COMMUNE 2007/12/01(No.378 p48)

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12月号 (2007年12月01日発行)No.378号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  米帝のイラク侵略戦争前夜のイラン

□侵略戦争に全力をあげる米帝と反発するイラン
□体制的危機にあえぐアフマディネジャド政権
□大弾圧を打ち破り決起するイラン労働者階級

●翻訳資料1 全米自動車労組のストライキとその課題 浜田茂夫訳
●翻訳資料2 点数でボーナスを決める――教組が合意  ニューヨーク・タイムズ 07年10月18日エリッサ・グットマン  丹沢 望訳

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/イーランドと闘う非正規職労働者−−室田順子

    10・7三里塚全国総決起闘争

三里塚ドキュメント(9月) 政治・軍事月報(9月)

労働月報(9月)  闘争日誌(8月)

コミューン表紙

羅針盤 福田内閣の打倒を

▼米帝のイラク侵略戦争における敗勢、サブプライムローン危機の爆発によって、アメリカ帝国主義を基軸とする戦後体制は音を立てて崩壊を始めている。低所得層の労働者に住宅を売りつけ無理やり拡大してきた住宅市場がサブプライムローンの破綻とともに急激に縮小し、住宅価格が下落している。信用収縮が起き、短期市場へのFRB(米連邦準備理事会)の巨額の融資にもかかわらず、銀行の資金繰りが苦しくなっている。実体経済への影響も出始めている。さらに金融危機は世界に波及し、フランスの金融最大手BNPパリバの危機、イギリスでの銀行取り付けに続き、世界の巨大16銀行のひとつスイスの金融大手UBSも破綻の危機に瀕している。29年恐慌を上回る世界恐慌、金融恐慌は不可避だ。これは帝国主義間争闘戦を激化させ全世界を帝国主義戦争、世界戦争にたたきこむ。資本主義の生命力はもはや尽き果てている。労働者階級にとって待ち望んでいた決定的情勢が到来している。労働者が社会の主人公となる新しい社会を建設し、ロシア革命の偉業を完遂するときがついに来たのだ。

▼こうした情勢を受けて日帝・安倍は「戦後レジームからの脱却」を叫び改憲路線を一直線に突っ走ろうした。しかし安倍は労働者階級の怒りでぶっとばされ、自滅し敗走した。日帝ブルジョアジーの屋台骨は完膚無きまでにへし折られた。その上にたつ福田政権はきわめて脆弱だ。9月29日、沖縄県民大会は11万6000人という空前の大結集を実現し、福田政権に巨大な衝撃を与えた。その先頭には、沖教組・高教組、自治労を始めとする沖縄の闘う労働者、労働組合が立った。ついに日本階級闘争に地滑り的な闘いが起きた。沖縄から噴出したマグマは、日本全国−世界で始まった階級的激動と完全にひとつだ。日帝を労働者階級の団結で打倒することは必ずできる。

▼福田は安倍のように改憲をむきだしに語らないが、戦争・改憲、民営化攻撃を安倍以上に貫こうとしている。イラク、アフガニスタン侵略戦争を遂行する給油継続の新法をなんとしても通過させようとしている。はっきりしていることは日帝の思うがままにはもはやいかないということだ。イラクを見よ、アフガニスタンを見よ。人民は米帝の侵略戦争に対して、民族解放闘争を断固闘い抜き、米軍を敗勢にたたきこんでいる。アメリカでは労働者がイラク反戦闘争に決起し、「米労働運動は第2の高揚期」という新しい時代を迎えている。そして9月29日の沖縄の12万人決起は日帝打倒への労働者階級人民の新しい時代を到来させた。イラク・アフガニスタン侵略戦争をさらに継続しようとする福田政権を打倒しよう。一方民主党の小沢は、「給油は違憲」だが国際治安部隊(ISAF)ならいいとして陸上自衛隊をアフガニスタンに派兵しようとしている。いずれも帝国主義間争闘戦、世界戦争に向かっての戦争政策であり、許すことができない。

