COMMUNE 2007/3/01(No.369 p48)

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3月号 (2007年3月1日発行)No.369号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  崩壊が始まった米帝の中東支配

□焼石に水、イラクへの米軍2万1千人の増派
□タリバン完全復活、敗色濃い米・NATO軍
□ 政権を奪取したハマス侵攻撃退したヒズボラ
□中東全域に急拡大する反米帝・民族解放闘争

●翻訳資料1 米イラク研究グループ(ISG)報告書
●翻訳資料2 ブッシュのイラク新政策演説

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/ロードマップ強行成立弾劾!−−室田順子

    三里塚07年団結旗開き

三里塚ドキュメント(11-12月) 政治・軍事月報(11-12月)

労働月報(11-12月)  闘争日誌(10月)

コミューン表紙

 安倍・御手洗路線

▼安倍首相は、「美しい国」と言い、御手洗・日本経団連会長は、「希望の国」という。どちらも日本帝国主義がどんづまりの絶望的危機に陥っており、何一つ展望が見えないことの表明だ。いまや帝国主義はすさまじい帝国主義同士の争闘戦に入っている。日帝は国際帝国主義の最弱の環になっている。巨大独占企業の競争が国家ぐるみの生死をかけたものになっている。特にブラジル、ロシア、中国やインドなどで労働力、資源、市場を奪い合っている。石油資源・市場をめぐっては帝国主義の侵略戦争に発展している。それが米帝のアフガニスタン侵略戦争であり、イラク侵略戦争である。米帝はさらに対イラン、対北朝鮮の侵略戦争を構えている。日帝にはまったく対応する力がない。安倍も御手洗も唯一の突破口として改憲=戦争を叫んでいるが簡単にいくわけがない。労働者人民が絶対許さない。

▼では侵略戦争を開始している米帝はどうか。米帝ブッシュもどうにもならない危機に陥っている。米中間選挙で米労働者人民は、はっきりとイラク侵略戦争にノーを突きつけた。世界の超大国である米のハイテク軍隊が、イラク人民の自爆戦闘や路肩爆弾などのゲリラ戦争に敗退してしまっている。米帝の軍事的権威は丸潰れだ。米帝の中東・中央アジア支配は崩壊しつつある。イラク侵略戦争における敗退情勢は、アフガニスタンに連動し、レバノン、パレスチナにも連動している。全世界の民族解放闘争に火をつける情勢にある。だから、米帝はイラクから撤退することができず、2万1千人を増派しイラクの武装勢力の掃討戦を強めると言っている。しかし、この勝負は決まっている。武装勢力はイラク人民であり、掃討作戦をする米軍は外からきた侵略軍隊だ。イラク侵略戦争が始まってすでに4年近く立つ。イラク人民は10年でも100年でも闘う。しかし米軍はイラクで10年も100年も闘えるわけがない。

▼日帝は帝国主義として生き延びるためには、日米同盟を強化し、改憲し、自衛隊を米軍並の軍隊にしなければならない。もしそれが出来たとしても、現に世界最強の米軍はアフガニスタンやイラクの武装勢力に敗北しているのだ。かつての大日本帝国陸軍が中国の人民解放軍に敗北したように。日帝は中国侵略戦争で敗勢にたたきこまれていながら、米帝との第2次世界大戦に突入して敗北をした歴史を持っている。アジア人民2000万人、日本軍も300万人が死んだ。安倍や御手洗の「美しい国」と「希望の国」はこの歴史をくり返すものだ。

▼御手洗ビジョンは、アメリカの「レーガンの再来」を絶叫している。80年代に米大統領レーガンが「強いアメリカ」を叫んでやったことは資本家のための大減税、労働組合潰し、軍事予算の増額だった。御手洗ビジョンも同じだ。経済も、対アジア政策も、政府も、自治体も、労働者も、教育もブルジョアジーが他の帝国主義と争闘戦に勝てるように作り替える。労働者は「工場法以前の状態」にたたき込む。しかしブルジョアジーが思うようには進まない。帝国主義の時代はもはや終わりつつある。帝国主義を打倒する労働運動は全世界で勢いよく登場している。11・5の日韓米3国連帯の労働運動の登場であり、そしてイラク人民を先頭とする帝国主義打倒の民族解放闘争の登場である。労働者人民の「希望」はここにしか存在しない。

 

