COMMUNE 2007/5/01(No.371 p48)

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5月号 (2007年5月1日発行)No.371号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  米帝の中南米支配の崩壊

□メキシコの革命的情勢と自由貿易協定の破産
□AFL-CIO分裂と中南米階級支配の危機

●翻訳資料 アーミテージ報告改訂版(上) 2020年までアジアをいかに正しい方向に導くのか

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/99年目の“3・8世界女性の日”−−室田順子

    3・18国際連帯デモ

三里塚ドキュメント(2月) 政治・軍事月報(2月)

労働月報(2月)  闘争日誌(1月)

コミューン表紙

 世界同時株価暴落

▼世界同時株式暴落は、2月27日、中国・上海株式市場における株式の暴落から始まり、香港、EUの急落を経て、ニューヨーク株式市場でのダウ大暴落、そして東京株式市場の大暴落へ発展した。アジア諸国、中南米諸国でも暴落した。ニューヨークダウは、1万2632・26jから1万2050・41jまで急落、下落幅は581・85jに達した。東京市場も2月26日の1万8215円35銭から3月5日には1万6642円25銭と暴落した。下落幅は1573円10銭だった。今回の株価暴落が突き出したことは、世界経済が想像を超えるほどにバブル化しているということだ。今回の株価暴落で、このような世界経済のバブル化構造がいまや完全に行き詰まり、破綻する過程に突入したということができる。

▼今回の世界株暴落の特徴の第1は、中国株式市場の大暴落から始まったということ。今日の帝国主義経済が、残存スターリン主義としての中国経済に深々と依存してしまっていることを突き出した。これ自体、帝国主義としての最末期的状態を示すものだ。そして中国株式市場の崩壊も、中国のスターリン主義的官僚的統制下にあるために資本主義的メカニズムが十分に機能していない点がある。政治的な元安政策の下で輸出ラッシュをかけ、その結果膨大な外資を積み上げ、そのもとで資金がだぶついて株式市場に激しい投機的性格を与えてきた。個人の資産家が膨大に生まれ株式購入に走り株価をつりあげた。株価暴落のきっかけは政府から流された3月5日からの全国人民代表大会における「株式譲渡益課税」の具体化があるのではないかとの情報もある。スターリン主義の下にある中国経済の資本主義化が実にもろく、しかも破綻すれば世界経済をたちまちのうちに世界大恐慌におとしていれる存在になっていることをはしなくも示したのだ。

▼第2は、今回の世界的暴落の最大の主役は実は日帝であったことだ。日帝・日銀の下での超低金利政策の歯止めない進行が、円キャリー・トレード方式をとおして巨大な投機資金を米帝を含め全世界中にばらまいている。この方式は、米金利高の下で投機資金を米帝に吸引し、ドル暴落を抑制し、ドル価格を維持するものになってきた。しかし今回の株暴落は、この方式がEUや東欧、ロシアなど全世界においても住宅バブルなどをつくりだしていることが暴露された。株式市場の暴落によってヘッジファンドが円キャリー・トレードから引き揚げざるをえなくなり、ますます株価暴落に歯止めはかからなくなる、そうした流れが続いている。

▼最後に確認すべきことは、基軸帝国主義としての米帝の危機の深さを暴き出したことである。米帝経済における住宅バブルの崩壊の圧力が突き出された。円キャリー・トレードからの膨大な投機資金の皮がはがれたとき、米帝経済はどうなるか、米帝は自信を失い不安に陥っている。これが株価低迷の原因だ。さらにニューヨーク市場の暴落がドル安円高に作用したこと。これはこれまでのドル防衛のシステムの崩壊を意味している。米帝を基軸とする帝国主義世界体制は、最末期の危機を深め、米帝の一挙的没落、帝国主義間争闘戦の死闘化、帝国主義侵略戦争への転化、国内階級闘争の激化、革命情勢へ突入していく。この事態を解決することが出来るのは帝国主義打倒・労働者階級の世界革命であることが完全に明らかになった。   (U)

 

 

