ZENSHIN 2004/05/03(No2148 p10)

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週刊『前進』(2148号7面1)(2004/05/03)

 5・21有事法案粉砕・改憲阻止へ

 イラク侵略戦争の継続・激化・拡大と北朝鮮侵略戦争体制作りの攻撃

 有事7法案・3協定条約案の全面批判

 有事7法案と3協定条約の締結承認案は、4月13日に衆議院本会議で趣旨説明と質疑の後、一括して審議入りした。4〜6月決戦の最大の課題は有事関連法案粉砕である。イラク撤兵・改憲阻止の闘いと結合し、5・21明治公園集会を3・20を発展させる大闘争として全力で闘おう。

 第1章 03年有事3法阻止闘争を上回る闘いで法案粉砕へ

 04年2月24日、政府の国民保護法制整備本部(03年6月成立の武力攻撃事態法にもとづいて設置されたもの)は、有事関連7法案の概要を発表した〔このうち国民保護法案については、03年11月21日に発表した「要旨」に「第8緊急対処事態に対処するための措置」という一章を追加したもの〕。そして、04年3月9日にはこれらの諸法案を閣議決定し、国会に提出した。
 また、04年2月27日には、ACSA(日米物品役務相互提供協定)の改定案について、川口外相とベーカー駐日米国大使が正式署名した。さらに、戦場での傷者、病者の状態の改善および捕虜の待遇に関係するジュネーブ3条約への二つの追加議定書についての国会承認案件も上記案件と一括して提出された。
 日帝・政府はこれまで、これらの諸法案の内容を全体として提示せず、基本的に「国民保護法」にわざとしぼって、それも抽象的に、小出しにしてきた。これまで日帝・政府は、昨年6月の武力攻撃事態法等の有事3法の成立後は、有事立法の問題は、あと「国民保護法」の問題が残っているだけだとキャンペーンし、これも民主党が基本的に「賛成」(促進)の立場だからさしたる争点とも言えないとして、人民をペテンにかけようとしてきたのだ。そして、マスコミも、国民の保護についての法案なのだから、しっかりといいものを作ってくれないと困るというような論調で、この日帝・政府の策謀に全面加担してきたのだ。
 しかし、今日、2月24日に提示された有事関連7法案の概要〔国民保護法案については3月9日閣議決定の要旨〕や、ACSA改定案などを見る時、そこから明確になってくることは、これら諸法案・諸案件は全一体として、とてつもない侵略戦争法案だということである。
 これらの諸法案・協定条約案はきわめて具体的に、日帝〔正確には米日帝〕が現実に強行しつつあるイラク侵略戦争やアフガニスタン侵略戦争の継続・激化・拡大の政策や、北朝鮮侵略戦争・中国侵略戦争のための戦略計画や準備的諸政策と一体であり、その一環としてあるのである。
 逆に言えば、こうした内容の諸法案・協定条約案を、日帝が今この国会で強引に押し通そうとしているということは、日帝がその体制的危機をのりきり、体制の延命を図るために、@イラク侵略戦争がいかに泥沼化しようとも、さらに深々と全面的に参戦していこうとしていること、Aさらに、米帝の北朝鮮侵略戦争(これは背後に究極的なものとして中国侵略戦争を想定しているということ)とどこまでも共同・競合して、積極的に全面的に参戦していこうとしているということ、をはっきりと示している。当面する4〜6月の有事法制制定攻撃との闘いは、昨年の有事3法案阻止闘争に勝るとも劣らない闘いである。

 「国際貢献」条項導入ACSA適用を拡大

 97年 新ガイドライン締結
 99年 周辺事態法・関連法成立とACSA改定
 01年 アフガニスタン対テロ特措法
 03年6月 武力攻撃事態法等有事3法成立
 03年7月 イラク特措法成立
 03年12月9日 イラク派兵閣議決定
 04年1月〜 イラク派兵強行
 今次の有事関連7法案・3協定条約案は、こうした一連の戦争法案、軍事協定と連結したり、その上に積み重ねられるものとして提出されている。そして、ここから見えてくるものは、日帝の帝国主義的侵略戦争政策の展開方向である。
 第一は、米帝のイラク侵略戦争に徹底的に共同・競合していき、それをどこまでも深化・拡大していこうとする、すでに開始されている展開方向である。これは、新ガイドラインと周辺事態法を基盤として、アフガニスタン特措法からイラク特措法へと突き進んだ方向であって、これは一般化して、いわゆる恒久法の制定を狙うものとなっている。
 今回の有事関連7法案・3協定条約案の中では、ACSA改定は実はこの面での巨大な反革命的突出を狙っているものだ。今回のACSA改定は、日本有事(武力攻撃事態と予測事態)に対してもACSAを拡大し、強化(弾薬の提供もする)するものとして大きくは打ち出されている。これ自体大攻撃であるが、さらに、今回の改定ではアフガニスタンやイラクで作戦を展開している米軍に対してACSAを適用すること、ひいてはアフガニスタン・イラク型の一般化されたものとしての「国際貢献」一般において、米日間でACSAを適用することができるように大改定が行われている。
 これは、ACSAを全世界的に拡大するものであり、日帝がイラク侵略戦争に全体重をかけてのめり込む戦略に踏み切り、米帝の世界大の戦争計画(戦争路線)にどこまでも協力し、安保での共同・競合を貫き、帝国主義間争闘戦に生き残ろうとしていることを示すものだ。
 もちろん、日帝はこうした世界的な侵略戦争の展開への道を完全に開くものとして、戦後憲法とくに9条の破棄を狙ってきていることは言うまでもない。
 さて、日帝が今次の有事関連7法案・3協定条約案でもって狙っている、侵略戦争における戦略的な展開方向の第二は何か。それは、これこそ今次攻撃の直接的内容をなすものである。それは、米帝がその世界政策の上で、イラクに続いて決定的に狙いを定めている北朝鮮侵略戦争の政策に対して、日帝が帝国主義的な利害と存否をかけて、米帝と共同・競合していこうとしていることである。
 北朝鮮侵略戦争はその必然的発展として、あるいはその大前提として、対中国の侵略戦争をはらんでいる。米帝もそれを世界戦略の基底に据えている。日帝も帝国主義としての生き残りをかけて、この米帝の世界戦略にくいついていくことを基底に据えて動き出している。
 今次の有事関連7法案・3協定条約案の全内容は、まさにこのようにイラク侵略戦争の継続・激化・拡大のための体制づくりであると同時に、米日帝による北朝鮮(→中国)侵略戦争への戦争体制づくり、軍事体制づくりとして存在している。このようにとらえることで初めて、有事関連7法案・3協定条約案の全内容を正しくつかみとることができる。

 周辺事態法以来の攻撃と今次攻撃の意味

 まず、97年新ガイドラインと99年周辺事態法の基本的内容と、昨年6月に成立した武力攻撃事態法と改正自衛隊法の基本的な内容がどんなものであるのか見ておく必要がある。
 周辺事態法では、周辺事態は地理的概念ではないとすることで、適用範囲を無限大に拡大できる可能性を法的に内包していた。その上で、安保条約の「極東」の範囲を越えて、朝鮮半島・中国はもとより、東南アジア諸国なども適用範囲に入ることが公然と確認されていった。さらに、周辺事態法では「後方地域支援」という概念をデッチあげることによって、日帝・自衛隊は、戦争行動を展開する米軍に対して、「武器・弾薬」を除く物資の補給活動を含む全面的な後方支援活動を行うことができるとされたのである。これに対応して、ACSAの改定も行われた。
 ここで重要なことは、日本が武力攻撃を受けていない時でも、日帝が「周辺事態」と断定すれば、米帝・米軍が行う対北朝鮮・対中国などの侵略戦争に対して、日帝が自衛隊の後方地域支援を含めて全面的に戦争協力・後方支援的協力をするということに踏み切ったということである。それは米帝にとっては、巨大な最前線出撃基地・兵站(へいたん)基地を確保したということである。他方、日帝にとっては、自衛隊が後方地域支援の名のもとに、対外侵略戦争に向かって決定的にひとつの壁を破っていくことを意味していたのだ。
 武力攻撃事態法(と改正自衛隊法)は、対北朝鮮・対中国の戦争体制という点ではさらに決定的な進展であった。これは米帝の三つの悪の枢軸論に基づく、北朝鮮侵略戦争の切迫化という現実の情勢によって、促進された動きであった。武力攻撃事態法は徹頭徹尾、北朝鮮侵略戦争法、それも先制攻撃型の侵略戦争法としてあった。まず、それは「武力攻撃」の定義からして、国家による大規模な攻撃というタイプのものだけではなく、組織的計画的なものなら国家でなくとも中小の規模のものでも武力攻撃と言えるとした。
 さらに決定的なことは、武力攻撃事態(おそれのある場合を含む)と区別して、武力攻撃予測事態という概念を新しく設定したことである。この武力攻撃予測事態は、「武力攻撃のおそれのある場合」という従来の規定とは区別され、それよりももっと以前の段階をも含むものとされた。これは、日本の相手国が日本への攻撃を公然と言明したりするだけでも、武力攻撃予測段階とできるものだ。しかも、この武力攻撃予測事態の段階で、直ちに自衛隊は展開予定地域内での陣地構築など展開準備の作業に突入することができることになったのだ(改定自衛隊法)。これは実質的な防衛出動の繰り上げ的開始である。相手国側はこれを宣戦布告ととってもおかしくはない。
 ここで、現実に東アジアの日本、南北朝鮮、中国(台湾)という国々を想定し、その中で米帝が三つの悪の枢軸論や金正日の独裁体制打倒、核武装等大量破壊兵器確保の政策阻止などのイデオロギーを振りかざして、イラク攻撃型の対北朝鮮先制攻撃をしかけるという情勢を措定してみよう。
 (1)米帝が対イラクのように侵略戦争を先制的に開始し、北朝鮮のピョンヤンなどへの爆撃を開始すれば、当然、両国は戦争状態に突入する。これは日帝にとっては間違いなく、まず、周辺事態への突入と言えるだろう。もっとも、「周辺事態」というのは法的には「そのまま放置すれば我が国に対する武力攻撃にいたるおそれのある事態等、我が国周辺の地域における我が国の平和と安全に重要な影響を与える事態」と定義されており、きわめて事態の幅が広い。したがって、ピョンヤン爆撃より前の経済封鎖や船舶臨検の段階でも、米日帝の必要性があれば、早々と周辺事態とすることもできる。しかし、ともあれ、ピョンヤン爆撃突入となれば、それは朝鮮戦争勃発(ぼっぱつ)ということであり、日帝は「周辺事態」を宣言し、対米全面協力に突入することは確実であろう。
 (2)しかし、このピョンヤン爆撃などの事態の発生は、日帝の武力攻撃事態法の観点からすれば、周辺事態法が発動される時はもとより、そうでなくても在日米軍基地がフル稼働することからして、北朝鮮からみれば、事実上日帝は参戦国なのであり、北朝鮮が対日の戦闘体制をとったり、対日攻撃権を主張(声明)することは当然であることを考えると、日帝は最低、武力攻撃予測事態を宣言し、武力攻撃事態法の発動に踏み切ることはきわめてありうる。戦況によっては、それはほとんど武力攻撃のおそれのある段階として、武力攻撃事態そのものの宣言となることも大いにありうる。
 (3)したがって、米帝の北朝鮮侵略戦争の発動の開始は、ほとんど同時に、周辺事態法の発動となり、かつ、武力攻撃予測事態または武力攻撃事態の発動ということになるということだ。
 (4)しかし後に見るように、周辺事態法のみの発動の場合、日帝は純形式的にはあくまで米帝の戦争への「後方地域支援」に限った後方支援活動で協力するということにとどまる。これに対して、武力攻撃事態法が発動されるということは、日帝自身が直接に戦争当事国となるのであって、両者の違いは大きい。この場合、日帝は武力攻撃を排除するためとして、相手国に対してあらゆる戦争行為が可能となる。それだけ対米軍協力の点でも全面的本格的なものとなっていく。
 (5)そして、ここで今次の有事関連7法案と3協定・条約案の戦争上の意義がきわめて鮮明となるのである。とりわけ米軍にとっては、(イ)ACSAが改定され武力攻撃予測事態の段階から、弾薬を含めて軍用の物品・役務の提供を無制限に保障されること、(ロ)米軍行動円滑化法案によって米軍は日本の政府・自衛隊・指定行政機関・公共団体・事業者等から全面的協力を得ることが保障されるばかりか、道路工事や交通妨害物の撤去などが自由にでき、道路以外のところも自由に移動でき、何よりも土地や家屋を自由に使用することができるのである。
 ちなみに、今次の有事関連7法案中の自衛隊法改正案は、このACSA改定と米軍行動円滑化法案の内容を、自衛隊サイドで実施することができるようにするための法案である。また、交通・通信利用法案は、武力攻撃事態等における交通と通信手段の軍事利用優先を絶対的なものとして確保する法案だが、ここでは武力攻撃事態対策本部長つまり首相が、こうした交通・通信にかかる特定公共施設の利用について「総合調整」(指揮・命令)できるとされているのみで、利用する主体が自衛隊と限っていない。すでにこの点では米軍は膨大な自由を享受しているが、戦時にはさらに大きな自由が保障されるというわけだ。
 (6)要するに、米軍は50年朝鮮戦争の時に対応するような形で、日本国土・基地・軍需品調達・医療・交通・通信などの点で、巨大な日帝の軍事力・国力を利用できるということ。逆に、日本はそうした米帝の北朝鮮侵略戦争を、自己自身の侵略戦争として徹底的に遂行しようとしているということだ。
 (7)有事関連7法案・3協定条約案が自衛隊にとってもつ意味は何か。
 (イ)米軍との共同行動の体制の確保。
 (ロ)自衛隊はすでに昨年6月、有事3法の中の自衛隊法改正によって、膨大な行動権や調達権を確保している。今回の有事関連7法案・3協定条約案では、交通・通信利用法案は巨大な権利・自由の確保。
 (ハ)外国軍用品等海上輸送規制法案は、日帝・自衛隊(直接には海上自衛隊)が強大な海軍力を確保していくこと。北朝鮮侵略戦争の上で決定的分野(海上封鎖)に自衛隊が大きな役割を担おうとするものだ。北朝鮮侵略戦争へのすさまじい牙(きば)としての意義を持っている。

