COMMUNE 2006/09/01(No.365 p48)

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10月号 (2006年9月1日発行)No.365号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  勝利する動労千葉-職場の闘い

□団結守った「分割・民営化」後の闘い
□幕張構内事故との対決と反合・運転保安闘争
資料 動労千葉の戦争協力拒否宣言

●翻訳資料  米国家安全保障戦略(上) ブッシュ・ドクトリン改訂版 土岐一史訳

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/ポスコ資本と闘う非正規労働者 ハジュングン組合員虐殺に怒り−−室田順子

    8・6--8・9反戦・反核

三里塚ドキュメント(7月) 政治・軍事月報(7月)

労働月報(7月)  闘争日誌(6月)

コミューン表紙

    ポスト小泉の攻防

 小泉は首相就任以来6度目の靖国神社参拝を、「公約どおり」と称して8月15日に強行した。朝鮮・中国・アジア人民に真っ向から敵対し、新たな侵略戦争の宣戦布告とも言うべき暴挙に出たことを、怒りを込めて弾劾する。靖国神社は、日帝の侵略戦争、帝国主義戦争を「自存自衛の戦争」と賛美し、東京裁判を完全に否認する戦争全面肯定の神社であり、追悼施設ではなく顕彰施設である。帝国主義の危機の中で、米帝とともに北朝鮮・中国侵略戦争を準備し、米軍再編を強行し、憲法を改悪しようとしているからこそ、靖国参拝をあえて強行したのだ。だが、それは日帝支配階級内の分裂を促進し、国内支配の弱点をさらけ出すものだ。反戦共同行動委員会は靖国弾劾、改憲阻止、小泉打倒へ300人のデモで真っ向から対決した。

 小泉の8・15靖国参拝から、政局は次期自民党総裁(次期首相)が誰になるかを焦点に展開している。安倍晋三で決まりという流れになっている。まったく許すことができない。安倍は小泉以上の極右政治家であり、「つくる会」派、靖国神社派、露骨な天皇主義者である。「拉致問題」やミサイル問題を口実に、北朝鮮に対する侵略戦争を率先して行おうとしている。7月5日の北朝鮮のミサイル発射をとらえて国連安保理の制裁決議を上げるために戦後史上かつてない突出ぶりを日本政府は示したが、その中心人物も安倍である。「敵基地への先制攻撃」論を唱えたのも安倍である。総裁選に向けて出版した「美しい国へ」などで集団的自衛権の行使を主張している。「闘う政治家」と自称して「国のために命を捨てる」と叫んでいるのだ。

 安倍は、改憲実行政権として出発しようとしている。そのために、改憲を準備する法律として、共謀罪新設法案、教育基本法改悪案、改憲のための国民投票法案、防衛庁の「省」昇格法案などを臨時国会で強行を図っている。現代の治安維持法であり、労働者の団結を罪とする超悪法である共謀罪については、杉浦法相が臨時国会冒頭にも採決すると宣言している。そして、教育基本法の改悪は、「教育の目標」に「わが国と郷土を愛する態度を養う」を置き、能力主義の全面化と教育の国家統制を強め、日教組解体を図る、憲法体制の根本的な解体攻撃である。また、国民投票法も、政府・自民党が憲法改悪を強行するためには不可欠な法律であり、必ず強行突破を図ってくるだろう。この秋はこれらの反動攻撃との全面激突の秋である。

 しかし、日本帝国主義は盤石でも、順風満帆でもない。それどころか、国家財政の破産を始めとして体制的危機はきわめて深刻であり、安倍にはそれを解決するいかなる方途もない。労働者階級に犠牲をしわ寄せし、労働組合的団結を一掃する攻撃によって暴力的に突破するしかないのだ。とりわけ、日教組と自治労などの公務員労働者に対する攻撃が戦略的に重視されている。したがって、全逓と国鉄を含む4大産別の労働者の反撃の闘いを軸にして、労働運動の革命的再生をかちとっていくことが、これに対する正しい回答になる。動労千葉労働運動に学び、動労千葉が切り開いた闘いを各産別の現場でつくり出していくことだ。そして、11月、労働者1万人の総決起をかちとろう。今春の闘いは、「日の丸・君が代」強制拒否の闘いと動労千葉の反合運転保安闘争を始めとして、闘えば勝てる展望を大いに切り開いている。  (た)

