うと怒りと悲しみでいっぱいです。人の命も守れないのに、電力とか経済とか言っている場合ではないはずです。
■戦争時と同じ国の棄民政策
浪江町から本宮市に避難し仮設住宅で暮らす橘柳子さん
浪江町は原発のない町、しかし原発が隣接する町です。現在は本宮市の仮設住宅に入居中です。それまで9カ所の避難所を転々としました。
事故後の避難で、戦争終結後、中国大陸を徒歩で集結地に向かった記憶がよみがえりました。徒歩が車になっただけ、延々続く車列とその数日間の生活は苦しかった戦争そのものでした。私は国策により二度も棄民にされる恐怖におびえました。いつの時も国策で苦しむのは罪のない弱い民衆です。
未来に生きる子どものことを考え、脱原発・反原発の実現を課題に生きていくことが唯一の希望かもしれません。
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月刊『国際労働運動』(429号3-1)(2012/05/01)
(写真 昨年の5・15沖縄闘争で辺野古新基地阻止へ那覇市国際通りをデモ行進する青年・学生【2011年5月14日】)
■特集 米新軍事戦略と対決する5・15沖縄闘争
はじめに
世界大恐慌が米帝の没落・EU解体・中国バブル崩壊・日帝脱落の四つの契機で深化している。こうした中で米帝は新軍事戦略を提起し、エアシーバトルという中国侵略戦争戦略を具体化した。米帝は全世界を戦争にたたきこんでも自分だけは延命しようとしている。脱落日帝は、日米安保をひたすら強化し、米帝の侵略戦争と世界戦争を推進しようとしている。しかし、動労千葉を先頭に階級的労働運動路線の下、日米韓の労働者連帯が進み、全世界で青年労働者の革命的決起が始まっている。青年労働者が時代の担い手となって、新自由主義と対決して闘い抜いている。
第1章は、米帝の新軍事戦略を徹底的に弾劾している。
第2章は、日米安保堅持を叫び、米帝の新軍事戦略との歩調を合わせる野田政権の打倒を呼びかけている。
第3章は、日米安保の矛盾の集中点である「基地の島」沖縄を日本革命の火薬庫にしようと訴えている。
第1章
没落米帝のエアシーバトル――対中国の侵略戦争路線
オバマの新軍事戦略
米帝は、1月5日に新軍事戦略を発表した。それは、アジア太平洋地域を徹底的に重点化することを打ち出している。
オバマは新軍事戦略についての大統領見解の中で、次のように述べている。
「アメリカは太平洋国家としてあることを戦略的に決定した」「アジア太平洋の安全保障が最優先課題」「防衛予算の削減もこの決定的な地域を犠牲にしては行わない」
さらに中国を念頭に「米軍は、接近阻止・領域拒否(A2/AD)環境で効果的に作戦能力を確保するために必要な投資をしていく」
米帝が対中国の対峙・対決戦略に踏み切った。今度の米新軍事戦略は、米帝の国防報告として鮮明にそれを打ち出した。対中国侵略戦争の意図を、疑問の余地なく明らかにした。
米軍はイラク侵略戦争で敗北し、イラクから完全に撤退し、アフガニスタン侵略戦争でも敗勢を強め、泥沼に転落している。両侵略戦争の敗北という局面で、米帝は、新たな中国侵略戦争という大規模な戦争への移行を宣言した。そしてイラン侵略戦争の火蓋を切っている。対中国侵略戦争の軍事戦略としてエアシーバトル(空・海戦闘)で戦うこともすでに表明している。
これが世界恐慌の深化、世界経済の分裂化とブロック化、帝国主義・大国間の争闘戦激化、大失業と戦争の時代における米帝の延命をかけた唯一の対応である。新自由主義によって世界を破壊し続けてきた米帝が、新自由主義があらゆるところで破産し、没落帝国主義となり、その延命をかけて対中国侵略戦争から世界戦争への凶暴な展開に踏み込もうとしている。最末期帝国主義のなれの果てだ。
まさに労働者階級の世界革命か、帝国主義と残存スターリン主義の世界戦争かという緊迫した情勢に突入した。新自由主義と闘う日本と世界の労働者階級が一つの軍勢として団結し、侵略戦争と世界戦争に反対し帝国主義を打倒する時が来た。
エアシーバトル
昨年11月9日、米国防総省が「エアシーバトル(空・海戦闘)」という新たな対中軍事戦略を採ると発表し、エアシーバトルの内容を初めて具体的に明らかにした。
発表によると、中国軍が米軍を標的に新兵器や戦術を開発していることへの抑止として、中国側の主要拠点への空と海からの攻撃能力の大幅な増強などを主体としている。エアシーバトルとは、中国の「接近阻止・領域拒否戦略」を打ち破る戦略だ。
この新戦略により米帝は対中国の事実上の軍事対決に踏み切ること、中国との戦争的対決の新時代に入ることをあからさまにした。
エアシーバトルの内容は以下の通り。
▼米軍は中国人民解放軍の最近の、米空母を主目標とする対艦弾道ミサイル開発や、米側軍事衛星を標的とする衛星破壊兵器実験、一連のサイバー攻撃などに対応する
▼とくにアジアでの有事に米軍部隊の介入を阻む中国の「接近阻止」作戦を重視し、アジアでの米側の空・海の戦力を強化、積極的な攻撃能力を高める
▼具体的内容としては
・中国側の新型対艦ミサイルを破壊するための空・海軍共同作戦
・米軍用衛星の機動性向上
・中国側「接近阻止」部隊への空・海両軍共同のサイバー攻撃
・有人無人の新鋭長距離爆撃機の開発
・潜水艦とステルス機の合同作戦
・海・空軍と海兵隊合同による中国領内の拠点攻撃
・空軍による米海軍基地や艦艇の防御強化
以上の点を挙げ、それらの準備や推進に入るとしている。
米軍は、米空母を狙う中国の対艦弾道ミサイル開発、米軍事衛星への攻撃実験、サイバー攻撃を許さないことを公言した。具体的には中国の新型対艦ミサイルを破壊する空海共同作戦を準備し、ミサイル基地攻撃を計画する。さらに米軍用衛星の機動性を高め攻撃をかわす。
内陸の奥深くにある中国のミサイル基地、空軍基地を爆撃するための有人・無人の長距離爆撃機を開発する。
さらに海・空軍と海兵隊共同による中国領内の拠点攻撃も挙げている。海兵隊を動員していることを見れば、沿岸部の海軍基地などへの上陸作戦も想定している。全面的な侵略戦争を構えていることは、これだけでも明らかだ。
エアシーバトルに陸軍が登場していないことが重要だ。米陸軍はイラク・アフガニスタン侵略戦争で敗北し、完全に疲弊してしまい、さらに兵力も削減され、戦争の前面に立てる状態ではないことだ。陸軍の大兵力で全世界を押し渡るそうした軍事力を米帝は失ったのだ。
対中国・軍事包囲網
米軍は中東、北朝鮮の2正面での紛争に同時に対処する戦略から、中国を包囲する1正面への戦略に大転換した。もちろんこの対中戦略には北朝鮮侵略戦争が含まれている。
3月16日、北朝鮮は、4月12〜16日の間に人工衛星を打ち上げると発表した。昨年12・17の金正日総書記の急死とそれを引き金とする北朝鮮スターリン主義の体制崩壊の危機が事態の根底にある。後継者体制として金正恩体制の確立をかけた危機がある。
世界大恐慌と昨11年の国際階級闘争の進展が戦後世界体制を支えた最大の支柱であった朝鮮半島の南北分断体制を揺るがしている。
この危機を見て、米日帝は朝鮮侵略戦争の重圧を加えてきた。エアシーバトルは、その刃を北朝鮮侵略戦争にも向けたものである。
米帝は、エアシーバトルについて、今年前半から同盟国への説明を開始し、対艦弾道ミサイルなど米軍接近を阻止する中国軍にどのように対抗するのか、役割分担を開始するとされている。これは対中軍事ブロックの形成だ。
しかし、この対中国軍事包囲網とは、没落帝国主義・米帝の追いつめられたあがきである。イラク・アフガニスタン侵略戦争の敗北、世界恐慌による経済的没落、財政危機、国防予算の減額の中で、アジア太平洋の覇権さえも失いかねないという危機から出ている。
グアムが要の位置
米帝は、フィリピン、シンガポール、オーストラリアなどを対中国軍事ブロックに巻き込んでいる。この戦略の中心にあるのがグアムだ。
グアムは、中国の弾道ミサイル・巡航ミサイルから一定の距離を置きつつ、東京や沖縄、台北、マニラなどまで航空部隊を3時間で派遣できる。中国包囲網を後ろから見渡す要の位置にある。
ところが米議会は、201
2会計年度(11年10月〜12年9月)予算で、在沖縄海兵隊のグアム移転計画関連の支出の全額カットを決めた。普天間基地の移設、名護新基地建設のメドがまったく立たないことが理由だ。
米帝は、これまで06年の米軍再編のロードマップ合意にこだわってきた。そこには「普天間移設なくして在沖縄海兵隊のグアム移転はない」というパッケージ論があった。これがある限り、名護新基地建設が進まなければ永遠に米海兵隊のグアム移転はできないことになる。
米帝は、このパッケージ論を投げ捨て、普天間移設と海兵隊のグアム移転を切り離した。グアムを中軸とする対中国包囲網づくりを急いでいるからだ。日帝はこの米帝の要求を受け入れ合意した。これが2・8日米合意(詳しくは第2章)である。
米帝は、早くグアムに海兵隊を移転させたい。しかし米議会は、受け入れの姿勢を示していない。米海兵隊のグアム移転が、沖縄の労働者人民の普天間基地撤去、名護新基地建設絶対反対の闘いでグラグラになっているのだ。
西太平洋諸国
オーストラリア北部ダーウィンには今年半ば、米海兵隊の第1陣が駐留を開始し、2016年までに2500人に拡充される。これはオバマが昨年11月のキャンベラ宣言で打ち出したものだ。
米帝は、南中国海を挟み中国と向き合う同盟国・フィリピンに対中国軍事包囲網の軸足を築こうとしている。フィリピンはグアムから空路でわずか3時間の距離にある。西太平洋から南中国海を通りインド洋に抜ける要所を占める。米帝はここに海兵隊のローテーション配備や南中国海でのP3C哨戒機の配備を打診している。
かつてフィリピンは、米本土以外では最大級のクラーク米空軍基地があり、スービック米海軍基地があった。米軍の対ソ軍事網の大拠点であった。これらの基地はソ連崩壊後の1992年までに閉鎖された。
3月末から4月にフィリピンで米軍が主導する定期合同演習「バリカタン」の机上演習に日帝自衛隊、オーストラリアと韓国が初参加する。ベトナムやシンガポールも参加する対中国包囲の合同軍事演習でありエアシーバトルの演習だ。
昨年8月、米原子力空母ジョージ・ワシントンは、中国空母ワリヤーグの試験航行の間、タイ、ベトナムを歴訪し、対艦訓練などを実施した。ジョージ・ワシントンは8月6日から11日まで、タイ南部レムチャバンで、タイ海軍と合同で対艦、捜索・救助活動などを実施した。その後、ジョージ・ワシントンは13日、ベトナム南部沖合の南中国海へ移動し、ベトナム政府、軍関係者らが空路で空母に乗艦した。
南沙諸島の領有権問題で中国と対立するベトナムのカムラン湾には米ロの海軍が使用権を持つ港がある。
シーレーンの要衝、マラッカ海峡の入り口にあるシンガポールに対して、米帝は最新鋭の沿岸海域戦闘艦(LCS)を配備している。
インドネシアは、海空軍を増強している。インドネシアをめぐって米中が取り合いになっている。インドネシアは中国との間で領有権争いがない国で、昨年6月には、中国人民解放軍がインドネシア国軍と特殊部隊との合同演習を行った。中国との武器の共同生産もしている。
米帝は新鋭のF16戦闘機24機を売却することで合意した。インドネシアに供与して中国から引き離そうと懸命になっている。しかし米海兵隊が駐留を開始するオーストラリアのダーウィンはインドネシアの直近の位置にあり、インドネシアの神経を逆撫でしている。
