●翻訳資料
フランス高校生の巨大デモ
海野 響 訳
■解説■
フランス全土で巨大な規模の高校生のストライキ、デモが闘われている。これは、2006年の300万人の大学生、高校生のデモを超える勢いをもっている。
06年のデモは、新規採用者の解雇自由を定めたCPE(初期雇用契約)に対する反対闘争であった。つまり、学生、高校生が自分自身の労働者としての権利のために闘ったのだ。「労働者と連帯する」「労働者に接近する」のではなく、「労働者そのもの」としての学生運動、高校生運動だ。
このますます拡大し、戦闘性を増していく連日のデモに直面して、当時のシラク右派政権は、すでに国会で議決して法律になっているCPEの撤回に追い込まれた。
これまでの体制内労働運動の合法主義、議会主義は、若い学生・高校生=労働者の怒りの闘いによって突破された。政治家、議員に屈従した運動を拒否して、労働者が主役の運動、「労働者階級こそ社会を動かしている」「労働者こそ、社会の主人公になる」という誇りをもった運動への転換が、巨大な規模で始まったのだ。
このCPEでの支配階級の敗退に対する危機感から生まれたのが、現在のサルコジ政権だ。シラク政権はもともとフランス保守諸政党の中でも右派の勢力で作られてきた政権だったが、そうした伝統的保守の枠内の右派ではもはや、やっていけなくなったのだ。
サルコジはシラク政権の中から、従来の枠組みを徹底的に破壊する手法をとって登場してきた。また、実際、サルコジ政権になってから、史上初めて、大統領官邸にファシスト国民戦線を招き入れている。
現在、サルコジ政権は、アメリカ、イギリスに比べて一回り遅れている民営化・規制緩和=労組破壊の攻撃に全力をあげている。
その大きな一環が、ダルコス教育相の教育改革だ。
この教育改革は、
▽教育予算の大幅カット
▽教師を始めとする教育労働者の数を大幅削減
▽職業高校制度の改悪。職業高校で得られる資格の削減、職業教育年限の短縮など
▽これらを通じて、教育の民営化攻撃を激化させる
というものである。
これに対する高校生の闘いは、フランス全土に広がっている。
もっとも大規模に激しく闘われているのは、首都パリやマルセイユなどの地方大都市だけでなく、グルノーブルなどの中都市、そして人口数千人の市町村にいたるまで文字通り津々浦々で闘われている。
体制内「左派」の組織、FIDL〔独立民主高校生連盟、社会党系〕などは、高校生の自主的決起に恐怖し、ダルコス教育相と会談して闘争終息策動をしている。だが、闘いの現場では、それを「警察の番犬」と呼び、体制内「左派」を乗り越える運動が展開されている。
この翻訳資料とともに、できればフランス高校生のデモを伝えるビデオをインターネットで見てほしい。フランスの大中小のあらゆる町で行われてるデモの姿が多数、YOUTUBEなどに投稿されている。
@「デモ」「高校生」を意味する「manif」「lyceens」をYOUTUBEの検索窓に打ち込めば、多数のビデオがでてくる。
Aあるいは、YahooやGoogleで、「manif」「lyceens」「video」を打ち込んでもよい。
ことばは分からなくても、ビデオの映像を見れば、高校生デモの巨大さ、解放感あふれる闘いの姿、そして警察の弾圧をものともしない戦闘性がぐんぐんと伝わってくる。
日本の昨年11月4日労働者集会のデモ、3月18日イラク反戦デモとまったく同じ怒り、同じ闘いの解放感で闘っている。
世界の労働者階級は一つだ。国境を越え、ともに世界革命に決起しよう。
ここでは、商業新聞ルモンド紙の記事(@)とリヨン市の闘争団体「レベル・リヨン」の記事(A〜B)を紹介する。Cは、高校生自身の闘争報告だ。
@反ダルコス戦線が拡大、新たな大動員へ
ルモンド・AFP 08年4月14日
4月14日、18の高校生組織(UNL〔全国高校生連合〕、FIDL〔独立民主高校生連盟〕など)そして教員組織、保護者組織が統一行動日を設定し、動員を呼びかけた。5月15日(木)、5月24日(土)の2日間を統一行動日とする。ストライキは呼びかけない。この2週間の間の運動に最も多人数が参加したイルドフランス地方〔パリ及びその周辺の諸県〕では、翌週に学校が休みに入る。だが、この統一行動が成立したことで、休みを機に行動が終息に向かう見込みはなくなった。
次の学年から教員の雇用を1万1200人(うち8830が公立)削減する「破滅的な08年度予算の結果」に対して反対するために、この統一行動は、「5月15日を多様な全国行動の日」とし、「5月24日を全ての県で住民とデモ隊が合流する巨大行動日」とする。