 

 

翻訳資料

 米国家安全保障戦略〔上〕

 ブッシュ・ドクトリン改訂版  2006年3月 土岐一史訳

 【解説】

 ブッシュ政権が06年3月16日に発表した政策文書「国家安全保障戦略」は02年9月に発表された初版(ブッシュ・ドクトリン)の改訂版である。
 02年の国家安全保障戦略は、敵対国や「テロ組織」に対する先制攻撃や単独行動を打ち出した点で冷戦期以来の米帝の安保戦略を決定的に転換させるものとなった。
 今回の改訂版の最大の特徴は、この立場を引き継いで、イランと北朝鮮の核開発が米国だけでなく世界全体への脅威であり、防衛のためには必要な措置を取る戦略を示したことだ。
 改訂版では外交による解決を優先させる考えが強調されている。だが、実際には、ブッシュ・ドクトリンで初めて打ち出された「先制攻撃戦略」が改訂版でも残されたように、両国に対する先制攻撃という軍事作戦を最大の選択肢として堅持している。
 第2に、改訂版では、先制攻撃を正当化するために、テロやテロ支援に加えて新たに「圧制体制」と「大量破壊兵器の結びつき」を重大な脅威として押し出している。圧制を民主主義に対する敵対物として強烈に描きだし、民主化運動の推進による圧制の打倒の正当性を強調し、さらには圧制を外から軍事的に打倒することの正当性をゴリゴリとイデオロギッシュに主張しているのである。
 圧制体制の例としてイラン、シリア、キューバ、ベラルーシ、ビルマ(ミャンマー)、ジンバブエを名指しし、これら諸国の民主化を口実とした侵略戦争を策動している。
 とりわけ北朝鮮については、国民を飢餓に導き、米ドル札偽造や麻薬密輸の背後にいるとして、金正日体制を非難し、さらなる制裁措置を含む圧力を強化することを示唆している。
 なお、中国に関しては、中国の軍事的台頭に備える必要に言及し、ロシアに関しては民主化に逆行する動きがあるとして警告を発している。
 第三に、この文書は、米帝の中東支配と対決して闘うムスリム諸国人民とイスラム政治勢力に対する敵対的姿勢に貫かれている。
 ブッシュはこの戦略をイスラム政治勢力を指す「憎悪と殺人のイデオロギーに支えられたテロリズム」の興隆との対決のために打ち出した。しかもブッシュは、米国が「冷戦の初期に直面したのと同じような長い闘いの初期段階にある」として、2月に「4年ごとの国防政策見直し(QDR)」で打ち出された「長期戦争」戦略を引き継ぎ、イラク、パレスチナなどのイスラム政治勢力と闘うムスリム人民をせん滅するまで長期戦争を戦うことを宣言しているのである。
 特にイランについては「テロの同盟」「自由の敵」とした上で、「単一国家として最大の脅威」「われわれにとってこれ以上大きな挑戦となる国家はないかもしれない」と述べている。米帝はイランの核保有問題を最重要課題と位置づけ、戦争に訴えてもそれを阻止する姿勢を示しているのだ。
 全体的にみてイラク戦争が泥沼化して以降の米帝の中東支配危機と北朝鮮情勢をにらんだ安全保障政策が打ち出されているが、基本的には02年の初版以上に全世界で侵略戦争を展開することによって米帝の国益を維持しようという姿勢が強化されている。
 このようなブッシュ政権の侵略戦争政策と対決して闘う中東やアジアの人民と連帯して、米帝の新たな侵略戦争を許さない強力な闘いを叩きつけよう。翻訳は長文のため上下の2回に分けて掲載する。