多国間共同訓練「コブラ・ゴールド」がタイで3月7日から行われている。米国、韓国、インドネシア、タイ、シンガポール、日本、マレーシアの7か国から約1万300
0人が参加、17日に終了予定となっている。これも対中国包囲網づくりの一環になっている。
米帝はビルマとの「関係修復」に乗り出し、中国南部の脇腹を突く政策も強めている。これに対して中国は、ビルマとの関係をこれまで以上に強めて、マラッカ海峡を通過しないで、ビルマを通じてインド洋に出る港を確保しようと画策している。一方でビルマ軍事政権は「民主化」の装いをとることで帝国主義からの投資を呼び込もうと画策している。
しかし、こうした米帝主導のアジア・太平洋諸国における対中国の侵略戦争の動きには、各国の労働者人民の戦争反対の国際的闘いが爆発することは不可避だ。
(写真 ベトナム南部沖合の南中国海で、米空母ジョージ・ワシントンの甲板上に止まるFA18戦闘攻撃機【2010年8月13日】)
TPPの軍事的側面
昨年秋、米帝オバマはアジアを歴訪し、米中対決の経済圏づくりに奔走した。米帝はそこでTPP(環太平洋経済連携協定)をふりかざした。10年10月から米帝の主導のもとに9カ国(4カ国プラス米、オーストラリア、ペルー、ベトナム、マレーシア)で協議が進められるようになった。米と同盟国ではないが、対中国軍事包囲網に欠かせないベトナム、マレーシア、ブルネイ、シンガポールが入っていることが重要だ。
TPPという対中国の経済ブロック政策があり、同時にエアシーバトルという対中国軍事包囲の軍事ブロック政策が明確に存在している。
これら全体が日帝に対する帝国主義的争闘戦であり、日帝の東アジア勢力圏化は許さないという日帝解体政策としても展開されている。
接近阻止戦略
「接近阻止/領域拒否戦略」(A2/AD戦略)は米軍の軍事概念である。米帝が世界の軍事支配を貫徹する観点から生まれ出た概念だ。
エアシーバトルとは、中国の「接近阻止・領域拒否戦略」を打ち破る戦略である。
91年のソ連崩壊によって、米帝に軍事的に対抗できる国家はなくなり、米国は唯一の超軍事大国になった。
ソ連の崩壊という「巨大な敵国消失」を前にして、米軍も大規模な軍備縮小を行った。米軍はこれまでの210
万人体制から150万人体制になった。海外の多くの米軍基地が撤去された。60万人の米軍兵士がリストラされた。多くの兵士が戦争請負会社を結成したり雇われたりし、戦争の民営化の受け皿になった。90年代中盤からこれらの戦争請負会社が米帝などに雇われユーゴスラビア侵略戦争にも出動し、新自由主義の侵略戦争の先駆けとなった。
そして新自由主義の侵略戦争が全面化したアフガニスタン・イラク侵略戦争の担い手となった。
米軍は、91年イラク・中東侵略戦争から90年代を通してイラクを常時監視する戦争を継続した。90年代の後半にはユーゴスラビア侵略戦争に突入した。この時に同盟国であるギリシャが米軍の基地使用を拒否する事件が起きた。
98年の「砂漠のキツネ作戦」(米軍のイラク空爆)ではサウジアラビアとトルコの基地使用を拒否された。
03年のイラク侵略戦争の際には、サウジアラビアが基地使用を拒否したことで、代替の空軍基地を建設するはめになった。
01年から始まったアフガニスタン侵略戦争では、パキスタンがその前線基地・補給基地となった。ところがタリバンの聖域とされた部族地域への米無人機による無差別爆撃でパキスタン民間人多数が殺され、パキスタン政府が怒り、陸上軍需輸送の要衝・カイバル峠の通過を一時拒否した。
米軍の侵略戦争の形態は、大規模な海外駐留から本土からの派遣に移行したが、緊急時に派遣するために安定した基地の確保が困難になってきた。
米帝にとって「潜在的敵国」(米帝の言い方)が「接近阻止戦略」をとることの米軍への危険性が問題になってきた。
中国の経済・軍事大国化
他方で、ソ連の崩壊は、中国にとって長大な対ソ国境線に多くの陸軍を張り付ける必要を解消した。さらに90年代の後半、新自由主義により世界の帝国主義資本が中国に一斉になだれこみ、中国は「改革・開放路線」の下、新自由主義を推進し、農民を膨大な労働者に変え、非正規職化などを通して「世界の工場」と呼ばれるようになった。中国は高度成長を続け、11年にはついに日本を追い抜き世界第2位の経済大国に浮上した。そして軍事力も世界第2位に急上昇した。
中国沿岸部が高度経済成長の中心地となり、世界経済と海を通じて深く結びついていった。中国は海軍力の強化を軍拡の軸に置いた。
中国スターリン主義は、「国家主権と領土の保全」を「核心的利益」とし、それを防衛する手段として、「中国の富強」と「人民解放軍の強化」を目指し、チベット・新疆ウイグル・台湾・南中国海・釣魚台への主権を主張し、そして人民解放軍全体の近代化を図るとしている。
そして対艦弾道ミサイルや宇宙技術の開発で米軍に対抗し、南中国海、東中国海、黄海を中国の「内海」とする第1列島線とし、日本列島からグアム、インドネシアを結ぶ「第2列島線」にまで軍事力の展開を到達させ、この領域内での紛争に米軍が介入することができない(米軍の言う「接近阻止・領海拒否」戦略)長期戦略を立てている。
米帝がその可能性を恐れていた、接近阻止能力を持った国・中国が登場した。中国はスターリン主義として対米対抗性を持ち、その軍事力は、米軍事力とは比べものにならないレベルであるが、東アジア地域、西太平洋地域における有事に、米軍の戦力投入を阻害しうる可能性を持っている。
しかし中国自体、今やバブル崩壊の危機に陥っており、これまでの経済の高度成長は終わり、帝国主義との争闘戦激化、米帝の軍事重圧、そして国内経済の停滞から全人民の総反乱情勢に直面することは間違いない情勢にある。労働組合、農民の決起が始まっている。大きくは中国も革命情勢にある。
今後の国際情勢を規定する最大の原動力は米中矛盾の爆発である。米帝はそれをにらんで対中対峙・対決政策に転換した。エアシーバトルという軍事戦略でその戦争的打倒に乗り出してきたということだ。
それは国際帝国主義の基軸国である米帝の死の時が迫っていることでもある。対中国侵略戦争、世界戦争でしか延命できない米帝、国際帝国主義の危機は最末期であり、打倒できる時がきた。
(図 米国の国防予算「2001〜2011会計年度」(国防総省資料から、11年度は要求額))
防衛費の削減について
米国防予算について「今後10年間で4900億jの軍事予算削減」が決まった。
これについてオバマは1月5日の国防報告の際の大統領見解で次のように述べている。
「9・11以来10年間、わが国の防衛予算はただならぬ速度で拡大した」「これからの10年間、防衛予算の拡大は遅くなる。しかし事実は、それでも拡大するということだ」「軍事予算は、ブッシュ政権の最後の軍事予算よりも大きいままであろう」
9・11以後、米国防予算は「ただならぬ速度で拡大した」。アフガニスタン侵略戦争が始まった01年の国防費は3160億jだった。ブッシュが再選された05年には4790億j近くに増え、ブッシュが退陣した08年には6670億j近くに達している。アフガニスタン侵略戦争、03年からのイラク侵略戦争を積み重ねて倍増したのだ。そして11年度は7080億j。7000億jの大台に乗った。
国防予算は、2012会計年度(11年10月〜12年9月)は6710億jと初めて減少に転じ、2013会計年度も前年よりも減少した。
10年間で4900億jの国防費の減額は、年間にすると490億jの減額になる。一番多い11年度の7080億jを基準とすれば、6500億jとなる。
つまりブッシュ政権の最後の国防予算が08年度で6670億jであるから、そのレベルは維持するということだ。オバマはそれを言っている。国防予算の削減とは言うが、これからも高原状態が続く。
第2次世界大戦後の米国の国防予算の図がある。
これを見ると米国防費には朝鮮戦争、ベトナム戦争、レーガンのSDI(宇宙大軍拡)、そして対テロ戦争の山がある。そして山と山の間に国防費が減少する谷がある。いわば戦間期がある。
ところが、オバマは、アフガニスタン・イラク侵略戦争で敗北し、イラクから撤退し、アフガニスタンからも撤退に入っているのに、国防費は高原状態を続けると言うのだ。
このまま国防費を高止まりさせたまま中国・北朝鮮侵略戦争に突入していくことを企んでいる。
(図 第2次大戦以降の米国の国防予算(軍備縮小・大量殺人兵器非拡散センターの資料から)
防衛費削減計画
パネッタ国防長官は、13会計年度(12年10月〜13年9月)から5年間の国防予算の削減計画を発表した。
・米軍10万人を削減する。
陸軍57万人を49万人に
海兵隊20万2000人を18万2000人に
・在日米軍、在韓米軍は削減しない
・米国内の基地の整理統合、兵士の給与削減と待遇改悪、退役兵士の待遇改悪
・F35を始めとする兵器調達・開発計画先送り
・核兵器の削減、欧州配備の米核兵器の削減
削減した分でエアシーバトル関連の戦費を確保するということだ。オバマは、エアシーバトルのために必要な軍備増強のために膨大な資金を投じようとしている。
米陸軍報告書
米陸軍報告書が1月18日に発表された。それは「イラク・アフガニスタン戦争で「兵士の多くは、多くの戦闘に起因するけが、病気で苦しんでいる」と長期の戦争が兵士の心身を蝕んでることを指摘している。
陸軍の自殺は兵士10万人あたりの比率で03年(11・5)から09年では21・9で倍増している。海兵隊も同じ。
現役兵士では過度の飲酒による性犯罪が増加。イラク・アフガンの退役者では心的外傷後ストレス障害(PTSD)がベトナム戦争退役者調査の1・9〜3・1倍。
薬物の使用は、06年から11年にかけて毎年7000〜8000件発覚している。軍隊内部の薬物使用が深刻化している。
要するに米陸軍の兵士は、イラク・アフガニスタンで死傷し、生き残っても病気とけがに苦しみ、自殺に追い込まれ、酒と薬物に依存することでなんとか生き延びているという惨憺たる現状にある。米帝に対する怒り、憎悪はかつてなく高まっている。
アメリカは、建国以来二百数十年、『戦争依存症』と言われるほど侵略戦争に明け暮れて来た。そして米帝は、戦後は朝鮮侵略戦争に勝利できず、べトナム、アフガニスタン・イラク侵略戦争で敗北した。米帝は侵略戦争において勝利できないことがはっきりした。さしもの米帝も死の時を迎えているのだ。
兵士と労働者階級は米帝を打倒する以外に生きていけない時代に入った。
アメリカの階級闘争
こうした対中国・対北朝鮮に対する侵略戦争政策を取る米帝に対して、アメリカの労働運動が立ちはだかっている。
エジプト2月革命は全世界の労働者階級を激励した。
直後、ウィスコンシン州の公務員労組破壊立法に反対する州議事堂占拠闘争が始まった。10万人が議事堂を包囲し、教職員組合は山猫ストを行った。ウィスコンシンの闘いは全米にインパクトを与え、ILWU(国際港湾倉庫労働組合)ローカル10は連帯し港湾封鎖を行った。
だが、ウィスコンシンの闘いは、既成指導部によって州議会議員のリコール運動=民主党支持運動へとねじ曲げられ、公務員労組破壊立法の発効を許してしまった。
ここでアメリカ全体の先頭に立ったのが、西海岸ワシントン州ロングビュー港のILWUローカル21だった。
