SANRIZUKA 2001/06/01(No584 p02)

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週刊『三里塚』(S584号1面1)

 「三里塚、沖縄の怒りで廃案へ」

 反対同盟 収用法改悪阻止、国会座込み

 戦前回帰の強権法だ

 議員会館前で訴え 「住民運動潰し許さぬ」

 今国会に提出されている土地収用法改悪案をめぐり反対同盟は五月十六日から三日間、国会前で座り込み闘争を行い、同法案の成立を阻止し廃案に追い込むための各議員への取り組み要請などを行った。葉山岳夫弁護士をはじめとする顧問弁護団、動労千葉の労働者、都政を革新する会、部落解放同盟全国連、婦人民主クラブ全国協、反戦共同行動委など多くの仲間も駆けつけ、道行く人々に闘いの意義や連帯行動を訴えた。同改悪案は三里塚や沖縄をはじめとする反基地闘争や住民運動の抵抗手段をはく奪するためのもので、有事法制の核心部を先取りする内容をもつ。反対同盟はさらなる取り組みを予定している。
 国会闘争初日は北原事務局長を先頭に萩原進さん、鈴木幸司さんらが参加。午前九時に衆議院第二議員会館前に到着した一行は横断幕や旗を広げ、雨をものともせずマイクを握り、ビラを配って道行く人々に収用法改悪阻止を呼びかけた。
 北原事務局長は収用法改悪が一坪共有運動や立木トラスト運動などの住民運動つぶしが狙いだと、立法の反動的意図を暴露。さらに「収用法改悪は時代を戦前に戻すもの。国の一存で土地を収用するのは有事法制の先取りだ」と、同法案の廃案を訴えた。
 鈴木幸司さんが交代でマイクを握り「歴史教科書から侵略戦争の事実が抹殺されるなど、時代は再び戦前に逆戻りだ。三里塚闘争はこの反動の流れと闘う」と訴えた。萩原進さんは議員会館内の各事務所を訪問、収用法改悪阻止への取り組みを要請した。この日は葉山弁護士、動労千葉と動労水戸の組合員、全学連なども駆けつけ、ともに法改悪阻止を訴えた。
 葉山弁護士は収用法改悪の背景にある公共事業問題を暴露、「ゼネコンや銀行、利権議員救済のために市民の権利が奪われるのは憲法違反。収用法改悪は憲法改悪と有事法制につながる。戦争協力法案を阻止するために議員の皆さんの取り組みを」と訴えた。
 二日目は三浦五郎さんと小林なつさんが参加。小林さんが議員会館回りを担当した。顧問弁護団・葉山、一瀬、大口の各弁護士、婦人民主クラブ全国協、動労千葉、都政を革新する会、「障害者」解放委員会、部落解放同盟全国連茨城県連、反戦共同行動委などが激励に訪れ、ともに収用法改悪阻止を訴えた。
 三日目は鈴木幸司さんと郡司一治さん、伊藤信晴さんが参加、鈴木さんが議員会館を訪問した。この日は静岡空港設置に反対する元静岡県議の白鳥良香さんが駆けつけ、「三里塚の反対同盟とともに土地収用法改悪を阻止しよう」と呼びかけた。また群馬県の僧侶・青柳晃玄さん、動労千葉、沖縄一坪反戦地主などが終日行動をともにした。
 また沖縄反戦地主会の知花昌一さんと知花盛康さんの連帯メッセージが届けられ紹介された。
【知花昌一さんのメッセージ】収用法改悪は成田特別立法、米軍特措法改悪と同じく、憲法二十九条の財産権をかなぐり捨てる違憲改悪です。皆様の闘いに敬意と連帯を表し、沖縄の地で反戦を闘います。(抜粋)
【知花盛康さんのメッセージ】数の力で民意を押しつぶし米軍特措法が改悪されたことが昨日のような気がして今でも怒りに燃えています。収用法改悪阻止の国会前座り込み闘争に沖縄の地から熱い思いをこめて連帯します。(抜粋) 

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週刊『三里塚』(S584号1面2)

