翻訳資料
米・金融救済策に反対する闘いの報道
丹沢 望訳
■解説■
米巨大金融資本の破局的危機救済のための緊急金融安定化法案は、9月29日に米下院本会議で否決された後、10月3日、下院での再度の審議の結果、可決された。
新自由主義のもとに民営化を進め、労働者の首切り、労働強化を極限まで推し進めてきた巨大金融資本が、自分たちの責任でおきた危機を救済するために、労働者人民の税金を再び搾り取ることなど絶対に許せるか!
このような激しい怒りに燃えたアメリカの労働者人民は、全国で断固たる反対闘争に立ち上がった。
下院での第一回目の投票直前の9月25日には、全米で証券取引所や銀行などの金融機関に対する激しい怒りのデモ・抗議集会が行われた。
9月25日、アメリカの労働者人民は、ウォール街に対するブッシュの7000億jの金融支援策に反対して、41の都市で251の抗議行動を行った。
ニューヨーク(数千人)、シカゴ、ミネアポリス、ワシントン(ホワイトハウス前で数百人がデモ)、サンフランシスコ、バルチモアなどで集会とデモが行われた。とりわけ9月25日のニューヨークでの証券取引所を包囲する数千人の労働者人民の怒りのデモは、米金融資本の牙城を揺るがす歴史的な闘いとなった。
9月25日、ワシントンでは、財務省からホワイトハウス前まで数百人のデモが行われ、当日行われたブッシュと民主・共和両党の指導部との会談を直撃した。
デモのスローガンは、「救済ではなく、監獄だ」「銀行ではなく人民を救済せよ」「ウオール街に一銭も出すな」「住宅差し押さえにモラトリアムを」などであった。
この日、AFL−CIO(アメリカ労働総同盟・産業別組合会議)のニューヨーク中央労働評議会による数百人の抗議行動も、ウォール街の証券取引所の近くで行われた。これはAFL−CIO指導部がランク・アンド・ファイルによって突き上げられてしぶしぶ組織したものであった。この日夕方に行われる予定であった他の団体のデモと組合員が合流することを避けるために、わざわざ昼休みの時間に動員をかけたものでもあった。
だが、参加した労働者たちは指導部の思惑を超えて怒りの抗議行動を断固貫徹した。
これらの抗議行動は、ほとんどが自然発生的に行われたり、インターネットで短期間に組織された。にもかかわらず、これだけ大規模に全米で抗議行動が行われたということは、それだけアメリカの労働者人民のブッシュと金融界に対する怒りが激しいということを示している。
しかもこの闘いは救済法案の成立以降も衰退することなく、ますます全国に拡大している。10月以降も、各地で次々と集会とデモが組織されている。アメリカの労働者人民の怒りがついに米帝の中枢に対して爆発しはじめたのである。
低所得の労働者人民から搾り取るだけ搾り取り、住宅ローンを押し付け、ローンを支払えなくなるとその住宅からも追い出すという非人間的行為に及んでいながら、資本家に対しては巨額の救済金を供与するブッシュ
と当の資本家連中に対する闘いは、今後巨大な規模で爆発していくであろう。
とりわけ、ILWU(国際港湾倉庫労組)やロサンゼルス統一教組などの全米の階級的労働運動勢力が、この問題に本格的に取り組み始めるなかで、組織された階級的闘いとして発展していくであろう。
日本の労働者階級もこの闘いに続こう。階級的労働運動の爆発で、金融大恐慌によって重大な打撃を受けている日本帝国主義を最後的に打倒する闘いに決起しよう。
翻訳した資料は、@9月25日の抗議行動についての概観・解説を行っているCNNMoney.comの記事、A9月25日のニューヨークでの抗議行動の詳細についての「インディペンダント」紙のライブ・ブログ。当日の抗議行動がライブで投稿されており、その様子が生き生きと伝えられている。Bはボストン・グローブ紙に掲載されたボストンを中心とした抗議運動の状況について。Cは、「カウンター・パンチ」紙に掲載された、レーガン政権時代の財務次官補のポール・クレイグ・ロバーツの金融支援策に対する論評。
金融支援策反対派が抗議行動
CNNMoney.com08年9月25日
税金を使用してウォール街を救済するブッシュ政権の金融支援策に対する世論の反発は25日、街頭に噴出した。
「全国の人々がこの金融支援策に憤慨している。われわれのメンバーは憤激して街頭に飛び出している」と、草の根運動組織のUsActionのスポークスマンであるデービッド・エリオットは語った。