 第2章 「予測事態」も含め米軍に物品・役務と弾薬を提供

 (A) ACSA改定案

 ACSAは初めのうちは平時の訓練とか、PKO関連での日米間の後方支援・物品役務相互提供の仕組みとされていたが、99年の周辺事態法の制定に伴って、日本周辺で戦争行為(軍事活動)を展開する米軍への日本からの全面的な後方支援、物品・役務〔ただし武器システム、弾薬は除くとされた〕の提供ができるものに改定された。この99年改定のACSAをとっても、その発動はそれ自体、すでに、日帝が米帝の日本周辺国(例えば北朝鮮、中国)などへの戦争に事実上参戦するに等しいと言える。
 しかし、今回のACSAの改定は、こうしたレベルをはるかに越えた一大改定なのである。しかもこれは現在すでに展開されているイラク侵略戦争やアフガニスタン侵略戦争への海上給油の活動などを、ACSAの枠組みでどんどんできるようにすることをも含んでいるのだ。
 今回の改定は、武力攻撃事態法の制定に伴うものとして行われるものだが、これはACSAの性格を完全に侵略戦争のための百パーセント戦時モードに切り換えるものとしてある。武力攻撃事態法は周知のように、武力攻撃事態〔おそれのある場合を含む〕と武力攻撃予測事態という二つの事態の規定を行っている。ここでは、まず、日本が武力攻撃をうけた場合に、その排除のために、来援する米軍に対して、全面的に軍事協力するのは当然であり、米軍に弾薬を含めて全面的な物品・役務の提供をすることができるようにするとされる。そして、それにとどまらず、このロジックをバネに、武力攻撃予測事態においても、弾薬を含めて、全面的な物品・役務の(対米軍)提供ができるようにするとされるのだ。
 ところが、武力攻撃予測事態というのは、武力攻撃事態における武力攻撃のおそれのある場合(非常に切迫した情勢をいう)とは区別された前段事態であって、情勢が緊迫して、武力攻撃が予測されるに至った事態というようにきわめて幅の広い概念である。したがって、いわゆる周辺事態の規定と大いに重なりあうものをそもそも持っている。
 こうなると、実際の現実の米帝の戦争政策と日帝の安保政策の展開の中でこれをとらえてみれば、米帝、そして米日帝が北朝鮮侵略戦争の計画を実行するに際しては、周辺事態の宣言と、武力攻撃予測事態の宣言と武力攻撃事態の宣言が、事実上全一体のものとして組み立てられ、政治的判断でいかようにも発動されるということである。
 この場合、予測事態でも、武力攻撃事態そのものと同じく、弾薬を含む全面的な物品・役務の対米提供が保障されるということは、米帝、米日帝の侵略戦争遂行上決定的な意味を持つ。つまり、ACSAが直ちに戦争モードで機能するのである。米帝は、北朝鮮侵略戦争に際して、50年朝鮮戦争の時と同じように、日本を百パーセント自由に使用できる出撃基地・最前線基地・補給基地・兵器廠(しょう)として活用できるということなのである。
 今次のACSA改定では、今ひとつ断じて許すことのできない大改悪がある。それは、ACSAの適用範囲をいわゆる「日本有事」を越えて、「国際貢献、大規模災害」に際しても、この枠組みを適用するとしたことである。ここで言う「国際貢献」とは、イラク特措法とアフガニスタン(対テロ)特措法に基づくような「国際貢献」のことを指すのである。つまり、今日イラク特措法やアフガニスタン特措法に基づいて行っているような対米英軍の大規模な給油活動などの活動を、これからはACSAの枠組みでできるようにするということだ。これは、いわゆる海外派兵恒久法によって全世界への米英帝のアフガニスタン型、イラク型の侵略戦争に対して、自由に多国籍軍への「後方支援活動」の名のもとに日帝も参戦していくという攻撃の先取りである。
 すなわち、日帝は今や米帝の世界規模の侵略戦争に対して、日米安保軍事同盟を拡大適用し、後方支援活動の名のもとに参戦していこうとしているのであり、そのためにACSAの枠組みを大改定しようとしているのだ。

 (B) 米軍行動円滑化法案

 この法案の目的は次のように書かれている。
 「武力攻撃事態等において、日米安保条約に従って我が国に対する外部からの武力攻撃を排除するために必要な米国の軍隊の行動が円滑かつ効果的に実施されるための措置その他の当該行動に伴い我が国が実施する措置(行動関連措置)について定めることにより、我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に資することを目的とする」
 これが「1目的」の全文だ。この「目的」の部分の文字づらからはなかなかつかみにくいが、真の「目的」は何か。
 日本への外部からの攻撃の排除のために米軍が行動を起こすといった文脈で書かれている。しかし、この法律は真空の中ではなく現実の国際情勢の中で発動される。架空の想定に従っては発動されない。今日問題となるのは、実際には米帝、日帝と、南北朝鮮、とりわけ北朝鮮、そして中国(中国本土と台湾)である。
 ここで、実際にまさに問題となってきているのは、米帝がイラクに続いて北朝鮮侵略戦争を遂行しようと、その全体制をつくろうと必死になっていることだ。そして、日帝が、日帝としての自己の延命とアジア支配権をかけて、この戦争を自己の戦争として、米国との共同・競合の形態で遂行しようとしているということだ。しかも繰り返すまでもないが、ここで「武力攻撃事態等」と「等」がついているのは、「武力攻撃予測事態」も含むことをはっきりさせるためだ。そして、この「予測事態」というのは、米軍が対北朝鮮の戦争宣言をして行動を開始するか、開始が確実になれば、周辺事態法と同時かまたは単独でも発動されうるものなのだ。
 また、「外部からの武力攻撃」と言っているが、実際には米軍の先制攻撃への北朝鮮側の必死の若干の反撃による若干のミサイル被弾や小部隊のゲリラ的着上陸以上のことは日帝は想定していないのである。
 したがって、われわれがこの米軍行動円滑化法案について検討する時、大切なことは、米軍が北朝鮮への侵略戦争を開始し、中国とも緊迫した関係に突入していく中で、米帝・米軍が日米安保をテコに、どのように日本や日本周辺で軍事行動を展開するのかという問題なのだということである。そして結論的に言えば、米帝・米軍は、この北朝鮮侵略戦争において日本を最前線出撃の支援基地国家として、また、物資等の補給基地として十分に利用できるのであり、日帝・政府と自衛隊はそのために全力を挙げるということだ。
 いくつか、具体的に重要項目を指摘しよう。
 「2政府の責務等」では、政府が米軍の行動の円滑化のために「行動関連措置」を実施するという確認とともに、次の条項がある。
 「地方公共団体及び事業者は、指定行政機関から行動関連措置に関し協力を要請されたときは、その要請に応じるよう努める」
 ここでいう「事業者」とは、航空会社、鉄道会社など運輸業者であり米軍に物品や役務の提供、施設の提供等を求められるすべての事業者である。たしかにここは「責務を有する」という書き方はしていない。しかし、指定行政機関とは政府であり諸省庁などのことだ。それからの要請を「努力義務にすぎないから断る」と言える事業者はまずない。となれば、あとは会社等からの業務命令が出るのであって、実質的にこれは命令となるのだ。
 この項目に「事業者」と一言記入されていることの意味は、巨大なものがある。これによって、米軍は日本から、どんなサービスも物品提供も受けられる保障が得られたということなのだ。
 「4地方公共団体との連絡調整」も重要だ。日本政府から地方公共団体への要請による武力攻撃事態への対処措置と、米軍の要請による関連措置とがぶつかりあう時は、政府が調整する(指導・指揮する)と言っている。米軍こそ戦争の最大主体、最大主力をなすからだ。
 「5合衆国軍隊の行為に係る通知」の中身は、武力攻撃事態において、米軍から「応急措置としての道路の工事」をすると連絡を受けた時は、自衛隊の場合と同じように、道路管理者の事前承認を受けることなど必要ではなく、防衛庁長官が通知すればたりるということである。この項目は、米軍が道路を自由に使用できることを示している。
 要するに、米軍は(自衛隊とともに)自由に軍事優先で動き回り、軍事上の必要をどんどん満たすことができるということだ。
 「6自衛隊による物品及び役務の提供」での規定を総合してみれば、「武力攻撃事態等」の条件下では、内閣総理大臣または防衛庁長官の命令によって、自衛隊はあらゆる物品(したがって当然、弾薬なども含む)、あらゆる役務を米軍に提供できるということだ。米軍と自衛隊の戦争上の一体化がどこまでも可能となるということだ。これは米帝・米軍の戦争遂行上、決定的な意味を持つ。
 「7指定行政機関による行動関連措置の実施」は、全政府組織をあげて、米軍活動を支えることを規定している。
 「8武器の使用」。防衛出動等以外の時でも、例えば、予測事態下の行動において、自衛隊は米軍に役務を提供できるが、この際、自衛官は「自己等の生命の防護のために武器を使用することができる」とされている。自衛隊が米軍に広範なタイプの役務を提供することを示している。防衛出動発令前でも、武器を使用することがあるような任務につけられるということだ。
 「10損失の補償」は、米軍が、移動にあたってあらゆる制約を破って行動する権利を示している。道路が使えないなら、道路以外のところも通行してしまう(緊急通行)、道路に邪魔な車両等があれば、撤去してしまう権利があるとうたっている。
 「11土地等の使用」では、「武力攻撃事態において」、米軍が活動上、「土地または家屋を緊急に必要とする場合」はこれを使用できるとしている。まさに強権発動である。

