COMMUNE 2006/3/01(No.359 p48)

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4月号 (2006年4月1日発行)No.359号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  中国スターリン主義の体制危機

  □経済成長下の貧富の格差拡大、農村切り捨て
  □御用組合・工会の支配ゆさぶる労働者の決起
  □釣魚台、海底ガス田の略奪を本格化する日帝

●翻訳資料 06年米帝ブッシュの一般教書演説

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/非正規悪法とゼネスト対決へ −−室田順子

    

三里塚ドキュメント(1月) 政治・軍事月報(1月)

労働月報(1月)  闘争日誌(11-12月)

コミューン表紙

     不起立闘争の拡大

  小泉政権の危機が深まっている。耐震偽造事件、ライブドア事件、防衛施設庁の官製談合、米国産牛肉輸入停止問題などが次々明らかになっている。小泉=奥田の民営化・規制緩和の正体が露呈している。小泉のファシスト的政治の化けの皮がはがされ、小泉体制がガラスの城であることがさらけ出された。皇室典範改定問題は、天皇制を新憲法の中に強力に位置づけようとする改憲と一体の攻撃であるが、根底には天皇制存続の危機が横たわっている。米軍再編攻撃に対しては、沖縄の全県的な怒りの広がりを始め、岩国、座間、相模原、横須賀など、全国で基地強化に反対する闘いが巻き起こっている。今春の闘いで小泉打倒へ、イラク撤兵要求、改憲阻止、教育基本法改悪阻止、共謀罪法案粉砕などの闘いを爆発させよう。

 この小泉政権の危機を、小泉打倒に向かって本当に切り開くことができるのは教育労働者、自治体労働者、全逓労働者、国鉄労働者の4大産別決戦を軸とする労働者階級の総決起の力である。小泉=奥田の戦争と民営化(労組破壊)の攻撃に屈服した連合、全労連指導部を打倒し、のりこえる闘いが求められている。連合の1・19中執見解は、昨年いったん見送られた7・14改憲見解を巻き返そうとする策動である。そこでは、国民投票法案に賛成し、同時に公務員制度改悪の大攻撃に対して、政労協議の再開を確認し、通常国会に提出される行政改革推進法や市場化テスト法案など、公務員労働者に対する重大なリストラと労組破壊攻撃に全面屈服する方針を確認している。今春の闘いでこれを打ち破らなければならない。

 今年は、1、2月においてきわめて重要な勝利的闘いが打ちぬかれている。2月5日の「処分撤回!解雇撤回!『日の丸・君が代』強制を許さない2・5総決起集会」(都教委包囲・首都圏ネットワーク呼びかけ)には700人が参加し、教育労働者が次々に不起立闘争に決起する宣言を発し、闘う陣形を打ち立てた。さらに、国鉄闘争では、2月16日に1047名闘争団、争議団、原告団が初めて大同団結した総決起集会が開かれ、「解雇撤回・JR復帰」を目指す巨大な一歩が印された。集会主催者の5者は、「被解雇者1047名連絡会」を結成し、国鉄闘争勝利へ踏み出した。この中で動労千葉が大同団結の立場を堅持して集会成功に力を尽くしたこと、反合運転保安闘争として今春闘の先頭に立っていることは重要だ。

 こうした中で、春闘と結びついて、3月卒業式闘争を迎える。「日の丸・君が代」強制拒否の闘いがいよいよ決定的な意味をもってきている。都教委の03年10・23通達に対する闘いは、一昨年、昨年に続いて、さらに巨大な激突になる。不起立決起は、戦争協力拒否の決起であり、改憲と教育基本法改悪に対する闘いを切り開くものだ。逆に帝国主義権力の側から言えば、卒業式・入学式という儀式を制圧できず、教員と生徒を一糸乱れず整然と従わせられないようでは、戦争への挙国一致体制をつくることはできない。教育労働運動、公務員労働運動を圧殺し、「教師=聖職」「公務員=国家の先兵」としてねじ伏せることが、現下の帝国主義権力の不可欠の要求になっているのだ。教育労働者の不起立闘争を拡大すること、すべての労働者がその援軍となって闘うことの中に、日本の労働者階級の進むべき道がある。(た)

 

 

