翻訳資料
中国の軍事力 2007年(下)
議会への年次報告 米国防長官室
丹沢 望訳
第4章 軍近代化の目標と諸傾向
「中国はその国防を近代化するにあたって3段階の開発戦略を推進している。……第1段階は、2010年までに強固な基礎を築くことである。第2段階は2020年頃までに大きな前進を実現することであり、第3段階は21世紀の中葉までに、情報化された軍の建設という戦略的目的を基本的に実現し、情報化された戦争に勝利することができるようにすることである」(中国の国防2006年)
第1節 概観
中国の指導者は、軍全体の専門化、訓練の改善、より堅固でリアルな共同演習、近代兵器の獲得の促進などの共同作戦を可能にする広範な軍事改革を推進するために、彼らの決意を語り、資材を配分してきた。現在、中国軍は、中国政府が台湾の独立を阻止し、台湾に中国の提示する条件で交渉を行うことを強制しようとした場合に、それを可能にする能力を獲得することに重点を置いている。同時に、中国はより広範な地域的・世界的目標を実現することのできる軍事力の基盤を築こうとしている。
諸情報機関は、中国が中規模の敵対国をうち破ることのできる近代的軍事力を建設するには2010年末頃までかかるだろうと予測している。そのような能力を建設するにあたって、中国の指導者は、探り出した潜在的な敵の弱点を「暗殺者の棍棒計画」と呼ばれるものを使って攻撃するなど、中国の優位を活用できる非対称的戦略を強調している。2007年1月のASAT(対衛星兵器)実験などもこのような脈絡でみることができる。
共同作戦を実現したいという人民解放軍の熱望は、1991年のペルシャ湾戦争以来の米とその同盟軍の作戦から学んだ教訓に由来するものである。2004年以降、人民解放軍は、軍の共同作戦のコンセプトを作るために計画され、軍の新たな能力や指揮自動化システムや諸兵器を実際に試すための多くの演習を行ってきた。人民解放軍は現在、指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、監視、偵察(頭文字をとってC4ISRと略される)、新たな指揮系統、共同兵站システムの統合されたネットワークを備えた実戦レベルの軍事能力を融合させようと望んでいる。だが、軍は軍内部の協力と、共同作戦の実際の経験の欠如という問題に直面し続けている。
人民解放軍の近代化が進むにつれ、ふたつの誤解が誤算と危機をもたらす可能性がある。第1に、他の諸国が中国軍の改革の到達範囲を過小評価するかもしれないということである。第2に、中国の指導者が新システムが完全に実戦配備状態にあり、その運営が熟達しており、適正に管理され、既存のあるいは他の新能力と正しく適合されていると思いこんで、自国軍の錬度を過大評価するかもしれないということである。
第2節 領土占領・接近阻止能力の形成
中国は当面、海峡間危機(中国と台湾間の危機)の際に、第三者が介入するのを阻止し、それに反撃するための諸措置を最優先している。このような課題に対処するための中国の取り組みは、米国防総省の2006年の「4年ごとの防衛力見直し」報告が破壊的な能力として言及したものに重点を置くものである。すなわち、敵が前方の作戦地域に軍事力を展開し、死活的な軍事バランスを急速に不安定化させるのを阻止することを目的とする軍事力と作戦構想である。この点に関しては人民解放軍は、空母や西太平洋に展開しうる遠征攻撃軍などの、遠距離から敵の軍事行動を制止する能力を作りだすための持続的努力を行っているようである。中国の領土占領・接近阻止の軍事力はますます蓄積され、海・空・宇宙を使った多数の攻撃システムを中国にもたらしている。
人民解放軍の戦略立案者は、近代戦争における精密攻撃の最重要性を見てとり、この形成されつつある精密攻撃システムの攻撃・防御の構成要素に投資を行っている。中国は、無人航空機、衛星コンステレーションから、確実な通信システムと結合されて長距離の精密攻撃のための攻撃対象データを供給することのできる「情報化された」特殊作戦軍に至るまで、改善された情報・監視・偵察能力の獲得を追求している。人民解放軍は、西太平洋の空軍基地や港湾、水上戦闘艦、地上および空中配備のC4SIR、対空防衛システム、指揮施設に脅威を与えるに十分な精密攻撃能力の獲得を想定している。