TPPを推進する巨大穀物独占資本=EGTのILWU労組破壊攻撃に対し、ローカル21は徹底的に職場の実力闘争を貫き、ウィスコンシンで突き当たった壁を突破した。これに激励されてウォール街占拠(オキュパイ)運動が9月から急速に拡大した。圧倒的多数の労働者大衆が革命を要求している。
未組織労働者、非正規職、失業者も多い占拠運動が「ILWUローカル21を守れ」の一点で団結し、12・12西海岸港湾封鎖に決起した。労働者自身の革命的力によって闘えば、あらゆる怒りを一つにできることが証明された。
2月7日、アメリカのILWUローカル21組合員はEGT社穀物倉庫と輸出用船舶で就労し、スト破り要員は排除された。ローカル21は職場の団結・実力闘争を基礎にして、全米・全世界の階級闘争の焦点になり、ついに歴史を動かしたのだ。この間の労働運動の大後退を逆転させる、歴史的な大勝利だ。こうした階級的労働運動の前進が、アメリカの反戦闘争の土台になっている。
第2章
脱落日帝の日米安保堅持――新自由主義が全面破産
世界大恐慌の下で、帝国主義の「最弱の環」である日帝は、帝国主義として脱落している。新自由主義にしがみつきウソとペテンをふりまいて推進してきた国策としての原発政策が、3・11福島第一原発事故によって大破産した。
日帝は、福島第一原発事故に対して、まったく対応できなかった。事故が拡大するのを止めることができなかった。原発は4基すべてが水素爆発(3号機は核爆発といわれている)し、膨大な放射能を噴出させた。周辺に放射能は拡散したが、日帝は住民への避難などの対策においても無策を繰り返し、多くの人命を奪い、大量の被曝を強制した。
原発という国策が大破産した。安全神話が崩壊し、ウソがばれ、国家の権威が総崩れになった。フクシマの怒りは根源的である。日帝と東電を徹底的に断罪し、責任を追及しなければならない。
米帝は、3・11の大地震・大津波・原発事故への対応で、「トモダチ作戦」を展開し、日帝に帝国主義としての力量の違いを見せつけた。日帝は、米帝の前にはいつくばるしかなくなった。
新自由主義の大破産が世界大恐慌を爆発させ深化させている。世界経済の分裂化・ブロック化、帝国主義・大国間の争闘戦が激化し、そのつぶし合いに入った時に、日帝は帝国主義から脱落し、全矛盾を日本の労働者人民に転嫁する以外にない。
日帝は、戦争と日米安保、核武装、原発、そして大失業と外注化、非正規化などに延命を求めている。消費大増税と原発再稼働に政治生命をかけている。それは労働者人民に死ねと言うに等しい攻撃だ。労働者人民は生きるために、日帝を打倒する以外になくなった。労働者階級が社会の主人公として労働組合を甦らせ、国家権力を握ることが求められているのだ
野田の施政方針演説
野田首相は、1月24日に施政方針演説を行った。その中で「アジア・太平洋地域の安定と繁栄を実現するため、日米同盟を基軸としつつ……この地域の秩序とルールづくりに主体的な役割を果たしていくことがわが国の基本である」と言っている。
さらに「日米同盟は、わが国の外交・安全保障の基軸にとどまらず、アジア太平洋地域、そして世界の安定の公共財です」「普天間飛行場の問題についても、日米合意を踏まえ、引き続き沖縄の皆様の声に真摯に耳を傾け、誠実に説明し理解を求めながら、沖縄の負担軽減を図るために全力で取り組みます」
日米安保は「アジア・太平洋」にとどまらず「世界の安定の公共財」などと対象領域を世界に拡張している。そして日米安保は絶対的なものであると主張し、ゆえに普天間基地問題については、日米合意を踏まえ、沖縄の声を聞くが、あくまでも日米合意の枠内での「誠実な説明」をし「ご理解」を求めていくと。日米合意の枠外の声であれば、それは問題外であり、切り捨てていかざるをえないと言う。
これが日帝ブルジョアジーの基本的立場である。沖縄の声がどうであろうと日米合意をすべてに優先させると傲岸不遜に言い放っている。
日米同盟こそ、戦争の元凶であり、米帝のあらゆる侵略戦争を支えてきた。50年代初頭の朝鮮侵略戦争、50〜70年代ベトナム侵略戦争、91年イラク・中東侵略戦争、01年アフガニスタン侵略戦争、03年イラク侵略戦争で日米同盟は多くの人々を虐殺した。そして恒常的な朝鮮侵略戦争の態勢、中国への侵略戦争の態勢、アジア諸国への侵略戦争の態勢を取り続けてきた。
沖縄は日米戦争の最終局面における「本土防衛の捨て石」とされ、沖縄戦において、「鉄の暴風」と言われる艦砲射撃を受け、米軍に追われ、日本軍に「集団自決を強制され」、塗炭の苦しみを強いられた。戦後は、天皇によって米帝に「売り渡され」、占領を継続され、多くの土地を米軍基地に奪われた。戦後一貫して、米軍基地の島とされ、72年ペテン的「返還」以後も米軍基地に苦しめられてきた。
その日米安保を、野田は、世界の「公共財」だなどとぬかしている。何が「公共財」だ。日米安保は、新自由主義の最大の武器だ。日米の帝国主義ブルジョアジー(大資本家)の強盗集団が、世界の労働組合を破壊し、民営化し、労働者人民を徹底的に搾り取り、外注化して非正規労働者に突き落とし、抵抗や反乱を押さえ込む武器になっている。これほど支配階級が独占している反革命の武器はない。
(図 グアム米軍基地の増強基本計画(2010年9月現在))
日米共同文書を発表
野田の日米安保堅持の施政方針演説に基づいて、2月8日、日米両政府は、06年に合意した在日米軍再編のロードマップ(行程表)の見直しに関する共同文書を発表した。主な点は以下の通りだ。
・米軍普天間基地の代替施設を名護市辺野古に移設する現行案を唯一有効な案として堅持する
・在沖縄海兵隊のグアム移転と沖縄本島南部にある米軍の5施設・区域の返還を普天間移設と切り離して先行させる
・今後数カ月以内に再編見直しの結論を出す
・日米同盟を強化。米国の新国防戦略を日本側は歓迎する
日米帝は、あくまでも普天間基地の名護新基地への移設を進めることを米帝と確認した。野田は「沖縄の声を聞く」と言うがまったくのウソっぱちだ。沖縄の声は、普天間基地即時全面撤去だ。名護新基地建設絶対反対だ。沖縄のすべての米軍基地の即時全面的な撤去だ。
これまでの、普天間基地を返還して欲しければ名護新基地建設を認めろ、海兵隊のグアムへの移転をして欲しければ名護新基地を認めろ、本島南部の5施設・区域を返還して欲しければ名護新基地を認めろというパッケージ論を放棄したのだ。
もともとこんなインチキなパッケージ論は、沖縄の労働者人民の闘いによって破産していたが、米帝はパッケージ論を言ってる場合ではなくなったのだ。
米軍再編の内容は、今後数カ月で決めるとしている。すでに米軍岩国基地に在沖縄の米海兵隊1500人を移駐させたいという策動もあるが、岩国の人民の怒りを買っている。
日米安保強化、米軍基地強化が人民に何をもたらすのか。戦争と基地被害である。日米安保粉砕、基地撤去、国際連帯で闘うことが労働者階級の立場だ。
米新国防戦略を歓迎
そして重大なことは、最後の項で、「日米安保強化、米新国防戦略を歓迎する」としているところだ。
「米新国防戦略を歓迎する」ということは、何を意味するのか。
米新国防戦略とは、米帝の対中国対峙・対決戦略であり対中国侵略戦争を構え、実行する路線だ。アジア太平洋の諸国をこの路線に巻き込んで、軍事ブロックを形成し、中国を軍事的にたたきつぶしていく路線である。その路線の中心に再び沖縄を、沖縄の米軍基地を据えようとしている。
野田は、いわば日帝の戦後史を画するような、重大な対中国侵略戦争路線を、この一言で表現し、「日米安保は大切です」とか言って、日本の、とりわけ沖縄の労働者人民に強制しようとしている。
第2次世界大戦の大惨禍に苦しみ、今は3・11の福島第一原発事故の大惨禍に苦しむ日本の労働者人民は、このような大暴挙を絶対に許すことができない。
では、日帝は対中国侵略戦争への加担・協力をどう考えているのか。
日帝・自衛隊の代弁者・森本敏が昨年12月7日に産経新聞の「正論」で「『空・海戦闘』に応じ防衛努力を」と以下のことを述べている。
「南シナ(ママ)海や東シナ(ママ)海に進出する中国の接近・領海拒否戦略に対応できる態勢を取る」
「沖縄を含む南西諸島は第1列島線を越えてくる中国を阻止する前線地域であり、ASB(エアシーバトル)構想に伴う日米間の相互運用性を強化するため、この地域の防衛態勢を強固にするのは日本の役割である」
「日米両国で基地、施設の共同使用を拡大しつつ、基地インフラを確保し、情報、警戒、監視の機能を強めることは、日本の重要な役割である」
「緊急時における米軍への支援・協力を充実することもまた、待ったなしであり、そのために、周辺事態法の改正や日米韓の防衛ガイドラインの策定に速やかに着手すべきである」
日帝は、すでに新「防衛計画の大綱」(10年12月17日閣議決定)、「中期防衛力整備計画」(同)、「防衛白書」(11年8月2日閣議決定)、「防衛力の実効性向上のための構造改革推進に向けたロードマップ」(11年8月)、そして12年度防衛予算などで日米安保強化・対中国侵略戦争への意図をむきだしにしていた。
島嶼防衛を口実に対中国侵略戦争を措定し、南西諸島に陸自と空自を配備し、侵略拠点を最前線基地として構築し、対中国緊張激化・戦争に備えた物資・人員の事前集積展開を統合機動運用していくことである。
与那国島の自衛隊配備・拠点化は、対中国侵略戦争において、中国の機雷を除去し、米艦隊の自由な作戦行動を確保すると同時に、大型艦の入港が可能な石垣港も含め先島諸島全体を前方展開の重要拠点とするためのものだ。さらに先島諸島への陸・空自部隊配備の準備が推し進められている。防衛省は与那国島基地建設用地取得費15億円を計上している。
次期戦闘機にF35を選定
日帝は昨年12月20日、安全保障会議で次期主力戦闘機(FX)に米ロッキード・マーチン社製のF35を1機あたり約99億円で調達する方針を決めた。今年度予算に4機分(約400億円)を計上し、最終的に42機を配備するという。
ノース米太平洋空軍司令官は、F35はエアシーバトルを支える主要兵器の一つとし、「日本がF35を調達することで米軍との相互運用性を強化することになる」と述べた。
日帝・自衛隊のF35の選定はエアシーバトルのためであり、中国侵略戦争用の殺戮兵器としてある。
F35ライセンス生産を行うのは三菱重工業で、国産化するのは主翼、尾翼、後胴で機体の4割。最先端の軍事技術を獲得したいのだ。しかし生産数が少ないために国産化率が高いほど価格は上がり、1機99億円から150億円になるとも言われる。
とんでもない高額な買い物をしている。軍事産業のためだけのものだ。
1月26日、パネッタ国防長官は国防費削減計画の中で、開発遅延と価格高騰が問題視されている次世代ステルス戦闘機F35について、「大量取得する前に、より多くの試験と開発を完了させる」と述べ、試験開発を優先させて、調達ペースを遅らせることを明らかにした。
量産機のF35は06年に初飛行し、現在でも開発は継続中である。アメリカ空軍への納入は11年から開始され、初期作戦能力獲得予定は17年後半以降となっている。11年5月時点で開発総額は3850億j(31兆円)に達している。米軍はF35を約2440機(1機100億円として24・4兆円)を配備する計画だという。すべてが対中国のエアシーバトルのためだと合理化しているのだ。
日米共同演習
日米共同演習はエアシーバトルを戦う軍事演習になっている。
