マルクス『賃金・価格・利潤』講義概要 講師 岩谷 芳之 【『賃金・価格・利潤』を今なぜ問題にするのか】●『賃金・価格・利潤』の問題意識と今日の情勢 11月労働者集会は、世界大恐慌下、プロレタリア世界革命を切り開く国際連帯集会として闘われる。われわれには、全世界の労働者と連帯し、日本において壮大な労働者の決起を実現する勢力への急速な飛躍が問われている。 ●労働組合は賃金制度の最終的廃止のために闘う存在 『賃金・価格・利潤』の結論として、マルクスは次のように言う。 【『賃金・価格・利潤』の成立と背景】●「賃金闘争有害論」との路線闘争 『賃金・価格・利潤』は、1865年6月の第1インターナショナル中央評議会(ロンドン)で行われたマルクスの発言をまとめたものだ。第1インターはその前年に結成されたが、その綱領や規約は結成時には未確立だった。結成後に綱領や規約をめぐる討論がなされる状況の中で、1865年6月の中央評議会でウェストンは、次のような問題を討議に付すことを求めた。 ●ウェストンの主張とマルクスの批判 ウェストンの主張は、要約すれば「賃金を上げたら、その分、物価が上昇するから、実質賃金は変わらない」というものだった。 【商品の価値は何によって決まるか】 一商品の価値・交換価値とは、「その商品が他のすべての商品と交換される量的比率」を意味する。これらの比率は限りなく多様だ。 【労働者が売るのは労働力】●「労働の価値」は存在しない 賃金とは「労働の価格」のことだと誰もが思っている。だが、労働者が資本家に売るものが彼の「労働そのもの」であり、賃金が「労働の価格」であるとすれば、次のような矛盾に陥る。 ●労働力の価値はどのように決まるか 労働力の価値も、他の各商品の価値と同じように、その生産に必要な労働の分量によって決定される。では、人間の労働力とは何か? それは、生きている人間個体の中にのみある、労働する人間的能力のことだ。 ●搾取を覆い隠す「労働の価値」という形態 先に見たように、労働者が資本に売るものは労働ではなく労働力だ。しかし、労働者が売るものは労働そのものであり、その対価として賃金を受け取るかのような形態が必然的に現れる。 【労働者と資本家との非和解的対立関係】●賃金が減少すれば利潤は増大し、賃金が増大すれば利潤は減少する 「資本家と労働者とは、労働者の総労働によって測られた価値を分配するほかはないのだから、一方が多く得れば他方はわずかしか得ないし、一方がわずかしか得なければ他方は多く得る。賃金が下落すれば利潤は増大するし、賃金が上昇すれば利潤は減少する」 ●労働日延長が資本の普遍的傾向 資本は、労働者からより多くの労働を搾り取るために、絶えず労働時間を延長し、強労働を強いてくる。それは、放っておけば労働者を絶滅してしまうところにまで行き着く。労働者にとって、「資本主義の枠内」では生きられる保障など存在しない。だから労働者は、資本主義の中で絶えず資本と争い、労働時間の制限などを資本に強制しようとしてきた。そうした闘いが、労働時間の法的規制を国家と資本に対して強制した。 ●賃金の大きさは、資本と労働との絶えざる闘争によってのみ定まる 「労働力の価値は2つの要素によって形成される。その一方は単に生理的なものであり、他方は歴史的なものである。その究極の限界は生理的要素によって決定される」 【職場における日常的闘争の不断の貫徹と労働者の究極的解放を根幹に据えた闘いの実践】●実践的結論 『賃金・価格・利潤』の結論として、マルクスは次のように言う。 ●労働組合は労働者階級解放のための組織的中心 マルクスが提案した決議案の中身は、第1インター第1回大会で採択された決議『労働組合、その過去・現在・未来』に全面的に取り入れられた。 |