西太平洋海域への海軍力の展開を阻止するために、人民解放軍の立案者は、遠距離から水上戦闘艦を攻撃することに重点を置いている。現在および計画中の軍事力構成の改善に関する分析によれば、当面、中国は「第2の島嶼チェーン」(すなわち日本から南および東にある島嶼群と、西太平洋のグアムに至り、さらにそれを越えて広がるに島嶼群)に到達する重層的軍事力によって水上戦闘艦に脅威を与える能力を獲得することを追求している。明らかに投資が強化されている領域には、中距離弾道ミサイルや、標的の地理的位置を確定するためのC4ISR、公海上の水上戦闘艦や陸上支援施設攻撃の最終誘導をおこなうために搭載された誘導システムなどが含まれる。(中略)
中国の軍事アナリストは、近代戦争においては、確実に組織された輸送、通信、兵站ネットワークが決定的に要求されているのであるから、兵站と動員体制が弱点になりうると結論づけてもいる。戦域内の基地や兵站ポイントに脅威を与えるために、中国は戦域弾道ミサイルや陸上攻撃巡航ミサイル、特殊作戦部隊、コンピュータ・ネットワーク攻撃などを使用することができる。攻撃用航空機は、空中給油によって、様々な種類の最終誘導の弾頭を有する空中発射の巡航ミサイルを使って、遠方の標的を攻撃することができる。(中略)
キロ級や、宋級、商級、元級の潜水艦の獲得は、人民解放軍が水面下の戦闘に重点を置いていることを示している。SOVREMENNYYU級の誘導ミサイル駆逐艦の購入と、対艦巡航ミサイルを搭載したLUYANG(旅洋)T級とLUYANG(旅洋)U級の国産誘導ミサイル駆逐艦の建造と地対空ミサイルシステムの製造は、機動的な広域制空権と一体化した対海上戦能力の改善に依然として重点が置かれていることを示している。
人民解放軍の対空防衛は、重要な軍事的・産業的・政治的標的の重点的な防衛から、近代的で統合された対空防衛システムと攻撃的かつ防衛的な対空作戦に基づく新たな統合対空襲計画へと転換している。これらの作戦は、中国の空域の防衛を越えて、敵の基地(航空母艦を含む)や敵の航空作戦遂行能力を低下させるための兵站への攻撃にまで拡大されている。(中略)
第3節 戦略的能力
▼核抑止力
中国は質的量的に既存の戦略的兵力を強化している。これらの戦略的兵力は、現在、約20基のサイロに格納され、液体燃料を使用するCSS−4ICBM(それはアメリカ大陸の標的に脅威を与える第1の核戦力である)と約20基の液体燃料使用の限定的射程のCSS−3大陸間弾道弾、14〜18基の液体燃料使用で中距離射程のCSS−2大陸間弾道弾、現在50基で増大しつつある固形燃料使用の移動型CSS5中距離大陸間弾道弾(地域的抑止任務のためのもの)、XIA級の弾道ミサイル原潜に搭載されたJL−1潜水艦発射弾道ミサイルなどで構成される。
2010年までに中国の戦略核兵力は改良されたCSS−4、CSS−3、CSS−5、2006年に初期脅威可能性を獲得し、現在ではそうでないにせよ近い将来に実戦配備されるであろう固形燃料使用の移動型DF−31、2007年に初期脅威可能性を獲得するであろう潜水艦発射弾道ミサイルDF31A、2007年から2010年の間に初期脅威可能性を獲得するであろうJL−1、JL−2の組み合わせで構成されるであろう。DF−31型のミサイルとJL−2、JIN級の弾道ミサイル搭載原潜の増強は、中国により生き残り率の高い柔軟な核戦力を与えるであろう。核戦力として機能する新たな空中発射および地上発射の巡航ミサイルも同様に、中国の核戦力の生き残りの確率を高め、柔軟性を高めるであろう。
中国の2006年の防衛白書は以下の点について述べている。
(1)中国の核戦力の目的は、「他の国が中国に対して核兵器を使用したり、使用すると脅すことを抑止することである」(2)中国は「自衛のための反撃の原則を維持し、核兵器の開発を制限する」、そして(3)中国は「かつていかなる国とも核兵器競争を行ったこともないし、今後も行うことはないであろう」。白書は中国が「いかなる時でもいかなる状況下でも核兵器を先に使用しない」という確乎たる政策を取っていると繰り返し述べている。また、中国は「非核国家や核兵器のない地域に対して核兵器を使用したり、使用すると脅すことはしないと無条件に約束する」と述べている。軍事ドクトリンに関する資料は、中国の核戦力の今後の課題には、中国本土に対する通常戦力による攻撃を抑止することも含まれるとしている。それは中国の大国としての地位を強化し、他国が中国に強制しうる範囲を制限することによって中国の行動の自由を拡大する。したがって、中国の核の「最初の使用の否定」政策の表明はあいまいなものである。(中略)
