レーニン『国家と革命』(下)後半講義概要 講師丹沢 望 ■『国家と革命』と労働組合の革命論的意義 階級的労働運動路線の発展の観点から『国家と革命』を読み直すことが今、決定的に重要になっている。そのためには、プロレタリア革命において労働組合、労働運動がいかなる役割を果たすのか、労働者階級は労働組合運動をとおして、どのような道筋をとおって革命に到達するのか、そして、労働者階級の革命的前衛党は、この闘いを指導するためにいかなるものとして自己を形成していくべきかという問題意識を強烈に持って、ロシア革命を総括することが必要だ。なぜならば、ロシア革命が歴史上初めて、革命的前衛党の指導の下で労働組合を基盤として勝利したプロレタリア革命であったからだ。 ●労働組合に重点をおいたロシア革命の総括 ロシア革命を今日的に総括する場合、われわれは今までの発想を根本的に転換しなければならない。今までのわれわれのロシア革命史への関心は、どちらかといえばロシア革命の政治的・軍事的過程そのものに焦点を絞る傾向があった。「巨大な政治闘争、街頭闘争、権力奪取の武装蜂起、非合法・非公然の党と非合法・非公然活動」などの展開に重点を置いてロシア革命史を分析する傾向があった。 ●革命と労働組合についてのレーニンの基本認識
レーニンは、マルクス、エンゲルスの「労働組合は、資本の侵害に対する抵抗の中心としておおいに役立つ」が、「資本とのゲリラ戦にのみ専念して労働組合の組織された力を現行制度の変革、すなわち労働者階級の究極的解放と賃金制度の最終的廃止のためのテコとして使用しなければ、闘いは全面的に失敗する」という立場を継承し、「労働者階級の解放は労働者自身の事業でなければならない」(『社会民主党綱領草案と解説』、レーニン全集第2巻)という立場に最初から立っていた。 ●1905年革命と労働運動 05年革命に至るまで、ツアー体制下のロシアでは労働組合は非合法であった。だが、ロシアの労働者階級は、労働組合が存在しないにもかかわらず、ロシア資本主義の形成と同時に極めて戦闘的なストライキ闘争を開始し、すでに1890年代からツアー体制を根底から揺るがす闘いに突入していた。 ●反動期の労働運動 05年12月モスクワ蜂起の敗北後、労働運動は再び厳しく弾圧される。こうしたなかで、労働組合における革命党の闘いをめぐって、激しい党派闘争が展開される。党を解党して労働運動を経済主義的にのみ展開する「解党主義」や、労働運動を放棄して非合法の政治的・軍事的闘いにのみ集中しようとする「召還主義」や、プレハーノフらの「労働組合中立論」などは、いずれも労働者階級のなかでの革命党の闘いを否定するものであった。 ●1917年2〜10月における労働組合とソビエトをめぐる党派闘争 この時期、プロ独をめざすボルシェビキの階級的労働運動を軸とする権力奪取の闘いに対し、ブルジョア臨時政府、エスエル、メンシェビキなどの日和見主義勢力が一丸となって敵対し、両者の間ですさまじい党派闘争が展開された。プロレタリア革命が具体的課題となったとたんに「マルクス主義」「社会主義」を標榜するあらゆる勢力が反動化し、ついにはブルジョアジーと連立政権を形成してボルシェビキに対して反革命的攻撃を仕掛けた。資本主義の救済か、その打倒を通じたプロ独樹立かをめぐって一切の党派闘争が展開された。 ●ロシア革命における労働者統制と工場委員会の意義 ボルシェビキは労働組合とソビエトのかなりの部分のメンシェビキ、エスエルによる支配を転覆し、臨時政府を打倒するために、どのように闘ったのか。単なる政治路線の正しさや、戦争問題をめぐる党派闘争や、街頭闘争での勝利という空中戦的闘いを通じて、ボルシェビキが勝利したのではない。ボルシェビキは工場委員会(メンシェビキなどの産別支配を覆すために、各工場ごとに形成された一種の労働組合)による職場・生産点における権力の奪取と職場支配権の確立と、労働者による生産・管理業務の統制を通じて、労働者権力の基盤をつくった。 ●労働組合と労働者の武装 労働組合は労働者の武装部隊形成の決定的テコとなった。2月革命後の臨時政府による警察の復活策動に対する反撃として、労働者たちはボルシェビキの呼びかけに応え民兵組織を各工場に形成した。それは次第に労働者赤衛隊へと発展していった。