1月24日から2月6日まで、兵庫県の陸上自衛隊伊丹駐屯地で行われた日米共同方面隊指揮所演習「ヤマサクラ61」は、日本侵略を想定したシナリオで行われた(指揮所演習は実動演習とは異なり、部隊を動かすのではなく、コンピューター上で部隊を動かす演習)。
米側は海兵隊遠征旅団や陸軍の最新鋭部隊であるストライカー旅団などの各種遠征部隊、日本側は陸自特殊作戦群など双方で6000人が参加した。外国(中国を想定)部隊が侵入した離島を奪回し住民を救出するなどの各種の想定を組み合わせて演習したという。
演習区域内に、仮想の「地元自治体」との連携を把握する「現地対策本部」や、「模擬記者会見場」などを設置し、自治体や民間との連携に力点を置いた。
米軍や自衛隊が対中国侵略戦争の最前線に出動している時に、後方の日本本土での自治体・民間動員の訓練をしている。国家総動員的な侵略戦争を構えている。
この演習にオーストラリアがオブザーバーで参加した。対中国軍事包囲網にオーストラリアを位置づけているということである。
さらに米陸軍第8軍が初参加し、この演習で米陸軍司令部の役割を担った。第8軍は在韓米軍の主力で北朝鮮軍との対峙だけを任務にしてきた。最近までは朝鮮半島を離れることはなかった。ところが昨年から在韓米軍はアジア各地域の演習に部隊を派遣し、フィリピンやタイでの合同演習にも参加している。在韓米軍も対中国軍事包囲網の一翼を担うことになった。
米太平洋軍は、対中軍事戦略の中心に日米韓の防衛協力を据えたいとしている。在韓米軍と韓国軍をも加えようとしている。
日韓は昨年1月の防衛相会談で、交換情報の秘密を守るための「軍事情報包括保護協定(GSOMIA)と、国連平和維持活動(PKO)や共同訓練などで燃料や部品を融通し合う「物品役務融通協定(ACSA)」の締結を目指すことで一致した。日米帝の北朝鮮侵略戦争づくりの重大な攻撃だ。
3月には米韓両海兵隊が、韓国東部の浦項で計1万人を動員した大規模な実動上陸演習を行った。この演習は、米韓軍が軍事境界線に張りつく北朝鮮の大部隊の背後に上陸作戦を敢行する態勢を取ることで北朝鮮軍に脅威を与える狙いを持っている。朝鮮侵略戦争の実戦演習だ。
米領グアムでは、2月、米豪の両空軍と日本の航空自衛隊が初の3国共同航空訓練をしている。これも対中国軍事包囲網の一環である。
自衛隊の南スーダン派兵
日帝・野田政権は昨年11月1日の閣議で南スーダンでの国連平和維持活動(PKO)への陸上自衛隊施設部隊の派兵を決定した。これを受けて一川防衛相は同日、陸自に派遣準備に入るよう指示した。
2月19日、中央即応連隊を中心とする120人が出発し、現地は先遣隊を含め190人規模になった。5月頃に施設部隊を投入しようとしている。
南スーダンでは10月末に政府軍と反政府組織の衝突で75人が死亡した。政府・防衛省は今回の南スーダンPKO派兵を通してPKO協力法の参加5原則の武器使用制限撤廃を狙っている。
野田政権は、日米同盟政策を対中国対決政策としてエスカレートさせている。南スーダンPKO派兵はその一環だ。「集団的自衛権の承認」などの軍事政策上の重大な転換点としても位置づけている。
昨年7月の「南スーダン共和国」独立の本質は、スーダン南部の石油資源をめぐっての米英帝国主義による中国スターリン主義などに対する争闘戦、アフリカ侵略・再分割戦である。
スーダンでは長年、アラブ・イスラム系の北部が主導するスーダン政府と黒人・非アラブ・非イスラム系の南部の自治・分離独立運動(スーダン人民解放軍が主導)との内戦が続いてきた。米英などの帝国主義はスーダン国内の「宗教対立」をあおり、隠然たる政治的軍事的介入で南北の地域分断を図ってきた。その中で07年、政府軍は西部のダルフール地方で南部系の人民を大虐殺するに至った。
米欧帝国主義は200万人の犠牲者を出した内戦に「人道主義」の名で公然と介入し、スーダンから南部を分離独立させる政策に踏み切った。米英、イスラエルは昨年1月の国民投票による南スーダン独立を真っ先に支持した。
スーダンはアフリカ有数の産油国であり、レアメタルなどの埋蔵も豊富だといわれる。ここ数年、中国スターリン主義がイスラム主義を強めたスーダン政府を支持、南部の石油利権の獲得に乗り出した。これに危機感を抱いた米英帝国主義が内戦と南スーダン独立問題への介入を激化させたのだ。
日帝の南スーダンPKO派兵は米英帝国主義と中国スターリン主義によるアフリカの資源・勢力圏をめぐる争闘戦と再分割戦への参入であり、侵略戦争そのものだ。絶対反対である。
日帝・野田は、さらに軍事・治安の領域で凶悪な攻撃をかけている。
藤村修官房長官は昨年12月27日、武器輸出を事実上全面禁止している武器輸出三原則について、国際共同開発・生産への参加や平和貢献・国際協力での装備品供与を例外として認める談話を発表した。 政府はこれまで官房長官談話などで弾道ミサイル防衛(BMD)に関する日米共同開発など個別に例外を設定してきたが、談話では「包括的に例外化措置を講じる」と明記し、1967年に佐藤内閣が三原則を表明してから初めて抜本的な緩和を強行した。
日帝は、3月19日、「武器輸出三原則」緩和を受けて、中東のイエメンに対し、治安情勢が安定すれば海賊対策を支援する平和構築などの目的で「武器」に該当する巡視艇を無償で供与する方向で検討を進めることとした。これはあからさまなイエメンに対する軍事介入である。
さらに野田は、独立行政法人「宇宙航空研究開発機構」(JAXA)の設置法(JAXA法)を改悪し、宇宙開発を平和目的に限定する項目を削除する方針を固め、通常国会に改悪案を提出した。ミサイル防衛(MD)の精度向上に向け、偵察衛星や早期警戒衛星の研究開発が可能となり中国の衛星攻撃兵器(ASAT)開発にも対抗できるようになる。エアシーバトルそのものだ。
さらに野田は、「秘密保全法案」(仮称)の成立を目指している(今国会ではひとまず断念)。外交・安全保障など国家の「特別秘密」を漏らした国家公務員らへの罰則を「10年以下の懲役」とする方針を固めた。日米相互防衛援助協定(MDA)に伴う秘密保護法に準じる措置。政府は国会議員に守秘義務を課すことも検討している。国家の機密に接する野党を縛りつける法律だ。これでは外交・安保・治安などで野党国会議員は質問もできないことになる。とんでもない治安弾圧法だ。
秘密保全法案では、(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全と秩序の維持の3分野で特に秘匿すべき情報を「特別秘密」に指定。対象は、機密情報に接する可能性のある都道府県警察や、ロケット開発など安全保障に関わる独立行政法人、民間事業者、大学にも広げるとされている。反原発闘争の巨大な爆発を押さえ込むのが最大の狙いだ。 さらにエアシーバトルで、日本全土が基本的に戦争状態に入るということだ。米帝が9・11で対テロ対策法として愛国者法を制定して、テロ容疑者の無差別逮捕・勾留を推進したように、エアシーバトルは、日本の国内を戦時下の監視社会に置くものとしてある。改憲攻撃と一体のものだ。
世界大恐慌が底なしに深まり、新自由主義への怒りと闘いがエジプト革命を頂点に全世界に広がっている中で、日本階級闘争はその最先端で闘ってきた。何よりも国鉄決戦と反原発闘争で新自由主義と対決し、階級的労働運動を発展させ、プロレタリア革命への道をこじ開けるために奮闘している。3・11福島県民大集会の巨万の決起の地平から、外注化阻止・非正規職撤廃をかけた闘いに労働組合を軸に総決起しよう。
第3章
沖縄を革命の火薬庫に――辺野古新基地建設阻止へ
辺野古に新基地は絶対に造らせない
野田政権は最初から日米安保同盟の維持・強化を基本路線として臨んでいる。09年鳩山政権になって対米対抗性を押し出そうとしたが、それは米帝に徹底的にたたきのめされた。鳩山は「抑止力の重要性」を認めて沖縄に基地を押しつけて退陣した。
続く菅も野田も自民党以上の日米安保同盟絶対でひたすら基地を沖縄に押しつけるために立ち回っている。
昨年9月21日の日米首脳会談でオバマは06年5月のロードマップの履行を迫り、野田もこれを受け入れた。ここが転換点となった。それ以降野田政権は次々と閣僚を沖縄に送り込み、アセスメント(環境影響評価)の年内提出を通告し、辺野古移設の推進を公言した。さらに10月25日に来日したパネッタ米国防長官は、日本政府に埋め立て申請を早期に行うよう要求。27、28日と連続で仲井真知事と野田が会談したのも異例だった。
11月28日、沖縄・辺野古新基地建設のための環境影響評価(アセスメント)の現地責任者である田中聡・沖縄防衛局長が、評価書の提出時期を政府が明言していないことについて、「これから犯す前に犯しますよと言いますか」などと、言語道断の暴言を吐いていたことが明らかになった。野田は、翌29日、田中を即座に更迭した。あくまでも辺野古新基地建設を強行するためだった。
沖縄防衛局は、12月26日、アセスメントの年内提出を強行した。アセスメントの提出も前代未聞のデタラメだったが、アセスメント自体がMV22オスプレイの配備や滑走路とオーバーランの長さなどに「重大な変更点」があるにもかかわらず、すべて「総じて影響は少ない」と片づけてしまっているとんでもない代物だった。
沖縄防衛局が作成したアセスメントに対して、2月8日、県審査会は航空騒音など26項目151件の意見をつけて「環境保全は不可能」と答申した。
この答申を受けて、飛行場建設事業に対して、現行計画では、「地元の理解が得られない移設案の実現は事実上不可能」とする知事意見を沖縄防衛局に提出した。3月27日までに公有水面の埋め立てについての知事意見を提出することになっている。
今後、野田の攻撃がどのように進もうとも、辺野古新基地建設は絶対に阻止できる。辺野古新基地建設阻止闘争は、15年にわたる実力闘争の中で勝利を切り開いてきた。輝かしい闘いだ。今も米日帝国主義の前に立ちはだかっている。それは米日帝の新自由主義攻撃との闘いの最先端の攻防として日々勝利を刻印しているからだ。
海兵隊のグアム移転縮小
2・8日米合意に基づく、在日米軍再編計画の見直しを巡る日米協議が沖縄を無視して進んでいる。
2・8日米合意で、沖縄の海兵隊移転に関する見直しは、(1)規模は8000人のまま、(2)グアム移転の規模を減らし、残りはハワイやオーストラリア、フィリピンなどに回す、(3)普天間基地の移設を待たずにグアム移転を先行させるという3点である。
日米協議で、米政府は、沖縄の海兵隊、約8000人を沖縄からグアムに移転させる計画だったが、軍事予算の大幅削減を迫られ、規模を約4700人に縮小した。残りの約3300人をハワイやオーストラリア、フィリピンに配備し、対中国軍事包囲網を築こうとしている。ただしこの3300人の配置は決まっていない。自衛隊の南西配備も含めて配置を打ち立てようとしている。
沖縄の海兵隊は、第3海兵遠征軍(3MEF)の指揮下に地上戦闘部隊の第3海兵師団、航空戦闘部隊の第1海兵航空団、兵站戦闘部隊の第3海兵兵站群、主力部隊の第31海兵遠征部隊が配備されている。
当初は、第3海兵遠征軍司令部をグアムに移転させる方針だったが今回、それを引っ込め、沖縄に残留させる。
沖縄海兵隊の主力である第31海兵遠征部隊(31MEU、約2200人)を残留させる。31MEUは1年のうち半分程度を洋上で展開しており、地上戦闘部隊に比べて沖縄本島に駐留する期間が短い。揚陸艦に乗り、上陸作戦に常時備え、朝鮮侵略戦争に即応し、対中国の侵略戦争にも真っ先に対応する部隊とされている。
