翻訳資料-1
●翻訳資料 1
『徹底的断絶―国土保全の新戦略』
1996年7月 イスラエル上級政治・戦略研究所
村上和幸訳
【解説】
この文書は、96年に出されたが、現在の情勢の中で再び全世界で論議の的となっている。
文書の作成者たちはウォルフォウィッツ国防副長官らとともに、ネオコンザーバティブ(新保守主義者)と呼ばれる。90年代のブッシュ政権実現運動を担い、現政権成立後は、その中枢に入った。
作成者の筆頭、パールは、国防諮問委員会の議長となり軍事戦略と国防省と軍の再編の先頭に立った(最近、腐敗を追及されて辞任)。ファイスは国防省ナンバー3=政策担当国防次官だ。
世界支配の要=イスラエル
報告書はすでに96年に、先制戦略、イラク侵略戦争への衝動と、現在の「中東自由貿易圏」、「ロードマップ」の方向を示している。
そして、この報告書は、イスラエルの研究所から出された。作成者は、イスラエルと密接な関係にある者ばかりだ。パールはイスラエル軍需企業の取締役であり、ネタニヤフ首相の登場に際して、選挙対策を取り仕切った。
こうしたことから、新保守主義勢力が中枢を占めるブッシュ政権を、イスラエルのためにイラク戦争などを行っているという見方が流布されている。だが、これは事態を逆転させた見方だ。アメリカ帝国主義の世界支配にとって、イスラエルは死活的なのだ。イスラエルは、世界の中でも稀な、最大級に重大な戦略的位置にある。
第一に、他では代替不能な巨大産油地帯に位置している。第二に、帝国主義の勢力圏をめぐる争闘の要衝だ。中東自体が勢力圏として重大であり、また最大の市場であるアジアへの欧州からの出口だ。
そして第三に、イスラエル建国の基礎であるシオニスト運動は、ロシア革命はじめ、世界の革命運動に重要な役割を果たしてきたユダヤ人の闘いを歪曲・破壊し、反革命に組織する役割がある。
シオニズム・イスラエル国家は、帝国主義に手厚く援助されつつも相対的に独自なイデオロギッシュな運動だからこそ、民族解放闘争の噴出する中東での帝国主義支配の最先兵の役割を担い得たのだ。
だから、大恐慌、世界支配崩壊の危機にあえぐ米帝にとってイスラエルは死活的な戦略拠点なのだ。イスラエルのすさまじい凶暴性によって中東の諸勢力に打撃を与え、圧迫することなしに、米帝の中東支配は成立しない。
中東支配の破産
この報告書は、これまでの米帝のイスラエル・中東政策の全面的破綻の恐怖から出発している。
従来イスラエルの主流だった労働党は、名称から想像されるものとは逆に極右だ。ネタニヤフの前の労働党政権の首相=ラビンは、建国前はハガナというシオニスト軍事組織に属し、パレスチナ人の組織的な虐殺・追放作戦を行った人物だ。67年の第三次中東戦争では参謀総長としてイスラエル軍を指揮し、現在も続くゴラン高原、西岸・ガザ地区占領を行った。
この報告書は、この極右「労働党シオニズム」さえ超える凶暴性を要求しているのだ。
93年のオスロ合意でPLOアラファト執行部を屈服させ、ペテン的「和平」に引き込んだものの、パレスチナ人民の不屈の闘いが続いた。そのため、もくろまれていたエジプトなどとの経済圏構想は吹き飛び、イスラエル経済危機はさらに深刻化した
そして、パレスチナ人民の不屈の決起とそれへの凶暴な弾圧に、イスラエル社会も動揺し、デモや兵士の不服従が広がった。世代交代とともにシオニズムのイデオロギーが後退し、新しい世代の中からはシオニズムの史料を掘り起こし、表向きの宣伝とは違う、パレスチナ人民を計画的に虐殺し、一般のユダヤ人をナチスに売り渡してきたシオニスト指導者たちの犯罪を当人たちの生々しい発言などを通して暴く動きも出てきた。イデオロギー国家としてのイスラエルにとって重大事態だ。
展望なき中東支配再編