赤衛隊は、経済統制や資本家のサボタージュへの対処のために威力を発揮したばかりでなく、8月下旬のコルニーロフの反革命反乱を鎮圧する重要な役割を果たした。 ●戦時共産主義期の労働組合 この時期、ボルシェビキは『国家と革命』で明らかにされたプロ独の内容を具体的にするために、パリ・コミューンの「4原則」をできるだけストレートに貫徹しようとした。労働者の武装を核とした全人民の武装=民兵制の導入、官吏の選挙制と随時罷免制、労働者並みの賃金、立法府であるとともに執行府でもあるソビエトのプロ独権力としての強化などである。 ●労働組合の国家化政策 18年頃から19年初めにかけて、労働組合に国家機能の大部分を担わせる「労働組合の国家化政策」が実施された。レーニンは18年10月の10月革命1周年記念の日に、「労働者階級が管理を学びとり、労働者大衆の権利が確立されたときに初めて、社会主義は形づくられ確立されうる。……これがなければ社会主義は願望にすぎない。だからわれわれは、この政策が矛盾に満ちたものであり、不完全な方策であることを知りながらも、労働者統制を実施したのである」と述べている。 ●「労働組合は共産主義の学校」論 だが他方で、内戦期・反革命干渉戦争の時代が過ぎると、戦時共産主義は行き詰る。それは、すでに見たような客体的困難と労働者階級の階級的自覚と文化水準・管理能力の不十分性という主体的困難を原因とするものであった。 ●労働組合と国家の融合論 その上でレーニンは、共産主義の学校としての労働組合がその任務を完遂した暁には、労働組合とプロ独国家は融合し、プロ独国家の死滅の具体的過程が始まることを予測した。 ●結語 レーニンは、労働組合を革命の初期の段階から、武装蜂起、内乱期、プロ独期、そして国家の死滅過程において極めて重要な役割を果たすものと把握した。こうした理論はロシア革命で実践的に試されたものとしてわれわれに大きな教訓を残している。 (後半講義了) |
討論から●e この間、われわれ自身が、労働者階級の階級性に依拠して、プロレタリア独裁に向かっていく党と労働組合、その関係を戦闘的に、具体的な動労千葉の闘いを土台にしながら、現実的なプロレタリア革命を準備する党としてのあり方を模索し転換してきた過程だったと思う。そこに挑戦できるところに立ってるんだと感じた。 ●p 20年前、30年前とは違って、今の現在の路線との関係では、こういう方向で学習するんだと、非常に勉強になった。4月テーゼがその書かれなかった第7章であるというような理解も、30年前には大いにあった。ただその労働組合、もしくは労働組合運動の革命論的意義ということと、革命的意義ということとの違い、つまり「論」が入ってるか入ってないかの違いなんだけど、その辺も大事にしたい。 ●X 今日の提起は、階級的団結論で書かれざる第7章をやった。一番ああそうなのかと思ったのは、10月革命の前に、4月テーゼと6月デモへの参加、あるいは7月の6回大会、そこを転換点に、生産現場は、工場委員会と労働者統制でプロレタリアートが専制的に握っていたと。国家権力が二重構造というだけじゃなく、生産現場をもう握っていた。それが武装蜂起の準備だったということが重要じゃないか。 ●講師 パリ・コミューンの場合は、党が存在しないということと、無政府主義者の影響が圧倒的に大きかった。それから労働者階級の現実、いわゆる組織労働者、大産業の労働組合に組織した労働者ではないという問題があったと思う。にもかかわらず労働者階級が国家権力を暴力的に打倒し奪取し、あの4原則を編み出し、しかもそれを具体的に貫徹したという点で、すごいことだと思う。 ●W 今日の中心テーマは「労働組合の革命論的意義」ということで、そういう観点からちょっと。『新版 甦る労働組合』の中で、「労働組合と党は限りなく一体であるべきだ」というようなことが言われていると思う。そういうものとして階級的労働運動路線の中で進んでいるし、その中で体制内との党派闘争が激しく展開されている。そこのところで打ち抜かなくてはならない。「内なる体制内との闘い」ということも非常に重要だと思います。 ●講師 この「労働組合の国家化」の時点で、労働組合がどういう形で関わったのかということなんですけど、最初はかなり自然発生的に、ともかく工場を労働者が全部握って、ガンガン自分たちで生産管理やって、資材の調達なんかも労働組合同士で連絡つけてやっていく。