 T.アメリカの国家安全保障戦略の概要

 いかなる国や文化圏においても、世界から圧政を終わらせるという究極の目標をもって民主的な運動や機関を求め、支援するのが合州国の政策である。今日の世界では、諸政権の基本的性格が、各政権間の権力の分配と同じくらい重要である。わが国の外交の目標は、その国の国民の要求に応え、国際体制の中で責任をもって行動する民主的で、よく統治された国家からなる民主主義的世界の創造を援助することである。これが、アメリカ人民に永続的な安全をもたらす最善の方法なのである。
 この目標を達成する仕事は、何世代にもわたる仕事である。合州国は、わが国が冷戦の初期に直面したのと同じような、長い闘いの初期段階にある。20世紀は、ファシズムや共産主義の脅威に対して自由が大勝利をおさめた世紀だった。しかしながら今や、新たな全体主義イデオロギーが脅威になっている。それは世俗的哲学ではなく、尊敬すべき宗教の曲解に基礎を置くイデオロギーである。その内容は、前世紀のイデオロギーとは違うかもしれないが、手段は酷似している。不寛容、虐殺、テロ、奴隷化、弾圧である。
……そのために合州国は次のことをしなければならない。
・人間の尊厳を守ろうとする強い願望を擁護する。
・地球規模のテロリズムを粉砕するために同盟を強化し、わが国と友好国に対する攻撃を防ぐために活動する。
・地域紛争を解決するために他者と協働する。
・敵が大量破壊兵器(WMD)でわが国や同盟国や友好国を脅すのを阻止する。
・自由市場や自由貿易を通じて、世界的経済成長の新時代を切り開く。
・社会を開放し、民主主義の基盤を確立することによって、成長の領域を拡大する。
・世界の他の主要勢力との共同作業のための方針を練り上げる。
・21世紀の課題やチャンスに対応するために、アメリカの国家安全保障機関を変革する。
・チャンスを利用し、グローバリゼーションの課題に立ち向かう。

 U.人間の尊厳を守ろうとする強い願望を擁護する

 A.2002年国家安全保 障戦略の総括

 合州国は自由と正義を守らねばならない。それは、この原則があらゆる地域のすべての人民にとって正しく、真実だからである。この譲ることが出来ない人間の尊厳の要求は、民主国家においてこそ最も安全に保護されている。……

 B.2002年以降の成果と課題

 2002年以降、世界は自由、民主主義、人間の尊厳の拡大という面でたぐいまれな前進を遂げた。
 アフガニスタンとイラクの人民は、圧政国家を民主国家に置き換えた。
 アフガニスタンでは、タリバンの圧政が自由選挙で選ばれた政府によって置き換えられた。アフガニスタン人は、その歴史上かつてなかった権利と自由を保障した憲法を起草し、承認した。選挙で選ばれた議会は人民の声を常に政府に反映させている
 イラクでは、圧政が倒された。800万人以上のイラク人が、この国初めての自由で公正な選挙で投票を行った。自由な議論で取り決められた憲法が、1000万人近くのイラク人が参加した国民投票によって通過した。そして史上初めて、1200万人近くのイラク人が、大衆的に決定された憲法の下で恒常的な政府を選出した。
 レバノンの人民は、外国支配の重いくびきを拒絶した。エジプトの人民は、まだ不備はあるが、以前より開放された選挙を体験した。サウジアラビアは、市民が政府により多くの声を届けられるようにするための準備作業を行った。ヨルダンは、政治プロセスの開放において前進をかちとった。クウェートやモロッコは、政治改革の方針を追求している。
 グルジア、ウクライナ、キルギスタンにおける「カラー革命」〔訳注 運動のシンボルに各種の花の色を使った中央アジアの政治改革運動〕は、ユーラシア大陸全体に自由への期待をもたらした。……

 C.今後の方針

……自由のために闘うことはわれわれの利益を促進する。というのは、国内での自由の存続が、ますます国外での自由の拡大に依存するようになっているからである。市民の尊厳を尊重し、自由を望む政府は、他国に対する責任ある行動をとるようになるが、人民を抑圧する政府は、平和と他国の安定を脅かしている。民主国家こそが国際体制における最も責任ある一員であるので、民主主義を保護することは、国際的な安全保障を強化し、地域紛争を弱め、テロリズムやテロを支援する過激主義に立ち向かい、平和と繁栄を持続させる最も効果的な長期対策である。
 わが国を守り、われわれの価値観を尊重するために、合州国は、圧政を終わらせて効果的な民主主義を推進するための国際的な取り組みをリードすることによって、全地球に自由を拡大させていく。