 (C) 自衛隊法改正案

 この改正案は、「1目的」のところで、「ACSAの改正に伴い、自衛隊法上必要な改正を実施する」とある。そして、「2」において、自衛隊による米軍への物品・役務の提供権限を新設している。まず、@災害派遣の現場に政府の要請に基づき米軍が応援に来た時は、自衛隊は物品・役務の提供ができるとする。またA「自衛隊が在外邦人等の輸送を行っている現場において、当該輸送と同種の活動を行う合衆国軍隊」に対して、自衛隊は物品・役務の提供ができるとしている。
 その上、ここでの米軍は「当該輸送と同種の活動を行う米軍」と規定されていて、自衛隊の活動の応援に来た米軍とは限らない。「同種の」ということは、一種の「後方活動をしている」といった意味にもとれる。とすると、この対象となる米軍とその活動は大きなものとなる。物品・役務の提供も重大な戦略的な米軍加担となることもありうるのだ。
 さらにBの項目も、文言があいまいで重大な内容を包含しうる。ここでは「訓練その他の活動のため、航空機、船舶又は車両により本邦内の自衛隊施設に到着して一時的に滞在する合衆国軍隊」に対して自衛隊が物品・役務の提供ができるとしている。「訓練その他の活動」という言い方が問題だ。これは平時的イメージをもちやすいが、戦時に戦争目的で来た時も、自衛隊施設に滞在するのは「訓練その他」のためだということはよくあることだ。このB項目は、米軍が対北朝鮮・中国などの戦争を構える時、自衛隊施設を大規模に利用することをも可能とするものと言える。そして、それに対して、自衛隊が物品・役務を提供することができるというのだ。重大問題である。
 いずれにせよ、今次有事関連7法案・3協定条約案の内容を見る時、A=ACSA改定、B=米軍行動円滑化法案、C=自衛隊法改正案、D=交通・通信利用法案(このDはまず自衛隊関連法案だが、米軍も完全に包含していると言える)の四つは、いわゆる武力攻撃事態等のもとでの米軍の戦争体制構築にかかわるもので、全体の有事法制攻撃の二大柱のひとつをなすものだ。したがって、今次の有事関連7法案・3協定条約案について、「国民保護法制+α」といった整理の仕方にはとんでもない反革命的意図があるのだ。朝鮮・中国侵略戦争法案体系としての03〜04年有事法制攻撃の決定的な柱のひとつとして、このA+B+C+Dを広義の米軍支援法として決定的に重視すべきである。すなわち、北朝鮮侵略戦争の切迫を示す法案なのである。

 第3章 自衛隊の戦争遂行権限を強化し戦争への突入狙う

 これまで主として米軍支援関連法の性格をもつ法案について、具体的に検討してきた。しかし、有事関連7法案・3協定条約案の中には、昨年6月の武力攻撃事態法に基づく自衛隊の戦争遂行権限法案としての改正自衛隊法を、さらに補充するところの、自衛隊の戦争権限に関するおそるべき法案が含まれている。その第一が交通・通信利用法案であり、その第二が外国軍用品等海上輸送規制法案である。
第1節 (D) 交通・通信利用法案
 これはまさにむきだしの有事法案である。戦時において重要な交通・通信手段について、強権をもって軍事的優先利用を可能とさせる法案である。
 まず、「1目的」は次のように規定している。
 「武力攻撃事態等における特定公共施設等(港湾施設、飛行場施設、道路、海域、空域および電波)の利用に関し、その総合的な調整を図り、もって対処措置等の的確かつ迅速な実施を図るため、指針の策定その他の必要な事項を定める」
 例によって注意深く読む必要がある。
 ひとつは、「武力攻撃事態等における」とされていること。
 今ひとつは、この「目的」規定は、自衛隊のためにも米軍のためにもされていることである。これは、ここで言われている対処措置というのが武力攻撃事態法の第2条の規定に基づくもので、その中身は自衛隊の行う軍事活動と安保に基づく米軍の軍事活動の双方を意味しているのを見れば、はっきりする。これは2以降の具体的規定の中に、「特定の者の優先的利用を確保する」とあることを見てもわかる。「特定の者」であって、自衛隊だけを指していない。米軍を百パーセント含んでいる。
 「2港湾施設・飛行場施設の利用」では、港湾施設・飛行場について、武力攻撃事態等の対処のために「特定の者の優先的利用を確保する」ことについて、きわめて厳しく規定している。
 @対策本部長(武力攻撃事態対策本部長=内閣総理大臣)は指針を定める。
 Aこの指針の内容は「特定の者の優先的な利用」などについて、基本的事項を定めること(この際、地方公共団体の長の意見を聴く。聴くだけ)。
 B「特定の者の優先的利用」がとくに必要な時は、港湾施設または飛行場施設の管理者に対し「特定の者に優先的に利用させるよう要請することができる」。
 C上記管理者はこれに意見を言うことができる(言うだけ)。
 D上記管理者は上記の要請をうけて「施設の利用許可の変更」等ができる(先約者のキャンセルなど)。
 E上記管理者はDの変更の際に「現に停泊中の船舶や駐機中の航空機の移動」を命ずることができる。
 F上記Bの要請が実現しない時は、内閣総理大臣の権限で移動させることができる。
 G国は、施設の利用の変更などから生じた「損失を補償する」。
 これは、ものすごい内容である。空港など(例えば成田空港)を、完全に軍事空港として利用するということ。それも強権の発動をもって。重要空港・港湾の軍事利用の保障なしに朝鮮戦争はできないと言われた(例えば94年)が、まさにそれを保障する法案ができたのだ。
 「3道路の利用」では、対処措置のため、対策本部長は「特定の地域における道路の利用に関する指針を定めることができる」とされている。いざ戦争突入という時には、特定の地域の道路は軍事的管理のもとにおかれるということ。ここでも、いざとなれば2と同じように強権が発動されよう。
 「4海域・空域の利用」もウルトラに軍事的な内容である。
 対策本部長は空・海域の利用についての指針を定め、それに基づいて、@海上保安庁長官は特定の海域において船舶の航行を制限できる、Aまた、国土交通大臣は航空機の航行について「飛行禁止区域の設定等」ができる、としている。
 そして、これに違反すれば罰するとしている。完全に海域・空域の軍事管理の実施である。
 「5電波の利用」も、電波の完全な軍事利用を規定している。ここでは、総理大臣は、武力攻撃事態法第2条で規定している自衛隊の軍事的行動および日米安保に基づく米軍の行動の円滑化のために、無線通信を軍事的に利用する権限が与えられる。
 すでに、米軍は日本での電波の利用について超特権的な権利をもっているはずであるが、ここでは自衛隊も含めて電波を軍事的に優先的に利用する権利が与えられるのだ。
 「6緊急対処事態における特定公共施設等の利用」は、国民保護法の第8章として最近付け加えられた緊急対処事態の規定に対応するもの。これは9・11型の航空機利用の攻撃のケースや原発被災等の事態に対応して、避難などのために特定の公共施設などを効果的に利用するために一定の措置をとるということ。
 この法案は、まさに米日帝の朝鮮侵略戦争の切迫性を強く示すものだ。決定的に重視すべきものである。

 (E) 外国軍用品等海上輸送規制法案

 これはストレートな戦争法案であり、しかも明らかに北朝鮮(さらには中国)関連等の船舶に狙いを定めたもので、これ自身、戦争挑発的な法案である。また、この法案は自衛隊サイドからの強力な要請で提出されることになったと言われており、好戦性むき出しの法案だ。
 「1目的」で、「武力攻撃事態に際して、我が国領海又は我が国周辺の公海における外国軍用品等の海上輸送を規制するため、防衛出動を命ぜられた海上自衛隊の部隊が実施する停船検査及び回航措置の手続」等について定めるとしている。ここでは、「外国軍用品等の海上輸送の規制」とのみ言っていて、けっして戦争の相手国の船舶に限定していない。いわゆる第三国の船舶も、また中立国の船舶も、すべて臨検するとしている。また、「周辺の公海」ということで事実上、公海全体を範囲としている。
 「2外国軍用品等の海上輸送の規制措置の内容」では、より具体的に規定している。「防衛庁長官は、我が国領海又は我が国周辺の公海において外国軍用品及び外国軍隊等の構成員の海上輸送を規制する必要があると認めるときは……停船検査及び回航措置を命ずることができる」ようにするとしている。
 ここで注目すべきことは、「外国軍用品及び外国軍隊の構成員」と物品だけでなく「軍隊の構成員」も含めていることだ。しかも「軍隊の構成員」というのは広い表現で拡大できる。その上で、いくつかの例示をしている。@大量破壊兵器などは廃棄措置をとる、A武器・弾薬は輸送停止措置をとる、B外国軍用品等の海上輸送を反復して行う可能性のある船舶に、航行停止の措置をとる。このBは完全に海上封鎖を実行しようとしていることを示す。
 「3停船検査及び回航措置」では、▽疑いのある船舶の停船検査(積荷検査)=臨検を実施する、▽相手が軍用品等を輸送していると認める場合、「積荷の引渡しを求めることができる」。また「我が国の港に回航させる」ことができるようにする。▽「停船措置等の実効性確保のために」「自衛官による武器使用を認める」として、停船検査は軍事力の行使のもとで行うとしている。
 この法案の本質は、日帝・自衛隊(海上自衛隊)が帝国主義的軍事力をもって、北朝鮮侵略戦争のため海上封鎖をしようというものであり、米日帝の北朝鮮侵略戦争のための体制づくりそのものである。すでに成立している外国為替及び外国貿易法の一部改悪や、今次通常国会に提出された特定船舶入港禁止法案と一体のものである。
 日帝・自衛隊は対北朝鮮・対中国という形で、米帝・米軍と共同・競合して、まさに戦争に突入しようとして動き始めたということだ。

 第4章 戦争に向け国民をあおり動員し犠牲にする攻撃

 (F) 国民保護法案

 日帝・小泉政権は、今国会に提出した有事関連法案の、主なものは「国民保護法案」で、その他の法案はプラスアルファにすぎないかのように言ってきた。そして、国民保護法案は国民の保護についてのものだから政争の具にすべきものではなく、民主党とも協議してスムーズに成立させたいというように言ってきた。また、民主党は、国民保護法案については民主党側の緊急事態法制定の方針とのすりあわせなどを主張して、自公民の協議に乗ろうとしている。
 だがまず何よりも、今回の有事関連7法案・3協定条約案が、昨年6月に成立した有事3法と一体のものであり、全部が全部恐るべき戦争法案であるということだ。それも、一般的な戦争体制づくりというのではなく、この03年と04年の合計10個の有事関連法と3協定・条約案のすべてが、開始されたイラク侵略戦争を継続・激化・拡大すること、そして何よりも、北朝鮮侵略戦争を実際に遂行することに百パーセント焦点を合わせてつくられているということである。
 また、今回の有事関連7法案・3協定条約案の内容の中には、北朝鮮侵略戦争を大規模な大戦争として遂行するための、米軍への日帝・自衛隊の全面的な協力体制の保障や後方支援、物品・役務の十全な提供、航空、港湾など重要な民間事業者の事実上の協力義務などが法案化して盛り込まれているのである。
 今日の日帝が日米安保同盟をテコとしてその帝国主義的軍事外交路線を組み立て、対北朝鮮、対中国の戦略を米帝・米軍との共同・競合の形態で推進しようとしている中で、この米軍のアジアでの戦争を可能にする関連法案の成立なしには日帝の武力攻撃事態法などの有事法案全体が十分に機能しない。
 したがって、今次法案をめぐって、有事3法を「完成させない」闘いはいよいよ決定的局面に入るのだ。完成させないことをとおして、「発動できない」力関係をつくっていくのである。
 その上で、「国民保護法案」そのものが、国民を保護するものだから問題はないとか、ないよりはあった方がいいなどという筋合いのものでは断じてない。