翻訳資料

 ブッシュの一般教書演説

 06年1月31日  土岐一史訳

 【解説】

《長期の対テロ戦争》

 今年の一般教書演説の最大の特徴は、アメリカの「歴史的な長期目標」として「圧政をなくす」こと、「テロとの戦い」を掲げ、長期戦争を宣言していることだ。そして、そのターゲットとして、シリア、ビルマ、ジンバブエ、北朝鮮、イランを名指ししてあげていることだ。内外にわたる「対テロ戦争」がこの演説の過半を占めている。
《やめない、撤退しない》
 とりわけ、この世界的規模での戦争を″やめない”″撤退しない”ということを繰り返し強調していることが重要だ。中止しないとわざわざ強調するのは、戦争遂行がすさまじい危機に陥っているからだ。
 ブッシュの演説開始の直前、イラク戦死米兵の母、シンディー・シーハンさんが、傍聴席で反戦Tシャツ姿になって逮捕されたことは、それを象徴している。
 今、米軍イラク占領部隊は崩壊的ともいえる危機に陥っている。パレスチナ選挙でのハマスの圧勝は、米帝の中東支配の破産を白日の下にさらした。そして、米帝軍部の一部からさえ、ブッシュ政権の戦争指導への反対が公然と表明されるようになっている。たとえば、軍産複合体の利益代表としてこれまであらゆる侵略戦争を積極的に推進してきたジョン・マーサ下院議員も、この戦争指導が破滅的だと言って反対している。
 兵士は、この不正義の戦争と占領へのイラク人民の怒りに包囲され、恐怖に脅えている。そして、自分たちを米政府・軍幹部が消耗品扱いしている現実に日々怒っている。多くの米軍兵士が、防弾チョッキを支給されずに危険地域に派遣されて死亡・負傷している。チェイニー副大統領の会社=ハリバートン社とその子会社は、汚染された川の水を浄化もせず米軍に飲用水として供給した。食糧の欠配で3度の食事が2度、1度になることも、腐った食事を出されることも多い。
 05年、退役軍人省は、26万人の退役者健保適用申請を却下した。退役軍人省は、帰還兵の医療需要が予測の3倍になったため、その分をすべて却下したのだ。
 こうした中で、米軍部隊の士気は急速に低下し、脱走や抗命が多発している。
 ブッシュ政権は、米軍再編(トランスフォーメーション)を加速し、「不安定の弧」を焦点化し、軍の構造と戦争の形態を変えることによって米軍危機を突破しようとしている。それは、使いやすい核兵器の開発・配備、軍の民営化(傭兵化)の推進を含むものであり、結局、米帝の侵略戦争を格段に拡大し、凶暴化していく。
《世界経済でリーダーシップを》
 また、今回の演説では経済について、「世界でのわれわれのリーダーシップを強化する」「アメリカ経済は卓越している」と言っているが、実際には、2005年の貿易赤字は7258億jでブッシュ政権の5年間で赤字が2倍化したことになる。
 特に、2001年まで黒字だった「先進技術製品」がブッシュ政権下で赤字化し、05年には前年比20%増の440億jの赤字になったことは、アメリカの産業的競争力の決定的衰退を示している。
 相手地域別の赤字内訳は対中国が2016億jと絶対額も伸びも群を抜いて大きい。だから、「中国やインドのような新たな競争相手が現れている」と危機感をあらわにせざるをえない。そして、「アメリカ競争力イニシアティブ」(アメリカ競争力強化計画)の推進を叫んでいるのだ。
 この演説で述べられている国内外の基本政策は、「競争力を維持するために〜〜する」とされている。「競争力」が全体を貫くキーワードだ。

《金持ち減税と生活破壊》

 また、この演説は、金持ち減税をさらに推進し、医療・社会保障をカットすることを宣言している。これも「競争力」の名のもとに労働者階級人民に強制しようというのである。
 戦時体制下のアメリカで、労働者階級の生活は、激しく破壊されている。特に失業問題は深刻だ。ブッシュは、「2年半で460万人の雇用を創出した」といっているが、これは労働力人口の伸びを下回っており、事実上の雇用減少である。特に製造業では、5年間で約300万人分の雇用(17%)が減少した。こうした中で、医療・社会保障の切り捨てと、労働組合破壊攻撃が、生活破壊に追い討ちがかけている。
 こうした中で、アメリカ労働者階級は、ニューヨークの都市交通労組(TWUローカル100)のストなど、新たな大爆発に向かっている。だから、ブッシュはそれをねじ曲げ、抑えようと必死になっているのだ。その一つの現れが、冒頭と最後の所で、アフリカ系アメリカ人の解放運動を賛美するかのような言及を行っているのだ。よりによって、公民権運動と奴隷解放の運動の名を米帝の侵略戦争と世界支配のために使おうとしているのだ。