報告書は、「土地と平和の交換」の考え方を破棄し、シオニズムの「理想」の実現、つまり際限なき領土拡大=大イスラエル建設の権利を宣言している。その一方で、ヨルダンと「緊密な協力」を行うという。領土を奪う宣言をしながら協力させるとは虫が良すぎる。
イラクのシーア派との協力という構想なども、実現性がないことは同様だ。トルコとの協力をもくろんでも、その反動的な政府に対して労働者人民、クルド人が不屈に闘っている。またトルコは米帝・EU帝間の争闘戦の渦中にあり、反動的政府でも米・イスラエルの意のままにはならない。
米帝・イスラエルは、見込みがなくても、こんな路線を出さざるをえない。この報告書の路線が今のブッシュ政権の中東政策にほとんど採用されている。米帝の中東再植民地化の破産は必至だ。闘う中東人民と連帯し、米日帝国主義の中東侵略を国際的内乱に転化しよう。
【原文の強調個所は太字にした。〔 〕内は訳者による】
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徹底的断絶 ― 国土保全の新戦略
以下は、 IASPS(上級戦略政治研究所)の「2000年に向けてのイスラエル新戦略研究グループ」が作成した報告書である。本報告書の中の主要な考え方は、リチャード・パール、ジェームズ・コルバート、チャールズ・フェアバンクス・ジュニア、ダグラス・ファイス、ロバート・ローウェンバーグ、デービッド・ワーマー、メイラフ・ワーマーを始めとする卓越した世論指導者が参加した討議から生まれた。「徹底的断絶 ― 国土保全の新戦略」は、今後の一連の研究報告の枠組みとなるものである。
イスラエルは、大きな問題を抱えている。労働党シオニズムは70年間もシオニズム運動を支配し、停滞し、束縛された経済を生みだした。イスラエルの社会主義的な諸機構を救い出そうとする試み――これには、国家主権よりも超国家的なものを優先させ、「新たな中東」のスローガンを掲げた和平プロセスを追求することも含む――は、国家の正統性を掘り崩し、イスラエルを戦略的無力状態に陥れた。この和平プロセスは、国家の戦略臨界量(※)の浸食の証拠――明らかな国家的疲弊を含む――を押し隠し、また戦略的主導権が失わせた。首都についての主権の取引に合意し、また多発するテロで、イスラエル人がバス通勤通学といった通常の日常生活さえ大変になっている悲惨な事態への屈服などの国内で不人気な諸政策を売り込むために、米国にすり寄っていくやり方に、この国家の臨界量の喪失が、もっともよく示されている。〔※臨界量 原爆などに使う核反応物質が連鎖反応するのに最小限必要な量。ここでは比喩的に、イスラエルの延命に必要な最小限の戦略的な力を指す〕
ベンヤミン・ネタニヤフの政権は、新たな思考をもって登場した。連続性を求める者もいるが、イスラエルは徹底的断絶を行う機会を得たのだ。つまり、まったく新たな知的基礎にもとづいた和平プロセスと戦略を作ることができるのだ。それによってイスラエルは戦略的主導権を回復し、シオニズム再建に国民があらゆるエネルギーを投入する余裕が得られる。出発点は経済改革だ。国の街頭、国境を今後すぐに安全にするために、イスラエルは次のことを行うことができる。
▽トルコおよびヨルダンと緊密に協力し、もっとも危険な諸脅威勢力を不安定化し、撃退すること。これは、「包括的和平」のスローガンから徹底的に断絶し、力の均衡にもとづく伝統的戦略概念に戻ることを意味する。
▽パレスチナ人との関係の性格を変更すること。これには、すべてのパレスチナ地域への緊急越境追跡権を堅持すること、およびパレスチナ社会に対するアラファトの独占的な支配に代わるものを育成していくことも含まれる。
▽米国との関係の新たな基礎の形成。自力、成熟、相互の利害にかかわる領域における戦略的協力に重点を置き、゛西″の本来の価値観を推進する。これは、イスラエルが、経済改革を妨げている援助を終わらせる真剣な措置をとることによって、初めて可能になる。