 

翻訳資料

【解説】

 ここに掲載する翻訳資料の内容は、本号の特集で解説されている。したがってここでは、新方針が発表されるに至った経緯などの解説にとどめる。

 資料@は、イラク研究グループ(ISG)報告書の最初に掲載されている「要旨」の翻訳である。
 ISGは、泥沼化したイラク侵略戦争の立て直しのために新戦争方針を立案するための委員会だ。
 日本のマスコミでは、「超党派グループによる提言」と報道されたが、任意の議員グループが書いたものではない。
 ISGとは、06年3月に上下両院の議会の決定に基づいて正式に設置された機関なのだ。アメリカ議会の民主党・共和党は、両方とも米帝支配階級の党であり、イラク戦争推進の立場だ。
 その上、ISGが発足したのは、ブッシュ・共和党が中間選挙で敗北する前のことであり、当然、支配階級の中でもブッシュ政権に近い者たちがISG委員に任命されている。
 共同議長であるベーカー元国務長官は、ブッシュ一族以外ではブッシュ元大統領にもっとも信頼されているといわれる人物だ。
 中間選挙後にブッシュによって国防長官に任命されたゲーツは、その時までISGのメンバーを務めていた。
 また、ブッシュの第1期の大統領選挙の時に、フロリダ州での露骨な不正選挙を強引にもみ消し、ブッシュ政権誕生を助けたオコナー連邦最高裁元判事もISGメンバーだ。
 このようにISGは、本質的にも直接的にも米帝ブッシュ政権のイラク侵略戦争を推進するために作られたものだ。だが、行き詰まった戦争計画を変更するためには、戦場の現実に部分的にでも触れないわけにはいかなかった。そして現実に触れたとたん、ブッシュ政権・ISGの思惑を越えた衝撃を与えるものとなった。
 まさに米帝ブッシュ政権にもっとも近い者の報告書であるが故に、右翼的、保守的な層を含めて、これまでとは比べ物にならないきわめて広範な層が、米軍の敗北は必至だという事実をいやおうなく突きつけられたのだ。特に米軍部隊やアメリカ各地の米軍基地がある町への影響は大きい。そして米支配階級内の分裂がいかに広く及び、いかに深いかをさらけだすものになったのだ。
 ブッシュが言ってきた「米軍は勝利しつつある」は、完全に覆された。そして(「要旨」には載っていないが)「米軍を攻撃しているのは、主にイラクの外から来たアルカイダでイラク人は米軍を支持している」という従来のブッシュの主張とは正反対に、「アルカイダなどは、反乱勢力のごく一部」ということも報告書は言っている。軍事的にも政治的にも米軍は孤立し、包囲され、せん滅されていることを、自認せざるをえなくなったのだ。

 資料Aのブッシュ演説は、「ISG報告書を受けて新たな戦略を06年のうちに発表する」とされていたものが、年を越してようやく発表されたものだ。それだけでも、いかに米帝ブッシュが行き詰まっているかが分る。

翻訳資料

 翻訳資料-1

 @イラク研究グループ報告

 『前進への道――新たなアプローチ』

 06年12月6日 広田 功 訳

 第1節 本報告の要旨

 イラクの状況は深刻であり、さらに悪化しつつある。どの道も成功は保証されていないが、見通しを改善することは可能である。
 このレポートでわれわれはイラク、合州国とこの地域での行動に関するいくつかの提案をする。最も重要な提案は、イラクとこの地域における新たな外交的・政治的努力の強化及びアメリカ軍の主任務の転換であり、それによって合州国がイラクから戦闘部隊を責任をもって撤収させることを可能にしていくのである。われわれは、この二つの提案はどちらも重要でありかつ互いに強め合うものであると信じている。もしこれらが効果的に実行され、かつイラク政府が国民的和解を推進するならば、イラクの将来は良いものになり、テロリズムに打撃を与え、世界の重要な地域における安定は強化され、アメリカの信頼性、利益、価値は守られるだろう。
 イラクにおける課題は複雑である。暴力の範囲と死亡率は増大している。それはスンニ・アラブによる反乱、シーアの民兵と殺し屋、アルカイダ、犯罪の拡大によって引き起こされている。安定化のためには、宗派間の紛争が主要な課題である。イラク人民は民主的に選ばれた政府を持っているが、国民的和解の推進、基本的な治安、必要不可欠な公共事業の提供においては不十分である。悲観論がまんえんしている。
 もし、状況の悪化が続けばその結果は厳しいものになるだろう。混乱状態への崩落はイラク政府の崩壊と人道的な大惨事を引き起こすだろう。近隣諸国が介入するだろう。スンニとシーアの衝突は広がるだろう。アルカイダは宣伝戦に勝利し作戦基地を拡大するだろう。合州国の世界的地位は下落するだろう。アメリカ人の両極化はさらに進むだろう。
 この9カ月間われわれは、前進するためのアプローチについてあらゆるものを考察してきた。どれにも欠陥がある。われわれが推奨した路線には欠点はあるが、この路線はイラクとこの地域での結果に前向きの影響を与える最良の戦略と戦術を包含していると確信する。