 「供用カウントダウン」の無神経を糾す

 地上げ屋の脅迫と同じ

 円卓会議と共生委 「軒先工事ダメ」を反故に

 空港公団は成田暫定滑走路の供用開始予定が一年後に迫ったとして、開港日までの「カウントダウンボード」なるものを空港内と京成上野駅などに設置した。農民無視を開き直るという意味でも、滑走路予定地内の反対農家への脅迫という意味でも、実に許しがたい行為である。
 正当な理由で立ち退きを拒否する農家に対して、家の軒先まで一方的に滑走路を造ってしまい、その圧力でたたきだすという暫定滑走路建設。このきわめて非人間的な暴力行為を、改めて厳しく弾劾しなければならない。
 暫定滑走路の供用開始とは、反対農家の真上四十㍍をジェット機が飛ぶ(東峰地区)という前代未聞の暴挙が始まる日だ。天神峰・市東孝雄さん方のわずか五十㍍脇を、爆音をとどろかせたジェット機が自走し始める日だ。
 これが何を意味するかは自明である。公団用地部は、農家への脅し文句として「滑走路が供用すればどうせ生活できなくなる!」と公言している。金を積んでも屈服しない相手は暴力で脅すとの考えだ。
 この考え方は、立ち退きを拒む家にダンプを突入させたり嫌がらせをくり返す暴力団の地上げ行為とまったく同じだ。事実を隠して表向き「民主主義」や「話し合い」をかたる分、暴力団よりも公団の方がより悪質ともいえる。
 このような暫定滑走路の供用開始日を「カウントダウン」でお祭り騒ぎのように演出する感覚は、「民主主義」とは正反対の、この世でもっとも唾棄すべき部類のものである。
     *
 ところでこのような軒先工事は、あまりに非民主的との理由で、国土交通省(旧運輸省)と空港公団が「以後、決して行わない」と公的な場で社会的に確約した問題である。
 九八年秋に平行滑走路の見切り着工が切迫した時(※同五月に隅谷調査団が「成田問題は社会的に解決」との゛お墨付き″)、東峰区住民が着工に反対する声明(同十月八日)を発表した。これに対してかの共生委員会が着工問題についての見解を発表、「(用地問題など)多くの課題が残されている現状で、いわゆる軒先工事は適切ではない」との回答を同区住民に文書で提示した(同十一月十六日)。軒先工事は認められないと明言したのだ。
 この見解は同日の記者会見でも、共生委代表委員の山本雄二郎が明言(同十七日付各紙報道)したものだ。同席した運輸省の鈴木審議官(当時)と公団・永井副総裁も、同じ趣旨で「平行滑走路関連の工事を行う意思はない」とはっきり明言している。
 要するに公団も運輸省も「軒先工事は行わない」ことを社会的に疑問の余地のない形で確約していたのである。
 ところがそのわずか半年後の九九年五月二十一日、運輸省は平行滑走路計画を暫定滑走路に変更(未買収反対農家の軒先まで滑走路を短縮)することを決め、「年内にも着工する」と一方的に通告してきた。そして同十二月、まさに反対農家の軒先で滑走路工事の見切り着工を強行したのである。まさに言語道断の暴挙である。
     *
 国土交通省や空港公団の社会的確約違反はこれにとどまらない。かの円卓会議最終報告(九四年十月)で何が確約されたか。平行滑走路について「あらゆる意味で強制的手段が用いられてはならない」とされ、「計画予定地および騒音予定地住民との合意を形成しながら進める」ことが正式に文書で確約されたのだ。運輸大臣も正式に出席して行われたこの公的な社会的確約は、現在の暫定滑走路建設で完全に、見事なまでに踏みにじられた。
 当時の脱落派と運輸省の政治談合であった公開シンポジウムや円卓会議がいかにペテンだとしても、公的な社会的確約をここまで公然と踏みにじることが許されるわけがない。それはまさに暴政そのもの。農民殺しそのものだ。
 この歴史的事実に踏まえるならば、冒頭の「カウントダウン」のごとき現在の公団の態度が、いかに許されない暴挙であるかは明白だろう。さらにいえば、これほどの暴政はブルジョア民主主義的な規範においてすら、人民が自らの実力、暴力をもって権力を打ち倒すことが許される(抵抗権)レベルの問題である。
 暴政には(革命的)暴力を! 暴政をはるかに凌駕する労働者人民大衆の階級的実力決起を! これが三里塚闘争の思想であり流儀である。
 「開港カウントダウン」なる暴挙を許すな! 暫定滑走路供用攻撃を断固として粉砕しよう!