1.目標の説明。圧政を終わらせる

 ……朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)、イラン、シリア、キューバ、ベラルーシ、ビルマ、ジンバブエなどの国に住む人々は、圧政の意味を肌身に感じて知っている。それは、彼らが毎日耐えている冷酷な現実なのである。そしてそうした国々と国境を接する国は、圧政がもたらす結果についても知っている。圧政者による暴政は、外国の不安定をも招くからである。すべての圧政国家が自由の拡大という世界の利害を脅かしており、中にはWMDまたはテロリズム支援を追求して、われわれの直接の安全保障上の利益すら脅かす圧政国家もある。圧制は避けられないものではなく、最近の歴史は圧制者の破滅的運命を明らかにしている。圧制が次から次へと崩壊しそれにとって代わって民主主義が台頭したことにより、20世紀は「民主主義の世紀」と呼ばれてきた。20世紀半ばには世界で20数カ国が民主的国家であった。50年後には、この数は120になった。民主革命はすべての文化圏と大陸で行われた。
 圧制を支持するものは少ないが、それに対するさらに多くの反対者が必要である。……今日の世界では、いかなる圧政者の支配も、他国の支援、あるいは少なくとも容認なしには生き残ることはできない。圧政を終わらせるには、われわれは、圧政的体制が人民に押しつけている抑圧、虐待、貧困化に対する自由世界の共同の怒りを呼び覚まし、圧政者が世界の安全保障に対してもたらす危険に対する共同の行動を喚起しなければならない。
 圧制の終わりは地球上のすべての災難の終息を意味しない。最後の圧制者が打倒されたはるか後でも、争い、病気、混乱、貧困、不正は民主主義に敵対する圧制を生き残らせるであろう。しかし圧制は容認されてはならない。それは人による犯罪であって、自然に発生するものではないからである。

 2.目標の説明。民主国家の支援

 圧政者が降伏したら、われわれは新たな自由国家が実効性のある民主国家を建設するのを援助しなければならない。……
 個人や政党の選挙への参加は、全市民の平等、少数者の権利、市民の自由、自発的で平和的な権力の委譲、意見の相違の平和的解決などを含むものでなければならない。効果的な民主主義にはまた、個人の自由を保護し、政府が市民に対して敏感に反応し、説明責任を果たすことを保証するような制度が必要である。大衆に情報を伝え、自由な意見交換を容易にする独立したメディアがなければならない。自由に競争する政治結社や政党がなければならない。法の支配は、独立した司法、専門的な立法機関、誠実で有能な警察によって強化されなければならない。
 この原則は、パレスティナ自治区における最近の選挙でのハマス候補の勝利によって試されている。パレスチナの人々は選挙の全過程に参加し、自由で、公正な条件下で投票を行った。
 パレスチナの人々が選挙による選択を行ったので、今や自分たちのための平和、繁栄、独立を前進させるのに必要な措置をとるために選ばれた者が負担を引き受けることになった。ハマスは、意図的に罪のない市民を殺し、テロリズムを容認してきたため合衆国とEUによって、テロリスト組織に指定されている。国際社会は、武装集団および民兵の活動と民主国家を建設することとの間には根本的な矛盾があることを明確にしている。国際社会はまた、2国家並立案による紛争の解決のためには、民主的プロセスに参加するすべての人が暴力とテロを放棄し、イスラエルの生存権を認め、ロードマップに記されたような武装解除を行うことが必要であることを明確にしている。これらの要求は鮮明で確固としており、長期間維持されてきたものである。ハマスがテロリストとしての本質を放棄し、イスラエルとの関係を改めるならば、この政権の一貫した目標である平和と国家独立の機会は開かれている。
 選挙で選ばれたハマスの代表者たちは、少数者の権利の保護と基本的自由、繰りかえし開催される自由で公正な選挙プロセスへのコミットメントなど、民主的統治の原則を擁護する機会を与えられるとともにそうする責任をもっている。こうした原則を尊重することにより、パレスチナの新しい指導者は彼ら自身の自由への関わりを行動で示すことができるし、パレスチナ自治区に永遠の民主主義をもたらすことができる。しかしどのような政府も、こうした原則を尊重することを拒否するならば、たとえ政権についても、完全に民主的だと見なすことはできない。