全国的な横のつながりなんか拡げながらやってた。それが「国家化」だというふうに言われてた。ところがそれでやると、生産が大混乱しちゃうわけです。自分の工場だけの資材を集めて、他は関係ないと。 ●F 党学校に参加して、本当に勉強になりました。党の革命もあり、そういう中で、今日のような労働組合論をしっかりと対象化するために、党学校で学んだことを自分のものにしていくことが重要であると思っています。 ●a 今回、レーニンが非常に労働組合を重視したというのがはっきりした。05年の闘いをやって、その後、革命をどうやって勝利へ向けるんだっていう中から、労働組合を土台にしながらやっていく。その中で体制内とか日和見主義とのものすごい闘争が起きてくる中で、『なにをなすべきか?』は書かれてるんじゃないかと感じた。 ●K 今日の「労働組合の革命論的意義」、これが書かれてはいない『国家と革命』第7章の内容の叩き台だということで出された。レーニンがロシア革命を遂行するにあたって、パリ・コミューンの経験をとことんふまえて、そこを実践のテコとして闘い抜いて勝利したっていうこと、本当にそれがマルクス主義者の立場なんだということを学びました。 |
受講レポートから ★『国家と革命』(下)のレポートです。【X】 書かれざる『国家と革命』第7章を、「労働組合の革命論的意義」として、レーニンとロシア革命の労働者階級解放同盟の闘いから、過渡期国家建設期まで膨大な領域が扱われましたが、大変学習になりました。 【e】 『国家と革命』を学ぶ後半ということで、ロシア革命を対象化したということだと思います。全力を結集して、実践の中で学んだものを結びつけ、現代の『国家と革命』をつくりあげていくことが全党の課題になったということだと思います。 【W】 後半では、「労働組合の革命論的意義」についてのテーマであったので、ロシア革命の展開の中で、レーニンが労働組合について重視していることをあらためて学んだ。 【F】 資本主義の終わりの時代が始まっている。われわれは革命情勢の時代に生きている。この大金融恐慌・大不況を具体的に革命に転化するときである。千載一遇のときだ。 【a】 今回の『国家と革命』の後半での、レーニンが書くことができなかった第7章を学習することをとおして、革命に勝利するのは、労働組合が職場支配権を確立することであり、革命派が体制内執行部を打倒しないかぎり、労働者の解放はありえないと思った。 【K】 「資本主義がついに終わった時代」というその真っただ中で、あらためて『国家と革命』を学ぶことができ、新たな感動をえた。とりわけ、今回の“『国家と革命』と労働組合の革命論的意義”をテーマとした提起は、極めて今日的であり、かつレーニン・ボルシェビキのたたかいに新しい光を与えてくれた。 【A】 「労働者の解放は労働者自身の事業でなければならない」というレーニンの基本認識と確信。レーニンはプロレタリア革命をめざし、一貫して労働者階級の組織化を主要な任務とし、労働運動を階級的労働運動として発展させようとした。 【t】 大変意欲的・刺激的な講義でした。 【L】 『国家と革命』に書かれなかった第7章として、労働組合の革命論的意義が展開されたのですが、私にとってまったく新しい提起であり、実に興味深いものでした。 【p】 @労働運動の革命論的意義論として勉強になった。とりあえず… 【O】 全体を通じて、今日の階級的労働運動路線の確立および2008年11・2の地平から、これまでのマルクス主義・古典にたいする理解が問われている中、4者4団体派などの日和見主義潮流との党派闘争における本質的問題として、今回の提起がされていると思います。 【r】 『国家と革命』そのものに書いてあること自体、私としてまだ十分に咀しゃくしているわけではないという気持ちはあるのですが……。そのうえで、今回「書かれざる第7章」として、圧倒的に労働組合論が提起されましたし、17年10月革命に向かっての「労働者統制と工場委員会」の問題は、現在の階級的労働運動路線や職場支配権をめぐる闘いにもかなり直接つながるような問題としてきわめて重要だと思いました。 |