本報告では、カギになる個所に<草稿>という印を付けた。これは、今後の演説に使える文章であり、新政権が徹底的断絶を行うチャンスを有していることを示す所だ。報告書の本文は、これらの文章がわれわれの戦略の脈絡の中でどのような目的を有するのか、どう位置づけられるのかを説明する。
和平への新たなアプローチ
新首相は、和平と安全保障についての大胆な新展望の採用を早急に行うことが不可欠だ。前政権や他の多くの外国が「土地と平和の交換」を強く支持してきたが、それはイスラエルを文化・経済・政治・外交・軍事的に後退させた。しかし、新政権は、°西″の価値観と伝統を推進することができる。こうしたアプローチは、米国に歓迎されていくであろう。それは、「平和と平和の交換」であり「力による平和」であり、自力主義だ。つまり、力の均衡なのだ。
主導権をつかむための次のような新戦略が導入できる。
〈草稿〉
われわれは4年間、「新中東」にもとづく和平を追求してきた。われわれイスラエル人は、この無垢でない世界において、海外向けに無垢を演じることはできない。和平は、われわれの敵の性格と行為にかかっている。われわれは、弱体な諸国家と激しい対立がある、危険な地域に生活している。ユダヤ人国家の建設の努力と「土地と平和の交換」の取引によってそれを無に帰す意図との間でどっちつかずの態度を示すことは、「ピース・ナウ〔直ちに平和〕」を確保することにはならない。われわれが土地を権利として主張することは、2000年にわたってすがってきた希望であり、正統性があり、崇高なことだ。「一方的に和平を行う」ことは、どれほどわれわれが譲歩しようとも、われわれ自身の力でできることではない。われわれの権利をアラブが無条件――特に彼らの領土の大きさにおいて――に承認することのみが、「平和と平和の交換」のみが、将来の堅固な基礎となる。
イスラエルの平和追求は、その理想から生まれるものであって、理想に代わるものではない。自分自身の土地に自由に住むという2000年来の夢によってアイデンティティーに焼き付いているユダヤ人民の人権への希求は、平和の概念というものを示しており、また°西″の伝統とユダヤの伝統の連続性を示している。イスラエルは現在、交渉を受け入れうるが、それは手段で、目的ではない。その理想を追求し、国家の堅忍不抜性を示す手段なのだ。イスラエルは、警察国家に対して挑戦し、協定を順守させ、情報公開の最小基準を主張することができる。
北側国境の安全確保
シリアは、レバノンの国土においてイスラエルに挑戦している。効果的なアプローチであって、かつ米国が同調しうるものは、イスラエルが北側国境沿いで戦略的主導権を取り、ヒズボラ、シリア、イランと交戦していくことであろう。この三者は、レバノンにおける侵略行為の主な担い手だ。この交戦には、次のことが含まれる。
▽レバノンにおけるシリアの薬物資金と偽造インフラを叩く。それらはすべて、ラジ・カナンに集中している。
▽シリア領土も攻撃からまぬかれないという前例を作って、シリアの行為に対抗する。この攻撃は、レバノンからイスラエルの代理勢力によって行う。
▽レバノンにおけるシリアの軍事目標を攻撃する。これが不十分だとわかった場合は、シリア自体の目標を選択的に攻撃する。
また、イスラエルは、この機会にシリアの体制の性格を世界に思い起こさせることができる。シリアは繰り返し約束を破っている。トルコとの多くの協定に違反し、また89年のタイフ協定に違反してレバノンを占領しつづけて米国を裏切っている。不正選挙を行い、カイライ政権を作り、91年にレバノンに「同胞協定」への署名を強要し、レバノンの主権を奪った。そして数十万人のシリア人によってレバノンを植民地化し、ハマで自国の何万もの市民をたったの3日間に一挙に殺害した。
