翻訳資料-1
アメリカ東海岸港湾労組の改革運動
村上和幸訳
【解説】
アメリカ東海岸の港湾労組の労働協約批准投票で、改革派が従来の常識では考えられない目覚しい前進を勝ち取った。
アメリカでは、港湾労働者の組合が東海岸と西海岸とで別々になっている。
西海岸の国際港湾倉庫労働組合(ILWU)は、全米でもっとも階級的、戦闘的と言われる組合だ。「ランク・アンド・ファイル(一般組合員)の組合」ということを、「ILWUの10原則」のトップに掲げ、全組合員の民主的討論を何より大切にする組合だ。そして、組合の団結の生命線として、労働者の差別・分断と闘ってきた伝統をもっている。組合員に選出された役員が公平に運営するハイヤリングホール(就業斡旋所)を通して、えこひいきなしに全労働者が就業できるシステムが、それを保証している。
ILWUが、組合員のための組合という当たり前の労働運動を貫くためには、1934年のゼネストと37年の国際港湾労働者組合(ILA)からの分離独立を経ることが必要だった。ILAは、資本と結託した幹部が組合員を支配する組合だったからだ。
東海岸では、今でもこのILAが港を握っている。本部役員は、公式に30万jを超える年間給与を得ているだけでなく、マフィアと癒着してもっと巨大な利権を持っている。そして、アメリカ労働者人民の反戦運動の高まりの中で、きわだって露骨にブッシュ政権のイラク戦争を支持している。
ILAのハイヤリングホールは、ILWUのものとは正反対の役割を果たしている。幹部が就業斡旋で生殺与奪の権を握ることによって、組合員を支配する道具になっているのだ。
だが、この厳しい支配構造を食い破って、東海岸の港の中から、階級的に闘う労働運動が台頭してきている。
サウスカロライナ州チャールストン港のILAローカル(支部)1422のケネス・ライリー現委員長らは、沈滞した右翼的な支部の中で改革派を組織し、1996年に支部委員長選に勝利した。そして港湾で戦闘的に闘って労働者の権利を守る1422支部は、超反動的・反労組的・人種差別主義的なサウスカロライナ州の中にあって、全産業部門、全コミュニティーの反撃の軸になっていった。そしてライリー委員長らは、カナダからメキシコ湾岸まで、全ILAの支部で改革派の連係を強めていった。98年には、港湾労働者連合(LWC)という改革派組織を立ち上げている。
本部による処分乱発と恫喝にかかわらず、改革派は急速に拡大した。成功のポイントは、「ILWUと共に闘おう」を徹底的に前面に掲げて組織したことだ。ほとんど同じ海運会社を相手に闘っているのに、ILWUと共闘しなくては資本との力関係を強められないという物質的現実が説得力をもった。また、戦闘的に闘って圧倒的に有利な労働条件を獲得しているILWUの姿が、東海岸労働者に勝利の確信を与えていった。
戦闘的労働運動の台頭に対して危機感にかられた海運会社は、1422支部破壊のために労働協約を破って組合員以外の労働者を使った荷役を強行した。これに反対するピケに対し、00年1月、州政府は警察犬から装甲車・ヘリコプターまで動員して襲いかかった。そして、「暴動」をデッチあげ、5人の組合員(1422支部の4人と1771支部〔事務職〕の1人)を逮捕・起訴した。「チャールストン5事件」である。
この弾圧に反撃するチャールストン5闘争は、一挙に全米、世界に広がった。直後から、ILWUローカル10がチャールストン港のピケラインに共に立ち、ILWU本部、国際港湾労働者協議会(IDC)、国際運輸労連(ITF)、そしてアメリカのナショナルセンターであるAFL−CIOと、連帯・支援の陣形が広げられた。そのため、ILA本部は、反本部派であるLWCを軸とするこの闘いに対して、公然とは反対できない力関係となった。隠然たる妨害工作を続けつつ、ILAのホームページでは、チャールストン5への支援を呼びかけた。
IDCの軸であるスペインの港湾労組は、チャールストン5事件の発端を作った海運会社ノルダナに対し、チャールストンで非組合員荷役を続けるなら、荷役をボイコットすると通告した。
そして、01年12月、検察は、起訴を取り下げた。
この大勝利をバネにして、LWCは、ILA内でさらに攻勢を強めた。米西海岸や欧州の組合がチャールストン5に連帯してノルダナ社の船をボイコットしているときに、ニューヨークなどでILA幹部が組合員にノルダナの荷役をやらせたという事実が決定的論点となった。西海岸、全世界の港湾労働者と団結して闘おう、全産業の労働者と団結して闘おうという主張が圧倒的な共感を集めた。