沖縄に駐留する第3海兵師団の地上戦闘部隊の大半(戦闘要員3000〜4000人)規模をグアムなど国外に移転させることを打診しているという。
第3海兵師団は第3海兵遠征軍の地上戦闘部隊で、要員は5000人位。キャンプ・コートニー(うるま市)に司令部を置き、主力の第4海兵連隊はキャンプ・シュワブ(名護市)に駐屯している。第12海兵砲兵連隊はキャンプ・ハンセン(金武町など)に配備されている。第3海兵師団は、普天間基地からヘリに乗り込む戦闘部隊である。
06年の米軍再編ロードマップ(行程表)では、沖縄の司令部要員8000人をグアムに移転させることで合意したが、米帝は10年に方針を変更し、海兵隊の戦闘部隊の一部を含めることに転換していた。
さらに米帝は、沖縄の第1海兵航空団司令部約1300人を岩国基地に移転できないかを打診してきたが、日帝は地元の怒りを恐れて拒否した。
嘉手納以南の米軍施設・区域の返還について、防衛省は嘉手納以南の米軍施設・区域の返還は、「あくまでも在沖海兵隊のグアム移転が前提になっている」と発表した。
以上のことからも在沖縄海兵隊のグアム移転は、沖縄の米軍負担軽減とはまったく関係ないことが分かる。すべてが米帝の新国防戦略の下でそれに都合がいいように計画されているのだ。
米帝は、対中国侵略戦争において、沖縄が中国の弾道ミサイルの射程距離内にあることを見据え、海兵隊の戦闘部隊の分散化を図っている。同時に沖縄の基地強化をさらに徹底的に推進しようとしている。第3海兵遠征軍司令部を沖縄に残すのはそのためだ。さらに米帝は普天間基地の補修費用、そして名護新基地建設を野田に否応なく迫っている。
日帝・野田は、日米安保強化をもって自衛隊を全面的に動員しようとしている。自衛隊の南西拠点化を推進している。八重山諸島の与那国島へ陸自沿岸監視部隊を配備しようとしている。さらに石垣島、宮古島にも自衛隊の配備を画策している。
沖縄を対中国侵略戦争の最前線基地にしては絶対にならない。
(図 日米が合意していた米軍再編ロードマップの概要)
八重山諸島への自衛隊配備と教科書問題
八重山諸島の与那国市、竹富町、石垣市、宮古諸島の宮古市などに自衛隊の実戦部隊を配備し、八重山列島や宮古列島を日米帝国主義の北朝鮮・中国侵略戦争の最前線拠点とする攻撃がある。
その突出した先兵が、10年3月に石垣市長となった自民党系極右・中山義隆だ。9月の市議選で自民党が与党となり、10月には市議会で日本共産党を含む満場一致で「尖閣諸島」(中国領・釣魚台)上陸決議を採択し、上陸許可を菅政権に要請した。
中国敵視と排外主義をあおる中山市長を先兵に、自衛隊の八重山配備が工作されていたのだ。その中山が戦争賛美・沖縄戦歪曲の「つくる会」系教科書を導入しようと玉津を石垣市教育長に据えたのだ。
石垣市の玉津教育長が8月23日に八重山採択地区協議会(諮問機関にすぎない)を開き、教員、保護者、住民がこぞって反対している育鵬社版公民教科書を採択するという答申を独断専行で決定した。その後、9月8日に石垣市、与那国町、竹富町の3市町の教育委員全員による協議が行われ、育鵬社ではなく東京書籍版の教科書を採択することを決定した。これこそがあらゆる意味で正しい、正式の決定だ。
ところが、これに対して石垣市と与那国町の両教育長が独断で文科大臣あてに出した「教育委員全員協議は無効」とする文書のみを根拠に、中川文科相は9月13日に「答申は有効だが、協議は整っていない」などと発言した。
さらに10月26日の衆議院文部科学委員会で中川は「(育鵬社版の)石垣市と与那国町に対しては教科書の無償給与の対象とし、(東京書籍を選んだ)竹富町は無償給与の対象とならないが、地方公共団体自ら教科書を購入し、生徒に無償で与えることまで法令上禁止されることではない」というふざけきった見解を示した。
東京書籍版の採択を貫いている竹富町にペナルティを科すように有償を強制する一方、石垣、与那国では教員、保護者、住民の圧倒的な反対があるにもかかわらず育鵬社版を押しつける。こんな理不尽があるか!
しかも戦時中、日本軍によってマラリア有病地へ強制疎開させられ、半数以上がマラリアに感染し、3674人もの死者を出す大惨事(戦争マラリア事件)を経験した八重山の住民にとって、自衛隊配備は絶対に受け入れられるものではない。
八重山住民(竹富町の子どもに真理を教える教科書採択を求める町民の会、子どもと教科書を考える八重山地区住民の会)の代表7人が上京し、12月7日、文部科学省に対する抗議・要請を行った。
住民代表は文科省の城井崇政務官に3万2786人分の署名を手渡し、9月8日の全員協議会の決定を認めよと迫った。この闘いは今なお続いている。
危険なオスプレイ
日米両政府は、普天間基地に配備する予定だった米軍の新型輸送機MV22オスプレイを、すぐに沖縄に配備せず、いったん7月から本土の在日米軍や自衛隊基地に12機を一時駐機させることを決めた。オスプレイに対する沖縄の怒りがあまりにも強いための策動だ。駐機場所は米軍横田基地(東京都)や岩国基地(山口県)、三沢基地(青森県)などを策動している。
10月から12機、その後24機を普天間に配備しようと画策している。オスプレイの普天間配備には、沖縄県民がこぞって反対している。
「世界一危険な飛行場」に危険なオスプレイを配備することは絶対許されない。米軍は普天間飛行場へのオスプレイ配備計画を直ちに中止すべきだ。
日本政府は米軍ヘリ沖国大墜落事故後の報告書で「ヘリは緊急時にもオートローテーション(自動回転)機能で飛行場への帰還が可能」と述べ、それを普天間飛行場でのヘリの飛行再開を認める根拠としていた。
ところがオスプレイについては、米国防総省付属機関・国防分析研究所(IDA)で1992年から17年間、オスプレイの技術評価を担当した元主任分析官レックス・リボロ氏が米下院の公聴会で「オートローテーション機能の欠如」を「重要な問題点」と明らかにした。「飛行中にエンジンが停止した場合の緊急着陸機能が欠如している。人命軽視の軍用機だ」と証言した。
日本政府も昨年7月の答弁書でオスプレイについて「全エンジンが不作動になった状態でオートローテーション飛行に移行しない場合、安全な着陸に支障を来す可能性がある」と述べている。
米ミラマー基地所属の操縦士・カリー大佐は、飛行中にエンジンが停止した場合、「ヘリモードには戻せない」と説明、回転翼が前向きのまま緊急着陸して地面に回転翼が接触した場合、機体から外れ、滑走路周辺に飛散するように設計されている。
近辺の宜野湾市内だけでも19の小・中・高校・大学が存在する普天間基地にこのような機種を配備するとは、絶対許されない。
オスプレイの事故比率について、1999〜2011米会計年度の平均事故発生件数は、開発段階を含めて10万時間当たり、3・99時間で海兵隊全体の事故率2・46を相当上回っていることが分かった。
闘う労働組合を甦らせ沖縄を革命の火薬庫に
沖縄の既成の労働運動指導部、「革新」政党はすべて「基地の県外・国外移設要求」であり、「安保粉砕・基地撤去」の闘いに根本的に敵対している。
それは帝国主義の人民分断攻撃への加担であり、基地の容認である。あたかも帝国主義と労働者人民の間の対立ではなく、本土人民と沖縄人民の間の対立矛盾であるかのようにねじ曲げ、そうすることで帝国主義を擁護している。
米軍基地は戦争のための基地であり、沖縄基地はベトナム侵略戦争、イラク・アフガニスタン侵略戦争の出撃基地として使われてきた。移設要求などありえないのだ。沖縄労働者人民もそんなことは求めていない。すべての米軍基地の即時撤去なのだ。安保粉砕なのだ。
それを「県外・国外移設要求」にねじ曲げることは絶対に許されない。
体制内勢力は「基地撤去」の断固たる闘いを帝国主義との非和解的激突となることを恐れ、何とか体制内的に収束を図ろうとしているのだ。だから問題は「基地撤去・安保粉砕」を原則的に貫く闘う勢力が沖縄の労働者階級の中で伸長し、労働運動を甦らせることが決定的なのだ。
日米安保同盟の「要石」である「基地の島」からの解放を求めて闘われた沖縄の「復帰」闘争は、全軍労の労働者の血みどろの闘いを先頭に、「基地が墓場になった」と時の米軍権力者に言わしめた非妥協の闘いだった。
そして「復帰」以降の沖縄の労働者階級人民の様々な闘い(「5・15体制」との闘い)とは紛れもなく新自由主義との闘いそのものだった。その決着をつける時代がついに到来した。
だからこそ、辺野古新基地建設阻止闘争の勝利に向かっての飛躍と試練もまた、全世界の労働者階級の課題とまったく同じである。すなわち階級的な労働運動を職場生産点から甦らせ、闘う労働組合を沖縄の階級闘争の最前線に登場させるということだ。
とりわけ、民営化され、外注化された職場で偽装請負のもとで働かされている多くの非正規雇用の青年労働者の、この現実を覆していく闘いが、辺野古新基地建設を阻止する新たな反戦反基地闘争を爆発させていくだろう。
世界大恐慌と3・11情勢下においてこそ、沖縄は「革命の火薬庫」としてその闘いの真価が問われている。
国鉄決戦勝利・反原発・反失業の闘いが辺野古新基地建設攻撃を打ち破る道だ。今年の「復帰」40年をめぐる決戦は、辺野古を最先端の攻防点として21世紀の沖縄を決する全面的な階級決戦となった。その勝利へ、沖縄と全国の労働者はプロレタリア革命の勝利に向かって階級的労働運動路線の下に闘おう。5・15沖縄闘争を闘おう。
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月刊『国際労働運動』(429号4-1)(2012/05/01)
■討議資料 中国が米国の「統合エアシーバトル」を批判
2011年12月14日 楊毅・国防大学研究員、海軍少将。人民日報海外版掲載
「統合エアシーバトル」構想は2010年の米国防総省「4年ごとの国防評価報告書(QDR)」でゲーツ前国防長官が「接近阻止・領域拒否」(A2/AD)に対処するための新たな作戦理論の構築を海軍、空軍、海兵隊に指示したのが始まりだ。翌11年8月12日には同構想の実行の深化を象徴する「エアシーバトルオフィス」(ASBO)が設立された。
10年に統合エアシーバトル構想を打ち出した際、米国は地域の大国が強化を続けるA2/AD能力に対処するためのものと説明した。公に中国を名指しこそしなかったが、有識者には中国軍の近代化に矛先を向けたものであることは明々白々だった。
近年中国は経済力と科学技術力の高まりに伴い、それに合わせて国防と軍の建設も進め、先進兵器も開発している。こうした兵器は完全に防御的な国防政策上の必要によるものであり、性能面でも米国を頭とする西側先進国に遠く及ばない。だが西側諸国、特に米国と日本はこれを強く警戒し、誇張している。 中国は積極防御の国防・軍事戦略を遂行している。われわれは戦略において、これまで先制手段に出たことも、最初に発砲したこともない。だが大胆不敵にも中国の国土を侵略し、国益を傷つけようとする勢力があれば、それが誰であれ、自衛反撃を行い、耐えがたい代償を支払わせることを辞さないし、その能力もある。これには必要な兵器の発展とともに、防御の深化が必要だ。世界のどの国にもその権利と理由がある。