第4節 宇宙と対宇宙戦(略)
第5節 情報戦争(略)
第6節 兵力投入 対台湾以外の事態を想定した近代化
2006年3月の全国人民代表会議でのスピーチで、人民解放軍の梁光烈総参謀長は、「われわれは、この新たな世紀の新段階におけるわが軍の歴史的任務を効果的に貫徹する闘いに参加しなければならない……。様々な軍事的敵対に対する準備を具体的にしておかなければならない。……広範な軍事的任務を達成しつつ、様々な安全保障上の脅威に対処する能力が強化されなければならない」と述べている。
このような指導にしたがって、中国は広域への兵力投入能力を改善する軍事計画に力を注いでいる。中国の現在の軍事動向は、東アジアの軍事バランスを変える主要な要因であり、それは台湾だけでなくアジアにおける一連の軍事作戦を実施する能力を中国にもたらしている。他の国からの直接的脅威が明らかにないため、中国の現在および将来の軍事力が対処すべき目的は、まだはっきりしていない。だが、こうした能力が、外交的優位にたち、利害を貫き、紛争を解決するための軍事的強制に関する中国政府の選択肢を増やすであろうことは確実である。
当面する中国の軍近代化の主要な目的でもあり、それを駆り立てるものは、台湾海峡で起こりうる紛争に備えることである。だが、公的文書や中国軍の戦略家の文書でも、中国政府は台湾問題に留まらず、それを越えた戦略的情勢についてますます研究を深めていることが示唆されている。何人かの中国の戦略家は、中国の防衛範囲を拡大し、この地域の海上交通路に与える影響力を強化するにあたって、台湾の地政学的価値について検討してきた。たとえば、人民解放軍の軍事科学アカデミーの教科書である「軍事戦略に関する科学」(2000年)は、以下のように論じている。
「もし台湾が中国大陸から切り離されれば、外国軍に対して海上の門を開くことになり、わが国の自然的な海上防衛体制は深度を失うだけでなく、海上領土の広範な地域と海の豊富な資源は他の国の手にわたるであろう。…中国の開放と経済発展にとって死活的であるわが国の外国貿易路と交通路は、分離主義者や敵対する軍隊の監視と脅威にさらされるであろう。そして、中国は西太平洋における最初の島嶼群の西に封じ込められるであろう。」
中国の2006年の防衛白書は、「エネルギー、資源、金融、情報、国際的海運路に関する安全状態は悪化する」と述べて、資源と運輸網に関する同様の懸念をあげている。中央アジアにおけるエネルギー投資を防衛しようとする欲求もまた、この地域における不安定さが表面化した場合に、軍事支出と軍事介入を促進する刺激要因となるかもしれない。海上領土をめぐる日本との間の不一致や、南中国海の南沙諸島の一部または全ての領土領有権を主張する東南アジアのいくつかの国との間に残る不一致は、この地域の緊張を再度高めるかもしれない。朝鮮半島における不安定は、同様に地域的危機を生み出すかもしれないし、その際に中国政府は外交的対応を選ぶか、軍事的対応を選ぶかの選択に直面するであろう。
中国の武器購入の分析は、中国が軍を建設するに当たって、対台湾以外の事態を想定していることを示唆している。例えば、中国の様々な場所で通常型の戦域ミサイルを装備した新たなミサイル部隊は、対台湾以外の各種の有事に投入されるであろう。早期警戒管制機計画と空中給油計画は、南中国海への航空作戦の拡大を可能にするであろう。最新鋭の駆逐艦と潜水艦は、中国の海上権益を防衛し拡大したいという中国の欲求を反映している。遠征軍(3個空挺師団、2個の水陸両用歩兵師団、2個の潜水艦群、7つの特別作戦部隊、第2砲兵師団内の1個連隊規模の偵察部隊)は、新たな装備や改善された部隊レベルの戦術、共同行動の調整の改善などによって強化されている。長期的には、宇宙にある水平線越えのレーダーを含む中国のC4ISRの改善によって、西太平洋の遠方まで軍事行動を識別、追跡、標的化することが可能になるであろう。
