●翻訳資料
02年米国防報告(下)
02年8月15日 米国防省
村上和幸訳
【解説】
大規模地上戦
B第4章は、昨年掲載したQDRの該当個所とほとんど重複するので冒頭を除いて省略した。しかし、きわめて重要な論点なので、その論旨を若干解説しておく。
国防報告で打ち出されているリスクマネージメントの枠組みの中で、B第4章のテーマである「戦力マネージメントのリスク」はトップに位置づけられている。米帝にとって、戦力マネージメント=軍関係の人事管理は、それほど重大、深刻な問題だということだ。
世界支配の深刻な危機、大恐慌の爆発におののく米帝は、どれほど困難があろうとも、イラク侵略戦争を突破口にして世界戦争に突き進むしかない。そのため、ブッシュ政権は、イラクの「体制変更」を公然とかかげて侵略戦争に突進しているのだ。「体制変更」=カイライ政権樹立のためには大規模な地上部隊による長期にわたる占領支配が必要だ。そしてそのためには、大地上部隊派遣=地上戦闘が不可避になる。(北朝鮮−中国侵略戦争では、もっと巨大になる)
だが、ベトナム侵略戦争の敗北の打撃を受けた米軍が、再び大規模地上戦を行うには、高いハードルがある。米軍はまず、すさまじい空爆、ミサイル攻撃で相手の軍事力と国土を破壊し、大虐殺を行うにしても、激烈な地上戦闘をしなければ戦争の最終的な決着はできない。その地上戦の危険と困苦を誰が担い、現場で貫徹するのかということが、米帝の突破すべき最大の課題として位置づけられているのだ。
第4章では、国防省・米軍の要員の質・量の確保のために、募集・定着化、待遇、訓練などを、民間の手法を取り入れて改革していくと論じられている。民間の募集の手法、成果主義の人事評価、専門技能の養成、リストラクチャリング、アウトソーシング等々を取り入ると。だが、帝国主義者には、問題の根本を見すえることはできない。しかも80年代以降の米帝の民間企業の人事管理は、労働者人民が歴史的に闘い取ってきた権利を徹底的に奪い、搾取を極限的に強化するものだ。これは成功したかにみえたが、労働者人民の間に帝国主義ブルジョアジーに対する激しい敵対心を植え付け、90年代から米国内で非和解的な階級闘争が勃興している。ベトナム戦争時を上まわる巨大な反戦闘争がすでに爆発しはじめている。
軍隊を、階級闘争の嵐から切り離すことは不可能だ。最前線で戦闘を担う兵士の属する階級・階層の対極にある帝国主義ブルジョアジーだけの利益のための戦争、不正義の侵略戦争は、兵士を心から納得させることはできず、必ず軍内部から反戦運動に呼応する動きを生み出す。
2MTW戦略の破棄
ブッシュ政権は、すでにその成立前から、クリントン政権時代の《2つの大規模戦域戦争を同時に戦いうる戦力》という基準(2MTW戦略)を批判しており、昨年のQDRでもこの基準からの転換を述べている。だが、今回の国防報告で初めて、この転換の真の理由を明確に示した。
セクション「C」は、《2MTWがターゲットにしてきたイラク、イランや北朝鮮の軍事力が衰えたので、それを基準にしては米の大軍拡には不十分すぎる》という主旨で論じている。怒りをもって暴露していかねばならない。
第5章、第6章は重要な論点だが、QDRとほとんど重なっているので、ここの訳文掲載も省略した。
通常戦力に対して核を使用
第7章は、01年末の「核戦力態勢見直し報告」(NPR)の要約だが、核の積極使用がいっそう明確にされている。米帝は、《米国の核は相手国の核への抑止力》という従来の建前を捨て、「大量破壊兵器および大規模通常軍事力を含む広範な脅威」に対するものに転換した。「含む」ということは、相手のNBC兵器と大規模通常戦力だけでなく、中小規模の通常戦力の撃破のためにさえ米帝は核を使うということだ。
ブッシュ政権は、核弾頭の数を削減すると言っているが、第7章でも明らかなように、「展開核打撃能力」を減らすだけだ。ここでいう「展開」とは、前線部隊、即応部隊に核兵器を配備しておくということを意味する。別の武器庫に核兵器を格納しておくことは「展開」ではない。だから、「不測の事態」と判断しさえすれば「数週間、数カ月、数年間」で再び展開核打撃能力を増大させることができると述べている。