米国が中国のA2/AD能力の向上を口実に「統合エアシーバトル」という新たな構想を打ち出し、かつ着実に実行しているのは、中国の玄関先で米軍が好きなように行動できるようにするため以外に、より重要な企てとして、未来の軍事競争における新たな戦略上の要害の高地を奪うことがある。冷戦期、米国はソ連の強大な地上装甲部隊への対応を理由に、「統合エアランドバトル」構想を打ち出し、大量の先進兵器を開発した。現在は軍事面での米国の絶対的な優位性を確保するため、「統合エアシーバトル」構想の下、無人機、電子戦ミサイル、サイバー戦、指向性エネルギーなど新たなコンセプトの兵器の開発に力を入れている。これが新たな国際軍拡競争を招くことは確実だ。
さらに深刻なのは、米国が「統合エアシーバトル」構想にかこつけて、冷戦的色彩を帯びた新たな軍事同盟体制を築こうとしていることだ。「統合エアシーバトル」構想は地域の全同盟国の参加、構想に沿った新たな基地ネットワークと任務分担体制の構築を必要とする。こうなると地域各国間の戦略面の相互信頼が破壊され、猜疑と誤解が増え、安全保障関係の相互作用はマイナスの悪循環へと向かうだろう。
グローバル化の時代において各国の利益は日増しに重なり合い、互いに依存している。気候変動、テロ、国際犯罪、大量破壊兵器拡散、世界金融危機へのいずれの対策においても、大国を始めとする各国の団結と協力が必要だ。こうした大きな戦略的背景の下で、「統合エアシーバトル」構想を打ち出し、その推進に拍車をかける米国の行動は、平和・発展・協力という時代の理念に全く逆行している。
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月刊『国際労働運動』(429号5-1)(2012/05/01)
■Photo News
●イスラエルで鉄道民営化反対スト
(写真@A)
3月13日、イスラエルの鉄道労働者は鉄道の民営化・外注化に反対して貨物部門のストライキに入った。
(写真@ストで止まった電車)このストライキはカッツ運輸大臣
(写真A左、右はネタニヤフ首相)が3月5日に発表したイスラエル国鉄の検査修理部門、貨物部門、不動産開発部門の分割と民営化に反対して行われた。鉄道労働者の怒りは激しく、御用組合ヒスタドルートの制動を排して、ストライキ闘争はさらにエスカレートする様相を見せている。
●中国富士康で大ストライキ
(写真BC)
3月13日、中国山西省の省都である太原市の台湾系企業・富士康(FAXCONN)の工場で労働者がストライキに立ち上がり、周辺の道路を封鎖して警察部隊と激突、400人の労働者が逮捕され、多数の負傷者が出た
(写真BC)。この工場は富士康の受託生産を行っており、過酷な労働と低賃金に対して労働者の怒りが充満していた。
●米・サクラメントで教育費、社会保障費の削減に抗議する闘い
(写真DE)
3月5日、学生、教師、労働者や、オキュパイ運動の支援者たちが、教育予算や、社会保障予算の削減に抗議して、サクラメントのサウスサイド・パークから州議会にむかって抗議のデモを行い、州議会前で数千人の抗議集会を行った
(写真DE)。
●ニューヨークでオキュパイ運動に弾圧
(写真FG)
3月17日、ニューヨークでオキュパイ運動開始から6カ月を記念して大規模なデモが行われた
(写真FG)。警察はオキュパイ運動の解体を狙って弾圧を強化し、デモ中とデモ終了後に100人を逮捕した。だが、オキュパイ運動はこのような弾圧を跳ね返してさらなる闘いの強化を全国に訴えている。
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月刊『国際労働運動』(429号6-1)(2012/05/01)
■世界経済の焦点 ギリシャへの支援策は破綻
緊縮策に連続ゼネストで反撃する労働者階級
帝国主義のあらゆるあがきにもかかわらず、大恐慌の進行・深化・発展の大きな流れを押しとどめることはできない。
□第2次支援策でも財政赤字は膨らむ
ユーロ危機は、ギリシャ第2次支援策の合意で一服したと言われている。果たしてそうか。
2月21日にユーロ圏財務相会合でギリシャ第2次支援が合意された。
その内容は、@EUとIMFが1300億ユーロ(約13兆6500億円)を支援する、A民間債権者が保有するギリシャ国債の元本を53・5%削減する、BECB(欧州中央銀行)と各国中央銀行が、ギリシャ国債保有に伴う利益を放棄する、C欧州委員会が常駐して財政再建を監視する、Dギリシャの債務の対GDP比率を、現状の160%から2020年に120・5%に引き下げる、というものである。
ギリシャの累積債務3500億ユーロ(約37兆円)が2450億ユーロに削減される。3月20日に切迫している国債大量償還(145億ユーロ)がひとまず乗り切れるというだけであり、その先の見通しは何一つない。
ギリシャの債務再編構想は、2020年の政府の債務残高をGDP比120%に引き下げれば、その後は国債自力発行ができるはずだという願望から決めた、数字あわせでしかない。このプランの下にギリシャ労働者階級を死に追いやろうとするものだ。
計画の前提となる欧州委員会の2011年のギリシャ経済の見通しは、2011年春の時点の予想はマイナス3・5%であったが、秋にはマイナス5・5%。実績はマイナス6・9%である。およそギリシャの現実を踏まえたものではない。
ギリシャのGDPは2008年以来マイナス成長で、ピーク時の07年を13%も下回っている。12年もマイナス見通しで、5年連続マイナス成長である。GDPが減れば、債務額が同じとしても対GDP比率は高まる。緊縮財政によって景気が悪化し税収も減少し、財政赤字は毎年2桁近い増加である。累積債務比率は08年の113%が12年には198%とほぼ倍増となる。
ギリシャの財政再建計画は、金利負担を除いたプライマリーバランスを、10年のGDP比マイナス5%を14年にはプラス5%の黒字にすることになっており、とうてい成り立たない。
その行き着く先は第3次支援である。第2次支援を巡ってドイツ国会などで大きな抵抗があったことからすれば、第3次支援が実現する保証はない。強行すれば主要国をはじめいくつかの政府が倒れるだろう。ユーロの崩壊は不可避だ。
(表 IMFによるギリシャの実質GDP成長率予測(%))
□デフォルトで民間債権者負担は
第2次支援で大きな争点になったのは、民間債権者の保有するギリシャ国債の元本削減問題であった。
ギリシャ国債がデフォルトすると、デフォルト保険であるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が発動され、金融が大混乱してしまうので、CDSを発動しない自主的な債務削減が必要だとされた。しかし、結局はCDSの発動となった。
昨年7月段階の案は民間負担は2割程度とされたが、最終的には53・5%となった。しかし実質的民間負担は74%程度となる。額面100円のものが26円になることであって、自主的云々と言っても、状況に強いられて選択したことに変わりはない。
債務削減に応じた民間投資家は83・5%。しかし、ギリシャ政府は参加率95%予定としており、3月9日に債務強制削減を決定し、債務削減に自発的に同意しない債権者にも強制した。これを受けて国際金融団体は3月9日にギリシャ国債をデフォルト認定し、CDSの契約者への保険金支払いが必要とした。
08年のリーマン・ショック時には、CDS発動を避けるためにFRBは直前に世界最大の保険会社AIG救済を余儀なくされた。それほどの大問題にもかかわらず、今回CDS発動を必要とする債務強制削減に踏み切ったことは、いかにギリシャ問題が危機線上にあるかを示している。
ギリシャ国債デフォルトを受けて、2月に12%前後だったポルトガル国債の利回りが14%弱にまで上昇した。ギリシャの次はポルトガルが焦点になっている。
□ゼネストに追い詰められた第2次支援策
ギリシャ第2次支援の必要性は昨年5月に明らかになった。第1次支援は10年5月から13年4月までの3年間に1100億ユーロを分割支援する計画であるが、それは12年からは、ギリシャが市場で資金を自主調達する前提であった。ところがギリシャ国債の利回りが高騰し、市場で資金調達できないことが明らかとなり、第2次支援は不可避となった。
それ以来、第2次支援策が確定するまで10カ月を要した。その間、世界大恐慌の深化で支援必要額は増大し、ギリシャのゼネストは繰り返し闘われた。昨年11月ついにギリシャ労働者階級はパパンドレウ政権を吹き飛ばした。
昨年の7月、10月、12月と、第2次支援策がまとまると報道されながら、最終決着は2月21日となった。
7月案は総額1090億ユーロ、民間負担を20%程度としていた。8月のアメリカ国債の格下げを契機に危機はイタリア、スペインに広がり、ギリシャのみではなく包括支援が必要となった。
10月には、@ギリシャ国債の民間負担を50%に拡大し、AEFSF(欧州金融安定基金)拡大とIMFからの融資によって1兆ユーロ規模のユーロ支援の枠組みを作り、B欧州銀行対策を強化することが検討された。しかし、IMF資金を動員する計画に米帝が反対し、一方ギリシャの労働者階級がゼネストで緊縮策に大反撃した。
ユーロ危機の防衛にIMFの資金枠を拡大して対応しようとした欧州案は、EUがまず実践すべきだと拒否された。どん詰まりの危機の中で、ECBのドラギ新総裁による欧州銀行への巨額融資(バズーカ砲と呼ばれる)によって、ギリシャ、イタリア、スペインへと広がるユーロ危機はひとまず繰り延べされた。中銀による国際購入にまで踏み込めてはいないが、「最後の貸し手」のようにあがいている。
ECBは、EU条約によってユーロ圏各国を直接支援できないとされている。ECBは、いわば脱法的に欧州金融機関に対して昨年12月21日と今年2月29日の2回にわたって、担保基準を緩めて期間3年間、金利1%の無制限融資を行った。第1回目は523行に4892億ユーロ、第2回目は800行に5295億ユーロ、合計1兆ユーロを超す巨額融資である。借り換え債を除くと5044億ユーロが市場に出回ったが、その一部が国債購入に回ったもようで、イタリア、スペイン国債利回りは低下した。ただ、民間貸し出しには回っておらず、過剰流動資金となっている。
FRB(米連邦準備制度理事会)のQE2(金融の量的緩和第2弾)による資金供給が世界的なインフレによるエネルギー・食料の高騰をもたらし、エジプト革命の遠因になった。ECBの巨額融資は、帝国主義間の通貨安競争を激化させ、インフレとバブルをもたらす巨大な要因となる。
□官民2大労組先頭に20回近いゼネスト
欧州連合は2月9日夜、ギリシャ与党3党の緊縮策受け入れ表明に対して、さらに@緊縮関連法の成立、A歳出削減案策定、B与党3党の約束の3条件を求めた。EUは与党3党の約束は取り付けたが、ギリシャの4月総選挙で現与党が勝利する保証はどこにもない。与党の支持率は低下しつつある。
EUとIMFはギリシャ支援計画にあたって緊縮策の強化を要求し、その都度ギリシャ労働者階級は大反撃をたたきつけてきた。第1次支援によってIMF管理下に入ってからも官民2大労組を中心に20回近いゼネストを闘っている。
最終決着過程の今年2月も、財政緊縮策と構造改革の議会承認に反対し2大労組が7日24時間ゼネスト。10〜11日48時間ゼネスト。数十万人がデモ。12日も全土で10万人規模のデモが闘われた。