シリアのうしろだてで、レバノンの薬物取引は繁盛している。シリア軍将校は目こぼし料をとっている。シリアの体制は、レバノンとシリア内でテロリストグループに作戦的・資金的支援をしている。シリア支配下のベカー・バレーは、シリコン・バレーがコンピュータ産業地帯であるように、テロ地帯となってきた。ベカー・バレーは100ドル札の最大の集散地になってきた。この米国通貨の偽札は、非常に出来が良く、見破ることができないほどだ。
〈草稿〉
シリアの抑圧的体制との交渉には慎重なリアリズムが必要だ。相手の善意を前提にするのは賢明でない。自国の人民の殺害、隣国の公然たる侵略、国際薬物密売や通貨偽造の犯罪との関係、最も恐ろしいテロリスト組織への支援をする体制とのナイーブな取り引きは、イスラエルにとって危険だ。
ダマスカスの体制の性格を考えれば、イスラエルが「包括的和平」のスローガンを放棄し、シリアの大量破壊兵器開発計画に関心を集中させ、シリア封じ込めに移行し、ゴラン高原についての「土地と平和の交換」を拒否することは、当然かつ道徳的だ。
伝統的な力の均衡戦略への移行
〈草稿〉
敵と味方を冷静かつ明白に区別すべきだ。中東全域の味方が、われわれの友好の堅固さや価値をけっして疑わないように、手段を講じなければならない。
イスラエルは、トルコおよびヨルダンと協力し、シリアを弱体化し、封じ込め、さらに後退させることによって、戦略的環境を作ることができる。この作業においては、サダム・フセインのイラクの権力からの取り除き――これはイスラエル自身の重要な戦略目的だ――を、シリアの地域的野望をうち砕く手段として焦点にしうる。ヨルダンは最近、イラクにおけるハーシム家〔旧イラク王家〕復興を示唆し、シリアの地理的野望に対して挑戦した。これがヨルダンとシリアの対立に火を付け、アサドは浸透作戦などを使って、〔ヨルダンの〕ハーシム王朝の不安定化を強めた。シリアは最近、シリアとイランにとっては、弱体だがかろうじて延命しているサダムのほうがましだと述べ、ヨルダンがサダムを取り除こうとする目論見を砕き、侮辱した。
しかし、シリアは潜在的弱点を抱えている。地域の新たな難題への対処に忙殺されすぎて、レバノンで活動できないのだ。そして、イスラエルとの「自然な枢軸」が一方にあり、中央イラクとトルコが他方にあり、中央にはヨルダンがあって、シリアが締め付けられ、サウジ半島から切り離されるのを恐れている。
イラクの行方は中東の戦略的均衡に深い影響を与えるのであるから、ハーシム家のイラク再定義の努力への支援がイスラエルの利益であることは明白だ。たとえば、ネタニヤフ新政権が、米国訪問にさえ先だってヨルダンを最初の公式訪問国とすること、具体的な安全保障措置によってシリアの転覆策から守ることによって、フセイン国王を支援すること、米国の経済界の影響力を使ってヨルダンへの投資を促進し、ヨルダン経済をイラクへの依存から構造的にシフトさせること、レバノンの反対派を使ってシリアのレバノン支配の不安定化を行い、シリアの注意をそらせることなどだ。
もっとも重要なことは、トルコとヨルダンのシリアに対する行動を外交・軍事・作戦的に支援することだ。たとえば、シリアとの国境にまたがっていてシリアの支配層に敵対的なアラブ諸部族の部族連合に安全保障を与えることだ。
フセイン国王は、イスラエルのためにレバノン問題をコントロールするアイデアを提供できるであろう。南レバノンで多数を占めるシーア派住民は、数世紀にわたり、イランよりイラクのナジャフのシーア派指導者とつながってきた。ハーシム家がイラクを支配すれば、ナジャフへの影響力を使ってイスラエルが南レバノンのシーア派をヒズボラ、イラン、シリアから引き離すことを助けられる。シーア派は、ハーシム家と強いつながりを持っている。シーア派は、預言者の直系家族系をなによりも尊崇するのであり、フセイン国王はそれに属するのだ。