活動家むけのネット・フォーラム(ネット上の公開討論の場)であるTrueMajority.comは、自分たちのメンバーが、金融支援策に抗議するために41の州で251の集会・デモを組織したと述べている。
「アメリカに民主主義を」「今すぐ改革を求めるコミュニティー組織連合」などの他のいくつかの草の根組織やいくつかの労働組合もこの抗議運動に参加した。
ニューヨーク中央労組評議会によって組織された集会もこの日の午後、ウォール街のニューヨーク証券取引所近くで開催された。これに続いて、あまり形式ばらない抗議行動も、金融市場が終了した直後にウォール街で開始された。
「われわれは金をださないぞということに賛成する以外に行動計画も、リーダーも、組織団体もない」というのが、ニューヨーク市インディペンダント・メディア・センター(労働者人民の闘いについて日々報道しているインターネット情報サイト)のウェブサイトに投稿された無名のe|メールのメッセージであった。
この投稿は、ウォール街の有名な「雄牛の像」の近くに東部標準時間の午後4時に集まることによって、「金融街の心臓部を突く」ことを抗議運動参加者に熱く呼びかけた。
「大規模で平和的で騒々しいデモを行うのに必要なすべてをわれわれは持っている。夕方にこういう集会を行うことで、われわれは泥棒どもの退勤時に、われわれが彼らの棒つきアメではなく、いつまでもなめられていないことを見せてやろう」とこのe|メールは述べている。
ワシントンでもいくつかの抗議行動が計画された。この抗議行動は、ホワイトハウスでブッシュ政権の閣僚と議会の指導者、大統領候補たちが集まって金融支援計画の最終的な詳細案を討議する会合と偶然にも同じ日に設定された。
「われわれがアメリカ経済の運営を委託した連中はわれわれを裏切った。われわれがこの金融危機から抜け出すためには、もはやこんな連中を信頼することはできない」と、UsActionの番組編成者のアラン・チャーニーは述べている。
この金融支援策には、ますますひどくなっている金融市場の過失に対する対策や、経営者に対する補償の制限、立ち退きを迫られている家屋所有者の保護などが含まれるべきである、と彼は述べてもいる。
ニューヨークとワシントンでの抗議行動に加え、活動家たちはコネチカット州ハートフォード市のAIG社の本部の前での集会も準備している。
AIGはアメリカの歴史上最大の破産例となったリーマン・ブラザーズの破産に続いて破綻の危機にあった世界最大の保険会社であり、先週、連邦準備金から850億jという途方もない額のつなぎ融資を受けた。
政府の役人は、当時、AIGを破産させれば、金融システムをさらに疲弊させ、アメリカ経済にさらなる損害を与えるだろうと述べていた。
ウォール街での抗議行動(ライブ・ブログ)
『インディペンダント』紙08年9月25日
▼午後4時
ウォール街でダイインが行われる。数十人の抗議行動参加者がボーリング・グリーンプラザの北端に集まった。「世界はもう待っていられない」というグループの4人が街角にある雄牛の像の下の地面に横たわった。彼らは黒い服を着て、顔には白いマスクをつけていた。その胸には″GREED KILLS”(「貪欲が人を殺す」)と書かれたプラカードがぶら下がっていた。現場には何人かのテレビのクルーと、写真を取りまくっているフォトジャーナリストたちも来ていた。記者会見が始まるところだった。スクーターに乗った警官を10人ほど見かけたが、警官たちは全体で15人だった。
▼4時25分
抗議行動参加者は200人に増え、数十人のジャーナリストがあちこちを歩きまわっていた。臨時の特別会議はちょうど終了したところであった。アールン・グプタ、ベカ・エコノモポリスやコード・ピンクのメデア・ベンジャミン、「ブッシュを支持する百万長者」のアンドリュー・ボイド、「ホームレスを撮る」のジーン・ライスなどが発言していた。トラビス・モラレスがちょうど発言中だった。彼は「革命が必要だ」と発言していた。
▼4時28分
国際港湾倉庫労組(サンフランシスコのローカル10)のスポークスマンは、「これは国内での戦争における大攻勢だ。これはわが国における民主主義への攻撃だ。カジノ資本主義に対する救済だ」と発言している。彼は、ILWUの西海岸の諸支部が、イラクとアフガニスタンでの戦争に抗議するために行った一日の労働停止のような闘いを組織するだろうということを示唆した。
▼4時33分