したがって、これは核の削減でも何でもなく、対ソ対決=帝国主義間争闘戦時代のような大量報復の恫喝を当面の目的としたシステムから、実戦にどんどん使っていく核兵器システムへの転換だということは明らかだ。核兵器の通常兵器との組合わせ使用を強調していることもそういう意味だ。
【〔 〕内は訳者による補足】
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A 戦力マネージメントのリスクを減らす
国防省の公式なリスク管理の枠組みの第1の要素は、戦力マネージメントのリスクだ。このリスクは、十分な数の質の高い人員を募集、定着化、訓練、装備し、戦力の即応性を維持すること――それを、多くの作戦任務を遂行しつつ行う――ことに影響する諸問題から生じる。
これまでの10年間、戦力マネージメントのリスクは、たえず増大してきた。国防省の人員への投資、給与の面でも、生活の質――たとえば住宅――の面でも過少だった。同時に、展開の拡大は部隊ごとの作戦繁忙度を過剰にし、そして軍メンバーごとの人員繁忙度を過剰にした。これらすべての趨勢によって軍家族は犠牲を押し付けられてきたために、士気が下がり、枢要な技能を持つ軍人員を定着化させる力が落ちている。この負の循環は、まさに国防省がしっかり検討し、コントロールしていくべき戦力マネージメントリスクというものなのだ。
部隊の作戦上の即応性を維持するための投資とまったく同じように、今こそ戦力マネージメントのリスクを減らすことにも国防省は意識的に投資するつもりだ。セクションBでは、軍人あるいは文民要員への投資についての、そして軍の訓練の近代化の変革についての、進行中あるいは計画されたさまざまな検討作業や企画を説明する。これらの行動は、全志願制の戦力を維持するというこの国の方針を守るためにも、また制服の男女への信義を守るためにも不可欠だ。
第4章 人員と即応性に投資する
今日の安全保障環境の中で、国内でも国外でも、米国が世界で最良の訓練を有し、もっとも高度に準備された軍事力を維持することが必要になっている。米軍要員の募集、定着化、訓練および給与は、国防省の最優先事項の1つだ。戦力マネージメントリスクは優先事項であって、これに適切に関与しないことのリスクについて、国防省の最高幹部は徹底的に監督していく。このリスクは、全志願制軍のマネージメントの成功に直接に関係する。戦力マネージメントリスクの計測には、どのくらいの頻度で部隊が展開されてきているか、装備の即応性はどの程度か、どのくらい作戦に投入することが可能か、インフラが妥当かどうか、募集率と定着化率はどうか、等々の諸領域が含まれる。
人的資源と人員
ビジネスの世界なら、国防省の現在の人事政策と同じことをやったなら、生き残れる企業はほとんどないであろう。現在の規則では、各軍のメンバーに20年の勤務の後に退職することを奨励している。これが強制となる場合も多い。メンバーの訓練に数百万jを費やし、しかも彼らがまた才能と技能のピークにあるときにこうして退職させているのだ。このシステムはゼネラリストを作るような仕組みになっているので、将校は、12から24カ月ごとに任務替えされることが普通になっている。あらゆることを表面的に知っているが、専門的技量はほとんどない者を作っている。文民の方の問題は、昇進の機会がほとんどないということだ。このようなやり方は、組織の継承性、技量、戦闘即応性を奪っている。国防省は、近代的なビジネスの手法をぜひとも緊急に採用しなければならない。より柔軟な給与体系、近代的募集技術、訓練の改善などだ。
即応性のすべての面について、人員がカギになる。この数十年で、国防ファミリーは変化してきた。軍人、文民の人員は、年齢が高くなり、教育水準が上がり、また多様性が増した。配偶者は、多くが働くようになり、また10年前に比べて教育水準が高くなった。国防省の人事政策とプログラムは、こうした人的構成の変化と21世紀の軍事力の展望に対応していかねばならない。国防省は、軍人を支える家族についてのプログラムと政策について、約束を果たさねばならない。そのために、軍人(現役と予備役)及び文民のマネージメントのための戦略的な新たなアプローチを始めたところだ。