 第2節 外へのアプローチ

 イラク近隣諸国の政策と行動はイラクの安定と繁栄に大きく影響する。この地域のどの国も混沌状態にあるイラクから長期化な利益を得ることはできない。しかし、イラクの近隣諸国はイラクの安定に十分に寄与していない。いくつかの国は安定を脅かしている。
 合州国は直ちに、イラクとこの地域の安定に関する国際的な合意を形成するための外交的な攻勢を発動すべきである。この外交努力はすべてのイラクの近隣を含め、イラクの混沌を避けることに関心のあるすべての国を包含したものでなくてはならない。イラクの近隣とこの地域内外の主要国は、イラク自身ではなし得ないイラク国内の治安の安定と国民和解を支援するグループを形成しなければならない。
 イランとシリアはイラク内の成り行きに影響力を与える能力があり、またイラクの混沌を避けたいという利害を有しているのであるから、合州国はこれらの国に建設的な関与をすることを試みるべきである。両国の振る舞いに影響を与えることを追求することにおいて、合州国は報償もその逆の手段も使うことができるのである。イランは武器と訓練のイラクへの流れを阻止し、イラクの主権と領土の一体性を尊重し、国民和解を後押しするためにイラクのシーアグループへの影響力を行使しなければならない。イランの核計画の問題は引続き国連安保理常任理事国5カ国とドイツによって対処しなければならない。シリアは資金、反乱者、イラク内外のテロリストの出入りを阻止するためにイラクとの国境を管理しなくてはならない。
 合州国はアラブ・イスラエル紛争と地域の不安定に直接対処することなしに中東における目標を達成することはできない。新たな、また継続的な合州国によるアラブ・イスラエル包括和平への取組みがあらゆる方面で必要である。すなわち、レバノン、シリアそして2002年6月のブッシュ大統領のイスラエルとパレスチナの二国家解決構想の取組みである。この取組みにはイスラエル、レバノン、パレスチナ人(イスラエルの生存権を受け入れた者)、シリア間の直接対話が含まれなければならない。
 合州国のイラクと中東への取組みの進展とともに、アフガニスタンに対する追加的な政治的、経済的、軍事的な支援を提供しなくてはならない。それには、イラクから戦闘部隊を撤収するにつれて使えるようになるであろう資材・資金も含まれる。