今回の労働協約批准反対闘争も、労働者への分断攻撃を許すのか、団結を強化するのかを第一の争点として組織されていった。
@東海岸港湾の労働協約への「反対票」運動
多層賃金・手当システムに組合員の怒り 『レーバーノーツ』04年6月号 カール・ビアーズ、マーシャ・ニーメイジャー
国際港湾労働者組合(ILA)の組合員と役員のグループが、東海岸の1万5千人の港湾労働者をカバーする新たな親協約(複数の企業にまたがる労働協約)批准に、反対投票を呼びかけている。彼らは、多くの港湾労働者が同一労働をする他の労働者よりもはるかに低い賃金しか得られない多層システムの賃金格差を埋め、廃止していくことを求めている。
この労働協約は、支部段階での団体交渉が終わった後で、6月初めに投票される予定だ。
サウスカロライナ州チャールストンのILAローカル1422(第1422支部)の組合員、レオナード・ライリーは言う。
「反対票運動は、ストライキの呼びかけではなくて、われわれの要求をもっと反映してくれる者に団体交渉をまかせようということだ。現行の労働協約の期限は、9月30日まであるのだから、もっとましな協約ができるはずだ」
この協約の打破は、海運会社に対してもっと戦闘的な姿勢をとっていこうと訴えている者の勝利となる。そして、ILAの幹部にいっそうの打撃となる。ILA幹部は、非組合員による荷役を行う海運会社の増大を許してILAの交渉力を弱体化させたと批判され、孤立してきたのだ。
反対票運動を推進するグループは、非公式に「憂慮するILA組合員」と呼ばれている。ニュージャージー/ニューヨーク、デラウエア州ウィルミントン、〔ペンシルベニア州〕フィラデルフィア、〔メリーランド州〕バルチモア、サウスカロライナ州チャールストン、フロリダ州ジャクソンビルなどの東海岸の港湾の組合員と役員が参加している。
キャラバンをしたてて港から港をまわって宣伝活動をし、「反対票を」というビラを配り、メディアの注目も集めるようにしている。前回の1996年の労働協約の時には、いくつかの支部では反対票のほうが多かったのだが、近年のILAの歴史の中で、全組合規模での労働協約反対運動は存在しなかった。
労働力の多層化
反対派が強調していることは、この労働協約は、雇用者、つまり国際海運会社や荷役会社に膨大な利益を与えるものだということだ。国際港湾倉庫労働組合(ILWU、西海岸の組合)は、雇用者が要求している永続的な二層システムを拒否している組合として、彼らのモデルになっている。
ILA組合員の最上層(96年以前に雇用された労働者)は、時間当たり賃金が27jだが、この層はますます少なくなっている。第二の層は16jから21jだ。この層が増加している。
現在提案されている労働協約では、96年の以前と以後に雇用された者の間の賃金格差は少しずつ縮小されることになっている。しかし、新たに設けられる第三層の労働者は、16jから出発するが、格差を埋める道は閉ざされている。この労働協約が期限切れになる2010年には、第三層の時間賃金は、その上の層と比べて、8jないし15j低いものとなる。
反対派は、この協約によって、雇用者は新たな労働者の割合を増やすほど得になると主張している。古い労働者がやっていた仕事が、新採労働者に回されることになるという。
もうひとつの重要な点は、健康保険だ。健康保険基金の赤字を減らすためとして、組合は、健康保険受給資格の制限に同意した。労働時間が年間700時間に達しない労働者は、健康保険をまったく受けられない。フルに受給できるためには、1300時間以上働く必要がある(現行協約では、1000時間)。雇用斡旋で不公平、えこひいきがある現状では、少数の労働者しかフルに受給できないということだ。
ILA広報担当、ジェームズ・マクナマラは、各層が占めるパーセンテージの統計数字を組合は持っていると言う。しかし、ILAはその数字を公表しない。フィラデルフィアのILAローカル1291の副委員長であるロイス・アダムズの見積もりによれば、フィラデルフィア港での下の層の労働者の割合は、約60%だという。
ニュージャージー/ニューヨーク港では、この10年間に組合が数次にわたる新規雇用を認めてきたために、この層の割合は80%にものぼる。ニュージャージーの組合員の推計によれば、今度の契約が満了する2010年には90%になる。これはニューヨーク港湾委員会の統計の雇用傾向と一致する。
複雑怪奇?