【この章は以下略】
C 作戦上のリスクを減らす
国防省の公式なリスク管理の枠組みの第2の要素は、作戦リスクだ。このリスクは、近い将来の紛争や他の有事における軍事目的の達成能力を形成する諸要因から生まれる。したがって、作戦リスクの見積もりの主要な重点は、軍の任務及び通常戦力の構成と米国のグローバルな戦力態勢との間の関係となる。
この10年間、近い将来の作戦リスクが国防省の支配的な関心事だったために、他の決定的なリスクの源への注意がおろそかにされてきた。これは、国防省が米軍の規模決定と立案のための概念として「2つの大規模戦域戦争」(MTW)概念を首位に置いてきた結果だ。この2MTW概念にもとづいて、作戦リスクの尺度は、軍が2つの大規模戦域戦争を北東アジアと南西アジアで同時に遂行する能力という観点が、ほとんど唯一のものとなってきた。
2MTW概念が国防省の立案を支配したにもかかわらず、それは軍が実際に果たすべきものとは、ますます離れていった。一方では、この2MTW概念でターゲットとされた敵の軍事能力の衰退のため、米軍は、そうした有事のためにはいわば過剰に装備されているとされた。他方では、2MTW概念は、比較的小規模の有事を計画していなかった。イラクにおける飛行禁止区域やバルカンでの米国の展開は、大作戦ではないが、部隊にストレスをかけた。これはまさに、こうした作戦が国防省の支配的な立案概念に組み込まれていなかったためにそうなったのだ。
この「C」では、作戦リスクの管理についての国防省の新たな考え方について述べる。2MTW概念から離脱し、軍が直面している要請にもっと現実的に把握する。そのうえで、現有の通常戦力構造とそのさまざまな要素の役割と機能について説明する。そして現有の戦力構造と〔米軍の〕世界的態勢によって現在の任務を遂行する場合の作戦リスクのレベルについての国防省の結論を提示していく。
第5章 不確実性の時代のための部隊の選択的近代化と規模決定
世界大国としての米国にとっての枢要な難題は、将来の有事について簡単に予言できないということだ。つまり、きわめて広い範囲の有事に対処する準備をしなければならない。したがって米国は、多種多様な軍部隊、軍事能力を維持せねばならない。QDRの過程で、国防省は米軍を縮小する選択肢を考慮したが、そうすることは近い将来に米国が誓約を守れなくなる危険があり、また軍人に受け入れがたい負担をもたらすと判断した。
【第5章以下略】
D 将来の挑戦のリスクを減らす
国防省の公式なリスク管理の枠組みの第3の要素は、将来の挑戦のリスクだ。このリスクは、中期ないし長期的な軍事挑戦を断念させあるいは撃破するのに必要な新たな能力と作戦概念の開発に影響する諸問題から発生する。安全保障環境の激変を考慮し、国防省は将来の挑戦に対処するための投資により高い優先順位を与える必要性を認めている。米国の現有部隊と将来の敵の潜在的能力への対応に必要とされるものとのミスマッチは、いっそう明白になっている。9月11日の攻撃も、この趨勢をさらに明らかに示した。現有戦力の多くの要素が米国の能力に貢献しつづけるけれども、新たな最先端の能力の開発が必要なのだ。
「D」で述べられるように、国防省は将来の挑戦のリスクを管理するために3つの戦線を前進させていく。第1の戦線は、変革で、これが新たな防衛戦略の核心となる。第6章で、戦力変革のアプローチが説明される。
第2の戦線は戦略部隊の再編で、第7章で述べられる。現有部隊は冷戦の脅威に対処するのには適切だったが、将来の挑戦への対処には不十分だ。たとえば、ならずもの国家とテロリスト組織の多くのリーダーは、大量破壊兵器の取得に熱を入れている。ソ連の指導者と違い、こうした新たなリーダーたちには、強力な兵器の使用を阻止する抑制機構がほとんどない。この新たな挑戦に対応するために、通常兵器と核兵器、攻撃システムと防御システムを組み合わせて米国の抑止力の信頼性を強化し、同盟国に保証を与え、米国の価値に合致する「新三本柱」が必要だ。戦略抑止力および戦略攻撃力という将来の課題を果たすために、米国は戦略システムを変革する投資を行わねばならない。