翻訳資料

 アーミテージ報告改訂版(上)  2020年までアジアをいかに正しい方向に導くのか

 リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイ 2007年2月

 丹沢 望訳

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 目次

・序文 2020年までのアジア
・中国
・インド
・朝鮮半島
・南朝鮮との食い違いの処理(以上、今月号掲載)
・南西アジア
・オーストラリア
・ロシア
・台湾
・地域統合
・アメリカ合州国と日本 実例によって領導する
・アメリカ合州国と日本 同盟関係を正しく整序する
・経済
・安全保障
・アメリカ合州国に何が求められているか
・提言 2020年の課題
・日本への提言
・米日同盟に関する提言
・地域政策に関する提言
・世界政策に関する提言
・結論(以上、次号掲載)
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 今回訳出した「アーミテージ報告 改訂版」は、2020年までの米帝のアジア戦略の概要を打ち出した戦略文書だ。2000年秋の最初の「アーミテージ報告」がブッシュの世界戦略と対日政策を根本で規定し、日帝の日米同盟強化政策やアジア戦略、イラク侵略戦争政策を大きく規定したように、この改訂版も2020年までの、米日帝のアジア戦略の基本的枠を決める重要な戦略文書だ。
 改訂版アーミテージ報告は、米帝のイラク侵略戦争が泥沼化し、昨年の米中間選挙で共和党が大敗北するというブッシュ政権の危機の激化の中で、世界再編のカギをなすアジア問題についての戦略的練り直しを図ったものである。
 その中心テーマは、対中関係と対日関係にすえられている。中国侵略戦争とアジア支配の強化に向け日帝に「力の分担」を強く求め、日米同盟を攻撃的に再編することが目的である。
 それは、日米同盟をいっそう強化し、インドとの三国協力を進めて、対中戦略を強化し、将来の中国侵略戦争に備えようというものである。
 こうした観点から、この報告は、日帝の改憲攻撃や自衛隊海外派兵に関する恒久法制定論議を支持し、その上で日本の防衛費増大、武器輸出3原則の全面解除、ミサイル防衛能力装備の次期米艦船システム共同開発などを要請している。
 これらは、米帝が帝国主義間争闘戦を含めた戦争過程へとすでに突入している中で、日帝に対してあらゆる歴史的制約を取り払って、日帝を世界戦争過程に動員することを目的としたものだ。
 今回訳出した部分では、中国、インドの台頭と「ナショナリズム」の蔓延が、資源獲得競争や両国の軍事力強化を招き、アジアが不安定化する徴候を示し始めているという認識のもとで、日米関係を強化し、中国を米帝のアジア戦略の枠組みの中に抑え込む方向性が打ち出されている。それは将来、この抑え込みがうまくいかなくなった場合には中国に対する侵略戦争も選択肢に入れておこうという内容を持つものでもある。
 中国の台頭とアジア地域支配の可能性を強調することで、日米共同の対中戦争体制を築こうという観点が露骨に現れている。

   他方、中国の成長を上回る勢いのインドの大国としての勃興を重視し、「東アジアの戦略的均衡を作り出す要因」であるインドと米日との戦略的関係の強化を追求する方向を打ち出している。
 これは将来的にはインドとの軍事的関係を強化して、中国に対する包囲網を形成する方向性を打ち出すものでもある。
 朝鮮半島問題に関しては、「外交や戦争抑止の面で未曾有の機敏さを要求するこのようなシナリオの全てに備えておかねばならない」と主張しているように、北朝鮮の核保有を口実とした戦争体制の形成を含めた軍事体制の強化を要求している。
 6者協議の位置づけも「北朝鮮の核兵器開発を封じ込めるか、あるいは少なくとも凍結させるものとして役立つならば、価値を有する」として、あくまで北朝鮮を追いつめ、戦争を挑発するためのものとして位置づけている。