討論から●W 賃金制度の廃止を闘う重要性を改めて認識しました。その対比として協会派の主張、連合や日本共産党も同じだと思うんだけど、公平な賃金の要求がいかにとんでもないものなのか。そもそも協会派も含めて、労働者が生きられる賃金が維持されるのが価値法則の貫かれた安定した資本主義社会、日共で言えば“ルールある資本主義社会”という、資本主義社会そのものに対する認識が根本から間違っている。 ●C レジュメの結論の所に出ている、「利潤率が現実にどの程度に確定されるかは、資本と労働との絶えざる闘争によってのみ決まる。資本家は常に賃金をその生理的最小限に引き下げ、労働日を生理的最大限に拡大しようとしているし、労働者はそれを反対方向に押し返そうとしている。事態は闘争者たちのそれぞれの力の問題に帰着する」という原文の引用部分が決定的で、労働組合論を僕らが本当に復権させていく上で重要だと思う。労働者の団結した闘いによって状況は決まるということで、労働組合の決定的役割が掲げられていると思います。 ●N 組合として、地域の道行く人に11月集会の賛同署名を訴え、チケット、パンフを売っています。参加する人を募るアピールを組合員それぞれが書いて持ち寄って、11月集会の意義を話すということもやっています。 ●G 自分の感想として言うと、全体としては、すごく今の階級攻防とリンクしているというか、党と労働組合というのが今問題になっているわけですけど、その労働組合の果たす役割ということについて、改めて勉強しなきゃいけないなというきっかけになった。 ●Z 討論の冒頭から1カ月6万円下げるというのに圧倒された。70年代だったか、光文社労組が月6万円の賃上げストライキをやって大闘争になって、資本側は法外な要求と言っていたのを思い出した、逆に6万円下げるというのがどんなに激しいことなのかということも含めて。現場のそういう報告は、ものすごく大事だと思います。 ●h 今まで『共産党宣言』とか『賃労働と資本』とか『資本論』でマルクス主義の基礎編という感じで、今度は『賃金・価格・利潤』で実践編という。この実践編をとおして、基礎編で学んだ労働力とは何なのかとか、「労働の価値」とは何なのか、もう一回リフレインして理解が深まって非常に良かったなということと、それと労働運動をどう闘うかという点で、この間動労千葉労働運動から学ぶということで、『甦る労働組合』とかいろいろ学習してきたので、そういう点でもすごく分かり易いという感想を持ちました。 ●e 久しぶりに改めて、『賃金・価格・利潤』を今日やって、岩波文庫版の表紙に、「『資本論』への最善の,そうして最も平易な入門書」と書いてて、だから『資本論』を読む前に『賃金・価格・利潤』を読んで、よく分かんなかった。『資本論』を読んで、もう一回『賃金・価格・利潤』を読んだら、何となく分かったなという気はしたんです。 ●講師 今の、すべてを動かしているのは労働者だというのは、言い方を変えたら、資本家なんかいなくてもやっていける、ということ。さっきの初任給で6万円下げられたという、それを元に戻せと言うだけで大幅賃上げ闘争です。そんな大幅賃上げしたら、もう資本として成り立たないよ、結局倒産して、みなさんクビになるだけですよ、というすさまじい恫喝の中で、だけどまっとうに生きていこうと思ったら、6万円の賃上げ闘争だってやらざるをえないという関係の中に今ある。 ●h 質問ですけど、レジュメの自治労の賃金政策の所で「同一労働・同一賃金」というのが出て来てて、自治労の政策自身は、闘わないために言っているんですけど、例えば越谷市職の闘いの中では、「同一労働・同一賃金」の大原則をかち取った、そういう地平として積極的に出されている側面があると思う。その辺をマルクスの『賃金・価格・利潤』のレベルから説明するとどう整理されるんでしょうか? ●A これはだけど、この文章そのものの最後の方が、自治労のやつは「解体」ということじゃないですか。「同一価値労働・同一賃金」と言いつつ、「この原則を実現するためには、職務の価値を測る客観的な職務評価基準が不可欠である」。こういうことを言って、ある種の評価基準みたいなものを入れていく、そういうペテンがある。 ●講師 自治労のこれは、そういう意図ですよね。確かに、恣意的な資本の賃金を使った差別・分断を許さないために、この仕事だったらこの賃金というふうに固定的に決めちゃえと。個別に、この人がよく働くとか働かないとか、そんな分断許さない、そういうことが一つの闘争のテーマになるということは確かにある、具体的な中では。一律にそんなのはナンセンスだとは決めつけ的には言えない。 ●G 今のh同志は、レジュメの自治労の第二次賃金政策の所を言ったわけですよね。