第3の戦線は、宇宙、情報、諜報を焦点にしている。この諸領域での米国の能力は、新戦略で規定された主要な作戦目標のすべてに貢献している。変革へのこうした横断的な貢献のために、この諸領域はそれぞれに、持続的な注意を払っていかねばならない。国防省の宇宙、情報、諜報についての計画は、第8章で示される。
以上の3つの戦線での国防省の計画をまとめあげて、将来の挑戦のリスクの管理を作り上げていくのだ。03年度予算にもとづく投資は、将来の挑戦のための投資が過去10年間に行われなかったことを克服するための手付金だといえる。もちろん、さらに投資が必要だ。しかし、長期的には資金の外的な制限というよりも、新たな思考及びリスクを取ることへの自己規制による制限のほうが主要な妨害物となるであろう。したがって、新たな技術や能力に投資するとともに、国防省の精神を変える努力をしなければならない。
【第6章「戦力の変革」の章は省略】
第7章 戦略部隊の適合化
国防省は、米国の核戦力態勢の包括的な見直しを完了した。この章では、この見直しの結論を要約する。
核戦力は、米国と同盟国・友好国の防衛に決定的な役割を果たしつづける。大量破壊兵器および大規模通常軍事力を含む広範な脅威を抑止する信頼性ある能力を提供する核能力は、戦略的・政治的な目的を達成するために重要な多種のターゲットの選択肢を提供する、独特の特性を有している。
奇襲と不確実性の挑戦に対処するためには、抑止への新たなアプローチが必要となる。たしかに核戦力は冷戦期のワルシャワ条約の侵略の抑止に不可欠な貢献をなしたが、攻撃的核兵器のみに依存した戦略態勢は、わが国の防衛政策の目標を支えるには不十分だ。核戦力態勢見直し〔NPR〕は、報復の脅しのみに制限されるべきではないこと、そして核戦力のみに依存すべきでないことを結論としている。また、核戦力は、米国が準備している多くの有事には不適切だ。攻撃能力と防御能力、核能力と通常能力の組合せが必要なのだ。こうした組合せが、敵には威信ある軍事力だと思わせ、同盟国には保証を与え、そして米国民に適合した、軍事的な選択肢を増やすのだ。
QDRで定められた米国の防衛立案の方向に従って、核戦力見直しは、戦略戦力立案のベースを特定の脅威から米国の脆弱性を利用しうる生起しつつある諸能力あるいは敵に有利性を与える諸能力へとシフトさせた。
この能力ベースのアプローチは、次のような米国の核態勢の変革の基盤となる。
▽切迫した有事、潜在的有事及び不測の有事に対する諸能力のさらに多様化したポートフォリオを提供するためには、冷戦期の戦略的三本柱を、通常並びに核の攻撃的な戦略打撃能力、能動的並びに受動的な防御、及び反応性あるインフラを統合した新たな三本柱に置き換える
▽安全保障環境の変化と技術的奇襲への対応を柔軟にしていくために、戦略核戦力の削減に新たなアプローチを採用する。
新たな三本柱
能力ベースのアプローチの米核戦力への適用の結果、現行の三本柱――大陸間弾道弾(ICBM)、重爆撃機、潜水艦発射弾道弾(SLBM)――を、攻撃と防御、核システムと非核システムの多様なポートフォリオからなる新たな三本柱に変革することが決められた。新三本柱は、広い範囲のおこりうる有事に対処するための多数の選択肢を大統領と国防長官に与えるように作られている。
新三本柱の諸要素は、図7・1に示されたとおりだが、次のように要約することができる。
▽核・非核両方の打撃能力及びそれに関連した指揮・統制
▽能動的及び受動的防御、航空防衛・ミサイル防衛のための指揮・統制を含む
▽攻撃戦力と防御システムを開発・建設・維持するための研究開発(R&D)と産業インフラ
新三本柱の個々の要素の効率と軍事的潜在力は、適時かつ正確な諜報、適応力のある立案、及び強化された指揮・統制によって最大化される。これらの能力の強化は、新三本柱概念の潜在力を実現するためには決定的だ。
核戦力に関しては、計画された弾頭削減が完了した時には、新三本柱には現在の戦略核戦力の約三分の一の作戦展開可能な弾頭が含まれることになる。これは、非核手段によっては対抗しえない敵資産・能力をリスクにさらし、潜在的な敵に大規模核・生物・化学あるいは通常脅威の開発を断念させ、大量破壊兵器(WMD)を抑止する死活的な役割を果たしつづける。