【〔 〕内は訳者による挿入】

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 大統領一般教書演説

 皆さん。下院議長、チェイニー副大統領、国会議員の皆さん、最高裁判所の皆さん、外交団の皆さん、来賓の皆さん、市民の皆さん。本日わが国は、アメリカ建国の理想へ立ち戻らせ、崇高な夢を抱き続けた、愛される、優雅で、勇敢な女性を失いました。今晩われわれは、ずっと以前に亡くなった夫とうれしい再会を果たす期待に安堵し、コレッタ・スコット・キング〔マーチン・ルーサー・キングの妻。彼より早くからベトナム反戦を提唱していた〕のすばらしい生涯に感謝します。
 この演壇に招かれるたびに、私は栄誉の前に身を慎み、ともに歩んできた歴史に思いをはせる。国家的服喪と国家的業績顕彰のこの時に、われわれはこの議事堂に集まっている。われわれは、わが国で最も重大な時期に当たってアメリカに奉仕してきている。皆さん方とともに奉仕してきたことは、私の誇りである。
 2大政党制、2院制、立法と行政との分離のもとでは、今後も常に意見の相違や論争が存在するであろう。だがどんなに厳しい論争も、礼節をもって行われるべきであり、意見の相違が怒りへと硬化することは許されない。目の前の大きな諸問題に立ち向かうために、われわれは善意と互いの尊重の精神で行動しなければならない。私もその一翼をになう。わが国の現状は力強いものである。そして互いに、われわれはもっとアメリカを強くしていく。
 この決定的な年、皆さん方と私は、わが国の将来と性格の双方を決定する選択をしていく。自信を持って自由の敵を追跡するために行動するのか、安易な生活に期待してわれわれの義務から撤退するのか。世界経済を指導することによってわれわれの繁栄を築くのか、貿易と交流の機会から自らを遮断するのか。複雑で困難な時代には、孤立主義と保護主義の道が広く、誘惑的に見えがちである。しかしそれは必ず危険と衰退に終わってしまう。わが人民を守る唯一の道、平和を確保する唯一の道、わが国の運命を自ら決めることができる唯一の道は、われわれのリーダーシップである。だからアメリカ合州国は、引き続き世界を指導するのである。
 海外では、わが国は歴史的な長期目標、この世界から圧政をなくすことに向かって全力を傾注している。この目標を見当違いの理想主義と片づける人もいる。だが実際には、アメリカの将来の安全がここにかかっている。2001年9月11日われわれは、7000マイルも離れた破産した、抑圧的な国家に端を発する問題が、わが国に虐殺と破壊をもたらしうることに気づいた。独裁国家はテロリストを匿い、怨嗟や急進主義を養い、大量破壊兵器を求めている。民主国家は敵意を希望に置き換え、自国市民やその隣人の権利を尊重し、テロとの戦いに参加する。世界での自由に向かうすべての歩みが、わが国をより安全にする。だからわれわれは大胆に、自由の大義にのっとって行動する。
 望みのない夢であるどころか、自由の前進は、今日の偉大な物語である。1945年、民主国家は世界にわずか20そこそこしかなかった。今では122カ国もある。そしてわれわれは、自治の歴史の新しい一章を書いている。投票するために行列を作ったアフガニスタンの女性たちとともに、紫のインクで自らの自由を記した何百万のイラク人とともに、個人の権利と自由の必要性について論議するレバノンからエジプトにいたる男女とともに。2006年冒頭は、この世界の半分以上の人々が民主主義国に住んでいる。だがわれわれは、残り半分を忘れてはいない。シリア、ビルマ、ジンバブエ、北朝鮮、イランのような国々である。なぜなら、正義の要求やこの世界の平和のためには、彼らの自由もまた必要だからである。
 自由の成功を否定できる人は誰もいないが、これに怒り、逆らっている人たちもいる。そして反動と敵対の主な根源のひとつになっているのが過激なイスラムなのである。これは少数の者によって、気高い信仰をテロや死のイデオロギーへ歪曲したものである。ビン・ラディンのようなテロリストは、大量殺人を大まじめに考えている。だからわれわれは皆、表明された彼らの意図を深刻に受け止めねばならない。彼らは全中東に全体主義支配という冷酷な体制を押し付けようとしているのであって、大量殺人兵器で自らを武装している。
 彼らの狙いは、イラクで権力をにぎることであり、そこをアメリカや世界へ攻撃を仕掛けるための安全地帯として使うことである。われわれに直接挑戦するだけの軍事力がないので、テロリストは恐怖という武器を選択してきている。テロリストは、ベスラーンで学校の児童を虐殺したり、ロンドンで通勤客を爆殺したり、しばった捕虜を斬首したりすると、恐怖がわれわれの意志を打破し、暴力的な者たちに地球を相続させることになるだろうと思っている。だが彼らは計算違いをしている。われわれは自らの自由を愛しており、それを守るために戦う。
 試練の時には、われわれの関与を放棄し、国境の内側へ撤退したのでは、安全を見出すことはできない。こうした悪意に満ちた攻撃をわれわれが仮に放置しても、彼らが放置しないであろう。彼らが戦場をわれわれ自身の海岸線へ移動させるだけであろう。撤退の中に平和はない。撤退の中に名誉はない。イスラム原理主義が自らの意志を通すことを許すなら、襲撃された世界を放置して自分だけで何とかやっていくなら、われわれはすべての人に、われわれがもはや自らの理想、いや自らの勇気すら信じていないという合図を送ることになるであろう。だがわれわれの敵も味方も確信していい。合州国は世界から撤退しない。われわれは絶対に悪には屈しない。