 3.いかにして自由を前進させるか 目標において原則的に、手段において実利的に

 …… 圧制を終わらせ、効果的な民主主義を推進するために、われわれは利用できるあらゆる政治的、経済的、外交的およびその他の手段を利用していく。例えば次のようなものである。
・人権侵害に対してはっきりと反対すること。
・抑圧的な国において民主的改革者を公然と支援すること。たとえばホワイトハウス、国務省、アメリカ大使館においてこのような民主的改革者たちとハイレベルの会談を行うことによって。
・海外援助を使って自由で公平な選挙、法の支配、市民社会、人権、女性の権利、自由なメディア、信教の自由の発展を支援すること。
・民主主義社会において軍の文官による統制や軍による人権の尊重を支援するために、軍隊への援助や訓練を調整すること。
・人民を寛大に扱いつつ、抑圧的な体制の統治者を標的にした制裁を適用すること。
・他国が抑圧的な体制を支持しないように働きかけること。
・他の民主国家と協働して、特定の国や地域において自由、民主主義、人権を推進すること。
・将来のための中近東・北アフリカイニシアチブ基金、民主主義共同体、国際連合民主主義基金といった新しいイニシアティヴを強化・設立すること。
・非政府組織その他の市民団体の意見を聞いて創造的なパートナーシップを築き、彼らの仕事を支援・強化すること。
・国際連合のような既存の国際機関やヨーロッパ安全保障協力機構、アフリカ連合(AU)、米州機構(OAS)のような地域組織と協働して、それらの民主的活動の実行を支援し、民主主義的憲章をそれがない地域で確立するのを支援すること。
・多数の国の参加する機関による人権と自由の侵害に対する弾劾を支持すること。
・法の支配、腐敗との闘い、民主的説明責任を実行している国々への海外直接投資や海外援助を促進すること。
・法の支配、腐敗との闘い、民主的説明責任を強化することを促すために自由貿易協定を締結すること。……
・宗教的に不寛容なテロリストの敵に対して、われわれは第1の自由を擁護する。すなわち、人民が自らの良心に従って、国家や多数派の強要や、他人に何を信仰すべきかを強要する少数派の強要なしに信仰する権利を擁護する。
・人口の半数が抑圧され、基本的権利が否定されている国は自由ではあり得ない。われわれは女性の固有の尊厳と価値を確認し、女性が社会のあらゆる面に全面的に参加することを積極的に支援する。
・人身売買は現代の奴隷制の一形態であり、われわれはその完全廃絶のために奮闘する。……

 V.地球規模のテロリズムを打倒するための同盟の強化と、わが国と友好国への攻撃を阻止するための活動

 A.2002年国家安全 保障戦略の概要

 テロリズムを打倒することは長期の戦略と旧来の方法からの脱却を必要とする。われわれは地球的な規模で新しい敵と闘っている。合州国はもはや単にテロリストを身動きできないようにしておくという抑止的な方法や、最終的に彼らの試みを挫折させるという防衛的な方法にたよることはできない。敵に対する闘いは、敵を敗走させ続けるものでなければならない。われわれの活動を成功させるためには、友好国と同盟国の協調した行動と支援を必要とする。われわれは、テロリストが生き延びるために必要とするものを奪うために他の国と協力しなければならない。すなわち安全な隠れ場、財政的援助、特定の民族国家が歴史的に彼等に与えてきた支援と保護である。

 B.現在の情勢、成果と課題

 テロとの戦争は終わっていない。アメリカは以前より安全になったが、まだ安全とは言えない。敵がわれわれの成功の程度に合わせて自分たちを適合させているように、われわれもまた現状に適合しなければならない。だが、われわれは多くの成果を上げた。
・アルカイダはアフガニスタンにおける安全地帯を失った。
・イラク人と共に多国籍軍は、攻勢的にイラクのテロリストとの戦争を遂行している。
・アルカイダのネットワークは目に見えて衰退している。首謀者ハリド・シェイク・ムハマドを始めとして9・11攻撃に責任のあるアルカイダネットワークの大半の者は捕えられるか殺された。
・何の罪もない人間を計画的に殺すということは、いかなる天命や大義によっても絶対に正当化されないという世界的合意が広範に存在し、かつ拡大している。
・多くの国がテロリズムとたたかうために同盟し、法律の執行、諜報、軍事、外交活動においてかつてない協力を行った。
・9・11以前は問題を引きおこしていた多くの国が、今や問題を解決する側へ続々と移行しつつある。この転換は、重要地域における親米体制を不安定化させることなく起こった。
・アメリカ政府は、議会と協働して、われわれの基本的な自由を守りつつ、安全保障を前進させる愛国者法などの重要な改革を採用・実施した。
 だが敵の決意は固く、われわれは新旧の課題に直面している。
・テロリストのネットワークは今日、より分散し、より中央集権的でなくなっている。彼らは共通のイデオロギーで武装したより小さな細胞にますます依存し、中央指揮機関による指導はますます弱まっている。
・合州国政府と同盟国は、多くの攻撃を阻止したとはいえ、その全部を阻止できたわけではない。テロリストは、アフガニスタン、エジプト、インドネシア、イラク、イスラエル、ヨルダン、モロッコ、パキスタン、ロシア、サウジアラビア、スペイン、イギリスなど、多くの箇所を攻撃した。しかも彼らは、わが国やその味方・同盟国により破滅的な攻撃を加えるために、WMD(大量破壊兵器)を入手しようとし続けている。
・現在イラクで進行中の戦闘は、テロリストのプロパガンダによってねじ曲げられ、デモのスローガンとなっている。
・シリアやイランなど、国内にテロリストを匿い、海外でのテロ活動を支援し続ける国もある。