この運動が始まった時から、ダルコス教育相は、雇用の削減(退職2人に対して1人しか補充しない)は、生徒に対する教育の質には影響しないと言って説得しようとしてきた。
しかし、デモは日を追って拡大していった。先週木曜〔11日〕には1万9千〜3万5千人がデモをしたが、組合側も政府側も、火曜〔15日〕にはもっと動員が増えるとみている。
組合側が激しく非難していることは、雇用の削減だけではない。職業バカロレア〔注〕が現行4年で獲得されているものを3年にすることも重大であり、教育の質に影響する小学校の新たなカリキュラムも大問題だと言われている。
〔注〕職業バカロレア 職業高校を経て獲得する資格
「数だけが問題ではない。根本的な改革だ」
イルドフランス地方では、デモ・施設の封鎖・激突が全国でもっとも激しい、衝突はますます拡大している。月曜には、バルドマルヌ県の私立テイラールドシャルダン高校では、百人の高校生が街でデモをしていた時、校長が構内に入った若者のグループに襲われた。
高校生が教員、保護者に支持されて、決意がますます固まっている中で、UMP〔国民運動連合、サルコジの党〕が一種の仲裁役を買って出ようとした。同党のスポークスマン、ドミニク・パイエは「高校生の不安は理解できる。しかし、はっきりさせなければならないことは、数値的な措置以外のことも重要だということだ」「ダルコス教育相に根本的改革案を示させよう」と述べた。
UMP寄りの高校生組合であるUNIリセは、施設封鎖に抗議する署名運動を始めた。他方、社会党は、教育相が好戦的な鉄腕政策をとっている姿勢に懸念を表明した。
社会党の元教育相、ジャック・ラングは、サルコジにニコラス・サルコジ大統領に雇用削減の再考を求める「厳粛な申し入れ」を行った。
4月10日、全フランスで教育の公共サービスを守るための学校放棄作戦が行われる。リヨンでは、高校生、中学生、保護者、学生、教師、教育省職員及び他の全てのダルコス=サルコジの削減計画に反対する人々が参加し、大デモをする。
A高校、中学、大学で4月10日にストと大デモ 教育の公営を守れ
『レベル・リヨン(リヨンの反乱)』08年4月9日
政府は、次の学年から1万1千の雇用を削減する。多数の教育資格も廃止される。進路指導センターも存続が脅かされている。結局、若者の育成全体が脅かされているのだ。
校長は、デモ参加者を少なくするために、入学者が減少しているとして雇用削減を正当化している。しかし、こうした論法は、学校が直面している困難な現実にまったく答えていない。学校によっては、2人の生徒減少に対して、4人の雇用が減らされるのだ!
この前代未聞の公教育への攻撃は、すでに悪化している状況に加えて、次のようなことをもたらす
▽今年から、退職教員に対するすべての補充が保障されなくなる。これは、長期間続く。
▽授業を確保するために、退職者を呼び戻す。
▽雇用の不安定化を促進する。
▽数百人の若者を、毎年、何の進路も示さず路頭に放り出す。求人がない、資格を獲得できる教育課程がない等の理由で。
雇用の削減は、こうした既存の問題を深刻化させ、さらに新たな問題を作り出すのだ。
一学級当たりの生徒数を増やす。
学課の数を減らす。
課される補習時間が増える。多くの学校で教員がこの影響を受ける。また、若者の教育の質に悪影響を及ぼすことになる。
数週間前から、教員の削減、義務的・非義務的な補習時間の拡大、多数の教育資格の廃止、職業バカロレア取得の3年化、多数の選択肢の消失、等々に対する反対のために、さまざまな学校で、闘いに立ち上がってきた。
多くの学校が封鎖されたり、ストライキに突入したりした。3月27日と4月3日のデモは大きなものだった。これは、高校から街頭に出る高校生が毎回増えていることを示している。闘いの中での高校生と中学生の協力で、運動は拡大していった。4月10日には、初等・中等学校、高校と大学の職員もそれぞれの要求をもって合流する。毎週、ストの警告が発せられれば、教育省の予算措置を加速させることになるであろう。
高校生とともに、学校の職員と保護者が大量にデモに参加し、要求を持ち寄ることが重要だ。われわれは大人として、闘う若者の側に立つ責任がある。幼稚園から大学まで、全職種の職員が関係している。
闘いの中での団結と合流は、かつてなく不可欠になっている。
われわれは、次のことを獲得せねばならない。
教員の人員維持と学級を守れ
教育資格を守れ
現行の職業バカロレアを守れ
統一バカロレア〔注〕における、文学系と経済・社会系の統合反対
全国で、全員に同一の教育の権利を保障するための公教育サービスの質。
これは、出来る!