2大労組は民間のギリシャ労働総同盟(GSEE)と公務員のギリシャ公務員連合(ADEDY)。指導部は体制内政党である与党のPASOK(全ギリシャ社会主義運動)党員であるが、主要な労働組合員のPASOKからの離脱が続いている。課税強化を決めても徴収すべき公務員がストを闘っている。
これとは別に、ギリシャ共産党主導下の全ギリシャ労働者連盟(PAME)があり、動員では威力を発揮する。ソ連崩壊後のソ連派スターリニストという独特な存在で、独善的体質で大衆からは嫌われているが、10%程度の支持を得ている第3党派である。
昨春エジプトのタハリール広場や5月スペインで生まれたインディグナード(憤激)運動、アメリカのオキュパイ運動と連帯した青年運動が、下からのストライキとデモを通して勢いを増している。公的部門のストライキや占拠運動のような、中央をもたない自発的な運動、たくさんの職場における草の根的組合、新しい形をもった闘いの委員会が出現し、参加者を増やしている。
「デモはギリシャの文化ですから」「暴力がいけないとは思わないね。暴力なしに革命は起きないだろう」。こうしたことが普通に語られている。
ギリシャはナチス・ドイツとパルチザン戦争を闘い抜き、勝利寸前まで行った国だ。73年3月、軍政に反対する学生のデモが、アテネ大学の法学部を占拠し、これがきっかけになって74年に軍政が崩壊した。
最近では08年12月、16歳の青年が警官に撃たれて死亡した。アテネの下町のエクサルヒアと呼ばれる地区だった。ここは軍政権下に反政府活動の拠点となった地区で、今も「解放区」と呼ばれている。普段は警官も立ち入らない不文律ができており、そこに警官が踏み込んで発砲したために大暴動になった。
ゼネストの時はインターナショナルをはじめ、靴磨きの一日や貧しい農民の苦しみを歌った1950年代の哀調を帯びた労働歌がスピーカーから流れる。男たちがギターをかかえて「ウィー・シャル・オーバー・カム」を歌い、すごく受けている。
ギリシャ労働者は軍政打倒以降も、新自由主義による民営化、非正規化、労組破壊を許さず、労働者の生活と権利を守ってきた。これが今、贅沢だとか怠慢だとか公務員天国だと攻撃されているものの実態だ。
10年以来賃金労働者と年金生活者は30%から50%、場合によってはそれ以上の購買力を失った。30%の店舗とガソリンスタンドが閉店となった。失業率は20%を超え、若者では40%を超えて、大都市では飢餓がみられるようになり、農村では自殺が増えている。
誇り高いギリシャの労働者階級は、生き抜くために職場と地域を基礎に新自由主義と絶対非妥協で闘い、プロレタリア革命をたぐり寄せている。
(常木新一)
(写真 ストライキに決起しデモ行進するギリシャの労働者【2月7日】)
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月刊『国際労働運動』(429号7-1)(2012/05/01)
■世界の労働組合 フランス編
フランス連帯統一民主労働組合(Solidaires Unitaires Democratiques:SUD)
■概要
フランスの労働組合ナショナルセンターとして組織率で8番目に位置するのは、連帯統一民主労働組合(SUD)である。1981年に、5大ナショナルセンターに参加していない税務統一全国組合(SNUI)や食料・農業組合総連合(FGSOA)、ジャーナリスト全国組合(SNJ)などの10組合が、組合代表を送るためにG10(グループ10)という組織を結成し、SUDの母体となった。1985年に地域レベルの組織強化に着手し、1986〜87年のフランス鉄道全国協会(SNCF)のストと結びつき、またフランス銀行や航空士などの組合グループの参加で強化されていった。現在は45のグループが加盟しており、組合員数は8万人を超えた。
SUDは、ATTAC(市民のために金融取引に課税を求める会)の構成団体であり、ヨーロッパ憲法条約反対キャンペーンにも入っている。
■新自由主義反対を掲げて闘う連帯組合連合
80年代に入って社共連合のミッテラン政権が誕生すると、フランスの労働運動は労働総同盟(CGT)も民主労働同盟(CFDT)も労使協調路線をとるようになっていった。ミッテラン政権の打ち出した緊縮財政を支持したCFDTは、郵便局とフランス・テレコムの民営化に同意し、1988年に民営化に反対して闘う急進派潮流の1000人の労働者を郵便・通信・医療部門から除名した。除名された労働者によって結成された連帯・統一・民主―郵便・電信電話労組(SUD―PTT)が最初のSUDである。CFDTを脱退したランク&ファイルの労働者が次々に加盟して、その後SUD−PTTは1万2000人に組織を拡大した。
フランスの国鉄でも政府の赤字ローカル線の廃止攻撃に反対するストライキに消極的なCFDTから脱退した労働者が、1996年にSUDの鉄道部門労組SUD―Railを結成し、4年間で国鉄第3位の組合に成長した。さらに看護師などの医療職場や教員でも、闘いを求める労働者がSUDに参加する労働組合を結成している。
(写真 SUDの横断幕)
■反失業共同行動AC!
SUDは全国的に失業反対運動に乗り出し、その結果1993年に反失業共同行動(Agir ensemble contre le chomage:AC!)が結成された。
2000年代に入ると、ラファラン右翼政権が打ち出した年金制度大改悪案(フィヨン計画)の撤回を求めて、フランス全土を揺るがす大闘争が展開された。数百万規模のデモと、国鉄、電力、テレコム、金融、教育、医療、航空など主要分野で過半数をはるかに超える労働者が参加した波状的ゼネストが続いたが、SUDがイニシアティブをとって二大労組CFDTとCGTの動揺と屈服を突破し、ATTAC、AC!などの社会運動団体、さらには多くの研究者が次々と賛同して「社会の連帯」が実現した。AC!の反失業共同行動は毎月連続的に行われている。
(写真 2011年11月23日、フランス北西部バローニュで、核廃棄物の輸送列車を阻止しようとして警察と小競り合いになり、5人が拘束された)
■核廃棄物輸送阻止闘争
2011年11月26日、ドイツのゴアレーベンで高レベル核廃棄物搬入阻止の大規模な闘いが行われたが、この闘いに呼応してSUD−Rail鉄道労組が抗議行動・阻止行動に立ち上がった。鉄道労働者たちは、フランス北部のラ・アーグ処理施設からドイツの貯蔵施設に向かう核廃棄物の輸送列車を阻止するために、原発に反対する市民と共に線路を封鎖した。警察が催涙ガスや警棒を用いて鎮圧し、輸送列車はドイツへと国境を越えて行った。しかし、「反人間的な原子力に対する私たちの闘いに国境はない」と立ち上がったSUD−Railの市民との共同行動は、アメリカのオキュパイ運動や日本の反原発闘争などと同様に、今後の労働運動の新しい発展を示している。
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月刊『国際労働運動』(429号8-1)(2012/05/01)
■国際労働運動の暦 5月18日
■1980年光州蜂起■
10日間の英雄的死闘
全斗煥軍部独裁の戒厳令に対して武装決起した韓国の労働者と学生
1980年の光州蜂起は、韓国現代史のみならず現代世界史上も特筆すべき偉大な闘いだ。戒厳軍の独裁に対し、民衆が武装して徹底的に非妥協に闘ったこの闘いは、その後の韓国の87年民衆抗争、労働者大決起に連なっている。
1961年5・16クーデター以来政権を掌握し、72年「10月維新体制」以後は民衆に対する強権的弾圧体制を一層強めてきた朴正熙大統領が、政権内部の抗争から、79年10月に宴席で射殺された。5・16も10月維新も、労働者学生の闘いに対する反革命という本質を持っていた。暴力的な弾圧は朴体制の弱さを示していた。76年7月には東一紡績工場で、79年8月にはYH貿易で女性労働者が決死的な闘いを敢行していた。79年10月、釜山で学生が決起、市民が合流して放送局や区役所を破壊、釜山地域に非常戒厳令が敷かれた。全国に闘いが拡大するのは時間の問題だった。朴は民主化要求に耳を傾けず、責任転嫁しようとした金載圭中央情報部長に殺された。これ自体、人民の闘いがつくり出した情勢だった。
●革命に恐怖した全斗煥
朴正熙の死とともに戒厳令が敷かれたが、当時陸軍保安司令官だった全斗煥が急浮上し、12月12日に粛軍クーデターで軍の実権を掌握した。
街頭では、今こそ民主化を成し遂げようとする激しいデモが大々的に毎日のように展開された。20年近い圧政の歴史に終止符を打つことを人民は望んでいた。
闘いは、80年5月に入り全国で爆発的に拡大した。ソウルでは連日万余の学生大衆が警官隊と激突した。
かつての東学農民軍の闘いの拠点であり、1929年反日学生運動の地であった全羅南道光州が、最も強靱な闘いを展開した。
5月14日、全南大学と朝鮮大学の学生1万余が警官隊を突破し、道庁前広場に集まり「民主化大会」を開いた。15、16日、闘いはさらに拡大した。
17日、戒厳司令部が18日午前0時を期して非常戒厳令を全国に拡大すると発表、ソウルの各大学学生会長全員を連行、光州では学生指導部は逃れたが、民主人士が軒並み検挙された。18日未明、全南大と朝鮮大を空挺特戦団が襲撃、残っていた学生に棍棒と軍靴で殴る蹴るの暴行を加えた。軍隊は主要官公署と道路を制圧した。これに対して、学生は朝から大学周辺に結集を始め、スローガンを叫びながら軍隊と対峙、投石で闘った。弾圧は残忍極まりなく、催涙ガスとともに棍棒の殴打でバタバタと倒れた。午後になると闘いは拡大、軍と警察の暴行に怒った労働者民衆が続々と加わり始めた。
19日、闘いはさらに拡大し、バリケードが各所に築かれた。20日には、闘いの側は大型バスやタクシー、トラックなどを使って戒厳軍の阻止線に突っ込んだ。軍隊は銃撃を開始した。
●ついに道庁を占拠
21日、炭鉱のダイナマイトや武器庫の銃器などを奪取した民衆は、武装して軍と対決し、ついに、軍は道庁を放棄し撤退した。軍は一時撤退した後、光州市と外部の鉄道、道路、通信回線を遮断した。22日、陸軍部隊が包囲を完了。一方、「市民収拾対策委員会」が組織され、軍との交渉を開始したが、指導部は軍との妥協に反対した。
23、24、25日と連日、3
万〜5万の市民大会が開催された。
26日、陸軍部隊が戦車で市内に突入開始、27日、道庁の市民軍は激しい銃撃戦の後、戒厳軍に制圧された。5月31日、戒厳司令部は「民間人144人、軍人22人、警察官4人等170人が死亡」と発表(2003年の政府発表では死者207人とされる)。
光州蜂起は、革命の綱領や戦略があって闘われたものではなかった。また、革命党も組織された労働組合も不在の中でのいわば状況に強いられた蜂起だった。しかし、その命を懸けた非妥協不屈の闘いこそが、その後の韓国階級闘争の力強い発展への道しるべとなり、希望となったことは明白である。
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(写真 戒厳軍を破り全羅南道庁を占領した民衆【1980年5月21日】)
光州蜂起関連年表
1979年
10.26 朴正熙大統領射殺事件
12.12 全斗煥国軍保安司令官が軍の実権を握る。粛軍クーデター
1980年
4.14 全斗煥、保安司令官のまま中央情報部(KCIA)部長代理就任
5.1 ソウルの学生デモ開始
5.15 学生デモ拡大、全国で10万人規模