 アメリカは孤立主義という偽りの安楽を拒絶する。われわれはヨーロッパで自由を救い、強制収容所を解放し、民主国家の樹立に尽力し、悪の帝国を屈服させた国である。もう一度繰りかえす。われわれは、被抑圧者を解放し、この世界を平和へ導けという歴史の要請を承認している。われわれはテロのネットワークへの攻勢を維持している。われわれはその指導者の多くを殺害、もしくは拘束している。その他の人物にも、いずれその時が来るであろう。
 われわれはアフガニスタンで攻勢を維持している。そこではすばらしい大統領と国会がテロと戦う一方で、新しい民主国家の制度を構築している。われわれはイラクで勝利のための明確なプランをもって攻勢を維持している。第1に、われわれはイラク人が古い敵意を和らげて反乱を取るに足りない勢力にするために包括的な政府をうち立てるのを援助している。
 第2に、われわれは復興への努力を続け、イラク政府が汚職と闘い、近代的経済をうち立てるのを援助している。すべてのイラク人が自由の恩恵を受けるようにするためである。そして第3に、われわれは、テロリストの標的を攻撃する一方でイラク軍の訓練を行っており、イラク軍は日に日に敵を粉砕する力をつけている。イラク人は日々自らの勇気を示しており、われわれは、彼らと自由の大義のもとに同盟していることを誇りとするものである。
 敵が残忍なので、われわれのイラクでの仕事は困難である。だが、その残忍さによっても、新しい民主国家の劇的な歩みを止めることはできなかった。3年もたたない間に、この国は独裁から解放へ、主権獲得へ、憲法へ、国政選挙へと移行した。同時にわが連合は、容赦なくテロリストの潜入を封じ込め、反乱の拠点を掃討し、領土をイラク治安部隊へ引き継いできた。私はこの勝利のためのプランに確信を持っている。イラク人民の意志に確信を持っている。わが軍隊の技術と志気に確信を持っている。市民の皆さん。われわれは勝利するための戦いをやっている。われわれは勝っている。
 勝利の道は、わが部隊を帰還させる道である。われわれがこの地で前進をかちとり、イラク軍がますます主導権をにぎっていけば、わが軍のレベルをもっと下げることができるであろう。しかしそうした決定を下すのは、わが軍の司令官であって、ワシントンの政治家ではない。
 わが連合は、イラクでのわれわれの経験から学んでいる。われわれは、自らの軍事戦術を適合させ、復興へのアプローチを変化させている。ここに至るまで、われわれは両党の国会議員から出された責任ある批判や助言の恩恵を受けてきている。今年も、私は皆さんのよき忠告に耳を傾け、それを求めていく。しかし、成功をめざした責任ある批判と、失敗だけを認めようとする敗北主義とは違う。単なる後知恵は知恵ではない。揚げ足取りは戦略ではない。
 多くのことが不安定な状態にある以上、われわれ公的機関にいる者には率直に発言する義務がある。いきなりわが軍をイラクから撤退させたら、イラクの同盟者を死と牢獄へ追いやることになり、ビン・ラディンやザルカウィのような男に戦略的な国を預けることになり、アメリカからの約束はほとんど無意味なものになってしまうであろう。国会議員の皆さん、過去の決定や論争についてどう思っていようとも、わが国の選択肢はただ一つである。約束を守り、敵を打ち負かし、この死活的任務を遂行するアメリカ軍を支持しなければならない。
 わが軍服の男女は犠牲を払っている。そしていかなる恐怖よりも使命感の方が強いことを示している。迷路のような道で家から家へと戦闘することがどういうことなのか、暑い砂漠で重装備で行動することがどういうことなのか、道端に仕掛けられた爆弾によって戦死した同志を見ることがどういうことなのかを知っている。代価を知る者は利益も知っている。海兵隊のダン・クレイ二等軍曹は、先月ファルージャでの戦闘で戦死した。彼は家族への手紙を書き残したが、彼の言葉はすべてのアメリカ人にも同様に呼びかけるものだと言える。ダンの手紙を読みあげる。「私は名誉とは何かということを知っています。……それは、あなた方すべてを守り、救うという名誉でした。私は、確たる知識をもって死と向き合っているあなた方には必要ないでしょうが……絶対にためらうな! ためらわず、守るに値するものを守る名誉をになうわれわれをたたえ、支援してほしい」
 ダン・クレイ二等軍曹の妻リーザさん、母サラ・ジョーさん、父バッドさんが、今晩この場に参加している。ようこそ。
 わが国は戦死者に感謝しており、彼らはわが国の記憶に生き続けている。われわれは、志願して軍服を着たすべての人に感謝している。そしてわが勇敢な軍隊をたたえる以上、アメリカ軍の家族の犠牲者を絶対に忘れないようにしようではないか。
 われわれのテロへの攻勢は、軍事行動にとどまらない。究極的には、テロリストを打ち負かす唯一の道は、政治的自由と平和的変革という希望に満ちた選択肢を提供して、憎悪と恐怖という彼らの暗黒の展望を粉砕することである。だからアメリカ合州国は、より広範な中東全域の民主的改革を支援する。選挙は死活的だが、それは始まりにすぎない。民主主義をうち立てるには、法の支配、少数者の保護、そして2回以上の選挙に耐えられる強力で説明責任を負っている政府機関が必要である。
 エジプトの偉大な人民は、複数政党による大統領選挙を行った。今や彼らの政府は、急進主義の吸引力を減殺するような平和的野党に道を開くべきである。パレスチナの人民も選挙を行った。今やハマスの指導者は、イスラエルを認め、武装解除し、テロを拒絶し、恒久平和のために活動しなければならない。サウジアラビアは改革への最初の一歩を歩んだ。今やサウジアラビアは、そうした努力をもって前進することによって、人民により良い未来を提案しうるまでになっている。中東の民主国家は、その市民の伝統を反映するから、われわれの民主国家とは異なるものになるであろう。それでも自由は、中東のすべての国の未来である。なぜなら、自由は全人類の権利と希望だからである。