 米日帝の侵略戦争で相手からの反撃想定

 そもそも「国民保護法案」とは有事関連法案であり、本質的に戦争遂行法案なのだ。すなわち、日帝が政府を先頭にして、戦争、それも侵略戦争に「全国民」をたたき込む戦争法案の不可欠の一環なのである。もっと具体的に言えば、この「国民保護法案」が想定している戦争のシナリオについて、総務大臣自身が、全国知事との会合において、北朝鮮との戦争でミサイル攻撃が若干ありうる、小規模ゲリラの着上陸攻撃などが主なものだと言っているのだ。
 要するに、米帝・米軍が北朝鮮に先制攻撃を加え、日帝・自衛隊がこれに全面協力して、北朝鮮侵略戦争を推進する中で、北朝鮮側からする必死の若干の反撃があるとして、こうした被攻撃のシナリオが打ち出されているのだ。
 したがって、国民保護法は戦争から国民を守るものなどでは百パーセントなく、国民保護法があれば戦争に突入できると言って、戦争へと国民をあおりたてていくものなのだ。だから、一定のミサイル被弾は前提化しているのだ。さらには、原発被弾さえありうるとして前提化しているのだ。
 一体全体、ミサイル被弾で膨大な死者が出る時、それをどう保護するというのか。まして、原発被弾などという時、どうして恐るべき巨大災害から人民を守るというのか。どんな方法があるというのか。つまり、この「国民保護法案」というのは、国民を保護するどころか、まず朝鮮・中国−アジア諸国の人民を大量に虐殺し、さらに多くの日本の労働者人民を戦争で死亡させ負傷させることを促進する法案だということだ。
 それだけではない。国民保護法案の第一の狙いは、侵略戦争の結果引き起こされる相手側の反撃によって大きな打撃を受ける国民の動揺をとりしずめ、侵略戦争をさらに継続・激化させるために、人民を強大な国家権力の威圧のもとに組織化し、戦争の必要にあわせて動員し引きずり回すためのものなのだ。
 国民保護法案の最も恐ろしい点は、これが戦争災害からの防災の名のもとに、国民のあり方そのものを戦争モード、軍事モードに切り換えていく武器であり、これによって社会そのものが、戦争編成の社会、軍事編成の社会へと切り換えられていってしまうものだということだ。反戦を主張することを「社会」の名で圧殺する体制なのだ。戦前の隣組制度のようなあり方をつくりだすものなのだ。

 戦争行為の一環としての「国民保護措置」

 国民保護法案の中身を見ると、上記のことは恐ろしいほど見えてくる。
 まず、「第1章 総則」の第1節は通則であるが、ここからすでにいくつか見逃せにできない事柄が見いだされる。
 〔通則〕の第1項の〔目的〕の規定は、「武力攻撃事態等における、国、地方公共団体等の責務、国民の協力その他の事項を定めることにより、国民保護のための措置を的確かつ迅速に実施することを目的とする」としている。
 ここに図らずも「国民保護法案」なるものが、武力攻撃事態等=戦時における国や地方公共団体、国民の責務や協力の一環として実施されることが記されている。すなわち、法案の冒頭で、実は戦争の一環として「国民の保護」措置なるものが行われると確認されているのだ。
 〔通則〕の第2項は、国や地方公共団体が国民保護措置を実施する責務を有すると確認されている。そして、実は次の第3項で「国民の協力」について、「国民は国民保護措置に協力を要請された時は、協力するように努める」としている。協力への努力義務ということである。本来、「国民の責務」としたいが、努力義務というペテン的な形にしたのだ。
 ところが、この第3項の第3点目の問題として、「国及び地方公共団体は、自主防災組織やボランティアにより行われる国民保護措置に資するための自発的活動に対し、支援を行うよう努めなければならない」という内容が正式に盛り込まれたのである。
 日帝・政府はもともと「国民保護法」にからむ問題として、戦争中の隣組制度のようなものが決定的であること、最高の方法であることを認識していた。しかし、それをストレートに出すことは、国民保護法案、いや有事関連法全体への大反撃を引き起こす危険があるとしてきた。しかし、結局、ちょっとひねったやり方でこれを持ち出すことに踏み切ったのである。
 それは、すでに存在する自主防災組織を国が先頭に立って積極的に支援したり、その組織化を促進することにしたということだ。03年4月の時点で、自守防災組織は2536市町村に10万9016個あるという。これは全世帯の61・3%をカバーしているという。政府は、この自主防災組織を都道府県レベル、市町村レベルで協議会に組織し、合同の訓練を実施することや、災害時に使用できる携帯無線機や消火器等の備蓄に対して助成金を出すことをすでに決定している。これはきわめて重大な事柄だ。自然災害や事故等に対応してきた自主防災組織を戦争用の防災組織に変質させ、実質的に戦争中の隣組制度の機能を果たさせることに狙いを定めたのである。
 通則の第4項目は「人権の尊重等」となっているが、ここで言われていることは、戦争下ではすべて逆のことが多発することを裏から示している。つまり、人権が尊重されず、差別が行われ、良心と表現の自由が失われ、赤十字は自主性を失い、放送事業者は言論・表現の自由を奪われ、国民に正確な情報は届かず、高齢者、「障害者」は保護されず、国際人道法は無視されるということだ。
 〔総則〕の第2節「国民保護措置」では、第1項で国が行う「国民保護措置」の内容を列挙し、その指示や命令を受けて都道府県が行う国民保護措置を第2項で、市町村が行う国民保護措置を第3項で、指定公共機関等の行う国民保護措置を第4項で規定している。
 主な内容は、国は、@警報の発令、A知事に対する避難措置の指示、B知事に対する救援の指示、C知事に対する武力攻撃災害への対処に関する指示、D放射性物質等による汚染への対処、E危険物等に関する危険の防止に係る措置命令、などを行うとされている。
 知事は、これらの国の指示、命令に対応した措置をとるとされるが、避難についての指示は知事が行うとされている。これは、当初案では、市町村長が避難の指示をするとあったものを知事の権限に移したものだ。知事は、また独自の緊急通報を出す権限も与えられている。
 総じて、当初案に比べると、知事の権限が強化された面がある。しかし、これは国と知事が中央的権力として一体となって上意下達の体系を確立しようとするものにほかならない。また、知事も市町村長も、自衛隊の部隊等(この「等」は警察なども含む)の派遣を要請できるとして、自衛隊が「国民保護」関連でも大きく関与できることがうたわれている。
 〔総則〕の第2節のおわりの第5項目に、「武力攻撃事態等対策本部長(内閣総理大臣)は武力攻撃及び災害の状況並びに国民保護措置の実施状況の情報を国民に提供しなければならない」ということが規定されている。これは、第2章において、警報の発令とセットで提起されているが、ここでは分離して一項目に据えたということであろう。しかし、これはいわば大本営(武力攻撃事態等対策本部は実は大本営以上の権力を持っているが)発表の権限ということである。
 要するに、武力攻撃事態等対策本部長という戦争指導の最高責任者の直轄のもとに、国民保護措置なるものも、戦争行為の不可分の一環として実施されるのだということである。
 〔総則〕の第3節は、「国民の保護のための措置の実施に係る体制」である。
 ここでは、戦争指導の一環としての国民保護措置の実施についての指揮命令系統が規定されている。第3節では、国−都道府県−市町村の各級レベルに国民保護措置のための対策本部を設置することやその権限が規定されている。
 第1項では、国レベルの対策本部については、武力攻撃事態等対策本部(つまりこれは戦争の最高指導部である。本部長は総理大臣)が、国民保護措置を総合的に推進するとしている。そして、閣議決定をもって、都道府県対策本部および市町村対策本部を設置すべき都道府県、市町村を指定する。なお、各級の本部長は、首相、知事、市町村長。そして、この国−都道府県−市町村の対策本部の各々の権限は、基本的に、上意下達の軍事的体系であることが確認されている。下級は上級に各種の要請ができるだけ。総合調整=指揮命令の権限はすべて上級がもつ。しかも防衛庁長官は、都道府県の求めに応じて職員(=自衛隊代表のこと)を都道府県対策本部の会議に出席させるという規定さえもある。
 〔総則〕の第4節は「基本方針」である。これはきわめて重要なもので、一種の戦争方針のひとつである。この基本方針は閣議決定事項であり、国会に報告され、また国民に向かって公示される。
 基本方針の内容は、「想定される武力攻撃事態の類型」を示し、警報発令、避難、救援、災害対処等の諸措置の全事項を含む。さらに、指定行政機関、都道府県および指定公共機関の「国民保護計画」または「業務計画」の作成の基準となるべき事項を定めるとしている。
 このように、国の「基本方針」に基づく各級レベルの「国民保護計画」「国民保護業務計画」の系列は、完全に戦争指導の一環として上意下達の命令系統を形成している。また、第8節の指定公共機関等の「業務計画」は、国民保護の名で各産業部門で働く労働者を業務命令によって動員する内容となることは明白である。これ自身、強制的戦争動員である。

 首相の全権限の下に「避難に関する措置」

 第2章は、「避難に関する措置」について規定している。
 この避難に関する措置の部分を読むと、警報発令から避難にかかわる一切の事柄が、対策本部長が全権限を握り、一方的な指示、命令として行われるということだ。これに対して、拒否したり、抗議したりするということは一切許されない。完全に軍令なのである。
 まず、第1節の「警報の発令」について言えば、これは実際には、戦況(戦争をめぐる情勢)についての政府側の一方的説明であり、それに基づく「警報の発令」なのである。この内容が国家機関の上から下へ、そして、国→都道府県→市町村→住民の方向で、一方的に伝達されるのだ。その上で、放送事業者はこの内容をただただ報道しなければならないとされている。
 ここで、例えば武力攻撃予測事態などの場合を想定してみれば、戦況については情報は国家権力に独占されており、政治当局の思惑がいくらでも入り込むことができるのだ。しかし、放送事業者はこの戦況判断を一方的に流し続け、国家は戦争状況に突入してしまうのだ。
 「警報の発令」の条項は戦争に関する宣伝・扇動条項であって、第一級の戦争行為を規定しているのだ。
 この軍令的、一方的強制の性格は、次の第2節の「避難措置の指示」の内容でも貫かれる。ここでも、対策本部長(総理大臣)が避難元(避難すべき地域)と避難先(避難して行くべき地域)について上から一方的に決定し、これに基づく避難の指示を発する。そして、これは国−都道府県−市町村−住民の順で文字どおり上意下達されていく。
 すなわち、対策本部長が避難措置の指示を出し、それを受けて知事が市町村長に避難指示を出し、市町村はそれに沿って住民を誘導するとされているのだ。そして、この流れについては、強制的に実施できる条項がすべて担保されている。知事が「指示」を出さなければ、本部長(国)が実行する。市町村が「誘導」をしなければ、知事が職員をもって実行する。住民レベルでは誘導を妨害するものは「警告又は指示」によって排除できる。市町村長レベルの「誘導」過程こそ避難の基本実体をなすが、この際、市町村は、警察、海保、自衛隊の力の導入を要請できるとしているのだ。
 ここで避難という事柄について考察しておく必要がある。ひとつは、避難というのは、武力攻撃を直接に受ける危険があるということだけから発生しないということ。自国軍隊、自衛隊の軍事作戦、軍事展開、自衛隊自身のシェルターの確保などの必要からも、一定の地域住民を強制的に移動させることも避難なのである。したがって、住民からすれば、何の目的の避難かはよく分からないことがままありうるのである。
 今ひとつは、避難というものは、戦争の性格、規模、相手国の戦力などによって、大きな差異が生じてくるが、そういった具体性への言及が一見するとほとんどないということ。しかし、実はこれは戦争についての想定がないことではないのだ。それを示すものはここでわずかに具体的に表現されている「避難元や避難先の知事」ということである。つまり、特定の限られた県や市町村の避難が裏では想定されているということだ。
 戦争は米日両軍の北朝鮮への圧倒的先制的攻撃が軸となり、その結果、北朝鮮が必死の反撃をしてくるとしても、それは若干のミサイル攻撃や部分的ゲリラ的攻撃にとどまるとみているのだ。
 第5節「避難住民の運送」では、「地方公共団体の長は運送事業者である指定公共機関等に対し、避難住民の運送を求めることができる。指定公共機関等は正当な理由がない限り、求めに応じなければならない」としている。ここでいう運送事業者は鉄道、船からバス、トラックなどにいたる全交通機関が含まれうる。完全に戦争政策の一環として、有無を言わせぬ強制力が働くのである。
 最後に、「避難」では、さしあたって最大の問題は、むしろ避難訓練への住民の動員であろう。しかも、この第2章の中ではあえて言及されていないが、自主防災組織とその市町村協議会、都道府県協議会の政策と、避難の問題は百パーセント一体のものだ。こうした防災組織を利用しての避難訓練とその繰り返しは、対立国への排外主義をあおり、国家への忠誠をあおる。「国民の戦争動員」の決定的武器となるということだ。
 第4章「武力攻撃災害への対処に関する措置」は、この法案の本質を示す決定的個所である。ここでは、武力攻撃災害への対処がうたわれているが、実際には通常のイメージの戦災――空爆を受けて、人家が焼かれ、街が破壊され、人民が大量に死んだりけがしたりする、大火災が発生したらどうするという想定はまったくないのだ。
 ここで想定されているのは、百パーセント対北朝鮮戦であり、日米の攻撃に大打撃を受けた北朝鮮が必死で、ミサイルやゲリラで、原発(原子炉)や超重要生活関連施設を攻撃してくるかもしれない、あるいは生物化学兵器を使うかもしれない、これにどうするのか――こうしたことのみが問題にされているのだ。
 この場合決定的なことは、「国民の保護」などある意味で問題とならないということだ。原発が破壊されて放射能汚染が広がり、住民が大規模に被爆するという時、「国民の保護」は第一義的にはもはや後の祭りなのだ。要するに、日帝は(米日帝は)人民を原発破壊下の大被爆にさらすことが起こってもかまわないとして先制攻撃に打って出ようとしているのだ。本当に、この第4章の部分は怒りなしに読むことはできないし許せない。
 その第4節に「原子炉等に係る武力攻撃災害の発生等の防止」がある。ここは最重要と言えるので、全文引用しよう。
 「指定行政機関の長は核燃料物質もしくは核燃料物質によって汚染された物または原子炉に係る災害が発生し、または発生するおそれがある場合、事業者に対し原子炉施設等の使用の停止その他必要な措置を命ずることができる」
 要するに、原子炉災害が発生してしまった場合も想定しているのだ。また「発生するおそれ」も非常にあると見ているのだ。しかし、原子炉災害が甚大で、手のつけられない状況の時に「停止を命じて」どうなるのだ。人民を危険にすでにさらしきってしまっているのだ! そんなことが起こっても、構わず北朝鮮を攻撃するというのが帝国主義なのだ。