▼動労千葉を柱に、4大産別を中心とする階級的労働運動の前進に一切がかかっている。職場において職場闘争を開始し、資本・権力と激突し、体制内労働運動ともぶつかりあって、これと自らを決然と袂を分かち、階級的労働運動をつくりだすことが勝敗の分かれ道になっている。動労千葉はそれを実践し、階級的労働運動を創造してきた。今こそこの闘いに学ぼう。(U)

 

 

翻訳資料

 翻訳資料-1

 全米自動車労組のストライキとその課題

 浜田茂夫訳 

■解説■

 翻訳資料1は、UAW(全米自動車労組)の全米ストライキとUAW本部の歴史的な大裏切りを批判した3つの記事である。
 UAW(全米自動車労組)は9月24日、25日の2日間、全国ストライキを決行した。37年ぶりの本部指令の全国ストライキである。第1日目には7万2000人がストに突入し、全米のGM工場は完全に止まった。2日目のストによってデルファイ等の大部品会社工場もストップした。カナダの工場も操業停止することとなった。
 UAWは1998年6月から54日間の大ストライキ闘争を闘い、GMをメルトダウンに追い込んだ。デトロイト近傍フリントのUAW支部(金属センターと計器類工場)が長期の非公認ストライキ(山猫スト)に決起し、全米の製造ラインをストップさせた真に戦闘的なランク・アンド・ファイル(現場労働者)の闘いだった。それは部品部門のスピンオフ(別会社化)やアウトソーシングを許したがビッグスリー労働者の今日までの労働条件を防衛したのだ。
 だが今回のストは事前の本部からの情報もオルグも一般組合員の動員もなく、戦闘的なローカル(支部)もスト指令に驚き、ピケットラインに駆けつけるというものだった。そして2日間の短期ストの後、26日早朝、突如として新協約合意(仮合意)が発表され、10月10日までに批准投票を行うことになった。あまりの急展開に、現UAW本部(ロン・ゲトルフィンガー委員長)指令のストの裏に何があったのかという疑惑が生じた。
 本部は詳細を公表せず、組合内での討論をほとんどしないままに批准投票を強行しようとしている。
 UAWのランク・アンド・ファイル組織(SOS=「連帯の戦士」)が暴露しているところによれば新協約の合意案は次のようなものだ。
▽職務格付けとワークルールの変更、
▽協約期間中の賃金凍結、
▽二層賃金制、
▽工場閉鎖、アウトソーシング、強制的10時間労働日などの全面的な譲歩(コンセション)
▽VEBA(任意被用者給付基金)の創設妥結。
 協約期間中の賃金凍結とは、COLA(生活費調整)の廃止を意味する。COLAはインフレによる生活費上昇を穴埋めする制度だ。
 80年代以来のUAW本部の資本への譲歩の中で、COLAの一時的な凍結はあったが、今回は事実上COLAそのものを廃止することになる。これは、UAW本部が自動車労働者が誇りとする闘いの成果をついに売り渡したことを意味する。自動者労働者は、1970年、「無制限のCOLA」という要求を掲げて10週間に及ぶ大ストライキを貫徹し勝利し、それが他産業の労働者にも波及していったのだ。
 二層賃金制とは、現在すでにGMで働いている労働者と新規採用の労働者の賃金体系を別にするものだ。職場の労働者の間に分断を持ち込み、組合の団結を破壊するところに資本の二層賃金に込めた狙いの核心がある。団結を破壊したうえで、低賃金の新採の「低層」労働者の存在をテコにして、「上層」労働者の賃金も下げていく。
 二層賃金制は労働者の団結という労働運動の原則そのものの売り渡しだ。
 VEBAはGMが約350億ドルの資金拠出で新基金(投資信託)をつくり、それがUAWに移管される。UAWはその運用で引退者医療給付を行うというものだ。こうしてGMが本来責任を負っていた引退者医療費の支払義務510億jを反古にする。当初資金で30%のカット。しかもそれで永遠におさらば。運用破綻の場合一定期間、限度付きの支援支出を行うとされているが、今回のVEBAが早晩資金不足に陥るのは不可避だからだ。まさに究極の医療保険給付削減攻撃だ。
 実績からいっても、VEBAが労働者にとってまともに運用されたためしはない。
 米キャタピラー社の労働者もUAWに加盟しているが、そこで同社とUAWの協約で作られたVEBAは大破綻している。
 1998年米キャタピラー社が資金拠出し、UAWが管理するVEBAは、2004年10月までに基金は底を突き、退職者が受け取る年金小切手は最大で月間281ドルも目減りした。退職者、労働組合とキャタピラー社間の争いは訴訟にまで発展し、全米的に労働者の非難を浴びた。
 短期ストと直後の瞬時の妥結はまさに悪名高きVEBAをUAWが受け入れるための舞台装置つくりだったのだ。
 UAW本部は、ストの要求項目として賃金、雇用問題などは入れていたが、「VEBAはストの問題ではない」として入れなかった。最初からVEBAを受け入れる狙いだったのだ。
 VEBAは、UAW本部が資金運用をする。VEBA資金を使って組合官僚が株式投資などを行う。このかんアメリカの多くの組合で繰り返されてきた組合官僚の利権あさり、不正腐敗がこれから満展開していくことは確実だ。
 このGMにフォード、クライスラーが続き、全産業分野・公務員関連にVEBA攻撃が開始される突破口が開かれた。ウォール街はその意義を称え、GM株は直後に高騰した。
 だがやすやすと米労働者は屈服しない。今回のGMストは新手の米資本攻勢と闘いの幕開けである。そして公的医療健康保険要求の声はますます増大するであろう。
    *     *    
 翻訳資料2は、ニューヨーク市教組の執行部が市当局と成果主義ボーナスを導入する合意をした大裏切りについての『ニューヨークタイムズ』の報道である。