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週刊『三里塚』(S584号1面3)

 「強制手段放棄」で強制伐採とは

 萩原さんに聞く

 こういう暴挙は金輪際やらぬと公に約束した政府の二枚舌

 来春五月の暫定滑走路「供用」にむけて農家周辺での工事が激しさを増している。軒先工事は行わないという公的確約をひるがえした空港公団への怒りは高まる一方だ。攻防の焦点・東峰神社立木伐採問題について反対同盟事務局次長・萩原進さんに話を伺った。
 暫定滑走路建設と称する軒先工事で生活道路が勝手に変えられ、鉄板フェンスで部落が切り刻まれ、子どもの頃から見なれた風景が次々と壊されてきた。
 来年春の供用開始にむけて東峰神社の立木伐採攻撃が近づいている。東峰神社は東峰部落始まって以来の村の鎮守様だ。五十年以上、村の住人が家族と農業の明日を祈って守ってきた。皆で資金を出し合って玉砂利を入れ替えたり、古くなった屋根も改修した。
 公団は、この神社のご神木を邪魔だから切り倒そうというわけだ。まさに暴挙というべきだろう。
 あのシンポ・円卓会議で公団や運輸省(当時)は何を約束したのか。「一切の強制手段を放棄する」。これが確約の第一。そして「平行滑走路はあくまで地権者の合意を得てから進める」と。これは円卓会議の最終所見だ。
 やはりというべきか。約束は全部ウソだった。すべてを踏みにじって一方的な軒先工事だ。
 最初は「暫定滑走路」と言っていた。シンポ・円卓の「確約違反」を指摘された時に「平行滑走路ではない。あくまで暫定」と言い逃れるつもりだった。
 ところが去年の暮から「平行滑走路関連工事」と言い方を変えてきた。その後は平然と「平行滑走路建設」だ。公団の看板も「平行滑走路」。つまり「現在の工事は平行滑走路(反対農家の土地を含む)の第一期工事」というわけだ。農家の軒先まで滑走路を造って追い出す。暴力による地上げだよ。
 こういうことはもう二度とやらないと政府も公団も公の場で約束したんじゃないのか。反対派農家を残したままの軒先工事はやらないと運輸省(当時)の責任者が明言したことはどうなったのか。共生委員会の代表だって「軒先工事は認めない」と明言した。
 その舌の根も乾かぬうちに、だ。政府の農民無視は三十五年前と何も変わってない。ここまで足蹴にされて、俺たちが黙っていると思ったら大間違いだ。

 第1章 暫定は無駄な公共事業の筆頭だ

 公団の焦りの背景は暫定滑走路が使い物にならないという事実だ。ジャンボ機が使えない二一八〇㍍滑走路なんて国際空港として論外。「ムダな公共事業」の典型だ。まったく国民の役に立たない空港。赤字だけが増える滑走路。まったく無駄な税金の投入だ。
 小泉政権はいずれ人民の利益とぶつかる。小泉のいう「改革」とは農民や労働者を犠牲にして戦争体制をつくる政策だからだ。反戦・反権力の砦=三里塚闘争とは相容れない。
 反対同盟は東峰神社の立木伐採攻撃を実力で粉砕する。暫定滑走路を絶対にやすやすとは供用させない。全国の仲間の応援を強く訴えます。(談)

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週刊『三里塚』(S584号1面4)