パレスチナ人との関係の性格の変更
イスラエルには、イスラエルとパレスチナ人との間の新たな関係を作るチャンスがある。まず第一に、イスラエルの街頭の安全保障には、パレスチナ人支配地域への緊急越境追跡が必要だ。これは、正当化できる行為であり、米国人が同調しうるものだ。
和平のカギとなる要素は、すでに署名された協定の順守だ。したがって、イスラエルは、オリエントハウス〔PLO本部が置かれている東エルサレムにある建物〕の閉鎖とエルサレムにおけるジブリル・ルジュブ機関〔治安機関〕の解体を含む、協定順守を迫る権利を有する。さらに、イスラエルと米国は、PLOが最低限の順守基準、職権と責任、人権並びに司法で信頼に足る説明責任基準を満たしているかどうかを定期的に検証するための合同順守監視委員会を設立することができる。
〈草稿〉
われわれは、パレスチナ当局が米国の対外援助を受けている他の国と同じ説明責任の最低基準を守る必要があると信じている。堅固な平和には、弾圧と不正義があってはならない。自分の人民に対してもっとも初歩的な義務を果たせない体制は、その隣国に対する義務を果たせると期待するわけにはいかない。
PLOが義務をはたさないなら、イスラエルはオスロ合意に定められた義務を有しない。もし、PLOがこれらの最低限の基準を順守できないなら、PLOは将来に対する希望も持てなければ、また現在、対話を行うこともできない。それを準備するために、イスラエルはアラファトの権力基盤に代わるものを養成することを望んでいる。ヨルダンは、それについてのアイデアを持っている。
イスラエルがアラブ人民ではなくPLOの行動に問題があると見ている点を強調するために、イスラエルは味方には特別な報償を与え、アラブ人の間での人権を推進する努力をすることを希望している。多くのアラブ人はイスラエルに協力しようとしている。彼らを特定し、彼らを援助することは重要だ。ヨルダンなど、多くの隣国がアラファトとの間で問題を抱えており、〔イスラエルとの〕協力を望んでいる。イスラエルも、自国のアラブ人をもっと融合させることを望んでいる。
新たな米・イスラエル関係の形成
近年、イスラエルは、イスラエルの内政・対外政策へのアメリカの積極的な介入を要請してきた。それには2つの理由がある。一つは、「土地と平和の交換」というイスラエル世論が飲めない譲歩に対する国内の反対勢力を抑えるため、一つは、資金、過去の罪の赦免、米国の兵器の供給を通じて、アラブ人を交渉に誘うためだ。この戦略は、米国の資金を抑圧的・侵略的体制に注入することを必要とし、リスクが高く、費用がかかり、米国にとってもイスラエルにとっても非常に犠牲が大きかった。
イスラエルは、過去からの徹底的断絶を行い、自立、成熟および相互性にもとづいた米・イスラエルのパートナーシップの新たな展望をうち立てることができる。両国のパートナーシップは、領土紛争のみを焦点にした狭いものであるべきではない。力による平和という〔両国の〕共通の哲学にもとづくイスラエルの新戦略は、イスラエルが自立しておりイスラエル防衛のためには米軍部隊を必要としない――ゴラン高原においても――こと、そして自分の問題は自分で管理できることを強調していて、“西”の価値との連続性を反映しているのだ。こうした自立は、イスラエルに大きな行動の自由を与えるものであり、過去にイスラエルに対してかけられてきた圧力を除去するであろう。