質問なんですけど、「同一価値労働・同一賃金」と言った場合、例えばどういうふうに賃金というのはなるんですか、職場では? ●a 例えば教員は、直接に利潤を生む仕事ではない。だけど、2001年の「21世紀連合ビジョン」の辺りのちょっと前から、業績評価という形が出て来て、それと伴って、主幹制度・主任教諭制度という職を分担する新職をつくってくる。特に、一番最近に出て来た主任教諭制度に対して組合は、賃金を上げるためにはこれに応じなければならないというヒドイ論理で反対の声を封じて、組合幹部が率先して主任教諭になっている。 ●講師 「同一価値労働」という形で、「価値」という言葉を付けるて業績評価とかを滑り込ませちゃう。 ●n 現業職と事務職みたいな何かそういう職場内の仕事の違い。だけど、ここに書いてあるのは、「労働者間で職務内容が異なっていても、職務の価値を何らかの基準で測定した」ら同じだというのは、特に公務員で市役所だったら、水道課があったり、何課があったり、税務課だって窓口やっている人もいれば、別の現場に行っている人もいるから、こうなっていると思う。 ●講師 ただ、「同一労働・同一賃金」が、何か素晴らしい賃金体系かと言ったら、またそれも。基本的な考え方として、理想的な賃金体系なんかないということです。賃金闘争を闘うことによって、階級的団結をつくれるかどうか、そこを目的に闘うということ。 ●F 「同一労働・同一賃金」というのは、今だって、会社でまったく同じ仕事をしているのに派遣の人は3分の1とかという給料でしょ。当時の自治労であったらば、新規採用じゃなくて、年齢がある程度いって転職して採用された人は現業職なわけです。まったく同じ職場で同じ事務をやっている。でも、給与体系はまったく違うわけです。上がり方も違うし、最初の基本給も抑えられている。完全に差別があるわけです、現業差別が。そういう分断を打ち破るということで、「同一労働・同一賃金」という。先ほど男女差別ということを言われたけども、公務員の場合、女性だからって賃金低くなってない、同じです。だから、そういう労働者を分断する、それに対して労働者の団結を固めていくための、分断打破のためのスローガンというか要求として、「同一労働・同一賃金」というものがあったと思う、当時の趣旨として。 |
受講レポートから ★『賃金・価格・利潤』のレポートです。【h】 今までの基礎編(『賃労働と資本』『共産党宣言』『資本論』)の学習の上で、今回は実践編として、実践的に賃金(「労働の価格」)はどのようにして決められるのか、商品の価値は何によって決められるか、剰余価値はどのようにして生み出されるのかについて明確にしているのは、一層分かり易くてよかった。 【g】 『賃金・価格・利潤』が、ウェストンと対決して賃金、労働運動をめぐり、党派闘争として書かれたものであることを改めて重要だと感じました。 【G】 『賃金・価格・利潤』を学ぶ意義として、今日の情勢が冒頭に、当時の第1インターナショナルが直面していた課題と完全に重なり合うと提起されていることが、まったくその通りだと思いました。 【I】 今回の『賃金・価格・利潤』の講義を受けてハッキリとしたことは、一つは、「同一労働・同一賃金」と「同一価値労働・同一賃金」とが決定的に異なるものである、ということです。 【A】 『賃金・価格・利潤』を今日的に学ぶということ、とりわけ11月労働者集会1万人結集の実現を闘い取ろうとしている中でどうとらえるかという点で、いくつかの感想を持ちました。 【B】 『賃金・価格・利潤』仲山良介著を読んできたのだが、賃金の価値とか、賃金はどう決まるのかとか、分かりにくかったので困っていたのですが、受講してすっきりした。 私たちが職場で問題になること、賃上げしたら会社が倒産する、最低賃金を1000円にしたら中小企業はやってられない、に対し、私たちの答えはこれしかない、と思えるような講義と質疑だったと思います。 【f】 @8・30総選挙、労働者の積年の怒りによって自民党が打倒された。そして、革命を圧殺するという一点において、民主党・連合政権が登場した。まさに階級攻防の焦点は、労働組合をめぐる攻防に絞り上げられたのである。 【C】 今日の講義は、体制内労働運動の幹部たちと闘うために、労働組合論、賃金闘争論ということで、非常に重要であった。 