新三本柱の他の要素は、開発され統合されていくにつれて、現在もっぱら核戦力にのみ委ねられている任務を引き受けられるようになっていく。こうした状況の下で、作戦的展開が必要な核弾頭の数はさらに減ってい行く。
新三本柱の諸要素
新三本柱を支える諸要素として、次の6つの要素がある。
打撃能力。非核打撃能力には、新型通常兵器システム、攻撃情報作戦及び特殊作戦部隊が含まれる。展開核打撃能力には、現行の三本柱及び戦域に基地を置いた核能力のある両用航空機が含まれる。1991年の大統領核政策によって海上艦及び潜水艦から撤去された核付きの海上・海中発射巡航ミサイルは、予備としての位置を維持される。
防御。能動的防御には、弾道ミサイル防衛及び航空防衛が含まれる。受動的防御には、機動性・散開・余剰・欺騙(きへん)・隠蔽並びに硬化による脆弱性の低下、及び切迫した攻撃への警報並びに被害管理活動の支援が含まれる。新三本柱のこの要素には、米国本土、海外部隊、同盟国・友好国の防御が含まれる。
インフラ。R&Dと産業のインフラには、新三本柱の諸要素の生産・維持・近代化に必要な研究施設、製造能力及び熟練した人員が含まれる。米国の軍事能力を適時に増大させることができる、反応性のあるインフラは、新三本柱に戦略的縦深性を与える。
立案。入念な立案は、新三本柱の3つの要素を統合しバランスさせる上で決定的だ。新三本柱のための立案は、多数のゴール、敵と有事の多様性、安全保障環境の多くの不確実性を考慮しなければならない。
指揮・統制。信頼性、生存性があり堅固な指揮・統制システムは、新三本柱の決定的な部分となる。
諜報。敵に察知されずに敵の秘密にアクセスする「絶妙」な諜報は、敵の意図と能力についての洞察を得るために不可欠だ。こうした諜報によって米国は、最大限に有効性を発揮できるように抑止戦略を調整できるようになる。
新三本柱の創造
新三本柱の諸要素の開発と展開には、いくつかの行動が必要になる。
主要な行動。新三本柱の開発と維持には、次の分野への投資が必要となる。(1)新型の非核打撃、(2)ミサイル防衛、(3)指揮・統制、及び(4)諜報。これらの投資は、戦略的抑止能力を強化し、軍の作戦能力を大幅に改善する。
現行能力のオーバーホール。新三本柱の需要に応えるためには、現行能力のオーバーホールが必要だ。これには、非常に流動的な危機状況の中で国の指導者が、前もって計画された選択肢を採用できるように、あるいは新たな選択肢を形成できるように、打撃計画の策定と執行に用いるツールを改善することが含まれる。また、国防省と国家核安全保障局の双方の技術基盤と生産対応インフラが近代化され、変化してきている状況に米国が適切に適応できるようにする必要がある。
核戦力削減とシステム改善。新三本柱の諸要素が展開されて作戦的に展開されている核弾道が削減されるにつれて、残された核戦力の諸能力が新たな任務に適合するように調整する必要性がでてくる。大型の冷戦核兵器体系は、立案者に、特定の任務に適した兵器を開発することを可能にしていた。この核兵器体系における多数の弾頭タイプは、1つのタイプの弾頭が大幅に戦力全体の能力を低下させるという技術的問題のリスクを減らすものだった。新三本柱のためには、戦力が削減されるために、さらに信頼性のあるシステムが求められる。また、経年した備蓄兵器の再整備の努力に加えて、現存の核戦力のアップグレードやその一部の置換、あるいは米国のニーズにいっそう適した後続の核兵器システムの開発が必要になっているかもしれない。冷戦核兵器体系の縮小版が2012年以降に米国が必要とする核戦力となるということは、ほとんど考えられないことだ。
新三本柱は、その諸要素が互いに調整され適合されるのであって、開発には時間がいる。新三本柱に委ねられた核戦力とその指揮・統制システムは、成熟したシステムだが、再整備が必要になっている。新型の非核打撃能力は比較的新しく、その作戦的有効性はまだ開発中で、その使用法は、今も発展しているところだ。ミサイル防衛は、潜在的な敵の戦略的・作戦的な計算に与える効果を有するシステムとして台頭しはじめている。ミサイル防衛は現在、短〜中距離の脅威に対する能動的防御を提供することができる。防御と核インフラは、しっかりと確立しているが、多くの点で新たな必要性に迅速に応えるためには柔軟性が十分でない。