 「緊急対処事態」も戦時体制的対応行う

 第5章「国民生活の安定に関する措置」の第1節は「国民生活の安定」として、物価の高騰や供給不足が発生することや、そのおそれがある時は対処しないといけないとしている。重要なことは、物価が上がり、品不足が起こって生活に困ることが発生する、としていること。第2節は「生活基盤の確保」、第3節は「応急の復旧」である。ここでは、電気、ガス、水道、運送、電気通信、郵政、医療などで指定公共機関に指定されているものや河川、港湾、空港の管理者は、それぞれの防衛体制をしっかりしろと言っている。これも明らかに、ゲリラやミサイル被弾対策のイメージで言っている。同時に、公共事業者や民間事業者を戦争に動員するものとしてあるのだ。
 第8章「緊急対処事態に対処するための措置」は、大きなテロや原発等重要施設へのゲリラ攻撃などに対応すると称して導入されたものだ。9・11型ゲリラ、原発破壊、生物化学兵器の使用などを政府は想定しているという。
 法案ではこれについて「緊急対処事態=武力攻撃に準ずる手段を用いて多数の人を殺傷する行為が発生した事態又は当該行為が発生する明白な危険が切迫していると認められるに至った事態」と定義している。
 こうした場合、総理大臣が緊急対処事態を宣言し、閣議決定で認定することになっている。そして閣議で対処基本方針を決定し、緊急対処事態対策本部を設置して、対処保護措置を実施するとしている。この際、避難、救難、災害対処などすべてにわたって、この「国民保護法案」の措置に関する規定を原則として準用するとしている。
 この第8章の条項の設定は重大である。これによって、大規模なテロやゲリラ事件の際も、基本的に戦時体制的対応を行うとしているのである。しかも、事件が発生する「おそれ」がある段階でも、これを発動するとしているのだ。しかし、こうした規定は、どんどん拡大適用される。「おそれ」があると言って、自衛隊や警察が銃器をもって空港、鉄道・駅、その他の任意の所を制圧し、検問し、誰何するなどの戒厳的体制をつくりだすことができるからである。すでに、スペインの3・11ゲリラや3・20イラク開戦1周年などにあたってこうした治安攻撃は行われているのである。
 ここで注意すべきは、民主党の動向である。すでに民主党は、2月20日の時点でこの緊急事態における国民保護の問題で自公との協議会の立ち上げに賛成している。そもそも民主党は有事3法に賛成し、国民保護法そのものの制定を急げと主張してきた。また、民主党は、全面的な緊急事態法の制定を要求している。この民主党の案は、緊急事態における「国民の保護」にとどまらず、不審船等への反撃についても規定しようとしているきわめて危険なものである。民主党は、政権担当能力の名のもとに、帝国主義的諸政策を推進する政党―第二保守党としての内実を固めようと全力を挙げているのだ。労働者階級は民主党のこの階級的本質を見破り、こうした策動を断固粉砕して前進しなければならない。
 以上見たように、国民保護法案は「国民の保護」法案などではまったくなく、戦争法案であり侵略戦争(具体的には北朝鮮侵略戦争)法案である。そして、朝鮮人民を大虐殺するだけでなく、日本人民も戦争の災厄の中にたたき込むものである。原発破壊の事態で人民が犠牲になろうと構わず戦争する法案、そして、戦争遂行のために国民を組織して動員する法案である。どんな戦災にあっても、さらに戦争を続行するために国民を組織するのがこの法案の目的である。そこで言われている「保護」などは、戦争の続行に役にたつかぎりのものでしかない。

 第5章 戦争遂行の必要に迫られ国際法的根拠の道具立て

 (G) 捕虜等取り扱い法案

 「目的」で「武力攻撃事態における捕虜等の拘束、抑留その他の取り扱いに関し必要な事項を定めることにより、武力攻撃を排除するために必要な自衛隊の活動が円滑かつ効果的に実施されるようにする」としている。そして、その際、「ジュネーブ条約その他の国際人道法の的確な実施を確保する」としている。ここにはっきり示されているように、この法案は、自衛隊が戦争(今日的現実的には米日帝による北朝鮮侵略戦争)を遂行するためにどうしても必要だから制定されるのだ。その際、国際法にのっとった形の捕虜取り扱い法がないといけないからということが立法の目的なのだ。つまり、捕虜の人権を保護するためなどのものではまったくないのである。
 戦地で、自衛官が相手国の兵士などについて「捕虜等の資格」を有すると疑うにたりると判断したら、どんどん拘束するとしている。そして、連隊長・艦長等に引き渡し、そのあと捕虜収容所にぶち込むというわけである。ここで、「連隊長・艦長等」と言っていることからしても、海上作戦で捕虜を拘束することも大いに想定している。
 しかし、この法案と一対になっている国際人道法違反行為処罰法の中に、「占領地域に入植させる目的で」当該国の住民を「当該占領地域に移送したものは5年以下の懲役に処する」と言っているのを見ても、自衛隊は武力攻撃事態において「敵国」を占領することも想定しているのであり、陸上戦での捕虜の拘束を本格的に考えているのである。
 日帝が憲法9条を明らかに踏みにじって侵略戦争に打って出ることを、ここまで公然化してきたことに激しい怒りを禁じえない。「敵国」という言葉もギラギラした響きをもって使用されている。

 (H) 国際人道法違反行為処罰法案

 この法律は、「国際的な武力紛争において適用される国際人道法の規定」に違反する行為を処罰することを「目的」とするとしている。
 ここでも国際人道法に違反しないようにするとうたっているが、これはこうした法律を整備しないと侵略戦争の遂行にあたって、外国政府等から非難されるからである。あくまでも侵略戦争遂行を合理化する一環である。このことは次の点をみれば明らかだ。3、4、6などの条文の中で、「正当な理由がないのに……(これこれを)した場合」に罰するとなっている。つまり、戦争に勝利するためにどうしても必要だったら、これらのことは犯しても罪にはならないのである。
 先にも言及したが、この第5条において、「占領した地域に入植させる目的で、当該国の国籍を有する者または住民を当該占領地域に移送したものは5年以下の懲役に処する」としていることは重要だ。他国領土を占領し、その被占領国の住民を強制的に移送して入植にあたらせるといった、15年戦争で日帝がやったようなことが生じうると想定されているのだ。北朝鮮侵略戦争などでも占領することを日帝は本気で考えていることを示唆するものだ。

 (I) (J) ジュネーブ条約追加議定書T、U

 49年のジュネーブ諸条約は四つの条約からなっている。@「戦地にある軍隊の傷者および病者の状態の改善」A「海上にある軍隊の傷者および難船者の状態の改善」B「捕虜の待遇」C「戦時における文民の保護」のそれぞれに関する「1949年8月12日のジュネーブ条約」である。
 これに対して、この4条約を補完するものとして77年に締結され、78年に発効したのが、追加議定書T=「国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第1議定書)」および、追加議定書U=「非国際的武力紛争の犠牲者の保護に関する追加議定書(第2議定書)」である。
 日本は4条約には53年10月21日付で加入しているが、二つの追加議定書については、四半世紀以上にわたって加入・承認しようとしてこなかった。そして、ここにきてにわかにこれへの加入承認案件を国会に提出することになったのだ。
 これは日帝・政府が、イラク侵略戦争やアフガニスタン侵略戦争に参戦し、これらの戦争を継続・激化するとともに、北朝鮮侵略戦争から中国侵略戦争へと突き進むためには、こうした国際的な戦争ルールについての諸条約に加入することが必須の要件となってきたからだ。
 具体的な批判は、紙幅の都合で省略するが、端的に言えば、今次の七つの有事関連法案の内の「捕虜等取り扱い法案」や「国際人道法違反行為処罰法案」を成立させるにあたって、そのいわば「国際的根拠」として、二つの追加議定書への加入が必要になったということである。
 今次有事関連7法案・3協定条約案の内の、この二つの追加議定書の承認案件も、イラク侵略戦争を続行し、激化させ、さらに北朝鮮侵略戦争や世界戦争への道を開くための、日帝の侵略戦争のための道具立てのひとつとして、断固粉砕する必要があるということだ。

 教基法改悪と改憲の攻撃の切迫と闘おう

 今国会に提出された「有事関連7法案・3協定条約案」を全体として見てくると、これは03年の有事3法と一体の、とてつもない侵略戦争法案であることが明確となる。さらに、われわれはこうした動きと、北朝鮮に対する事実上の戦争宣言としての「特定船舶入港禁止法案」の提出を、一体のものとして見ないといけない。さらに、教育基本法改悪の動きも切迫している。改憲についても参院選の最大テーマにされるに至っている。また、小泉=奥田路線に基づく資本攻勢、聖域なき構造改革の攻撃は激化の一途をたどっている。年金改悪攻撃も決定的段階に入った。そして、イラク侵略戦争の継続・激化・拡大の政策こそが、今日の日帝のこの大反動攻撃の牽引(けんいん)車となっているのである。
 ▽イラク侵略戦争反対!
 ▽イラクから直ちに撤兵せよ!
 ▽イラク侵略戦争の継続・激化・拡大と北朝鮮侵略戦争のための有事関連7法案・3協定条約案を阻止せよ!
 ▽教育基本法改悪粉砕!
 ▽改憲阻止の大闘争を直ちに巻き起こそう!
 ▽反戦政治闘争と一体で一大資本攻勢に対決して全力で決起しよう!
 ▽奥田=小泉路線粉砕!
 ▽労働法制改悪阻止! 団結権破壊許すな!
 ▽JRでの第二の分割・民営化の大攻撃をはねのけよう!
 ▽闘う労働者への治安弾圧を許すな!
 ▽郵政民営化阻止!
 ▽公務員制度改悪阻止!
 ▽年金改悪粉砕!
 ▽5・21明治公園に全国から総決起しよう!