【y】 今回の講義は、大恐慌を革命に転化するために、自分たちのすさまじい飛躍を求めるものだと感じました。11・1は、大恐慌下の労働者階級の怒りを結集させ、全労働者階級の闘う団結を闘いとるために、「1047名解雇撤回!」を掲げて1万人結集で実現させなければならない。その力が、今年冬から来年春の闘いにとって、本当に死活的なものになっていると冒頭で感じました。 【a】 労働組合の存在と役割を鮮明にした講義でした。そして、賃金闘争が革命運動の両輪としてあることが改めてはっきりした。党の闘いを媒介として、職場生産点における労働者の怒りを階級として組織する、自己解放的闘いなのである。マルクスの時代の“ストライキ・労賃値上げの叫びの蔓延”を学ぶ 【Z】 なぜ、『賃金・価格・利潤』を学習するのか? それはどのように学習されるべきか(『賃労働と資本』との違いは何か?)、昔、党の学習基本文献9種になぜ『賃金・価格・利潤』が入っていなかったのか?という問題意識があった。(せん越ですが…。)この意味では、今回の提起は非常に成功している。非常に勉強になった。 【N】 11月集会に向けて重要な講義でした。 【v】 ○地区の労働学校で『賃労働と資本』の学習をやった時に、「商品の価値とは労働力の生産費に規定されること。この労働力の価値とは、特別な使用価値=創造力の不当な変換=搾取が賃金形態で制度化されている」という提起に対して、「労働力の生産費に規定されるのではなく、労働量=労働時間に規定されるのではないか。一労働日に支払われる賃金は、労働力の再生産に必要な額に規定される。労働力の再生産費と言ったら、家賃や食費によって商品の価格が決まることになり、搾取のからくりがわからない。ブルジョア・イデオロギーにとりこまれる」といった意見が出され、いろいろな議論になったがスッキリしなかった。 【q】 『賃金・価格・利潤』のマルクスの視点が、労働者は賃金制度の廃止のために労働組合に結集し、団結して闘わなければならないというところにあることが改めて理解できた。そのためにも、ウェストン的な考え方を徹底的に批判し、賃金闘争の重要性が資本による分断攻撃を打ち返すところにあることも、討論を聞いていて分かった。 【Q】 『賃金・価格・利潤』は、「労働者階級の基礎的団結体である労働組合について、その任務と、賃金闘争について、マルクスが論じた書物」であり、重要な文献なのだということを、あらためて感じた。 【W】 賃金闘争を否定したウェストンの主張との闘いは、今日においても重要な意味を持つ。 【e】 ・自分が発言したことが、今日の講義と討論を受けての感想のすべてですが、その上で。 【U】 「綱領草案」を発した今、『賃金・価格・利潤』をとらえ返すと、非常に実践的な書物なんだということがわかりました。 【n】 今日の講義は、判ったような、よく判らないような、全体にぼやーっと聞いていたのでしょうか? 【Y】 今回の『賃金・価格・利潤』の学習は、非常に学ぶものがたくさんありました。 【J】 賃金闘争およびそれに連なる職場でのあらゆる資本との日常的な戦闘を、可能な限りあらゆる形態で組織しぬくこと……この最も基本的な労働者階級の闘いそのものが、国鉄分割・民営化以来二十数年にわたる資本・権力の攻撃と、JR総連・カクマルの白色暴力、体制内派指導部の全面的な後退・屈服の中で、とてつもない後退を強いられてきた現実がある。 【X】 『賃金・価格・利潤』でマルクスは何を提起したかったのか? 今回の講義を通じて、私なりに少しつかめたように思う。 【R】 講義を受けて理解を深めた点。 【r】 印象に残ったこととして、「賃金制度の上では『平等な賃金』はありえない」というところで、マルクスが「平等な賃金」なるものを労働者階級自身の自己解放闘争を否定した空想的プランを案出する空想的社会主義者に対する怒りの表現としてとらえるべきという提起です。 【i】 『賃金・価格・利潤』において、賃金闘争など有害無益とするウェストンの主張を、マルクスが否定しているのは言うまでもない。が、それと同時に、「革命」を語りながら賃金闘争をないがしろにする空論的・空想的社会主義者どもをも、鋭く批判していることを見てとらなければならない。 |