 ピンスポット

 収用法国会情勢をネット上で

 「土地阻止」サイト

 検索エンジンで上位に

 国会は衆院予算委員会の論戦で再開、各委員会審議が本格化する。六月二十九日の会期末まで一カ月半。自民総裁選のあおりで重要法案は手つかずの状態で、土地収用法も「委員会に付託されていない状況で、現状では何もお知らせできない」(衆議院議案課)というが、今国会での成立阻止へ正念場だ。
 「2・28土地収用法改悪阻止シンポジウム」の趣旨を踏まえて開設されたホームページでは収用法をめぐる国会情報など掲載、反対同盟の国会行動や白鳥良香氏の法案批判なども紹介中。ネット上の検索エンジンからも土地収用法問題の必見サイトとしてアクセスできるようになった。
 一坪共有運動とは? その効果は? などの疑問をビジュアルに知らせる企画も予定。「なげぶみ」(メール投稿)で意見表明、情報交換を!
 各住民運動を結ぶ上でも活用を。(2001年10月末に閉鎖)
●http://homepage2.nifty.com/totisosi2001/
●メール totisosi2001@hotmail.com

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週刊『三里塚』(S584号1面5)

 団結街道

 最近、都市部で牛や豚を飼う農家に無言電話の嫌がらせが何カ月も続くという事件があったそうな。業界用語で「ナーバス電話」というがそれはさておき、この農家への無言電話の主は「となりの家」だった。ナーバスの趣旨は「臭い(におい)」への報復とか▼「臭い」で農業者と都市住民を較べると、前者のほうが分が悪いとする風潮はいたって現代的。高度成長期に「3Κ」といわれ、農業はその筆頭に挙げられた。ただしコンクリートの都会に飽きて農業に回帰する若者も一部で輩出している▼その昔、都市にトイレが整備されているとは限らなかった。パリの話は有名で、かの地で香水が進化したのは街頭に漂う悪臭回避という説も有力。近世の東京(江戸)はその点「進歩的」で、トイレがほとんどの家にあり、のみならず糞尿を農家が回収、肥やしにするリサイクル・システムが確立していた。これを賞賛してやまない農政イデオローグもいる▼日本でいえば、家畜・家禽(かきん)の糞がトン単位で廃棄物となるような経営は現代になって初めて出てきた。これらの臭いが都市住民に耐えがたいものであることは事実かもしれぬが、農村部に住宅地が進出するのは避けがたく、前記のような摩擦も避けられない▼鶏糞などを堆肥として使う場合、野積みが重要な意味を持つ。日光にさらし、ときどき切りかえしながら発酵を待つ。これが臭いの源だ。と、あれこれ考えながら畑に鶏糞の堆肥を施し、ネギの植付けや葉もの、落花生の種まきに精を出す今日この頃。こうしてできた野菜はホンにうまい。

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週刊『三里塚』(S584号1面6)

 闘いの言葉

 ブルジュアジーらの主張する自由は支配階級に従属した自由だ。金持ちが寄生し、勤労者が困窮する社会に真の自由はありえない。
 一九〇五年『党組織と党文献』レーニン

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週刊『三里塚』(S584号2面1)

 ゼンコン利権の舞台裏(下)

 政・官・財複合体による土地収用法改悪の深層

 委員の90%(!)がゼネコン利害関係者

 ”土地強奪迅速化”「一坪運動」を敵視

 収用法改悪案の委員会審議入り許すな!

 小泉内閣「構造改革」は都市再開発

 第1章 建設省「土地収用制度調査研究会」の正体

 「構造改革」をかかげて登場した首相の小泉純一郎は所信表明演説で「都市の再生を通じた国際競争力の向上」を唱えた。この中には土地収用の迅速化が含まれている。「特定財源見直し」も一皮むけば都市再開発への予算振り向けというカラクリだ。小泉政権は「強制収用の速度が国際競争力を決定する」という土地収用法改悪案の思想を体現している。改悪案を準備した土地収用制度調査研究会では、ゼネコン代表が強硬にこの主張を行い、それが一坪共有運動の禁止、収用委員会審理の迅速化の法改悪案につながった。ゼネコン利権のために行われた同研究会の中身を暴露する。
 「土地収用制度調査研究会」は二〇〇〇年五月十七日に、旧建設省・建設経済局長の私的研究会として設置された。設置のきっかけは、同日に中山正暉建設大臣(当時)の私的会議「都市再生推進懇談会」に出席した石原慎太郎都知事が、土地収用法改悪を提唱したことだった。
 石原は日の出町産業廃棄物処分場問題で大規模な一坪共有運動に追いつめられた経験と、軍用道路である外郭環状道路の土地収用法による強行突破を念頭において、迅速で簡便な土地収用制度の確立を求めたのだ。そしてその日の内に「研究会」の設置が決定され、メンバーまで決められたのである。
 そのメンバーは経済界(経団連)、事業者(ゼネコン代表)、収用委員会、自治体関係者、法曹界関係者、環境問題専門家、マスコミ、NPO関係者などの分野から二十人が選ばれた。「中立」を装うために環境問題専門家やNPO関係者を委員に加えてはいるが、九〇%が経済界、ゼネコン利害関係者であったことは一目瞭然だ。