 C.今後の方針

 当初から、テロとの戦争は武器の戦いであると同時に思想の戦いでもあった。すなわちテロリストとの戦闘であると同時に、その殺人的なイデオロギーとの戦いである。短期的には、戦いは軍事力や国家権力の諸手段を使って、テロリストを殺害・捕獲する、彼らから安全な隠れ家を奪い、どのような国も支配させない、大量破壊兵器を入手させない、彼らの資金源を絶つというものである。長期的には、テロとの戦争に勝つことは思想の戦いに勝つことを意味する。テロリストの思想は、絶望した者を、何の罪もない人を喜んで殺す虐殺者に仕立て上げかねない思想だからである。
……今日われわれと対峙する国際的なテロリストは、誇り高きイスラムの宗教を、暴力的な政治目的に資するために悪用している。この目的とは、テロリズムと破壊活動によって、一切の政治的・宗教的自由を否定した全体主義帝国をうち立てることである。こうしたテロリストは、ジハードという思想を、彼らが背教者もしくは不信心者と見なした人たち――キリスト教徒、ユダヤ教徒、ヒンズー教徒、その他の宗教的伝統、そして彼らに反対する一切のイスラム教徒――の虐殺の呼びかけへと歪曲している。……
 この思想の戦いを効果的に遂行するためには、何がテロリズムを引き起こし、また引き起こさないのかについて明確な認識を持たなければならない。
・テロリズムは、貧困の不可避的な副産物ではない。……
・テロリズムは、単にアメリカのイラク政策への敵意の結果ではない。……
・テロリズムは、単にイスラエル・パレスチナ問題の結果ではない。……
・テロリズムは、テロ攻撃を防止しようとするわれわれの取り組みへの単なる反応ではない。……
 われわれが今日対峙するテロリズムは、次のことから生まれるのである。
・政治的疎外。国際的テロリストは、自国政府の中で声をあげられず、自国で変革を推進する合法的な道が閉ざされた人々の中から徴募される。……
・他人のせいにされた不満。テロリストが失敗だと感じたり、見なしたことは、他人のせいにされる。……
・陰謀と虚報による培養。世界についての情報が嘘で汚染され、陰謀の理論によって腐敗させられた地域で、テロリストは効果的に兵士を募集する。……
・殺人を正当化するイデオロギー。テロリズムは究極的には、何の罪もない人々を殺すことを容認し、賛美さえするイデオロギーの魅力に依拠している。
 テロリズムを粉砕するには、長期的には次にあげる諸要素がすべて実行される必要がある。……
・疎外にとってかわって、民主主義は社会における所有者としての利益や自分自身の未来を作り出す機会を提供する。……
・殺人を正当化するイデオロギーにかわって、民主主義は、何の罪もない市民を意図的に標的にすることを憎悪する人間の尊厳を尊重する。……
 テロリストのイデオロギーに潜む嘘に対抗する戦略は、テロリストが一番悪用しようとしている当の人々、イスラム教の誠実な信者の権利を拡充することである。……責任あるイスラム指導者は、イスラム教を破滅的な目的のために歪曲・悪用し、誇り高き宗教を冒涜するイデオロギーを弾劾することが必要である。……
 民主主義によって自由と人間の尊厳を向上させることは、今日の国際テロに対する長期的な解決策である。そうした長期的解決策が定着するための場所と時間を作り出すために、短期的にはわれわれは次の4つのステップを踏む。
・テロリストのネットワークによる攻撃を未然に阻止する。……テロリストの中核部分は、怖じ気づかせたり改心させたりすることはできない。彼らは追跡され、殺害され、もしくは捕獲されなければならない。彼らを援助を受けている個人・組織のネットワークから切り離されなければならない。そのネットワークは、広範な手段を活用することによって活動を停止させられ、分断させられ、無力化されなければならない。
・WMDが、それらをためらいなく使用するようなならず者国家やテロリストの同盟国に渡るのを阻止する。……テロリストによるWMDの入手を阻止することは、新しい手段と新しい国際的アプローチを必要とする。われわれは同盟国と協働して、世界中の脆弱な核施設の警備を強化し、WMDに関連するテロリストの活動を検知し、粉砕し、反応する国家の能力を高めている。