最後に、人民解放軍の訓練活動を分析すると、人民解放軍が台湾以外の有事も検討している徴候があることがわかる。例えば、2006年7月から8月にかけての「北方の剣07」という、初めて完全装備の人民解放軍の2つの師団、空軍、第2砲兵大隊、人民武装警察に支援された完全装備の人民解放軍の2つの師団が参加するる初めての模擬対抗演習である。この演習は、長距離機動、情報収集、機動反撃に重点を置いた演習であった。
2006年には中国は、国際テロリズム、宗教的過激主義、民族分離主義の「3つの邪悪な敵」との戦いを目的として掲げた上海協力機構との一連の演習を行った。(中略)
第5章 軍近代化の資源
第1節 概観
国内の防衛支出、自国の防衛産業の発展、外国の技術の獲得などの人民解放軍の近代化のための資源のすべては、経済の状態によって規定される。中国の経済成長によって、中国政府は、この15年以上の間、防衛部門に資源をますます多く投入することができた。
国内の防衛産業が成熟するに伴って、中国は当面する軍事力の格差を埋めるために、外国の武器と技術を主要にはロシアから購入している。しかし、長期的には中国政府は、完全に国産できる防衛産業部門をもつことを目指している。中国の防衛産業は民間部門における外国からの直接投資と合弁事業、外国から帰国した学生の技術に関する知識や専門知識、そして国家が支援する産業スパイ活動の恩恵を受けてきた。EUの武器禁輸は、EU諸国と人民解放軍との武器取引に対する象徴的で道徳的抑制的なものに留まっただけでなく、禁輸の解除は、現在の武器システムを改善し、将来の武器システムを生み出す土着的能力を発展させるための軍事的および軍民共用の技術への中国の接近の道を開くであろう。
第2節 軍事支出の傾向
2007年3月4日、中国政府は軍事予算を17・8%増大し、2007年の公的な防衛予算額を約450億jとすることを発表した。軍事予算の増大は、経済全体の成長を明らかに上回る年間予算の増大という傾向を継続させるものである。
1996年から2006年までの期間の中国の政府予算データと国際通貨基金のGDPデータを分析すると、中国のGDPの成長率が年平均9・2%(インフレ率調整後)であるのに対し、軍事予算は年平均で11・8%増大していることがわかる。注目すべきことに、中国の2006年の防衛白書も、1990年から2005年の間に、中国のGDPがIMFによれば固定価格による比較で年平均9・7%増大しているのに対して、防衛予算は平均9・6%増大していると述べて、同様の分析を行っていることである。1996年から2006年のデータはより利用価値のあるものである。それは1995年から96年にかけての台湾海峡危機と第9次(1996〜2000)および第10次5カ年計画(2001〜2005)の期間を含んでおり、この期間にはペルシャ湾岸戦争が中国の人民解放軍の近代化への動きを再活性化させたことが完全に反映されているからである。
中国の防衛予算の相当の増大は別にして、中国の公表された防衛予算の中には、戦略軍、外国からの購入、軍事関連の研究や開発計画、民兵などへの支出を含む様々な範疇の支出が含まれていない。防衛情報機関(DIA)は、2007年の中国の総軍事関連支出は850億jから1250億j程度になるだろうと見ている。
中国の軍事支出を正確に評価することは、会計上の透明性が欠如し、軍事支出とその財源について報告する際の国際的基準を中国が満たしていないことから非常に難しい。この結果、中国の軍事支出額の外部からの評価は大きな幅がある。(中略)
アメリカとその他の諸国は、長年にわたって中国に対して、防衛支出の透明性を高めるように要求してきた。(中略)
第3節 中国の先進的防衛産業
軍事調達を合理化し、国営の防衛産業関連企業の技術革新を強化するための改革に基礎をおいて、1990年代中頃に防衛産業の近代化が加速された。これらの改革によって、ミサイルや戦闘機、戦艦などの高度な兵器体系の開発と生産が可能となり、西欧の武器体系に匹敵する性能パラメーターに接近した。
▼ミサイルと宇宙産業