 全米自動車ストライキは、やっかいな問題を残す

 トニア・ヤング『レーバーノーツ』2007年10月 343号

 この37年間で初めて、全米自動車労働組合(UAW)は9月末、ゼネラル・モーターズに対する2日間の全国ストライキを決行した。
 ストライキ突入までの交渉期限が9月24日午前11時に過ぎると、73000人を越える製造労働者がGM工場から一斉にあふれ出してきた。
 GMとの協約交渉は、無制限で延期されているフォードとクライスラーにおける協約交渉と同様に、UAWとGMが全国合意に達することができるだろうという期待で、9月14日以来、時間刻みで延長されてきた。
 UAWインターナショナルのロン・ゲトルフィンガー会長は、雇用保障問題を解決されなかったとしてストライキを指令した。
 彼はVEBA(任意被用者給付基金)をめぐるストライキではないと述べている。
 彼は、「05年に確信していたように、私は今も退職者がVEBAに入るのは、われわれにとって最良であると確信している。VEBEが交渉課題になったことは一度もなかった」と述べているのである。
 交渉のテーブルに載った他の問題は、多種の仕事格付け 及びワークルール変更問題や、二層賃金体系、工場閉鎖、アウトソーシング、強制的10時間労働日であった。
 ストライキ初日、全米のGM工場で生産は完全に止まった。
 ストライキ2日目、部品が生産チェーンで不足し、カナダでのGM工場閉鎖についての情報が国境を越えてもれてき始めた。
 デルファイのような主要な部品生産業者でも、ストライキが2日目に長引くと生産がストップした。