 第3節 内部でのアプローチ

 現在、イラクの将来にとって最も重要な問題は、イラク人の責任である。合州国は、イラク人民が彼らの運命を自らコントロールするよう鼓舞することに、自らのイラクにおける役割を適応させなければならない。
 イラク政府はイラク軍部隊の量および質を向上することによって、イラクの治安の責任を引き受けることを加速しなければならない。このプロセスの途上では、それを促進するために、合州国はイラク軍部隊に組み込まれ、それを支えている米軍要員数――戦闘部隊を含む――を著しく増やさなければならない。こうした行動が進行するにつれて、合州国の戦闘部隊のイラクからの退去が可能になる。
 米軍の第1の役割は、イラク軍が戦闘作戦の主たる責任を引き継いでいけるようにイラク軍を支えることである。2008年の第1四半期までに、|現地の治安状態の予期できない展開によるが、|部隊防衛のために必要のないすべての戦闘部隊はイラク国外に退去することができるであろう。その時点でイラク内の米軍戦闘部隊は、緊急対応及び特殊作戦チーム、訓練、装備、助言、部隊防衛、捜索・救援を受け持つ、イラク軍に組み込まれた部隊のみ配備されていることになろう。諜報活動と支援の取組みは継続されるだろう。これらの緊急対応・特殊作戦部隊の死活的任務はイラクのアルカイダへの打撃力を担当することとなるだろう。
 今後ある程度の期間イラク政府が、合州国からの援助を必要とすることは明らかである。とりわけ治安の責任を履行するには、援助が必要である。しかし、たとえイラク政府が計画された移行を履行しなくても、合州国は計画された軍の再配置を含む合州国の計画の遂行がありうることをイラク政府にはっきりさせなければならない。合州国はイラクに配置された大量のアメリカ軍を維持することについて、無期限の約束を行なってはならない。
 再配置が進行するとともに、軍指導部は合州国に帰還した軍隊に対し万全の戦闘能力を取り戻すために部隊の訓練と教育に力を入れなければならない。装備が合州国に帰ってくれば、議会は5年にわたって装備を修復するために十分な資金を割り当てなければならない。
 合州国はイラクの指導部と密接に連携して、国民和解、治安、統治についての具体的目標――「里程標」――が達成できるよう支援しなければならない。奇跡を期待することはできない。しかしイラク人民は行動と前進を期待する権利を持っている。イラク政府はイラク市民と合州国や他の国の市民に、継続した支援を受けることに値することを示さなければならない。
 ノウリ・アル・マリキ首相は、合州国と協議して、イラクにとって決定的な「里程標」のセットを設定してきた。彼のリストはスタートとしては良いものであるが、そのリストには政府を強化し、イラク人民に利益を与えることのできる「里程標」を含むように拡張されなければならない。ブッシュ大統領と彼の国家安全保障チームははっきりしたメッセージを伝えるため、イラク指導部との密接なかつ頻繁な接触を保つべきである。すなわち、これらの「里程標」の達成に向けた実質的な進捗を生み出すイラク政府による迅速な行動があってしかるべきだということである。
 もし、イラク政府が政治的な意志を実証し、国民和解、治安、統治に関する「里程標」の達成に向けた実質的な進捗を作り出せば、合州国はイラク治安部隊の訓練、援助、支援の継続、政治的、軍事的、経済的支援の継続を積極的に行うという意志を明らかにしなければならない。もし、イラク政府がこれらの「里程標」の達成に向けた実質的な進捗を作り出さないならば、合州国は政治的、軍事的、経済的支援を減らすべきである。
 われわれの報告は他の幾つかの分野に及ぶ。それらは以下の事柄の改善を含んでいる。イラクの刑事司法制度、イラクの石油部門、合州国のイラクにおける再建の取組み、合州国の予算処理、合州国政府要員の訓練、合州国の諜報能力。

  第4節 結論

 これらの提案は合州国のイラクとその地域における新しい道を提供するものであるというイラク研究グループの全体一致の見解である。それらは包括的であり統合的に実施される必要がある。それらは分離されたり個別に遂行されたりしてはならない。その地域の力学はイラク内部の出来事と同じ重要性がある。
 たじろぐような難題である。困難な日々が待ち受けているであろう。しかし、この新たな道を進むならば、イラク、その地域、そしてアメリカ合州国はより強くなることができる。 【本文、略

 