「ILAの歴史上、もっとも優れた労働協約の一つだ」
とマクナマラは言う。ILWUの労働協約の水準に達していないと批判されている点については、今の環境の下でILAが達成できる最良のものなのだと主張している。
ILWUの港湾労働者の労働協約と比較するのはフェアーではないとマクナマラは述べる。確かに彼らのほうが賃金が高いが、彼らはコンテナー手当を受けられない。また、ILWUは、「労働する権利法」〔ユニオンショップ協約を禁止する法律〕の下で運営されている港湾との競争にさらされていないが、ILAの東南の沿岸諸州では「労働する権利法」が施行されている、と。
フィラデルフィアのILAローカル1291のロイス・アダムズ副委員長は、次のように批判する。
「この労働協約に反対しているのは、永続的な二層賃金・手当システムを廃止するためだ」
「同一労働には、同一の賃金と同一の手当・福利があるべきだ。われわれの組合は、雇用者が労働者を分断することを許している。古くからの労働者と新規雇用者と。西海岸と東海岸と。ひとつの民族・人種グループと他の民族・人種グループと。今こそ、こういう分断に反撃する時だ」
そしてレオナード・ライリーは、
「マクナマラの過去の労働協約についての評価は、あまりにもめちゃくちゃだ。これまでの労働協約は、コンテナー手当、年間所得保障、職業訓練、健康保険、年金を獲得してきた。こんどの労働協約では、こうした手当・福利を大幅にカットし、96年に保障された年間所得を失ってしまう」
と批判している。
反対派は、東海岸で群を抜いて巨大な港であるニューヨーク/ニュージャージーの港に深く浸透できるかもしれない。そこでは、この10年間の洪水のような新規採用の波で、下位の層が急膨張してきた。ニュージャージーの組合員は、この協約の欠陥が明らかになるにつれて、投票が組合員が不満を表明する舞台になりつつあると言っている。組合員たちは、上の層の切捨て、仕事斡旋でのえこひいき、福利を得るのに十分な労働時間を確保できないという現状に憤慨しているのだ。
現在のILA内の改革運動は、組合を排除している海運会社の増大に対するILAの無策の結果として生まれたものだ。改革派リーダー、ローカル1422のケン・ライリー委員長がこれまで主張してきたことは、組合の資金は本部役員の高給にでなく、組織化に使うべきだということだった。
「われわれが、ILAにもっと民主主義を持ち込もうという運動をやっているのは、ILAを強い組合にしたいからだ」
公正な投票を
マクナマラは、労働協約が圧倒的多数の賛成票で承認されると予想していると語った。
反対派は、投票のプロセスが公正に行われるように取り組んでいる。弁護士に相談するとともに、ILAのバウアーズ委員長に、しかるべき投票の方法と、彼らが持っているプロセスを監視する権利について書いた書簡を送った。
「われわれが公正な投票を確保できれば、ILA指導部にとっては困ったことになるだろう。チャールストンやウィルミントン、バルチモアなどの港では、組合員は、本部の雇用者側への譲歩に対してずっと以前から怒っている。支部役員の本部に対する批判に報復してきたことにも憤慨している」
と、デラウエア州ウィルミントンのILAローカル1694の組合員、リック・セファスは語った。
A港湾の協約、小差で承認 反対派は「不正投票」と主張
『レーバーノーツ』04年7月号カール・ビアーズ、マーシャ・ニーメイジャー
国際港湾労働組合(ILA)の中の協約反対勢力は、6月8日の協約投票に抗議している。多くの港で、投票に対する脅迫や場所・時間についてのニセ情報流布を含む重大な不正があったといっている。
反対派は驚くべき力を示した。不満の深さは、彼ら自身が思っていた以上だった。投票まで8週間という短い期間にもかかわらず、投票率は高まり、「反対票」キャンペーンに積極的な反応が生まれ、反対の意志が拡大していった。
「ILAの歴史の中で、こんな小差の労働協約は初めてだ。これは大きな勝利だと思う。われわれは、まだ決着がついていないと考えている。これは、われわれの組合を改革するための、もっと大きな戦いの一部だ。腐敗がなく、強力で民主的な組合をわれわれは求めている」
とサウスカロライナ州チャールストンのILAローカル1422の改革運動リーダー、レオナード・ライリーは語った。
労働協約反対派は、それが多層賃金基準を継続し、さらに拡大すること、そして三層の健康保険プランの導入、労働協約の6年間という長さに反対している。