 第1項 ●資本の論理

写真 4兆5247億円の借金で火の車の本州四国連絡橋公団が運営する採算のとれない明石海峡大橋。ゼネコン救済、ムダな公共事業の典型だ
 意図のやましさから「成田問題の経緯もあるので」という理由で委員の名前は最後まで秘匿され、議論自体も非公開とされた。
 研究会は五月から十二月まで五回開かれ、十二月二十五日に最終報告を出した。第三者が知ることができるのは、ホームページ上に掲載された旧建設省官僚の政治的編集による「議事要旨」だけである。
 しかし、官製の「議事要旨」からだけでも、「ゼネコン救済」を目的に“土地強奪の簡素化゜に走る同研究会の一端がうかがえる。 同論議の特徴のひとつは、「土地収用の速度」を「日本経済の国際競争力」に結びつけて論じる「資本の論理」至上主義である。そこには財産を奪われる庶民の怒りや苦しみへの配慮などみじんもない。
 たとえば七月に行われた第二回会議では、研究会の中心メンバーで経済界の委員が、「アメリカ、ドイツなどの他国と比べ、わが国の収用制度が競争力の点で劣っているのではないか」と述べ「土地収用の速度において他国に負けることは、国際競争力において劣ることになる」旨の主張をし、土地収用の迅速化を求めた。他の委員からは何の反論も出されていない。
 さらに同委員は、土地収用の遅れと巨額の経済損失を関連づけて次のように主張する。「学者の研究(注1)によれば、首都高速湾岸線や営団地下鉄で一坪共有運動のために工事が遅れ巨額の経済損失が発生している」「経済界にとって時間というのは大事なテーマ。国際競争力の原点だ」と。要するに独占資本の得手勝手な立場から公共事業の遅れを「弾劾」しその責任を土地収用体制の不備に転嫁しているのである。
 首都高湾岸線工事とは、横浜市中区千鳥町の三渓園ジャンクションから同磯子区杉田の杉田ジャンクションまでの第五期工事のことで、一九九四年秋の開通予定が今年の秋開通に遅れたことを指している。これで「六千四百億円の損失だ」というのだ。
 半蔵門線の遅延問題とは、九段下駅と半蔵門駅の間にあった九段南の未買収地が二百八十九人の一坪共有地となったため、収用に手間取って開通が一九八七年九月から一九九〇年十一月に遅れ、「二百十億円の損害を出した」問題をいう。しかしここで問題とされているのは、ゼネコンなど大手独占資本の利益だけである。数十兆円を投入して行われる土木工事の利権と工事で造られたインフラによる物流時間短縮など膨大な経済コスト軽減の利益だけが問題なのである。

 第1節 世界一強権的な日本の収用制度

 ここには、公共事業がなぜ地権者の抵抗に合うのかの検討や土地収用が地権者の人生を左右する重大問題であることについての配慮は皆無である。元運輸大臣の江藤隆美が一九九〇年に三里塚現地で脱落派と会談した時に「外国ならこんな未買収地は戦車で一日で潰してしまう」と語って弾劾を浴びたが、ゼネコン利権屋たちにも「がたがた言う反対者は収用法の強権で潰してしまえ」という感覚しかない。
 ちなみにかの委員や江藤隆美の言うように「外国なら簡単に収用できるか」というとこれも意図的なデマである。日本の土地収用法ほど強権的な法律は諸外国にはみられない。
 例えば、「第三回研究会」で紹介されている「フランスの環状高速道路A86建設」の事例は、官僚の意図とは逆に日本の収用制度のひどさを暴露している。
 A86道路建設にあたっては計画段階(!)の一九九〇年七月から九二年夏までに事前調査と住民の公聴会・聴聞が行われ、事業認定申請はこの後一九九四年に行われた。さらに事業認定審査にも一年以上がかけられ九五年六月に認定処分がなされた。事前調査段階での公聴会から事業認定まで五年もかかっている。
 フランスの事例はあくまでブルジョア民主主義的洗練度の問題に過ぎないが、日本の土地収用制度の強権性はやはり際だっている。