 おなじことがイランにも当てはまる。この国は、人民を孤立させ、抑圧する少数の聖職者のエリートによって人質に取られている。この国の体制は、パレスチナ自治区やレバノンでテロリストを支援している。こんなことは終わりにしなければならない。イラン政府は、核の野望をもって世界に反抗している。世界の国々は、イランの体制が核兵器を獲得することを許してはならない。アメリカは引き続き、世界を結集させてこうした脅威に立ち向かう。
 今晩、イランの市民に直接訴えさせていただく。アメリカはあなた方を尊重しており、われわれはあなた方の国を尊重している。われわれは、あなた方が自らの将来を選択し、自分自身の自由をかちとる権利を尊重している。そしてわが国は、いつの日か、自由で民主的なイランの最も親密な友人になることを望んでいる、と。
 この世界の危険を克服するためには、経済成長を促進し、病気と闘い、絶望の大地に希望を広げることによっても攻勢をとらねばならない。孤立主義は、敵との戦いでわれわれの手をしばるのみならず、絶望的な欠乏にさらされる味方を助けるのを妨げることになるであろう。われわれが海外に思いやりを示すのは、アメリカ人が、エイズにかかった村人や、マラリアにかかった赤ん坊や、大虐殺から逃れた難民や、売られて奴隷にされる少女などの天賦の尊厳と価値を信じているからである。われわれが海外へ思いやりを示すのはまた、貧困と汚職と絶望に支配された地域が、テロ、組織犯罪、人身売買、麻薬取引の温床だからである。
 近年、皆さん方と私は、エイズやマラリアと闘うための、女性の教育を広げるための、そして経済と政治の改革によって前進する発展途上国に報いるための異例の行動を行ってきている。どの地域の人々にとっても、合州国はより良い生活のためのパートナーである。こうした努力をサボるならば、この世界の苦痛と混乱が増大し、長期の治安が損なわれ、わが国の良心が鈍ってしまうことになるであろう。私は国会議員の皆さんに、アメリカの思いやりを示すことで、アメリカの利益に貢献することを強く訴える。
 わが国はまた、ここ国内でもテロへの攻勢を維持しなければならない。敵は、われわれを攻撃する願望も能力もまだ失っていない。幸いこの国には、警察、諜報、軍事、国内治安の各分野にすばらしい専門家がいる。これらの男女は、自分たちの命を捧げており、われわれすべてを守っており、われわれの支援と感謝に値する。彼らはまた、麻薬売買や組織犯罪とたたかうためにすでに使っているあの手段を使い続けるに値する人たちである。だから私は、皆さん方に愛国者法の再認可を訴えるのである。
 9月11日の攻撃以前に、わが政府は陰謀の痕跡をつかむことができなかったと言われる。今では、合州国内の2人のハイジャック犯が、海外のアルカイダ工作員に電話していたことがわかっている。しかし、手遅れになる前に彼らの計画をつかむことはできなかった。二度と攻撃を許さないために――憲法や法律によって私に与えられた権限にもとづいて――私は、テロリスト監視プログラムに、米国内と国外との、アルカイダの作戦隊員や関係者の疑いのある人物による国際通信を積極的に傍受する権限を与えている。歴代の大統領も、私がもっていたのと同じ憲法に保障された権限を行使してきているし、連邦裁判所もそうした権限の行使を承認してきた。しかるべき国会議員にも、そうした情報は伝わっている。テロリスト監視プログラムは、テロリストの攻撃を阻止するのに役立ってきた。これはアメリカの安全にとって不可欠である。もしわが国内にアルカイダと連絡している人たちがいるなら、われわれはその内容を知りたい。われわれは座して再び攻撃されるのを待つわけにはいかないのだから。
 こうしたすべての分野で、テロのネットワークの粉砕から、イラクでの勝利、困難な地域へ自由と希望を広げることにいたるまで、われわれは友人や同盟国の支援が必要である。そうした支援を引き出すためには、われわれは常に、自らの原則と行動する意欲について明確にしておかねばならない。アメリカのリーダーシップがなくなったとき、あるのははるかに危険で不安定な世界だけである。われわれが指導することを選ぶのは、われわれを産み落とした価値に貢献することが栄誉だからでもある。アメリカの指導者たちは、ルーズベルトからトルーマン、ケネディ、レーガンにいたるまで、孤立と後退を拒絶してきている。なぜなら彼らは、自由が前進しているとき、アメリカが常により安全になることを知っていたからである。
 われわれの世代は、決意の固い敵との長期の戦争の渦中にある。それは両党の大統領が戦っていく戦争であり、その大統領は、超党派の国会からの変わらぬ援助を必要とする。今晩、私は皆さん方に訴える。手をつないで、わが国を守り、われわれを防衛している男女を支援し、この世界を自由へと導こうではないか。
 ここ国内でも、アメリカは大きなチャンスを手にしている。世界でのわれわれの経済的リーダーシップを強化することによって、わが国の繁栄を築き上げる所存である。
 わが国の経済は健康で活力があり、他のどの主要工業国よりも速いスピードで成長している。ここ2年半の間、アメリカは460万人の新たな雇用を創出した。これは日本とヨーロッパ連合をあわせたものよりも多い。エネルギー価格の高騰や自然災害に遭遇したにもかかわらず、アメリカ人民は世界の羨望の的となるような経済的成果を達成している。