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週刊『前進』(2148号9面1)(2004/05/03)

 米英日帝は軍事占領やめろ

 イラク人民の要求は自衛隊撤兵

 小泉打倒こそ国際連帯の道だ

 米英帝のイラク侵略戦争開始から1年以上が経過した。米軍はイラク中部の都市ファルージャを包囲し、住民800人以上を大虐殺した。日帝・小泉政権は、陸上自衛隊550人をイラクに派兵し、米英帝と一体となって侵略戦争と軍事占領を担っている。日本人5人の拘束事件に対し、小泉は「テロリストに屈するな」と即座に撤兵を拒否し、「自己責任」論の大合唱で5人と家族を攻撃している。イラク人民は米英日帝の軍事占領に反対し、全人民的な蜂起と武装闘争で闘っている。イラク人民の血叫びは民族解放であり、帝国主義占領軍の撤兵だ。この呼びかけにこたえ自衛隊撤兵・小泉政権打倒の闘いに全力で決起しなければならない。

 米軍の暴虐と人民の蜂起

 米軍はすでに3週間以上にわたってバグダッドの西約50`にあるファルージャの町を3000人の海兵隊で包囲し、F16戦闘機やコブラ、アパッチの戦闘ヘリからのミサイル攻撃や爆撃、AC130攻撃機からの105_砲の砲撃を繰り返している。国際法で禁止されているクラスター爆弾も大量に投下されている。米軍は真っ先に市内にある大病院を爆撃した。
 米軍は「停戦」を言いながら実際には激しい攻撃を繰り返している。殺された住民の大半は女性と子ども、老人であり、米軍の狙撃兵が姿の見えた人を無差別に銃撃している。米軍は老人と子ども、女性は8時間以内に町から疎開するように要求し、手荷物だけを持ってバグダッドに逃げようと家を出たところを狙撃しているのだ。白旗を掲げた老婆と子どもがファルージャからバグダッドに避難しようとしていたのに狙撃されて殺された。
 歴史に残る大虐殺が行われているのだ。
 一方で米軍は、イスラム教シーア派の聖地のあるナジャフを3000人の部隊で包囲し、モクタダ・サドル師を逮捕するか殺すと言って全面攻撃を開始しようとしている。イスラム教シーア派の最高権威であるシスタニ師が「米軍はナジャフに入るな」と警告しているが、サドル師と彼を支持するメハディ軍団をせん滅すると主張している。
 そもそも米軍は3月28日にサドル師支持派の週刊紙を発行禁止にし、これに抗議した人々を銃撃して虐殺した。
 現在のところ全国から集まったサドル師支持者が武装して町の防衛に決起しており、米軍自身が突入を躊躇(ちゅうちょ)している。
 この二つの攻撃は、偶然に重なったものではなく、米占領軍が6月30日の「政権移譲」でカイライ政権をデッチあげるために、武装して闘う勢力を圧殺しようとして全面的な軍事作戦に出てきたものである。特にファルージャは、昨年7月以来米軍が市内から撤退せざるをえない状況に追い込まれていた町であり、この町を制圧するために米軍は全力を挙げて準備し、残虐な住民皆殺し的戦争に打って出たのである。4月5日にファルージャのレジスタンスに殺された米民間特殊部隊要員もこの侵攻作戦の準備を進めていたのだ。
 だが、この米軍の攻撃に対してイラク人民は敢然と戦いぬいている。全人民的蜂起ともいうべき武装闘争、民族解放闘争に全力で決起しているのである。
 米軍はファルージャ住民の頑強な徹底抗戦に進退窮まっており、逆にバグダッドからの補給のための車列が次々と襲撃されることによって作戦遂行に支障をきたす事態になり、態勢の立て直しを図っている。米軍は、バグダッドを始め幹線道路を掌握できなくなり、イラク人ドライバーがトラックの輸送を拒否したため、バグダッド空港は米軍物資が山積みになり、基地に届けられない事態になっている。各所で兵站(へいたん)・補給の弱点が突かれ、完全なピンチに陥っている。
 4月に入ってからの米軍の死者は20日までで103人になり、昨年3月開戦以来これまでで最も死者が多かった昨年11月の82人を大きく超えている。さらに特殊部隊などの傭兵(ようへい)が100人近く死亡しており、また契約業者の民間人も多数死亡している。
 しかもスペインのサパテロ新政権がイラクからの撤兵を新政権発足と同時に開始した。中米のホンジュラスも撤兵を開始すると発表し、ドミニカも撤兵を表明した。さらにブルガリアなども続こうとしている。

 5人の拘束者を見殺す小泉

 こうして軍事占領が崩壊している中で、4月に入ってから解放勢力による外国民間人の拘束が相次いだ。4月8日には日本人3人が拘束される事態が起こった。拘束された3人は15日に解放され、続いて拘束されていた2人も17日に解放された。日本人拘束は米帝とともにイラク侵略・占領をになう各国に対するイラク人民の怒りの激しさを示している。特に日帝・小泉政権が自衛隊派兵を強行したことに対する激しい怒りと糾弾である。
 日本人の拘束された人々がイラク人民の側に立って活動していたことで解放に結びついたが、この事態に対する日帝・小泉政権の対応は断じて許せない。小泉政権は3人が拘束され、拘束したサラヤ・ムジャヒディンが自衛隊の撤退を要求していることがわかって3時間もたたないうちに「自衛隊を撤退しない」と発表し、3人は殺されてかまわないという態度をとった。しかもアメリカ政府に応援を要請した。これは、米軍が特殊部隊を突入させることを求めるものであり、3人は殺してもかまわないということなのだ。
 その一方で小泉政権は拘束された3人とその家族に徹底して重圧をかけた。非難を集中して、家族が謝罪をくり返すしかないようにさせ、また「自衛隊撤退」や「自衛隊派兵反対」「イラク人民支援」を言わせないようにした。
 しかもあろうことか小泉は3人が解放されたとき、3人を監禁すると同時に、あたかも政府の努力が実って解放されたかのように言いなした。だが政府は何もしなかった。解放に一役買ったイスラム聖職者協会のクベイシ師が日本政府からはなんの接触もなかったと抗議しているほどだ。
 実際には、小泉は撤兵を拒否し5人を見殺しにしようとしたが、5人がイラク人民の敵ではなく、日本でも3・20を始め自衛隊撤兵運動が起こっていることを知って、武装勢力は5人を解放したのだ。

 許しがたい「自己責任論」

 小泉政権は、さらに「自己責任」論なるものを大合唱し、外務省は「関連経費を本人に請求する」などとわめいている。もともと5人の行動は政府に批判される筋合いのものではない。逆に5人が拘束された全責任は派兵を強行した政府にある。政府がやるべきことは直ちに自衛隊を撤退させることだったのだ。小泉や福田らは即刻退陣せよということだ。
 日本人5人の拘束、イタリア人人質の殺害、さらには3月11日のスペインのマドリードでの列車爆破事件などが示していることは、帝国主義が中東で行ってきたことに対するイラク人民、中東ムスリム人民の激しい怒りであり、究極的、極限的な形態をとったゲリラ戦争なのである。
 今はっきりさせなければならないことは、日本においても9・11や3・11マドリードのような事件が起こることが不可避な情勢に入っているということだ。
 米英日帝のような強大な帝国主義国家が、それに比べたらおよそ問題にもならない軍事力しか持たないイラクやイスラム諸国に襲いかかって無差別虐殺を行っているのだ。今現にイラク人民を虫けらのように殺し続けているのだ。この現実に対してイラク人民・ムスリム人民が究極的、極限的形態のゲリラ戦闘で抗議すること、あるいは人質を取ることを断じて非難することはできない。むしろそれは帝国主義国の労働者人民の階級的魂への強力な訴えであり、ともに決起することを呼びかける連帯のアピールなのだ。スペインの労働者階級人民は、3・11を本質的にこのように受け止めたからこそ、選挙においてアスナール政権を打倒したのである。
 日本人の拘束は、自衛隊イラク派兵を阻止できなかった日本人民に対する糾弾であると同時に、自衛隊撤兵・イラク侵略戦争反対に決起せよという心からの呼びかけである。

 日本人民へのメッセージ

 サラヤ・ムジャヒディンは、「米国は広島や長崎に原子爆弾を落とし、多くの人を殺害したように、ファルージャでも多くのイラク国民を殺し、破壊の限りを尽くした。ファルージャでは米国は禁止された兵器を用いている」「われわれは、親愛なる日本の民衆に対して、日本政府に圧力をかけ、米国の占領に協力して違法な駐留を続ける自衛隊をイラクから撤退させるよう求める」と解放予告声明で述べた。
 また解放時のメッセージでも「日本で自衛隊撤退の機運が高まり、…解放を決めた。日本政府が方針を変え、部隊を撤退させるように圧力をかけ続けてほしい」と日本人民が闘うことを求めている。ところが小泉政権はこのメッセージの全文は握りつぶし、報道させないでいるのである。
 このメッセージに込められた血叫びにこたえて、全力で自衛隊撤退、イラク侵略戦争反対の闘いに決起しなければならない。
 イスラエル・シャロン政権がパレスチナでやっていることを見よ。イスラエル軍はイスラム抵抗運動組織ハマスの精神的指導者ヤシン師を暗殺したのに続いて4月17日に新たに最高指導者に就いたランティシ氏を武装ヘリからのミサイル攻撃で暗殺した。この攻撃は14日に行われた米帝ブッシュとシャロンの会談でブッシュがゴーサインを出したことによって凶行されたものであり、米帝のイラク侵略戦争・ファルージャ大虐殺とまったく一体なのだ。ブッシュはこの会談でヨルダン川西岸のユダヤ人入植地を初めて公然と容認した。これはイスラエルの1967年占領地からの撤退を決めた国連決議を公然と踏み破るものである。
 イスラエルは、連日パレスチナ人民を虐殺し続けており、家を破壊し、果樹園を踏みつぶし、土地を奪い、水を奪い、パレスチナ人民を丸ごと抹殺しようとしている。その最大の攻撃が現在進められている分離壁の建設である。パレスチナ人民をほんのわずかな土地に押し込め、巨大な分離壁で囲って、民族丸ごと監獄の中に押し込もうとしているのだ。
 すでにイラク戦争で虐殺されたイラク人民の死者は、1万人から7万人に上ると見られている。しかも劣化ウラン弾の被害はさらに深刻である。米軍は今回のイラク戦争では2000dもの劣化ウラン弾を使っており、サマワに昨年6月から8月にかけて駐留していた米憲兵隊で体調不良を訴えていた9人のうち4人の尿から劣化ウランが検出されている。わずか3カ月足らずサマワにいた米軍兵士でさえこのような状態であり、劣化ウラン弾がもっと使われたバグダッドなどに住み続けているイラクの人々にどれだけ深刻な影響が出ているかは計り知れない。
 こうして米軍がやっていることは、イラクの植民地化以外の何ものでもない。米帝は、6月30日に主権移譲を行うと発表しているが、権力を移譲される「イラク新政府」はカイライ政権そのものであり、米軍はその後も居座り、占領支配を続けるのである。ブラヒミ国連特別代表が出した、国連がイラク人と米占領当局(CPA)を仲介して新政府メンバーを選出するという案にブッシュ政権も歓迎の意を表明したが、それは結局この方式でも米帝のヘゲモニーが貫かれるからにほかならない。
 だが、こうした米帝のイラク占領統治・植民地化政策はけっしてうまくいかない。カイライの統治評議会は今や崩壊状態だ。シーア派の一部やさらにはスンニ派が米帝の先兵となって統治していくという構図にもけっしてならない。米帝の暴虐な侵略戦争と占領支配をとおしてイラク人民は、米帝がイラクを丸ごと強奪するために占領していることをあまりにも強烈に知り尽くしているのだ。
 イラク人民の民族解放の闘いは、占領軍をたたき出し、実力でイラクを解放するまでけっして終わることはなく、イラク人民は不屈に戦い続けるのである。