翻訳資料

 翻訳資料-2

 Aブッシュのイラク新政策演説

 07年1月10日 村上和幸訳

 今もイラクでは、米軍部隊が戦いにたずさわっている。その戦いは、テロに対する世界的な戦争の行方、そしてわれわれの本国における安全を決するものなのである。今晩私が概括する新たな戦略は、米国のイラクにおける進路を変更し、テロに対するわれわれの戦いの成功を助けるものである。
 1年以上前に私が演説した時、約1200万人のイラク人が、統一した民主的な国家のために投票した。2005年の選挙は、驚くべき成功だった。われわれは、こうした選挙がイラクを統一し、われわれがイラクの治安部隊を訓練していくにつれて、より少ない米軍部隊で任務を遂行できるようになると考えた。
 しかしながら、2006年には反対のことが起こった。イラク、特にバグダッドでは、イラク人が達成した政治的な獲得物が暴力によって圧倒された。アルカイダのテロリストとスンニの反乱者は、イラクの選挙が彼らの目的にとって死の危険をもたらすものであることを認識し、罪のないイラク人に対する言語道断な殺人行為でこたえた。彼らは、シーア・イスラムの最も聖なる所の一つであるサマラの黄金のモスクを爆破した。これはシーア住民を挑発して復讐させるように計算されたものだった。彼らの戦略は功を奏した。ラディカルなシーア分子は、そのあるものはイランに支持されているが、殺人部隊を作った。そしてその結果は、宗派間暴力の悪循環であり、それが現在まで続いている。
 イラクにおける状況はアメリカ人民には受け入れられないものである。私にも受け入れられない。イラクにいる米軍部隊は勇敢に戦っている。彼らは、われわれが頼んだことをすべて行ってきた。誤りが行われたことについては、その責任は私にある。
 われわれのイラクにおける戦略を変更する必要があることは明らかである。したがって、私の国家安全保障チーム、軍の司令官たち及び外交官たちは、包括的な見直しを行った。われわれは両党の議員、米国の同盟諸国、そして外部の専門家に相談した。ジェームズ・ベーカー元国務長官とリー・ハミルトン元国会議員に率いられた超党派の委員会であるイラク研究グループの思慮深い勧告からは得るところがあった。われわれの討議の中で、イラクにおける成功のための魔法の処方箋は存在しないことで全員の意見が一致した。そして、一つのきわめて明確なメッセージが現れたのである。すなわち、イラクにおける失敗は、アメリカにとって大災害となるということだ。
 失敗の結果がどうなるかは明白である。ラディカルなイスラム過激派は強力になり新たな応募者を獲得するであろう。彼らの位置はさらに有利になって、穏健な政府を転覆したり、地域に混沌をもたらしたり、石油収入を彼らの野心のために使ったりしやくすくなるであろう。イランは、さらに大胆に核武装を追求していくであろう。わが国の敵は、聖域を獲得し、そこからアメリカ人民を攻撃したり、そこでその計画をたてたりするであろう。2001年9月11日、われわれは地球の裏側の過激派の隠れ家がわが国の諸都市に何をもたらすかを経験した。わが国の人民の安全のために、アメリカはイラクで成功しなければならない。
 イラクにおける成功のために最も緊急性が高いのは、特にバグダッドである。イラクの宗派間暴力の80%は首都から30マイル以内の所で発生している。この暴力は、バグダッドを宗派ごとの居留地に分断している。そしてすべてのイラク人の自信を揺るがしているのである。イラク人のみが宗派間暴力を終わらせ、自国の人民を安全にすることができる。そして彼らの政府は、そのための果敢なプランを策定したのである。
 バグダッドの治安確保のためのわれわれのこれまでの取組みは、2つの主要な理由によって失敗した。すなわち、テロリスト及び反乱者を掃討するべき地域に十分なイラク軍部隊、米軍部隊が存在しなかったこと。そして、われわれの部隊にあまりにも多くの制限が課せられていたことだ。わが軍の司令官たちは、これらの誤りに対処するために、新たなイラク計画の見直しを行った。彼らは、それが役に立つ、使えるといっている。
 この取組みの主な要素について説明してみよう。イラク政府は、首都防衛のために1人の軍司令官と2人の副司令官を任命するであろう。イラク政府は、イラク陸軍と国家警察部隊をバグダッドの9つの地区に展開する。これらの部隊がフルに配備されると、イラク陸軍・国家警察の18旅団が、地区の警察とともに配備されることになる。これらのイラク部隊は、地元の警察署から作戦を展開する――パトロールを遂行し、検問所を設置し、戸別訪問を行い、バグダッド住民の信頼を得ていく。