切迫した有事、潜在的有事及び不測の有事のための核戦力の規模決定。核打撃能力に必要とされるものを決定するにあたって、米国が備えておく諸有事の間での区別を行うことができる。有事は、切迫・潜在・不測のカテゴリーに分けられる。
切迫した有事は、十分に認識された、現在の危険だ。冷戦の時は、ソビエトの米国と西欧に対する脅威が、米国が主要に備えていた切迫した有事を代表していた。切迫した有事の現在の例は、WMDを使った米軍や中東・アジアにおける枢要な友好国や同盟国への攻撃などだ。
潜在的な有事は、確かと思えるが、切迫してはいない危険だ。米国の指導者は、これについて予測し、適時に警報を得る。たとえば、米国やその同盟国に対して敵対的な新たな軍事連合が台頭し、そのメンバーの1つないしそれ以上がWMDとその運搬手段を持っている場合は、米国の防衛立案に大きな影響を与えかねない潜在的有事だ。また、敵対的な同等な競争者の再登場も、潜在的有事のもうひとつの例だ。
不測の有事は、突然の、予測できない、安全保障上の挑戦だ。これは近い将来にも、遠い将来にも発生しうる。現代的に例解すれば、突然の体制変更によって核兵器が新たな敵対的な指導グループの手に渡る場合、あるいは敵がWMD能力を奇襲的に取得する場合だ。
作戦的に展開された戦力は、切迫した有事及び不測の有事という脈絡の中での米国の防衛目標を達成するために必要とされる能力を提供するように規模決定されねばならない。すなわち、認識している脅威に対抗するために短時間で十分な数の兵力をそろえることができねばならないし、また奇襲的な動向があった場合に、小さい追加をする余裕をとっておかねばならない。今後10年間で弾頭を1700ないし2200個までに削減すると米国は計画している。これは、米国の核の必要性に影響しうる安全保障環境の変化に適応するために必要な柔軟性を維持しつつ行う。この削減は、国家安全保障が求めるものと同盟関係の義務からして可能な範囲で最少の核兵器によって信頼性ある抑止を提供する。
米国は、不測のあるいは奇襲的な潜在的有事に対処するために作戦的に展開された戦力を増大させる力も維持していく。この増大は、必要な数の弾頭を格納庫から作戦部隊に移すことによって遂行される。この能力は、同盟国・友好国に保障を与え、潜在的な競争者を断念させるためにも重要な手段だ。それは、作戦部隊を数週間、数カ月、数年間で増大させていかなる潜在的有事にも対処することを可能にする。時間が許す場合には、米国は、外交的、政治的、経済的な措置を状況改善のために追求することができよう。また、新三本柱の他の諸要素の改善を選択することもできよう。
戦略戦力削減への新たなアプローチの採用
図7・2は、戦略核兵器削減についての国防省のアプローチを示している〔本資料では略〕。目標は2012年までに、作戦的に展開された戦略核戦力を、作戦的に展開された1700ないし2200個の戦略核弾頭を有するものとするということだ。削減は、2002会計年度から始まる段階的プログラムによって行う計画で、ピースキーパーICBMを撤廃し、4つのトライデントSSBN〔弾道ミサイル搭載原子力潜水艦〕を戦略任務から外し、トライデントSLBM、ミニットマンV型ICBM、B52H・B−2爆撃機から搭載兵器を下ろしていく。
削減の正確な方法については、国防省が行う定期的な見直しによって決定される。定期的見直しは、次のようなことを行う。
▽削減スケジュールのその時までの進行を検討し、
▽次の1ないし3年間の米国の国益が直面するリスク及びこうしたリスクに対処する核戦力の役割について判断し、
▽新三本柱の開発の進行及び生起しつつあるリスクに対処する非核戦力、防御、諜報、指揮・統制、及び防御インフラの能力を検討する。
大統領が発表した削減が実施されていくにあたって、1994年12月5日に発効した最初の戦略兵器削減条約(START T)で定められた現行の検証制度は効力を維持する。START T条約には、攻撃的戦略戦力の透明性についての有用な基準を定めた条項が含まれている。米国は、ロシアとの新しい戦略関係の脈絡の中で、さらに透明性を増すオプションや信頼醸成のオプションを考えていく。