 アメリカ経済は卓越している。が、自己満足に浸っている余裕はない。ダイナミックな世界経済の中で、中国やインドのような新たな競争相手が現れている。そしてこのことが不確定性を生み出し、それによって人民の懸念がより高まりやすくなっている。こうして、かつての誘惑が頭をもたげている。保護主義者は競争を免れようとして、わが国の経済を囲い込んだとしても高い生活水準が維持できるかのように言っている。政府が、経済を指揮する上でもっと大きな役割を担い、ワシントンにもっと権力を集中し、増税することが必要だという人もいる。移民が経済に何か悪い影響を与えているという主張も耳にする。移民なしにこの経済は機能しないというのに。これらはすべて経済的後退の一種であり、同じ方向へ、つまり停滞した二流経済へと導くものである。
 今私は、より良い道を提起する。国が自信をもって競争するための政策である。生活水準を上げ、新しい雇用を生み出すための政策である。アメリカ人はわが国の経済の将来について懸念しないでいい。われわれはそれを適合させようとしているのだから。
 アメリカの競争力を維持することは、経済成長を維持することからはじまる。わが国の経済が成長するのは、アメリカ人が自分の金をより多く使い、貯金し、投資するときである。この5年間で、皆さん方が通過させた減税措置によって、8800億jがアメリカの労働者、投資家、中小企業、家族の手に残った。彼らは、その金を4年以上も中断なく続いている経済成長を作り出すために使ってきた。しかし減税措置は、あと数年で期限切れとなる。われわれが何もしなければ、アメリカの家族は、期待もしなければ歓迎もしないような全面的な増税に直面することになるであろう。
 アメリカが一時的なものでない拡大を必要としているからこそ、われわれは一時的なものでない減税を必要としている。議会が責任をもって行動し、減税を永続的なものにすることを求めるものである。
 アメリカの競争力を維持するためには、われわれが税金のよき管理人となる必要がある。私の在任期間中毎年、われわれは非安全保障部門の裁量的経費の伸びを減らしてきている。去年には皆さん方は、こうした支出を減らす予算案を通過させた。本年は、私の予算案は再度の削減となり、あまり機能していなかったり、死活的な優先事項を満たしていなかったりしている140のプログラムを削減、もしくは廃止している。こうした改革を通過させるならば、来年にはアメリカの納税者の負担をさらに140億ドル軽減させ、2009年までに赤字を順調に半分に減らすことができるであろう。
 国会議員の皆さんが既得権として使途指定された予算枠の改革に取り組んでおられることをうれしく思う。連邦予算には圧力団体関連のプロジェクトが多すぎるから。皆さん方が一部条項拒否を承認してくれたら、この問題に共同で取り組むことができる。
 われわれはまた、義務的支出、もしくは公的給付というより大きな挑戦にも立ち向かわねばならない。今年、ベビーブーム世代の最初の780万人が60歳を迎える。その中には父の大好きな2人がいる。私とクリントン大統領です(笑)。この一里塚は、個人的な危機以上のもので(笑)、全国的な課題なのである。ベビーブーム世代の退職は、連邦政府に前代未聞の負担を強いることになるであろう。2030年までに、社会保障、メディケアやメディケイドへの支出だけで、総連邦予算の約60パーセントを占めることになるであろう。このことが、将来の議会に不可能な選択を押し付けることになるであろう。めちゃくちゃな増税をやるか、巨額の赤字を出すか、はたまた全分野の支出を大幅にカットするのか。
 議会は昨年、社会保障を救うための私の提案について行動しなかった。しかし公的給付の増加は、立ち去ることのない問題である。毎年行動をしないでいる内に、事態はどんどん悪くなる。
 だから今晩私は、ベビーブーム世代の退職が社会保障、メディケア〔高齢者医療保険〕、メディケイド〔低所得者・「障害者」医療扶助〕に与えるすべての影響を調査するための委員会の創設への協力を呼びかける。委員会は、両党の国会議員で構成され、超党派の解決策を提案するものとすべきである。党派間の政策の違いを脇に置いて、力を合わせてこの問題を解決する必要がある。
 アメリカの競争力を維持するためには、アメリカ人が作り、育てたすべてのものについて市場をもっと開放することが必要である。アメリカの工場の雇用の5分の1は世界貿易と関係があり、われわれはいたるところの人々に米国製品を買っていただきたい。開かれた市場と公平な場においては、だれもアメリカの労働者を生産から排除したり競争から排除したりすることはできない。
 アメリカの競争力を維持するためには、われわれの法律を遵守し、われわれの価値観を反映し、わが国の経済の利益に貢献するような移民制度が必要である。わが国には、秩序ある、確固たる国境が必要である。この目標を達成するために、われわれは移民法の執行や国境警備をより強力にせねばならない。そしてわれわれは、恩赦を拒絶し、合法的に仕事を探す者には臨時の仕事を与え、国境での密入国・密輸や犯罪を減らすような合理的で人道的な外国人労働者プログラムをもたねばならない。
 アメリカの競争力を維持するためには、手頃な価格の医療保険が必要である。わが政府には、医療保険を貧困者や高齢者に供給する責任があり、われわれはその責任を果たしつつある。すべてのアメリカ人のために、われわれは医療費の高騰に立ち向かい、医者と患者との関係を強化し、人民が必要な保険を入手できるようにせねばならない。
 われわれは、電子記録などの健康情報技術をもっと広範に利用する。費用を抑え、危険な医療過誤を減らすためである。われわれは健康貯蓄口座を強化し、個人や中小企業の従業員が、確実に大企業で働く人が現在得ているのとおなじ条件で保険を買えるようにする。さらに、こうした給付を移動可能なものにする。労働者が、健康保険を失う懸念なしに転職できるようにするためである。そして訴訟のせいで良い医者の多くが現場を離れており、おかげでアメリカの1500の郡で女性が産婦人科医のいない状態におかれているので、私は今年、議会に医療義務の改革を通過させるよう要請するものである。