 これは強力な関与である。しかし、われわれの司令官たちが言うには、それを成功させるためには、イラク人たちには援助が必要だということである。したがって、アメリカは、われわれの戦略を変更し、宗派間暴力を鎮圧し、バグダッド住民に安全をもたらすためのイラク人の作戦遂行を助けていく。そのためには、米軍部隊のレベルを増強しなければならない。したがって、私は2万人以上の米軍部隊のイラク派遣追加を約束した。その圧倒的多数――5旅団――は、バグダッドに展開される。これらの部隊はイラク部隊のそばで働き、彼らの編成に組み込まれる。わが軍の部隊は、明確に規定された任務を持っている。すなわち、イラク人たちが地域を掃討し、安全を確保することを助けること、彼らが地域の住民を守ることを助けること、そして米軍が撤退する時までに、残されたイラク部隊がバグダッドで必要としている安全保障を提供することが出来るようになることを助けることである。
 今夜、この演説を聞いているみなさんには、これまでのバグダッドの治安作戦が成功しなかったのに、今度のものが成功するのは何故なのかという質問があると思う。両者の間には違いがある。以前の作戦では、イラクとアメリカの部隊は多くの地域でテロリストと反乱者を掃討したが、彼らが他の目標に向かって移動すると、殺人者たちは戻ってきた。今回は、われわれの部隊規模は、掃討した地域に留まることができるものになる。以前の作戦では、政治的・宗派的干渉のために、イラクとアメリカの部隊が、宗派間暴力を育んでいる地域に入ることが妨げられてきた。今回は、イラクとアメリカの部隊は、そうした地域に入るための青信号を得ている。マリキ首相は、政治的・宗派的干渉はもはや許容されないということを約束している。
 マリキ首相とイラクの他のリーダーたちに対して私は、アメリカの関与は際限なく続くものではないことを明確に示した。もし、イラク政府がその約束を最後まで守り通せないならば、アメリカ国民の支持を失うであろう。そしてイラク国民の支持を失うであろう。今こそ行動すべき時だと。首相は、これを理解した。イラクの閣僚は先週、次のように言っている。「バグダッド治安計画によって、いかなる無法者からも――彼らの宗派的・政治的所属いかんにかかわらず――聖域が奪われることになる」
 この新戦略は、自爆攻撃、暗殺や簡易爆発物攻撃をすぐに終わらせるものではない。イラクにおけるわれわれの敵は、アメリカのテレビ画面を死と苦難であふれさせるようにあらゆる力を使うであろう。しかし、時と共に、われわれはイラク部隊が殺人者たちを追い詰め、恥知らずなテロ行為を少なくし、バグダッド住民の信頼と協力が拡大するであろう。そうなった時、日常生活は改善され、イラク人たちは自分たちのリーダーを信頼するようになり、政府は、その決定的な地域で前進するために必要な息継ぎの余裕をえることになるであろう。イラクのほとんどのスンニ派、シーア派は、平和に共に暮らすことを望んでいる。バグダッドにおける暴力を減らすことで、和解は促進されていくであろう。
 イラク戦略の成功は、軍事作戦に限られない。普通のイラク市民が、軍事作戦が地域とコミュニティーの目に見える改善と結びついていることが分るようにしなければならない。したがってアメリカは、イラク政府がその約束した成功基準を守るようにしていく。
 イラク政府は、権威を確立するために、11月までにイラクのすべての州で安全保障の責任を引き受けることを計画している。すべてのイラク市民に国の経済の利益を与えるために、イラクは、石油収入を全イラク人に分配する法律を通過させるであろう。それがより良い生活を約束するものであることを示すために、イラク政府は100億jを再建・インフラ整備プロジェクトに投じ、新たな雇用を創出するであろう。地方リーダーに力を持たせるために、イラク政府は州選挙を今年終りに行うことを計画している。そして、さらに多くのイラク人をこの国の政治に参加させていくために、政府は非バース化法を改革するであろう。そしてイラク憲法の改正のための公平な手続を確立していくであろう。
 アメリカは、イラク政府がその成功基準を達成することを援助するアプローチを変えていく。イラク研究グループの提言に従って、アメリカ人顧問のイラク軍部隊への組み込みを拡大していき、連合軍旅団と各イラク軍師団とを連携させる。われわれは、イラク人たちが軍を増強し、装備を改善することを助け、イラク部隊の訓練を促進する。それは、アメリカのイラクにおける不可欠の治安任務でありつづける。経済援助に資金投入するために、米軍司令官やアメリカの文官により柔軟な権限を持たせる。われわれは、州再建チームの数を倍増させる。これらの軍と文民の専門家を一緒にしたチームは、イラクの地元のコミュニティーが和解を追求し、穏健派を強化し、イラクの自立への移行を加速していく。ライス国務長官は、イラクで使われている経済援助がより良い結果をもたらすために、バグダッドの再建コーディネーターを間もなく任命するであろう。