メデア・ベンジャミンは、「これはわが国の歴史上最も言語道断な詐欺行為だ。資本家たちは、利益は『民営化』し、費用は『社会化』しようとしているのだ」と述べた。彼女はこの救済策がどのようにしてひねり出されたかについて語った。「だが、われわれはパンくずではなく、パイ全部がほしいのだ。われわれはこの救済資金が家を失っている人々に与えられるのを望む。われわれは、みんなが望み、わが国以外のすべての国が持っている医療保障制度を創設するためにこの資金が支出されることを望む」と彼女は発言した。
▼4時35分
ボーリング・グリーンプラザの北側地域は、ますます人波で埋まり始めた。約300人の人々が現場にいた。事務所から出てきて通りの向こう側にいた見物人たちが興味深そうに見ていた。
▼4時37分
糞の塊が雄牛の像の後ろに作られた。使い古しのテニスのラケット、すりきれたモップ、古いレコード盤、ブルージーンズ、一束のCDなどの生贄が雄牛の像に供えられた。誰かがマルクス、エンゲルスの読本を置いていった。おそらくウォール街はそれを役に立たせるだろうというわけだ。いまや人々は周辺をデモ行進し始めた。
▼4時42分
250から300人の人々がプラザからウォール街に向かってブロードウェイのイーストサイドをデモ行進した。警官たちがスクーターでその後を追った。群集は太鼓を打ち鳴らし、いろいろな鳴り物がビルの壁にこだました。歩道にいた人々はこれらのすべてを受け入れた。インディペンダント紙の有志が、金融危機について報じたインディペンダント紙のバックナンバーをこの金融街の地下鉄駅すべてで配布していた。あなたがたのそれぞれがカンパする50jが1千部のインディペンダント紙を印刷する助けになることをお忘れなく。
▼4時55分
群集は証券取引所のあるブロード・アンド・ウォールストリートの角に到達した。約400人がウォール街に沿ってドラマチックに列をつくって立ち並んだ。彼らの「金融支援反対!」の叫びが狭いビルの谷間にこだました。そこにあるジョージ・ワシントンの巨大な像が、その台座からこの光景を見渡していた。
▼4時57分
「救済ではなく、やつらを監獄へ送れ」「俺も救済してくれ」「救済、くそくらえ」「ウォール街のろくでなしを監獄へ」「他人を食い物にするローン業者を規制しろ」「お前の黄金のパラシュート(訳者注 巨額の退職金のこと)なしに飛び降りろ」「所有権の社会だったな■お前らのジャンク・デリバティブ(金融くず商品)は自分で持っておけ」「次は医療保障を国有化せよ」などのプラカードが目だっていた。シュプレヒコールは「ウォール街を閉鎖せよ」に変わっていった。
▼5時
ジョン・タールトンは「クラリオン」紙を編集しているピーター・ホーネスが、ウォール街から一ブロック先のブロードウエイ・証券取引所通りでこの日正午に開かれた労働組合の集会に出席したと述べた。彼は、この集会にはさまざまな組合から1500人が集まったと推定している。ニューヨークの中央労組評議会がこの集会を呼びかけた。
▼5時02分
「自分が失敗したんだろ。自分が買ったんだろ」という新しいシュプレヒコール。訳者注 この時間には、抗議行動に参加した人々の数は数千人にふくれあがっていた)
▼5時20分
「お前らがしくじったんだろ。ゴチャゴチャ言うな」という新しいシュプレヒコール
▼6時9分
午後6時少し前に抗議行動参加者たちはデモに出発し、ウォール街南部のコンクリートの谷間を通る行進を開始した。数千人の人々がシュプレヒコールを行った。デモ隊は高いビルディングを取り巻く回廊となっているハノーバー通りへと曲がって行った。いくつかのビルでは、中指を立ててデモ隊を侮辱する連中が見えた。彼らは救済される資格があると思っている連中だ。
▼6時47分
最後の更新。金融街を取り巻くデモを行った後、デモ隊は川べりのバッテリー・パークの先端に達した。ここで、約200人のデモ隊は解散した。コード・ピンクのメデア・ベンジャミンは、明日朝8時に証券取引所の正面の街角で抗議行動が計画されていると発言した。
7000億jの救済資金に多くの反対の声
ボストン・グローブ紙 08年9月25日
ボストンから南カリフォルニアまで、多くのアメリカ人が、経営難に陥ったウォール街の投資会社を救済するために7000億jを支出する政府の政策を疑問視している。
ボストン中央広場やホワイトハウス前などで、この政策に抗議するために、緊急に準備された一連のデモが昨日行われた。