 アメリカの競争力を維持するためには、手頃な価格のエネルギーが必要である。ここに来てわれわれは、深刻な問題を抱えている。アメリカは石油中毒になっており、その石油の多くを世界の不安定な地域から輸入している。この中毒を打破する最善の方法は技術革新である。2001年以来、われわれは100億ドル近くを費やして、よりクリーンで、安価で、信頼性がある代替エネルギー源を開発してきている。そして現在、とてつもない前進の入口にいる。
 そこで今晩、私は「先進エネルギー・イニシアティブ」を宣言する。エネルギー省のクリーンなエネルギーの調査のための予算を22パーセント上積みする。2つの死活的な分野で突破口を開くためである。家庭や職場への電力供給の方法を変えるために、排出ゼロの石炭燃料プラント、革命的な太陽光や風力技術、そしてクリーンで安全な核エネルギーを開発する。
 われわれはまた、自動車への動力供給の方法を変えねばならない。われわれは、ハイブリッドカーや電気自動車のバッテリーの改良、水素で走る空気を汚染しない車の研究を強める。われわれはまた、エタノール製造の先端技術の研究に追加投資する。トウモロコシだけではなく、木のチップや茎、あるいはスイッチグラス〔成長の早い多年草〕からもエタノールを作る。われわれの目標は、こうした新たなタイプのエタノールを、6年以内に実用化し、競争力のあるものにすることである。
 これらを始めとする新技術のブレークスルーによって、われわれはもう一つの偉大な目標に到達することができる。2025年までに、わが国の中東からの石油輸入量を75パーセント以上削減することである。アメリカの叡智と技術を適用することによって、この国は自らの環境を劇的に改善し、石油依存の経済から脱却し、中東石油への依存を過去のものとすることができる。
 そしてアメリカの競争力を維持するために、あらゆるものにまして重要な責務がある。われわれは人間の才能と創造性をもって世界を指導し続けねばならない。世界におけるわれわれの最大の利点は、常に教育のある、勤勉な、大望のある人たちだった。そしてわれわれは、優位性を保っていく。今晩私は、「アメリカ競争力イニシアティブ」を宣言する。わが国の経済のいたるところで技術革新を促進し、わが国の子供たちにしっかりとした数学と理科の基礎を身につけさせるためである。
 第1に、物理的科学の最も重要な基礎研究プログラムへの連邦の関与を、次の10年で2倍にすることを提案する。この財政支援は、ナノテクノロジー、スーパーコンピューター、代替エネルギー源といった前途有望な分野を開拓するに当たって、アメリカの最も創造的な頭脳の労働を支援するものである。
 第2に、研究・開発分野の税の減免措置を恒常的にすることを提案する。技術におけるより大胆な私的部門のイニシアティブを促進するためである。公的・私的両部門でのさらなる研究によって、われわれは生活の質を向上させ、これから数十年間、機会と技術革新の両面でまちがいなく世界を指導していく。
 第3に、われわれは子供たちにもっと数学と理科を学ばせ、この両科目が、他国と競争する厳格な科目であることをはっきりさせることが必要である。低学年については、すでにノー・チャイルド・レフト・ビハインド法によっていいスタートを切っている。これは全国で学力水準を上げ、テストの点数を上げている。今晩私は、7万人の高校教師を訓練して数学と理科の飛び級コースを指導させ、3万人の数学と科学の専門家に教室で授業させ、数学に苦しむ生徒に早期の援助をして、彼らが好条件・高賃金の仕事に就けるチャンスを広げることを提案する。アメリカの子供たちの人生での成功をわれわれが保障するなら、アメリカの世界での成功を彼らが保障するであろう。
 わが国が世界の競争に備えることは、われわれすべてが共有しうる目標である。私は皆さん方に、「アメリカ競争力イニシアティブ」を支持することを求める。そしてともに、世界にアメリカ人民が何を達成しうるのかを示そうではないか。
 アメリカは、自由と繁栄のための偉大な勢力である。しかし、われわれの偉大さは権力や贅沢品によってはかられるのではなく、われわれが何者であるのか、われわれがどのようにお互いを扱っているのかによってはかられる。だからわれわれは、思いやりがあり、礼節があり、希望のある社会になるために努力している。
 近年、アメリカはより希望のある国になってきている。凶悪犯罪率は、1970年以来の最低レベルまで低下した。福祉資金受給者は過去10年間で半分以下に減った。若者の薬物使用は2001年から19パーセント減った。アメリカでの妊娠中絶はここ30年間のどの時期よりも低い数字であり、10代の母親から生まれる子供の数は12年連続で下落している。
 こうした成果は、静かな変革が進行している証拠である。それは良心の革命であり、勃興する世代は、個人責任の人生こそが充足した人生であることに気づきつつある。政府はその一翼を担ってきている。福祉改革、薬物教育、それに禁欲や養子縁組の支援などの賢明な政策が、わが国の性格を様変わりさせてきている。今晩ここにおられるすべての皆さんが、民主党であろうと共和党であろうと、この数字に誇りを持つ権利がある。
 しかしながら多くのアメリカ人が、特に親たちが、われわれの文化の進む道について、またもっとも基礎的な制度の健全性について、まだ深い懸念をいだいている。彼らは公務員による非道徳的な行為を懸念しており、結婚を再定義しようとする活動家法廷に失望している。彼らは、われわれの社会で監督と愛を必要とする子供たちについて、自然災害によって今も避難生活を余儀なくされている仲間の市民たちについて、治療可能な病気によって引きおこされる苦痛について心配している。