・ならず者国家によるテロリストグループへの支援や安全地帯の提供を許さない。テロとの戦争を戦う合州国とその同盟国は、テロ活動を犯す者と、それを支援し匿う者を区別しない。なぜなら、どちらも等しく殺人の罪で有罪だからである。シリアやイランのような、テロの同盟者となる道を選んだいかなる政府も、自由、正義、平和の敵となる道を選んだのである。……
・テロのための基地や出動拠点として使われるいかなる国家も、テロリストが支配することを許さない。テロリストの目標は、生まれつつある民主国家を転覆し、戦略的な国をテロの安全地帯にし、中東を不安定化し、際限のない暴力によってアメリカなどの自由な国を攻撃することにある。こんなことは絶対許すことはできない。だからこそアフガニスタンとイラクでの成功が死活的なのであり、統治されていない地域をテロリストが悪用することを阻止しなければならないのである。……
アフガニスタンとイラク。テロとの戦争の最前線
 テロとの戦争に勝利するには、アフガニスタンとイラクでの戦闘に勝利することが必要である。……
 テロリストは今、イラクを合州国との戦いの中心的な戦線と見ている。……破壊されたイラクの混沌の中でテロリストはアフガニスタンでやったと同じように安全な天国を、今回は地政学的にきわめて重要な地域の中心で樹立できると信じている。彼らはアメリカをイラクで打ち負かし、安定した民主政府が確立されて独自の安全保障がもたらされるようになる前にわれわれが同盟国を見捨てざるを得ないところに追い込もうとしている。そのことで、テロリストはアメリカの力は弱くなっており信用の置けない友人であることを証明してきたと信じている。破壊されたイラクの混沌の中でテロリストはアフガニスタンでやったと同じように安全な天国を、今回は地政学的にきわめて重要な地域の中心で樹立できると信じている。テロリストに降伏したら、同じように彼らに強力な人員徴募の手段を手渡すことになるだろう。すなわち彼らが歴史の前衛であるという認識を与えることになる。
 連合軍に支援されたイラク政府がテロリストを打ち破った時、テロリズムはしたたかな打撃を被るであろう。我々はザルカウィを頭とするアルカイダの最も手ごわい一派を打ち倒し、安全な天国をイラクに求めることを許さないだろう。さらにイラクにおける民主主義の成功は数十年間にわたって不安定さと沈滞の源泉であったこの地域全体に対して自由の成功の発信拠点になるであろう。
 米政府は、イラク人民を助けてテロリストを粉砕し、イラクの反乱を鎮静化させるための戦略を詳細に説明してきた。それには、イラク人民が以下の3つの大路線に沿って活動を一体的に展開するのを支援することが必要である。
 政治面では、イラク人と共同して以下のことを行う。
・平和的な政治プロセスを受けいれようとしない硬直した敵分子を孤立させる。
・政治プロセスの外側にいて暴力を回避しようとしている人々と接触し、この政治プロセスに引きいれる。
・すべてのイラク人の利害を擁護できる安定した、複数政党制の、効率的な国家機関を建設する。
 安全保障面では、イラク治安部隊と協働して以下のことを行う。
・攻勢を維持し、敵兵士を殺害・捕獲し、安全地帯を奪い取ることにより敵の支配地域を一掃する。
・敵の支配から解放された地域を、これらの地域が平和的なイラク政府の支配下に置かれ続けることを保障する適正なイラク治安部隊の駐留によって維持する。……
 経済面では、イラク政府と協働して以下のことを行う。
・放置されているイラクのインフラストラクチャーを再建し、成長する経済の要求や増大する需要に応えられるようにする。
・イラク経済を再構築し、市場原理に基づいて自律させる。
・イラクの諸機関の能力を向上させ、インフラストラクチャーを維持し、国際経済機関に再加盟し、すべてのイラク人の全般的な福祉と繁栄を向上させる。