 生じた疑念

 突然の力の行使は事態を注視していた多くの人々にとっては衝撃であった。他方、一般組合員活動家はストライキ政策の背後に何があったのか、疑念を持った。
 支部の一般活動家が素早く連帯行動に参加したとはいえ、ハムトラムク市(ミシガン州)のキャデラックを生産するボールタウン工場のような主力工場でも、その自動車工場労働者のピケットへの参加はまばらだった。
 UAWローカル22のような支部の組合本部の雰囲気もかなり沈み込んだものであった。組合員の動員と情報伝達は短いストライキの間中ほとんどなく、ストライキが何を目的としているのかについての多くの組合員の疑問は放置されたままであった。
 2日後の9月26日午前4時の記者会見で、組合役員が暫定的な合意を発表したとき、これらの疑問は強まっただけであった。ゲトルフィンガーは、「ストライキが交渉の行き詰まりを打破した」「ストライキは会社側より我々の側の助けになったようだ」と主張した。
 しかしマスコミにリークされ、最初に発表された合意の詳細によれば、提案された4年間の協約は多数の大譲歩を含むものであったと言われている。
 協約詳細には、GM退職者の健康保険料の70%を資金助成するVEBAや、新採用者への二層賃金・諸手当の適用、すべての時間給労働者の賃金凍結などが含まれているようである。『レーバーノーツ』が印刷される時まで、雇用保障条項はあいまいなままであった。

  VEBAのために準備された舞台

 ストライキの前には、VEBAが負担をUAW退職者に押しつけ、組合を350億ドルの信託金の唯一の投資家兼管理者とするという提案を受け入れないUAWの組合員はますます増えていた。そのような組合員は、VEBAに反対して活発に組織化していた。彼らはストライキがこの問題をめぐる組合員の抵抗をそらせるものになったかもしれないと言っている。
「これはまさにゲトルフィンガーと会社が本当に闘っていて、彼らがわれわれに提示する協約が最良なのだという誤解を与えるように仕組まれた芝居の第一幕第1場だ。」と引退したクライスラー労働者で「連帯の戦士」(SDS)活動家のラリー・クリステンセンは語った。
 クリステンセンは、VEBAと他の予想される譲歩にノーを投票する不動の決意が重要であると言った。「組合員が、結託したGMとゲトルフィンガーより断固としていようと決心するならば、第二幕もありえる」「われわれが第二幕に向かうのか、それとも協約が組合員にとっての危険信号で満たされるのか、いずれかだ」と語っている。
 組合員に危険信号が出されたのは、旧執行委員会メンバーのジェリー・タッカー、ウォーレン・デイビスとポール・シュラーデが、ロン・ゲトルフィンガーとUAWの交渉担当者に公開質問状を書いたストライキのわずか数日前であった。
 この公開質問状は、負担を労働者に押しつける医療保障制度は、労働者の権利の大きな侵害であるだけでなく、労組の歴史的獲得物と社会的正義をめざす運動に打撃を与えるものであると警告した。
この公開質問状が出された後に、株式によって資金を供給される自動車産業のVEBA信託について、マスコミによる厳しい検証が行われた。
 デイビスはUAWを労働者の立場に立たなかったことで批判し、UAWが実行可能な戦略(例えば波状ストライキ)をとることを回避したと述べている。数日のうちに、UAWは交渉の行き詰まりを発表した。

 単一支払者という解決策

 前UAW役員は強く要求されている国民健康保健制度ではなくVEBAを実施する方針は、全国的な医療保障制度の危機に適切に対処するものではないし、あるいは自動車メーカーを救済するものでもないと語っている。
 「即座にノーを突きつけられるべきであった組合側と会社側の全交渉に関して出されていた諸組合からの警鐘を、なぜわれわれはもっと傾聴しないのか。これが我々が取るべき道である」「われわれはみんなでにワシントンに行き、全員加入の単一支払い者〔国家が全額支払う〕の医療保障制度の制定を推進するであろう」と、ジェリー・タッカー、前UAW執行委員会メンバーで「労組刷新センター」の共同創設者は語る。
 タッカーは、自動車産業で問題となっている「終生つづく負担」を効果的に解決するために、すでにカナダで実施されている全国一律の医療保障制度に対する支持を自動車メーカーは結集しなければならないとも述べている。
 自動労組は単一支払者制度による解決法に関して運動を組織化している唯一の組織ではない。オハイオ州の単一支払者制度導入行動ネットワーク(SPAN)は、オハイオ州の医療保障制度について論議するために、わずか6人のメンバーで2000年から活動を開始した。2002年に60万人の製鉄労働者退職者給付が廃止されると、この連合組織は急速に成長した。
 他の組織、例えば「ヘルスケア・ナウ」と「国民健康保健制度を要求する医師団」は、今こそ国民健康保険制度を実現する時であると主張し、ミシガン州出身の議員ジョン・コンヤーズによって提案された単一支払者制度導入法案のH.R.676を支持している。