いくつかの港では、組合員が圧倒的多数で労働協約を否決した。投票の前に、いくつかの支部は、キャラバンを組織して東海岸を南北に縦断し、港をまわって協約への反対運動を強化していった。
訪問した港の一つがバージニア州ハンプトン・ロード港だ。そこの組合員はキャラバンを熱烈に歓迎した。そこでは労働協約案が通知されておらず、反対している組合員の存在も知らなかった。ハンプトン・ロードでは、85%の投票率、1225対218で圧倒的に労働協約承認が否決された。
不正
ILAは、投票の支部ごとの内訳を発表することを拒否している。そして、5084対3920で労働協約が承認されたと主張している。
しかし、「憂慮するILA組合員」という非公式組織の反対派は、ほとんどの支部で独自の集計を行い、もっとも大きな港のうちいくつかで労働協約が否決されたと言っている。ほぼ36の支部のうち、少なくとも6つで、不正のために結果の有効性に疑義があるという。不正がなかったら、勝利していたはずだと考えている。
ニュージャージーの第1235支部では、組合代表が協約反対派の手から投票用紙をもぎ取ったという。この支部の委員長で、本部の副委員長であるアルバート・セルナーダスは、この様子を見ていた。フロリダ州ジャクソンビルでは、組合員は組合集会の開催は知らされていたが、投票については教えられていなかった。通常は、12時間かけて行われる投票が、たったの2時間で行われたため、多くの組合員が投票できなかった。
ハイヤリングホール(就業斡旋所)での差別が歴史的に行われてきたルイジアナ州のレーク・チャールズでは、前日の夜まで投票が告示されなかった。投票は、脅迫的な雰囲気の中で行われた。ヒューストンや他の支部で同様のことがあったと報告されている。
ほとんどの港湾労働者は、組合が支配するハイヤリングホールを通じて就業している。いくつかの支部では、組合役員がその就業支配を通じて、恐怖とあきらめの雰囲気を作り出している。
連邦法(個々の組合員の一定の権利を保護するランドラム・グリフィン法)によって、労働協約投票は、「公正で意味のあるもの」でなければならないと規定されている。つまり、組合員は労働協約案について知らされ、投票日時・場所を通知され、脅迫のない空気の中で投票する権利がある。反対派は、この権利を貫くために法的手段も選択肢に入れている。
東海岸の南北にわたるいくつかの支部の一般組合員と役員は、組合に書簡を送り、労働協約への署名を控えること、彼らの訴えについて調査すること、そして必要なら再投票にかけることを要求した。支部ごとの投票の内訳を発表することも求めている。そして、投票に疑義が出されていること、投票プロセスがまだ終わっていないことを本部が雇用者団体に通知することを求めている。
「ILAの情報隠し戦略にはあきれるばかりだ。労働協約は、本当の情報が知らされないまま、そして討議の時間が不十分ななかで強制された。現行協約は9月30日まで期限切れにならないのに」
と、デラウエア州ウィルミントンのILA第1694支部のリック・セファスは語った。
本部は、こうした批判に回答していない。
決起
「東海岸の南から北までこの協約で売り渡された。本部役員は、港と港を争わせようとしている。96年、彼らは年金を削減して、ニューヨーク/ニュージャージの支部を売り渡した。今、彼らは全国協定で、雇用者側への譲歩に合意した。組合員の怒りを、年金の引き上げでなだめながらだが。しかし、多くの組合員はだまされない。もっと強力な労働協約を求めて決起している」
とライリーは語っている。
この状況を見た人は、反対票運動の広がりに驚いている。投票日の数週間前、ILAは労働協約は圧倒的多数で承認されると言っていた。だが、ILA広報担当のマクナマラは、「予想に反して小差だった」と言わざるを得なかった。
組合員は、6月8日に支部レベルの労働協約についても投票した。そのいくつかは否決された。「憂慮するILA組合員」は、支部協約交渉が再開される港湾のために、連帯委員会を組織するつもりだと言っている。
ハンプトン・ロードにキャラバンで行ったある組合員は、
「この契約とその投票プロセスに不満をもっている組合員一人ひとりに、われわれは接触していく。これは単なる労働協約投票ではなく、この組合の真の変革のための投票だったのだ」
と語っている。
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