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 ●  序文 2020年までのアジア

 世界的な不安定と過渡の時代において、アメリカの国益を維持するためには、新たな世界秩序を最良の形で作り出すチャンスをつかみ、将来の課題を把握するために、はるか地平線のかなたを見通し得る洞察力が必要だ。世界の半分の人口を持ち、世界経済の3分の1を占め、世界体制において経済的・金融的・技術的・政治的比重を増大させているアジアは、アメリカの国益を最も良い形で増進する、安定し繁栄した世界秩序を形成するためのカギをなす。この報告の目的は、「自由を志向する力の均衡」を実現する最良の展望を与えるビジョンを概略的に明らかにすることである。
 こうした観点からアジアに正しく接近することは、アメリカ的価値観をこの地域に強制することを意味しない。むしろアメリカの政治的経済的目的と明らかに調和するかたちでこの地域の指導者が自国の成功をめざせるような環境の形成を促進するものである。それは市場原理や、自由で開放的な貿易、知的財産権の保護、労働者の権利の保護、環境の保護などに基づいた経済的繁栄を意味する。それは現在この地域が享受している経済的成功を強化するための自由な諸機構や大きな政治的自由の強化を意味する。それは、軍事面における透明性や、人道的援助や復興活動などの領域における共通の利益に対して国家資産をさらに多く投入することを意味する。
 それは、アジアが鳥インフルエンザやテロなどの国際的脅威に対して対処するために主要な大国が協力する地域になることを意味する。それはアジアが、ビルマのような紛争諸国家から波及する国内外にわたる問題に対して、時代遅れの「内政不干渉」という考えに基づいて目をつむるのではなく、それに対処することを諸国の指導者が選択する地域になることを意味する。それはナショナリズムや愛国主義が、より大きな共通の利益のために地域の諸問題を解決する努力へと転換される地域へとアジアがなることを意味する。
 それは、アジアが天然資源をめぐる重商主義的な競争や地政学的な対立ではなく、それを抽出し分け合う共同の活動を行う地域となることを意味する。
 このようなビジョンを実現するにあたって核心的なことは、アメリカ、日本、中国、ロシア、インド、ヨーロッパなどの大国間の協力関係を作り出すことであろう。これは、9・11以降の世界におけるさまざまな挑戦に対処し、平和で繁栄した未来を形成するために決定的に重要な意味をもつものとなるであろう。イスラム過激派(それは死をもたらし、破壊的なものであるが)に反撃することは緊急の課題である。だが、主要な大国間の協力を実現するという長期的な観点からみた緊急の課題は、持続的で効果的なアメリカの外交政策展開の原則を確立することでなければならないということである。2020年の新たなアジアとの強固でダイナミックな関係がアメリカの将来にとって必要である。そしてアジアにおけるアメリカのポジションを維持するための要石は依然として米日同盟でありつづける。
 冷戦後の二国間関係への移行の動きを憂慮して、リチャード・アーミテージとジョセフ・ナイが主宰する超党派グループは、2000年10月に「アメリカと日本 成熟したパートナーシップへの前進」と題する報告を提出した。この報告は、クリントン政権時代に始まり今日まで十年間にわたって継続されているアメリカの日本に対する外交政策を性格づける超党派精神に基づいて研究され、提出された。この報告は、政治、安全保障、沖縄問題、情報、経済などの分野における協力を強化するための詳細な措置について提起した。それはブッシュ政権の対日政策の青写真となった。
 この報告が出されてから11カ月後にアメリカがアルカイダによって攻撃されると、ジョージ・W・ブッシュ大統領と小泉純一郎首相は、前例のない個人的・戦略的協力関係を作りあげた。それは「不朽の自由作戦」(アフガニスタン侵略戦争)や、イラクの解放と復興、北朝鮮の核をめぐる突発事態への対応、台湾と中国との新たな緊張関係の現出、2004年12月の津波への大規模な対処行動などのるつぼの中で試された。同様に重要なのは、新たに強化された戦略的関係が、太平洋の両側で超党派的な支持を得たことだ。
 この数年間の試験に合格して以降、この同盟はより強力なものになった。だが新たな世界的、地域的な課題は次々と生じている。世界的にみると、重大な課題にはテロリズム問題や、多くのムスリム圏諸国で大量破壊兵器の拡散問題や、環境を保護しながらエネルギー需要の増大に応えるなどの現代的な課題に対処できていないという問題がある。今日、アジアでは中国とインドという二つの大国の前代未聞の同時的勃興と日本の再覚醒、(台湾と朝鮮半島における)「伝統的問題」、競合するナショナリズムなどという特徴が見られる。このような諸課題があるので、アメリカの国益と調和する地域政策を立案するためには、アメリカの政策立案者の留意と注意の集中が必要だ。だが米日同盟の基盤は、今後10年間に現出するさまざまな重要な課題に対処できるほど強力であろうか?
 三世代にわたってアメリカの二国間同盟網は東アジアの事実上の安全保障構造を形成し、日本とアメリカ、そしてこの地域全域に利益を与えてきた。次の世代に同様の成功を保障するために、この報告は2020年までのアジアの展望を検討し、アジアの将来に肯定的な影響を与えるためにアメリカと日本が協働しうる措置について検討する。