 マルクス主義と世界革命

 こうした中でイラク人民が真に勝利するためには、戦争と抑圧の根源は帝国主義であり、帝国主義を打倒する以外に解放の道はないことをはっきりさせなければならない。また宗教をのりこえイラクを真に解放するものはマルクス主義であり、共産主義である。平和なイラクの実現は世界革命とその一環としての民族解放・革命戦争によってこそ実現されるものである。
 しかも重要なことは、イラクで今、労働者階級が力強くその闘いを開始し、闘いの中軸として登場しようとしていることだ。イラクの労働者を先頭とした民族解放・革命戦争と帝国主義国の労働者階級の帝国主義打倒の闘いが一体となって世界革命を切り開く物質的根拠が存在しているのだ。今こそイラク人民の決起にこたえ、日帝打倒のための闘いに決起しよう。
 米・英・日帝国主義を打倒する以外にこの戦争をやめさせることはできない。
 米帝は、イラクの石油を強奪し、原油埋蔵量の豊富な中東地域に支配を再編するためにイラク侵略戦争を強行した。だが、より重大な狙いは、米帝が独仏を中心としたEU諸帝国主義との争闘戦をかけてこの戦争を開始したということである。アメリカの経常赤字、財政赤字は空前の規模であり、未曽有(みぞう)の危機が爆発することは不可避なのだ。この危機を突破するために圧倒的な軍事力でユーロを軸に対米対抗的なブロック化を図ろうとする独仏帝を争闘戦的にたたきつぶそうとしている。
 ここでの米帝の失敗は、独仏(EU)、さらには日本帝国主義との争闘戦で決定的な後退を強いられることであり、米帝の崩壊につながる。したがって米帝は暴力的にイラクの植民地化を貫き通す以外にない。この米帝の暴虐なイラク侵略戦争をとめる道は、米英日の帝国主義国の労働者人民が闘うイラク人民・ムスリム人民と連帯して侵略戦争を内乱に転化する巨大な闘いを実現し、帝国主義を打倒することである。まさに求められているのは日本の労働者人民が全力で占領反対・自衛隊撤兵の闘いに決起することなのだ。
 今、帝国主義はけっして後戻りすることのない侵略と戦争の道に突入した。第三次世界戦争の道に突入したのである。この中で革命的情勢が訪れようとしている。帝国主義世界戦争か世界革命かの歴史的決戦期である。何よりも米英日帝が決定的な墓穴を掘った。
 自衛隊撤兵、有事法案粉砕、改憲阻止へ、3・20に続き5・21闘争を大爆発させよう。

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週刊『前進』(2148号10面1)(2004/05/03)

 労働者と被抑圧民族の団結で帝国主義打倒を

 イラク戦争で始まった21世紀の世界再分割戦

 帝国主義論でとらえる現代世界

 秋月丈志

 歴史的命脈の尽きた帝国主義の矛盾爆発

 21世紀の帝国主義の基本矛盾は、どのように爆発しようとしているのか。レーニンの帝国主義論をベースにイラク侵略戦争とそれをめぐる帝国主義の分裂と対立を中心に見ていきたい。
 現代の資本主義は空前の巨大な生産力を生み出しました。例えば03年の日本国内の自動車生産台数は1028万6318台で、約3秒に1台の割合で自動車が完成している計算になります。また同じく年間粗鋼生産量は約1億1000万dで、1秒間に約3・5dの粗鋼が生産されている計算になります。まさに「泉がわくように」生産物があふれ出ているわけです。しかしそれはまったく社会全体を豊かにしていません。それどころか、失業、貧困、飢餓、環境破壊といった問題を世界的規模で激化させています。
 また生産力と技術の「驚異的な発展」は、労働時間を百年前の4分の1くらいにまで短縮できるはずです。しかし実際は、百年以上も前に掲げられた8時間労働の要求すら実現されず、10時間、12時間労働もざらです。しかも賃金は切り下げられ、いつでも解雇されるようになり、「食うこと」すらままならない状態です。老後の生活も保障されず、労働者人民の生活は死ぬまで不安に脅かされているありさまです。
 一方、政治はといえば、全面的な反動と腐敗を深め、抑圧と治安弾圧を激化させ、アフガニスタン、イラクへ、さらに北朝鮮へと帝国主義的な侵略戦争―世界戦争の過程が始まっています。
 どうしてこのようなことになっているのか。現代の資本主義が完全に歴史的命脈の尽きた「死滅しつつある資本主義」だからです。あまりにも長く延命しすぎた帝国主義だからです。
 資本主義は、20世紀突入を前後して自由競争の段階から独占の段階に移行しました。大銀行と大企業とが融合した金融資本(金融資本的独占体)が巨大な生産力と市場を独占的に支配する時代、独占体同士が国家と一体化し、世界の市場・資源・勢力圏の分割・再分割をめぐる死闘を激烈化させる時代となったのです。レーニンは、この段階または時代の資本主義を帝国主義と規定しました。
 この帝国主義は、独占が生み出した過剰な生産力、過剰資本を@労働者人民大衆の搾取と収奪の強化によって、A植民地国・従属国への資本輸出、資源略奪による超過利潤(被抑圧民族人民からの収奪)によって、解消しようとします。同時に独占体同士・帝国主義国同士の市場分割・世界分割をかけた闘争を激化させ、この死活的な争闘戦に勝ち抜くためにも労働者人民と被抑圧民族人民に対する搾取・収奪と抑圧を強めざるを得ないのです。こうして帝国主義は危機と矛盾を激化させつつ、植民地侵略戦争と帝国主義同士の世界再分割戦=世界戦争へと必然的に突き進んでいくのです。二つの世界大戦はこの帝国主義の基本矛盾の爆発そのものでした。
 帝国主義は、幾億もの労働者人民、被抑圧民族人民の憤激をかきたて、1917年ロシア革命を始め、無数の帝国主義打倒の闘いを呼び起こしました。帝国主義は20世紀中に打倒されてしかるべきでした。しかしスターリン主義の発生と裏切りによって帝国主義は延々と生き延びることになりました。スターリン主義は、世界革命の突破口としてのロシア革命を「一国社会主義」路線で変質させ、国際共産主義運動を一国社会主義・ソ連防衛のための道具(帝国主義との外交取引材料)として歪曲し、圧殺したのです。
 しかし、21世紀を迎えた今日、帝国主義の延命は歴史的限界に達しつつあります。イラク侵略戦争の泥沼化、労働者人民への極限的な搾取と収奪、治安弾圧の強化、一言で言えば「外へ向かっての侵略戦争と内へ向かっての階級戦争」の無限の激化こそ、帝国主義体制の「死のあがき」にほかなりません。それは、全世界の労働者人民の階級的憤激と闘いを至るところで爆発させています。今こそ帝国主義を打倒しよう。

 民族圧殺と石油支配の典型的植民地戦争

 帝国主義は併合を、民族的抑圧の強化を、したがってまた抵抗の激化をもたらしている(帝国主義論第9章)
 帝国主義は、石油支配のためにパレスチナ・中東・イスラム諸国人民を民族的に差別・抑圧・圧殺してきました。91年のイラク・中東侵略戦争(湾岸戦争)は米帝によるイラクの兵士・民間人への一方的な大虐殺戦争でした。戦後もイラク人民は、劣化ウラン弾の放射能汚染や過酷な経済制裁・石油輸出禁止、断続的な空爆の実施などで、子どもたちを中心に百万人以上が殺されました。しかも米帝は湾岸戦争後、イスラムの聖地メッカがあるサウジアラビアを始め湾岸諸国に軍隊を駐留させ、征服者として振る舞ってきました。
 中東イスラム諸国人民の犠牲の上に石油独占と中東支配を続ける米帝へのムスリム人民の積年の怒りの極限的爆発が01年9・11の反米ゲリラ戦でした。それは帝国主義の盟主アメリカに対する被抑圧民族人民の特殊的・極限的な形態をとった民族解放闘争でした。
 米帝を始め全帝国主義諸国のブルジョアジー、支配者は震え上がり、自分たちが数限りなく行ってきた殺戮(さつりく)と残虐非道の植民地的支配を棚に上げ、「卑劣なテロ」「文明への挑戦」とわめき散らし、やみくもにアフガニスタン侵略戦争を強行し、ついにイラク侵略戦争にのめりこんだのです。
 「テロには屈しない」「テロとの戦いを進める」ということは、ムスリム人民の民族的抵抗闘争を根絶し、破綻(はたん)した帝国主義の中東支配・石油独占を再編・維持するということです。米・英・日帝国主義による「イラク解放」「イラク復興」とはイラクの再植民地化以外の何も意味しません。
 以上は、帝国主義と植民地の関係からみたイラク侵略戦争の本質です。このイラク侵略戦争は、典型的な植民地侵略戦争であると同時に、帝国主義がむき出しの軍事力で石油資源や市場・植民地・勢力圏を奪い合う時代、帝国主義による世界再分割戦の時代を再び押し開いた戦争なのです。

 ソ連崩壊とその後の米帝世界支配の危機

 資本主義は、地上人口の圧倒的多数にたいする、ひとにぎりの「先進」諸国による植民地的抑圧と金融的絞殺とのための、世界体制に成長転化した。そしてこの種の「獲物」の分配は、世界的に強大な、足の先から頭のてっぺんまで武装した二、三の強盗ども(アメリカ、イギリス、日本)のあいだでおこなわれ、そして彼らは、自分たちの獲物を分配するための自分たちの戦争に、全地球をひきずりこむのである(帝国主義論「仏独語版序言」)
 91年にソ連スターリン主義が崩壊した時、「ソ連の崩壊は資本主義の勝利」「市場経済と民主主義が世界に拡大していく平和な時代が始まる」と言われました。しかし、実際に現れたのはレーニンの帝国主義論の世界そのものでした。
 〈世界分割をめぐる帝国主義対帝国主義の対立〉は、第2次世界大戦後半世紀近くの間、米帝を盟主とする反ソ反共軍事同盟のふたをかぶせられていましたが、「米ソ対立」を軸とする帝国主義対スターリン主義の対決構造の枠組みの崩壊に伴って、再び世界史の前面に現れはじめました。それを最初に端的に示したのが91年湾岸戦争でした。
 湾岸戦争における米帝の目的は単に中東石油支配だけにあったわけではありません。米帝が対ソ世界戦争のために蓄積してきた軍事力を実際に行使し、その圧倒的な力を見せつけることで、ソ連崩壊後の世界も米帝が支配し続けるのだということを他の帝国主義諸国(とりわけ経済的に肥大化していた日帝)に思い知らせることにあったのです。
 日帝支配階級は、米帝の戦争に震え上がり、130億jもの巨額の戦費を黙って差し出すことしかできませんでした。
 90年ごろの日帝は、バブルを膨らませ、世界の銀行トップ10を独占し、「世界経済の覇者」となったような観がありましたが、海外で侵略戦争を行う力を持っていませんでした。一方、米帝は、対ソ大軍拡と70年代以来の経済的没落によって財政・貿易の「双子の赤字」を膨らませ、とても「共産主義に勝った」などと浮かれてはいられない体制的危機に直面していました。ところがこの状況が湾岸戦争で一変したのです。
 日帝は、政治的・軍事的な無力性をさらけだすとともに、経済的にもバブル崩壊と米帝の激しい通商戦争と為替戦争(円高ドル安誘導)の圧力でがたがたになっていきます。90年代をとおして日帝は「失われた10年」と呼ばれるほどに没落し、金融危機・財政危機にあえぎ続けます。そして、ここから海外派兵・有事法制、改憲への動きが一気に噴き出すのです。
 他方で米帝は、日帝が蓄積してきた膨大な貿易黒字を米金融市場に吸収し、ハイテク・ITバブルをテコに史上空前の超バブル経済をつくり出しました。そのもとで80年代レーガン政権以来の労働者階級への大リストラ攻撃、階級戦争を徹底的に遂行しました。
 90年代の米帝は、全世界で侵略戦争と戦争挑発をくりひろげました。イラク空爆の続行、ボスニア・ヘルツェゴビナ、ユーゴスラビアへの空爆と侵略戦争、朝鮮半島、台湾海峡での戦争挑発――。軍事力と戦争こそが米帝の世界支配の最大の柱でした。