 継続する反対運動

 SOS(現役および引退自動車労働者で構成される活動家グループ)は、彼らの『ノーの投票を、 警告に注意しよう』キャンペーンを通じて、UAWの組合員に対し、今後行われる可能性のある譲歩について警告する活動を始めた。このキャンペーンは、先月、工場現場で勢いを増した。
 ストライキに引き続いてSOSの活動家は、多額のボーナスと引き換えの2層賃金制度導入がありうるというような危険信号について同僚たちにビラをわたし、話をし続けた。
「デルファイの2層賃金制度は唯一の協約として継続され、いま我々は全員第2層の労働者だ」とSOS共同創設者トッド・ジョーダンは述べている。
 最近売却されるまではGMの工場であったインディアナ州インディアナポリス市のアリソン変速機のSOSのメンバーは、工場を精力的に調査し、VEBA信託や労働者側の譲歩を含むいかなる全国協約にも、ノーと投票するように組合員たちに指導した。
 「私はわれわれがどこに置かれているかを知っているし、企業がわれわれをどこに連れていこうとしているかを理解することができる。それはわれわれの利益になるものではない」「誰かが立ち上がらなければわれわれは全てを失う」とアリソンの労働者のテレサ・バーバーは語っている。
 これ以外の組織化活動としては、全国交渉と並行的に行われた支部での交渉内容に不満を示すため、ストライキの前に、アーバンヒルズのクライスラー本部の西の芝生に集合した1000人のUAWクライスラーの労働者の闘いもある。
 UAW本部役員は「現役および引退した組合員の要求を満たす仮合意に達するために全力を集中した」と語るが、組合が組合員をうまくまるめ込んで協約を批准させる説得力を持つかどうか疑問が残る。自動車労働者がはっきりとした危険信号を求め続けることだけは明らかである。

 前UAW指導者がGMとUWAの合意拒否投票を主張

 ポール・シュラーデ、ウォーレン・デイビス、ジェリー・タッカー『レーバーノーツ』 2007年10月 343号

 以下は元全米自動車労組(UAW)執行委員、ポール・シュラーデ、ウォーレン・デイビスとジェリー・タッカーによって書かれた公開質問状である。この公開質問状は、組合による2日間のストライキの後、9月26日にUAWとゼネラル・モーターズとの間の暫定合意について出されたものである。(『レーバーノーツ』編集部)