 第1節 ● 中国

 根本的な変革が中国で進行しており、中国がこの地域の支配的な大国として登場する可能性を示している。混乱が生ずる可能性を考慮に入れても、中国はこの地域の成長と世界的なダイナミズムのエンジンであり続けるだろう。中国の成長し続ける総合的な国力は、すでにその国境の周辺に戦略的な環境を形成することをめざす自己主張の強い外交によく反映されている。アメリカ、日本そして全てのアジア諸国にとっての一つの重要な問題は、中国が経済的軍事的大国として成熟するにつれて、新たに形成された能力と資源をいかに利用するかという問題である。
 2000年10月のわれわれの報告が出されて以降、太平洋地域における最も大きなできごとは中国の爆発的な経済成長であろう。中国のGDPに占める貿易の割合は、過去10年間で約2倍化した。これによって中国は、外国市場により依存するようになった。とりわけアメリカとアジアの市場に依存し、原材料面ではオーストラリア、北アメリカに依存し、中東への依存度もますます大きくなっている。中国の経済的成功はすべての国に対して機会を提供しているが、アジアの近隣諸国(特にアセアン諸国)に投下されたはずの資本や、増加されたはずの雇用がこれらの諸国から引き上げられるなど、中国の進出にともなう犠牲も生じている。
 中国は成長するであろうが、その成長は必ずしも混乱なしの直線的「上昇」ではない。中国は巨大な国内的課題を抱えている。それは老齢化する社会、貧弱な社会的セーフティーネット、開発面での大きなそしてさらに拡大する不均衡、体制の腐敗などであるが、それらは全て社会不安を引き起こしている。中国の指導者たちは、ますます増大する労働争議や、脆弱な銀行・金融制度、長期化する民族紛争、西欧の人間にとっては想像もできないほどの環境問題、流行病に対する脆弱性などの諸問題に直面している。総じてこれらの課題は、中国の指導者を国内問題に集中させ、その結果彼らは対外的には安定に重点を置くようになる。中国は安定した平和な国際環境を追求し、そうした環境の中で総合的な国力を増大させようとしている。中国は国内の資源(とりわけ石油と天然ガス)の開発や外国からの投資に混乱が起こるのを回避する必要があり、経済成長と公益という目的から外れるものに資源を転用する余裕がない。
 とはいえ、中国ではこの地域の他の国と比べナショナリズムが強まっている。中国の指導者の間では、ナショナリズムは共産党への支持を集める有益な手段と見られているようである。とりわけ経済成長が停滞した場合にはそうである。ナショナリズムへの依存が体制にとってリスクをもたらすにもかかわらず、中国の指導者は自分たちの正統性を強めるために民族主義的感情を利用し続けるであろう。これが、アメリカと日本が予見しうる将来に中国との間で期待しうる相互関係の内容を制約しているものかもしれない。
 相互関係の質を限定するものは価値観の相違である。最も大きく価値観が異なるのは、人権、信教の自由、政治制度などに関連するものである。相互の価値観のギャップは極めて重大である。なぜなら、それは「信頼の欠如」という問題を引き起こすからである。中国の場合、価値観と外交政策との結びつきがアメリカの国益に悪い影響を与えるだろうということを示す証拠がますます多くなっている。これは中国のイラン、スーダン、ベネズエラ、ジンバブエなどの諸国に対する態度から明らかである。中国がこれら諸国との関係を形成しようとしていることは明らかである。だがそれは、これら諸国の政府の無責任な行動の継続を許すであろう。
 中国の外交政策の重要な特徴のひとつは、中国の国境の向こう側に存在するエネルギー資源への安全で信頼のできるアクセスを作ろうとする要求である。膨大でかつ今後も増大する中国のエネルギー不足と自由市場に対する長年の不信は、中国の指導者の間に国外のエネルギーへの依存の増大は国の脆弱性を生じさせるという認識を促すものとなっている。中国の国内需要(とりわけ将来の輸送部門の需要を満たすためのペルシャ湾の石油への需要)を満たすために必要とされているエネルギーを確保しようと望んで、中国は供給源の多様化と海外での株式投資を促進する努力を開始している。アメリカと日本そしてその他の諸国は、中国のエネルギーと原材料に対する需要の急増によって、さらに大きな影響を受けるであろう。
 その結果のいくつかは否定的なものだろう。すなわち外国産原油の価格上昇、環境のさらなる悪化、係争中の海上の国境をめぐる競合の増大などだ。だが同時にエネルギー効率に関する協力や、「クリーン・コール・テクノロジー」【訳注 大気汚染などをおこさないクリーンなエネルギーとして石炭を利用する技術】、原子力発電などに関する協力の新たな機会も生じるだろう。場合によっては中国の世界に対する信頼の増大が、アメリカやその友好国に外交政策のチャンスを与えるだろう。
 中国の目覚ましい成長は、軍への大きな投資を行うことを可能にした。中国の徹底的な軍近代化の努力は、台湾との間に起こりうる紛争に備えることに焦点を絞って行われており、そうした努力は成功している。中国は国境地域でハイテク戦争を戦う能力を強化している。例えば中国は、徴兵、訓練、兵站、軍事理論・戦略などを担当する死活的部門の軍事担当者間のすばらしい協力体制を強化している。歴史的にはこうした協力は、軍隊の能力を急速に高めるための常道であることが証明されている。中国は軍の部局間の障壁を壊し始めているが、まだ本格的な共同軍事作戦を行う能力を獲得してはいない。中国は軍事能力を強化し続けているが、その際海軍の強化に重点を置いているようだ。これは、一つにはエネルギー源とシーレーンを防衛する必要があるという認識から出ている発想だ。
 中国の近代化と成長はその国力と繁栄を保証するであろうが、中国が進もうとしている方向性については議論の余地がある。2020年には中国は、政治的自由を増大させ、経済的開放性を支持し、自国民や近隣諸国に対する責任ある行動をとる民主的な制度を拡大して、責任のある立場に立つ利益共有国になるかもしれない。だが一方で、国際的規範を歪め、近隣諸国に脅威を与え、排外主義的なナショナリズムや腐敗に染まった非民主的政治体制を持つ、重商主義的な国になるかもしれない。中国は世界の活動領域で決断を迫られる場合に直面し続けるであろう。そのような場合に、中国が平和的な統合と穏やかな競争の道を進む選択をするよう動機づけるようにすることが重要である。