中国は様々な射程の弾道ミサイル、巡航ミサイル、地対空ミサイルを開発し生産している。改善された生産能力は、現在のミサイルの生産を強化し、より長射程で正確な打撃を与える能力をもつ新型の巡航ミサイルや弾道ミサイルの開発を支援することによって、中国が軍近代化の目標を効果的に目指すことを可能にするであろう。中国の宇宙ロケット産業は、衛星打ち上げ能力と有人宇宙飛行計画に対する国家的重点政策を支えるために強化・拡大されている。中国は2010年までに100基以上の衛星を地球の周回軌道に乗せることを望んでおり、2020年までにはさらに100基の衛星を追加しようとしている。
▼造船部門
この5年間に、中国の造船施設は商業コンテナ船部門を中心に強化され、中国の総体的な造船能力を増大させた。二重の目的(軍事用・民生用)を持つ造船所は、主要な戦闘艦、輸送艦艇、スーパータンカーなどの建設を支えている。中国は一連の近代的なディーゼルと電気で動く潜水艦の製造能力を持ち、原子力潜水艦製造に関しても前進している。中国は推進装置の外国からの供与に依拠し続けており、またそれほど全面的にではないが武器体系や、レーダーなどの先進的電子技術や素材に依拠する船舶搭載の諸テクノロジーに関しても外国に依存している。
▼航空機の生産
中国の商業用と軍事用の航空機産業は、ソビエト製の初期モデルを直接的にコピーして生産する方式から、国産の航空機を開発し、生産する方向に向かって前進している。中国は旧型の航空機の改良型を生産し、同時に近代的な第4世代の戦闘機を生産し、さらに第5世代の戦闘機を開発している。中国はまだエンジンや航空電子工学などの分野では、ロシアや他の国の支援を求めて続けている。中国の商業用航空機産業は、高度に正確で技術的に進んだ工作機械や電子製品や部品などを輸入してきた。この民生用にも軍事用にも利用できる技術は、軍用航空機の生産にも使用できる。
中国は外国の支援への依存を減らし、ビジネス慣行を改善し、官僚機構を能率化し、開発にかかる時間を短縮し、品質管理を高め、軍の注文に対応する生産能力を増大させている。このような活動の一つとして、中国の第11次五カ年計画は防衛関連の科学的、技術的、産業的基盤の強化を目指している。(中略)
第4節 外国製武器と技術の獲得
2005年、中国は外国の武器供給諸国との間で28億jの武器取引に合意した。これによって中国は発展途上国のうちで第3位の武器輸入国となった。ロシアは、中国の第1の武器および材料の供給国であり、中国に先進的な戦闘機やミサイルシステム、潜水艦、駆逐艦を売却している。中国は現在、地対空ミサイル、戦闘機、航空機のエンジン、攻撃用および輸送用ヘリコプターを追加的に購入する交渉を行っている。中国はいくつかの生産計画のためにロシアの部品に依存しており、ロシアの設計図に基づいて兵器を生産する権利を購入している。ロシアは、多くの武器と宇宙システムに関する技術、設計、部品のサポートの面で中国に協力している。例えば中国の有人の宇宙船モジュール(宇宙船から離れて作業などをする小宇宙船)の「神舟」は、ロシアのソユーズカプセルを基盤にしている。
イスラエルも歴史的に先進的兵器テクノロジーの中国への供給国であった。イスラエルはHARPY無人戦闘攻撃機を2001年に中国に引き渡し、2003〜2004年にHARPYの部品のメンテナンスを行った。2005年にはイスラエルは、軍事輸出の管理を強化し、軍民共用可能な製品の輸出管理を開始し、輸出関連の決定の際の外務省の役割を強化することによって中国への輸出の政府による管理を改善した。2007年1月には、イスラエルはワッセナー協定に基づいて、新たな軍民共用製品の輸出管理に関する法律を施行した。(中略)
第6章 軍近代化と台湾海峡の安全保障
第1節 概観
台湾海峡における安全保障状況は、大部分が中国本土と台湾そしてアメリカの政策と行動の間のダイナミックな相互作用に関連するものである。世界的な経済大国として、また力を増した外交勢力として、さらに強化された空軍、海軍、ミサイル軍を持つ国としてのの中国の登場は、中国本土の経済力を台湾以上に増大させ、海峡をはさむ軍事バランスを中国本土に有利に動かすことによって、台湾政府に比べた中国政府の立場を強化した。
他方、台湾は、、過去10年間に比べて実質的に防衛支出を削減させてしまい、台湾政府が台湾の自衛能力を維持するのに必要な投資を行う緊急の必要を生じさせた。アメリカ政府は、台湾海峡の両国が、現状を一方的に変更することに反対であり、台湾の独立を支持せず、台湾海峡の両側の人民が受け入れられるような形で海峡を挟む両者間の相違を平和的に解決することを支持するという立場を明確にした。