何人かの国会議員たちは、この金融支援法案に懸念を表明する選挙区民から電話やe-メールが殺到したと述べている。世論調査はこの法案への反対意見が広範に存在することを示している。
400人のマサチューセッツ州住民を対象として、ボストンのサフォーク大学が今週行った世論調査では、政府が提案したこの法案を支持する人の約2倍の人が反対していることが明らかにされた。49%の人がこの法案に反対で、29%が賛成であった。
全国的な世論調査でも悲観的な見方が圧倒的であるという結果が出た。ロサンゼルスタイムズのブルームバーグ世論調査は、アメリカ人の55%が、納税者のお金を使って金融支援を行うことに反対であることを明らかにした。今週初めのNBCとウォールストリートジャーナルの共同世論調査では、アメリカの有権者の3分の1がこの金融支援策を支持していることが明らかになった。そして有権者の3分の1がこの政策に反対であった。
ボストンの下町では昨日、金融支援策に対して質問された数人の人が、なぜアメリカの企業を納税者が救済しなければならないかについて疑問を表明した。「これらの巨大企業はわれわれに何らかの商品を売っていた。それで彼らは巨額の利益をあげた。だのになぜわれわれが金をださなければならないんだ?」とブルックライン市出身のダン・ワン(35歳)は質問した。
地方に住んでいるジョン・ウエストン(62歳)は、なぜ議会がこんなに急いで対策を出す必要があるのか不思議に思っていた。ウエストンは、ブッシュ大統領が5年前に戦争を開始する決断を行ったことについて言及しながら、「イラクに侵攻した時と同じような仕方で、アメリカはこの問題に取り組んでいる」、「大統領は、『自分は何をなすべきか知っている。そしてわれわれは週末までにそれをしなければならない』と言っていた」と述べている。
怒りは政党やイデオロギーに関係なく表出した。何人かの保守主義者は、政府が自由市場に介入すべきかどうかについて疑問を呈した。そしてリベラルは、多くの金融資本家たちが何百万ドルものボーナスを得る立場にあるのに、政府が苦闘している住宅保有者を支援するのではなくウォール街を救済しようとしていることについて疑問を感じている。
多数のアメリカ国民が救済策に反対する一方で、同様に多くのアメリカ国民が何らかの対策を取らなくてはならないと考えている。
ボストン在住のメアリー・L・ガードナーは、総じてこの7000億jの救済策を支持してはいるが、財務長官のヘンリー・ポールソンがこの救済策を管理する無制限の権限をもたないという保障が与えられるかぎりでという条件をつけている。
彼女は「これはいい政策ですが、私は政府がどの程度の権限をポールソンが持つのかを検討する必要があると思います。議員たちがこの問題について論議をしているのでよかった」と述べている。
この政策に対する反対に対処しようとする議員たちの努力にもかかわらず、民衆の怒りは昨日の相次ぐ抗議行動として噴出した。ワシントンの活動団体である、Truemajority.orgは、来週190の都市と40の州で抗議行動を組織する援助を行っていると言っている。
ホワイトハウスの前では、午後遅く雨の中で数百人の人々が集会を行った。
「メインストリート連合」と自称する集団(訳者注 地方金融資本、地方都市の資本、中小企業、独立保険協会などが構成団体)は、財務省からペンシルベニア通りを、「ウォールストリートに援助を与えるな メインストリートに援助を」とシュプレヒコールをあげて行進し、「7000億jに対する納税者の請求書」を配布した。
Truemajority.orgが、この運動団体に属する70万人のメンバーや共闘団体に対して議員たちに働きかけることを要請したのを契機にしてこの運動は週末にかけて形成されていった。多くのメンバーがそれ以上のことをしたいと思っていることが明らかになると、この団体は「緊急集会」を開催するためのボランティアを募集し始めた。Truemajority.comのマット・ホランドはこのように語っている。
ボストンの家屋所有者の団体であるアメリカ隣人援助法人は、昨日2人の上院指導者の事務所で約150人が抗議行動を行った、とこの団体の指導者であるブルース・マークは言っている。この団体は救済策に反対であり、家屋所有者に対する住宅接収を阻止し、住宅ローンの利率の引き上げを凍結する運動を推進している。
救済措置は成功するか?