 第2節 ●  エネルギーという要因

 国家情報委員会(NIC)によれば、2020年まで増大するエネルギー需要は(特に勃興しつつある国家にとってこの需要は増大するが)、地政学的諸関係に大きな影響を与えるであろう。NICの「地球の将来図の作成」という報告は、エネルギー需要に影響を与える最大の要因は、世界経済の成長、とりわけ中国とインドの経済成長であろうとしている。中国はエネルギーの外国への依存の増大と結びついたリスクを軽減する様々な努力を行ってきた。供給源の多様化や戦略備蓄、外国への株式投資の推進の努力が行われており、それが中国の外交政策を具体的に形づけている。だが、2020年までの中国のエネルギー開発の地政学的特徴は、輸入原油(ほとんどがペルシャ湾からの)への依存を40%から90%に増大することであろう。
 原油やパイプラインの所有権を獲得しても、中国の国際石油市場に対する依存は顕著に減少することはないであろう。2020年までに、中国の企業は最大で120万バーレル/日の利権分の石油を獲得するだろうが、その頃には中国は少なくとも7〜800万バーレル/日を輸入しているであろう。中国でも一部の人たちがこの現実を理解し始めている。にもかかわらず、現在、中国は市場に対する不信を抱いているため、外国にある資産を防衛するための軍事力の強化を追求している。こうして中国の一部の人たちは、エネルギーの安全を保障するのは究極的には人民解放軍であり、懸念のある諸国家【訳注 「ならず者国家」を言い換えた表現】との同盟関係であると考えているようである。中国の軍近代化は非常に効果的である。中国の軍事指導部は海軍とその共同戦力投入能力の強化に重点を置いてきた。われわれは、2020年までに中国がこの分野で顕著な前進を遂げていると予測できる。他方、戦略的な石油備蓄などのように、混乱に対するセーフガードを設けることも優先的な課題であろう。
 中国は沖合油田の開発にも投資しているが、それは外交問題を引き起こす可能性がある。中国の領海では大がかりな活動がすでに開始されているが(渤海では、中国の資金で最大のプロジェクトが行われている)、中国の欲求はさらに大きなものだ。ある場合には、沖合開発への大きな欲求はアジアの安定をさらに確実なものにする(例えば中国とベトナムはかつて係争の地であった地域で共同開発の合意をした)が、それは同時に中国を他の係争地の領有権主張へと誘うかもしれない。
 どの係争地における石油や天然ガスも、中国の基本的なエネルギー事情を大きく変えることはないが、中国の係争地の領有権主張が、日本の領海への中国船による何度かの侵入が行われた後では、日本人の多くに不安を与えたことは理解できることである。2020年までに、このような紛争を軍事力に依存することなく解決するための強力な機構が作られることを期待する。
 中国が電力源として石炭に依然として依存している(中国は現在も世界最大の石炭の生産国であり消費国である)ことに加え、石油消費を増大させていることは、中国を世界最大の温暖化ガス放出国にしている。中国は(そしてインドは)成長と近代化を続けているのであるから、両国は地球の気候変動に関する国際的な議論で重要な役割を果たすことが必要である。
 アジアでは、エネルギー問題を経済成長に伴う問題として論議することがはやっている。表面的には、中国の動きにも見られるように、希少な資源をめぐる競争の激化は「ゼロサム」的考え方【訳注 誰かが勝てば誰かが負け、両者の総和がゼロになるという考え方】を示すものであることは事実であるが、同時に、エネルギー安全保障問題は結局は、諸国を接近させる問題であることが実証されているのも事実である。協力が可能な例は、エネルギーに関するデータベースの作成や、戦略備蓄に関する協調、代替エネルギー源に関する共同研究、海運の安全保障に関する協力などがある。