 危機突破へ大戦争

 このように90年代の米帝は、圧倒的軍事力と基軸通貨国としての強み、大リストラによる「生産性向上」をバックに「ひとり勝ち」状態を現出し、「21世紀もアメリカの世紀」などと言われるようになりました。
 しかし、この米帝の「復活」は見せかけだけでした。軍事と金融に偏り、海外からの資金流入・借金に依存した米帝の超バブル経済は、2000年のハイテクバブルの破裂とともに崩壊に向かい、21世紀を迎えると同時に29年型大恐慌の危機に直面したのです。
 米帝に残された危機のりきりの手段は戦争しかありません。2000年末に発足したブッシュ政権は、イラク、イラン、北朝鮮そして究極的には中国を対象とした世界戦争計画(ブッシュ・ドクトリン)を早々に策定し、01年9・11の直撃を受けるや直ちに「対テロ戦争」の名でアフガニスタン侵略戦争に突入したのです。
 しかし、その後も粉飾会計などの発覚、企業業績悪化でバブル崩壊はさらに進んでいきました。しかも、景気対策の減税実施と戦費拡大で財政収支は急激に悪化、貿易赤字も拡大して、「双子の赤字」が史上最大規模に膨らみ、ドル暴落も現実化しはじめました。
 ドルが暴落し、巨額の借金にまみれた米経済が破滅すれば、米帝は世界支配力を決定的に後退させてしまいます。米帝がこの絶体絶命の危機をのりきる道は、より大規模な戦争に突入し、軍事力によって世界支配の再編・強化を図ること以外にありませんでした。
 こうしてイラク侵略戦争にのめりこんでいったのです。「世界最大」の帝国主義・米帝の侵略戦争への突進は、1930年代の独帝や日帝の「秩序破壊」とは比較にならない衝撃力で世界を世界戦争へと引き込まざるをえません。

 中東・石油めぐって米英日と仏独が分裂

 米帝が戦争による市場・資源・勢力圏の独占的再分割に乗り出したことを他の帝国主義国は黙って認めることができません。
 仏帝と独帝は、ついにEUという独自の勢力圏とドルに対抗しうる基軸的通貨ユーロ(まだ盤石とは言えないが)を持つに至り、米帝のイラク侵略戦争に「反対」を突きつけました。仏独の帝国主義を「ブッシュやネオコンのアメリカ」よりも「理性的」で「平和的」と見るのは、まったくの誤りです。仏帝や独帝は、湾岸戦争、ユーゴスラビア空爆に参戦し、アフガニスタンでの特殊部隊作戦にも参加するなど凶暴な侵略戦争を続けてきました。
 仏帝はフセイン政権のもとでイラク石油開発を独自に進め、フセインは石油売買をドル建てからユーロ建てに切り換えようとしていました。米帝はこれを粉砕しようとしたのであり、仏帝・独帝はこの米帝を許すことができませんでした。
 この米帝との間の帝国主義的利害の非和解的な対立、まさに資源と勢力圏の分割・再分割をめぐる対立が、仏帝・独帝をして最後まで「イラク戦争反対」の立場を貫かせたのです。
 したがって、米帝がイラク侵略戦争から絶対に引くことができないのは、イラク人民・ムスリム人民の民族解放闘争・反米抵抗闘争を圧殺しなければ中東支配・石油支配ができなくなるからだけではありません。米帝のイラクからの敗退は、即座に他の帝国主義(仏独)にイラク・中東の再分割と支配の主導権を奪われることを意味しており、米帝の世界支配が根底から崩壊することにつながっているのです。これら帝国主義同士の対立と争闘ゆえにこそ、米帝はたとえ泥沼化しようとイラク侵略戦争をやめるわけにはいかないのです。
 この仏独に対し、EU内で独自の地位を保とうとする英帝や、米帝市場と中東石油に圧倒的に依存し、いまだ独自の勢力圏を築く力もない日帝は、米帝の側につきました。この日帝を日本共産党のように「アメリカの言いなり」と「批判」するのは間違いです。日帝は独自の帝国主義的利害から、当面それ以外のいかなる選択肢もないものとして米帝との同盟強化を「主体的に」選択し、そのもとでイラク派兵、有事立法・改憲、北朝鮮侵略戦争へと突き進んでいるのです。米帝と共同しつつ競合しているわけです。
 そもそも「アメリカの言いなり」になるのをやめれば日帝は「平和国家」になるのか。そんなことは絶対にないのです。なぜなら日帝も米帝と同じ帝国主義国家だからです。自動車を始め主要な産業分野で絶対に他に譲り渡すことのできない独占的利益を確保し、アジアなどに膨大な海外生産拠点・投資先を保持している世界第2位の帝国主義大国だからです。
 日帝は、この独占の利益を維持し、アジアを勢力圏とするために、必要なら戦争でも何でもやるし、「国民の命」など平気で見殺しにするのです。
 だから労働者人民の掲げるスローガンは「アメリカの言いなりになるのをやめよ」ではなく「日本帝国主義打倒」でなくてはなりません。

 第5章 世界革命が現実化する時代が再び来た

図 帝国主義の独占と世界分割の現実 十年、二十年後にも、帝国主義列強のあいだの力の相互関係は不変のままであるだろうと想定することが、はたして「考えられうる」だろうか? 絶対に考えられない(帝国主義論第9章)
 米帝のイラク侵略戦争は、第2次大戦後初めて軍事と戦争をめぐって帝国主義が二つの陣営、〈米英日〉対〈仏独(+ロシア)〉に分裂するという事態を出現させました。
 第2次大戦後は米帝が圧倒的強者となり、対スターリン主義の反共軍事同盟を形成していたことから、レーニンが帝国主義論で明らかにした〈帝国主義同士の世界再分割をめぐる対立→世界戦争〉という帝国主義の基本矛盾の爆発はもはやありえないと言われました。しかし、スターリン主義が崩壊し、米帝が経済的には大没落する中で、米帝基軸体制としての「帝国主義の統一性」は完全に過去のものとなっています。
 今や帝国主義相互の経済的力関係、その生産力と市場の独占と分割の状況をみると、米、EUは完全に拮抗(きっこう)し、日帝は単独でもかなりの大きさを占めています(図参照)。そして、それぞれが独自の利害を押し出して分裂とブロック化=世界再分割戦に乗り出しています。
 具体的には、▽米帝のNAFTA(米・加・メキシコの北米ブロック)と中南米やアジア諸国とのFTA締結、▽EUの東方拡大(今年新規10カ国加盟で25カ国体制に)と対ASEANのFTA交渉、▽日帝の奥田ビジョンに記された「東アジア経済圏構想」――など通商ブロック化の動きが90年代以後一斉に進行しています。FTAは、2国間のみで関税などをなくすもので、「自由貿易協定」と名前が付いていますが、実態はその正反対で、要するに他の帝国主義を排除した市場独占なのです。
 また、通貨問題=ドル暴落問題をめぐっても帝国主義の分裂は決定的に進行しています。80年代半ば、まだ帝国主義がソ連スターリン主義の「脅威」に対して「結束」していたころ、各国は米帝の「双子の赤字」を原因とするドル暴落を防ぐために「協調」しあいました。しかし、今や「双子の赤字」が80年代の比でないほど超巨額化し、ドル暴落が現実化しているというのに、必死にドルを支えているのは、米帝市場に「極端に」依存する日帝だけです。ユーロを発足させたEUの帝国主義諸国はドルを支えようとはしません。
 この帝国主義の経済的分裂とブロック化の動きはもう止まりません。恐慌の危機が深まれば加速します。この経済的分裂と市場の奪い合い、世界再分割戦を基礎に、しかしこれとも相対的に独自に、ついに帝国主義の政治的・軍事的対立がイラク侵略戦争をめぐり一気に表面化してきました。
 しかし次のような反論があるでしょう。“これだけ経済のグローバル化が進んだ時代に資本主義国同士の戦争なんてあるはずがないではないか”と。
 これと同じ反論はレーニンの時代にもありました。最たるものがカウツキーの「超帝国主義」論です。(『共産主義者』140号152n秋月論文参照)。
 また、第1次世界大戦勃発(ぼっぱつ)のわずか2年前、フランスの金融統計専門家は次のように言っていました。「平和が破壊されうるなどと考えることができるであろうか?……これほど莫大(ばくだい)な数の国際的有価証券があるのに、戦争をはじめるという冒険をおかすことなどと考えることができるであろうか?」(帝国主義論第9章に引用)と。帝国主義国同士がそれぞれの国の株式や債券を膨大に保有しあい、密接な経済的関係をもっている現代に世界戦争なんて起きるわけがないと言うのです。しかし現実に世界戦争は起きたのです。事情は今も同じです。
 帝国主義は、市場・資源・勢力圏を独占し、分割戦に勝ち抜くことなしには成り立たない体制である。そして世界を分割しあっている帝国主義の力関係は、不変ではなく変化するものであり、そこから再分割が必然化し、政治的・軍事的対立も独自にエスカレートせざるをえない――こうした帝国主義の諸矛盾の深さを忘れる者のみが「帝国主義のもとでの恒久平和」を説くことができるのです。
 さらに帝国主義にとって世界再分割戦における敗北は、国内支配の破綻、階級闘争の激化、革命的危機に直結しています。労働者階級人民の怒りの爆発で帝国主義体制そのものが吹き飛ばされてしまうことになるのです。だからこそ戦前の日帝のように、また今イラク侵略戦争の泥沼に引きずり込まれている米帝のように、どんなに絶望的で展望のない戦争でもやらざるをえなくなるのです。

 「歴史的過渡期」

 米帝のイラク侵略戦争の泥沼化は、ベトナム戦争以上の巨大な激動をつくりだし、米帝基軸の帝国主義体制を解体の危機に追い込んでいます。
 市場・資源・勢力圏などの独占と再分割をめぐる帝国主義間の死活をかけた闘争に「妥協」や「平和的な譲歩」はありえません。米帝は世界の支配者の地位を、石油の独占的支配による特権を、けっして「平和的に」譲り渡したりはしません。また仏帝・独帝や日帝も、米帝による世界の軍事的再編と支配が独自の利害を侵していくことを黙って許しはしません。
 帝国主義の世界再分割戦は、イラク・中東にとどまらず、世界最大の潜在的市場である中国をめぐっても激化していきます。われわれは、この果てしなく先鋭化し激化していく帝国主義の危機と侵略戦争の泥沼化に絶望を見なくてはならないのでしょうか。いや、まったく逆です。
 レーニンは帝国主義が生み出した「世界の分割と再分割のためのとくに先鋭な闘争」「資本主義のあらゆる矛盾の先鋭化」こそ「歴史的過渡期のもっとも強力な推進力である」と言っています(帝国主義論第10章)。歴史的過渡期とは帝国主義から共産主義への世界史的な移行期=世界プロレタリア革命の時代のことです。帝国主義の矛盾の爆発がその災厄を一身に受ける世界の労働者階級人民と被抑圧民族人民の怒りを高め、革命への意志を鍛え、国際的=階級的団結をつくり出して帝国主義体制を打倒する。このことは絶対に不可避だというのです。
 イラク侵略戦争に反対する労働者人民の国際的反戦闘争の高揚とイラク人民・ムスリム人民の反米英日帝の全民族的蜂起の結合――ここにこそ21世紀における世界革命の現実性が明々と照らし出されています。
 〈万国の労働者と被抑圧民族の団結で帝国主義を打倒しよう〉――この呼びかけを今こそすべての労働者人民に発していこう。

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