 第2項 ●超スピード

 成田空港建設では「反対運動が起きる余裕を与えないこと」が住民対策の基本とされ、計画段階での公聴会は実質ゼロ、事業認定申請から事業認定までの時間もわずか三カ月という超スピードだった。
 日本の収用速度の方が圧倒的に早いのである。日本で欧米諸国に比べて環状道路など公共事業のスピードが遅い(注2グラフ)のは、事業が政治家とゼネコン、官僚の利権の巣窟と化して公益性が存在しないため、一坪運動やトラスト運動に見舞われるからだ。
欧州と比べ東京の道路整備が遅れている事を強調するため国交省が持ち出すグラフ。土地収用制度に責任を転嫁し改悪を主張するが本末転倒だ

 第2節 政・官・財複合体の延命策動に断下せ

 ゼネコン代表の話は転倒しており土地収用制度とは別次元の問題なのである。ところが利権屋どもは政・官・財の癒着構造と利権の拡大のためにあくまでも土地収用法を改悪し、庶民の土地、家屋、財産の強奪を推し進めようとしている。
 そして「構造改革」を掲げる小泉新政権も土地収用法改悪については「都市の国際競争力向上」の名目で推進する立場なのだ。 
 また「議事要旨」を検討すると、建設省官僚がいかにペテンを使って研究会最終報告を作成したかが明らかとなる。土地収用制度調査研究会は御用研究会の典型だが「中立性」を装う委員が散りばめられている。環境学者やNPO代表である。彼らはお飾りでも発言権はある。建設官僚としては議論が脱線しないために一定のレールを敷いておかなくてはならない。
 そこで行ったのがぺてん的なアンケートである。建設省は百十の団体にあらかじめアンケートを送って回答を得たのだが、アンケート対象の八五%が各都道府県事業認定事務担当部局(四十七団体)と各都道府県収用委員会事務担当部局(四十七団体=計九十四団体)なのである。さらに建設省や特殊公団からなる「主要起業者」が八団体、経済関係団体が一、不動産関係団体が一、地方関係団体が一となり、全体の九五%が土地収用推進の関係団体むけアンケートなのだ。批判的立場と思われるのはNPO二団体、環境団体三で五%でしかない。

 第1項 ●官製質問状

 これらのアンケートによって上がってきた声は当然にも「多数当事者(一坪共有者のこと)の所有権移転登記は拒否できるようにすべき」(起業者団体)、「多数当事者に総代の選任を求められるようにすべき」(起業者団体)、「手続きの簡素化を図るべき」(自治体関係)、「通知や書類の送達手続きを公告で代用へ」(起業者団体)といった強制収用の迅速化を求める意見のオンパレードだ。
 中には千葉県に収用委員会が存在しないことを問題視し「収用委員会が裁決できない場合は国が代行裁決を行えるようにすべき」(起業者団体)、「各都道府県は必ず収用委員会を任命しなければならないものとすべき」(経済界)などと主張したり“一坪共有運動は敵対者との前提で考えるべき゜旨の暴論を吐いているものまである。
 このように「土地収用の迅速化」を求めるアンケート結果を委員に示し議論の大枠を固めた上で、前記お飾り委員にも自由に言いたいことを言わせ、「さまざまな立場の人の意見を聞きました」という体裁を整えて、最後は経済界代表やゼネコン代表委員の意向に沿った最終報告をまとめたのである。
 ゼネコン救済と利権の擁護を目的とし、政・官・財複合体を延命させるための法改悪を許してはならない。小泉政権はファシスト石原と共に、「迅速な土地収用」を推進している。土地収用法改悪阻止・小泉政権打倒へたたかおう。
(おわり)