 こうした変更を行っていくが、アルカイダと外国から来た戦闘員との闘いは続行される。アルカイダは、今もイラクで活動している。そのホーム・ベースはアンバル州である。アルカイダがいることもあって、アンバル州は首都以外ではイラクでもっとも暴力的な地域となっている。捕獲したアルカイダ文書によれば、彼らテロリストたちは、この州に浸透して支配することを計画しているのである。これによってアルカイダは、イラクの民主主義を崩壊させ、ラディカルなイスラム帝国を建設し、米国を本土と海外において攻撃するという彼らのゴールが近づくというわけである。
 アンバル州におけるわが軍の部隊は、アルカイダのリーダーたちを殺し、捕虜にしており、また地元の住民を保護している。最近、地元も部族リーダーたちが、アルカイダと戦う意志を示しはじめた。その結果、わが軍の司令官たちは、テロリストに重大な打撃を与える可能性があると信じるようになった。したがって私は、アンバル州に4000人の米軍部隊を増強する命令を出したのである。この部隊は、イラク軍や部族部隊と協力し、テロリストに圧力を加えつづける。米軍は、アフガニスタンにおけるアルカイダの聖域を奪い去った。そしてわれわれは、イラクにおいてアルカイダの聖域を再建することを許さないであろう。
 イラクにおける成功のためには、その領土的一体性を守り、過激派の挑戦に直面しているこの地域を安定化させねばならない。それは、イラン及びシリアへの対処から開始される。この2つの体制は、テロリストと反乱者がイラクから出入りするために自国領土を使用することを許容している。イランは、米軍部隊を攻撃するための物質的な支援を提供している。われわれは、わが軍部隊に対する攻撃は阻止していく。イランとシリアからの支援の流れを遮断していく。そして、先進的な武器と訓練をわれわれの敵に提供するネットワークを探索し、破壊していく。
 われわれは、イラクの治安を強化し、アメリカの中東における地益を守るために、他の手段もとっていく。私は最近、この地域に空母攻撃グループを追加派遣することを命令した。諜報共有を拡張し、またパトリオット防衛システムを配備し、友好国・同盟国に保証を与えていく。トルコ・イラク政府と協力し、その国境地域の問題の解決を助けていく。また、他国とも協力してイランが核兵器を獲得して地域を支配していくことを防止していく。
 アメリカの外交手段をフルに使って、中東全域の諸国からイラクが支援を得られるようにしていく。サウジアラビア、エジプト、ヨルダンや湾岸諸国などの国々は、イラクにおいてアメリカが敗北するならば、過激派に新たな聖域を与え、こうした諸国の存続にとって戦略的脅威となることを理解する必要がある。これらの諸国の利益は、近隣諸国との平和を保つイラクの成功にかかっているのであり、これら諸国は、イラク統一政府への支援を拡大する必要がある。われわれは、イラク政府が、さらなる経済改革と引き換えに新たな経済援助をもたらす国際条約を最終承認することを呼びかけていることに賛同している。この金曜日、ライス国務長官は中東地域に出発し、イラクへの支援を作り出し、中東和平をもたらすために必要な緊急外交を続けていく。
 広域の中東全体にわたる課題は、軍事的紛争以上のものがある。この時代の決定的なイデオロギー闘争である。一方の側は、自由と節度を信じている。他方は、過激派で、罪のない人を殺し、われわれの生活様式を破壊する意図を表明している。長期的には、アメリカの人民を守るための最も現実的な道は、問題を抱えた地域全体に自由を推進することによって、敵の憎悪のイデオロギーに対して希望の代替イデオロギーを提供することである。自由のために自らの命をかけている勇敢な軍人とともに米国が立つことが、米国にとっての利益になるのである。彼らが中東全域の正義と希望ある社会のために働いていることを助けることが、米国の利益なのである。
 アフガニスタンからレバノン、パレスチナ諸地域まで、数百万の普通の人々が暴力に怒っており、平和な未来と子どもたちのための将来性を求めている。そして彼らは、イラクを見ているのである。彼らは、アメリカが撤退し、あの国を過激派に明け渡すのか、それともアメリカが自由を選択したイラク人とともに立つのかが知りたいのだ。