上院は、包括的核実験禁止条約(CTBT)についての助言と同意を出さなかった。政府は、CTBTの批准を支持しないが、米国の実験猶予期間の順守を続けていく。猶予期間にあってもいつでも実験ができるという態勢を米国がとっていることは、米国のインフラの重要な側面だ。国防省は、核実験ができる態勢の維持と備蓄核兵器の不測の事態への対処のために必要な技能の範囲についての、適切な基準を定めるためにエネルギー省〔原発等とともに核兵器の製造・管理も管轄〕と協力して作業している。
以上のように、米国の戦略戦力についての戦略は、今後10年間の課題への対処のために変革され、適合化されていく。展開された核弾頭の削減にともなうリスクは、非核攻撃・防御能力の開発と配備及びインフラの再活性化によって補われる。新たな戦略は、冷戦の手法と立案法を捨てて、防衛の変革の重要な一歩をしるしている。
第8章 宇宙、情報及び 諜報への投資
国防省は、将来のリスクの軽減に寄与するために宇宙、情報及び諜報(SII)の能力を改善する大きな努力を行ってきたし、今後もさらに尽力していく。こうした活動は、わが部隊の柔軟性を高め、より広範な有事に対処する能力を向上させる。SIIは、QDRの6つの作戦目標のすべてを達成するのに、直接に寄与する。SIIの強化は、作戦のスピードを高め、サイクルタイムを短くし、適切なレベルで意志決定ができるようにし、情報と諜報の流れを融合していく。それらは、すでにテロリズムに対する世界的な戦争の中で明確に貢献している。
SIIの目標
国防省の宇宙、情報及び諜報活動は、次のことを焦点にしていく。
▽宇宙システムの能力、アクセス確保、生存性の強化を行い、
▽安全性があり、高容量で、信頼性のあるグローバル・ネットワークを提供し、
▽グローバルな状況把握の達成とネットワーク中心戦争の支援のために質の高い情報と諜報をネットワークに流し、
▽SIIシステムを堅固・安全にしつつ、敵が同様な能力を持つことを阻止する
宇宙システム
昨年、米国家安全保障宇宙管理及び組織へのアクセス委員会(宇宙委員会)は、次のような勧告をした。
「米国と同盟国・友好国の経済的な福利は、米国が宇宙における作戦を成功させる能力……にかかっている」
「特に、危機を管理し、紛争を抑止し、抑止できなかった場合には紛争で勝利する能力の不可欠の一部として宇宙を使用する能力を米国は持つ必要がある」
国防省は、宇宙委員会の勧告にこたえて、組織の改変を行っている。たとえば、宇宙担当を空軍次官の担当に統合している。米国は、宇宙への依存の増大を考慮して他の措置もとっている。また、政府が、商業利用との共同を進め、両用能力を拡大し、商用システムを軍事利用して軍の宇宙能力改善のスプリングボードにする必要もある。軍の宇宙能力には、次の枢要な領域がある。
▽宇宙打ち上げ、射場運用、及び地上コントロール・ネットワーク、
▽諜報、監視、偵察(ISR)、
▽衛星通信(SATCOM)、
▽発射探知並びに追跡、
▽航行並びに部隊追跡、
▽軍事作戦に対する気象並びに他の環境支援、
▽宇宙監視並びに統制
大統領の予算及び関連の防衛5カ年計画は、それぞれの分野の戦略遂行に必要な重要なプログラムを支えている。2003会計年度予算案では、約2億jが新たな宇宙関係の変革プログラムにあてられており、今後はさらに増加することが計画されている。
宇宙打ち上げ、射場運用、及び地上コントロール・ネットワーク。旧式の宇宙打ち上げシステムが消え行くなかで、国防省は企業と協力して、戦争と民間の需要にもっと応答性の高い迅速打ち上げ能力を開発している。次世代使い捨て打上手段(EELV)は、中重量〜大重量の打ち上げ能力を低コストで提供するであろう。中重量型の最初の打ち上げは、2002年に予定され、大重量型の打ち上げは、2003年の予定だ。東部及び西部の打上場は、民間及び軍の宇宙運用にとって死活的であり、現在、更新期限が切れてアップグレードしているところだ。企業と連係して国防省は、能力を拡大しながら打ち上げインフラと運用コストを削減するための革新的解決策を開発しているところだ。