共に行動しなければならない。保護者も、高校生も、教師も。そして今後4年間で教育省が8万人を削減するこの政策に止めをさそう。
みんな、4月10日に行こう
ベルクール広場、14時30分
〔注〕バカロレア 大学入学資格試験
B4月10日、リヨンの街頭 で高校生の運動が広がった
『レベル・リヨン』08年4月10日
今日は、1000〜1500人の高校生が参加した。
職業バカロレアの改革、多数の教育資格の廃止、教員の削減に反対して、大きなデモがベルクールからギシャールまで行われた。
その日は朝からラカサーニュ高校とリュミエール高校が封鎖された。14時30分ちょうどに、高校生が大部分だが教員も学生も混じったデモ隊がベルクールから市庁舎方向に出発した。色どり豊かで陽気なデモ隊を、9人の機動憲兵隊伝令、保安機動隊の2部隊、及び多数の私服警官が囲んだ。機動憲兵隊の戦闘服の隊列が、デモ隊の前後を行進した。デモの最初から、保安機動隊は、若者を挑発した。
ラファイエット通りでは、デモ
隊の方向を変えようとされた。みんなが、機動憲兵隊の隊列から自由になってデモを始めようとしていたのだが、FIDL(独立民主高校生連盟)とUNEF(全フランス学生連合)が警察や保安憲兵隊と緊密に協力して「秩序を回復」した。すなわち、自由にとりつかれた群集を再び警察のヘルメットと旗の後ろに持っていったのだ。
ギシャールで、FIDLとUNEFは、皆を急いで路面電車に押し込んで帰らせた。デモにたがはめをする警察的な仕事を見事にこなしたということだ。
▽逮捕された若者と団結しよう!
▽デモでは警戒しよう!
▽闘う高校生を、デモで、ストライキ・ピケで支持しよう!
今度のリヨンでのデモは、4月29日(休み明け)。時間・場所の詳細は未定。
C4月10日:高校前でストのピケ、リヨンの街頭でデモ
『レベル・リヨン』08年4月12日
少なくとも、リヨンの2つの高校でストのピケ
いくつかの新聞は高校生の怒りは収まりつつあると報じていたが、高校生たちの怒りは、4月10日、メゾン・ナーブ地区のラカサーニュ高校(リヨン3区)とビラールバンヌの職業高校であるフレデリック・ファイ高校のストライキ・ピケに示された。
しかし、この2つの高校では、治安部隊の検問は全くなかった。教育相による改革に対して、怒った高校生たちは声をあげようと決めたのだ。
ラカサーニュ高校の生徒たちは、高校を封鎖するために7時30分に集合することを取り決めた。だが、その時刻には約30人しか来なかった。
その時にはすでに、市警の車が1台来ていた。8時ごろ、高校生たちが封鎖を支援するために、あるいは授業を受けるためにやってきた。中学生たちは、われわれと同様にこの問題に関係していたが、残念なことに通常の授業を受けなければならなかった。われわれは、保安機動隊から警告を受け、彼らを通過させるように指令された。
高校の柵に張り紙や横断幕を着けることは禁止されたが、9時30ごろには、それらをうまく取り付けた。しかし、高校の職員は、それについて非常に厳格に守った。門や柵には、横断幕も張らず、また通行を止めるためにゴミ箱を置くこともやらなかった。私は、朝の生徒の数は100〜200人だったと思う。反乱した高校生たちは、「やつらの銭金より、われわれの選択権のほうが重要だ」などのスローガンを叫んだり、張り紙に書いたりした。11時30分ごろ、全部あるいはほとんど全部の生徒がフレデリック・ファイ高校の仲間を助けるために出発した。最終的には、みんなが14時にブロンズの馬の像の所に集まることに決めた。
デモは、遅れて来た者を待ったので、14時30分に出発した。一週間で、デモ隊の数は倍増した。リヨンの街頭に出た生徒は700〜800人から1100〜1200人になった。
生徒と何人かの教師のデモ隊には、市警、ジャンダルムリ〔軍系列の警察〕、及び若干の保安機動隊がついてきた。市庁舎のあたりで、2人が逮捕された。逮捕理由は不明だ。
それから、ギシャール広場に向かった。バールディウにデモ隊が到着した時、小さな間違いをしたが(デモ隊は治安部隊の計画どおりの道を通らなかった)、すべてうまくいった。
学校の休み明け、火曜日〔29日〕にまたデモをするために集合しよう。
高校封鎖を続けよう。そしてデモ隊をもっと増やそう。パリでは2万〜4万人だった。グルノーブルでは7000〜8000人だった。
高校生、中学生、教師、保護者は、自分たちの声をあげよう。
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