………………………………………

 われわれは、労組運営の任意被用者給付基金すなわちVEBAの下に何十万人ものUAW引退メンバーの将来の医療保障措置を置くことに仮同意するUAWの交渉担当者の決定を遺憾に思う。組合の交渉団と会社側が、危険負担を引退労働者と彼らの家族に押しつけ、会社の富を築いた労働者のための完全で恒久的な医療保障に関与するゼネラル・モーターズの責任を解除することは無責任であるとわれわれは考える。
 われわれは以前から、VEBAに関する交渉に先だって組合員と組合の第二レベル(エリア及びローカル)指導部の間でのまっとうな議論や討論が完全に欠落していることについて注意をしてきた。疑うことを知らない組合員に(現役であれ引退者であれ)、新たな潜在的に危険な経済的な構想を持ち出すことは、我々の運営規約における民主主義の原則と相容れない。VEBAが危険であることは、はっきりと実証されている。キャタピラー社でVEBAが適用されたUAWの引退メンバーは、それが危険であることを痛苦なほどに裏付けることができる。
 彼らのVEBAは破綻し、現在、医療保障が削減されたのに、その費用を支払うために、毎年、予期していなかった数千ドルを自分のふところから支払っている。
 GMインターナショナルのゲトルフィンガー会長への最近の手紙で、ある著名なデトロイト地域の支部組合の指導者は以下のように述べている。
「ほとんどのVEBAは、会社が退職者健康保険と手を切ることを可能とする。もし計画通りにいかなければ、治療料金を払うために彼らの命綱の蓄えを使い果たすように退職者に言うのはわれわれの組合自身である。それがわれわれの組合の立場に反するので受け入れがたい」。そして前UAWダグラス・フレイザー会長さえVEBAについては留保の態度を表明し、次のように言っている。「われわれが不景気または不況に入ったらお終いだ。基金価値は急落し、UAWは巨額な負債の中で呆然と座り込むだけだ」。
 退職者健康保険の負担から逃れようとするビッグスリーのわめき声は、ウォール街と投資家連中によって拍手喝采されるかもしれない。しかし組合はビッグスリーとは異なる責任と異なる支持基盤を有している。VEBA採用によって、組合の交渉団はカナダの「全国民のための医療保険」を真似たアメリカの国民健康保険システムのための圧力を強化する強力な政治的一撃を加える歴史的な機会を逃した。それは各企業が認めるように、競争が行われる場所を均一化するシステムである。
 交渉の最初から、今回の交渉ラウンドは国内自動車産業が自らはまりこんだ「競争力」という穴から這い出るのを助けるために、自動車労組が何を為すことが出来るか(つまり降伏するために何ができるか)をめぐるものであるだろうとマスコミが予測していたものであった。だが、「マーケット・ウオッチ」誌2007年7月31日号で報告されているように、GMは最近の四半期に8億9100万ドルの利益をあげ、株は急上昇している。経営計画の失敗で労働者と彼らの家族を不当に不利な立場に置く仮合意には多くの労働者側の譲歩が含まれている。
 われわれは、GMのUAW組合員が「ノー」の投票をし、指導部が仮合意のVEBAの過ちと他の不当な譲歩を修正するために交渉を再開しつつ、労働者たちに活動を継続するよう指示することを心から勧めるものである。

 UAWとゼネラル・モーターズは瞬時に協約を提案した

 ダイアン・フィーリー、ティファニー・テン・アイク

 『レーバーノーツ』2007年10月 343号

 9月末の短い2日間のストライキの後、全米自動車労働組合(UAW)の交渉担当者は、ゼネラル・モーターズとの仮の契約に署名した。
 組合員たちは、10月10日の最終期限に間に合うように、10月の初めに提案された協約についての投票を支部ごとに始めた。以下にあげた多数の既得権返還に憤慨するランクアンドファイルは、「ノーの投票を」というキャンペーンを開始した。

 協約の暗い面

 提案が票決されたならば、労働者は以下のような事態に直面することになる。
・会社と組合が「非必須」職として定義する職種への新規採用者に対する2層賃金と給付。その仕事は傷病後の労働者、あるいは長期間生産ラインで働いていた最年長労働者がしばしば担当した。この範疇には組み立て部門以外の労働者の大部分が含まれる。新規採用者の賃金は、14ドル〜14・61ドルから始まる。
・4年間の協約期間中の賃金凍結。
・生活費調整(COLA)の引き上げ分は、現役労働者の健康保険料のインフレーション分を支払うために転用される。
・健康保険基金または任意被用者給付基金(VEBA)の創設。同社は基金を299億ドルで始めて、2010年にそれを組合に引き渡す。反対派はキャタピラー社とデトロイト・ディーゼル社のVEBAのように、組合員のためにつくられたVEBAが資金不足となるかもしれないことに注意を喚起している。
・新規採用者は伝統的年金給付の代わりに、401(k)とより高い自己負担金の健康保険へのアクセスを与えられる。そして前協約で得ていた他の伝統的な給付、例えば7月4日週(合衆国独立記念日の週)の有給休暇は与えられない。

 明るい面?