この点をさらに強化するため、首相は、〔米国〕訪問の時に、イスラエルは今や十分に成熟しており、今すぐ、少なくとも米国の経済援助なしに、または少なくとも債務保証なしにやっていけると言明することができる。これらが経済改革を阻害しているのだ。(軍事援助は、現在は、供給問題に対処できることが保証される十分な取り決めがなされるまでは、別個のものとされる)。本研究所の別の報告書で述べられているように、イスラエルは、段階的ではなく、大胆に一挙に経済自由化、減税、自由加工地域についての再立法、公有地・公有企業の売却を行うことによってのみ、自立できる。こうした措置は、下院議長ニュート・ギングリッチを始めとする広範な共和・民主両党の親イスラエルの枢要なリーダーに感銘を与え、支持を集めるであろう。
このような条件の下でイスラエルは米国との協力を改善し、この地域と°西″の安全保障に対する真の脅威に対抗できる。ネタニヤフ氏は、弱体で遠く離れた軍さえも両国にもたらしうるミサイルによる脅迫の脅威を取り除くために、ミサイル防衛について米国といっそう緊密に協力したいという彼の希望を強調することができる。こうしたミサイル防衛についての協力は、イスラエルの延命に対する物理的脅威に対抗するだけではなく、イスラエルについてあまり知らないがミサイル防衛については大きな関心を持っている多くの米国会議員の間にイスラエルの支持基盤を広げることにもなる。この広範な支持は、在イスラエル米大使館をエルサレムに移転する助けになるであろう。
米国の反応を見越し、そうした反応を制御・抑制するために、ネタニヤフ首相はその政策を定式化し、アメリカ人になじんだ言葉で彼の述べたい主目標を強調することができる。冷戦期には、こうしてアメリカの諸政権の主目標をイスラエルは活用できたのだ。イスラエルが、アメリカ人の良好な反応を必要とするある種の提案について、それが得られるか否かをテストしようと望むのなら、もっとも良い時期は96年11月前だ。
結論 ―イスラエル・アラブ紛争を越えて
〈草稿〉
イスラエルは敵を封じ込めるだけではない。それを越えていく。
アラブの著名な知識人たちは、イスラエルが七転八倒しており、国家的アイデンティティーを失っていると感じていると頻繁に書いている。このように感じられていることが、攻撃を招き、イスラエルが真の平和を達成することを阻害し、イスラエルを破壊する者に希望を与えている。したがって、以前の戦略は、中東の新たなアラブ・イスラエル戦争に導くものだったのだ。イスラエルの新たな取り組みは、疲弊を前提にした政策を放棄することによって、また報復だけにとどまるのではなく、先制の原則を再確立することによって、そして報復なしに国民への打撃を受け入れることを止めることによって、徹底的断絶を知らしめることができるのだ。
イスラエルの新たな戦略的取り組みは、イスラエルのエネルギーの焦点をもっとも必要な所に戻す余地を与える地域環境を形成することができる。すなわち、イスラエルの社会主義的な基盤をもっと健全な基盤に置き換えることによって、国家思想を若返らせること、そして国家の延命を脅かしている「疲弊」に打ち勝つことだ。
最終的には、イスラエルは紛争への戦争による対処以上のことを行いうる。いかに大量の兵器や勝利も、イスラエルが望む平和は作れない。イスラエルが健全な経済基盤の上に立てば、そして自由で、力強く、国内的に健全であれば、もはや単にアラブ・イスラエル紛争に対処するだけではなく、それを越えていくであろう。ある有力なイラク反対派リーダーが最近述べたように、「イスラエルは、道徳的・知的リーダーシップを再活性化し、若返らせるべきだ。それは中東の歴史の中で、最も重要な要素ではないまでも、重要な諸要素のひとつである」。誇りをもち、豊かで、堅固で、強力なイスラエルは真に新たで平和な中東の基礎となるであろう。
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