台湾関係法[公法96条8項(1979年)]にしたがって、アメリカは、この地域における平和、安全、安定を維持するのを支援するための諸措置を取ってきた。
十分な防衛能力を維持できるように防衛資材とサービスを台湾が獲得できるようにしたことに加え、アメリカ国防総省は米軍の再編と世界的な軍事体制の再整備を通じて、武力に訴え、台湾の将来の地位のありかたを決定づけるような強制を行おうとする中国政府のいかなる試みにも反撃しうる能力を維持している。
台湾の側では、共同作戦能力を強化するための重要な措置を取り、士官および下士官部隊を強化し、備蓄品を蓄積し、危機対処能力を改善した。台湾は2006年9月に配備予定の4隻のKIDD級の誘導ミサイル駆逐艦のうち最後の2隻の供給を受けることによって、その防衛能力を強化した。このような改善は、中国の継続されている軍強化に直面する台湾の本来的な防衛上の優位を総体として再強化した。
だが台湾はいまだ、2001年にアメリカから売却を提示された重要な最終品目、すなわちパトリオットPAC−3対空防衛システムとP−3Cオライオン対潜哨戒機、ディーゼル・電動潜水艦を獲得していない。このような諸武器体系は、台湾が対空・ミサイル防衛と対潜水艦戦の能力の面で必要としている強化を実現することを可能とするであろう。これらの武器体系の供給が提示されて以降の6年間に、中国はこれらの武器体系が防衛しようとしている能力分野で顕著な−ある分野では予想外の−前進をし続けている。
第2節 台湾海峡における中国の戦略
状況が統一という目的に向かって進んでおり、紛争のコストがそこから得られる利益を上回ると中国政府が信じている限り、彼らは統一を延期しようとするように思われる。中国が当面目指していることは、中国本土との統一と引き換えに、ある程度の自治を台湾に与える「一国二制度」の枠組みの下での平和的解決のための条件を一方で提示しつつ、台湾が正当な独立に向かって動くことを阻止することである。中国政府は、政治的、経済的、文化的、法律的、外交的、軍事的手段などを総合した高圧的な戦略(それには説得という要素も含まれるが)を使って、この目的を追求している。
中国は平和的解決が好ましいと表向きには述べているが、人民解放軍による短距離射程弾道ミサイルや、強化された上陸作戦能力、台湾に対抗する近代的で長距離射程の対空システムなどの配備継続は、中国が軍事力の使用の放棄を拒否していることを想起させる。
台湾に対する持続的な脅威は、説得と強制の全体的計画の重要な背景となっている。演習、部隊の展開、メディア政策などの全てが脅迫のために使われている。例えば、2006年の全国人民代表会議の本会議で軍の代議員たちを前にした演説で、郭伯雄将軍は、台湾海峡情勢は「依然として不気味で錯綜としている」と述べ、「人民解放軍の全将校と兵士は、切迫した危険があるという感覚や、任務と責任の意識を強め、戦闘に向けた軍事的準備を行うのを怠ってはならない。そして断固として国の主権と領土的一体性を守らなければならない!」と宣言した。
中国本土が一貫して警告してきた台湾に対する軍事力行使の状況とはどのようなものかは明確に規定されていないし、それは台湾の政治的地位に関する様々な宣言や行動に対応する形で頻繁に変化してきた。またそれは、人民解放軍の軍事能力や他の諸国の台湾との関係についての中国政府の態度を変化させている。
ここで言われている軍事力行使の状況あるいは「レッドライン」には以下のようなものが含まれる。すなわち、台湾独立の公式の宣言が出された場合、「独立に向けての」漠然とした動きがあった場合、台湾の内政への外国の干渉があった場合、統一に関する海峡間の対話再開が無期限に遅延した場合、台湾が核兵器を入手した場合、台湾で国内騒乱がおきた場合である。2005年3月の「反分離法」第8条は、「分離主義勢力が……台湾の中国からの分離という事態を引き起こした場合」、あるいは「台湾の分離を引き起こすような重大な事件が起きた場合」、また「平和的統一の可能性」が消滅した場合、中国は「非平和的な手段」に訴えるであろうと規定している。(中略)
第3節 台湾に対する中国の行動針路