 (一坪共有運動の禁圧、土地収用の迅速化を求める「土地収用制度調査研究会」委員の発言)

 「湾岸道路(横浜市)で七年間も収用が遅れたのは六千四百億円の社会的損失に換算される。土地収用の速度を上げ国際競争力を高めるべき」 (経済界代表委員)

「一坪共有運動は敵対者という前提で土地収用制度を強化するべきだ」 (収用委員会代表委員)

 第2章 法改悪の先頭に立つ石原都知事

 外環道で「3000戸収用」

 第1節 臨界副都心開発もゴリ押し

 土地収用法改悪攻撃の先頭に立つ石原慎太郎東京都知事は、収用対象三千戸といわれる東京外郭環状道路の反対運動つぶしに乗り出している。
 外郭環状道路は、都心から半径十五キロの環状道路で総延長予定八十五キロの自動車専用道路だ。東京都では一九六六年に都市計画決定されたが、東京や千葉など地元住民の反対運動で、一九七〇年に、建設大臣によって凍結宣言が出され、現在開通しているのは埼玉県三郷市と東京都練馬間の約三十五キロだけ。
写真 1970年以来凍結されている東京外郭環状道路の練馬-世田谷間予定地を、扇千景国土交通大臣と共に視察する石原都知事。戦争体制作りの一環として三千戸の立ち退きを強行しようとしている。また外環道は有事の時、軍用道路に転用される
 ファシスト石原は、昨年十二月に発表した「東京構想二〇〇〇」で「創造力を発揮できる東京に」「東京の国際競争力を高める」として、道路政策における最重要施策として外郭環状道路の建設再開を打ち出した。
 そして今年一月十六日には、扇千景国土交通大臣に要請して、現地視察を強行(写真上)、強制収用への環境作りに乗り出した。
 土地収用法改悪のための土地収用制度調査研究会の創設が、石原の要請によるものであることは、右の小論に述べたとおりだが、その意図は、日の出産廃処分場問題で威力を発揮した一坪共有運動の破壊にあり、具体的には、練馬|世田谷間十六キロでたたかわれている外郭環状道路反対運動の鎮圧にある。
 石原は、建設費数兆円を使った外環道路建設でゼネコンの救済を意図し、さらに有事の際に外環道の軍用道路への転用を狙っている。
 外環道路練馬|世田谷間の開通で、成田空港と横田基地は東関東自動車道|湾岸道路|首都高速中央環状線|外環道|中央高速道路で結ばれる。また自衛隊朝霞駐屯地とも直結され「非常事態に対応できる」(伊藤滋慶応大学教授=注3)と歓迎されている。
 そして外環道反対運動を鎮圧し三千軒を立ち退かせること自体に「国家の施策に従うのは国民の義務」という戦時体制作りの狙いを込めている。
 このような石原の強権的な外環道路建設は小泉首相の提唱する「戦争体制作り」「東京都の国際競争力向上」政策を先頭に立って推進するものだ。ファシスト石原による土地収用法改悪攻撃、外環道建設強行を許してはならない。
写真 企業の誘致が進まず、大赤字で閑散とする東京都の臨海副都心。石原知事は破たん必至の巨大開発計画をさらに続行する構えだ

 第1項 ●大赤字の計画

 さらに石原は、「聖域なき財政改革」なる看板の下に、労働者のリストラ、賃金切り下げ、福祉予算の大幅カットを行う一方で、すでに大赤字となり、金食い虫となっている臨海副都心開発(写真上)や有明旧貯木場埋め立てなどの開発政策は続行する方針をゴリ押ししている。
 「不要不急の公共事業は見直す」「計画決定後でも中止を検討する」といった「公約」は大ウソである。
 臨海副都心計画は、臨海部の埋立地四百四十八㌶に、企業などを誘致し、業務・商業ビル、通信施設、集合住宅を建て、就業人口十万六千人・居住人口六万三千人の第七副都心を二一世紀初頭までに建設するという計画だった。
 ところが、当初予定(一九八七年)の事業費四兆円は一九九一年には十兆円にもふくらみ、収入の方は、七兆円の見積もりが一兆四千億円にまで減少した(一九九七年)。
 こうして東京都民の負担も三兆五千億円にまで膨れ上がり、関連の第三セクター群も軒並み大赤字である。
 しかし石原は、労働者を踏みつけにしつつ、巨大開発は「お台場にカジノを造る」などの世迷い言と共に強引に推し進めようとしている。ゼネコン利権、マリコン(大手海洋土木会社)利権を擁護するファシスト石原の正体を暴露し打倒しなければならない。