 UAW本部役員は、2、3の領域で以下のような獲得物があったと主張する。
・基金が現在の給付レベルを少なくとも25年提供するには不十分であると予測される場合、GMがVEBAに1億6500万ドルの「歯止め資金」を最高20年支払う。
・賃上げの替わりに批准労働者は3000ドルの契約ボーナスと3パーセントないし4パーセントの一括払いのボーナスが与えられる。協約の最後の3年間には、3パーセントのボーナスが与えられる。反対派は、基本給が増大しないため、GMの平均的労働者の生涯労働期間の賃金の損失は何万ドルにもなると述べている
・GMの3000人以上の臨時雇いの労働者は、会社の正社員職を与えられて、伝統的な賃金体系の賃金を支払われる。
・早期退職提案と退職勧奨がもう一度起こり得る。これは、まだ依然としてGM労働者の多数を占める高給取りの上級職労働者をさらに減らすことになる。
・「雇用保障」と「アウトソーシングと工場閉鎖に関する一時停止」に力を注ぐ。15工場が将来生産割り当てと特定車両需要にともなう危険に直面する。「雇用保障」公約は同社がダウンサイズし続けていた20年間に為した約束と全く同一であると協約反対者は指摘する。
・4年の協約締結ごとの一括払いのボーナスを含む退職者給付はわずかな増加する。しかし健康保険自己負担金の増加はそれを相殺する。