ポール・クレイグ・ロバーツ カウンターパンチ 08年10月2日
昨日、米上院は予想どおりウオール街の要求に屈したが、最近の記憶に残る限りでは初めて下院がアメリカ国民の意見を聞き、裕福な友人たちを納税者の金で救済するポールソンの救済案を阻止した。ブッシュ政権が責任を取るべきであり、不当な戦争をやめるべきであるという民衆の要求を拒否した当の下院が、アメリカを大恐慌時代以降最悪の経済危機に導いた無責任な金融機関に対して7000億jを手渡すことを拒否した。
われわれはアメリカの民主主義が完全に死滅し、それが行政機関の権威によって取って代わられたわけではないことを示すこの事態に感謝しなければならない。だが、今後出される救済案がどんなものであれ、以下のような点が考慮されなければ、それは失敗するであろう。保有する有価証券の価値を時価で再評価する方式を維持し、株の空売りの継続を容認するような救済策はいかなるものでも失敗するであろう。有価証券が売れないというパニック状態の下では、有価証券の価値を時価で再評価する方式は、資産価格の価値以下への低下をもたらし、その結果バランスシートが破壊され、支払い不能を引き起こす。空売りは、バランスシートが悪化している企業の株価を崩落させることによって空売りする者に利益を得させる。そうすることで企業の資金借入能力を喪失させ、破産に追い込む。
いかに多額のものであろうと、有価証券の価値を時価で再評価する方式を維持し、空売りを容認する救済策は、金をブラックホールに注ぎ込むようなものだ。
すでに巨額なアメリカ政府の債務に新たな債務を付け加えるに過ぎないものとして扱われている今回の救済策は、外国の債権者を困惑させるであろう。アメリカ財務省が自らの信用度を低下させることなく責任を負うことのできる負債額には限度がある。特にもし7000億jが不十分であることがわかり、さらなる救済金が必要だとなれば、救済策は財務省の信頼性を損なうことになる可能性がある。
その場合には、外国の債権者は救済に必要な資金を供給しないか、供給する場合でも高利子で供給するであろう。それはそれで救済策を失敗させることになるであろう。
ワシントンポストの9月29日号の記事によれば、「上位20位の金融機関は、6月30日の段階で、総計2兆3000億jの住宅ローン関連債券を持っていた。さらに彼らは、1兆2000億jの不動産担保証券も保有していた。また、これらの企業は監督機関とのとりきめに基づいて、数千億ドルの負債を生じさせかねない1兆2000億jの住宅ローンを売却した。この数字には、債務担保証券のような、さらに複雑な方法で住宅ローンから派生する投資は含まれていない」とのことだ。
債務担保証券は別にして、20の金融機関の保有するこれら三つの住宅ローン関連の証券は4兆7000億jになる。7000億jはその15%を占めることになる。もしこれらの証券の15%以上が不良債権なら、救済にはさらに資金が必要となる。どの時点で外国の債権者は終わりのない危険を見るであろうか? もし外国の債権者が救済案に資金を供給するならば、それは信用性のあるものになるに違いない。信頼性を獲得する最良の道は、救済案と政府の外国からの借入の削減を同時に行うことである。とりわけ、アメリカ政府予算の赤字と貿易収支の赤字を削減することだ。
不況や戦費の全額を考慮に入れていない推計に基づいたとしても、アメリカの財政赤字は4000億jを超えていると推定される。金融支援の緊急性を考えると、7000億jは短期借り入れされるだろう。つまり1年間に少なくとも1兆1000億jが新たに借り入れられることになる。この額は外国の債権者が目をシロクロさせる額である。
金融支援政策の一環として、