 創造的に対処すれば、エネルギー安全保障問題を根本的に見直すチャンスもある。エネルギー需要の増大は競争を生み出すだけでなく、共通の利害領域も生み出す。アメリカ、中国、日本、インドは海運の安全保障の改善という点でますます利害を共通にしている。核拡散と輸出管理措置に関する意見の一致も実現すべきだ。この4カ国は、世界で最大の石油産出地域であり続けている中東の安定を促進するという点で強い関心を分有すべきである。エネルギーの安全保障という観点から多くの問題を検討できるであろう。次の15年間にエネルギーの安全保障を推進するための積極的努力を行うに当たって、中国とインドを巻き込むことがわれわれの共通の目的であるべきだ。

 第3節 ● インド

 インドの大国としての勃興は、中国のそれに競合する。そして2020年に至る過程にもそれ以降にも、インドにはすばらしい成長の可能性がある。インドの成長率は現在では中国よりも小さいが、いくつかの要因が示すように、2020年までにはインドは中国の成長率を追い越すであろう。人口統計予測を見ると、中国の労働力数が一人っ子政策の結果減少するのに対し、インドの労働年齢人口は2020年以降も増大し続ける。政治的には、インドは民主主義と開放性という点で正しい選択をおこなったため、国内は非常に安定している。
 そして経済的にはインドは、中国にも増して、法律的、財政的制度が整備されている。世界に通用する国際的なハイテク企業もあり、世界市場でのインドの競争力を強化している。エネルギー安全保障に関しては、世界のエネルギー需要に与えるインドの影響は、前節で述べた中国のインパクトと非常によく似たものであろう。
 だがインドの潜在力は、結局は近隣諸国の富に影響を受ける。パキスタンにおける「正しい知識をもった中庸」政策の成功は、インドが世界大の勢力になるのを助けるであろう。戦争やテロリストの脅威などによって消耗させられなければ、インドはその資源や外交活動を、世界に通用する経済の建設や、残存する社会問題への対処や、長期にわたるインド・パキスタン紛争と結びついた諸問題を乗り越えて拡大する関係の形成などのより積極的な活動に集中できる。しかし、パキスタンが節度を越えた行動に傾けば、それはインドの潜在力を削減し、アメリカと日本の広範な利益を脅かす。
 インドの経済と影響力は拡大しているが、その戦略的風土は過渡的なものに留まる。インドが伝統的な非同盟運動路線から完全に脱却しないでいることもありうるが、それはアメリカや日本との新たな関係の拡大を困難にする。アメリカと日本の政府は、ともにそれぞれのインドとの戦略的関係を質的に改善してきた。だが両政府は、インドが中国と相矛盾しながら似通った性格を持つことに留意し、インドが日本やアメリカの平衡重りとして中国に対して行動するようなことをしないという前提の上に事を進めるべきであろう。インド政府は中国政府に対しては慎重な態度を取っており、中国との緊張を高めるようとはしていない。
 とはいえ、インドのルック・イースト政策は特にアジアにアピールするものであり、インドの東アジアとの経済的・政治的・文化的紐帯の強化は、インドをこの地域の戦略的均衡を作り出す大きな要因としている。特に日本にとっては、民主主義的行動という点でのインドの成功は、共通の価値観の上に立つ日本独自の外交的比重を高める。