 今私が概括した変更は、アメリカの安全保障にとって巨大な重要性を有する地域において生き延びるために戦っている若い民主主義国の生存を確かなものにするためのものである。はっきり言って、イラクにいるテロリストと反乱者には良心はない。そして彼らは、今後ずっと流血と暴力をこととしていくであろう。たとえわれわれの新戦略が計画通りに功を奏しても、死の暴力は続くであろう。われわれは、イラク人とアメリカ人の死傷者がさらにでることを覚悟しなければならないのである。問題は、われわれの新戦略が成功を近づけるものか否かである。私は、近づけると信じている。
 勝利は、われわれの父・祖父たちが達成したもののようにはならないであろう。戦艦上での降伏式典はないであろう。しかし、イラクにおける勝利は、アラブ世界に新しいものをもたらす。すなわち、領土内の治安を維持し、法の支配を守り、基本的な人間の自由を尊重し、人民の要求にこたえる、機能する民主主義をもたらすのである。そういう国は、テロリストをかくまうのではなくて、テロリストと戦う国となるであろう。われわれの子や孫に平和で安全な未来をもたらすのに役立つであろう。
 この新たなアプローチは、イラクにおいてわれわれが採用しうるさまざまなコースについての米国議会との協議の後で出てきているものである。多くの人は、イラク人たちは米国に依存しすぎるようになりつつあると懸念し、したがって、われわれの政策は、イラク国境を守り、アルカイダを追跡することを焦点にすべきであると考えている。彼らの解決策は、アメリカのバグダッドにおける取組みの規模を縮小すること、あるいは米軍の戦闘部隊の段階的撤退を宣言することである。われわれは、それらの提案を慎重に検討した。そして、われわれは、今引き下がることは、イラク政府の崩壊を強制することになり、国を分解させ、想像を絶する規模の大量虐殺を生み出すという結論に達した。このようなシナリオを採用するならば、米軍部隊のイラク滞在をむしろ長引かせる結果になるであろう。そしてさらに死の危険を増した敵との対決を強いることになるのである。だがもし、われわれがこの決定的な時点で、われわれの支援を増強すれば、そしてイラク人たちが現在の暴力の連鎖を断ち切ることを助けるならば、米軍部隊の帰還開始を早めることができるのである。
 これから数日間、私の国家安全保障チームは、議会に新たな戦略について説明することになる。議員たちが、改善すべき点を指摘するならば、われわれは改善するであろう。状況が変化すれば、われわれはそれに合わせるであろう。名誉ある人々は異なった見解を持っており、批判を表明するであろう。われわれの見解を精査にかけるということは、公平なことである。すべての関係者が、自分たちが提案する方法により成功の見込みがあるということを説明する責任を持っている。
 ジョー・リーバーマン上院議員や他の重要な議員の優れたアドバイスにしたがって、テロとの戦いに勝利するために党を超えて協力するように、われわれは新たな超党派作業部会を作っていく。この作業部会は、定期的に私や閣僚たちと会合するであろう。そして、議会と政権との関係の強化に貢献するであろう。われわれは、陸軍・海兵隊の現役兵力を増強するために協力し、21世紀のために必要な軍を米国が持てるようにしていくであろう。才能あるアメリカの文民を海外に配備するために動員するための方法を検討することも必要である。そこでそうした文民は、戦争と圧制から回復するコミュニティーと国家の民主主義機構を建設することを助けることができるのである。
 現在この危険な時に、米国は、われわれを守る意志のある、抜きん出た、無私無欲な男女に恵まれている。これらの若いアメリカ人は、われわれのイラクにおける大義が高貴なものであり、必要なものであること、そして自由の前進がわれわれの時代の天命であることを理解している。彼らは、孤独な休日を送り、夕食のテーブルに空席があるという静かな犠牲に耐えている家族たちから遠く離れて軍務を遂行している。彼らは、戦友たちがその命をわれわれの自由のために捧げていることを見ている。われわれは、すべての倒れたアメリカ人を悼んでいる。そして、彼らの犠牲にふさわしい未来を作る義務を負っている。
 同胞のみなさん。きたる年、われわれにはさらになる忍耐、犠牲、決意が必要である。アメリカは自由の重荷を棚上げできるのではないかと考えてしまう誘惑もある。しかし、試練の時は、国の気骨をさらけ出すものである。われわれのすべての歴史の中で、アメリカ人は常に悲観主義者から挑戦を受け、そして自由への信念が回復されてきたという経験をしてきたのだ。今、アメリカは新たな世紀の進路を決める新たな闘いをしている。われわれは、勝利できる。勝利していく。
 この試練の時の間中、自由の創造者がわれわれを導いてくださることを信じ、われわれは前進していく。
 ありがとう。
 (おわり)