アメリカの財政赤字と貿易赤字に対する対策が実施されるならば、この政策は信頼性を獲得するかもしれない。アメリカ政府は金融制度か、戦争のどちらかを選択しなければならない。戦争がごく少数の強力な利益集団以外に利益を与えることはないのであるから、政府は戦争の即時停止を宣言すべきであり、そうすることによって財政赤字を年間少なくとも2000億j節約できる。
政府は次に軍事予算問題に取り組まなければならない。約7000億jの軍事支出は、アメリカ以外の全世界の国の軍事支出を合計したよりも多い額である。このような巨額の軍事支出を合理化する唯一の理由は、アメリカの世界制覇政策であるが、この政策も金融崩壊によって無意味なものとなった。軍事予算は政府財政を均衡させるのに十分なほど削減する必要がある。さらに良いのは、1000億jの黒字にすることである。
そのような行動をとることは、外国の債権者に対してアメリカが経済危機への責任ある対策をとっていることを示すであろう。外国の債権者に対する新たな借入れを2倍以上増加するかわりに、財政赤字を削減することによって、アメリカ政府は現在の借入れ水準を一定額に保つことができるであろう。これは外国の資金貸し手に対して真剣な対策をとっていることを示すものとなるだろう。
貿易赤字にも対処しなければならない。アメリカは毎年国内で生産されるものよりも8000億j多い物資を消費しているが、その資金面での手当てを外国人の意思にまかせている。現在進行している資金供給は、米ドルの価値に問題を生じさせるほどの大量のドル資産で外国の資金供給者を溺れさせているのだ。
海外でのアメリカ向けの商品とサービスが生産され、アメリカの企業がそれらをアメリカで販売しようとすると、それは輸入品として扱われるので、アメリカの貿易赤字を顕著に増大させてきた。事業の海外移転は、税金、輸入数量制限、関税などによって抑制されるべきだ。外国の資金供給者の企業が生産する商品に対して関税や数量割り当てを課すことは難しいであろう。だが、アメリカ市場向けの商品を海外で生産しているアメリカの企業に対しては、そのような抑制が可能である。アメリカの貿易赤字をなくして収支を均衡させるためにはいずれにしても何らかの措置がとられるべきであろう。だが、それによって財政危機が解決されることにはならない。
この20年間、アメリカは致命的とも言える深刻な失敗を積み重ねてきた。ソ連邦が崩壊すると、アメリカ政府は世界制覇政策を開始した。だがそれを実現するための手段を持っていなかった。アメリカ政府は多くの生産基地を海外に移転することを容認した。その結果、軍事用の物資さえも輸入に依存するようになった。アメリカ政府は金融部門も規制緩和し、借入金による資金調達を認められた新たな金融商品の増大を容認した。このような政策の失敗が、アメリカを経済的に崩壊させようとしている。
メリーランド大学の経済学者であるハーマン・E・ダリーは、現在の危機は、「まさに現実の富の増大に比べて過剰に増大した金融資産の問題である」と指摘している。ダリーは「金融資産は実体経済の何十倍にも増大した」、「証券の購入額は、現実の商品の購入額の20倍にもなる」と考えている。爆発的に増大する負債に対する抵当権は、実際の富よりもはるかに大きくなった。
別の言い方をすれば、このような問題は救済されるようなものではない。歴史的に見れば、返済できなくなった債務はインフレーションによって無効にされてきた。だがこの債務を無効にするインフレは同時に貯蓄も消滅させるだろう。
救済策の失敗は考えうる最悪の結果をもたらす。アメリカ政府が公的負債の増大を考慮に入れることなく、個人の負債を公的負債に転化しようとすれば、救済策の失敗の可能性は大きくなる。
(ポール・クレイグはレーガン政権時代の財務次官補)
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