翻訳資料

 翻訳資料-2

 点数でボーナスを決める――教組が合意

 ニューヨーク・タイムズ 07年10月18日エリッサ・グットマン

  丹沢 望訳 

 ニューヨーク市当局と教員組合は昨日、貧困な家庭の子ども達が集中している学校で、生徒たちが受けたテストの総合成績を主要な基準として教師にボーナスを支払う計画についての合意を発表した。
 この計画は、何カ月にもわたって交渉が行われてきた。またずっと以前から、マイケル・ブルームバーグ市長は成果をあげた教師への特別手当を提唱してきた。彼にとって、この計画は現状突破の大前進となるものだ。
 組合に配慮して、この総合成績に応じたボーナスの金は、まず各学校に配分され、その後個々の教師に配分されることになるだろう。この合意はまた、組合が長い間要求していたものを与える。すなわち、ニューヨーク市が、年配の教師に対して年金給付の全額を保障して現在より5年早く退職することを支援するということである。
 さらにニューヨーク市は、4万人の退職教師と現役教師に市が手当を出すという問題をめぐる長期の紛争を解決するために1億6000万jを支払うことに合意した。
 ブルームバーグ氏とジョエル・I・クライン教育長はランディ・ワインガーテンUFT(ニューヨーク市統一教員連盟)委員長との取り決めを市庁で発表した。ブルームバーグ氏は、「歴史的で類まれな合意」であり「この合意は、援助が必要な学校での成果に報いる方法を見いだすという点で、ニューヨークを全国の最先端に押し出した」と述べた。
 教師の年功や学位ではなく学級の成績によって教師に報酬を与える能力給政策は、歴史的に教員組合からの反対を受けつづけてきた。しかしこの政策は、他の奨励金給付計画と同様、この数年、全国で支持を広げてきた。そしてこうした動きは、全米最大のニューヨーク学区におけるこの合意によって大きな弾みを与えられると思われる。
 市民予算委員会〔予算合理化を要求する右派系組織。委員長は市の財政当局の元幹部〕の調査委員長であるチャールズ・ブレッカーは、「大きな突破口だと思う」「一線を越えて踏み出す第一歩であり、年功ではなく能力に報いようとわれわれが言ってきた原則に向かう動きである」と述べている。
 予想される州議会の年金合意受け入れを条件とするニューヨーク市のこの計画は、伝統的な能力給構想の新たな形態である。この大金は一人ひとりの教師に個別に分配されるものではなく、学校全体の生徒のテストの点数が高かった学校に配分される。それが各学校の2人の教師(校長および校長の指名する者)で構成される、「報酬委員会」に渡される。
 この委員会がこの金の配分方法を決めるのである。組合員の間で均等に金を分けるか、特定の教師を選ぶかを決めることができる。年功によって金を分配することはできない。
 今学年度は、ニューヨーク市の援助が必要とされている200校(貧困などの諸要因によって判定される)が、この2000万jのボーナスの対象となる。これらの学校への支払は、最初は民間資金から出されることになる。来年の計画では、これを400校に拡大し、市財政から金が支出されることになるようだ。
 この計画は、ブルームバーグ氏が長年追求してきた政策変更を実現させるものである。そしてさらに、AFT(アメリカ教員連盟)の次期委員長候補と目されているワインガーテン氏が、自分を改革派の組合指導者として打ち出すことができるようにするであろう。
 ブッシュ政権と下院の教育委員会議長であるカリフォルニア州選出民主党議員ジョージ・ミラーの両者とも、能力給構想を推進しようとしてきた。だが、2つの全国教員組合〔AFT(約140万人)とNEA(全米教育協会、32万人)〕の指導者たちは、「落ちこぼれゼロ法」を延長する立法に反対した。その理由は、奨励金を与える際に生徒のテストの成績を考慮に入れるという提案を含んでいたからである。
 実際この件はきわめて微妙な問題をはらんでいるので、昨日ワインガーテン氏は新合意が能力給であるとは思わないと主張するのに大いに苦労した。彼女は、「私はこの合意は、学校レベルでの協力を促進する構想だと考えている」と述べた。そして「私は個人的能力給を憎んでいる。この合意は、個人的能力給への道を閉ざすものである」とさえ述べているのである。
 また彼女は、この合意にはいくつもの「チェックアンドバランス」〔抑制均衡〕があるから、これまで彼女の反対していた計画とは違うのだという。ボーナスの対象となるそれぞれの学校の組合支部では、この計画に参加するか否かについて投票することになっている。学校は、個々の教師の成果ではなく、学校全体の成果で判定されることになる、といっている。
 学校が、主要にテストの成績を基準にした一定の成果目標を達成すると、教師一人当たり3000jを合計した額を学校が受け取ることになる。だが、成果目標は「主要に」ではなく、テストの成績のみを基準にする可能性が高い。
 報酬委員会がこの金の分配方法について一致できないと、学校はこの金を没収される。
 ニューヨーク市長は、この計画を喜んでいると語った。
 彼は「民間部門では、現金による奨励策は生産成果を動機付ける要因であることが実証されている」「もっとも成功した従業員は一生懸命働く。そして、他のだれもがいかにしたら自分たちも同様に能力を増大できるかを把握しようとしている」と述べている。
 このボーナスは財政的に困窮している学校の教師達にだけ給付されるので、ブルームバーグ氏は、このボーナスが最良の教師たちに援助が必要な学校で働くことを動機づける役割を果たすと期待していると述べている。
 ブルームバーグ氏とクライン氏は、「強力な組合のある市では成果ベースの給与はうまくいかないということがこれまでの常識だったが、ランディとUFTはこういう常識が間違っていたことを証明した」と述べて、ワインガーテン士がこの計画に賛成したことで彼女を賞賛した。
 教育省と組合の間の覚書によれば、この計画は、将来にむけた諸提案を行う「独立した団体」によって評価されることになる。
 昨日発表された年金計画に関する変更によれば、6カ月以内に年金拠出金を自分の給料の1・85%分多く支払うことに合意した教師は、25年間勤続していれば、55歳で引退でき年金の満額給付を受けられることになる。 
 現在では、ほとんどの教師は55歳で年金の満額給付を受けて退職するには30年間の勤務が必要とされている。
 この変更が実施されて以降に雇用された教師は、最初の10年間は自分の給料の4・85%を拠出しなければならず、それ以降は1・85%の拠出をすることになる。これらの教師は、27年間の勤続後、55歳で退職することができる。
 ブルームバーグ氏は、この変更は最初の5年間は市にとって「収支とんとん」だが、それ以降は、「数千万jの節約」になると述べている。市当局はその理由の一つに、高い給料をとっていた退職者が、より低い給料の若い教師に取って代わられることをあげている。
 ニューヨーク市が支払うことに合意した1億6000万jは、教職員組合の組合員の年金拠出分に関する利害について判断を誤っているかどうかをめぐる紛争を解決するものとなるであろう。