注1)学者の研究 東大・森地茂教授による「公共事業への時間管理概念の導入に関する研究」によって主張された考え方。
注2)環状道路の建設スピード 「第三回研究会議事次第」は「環状道路整備の国際比較」なる地図と図表を掲載し、東京、パリ、ロンドンの三都市における環状道路の整備の比率を掲げている。東京が最も遅く計画全体の二〇%、パリが七四%、ロンドンが九九%だ。東京が遅れているのは土地収用制度の不備ためとこじつけている。(右グラフも参照)
注3)伊藤教授の発言
 慶大教授の伊藤滋氏は主宰する「アーク都市塾」で大震災や非常事態が起こったとき、外郭環状道路は朝霞の自衛隊駐屯地とも近いため機敏な対応ができると主張している。

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週刊『三里塚』(S584号2面2)

 三芝百景 三里塚現地日誌 2001 5月9日(水)~5月22日(火)

●市東孝雄さん宅で田植え 
敷地内天神峰の市東孝雄さん宅で恒例の田植えが行われた。支援者もかけつけ20アールの田にコシヒカリの苗を植えた。(9日)
●土地収用法改悪阻止国会座り込み 反対同盟の呼びかけで土地収用法阻止の国会座り込みが開始された。初日は北原鉱治事務局長、萩原進事務局次長、鈴木幸司さんを先頭に動労千葉、動労水戸、顧問弁護団の葉山岳夫弁護士、全学連などが結集し、国会にむかって収用法改悪反対を訴えた。(16日=写真
●私服刑事のスパイ策動を粉砕 全学連現闘K君の反対同盟宅ビラまきにたいして私服刑事車両が尾行を行った。私服刑事はその後、当の同盟員の家に入り込み、「ビラを見せてほしい」「行動予定を教えてくれ」と情報提供を強要してきた。同盟員は即座に「ふざけるな、仕事のじゃまだ」「出ていけ」と一喝し撃退した。(16日)
●国会座り込み2日目 この日は三浦五郎さん、小林なつさんを先頭に動労千葉、解同全国連茨城県連、全学連、反戦共同行動委、「障害者」解放委などの仲間が参加、弁護団からも葉山岳夫、一瀬敬一郎、大口昭彦弁護士が参加し座り込み闘争を共に闘った。(17日)
●工事実施計画控訴訴訟審 工事実施計画取消訴訟の公判が東京高裁で行われた。原告側からは葉山岳夫、一瀬敬一郎、大口昭彦弁護士が参加、「暫定滑走路計画と2500㍍平行滑走路計画は相矛盾する。両者の関係について説明せよ」との求釈明にたいし被告空港公団は「答える必要ない」と開き直った。弁護団は公団の態度を弾劾し、次回両者の矛盾関係を明らかにした書面を提出することを明らかにした。(17日)
●国会座り込み3日目 反対同盟から鈴木幸司さん、郡司一治さん、伊藤信晴さんが参加する中、動労千葉、群馬実行委の青柳晃玄さん、反戦共同行動委、沖縄一坪反戦地主などが参加。静岡空港に反対して現地で闘う白鳥良香さんもかけつけマイクをとって収用法改悪反対をアピールした。(18日)
●開拓道路などで草刈り 三里塚闘争支援連絡会議は、東峰十字路北側の東峰開拓道路、芝山町中郷部落・鈴木幸司さん敷地内の菱田第一砦周辺、岩山記念館周辺の草刈りを行った。(21日)

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