5.17 全斗煥、非常戒厳令を全国に拡大、金大中を連行
5.18 光州市内の全南大学生らが街頭デモ。政府は戒厳軍を投入して弾圧。民衆蜂起へ と発展
5.21 群衆が武器庫を襲撃し、全羅南道庁を占領。戒厳軍は市外に撤収、光州を封鎖
5.27 戒厳軍が光州市内に突入、光州市一円を制圧下に置く。市民に多数の死傷者
5.31 国家保衛非常対策委員会結成。全斗煥体制の発足
9.1 全斗煥、大統領に就任
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月刊『国際労働運動』(429号9-1)(2012/05/01)
■日誌 2012 2月
1日福島 全国農民交流集会 福島で開催
福島県二本松市で「なくそう原発!とめようTPP!全国農民交流集会」が開催された。降りしきる雪の中、続々と参加者が到着し、会場の席は約100人の農民・農業関係者らで満たされた
2日東京 動労千葉運転士登用差別事件
動労千葉の運転士登用差別事件の口頭弁論が、最高裁判所第一小法廷(櫻井龍子裁判長)で開かれた。1980〜82年にドライバーコースで国鉄に採用された組合員が、動労千葉に所属していることだけを理由に運転士に登用されなかった不当労働行為事件をめぐる裁判だ
3日大阪 関西集会、橋下打倒へ戦闘宣言
大阪市エルおおさかで「八尾北・西郡決戦勝利!更地化・強制執行粉砕!労働組合破壊を許さないぞ!道州制粉砕・橋下打倒!2・3集会」が、関西労組交流センター・八尾北医療センター労組・部落解放同盟全国連西郡支部の共催で開催された。関西各地から220人の労働者が結集し、新自由主義の先兵である橋下に八尾北・西郡の拠点攻防での断固たる戦闘宣言を発した。
4日東京 1・16最高裁判決弾劾する
全国労組交流センター教育労働者部会が、東京「君が代」不起立闘争に対する1・16最高裁判決を弾劾する声明を発した
4〜5日徳島 労組交流センター、徳島で総会
全国労組交流センターは、徳島市で第19回定期総会を開催した。星野文昭同志奪還の徳島刑務所包囲闘争と一体のものとしてかちとられた今回の総会は、交流センターの新たな歴史を切り開いた
5日徳島 2・5徳島刑務所包囲デモ
全国労組交流センターと星野さんをとり戻そう!全国再審連絡会議の呼びかけのもと、全国から600人が星野文昭同志奪還を掲げて徳島刑務所包囲デモに立ち上がった。星野暁子さんと動労千葉の田中康宏委員長らを先頭にデモに出発した。星野同志奪還へ、時代は大きく動き出した
7日千葉 三里塚第3誘導路裁判開く
千葉地裁民事第3部(多見谷寿郎裁判長)で第3誘導路裁判の弁論が開かれた。この裁判で三里塚芝山連合空港反対同盟は、国と成田空港会社(NAA)に対し、暫定滑走路・第3誘導路の許可処分取り消し、工事中止などを求めている
10日東京 星野手紙・面会国賠訴訟
東京地裁民事38部(定塚誠裁判長)で、星野面会・手紙国賠訴訟の第1回裁判が開かれた。面会・手紙国賠訴訟は徳島刑務所による星野同志との分断、権利の侵害を徹底的に弾劾し、星野同志との自由な友人面会をかちとるための闘いである
11〜12日 全国で反原発闘争
東京 11日、代々木公園には労働組合を先頭に1万2千人が結集し、集会とデモ行進を行った。作家の大江健三郎さんが、「私たちは原発を止める決意をした。それを実行に移さなければならない」と、魂から言葉を発した
広島 11日、「すべての原発いますぐなくそう!全国会議(NAZEN)ヒロシマ」結成集会が、広島平和記念資料館(原爆資料館)で開催され、会場を埋め尽くす150人が参加した
愛媛 11日、松山市内で「松山アクション」による伊方原発再稼働阻止のデモが愛媛県庁・県議会前へ向かって行われた。40人がデモに決起
島根 12日、「さよなら島根原発大集会」(実行委主催)に松江市総合体育館をいっぱいにする1300人が集まった。中心は中国5県の自治労や国労などの労働組合だ。山陰、広島、岡山のNAZENの仲間は40人で登場
北海道 12日、「フクシマとつながろう! 子どもたちの未来と命を守ろう! すべての原発を今すぐ止めよう!2・12札幌集会」が札幌市内で開かれ、各層から30人が参加した
栃木 11日、宇都宮市内で「原発なくそう宇都宮パレード実行委員会」が東電栃木支店へのデモを30人でやり抜いた
群馬 11日、高崎労使会館ホールに300人超の結集で「原発といのちを考える2・11市民の集い」が開かれた
埼玉 12日、浦和で広瀬隆氏の講演会とデモが「埼玉反原発アクション」の主催で行われた。講演会には250人が参加
静岡 11日、「浜岡廃炉☆原発全廃!in Sizuoka
−怒りの福島とつながる静岡アピール」が静岡市内で行われた。主催は「NAZEN静岡準備会」
15日大阪 八尾北医療センター売却許さぬ
大阪地裁民事12部(高橋文清裁判長)で八尾北医療センター・健進会に八尾市が明け渡しを求めた裁判が行われ、100人近くが傍聴席を埋めた。住宅明け渡し強制執行の対象となっている八尾北労組員でもある岡邨(おかむら)洋西郡支部長と辻西幸子支部書記長も先頭で闘った
16日愛媛 伊方原発再稼働させぬ
愛媛労組交流センターとNAZENヒロシマ・徳島・岡山の共同行動として、愛媛県の「原子力防災広域避難訓練」の実施に対する抗議闘争を21人で闘い抜いた
16日東京 法政大入試情宣、受験生と圧倒的合流
法大入試情宣で、法大当局による妨害を打ち破って受験生との結合をかちとった。怒りに燃えた全学連と文化連盟は法大受験の最終日、法大当局・弾圧職員に対して申し入れ行動を行った
17日大阪 八尾市への抗議闘争を打ち抜く
八尾市役所前に50人が集まり、抗議闘争を闘った。岡邨洋支部長、八尾北労組の藤木好枝委員長と灰垣美佐子書記長、末光道正八尾市議が次々とマイクを握り、八尾市を徹底弾劾、橋下をたたきのめし未来を開く戦闘宣言を発した
19日東京 ビキニデー58周年東京集会
1954年3月1日、静岡県焼津市のマグロ漁船第五福竜丸がアメリカの水爆実験で被爆した「ビキニ事件」から58年。「2・19ビキニデー58周年東京集会」が渋谷区の千駄ケ谷区民館で210人の結集で大成功を収めた。今回の集会は福島第一原発事故責任徹底追及、再稼働阻止・全原発廃炉の闘いと完全に一つの闘いとして開催された
19日千葉 三里塚、PKO派兵弾劾に立つ
三里塚芝山連合空港反対同盟の呼びかけで、南スーダンへの自衛隊PKO派兵に対し「成田からの出兵阻止!」を掲げた緊急現地闘争が闘われた。天神峰・市東孝雄さん宅の南側に位置する東峰の開拓組合道路に、反対同盟と支援の労働者・学生50人が軍事空港への怒りも新たに結集した
19日新潟 新潟でNAZENを結成
新潟で青年労働者を中心にNAZENが結成された。結成集会は、青年がすべてを準備して開催した。豪雪の中、「脱原発アクション」で知り合った青年労働者をはじめ60人が結集した。
19日長崎 長崎でNAZENを結成
長崎市内で反核学習集会(NAZEN長崎準備会主催)が開催され、「NAZENナガサキ」がこの場で正式に結成された。会場は約40人の参加者で満杯となり、被爆者の城臺(じょうだい)美弥子さんの司会で集会が行われた
19日岡山 春闘デモと集会をかちとる
動労西日本と岡山の労働者は岡山市内で、12春闘第1波行動として春闘デモと集会を開催した。集会は30人の結集でかちとられた。
21日東京 鉄道運輸機構訴訟、結審策動押し返す
一昨年の4・9政治和解を拒否して国鉄1047名解雇撤回闘争を闘いぬく国労秋田闘争団の小玉忠憲さんを原告とする鉄道運輸機構訴訟が、東京高裁第14民事部(設楽隆一裁判長)で開かれた
23日東京 運転士登用差別、最高裁が反動判決
動労千葉の運転士登用差別事件で、最高裁第一小法廷(櫻井龍子裁判長)は、JRの不当労働行為を認定した高裁判決を破棄する反動判決を出した
25日広島 広島で市営バス民営化阻止春闘集会
広島連帯ユニオン・呉市交通局支部の呼びかけで、「呉市営バス民営化阻止! 外注化阻止・非正規職をなくせ! 原発全廃! 春闘集会」が呉市で開催され、54人が結集した
26日千葉 首都圏青年集会、JR平成採が先頭で
千葉で首都圏青年労働者集会が、JRの青年労働者が中心に座って外注化・非正規職化を撃つ集会としてかちとられた。動労千葉青年部と動労水戸の青年をはじめとする青年労働者ら210人が職場を越えて結集し、新自由主義を打ち倒す団結を圧倒的に固め、労働運動の新時代を切り開いた
26日大阪 関西青年集会、橋下打倒の労組拠点を
大阪市住まい情報センターにおいて関西青年労働者集会が開催され、関西各地から240人が結集した。関生支部青年部と港合同が共に参加した。実行委員会での議論を積み重ねて準備し、その中でつくり上げてきた団結が集会全体を熱気に包んだ
26日宮城 仙台で東北春闘集会を開く
仙台市内で東北春闘集会が150人の参加で行われた。3・11から1年間、大震災と原発事故に対して生き抜くために「震災解雇を許すな」「原発なくせ」と必死に闘い抜いてきた東北の仲間が一堂に会し、熱気あふれる集会をかちとった
26日千葉 動労千葉、定期委で総決起態勢
動労千葉は、第66回定期委員会をDC会館で開催し、12春闘決戦段階の方針を打ち立てた。田中康宏委員長は、検修業務全面外注化について「4月1日実施はほぼ不可能になった」と明言した
26日佐賀 玄海原発再稼働阻止へ佐賀県集会
佐賀市のどんどんどんの森広場で、「原発再稼働にNO! いのちが大事! さようなら原発 九州総決起集会」が開催され、2100人が参加した。NAZENナガサキも参加した
28日大阪 西郡、岡邨さんに強制執行の通告
大阪地裁の執行官が土地・家屋の「引き渡し催告書」を持って西郡支部の岡邨洋さん宅を訪れ、「3月14日、朝7時以降に強制執行する」と通告してきた。岡邨支部長は「絶対反対の団結が広がっている。3・18全国闘争はすべてを奪い返す出発だ」と戦闘宣言を発した
28日東京 NAZEN、5万余の署名を提出
経産省に対しNAZENが署名提出行動を行った。経産省テント前に集合した30人の仲間は小集会をもった後、経産省別館のロビーに移った。経産省側は不当に人数を制限。これに強く抗議した後、代表の6人が署名簿を携えて本館会議室に入った
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月刊『国際労働運動』(429号A-1)(2012/05/01)
■編集後記
3・11福島県民大集会で新しい時代、新しい闘いが始まった。反原発闘争、被災地の闘いはこれから本格的全面的に拡大していく。これまでの我慢して抑えてきた怒りが根底的に爆発していく。誰もが必ず立ち上がる時が来た。立ち上がる喜びを知っている歴史的存在、それが労働者階級だ。
だからこそ、どういう路線で組織し闘うのかが決定的になる。新自由主義と対決し、外注化阻止・非正規職撤廃の要求と怒りを労働組合に組織し、動労千葉を支援する会に組織しよう。何よりも6・10大集会に向けて国鉄闘争全国運動の前進を全力で切り開いていこう。
3・11の地平を発展させ、福島診療所建設運動で闘いの拠点をつくろう。3・11県民大集会は、被災地を先頭とした怒りを解き放った。原発はなくせると誰もが確信することができた。
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