 第4節 ●  朝鮮半島

 不可避的な統一朝鮮への過渡期には、北東アジアの戦略バランスは再編されるであろう。この過程は、2020年までには大きな成果を収める可能性がおおいにある。決定的な問題はどのような形で統一が行われるかだ。再統一の一つのシナリオは、北朝鮮の不安定化という問題をはらむものだ。それは北の大量破壊兵器備蓄の管理に関する困難な課題を生じさせ、南朝鮮の民主主義制度や経済的繁栄を危険にさらすような負担を与える。
 もちろんわれわれの計算には、北朝鮮が2020年まで、あるいはそれ以降まで核兵器製造を続けるという可能性も入れるべきである。北朝鮮の核問題は、おそらくソビエト連邦の崩壊後にウクライナの核問題が解決されたのと同様の形で、最終的には統一後にのみ解決されるだろうという見通しもますます大きくなっている。アメリカと日本は、外交や戦争抑止の面で未曾有の機敏さを要求するこのようなシナリオの全てに備えておかねばならない。
 北朝鮮政府の行動は、1990年以降、自分自身の政治的・経済的制度にがんじがらめにしばられていることを鮮明に示しているというのが、われわれの評価である。中国と南朝鮮からの支援と激励にもかかわらず、北朝鮮は躊躇しながら改革に着手したのみであり、「先軍」政策を続け、核非拡散条約から脱退し、その未来を国際的安定を脅かす核とミサイル能力に賭けてきた。
 北朝鮮は、極めて協調的な南朝鮮の大統領とクリントン政権からの提案を素っ気なく拒絶した。この国は恐るべき孤立と外国(主に中国と南朝鮮)の善意に頼った生活支援を選択した。北朝鮮は自国民の基本的需要に応える経済の発展ができない上、ミサイルと核兵器を何とか開発することもできなかった。エリートたちに快適な衣食住を与えるために、北朝鮮はヒロポンを輸出し、ニセの百j紙幣を偽造し、消費財を量産した。北朝鮮は日本と南朝鮮から市民を拉致し、何十年も秘密に国内に留めおいたが、そうした行動を説明するのに失敗した。
 われわれの結論は、金正日体制は、あえて危険を冒して■小平的な開放策を取るよりは、2100万人の北朝鮮国民の暗い未来をかえりみず、乗り切り政策を選んだ。
 したがって、しばしば大げさに宣伝された「重要な取引」は玉虫色のものにとどまりそうだ。なぜならば金正日は深く染みついたアメリカへの不信を持ち、「アメリカの好ましい奨励策を「毒リンゴ」と見る傾向があったからだ。にもかかわらず、2005年9月15日、共同声明には良心的な提案が記載された。北朝鮮が6者合意を実施する可能性はあるが、北朝鮮の行動が時とともに変わることを考えると、それが実施されるのを想像することは難しい。北朝鮮の2006年10月の核実験は挑発的であり、9月19日の声明を実施することに北朝鮮が関心を持っているかどうか深刻な疑問を呼び起こすものである。とはいえ、6者協議は、それが北朝鮮の核兵器開発を封じ込めるか、あるいは少なくとも凍結させるものとして役立つならば、価値を有するものであることは銘記されなければならない。6者協議それ自身は、朝鮮半島に変化をもたらし、将来北東アジアの安全保障を促進するために重要であるかもしれない新たな枠組みを作ったのである。