 W.地域紛争を鎮圧するために他者と協働する

 A.2002年国家安全 保障戦略の総括(略)

 B.現在の情勢。成果と課題

  スーダンでは、合州国は国際的な交渉を主導し、スーダン政府とスーダン人民族解放運動の20年間の紛争を平和的に解決した。
 リベリアでは、合州国は国際的な取り組みを主導し、過酷な内戦を終わらせて平和を回復し、安定性を高めた。
 イスラエル軍はガザ地区やヨルダン川西岸の北部から撤退した。これはイスラエル・パレスチナ関係を変革する展望を切り開き、パレスチナ自治政府が効率的で責任ある政府を立ち上げる必要性を強調するものだった。
 インドとパキスタンとの関係が改善され、高官の訪問という交流やカシミール問題における新たな協力の精神がもたらされた。この協力関係は、破壊的な震災後に行われた人道活動によってより明瞭になった。
 インドネシアをおそった大津波の後の救助活動における共同の取り組みは、アチェ州における激しい分離主義紛争の平和的解決を可能にするような政治的改変をもたらした。
 北アイルランドでは、兵器の破棄をはじめ聖金曜日の和平合意の主要部分の履行が、長年続いた内戦を終結させる上で重要な一里塚となった。
 しかし残存する数多くの地域的課題に、世界は注意を向けなければならない。
 ダルフール州では、貧窮地域の住民が、スーダン政府の支援を受けた残忍な民兵と反乱グループとの間の内戦によって発生した大量虐殺の犠牲者になっている。
 コロンビアでは、民主的な同盟国が、マルクス主義テロリストや麻薬密輸組織の執拗な攻撃と戦っている。
 ベネズエラでは、石油マネーで潤った煽動家が民主主義を掘りくずし、地域を不安定化させようとしている。
 キューバでは反米独裁者が人民を抑圧し続け、地域の自由を破壊しようとしている。
 ウガンダでは、野蛮な反乱カルト(「神の抵抗軍」)が地域紛争を悪用し、無防備の人々を恐怖に陥れている。
 エチオピアとエリトリアでは、悪化する国境紛争が再び公然たる戦争を勃発させる危険がある。
 ネパールでは、残忍な毛沢東主義的な反乱が人々を恐怖に陥れる一方、政府は民主主義から後退している。

 C.今後の方針

 地域紛争は質の悪い統治、外部からの侵略、競合する要求、国内反乱、部族間対立、人種的・宗教的憎悪などの非常に様々な理由から起きる。これらに対処しないと、これらの諸原因は同じような結末をもたらす。すなわち破綻した国家、人災、テロリストにとり安全な地となる統治が行き届かない地域の形成という問題である。
 地域紛争に対処する政府の戦略には3段階の活動が含まれる。すなわち、紛争の予防と解決、紛争への介入、紛争後の安定確保と再建である。
 こうした活動における効果的な国際協力は、能力のあるパートナーの存在いかんに左右される。このため、議会は合州国が外国のパートナーをよりタイムリーで効果的な方法で訓練し装備させることを許可する法案を成立させた。……

 1.紛争の予防と解決

 紛争を予防し解決する最も効果的な長期的手段は、民主主義の強化である。
 ……短期的進展は、主要な地域的要因の姿勢いかんに左右される。一国家における問題に対処する最も効果的な方法は、より広範な地域的文脈においてこの問題に対処することであろう。このような地域的アプローチは特に、イスラエル・パレスチナ問題、アフリカのグレート・レイク地域における紛争、ネパールにおける紛争に特に適用される。

2.紛争への介入(略)

3.紛争後の安定と再建(略)

4.ジェノサイド(略)

 (続く)