人民解放軍の様々な行動針路を取ることのできる能力は改善されている。人民解放軍の有事計画を直接に見ることはできないため、分析専門家のある者は、中国政府は、命令に従って台湾を威嚇するように軍事力を直ちに発動する準備を行う命令を出すだろうと想定している。中国の行動針路は、アメリカや他の諸国が対応する機会を得る前に、軍事的政治的圧力を加えるように設定されていると評価する分析専門家もいる。迅速な解決ができない場合は、中国政府はアメリカの介入を阻止することを追求するか、それに失敗した場合には、そのような介入を遅延させ、非対称的で限定的な即決的戦争によってアメリカの介入をうち破るか、戦争を膠着状態に持ち込み、長期化させることを追求するであろう。このような行動針路の概観は以下のようなものである。
▼戦力の限定的投入
限定的な軍事作戦には、台湾国民の自国指導部への信頼を失わせるための政治的・軍事的・経済的インフラストラクチャーのコンピュータ・ネットワークへの攻撃も含まれる。台湾に潜入した人民解放軍の特殊作戦部隊は、経済的・政治的・軍事的破壊工作を行うこともできる。中国は、台湾の指導部を和解に向けて追い込むために、台湾の空港、レーダー、通信施設に対し、短距離弾道ミサイルや特殊作戦部隊や空爆を「非戦争的」に使用するかもしれない。台湾に対する相当規模の速動的攻撃は戦争の敷居を越えないものとして行われるという確信は、中国が破局的な誤算をし、予期しない大規模軍事紛争に至る危険があることを過小評価するものである。
▼航空・ミサイル作戦
空軍基地、レーダー基地、ミサイル、宇宙関連施設、通信施設などを含む台湾の防空システムに対する短距離弾道ミサイルによる奇襲攻撃や精密空爆は、台湾の防衛体制を破壊し、その軍事的・政治的指導体制を無力化し、国際社会の効果的な対応を行わせないように戦闘意思を迅速に解体する作戦を支えることができるだろう。
▼封鎖
戦闘に入る以前の段階や積極的戦闘に移行する時期に、中国は「非戦争的」圧力をかける戦術として海上封鎖で威嚇したり、それを実施したりすることができる。中国は、台湾の港湾に向かう途上の船舶は、台湾に寄港する前に検査をうけるために中国本土の港湾に寄港しなければならないと命令することもできる。1995〜96年のミサイル発射や実弾演習の際に起きたように、中国は商業交通を迂回させるために港湾への接近路や停泊港のある地域での演習を宣言したり、ミサイル封鎖地域の設置を宣言することなどによって、封鎖と同様の行動をとることもできる。中国の軍事ドクトリンには、港への避難や接近を阻止する空域封鎖やミサイル攻撃、機雷敷設などの活動も含まれる。従来型の封鎖は台湾により大きな影響を与えるであろうが、人民解放軍の海軍力に大きな負担をかけるだろう。台湾に行き来する海上交通を阻害しようとするいかなる試みも、それに反対する国際的圧力を生み出す引き金になり、軍事的エスカレーションの危険をもたらしかねないであろう。そのような封鎖措置は直ちに経済的な影響をもたらすだろうが、決定的な政治的成果を実現するには時間がかかるであろう。それは決定的な効果が得られず、国際的反応を引き出すものであろう。
▼上陸侵攻
公的に入手しうる中国の文献では、台湾への上陸侵攻に関しては異なった戦略が記載されている。そのうち最も良く知られているものは「共同島部上陸作戦」である。この共同島部上陸作戦は、沿岸防衛体制を突破ないし出し抜き、海岸の上陸拠点を構築し、台湾全体や重要攻撃対象を分断し、占拠し、占領するために、兵站、電子戦争、航空・海上支援などの面での支援作戦に依拠する複合作戦を想定している。
上陸作戦は、兵站に重点を置くものであり、その成功は作戦間際における航空と海上における優位、水際における補給物資の集積、上陸後の不断の支援の流入に依存する。共同島部上陸作戦で概説されている規模をもつ上陸作戦は、中国軍の能力にとって大きな負担となるだろうし、ほとんど確実に国際的介入を招くであろう。このような制約に加えて、中国軍の戦闘人員の削減や、都市での戦闘や対ゲリラ作戦などの複合的任務などの問題がある。また(台湾への上陸・包囲突破作戦が成功したと仮定して)台湾への上陸侵攻作戦は、中国の指導部にとって大きな政治的・軍事的リスクとなるであろう。
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