 第4節  ●  南朝鮮との食い違いの処理

 現在の南朝鮮の政府にとって、朝鮮半島の不安定化は、北朝鮮の核兵器計画よりも大きな脅威であると見られている。この脅威は、南朝鮮の脅威評価をアメリカや日本の脅威評価より中国のそれにより近いものにさせている。(にもかかわらず、中国の増大する国力に関しては、南朝鮮は戦略的懸念を抱いている)南朝鮮の脅威評価は改革的な「386世代」【訳注 30歳代で、民主化時代の1980年代を経験し、1960年頃に生まれた世代】の影響や南朝鮮の民主主義の成熟を反映している。
 現在の多くの指導者たちは、アメリカに支援された権威主義的な南朝鮮政府に対する闘争でその政治的経歴を積んだ。彼らは非常に若かったので、朝鮮戦争を直接経験してはいない。そして彼らの多くは依然としてアメリカの意図に疑念を感じている。アメリカと日本の政府にとっての課題は、南朝鮮との緊密な協働関係を維持し、北朝鮮の核危機の交渉による解決や、戦略的奇襲や断交の際に、すべての同盟国の利益を擁護する共同の対処行動が行われるということを保証することである。
 北朝鮮の核保有の野望によってもたらされた脅威にいかにして最善の対処を行うかについてアメリカと日本、南朝鮮の間に短期間だが意見の相違が存在したとはいえ、われわれが共通の価値観と経済面および安全保障面での共通した利害をもっていることを思い起こすことは意義のあることである。アメリカと南朝鮮は共通の敵との流血の戦いで鍛えられた同盟関係を持ち、われわれが直面している新たな挑戦に対して適切に対処できるようにわれわれの同盟を近代化してきた。将来の同盟においては、南朝鮮は主導的な役割を果たし、アメリカは支援の役割を果たすであろう。そして軍組織と指揮系統はこのような協働関係を反映したものになるであろう。米軍戦力は再編され、強化され、数的には削減されるが、その能力は新たな技術の導入のおかげで実際は強化されるであろう。
 2国間の経済関係は広範な範囲に及んでいる。南朝鮮はアメリカにとって7番目の貿易相手国である。アメリカの企業は数十億jを韓国経済に投資してきており、韓国の企業はアメリカで活動する外国企業総数の4分の1を占める。さらに、毎年70万人をはるかに超える韓国人がアメリカ合州国を訪れ、約10万人のアメリカ人がソウルに在住している。
 このような文脈のなかで米韓自由貿易協定の交渉が進められている。これはアメリカ合州国がずっと以前にカナダとの間で行った交渉以来、最大の2国間貿易交渉である。アメリカは絶え間なく拡大する自由貿易協定のネットワークをもっている。この2国間の自由貿易協定のネットワークを作るという傾向は、包括的交渉であるドーハラウンドにおける後退を契機として、さらに強化されている。これらの自由貿易協定は、特にドーハで決められた義務と整合させる配慮がなされるならば、関係するどの国の経済にとっても非常に肯定的なものとなる可能性がある。われわれは米韓協定がその一例だと信じている。
 だが、この複雑な交渉は南朝鮮では支持を失いつつあり、アメリカ政府の側でも交渉スケジュールが非常に逼迫しているという現実がある。韓国の自動車と農業の利益関係者は南朝鮮政府に厳しい要求を突きつけており、それがFTAに対する情熱を失わせているように見える。
 ワシントンでは、ブッシュ政権も議会も、北朝鮮のケソン工業団地で操業する南朝鮮企業によって製造された商品を、どのFTAの対象に含めることにも反対している。これは、ケソン工業団地計画を強く支持している南朝鮮の現在の政府に対する強い非難なのである。さらに世界貿易がアメリカ経済に与える影響について国民の間に強まる不安は、この貿易協定に対する議会の支持の態度を弱まらせている。最後に、交渉は厳密なタイムリミットを設けられている。なぜならば、貿易協定を交渉し、議会に対し修正なしに投票させる大統領権限は2007年の夏に期限切れになるからである(この立法活動は貿易促進権と呼ばれているが、もともとはファストトラック権と呼ばれていた)。
 FTAを締結し議会に承認させるのに失敗することは(その可能性はますます大きくなっているように思えるのであるが)、FTA交渉が開始されなかった場合に比べても良くない事態だ。それはとりわけ、アメリカ政府内で強まっている保護主義的で重商主義的傾向をさらに強めるものとなる。われわれは憂慮しているのは、それがより広範な米韓同盟の価値を理解することに悪影響を与えることにもなるだろうということだ。