 こうした課題を見たとき、われわれは断じて、アメリカが衰退しているとか、わが国の文化が解体する運命にあるとかいう見解に屈してはならない。アメリカ人民はもっとよく事態を知っている。われわれはこれまで、悲観主義者が誤っていたことを証明してきたし、今度も証明していく。
 希望のある社会は、法の下で平等に裁判する法廷に依存している。最高裁判所には、今やすばらしい裁判官2人が加わっている。新たに裁判官席に座るのは、ジョン・ロバーツ最高裁長官と、サム・アリート判事である。上院が両者を承認してくださったことに感謝する。私は引き続き、裁判官は法の番人でなければならず、裁判官席から法を制定してはならないことを理解した男女を指名していく。
 本日、実にすばらしいアメリカ人が公式に引退する。24年間ものわが国への誠実な奉仕に対し、合州国はサンドラ・デイ・オコナー判事に感謝する。
 希望のある社会には、道徳的な視野を切り捨てず、すべての命の比類ない価値を認識した科学機関や医学機関がある。今晩、私は皆さん方に、医学研究の最も目に余る濫用を禁止する法案を通過させるよう訴える。あらゆる形態のヒトクローンの作成、実験用の胚の作成や移植、人間と動物との雑種の作成、人間の胚の売買とその特許権取得の禁止立法である。人間の命は、造物主からの贈り物である。そしてこの贈り物は、決して切り捨てたりおとしめたり売りに出したりしてはならない。
 希望のある社会では、選挙で選ばれた役職者が大衆の信頼を裏切らないことが前提である。両党の名誉ある人々は、ワシントンの倫理基準を強化するための改革を進めている。私は皆さん方の努力を支援する。われわれの一人ひとりが、公的責任に値する人物になる誓約を交わしている。これは、われわれが絶対に忘れてはならない、絶対に退けてはならない、絶対に裏切ってはならない誓約である。
 わが政府機関の約束を更新した暁には、今度は慈悲と互いへの思いやりの面でアメリカの品格を示そうではないか。
 希望のある社会は、監督と愛を失った子供たちに特別の注意を払う。「アメリカ青少年援助イニシアティブ」を通じて、われわれは大人に、子供の生活に関与するようすすめている。そしてこの良き仕事は、われわれのファースト・レディー、ローラ・ブッシュが指導している。本年は、若者が学校にとどまるよう勧めるための資金を増額する。より多くのアメリカの青年が、高い望みを持ち、夢を叶えることができるようにするためである。
 希望のある社会は、苦難と緊急事態にあえぐ仲間の市民への援助に駆けつける。そして彼らが自力で帰るまでそこにとどまるのである。これまで連邦政府は、メキシコ湾岸やニューオーリンズの人々に850億ドルを投じてきている。われわれは瓦礫を撤去し、幹線道路を修理し、より強力な堤防を再建している。われわれは事業金融や住宅援助を供給している。しかしこうした緊急の需要に対応しながらも、われわれは嵐がやってくる前から存在していたより深刻な挑戦にも対処しなければならない。
 ニューオーリンズなどの場所では、わが市民の多くがわが国の約束から疎外されていると感じている。その答えは、一時的な救済措置だけではなく、すべての子供を教える学校であり、上向きの流動をもたらす職業技能であり、家を持ったり、起業する機会である。われわれが災害から復興したら、すべてのアメリカ人が正義によって守られ、希望において平等であり、機会において恵まれる日をめざしてがんばろうではないか。
 希望のある社会は、エイズなどの病気とたたかうために大胆に行動する。この病気は予防でき、治療でき、そして克服できるのである。100万人以上のアメリカ人がHIVに感染しており、全エイズ患者の半分はアフリカ系アメリカ人から発生している。私は、議会にライアン・ホワイト法の改正・再承認を求め、各州へ新たに資金を拠出する。アメリカ国内でエイズの治療薬を求めて患者が待たされている状況をなくすためである。われわれはまた、全国規模の取り組みを指導し、何百万の人々に早急にHIVテストを受けさせるためにアフリカ系アメリカ人教会や宗教グループと連携し、エイズの烙印を払拭し、アメリカに新たな感染が存在しない日に向かって歩んでいく。
 市民の皆さん、われわれは重大な時期のリーダーの役に召されたのである。われわれは、大イデオロギー抗争へ突入した。それをわれわれが招いたわけではないが。われわれは科学と商業において、すべての人の生活に影響をおよぼす大転換を経験している。時には歴史が大きな円弧を描いて、未知の海岸へ行ってしまうかのように見えるかもしれない。しかしながら歴史の運命は人間の行動によって決定されるのであり、歴史の偉大な運動はすべて、選択の岐路に立たされるのである。
 もしリンカーンが和平を受け入れていたら、分裂や奴隷制継続と引き替えになっていたであろう。もしマーチン・ルーサー・キングが、バーミングハムかセルマで闘いを止めていたら、人種隔離への勝利を半分しかかちとれなかったであろう。合州国がヨーロッパの恒久的分断を受け入れていたら、他国の抑圧に加担していたということだ。今日、自分自身の長い旅路を歩んできたわれわれは、決断せねばならない。引き下がるのか、それともやり遂げるのか。
 歴史は書物に書かれる前に、勇気に書かれねばならない。アメリカの先人たちのように、この勇気を示し、やり遂げよう。自由の前進を指導しよう。地球規模の経済で競争し、勝利しよう。決定的な人道的関与を再開しよう。こうしてわれわれは前進する。わが国に明るい展望をいだきながら、その大義に確信を持ちながら、そして来るべき勝利に自信をもちながら。
 アメリカに神の祝福を。(終り)