諜報、監視、偵察(ISR)。国防省は、詳細な画像諜報(IMINT)、信号諜報(SIGIMINT)、及び測定及び特徴諜報(MASINT)能力を提供して、意志決定者と世界的な軍事作戦の両方を支えている。宇宙は、これらの多くで決定的な役割をはたしている。2003年度大統領予算案には、画像諜報や他の諜報の質と量を改善するための投資が含まれている。その一例は宇宙ベースのレーダーだ。これは、地上の移動標的を宇宙から探知し、追跡する能力を提供する。
衛星通信(SATCOM)能力。国防省は、商用システムの活用と技術開発を続行する。商用技術と商用サービスの活用の重要性は、アフガニスタンで示された。国防省は、通信距離を伸ばし、周波数帯域幅を拡大し、また作戦戦域における移動通信能力の拡大のために商用衛星通信の携帯電話を配布する目的で、商用衛星のトランスポンダーをリースした。遭難者救助用発振器の購入と配備も推進した。衛星通信の大規模な改善が、防衛5カ年計画を通じてプログラムされている。これには、戦闘員が使用しうるきわめて確実な周波数帯域幅を拡大し、電子妨害への抵抗性を改善するように設計された能力などが含まれる。
発射探知及び追跡。弾道ミサイル発射の探知と警報は、長距離・短距離ミサイルによる攻撃の戦術的警報を提供するために不可欠の能力だ。この警報は、ミサイル防衛を始めとする、キュー反応のために不可欠だ。これらの能力は現在、防衛支援計画衛星及び地上基地早期レーダーシステムによって提供されている。この予算案は、これらの能力が近い将来も維持されることを保証するものだ。また、ミサイル防衛のための宇宙基地からの探知、追跡、識別による支援に使える技術の開発を目的とする衛星センサー技術計画にも資金供給する。
航行及び部隊追跡。国防省は、使用する軍と民間のユーザーのために、全地球測位システム(GPS)を使った世界的な精密位置測定、ナビゲーション、時間測定を提供する。アップグレードされた次世代のGPS衛星、ブロックUF、の打ち上げは、2005年10月の開始が予定されている。これは、2つ目の民間用周波数帯をすべてのユーザーに提供して、大統領指示を実行するものだ。また、信号出力と正確性を大幅に向上させた第4世代の衛星、GPSVの開発にも資金提供していく。
軍事作戦に対する気象及び他の環境支援。気象は、軍事作戦の決定的な要因だ。また、宇宙システムは、戦争遂行者が気象を予測し、それを理解するのに不可欠だ。国防省は他の省庁及び諸企業、国際的パートナーとともに、作戦部隊への環境的支援のためにいくつもの近代化計画を進めている。
宇宙監視及び統制。国防省の宇宙監視・統制任務の枢要な目標は、米国と同盟国が宇宙において行動の自由を確保し、指示があれば、こうした行動の自由を敵から奪うことだ。地上基地からの宇宙監視ネットワークの能力の強化のために国防省は、衛星と残骸を区別して追跡し、米国や同盟国・友好国の衛星に潜在的に敵対的な行動についての警報を提供する宇宙基地からの宇宙監視システムを開発している。
グローバル・ネットワーク
国防省のネットワーク戦略は、これからの情報技術と概念の力を活用して、シームレスで、安全で、広帯域の接続性と相互運用性を提供していかねばならない。今後数年、われわれは次の3つの目標を焦点にして作業する。(1)われわれの通信インフラの通信距離を戦力のすべての要素にまで伸ばし、(2)諜報ネットワークと国防省の集中ネットワークの相互運用性を最大化し、(3)帯域幅の制約を少なくする。2003年度予算案は、情報技術と関連変革プログラムの活用のために23億jの支出を提案している。
グローバル情報グリッド(GIG)。GIGは企業情報技術のアーキテクチャで、あらゆる統合任務領域、作戦の継続性(COOP)、国土安全保障及び防衛とすべてのビジネスをカバーする。この最終目標は、安全、確実、効果的で相互運用性のある情報サービスを戦争遂行者と国家安全保障を支える省庁に提供することだ。3つの決定的な企業サービスが活用される。すなわちネットワーク運用、情報保護、及び情報配布だ。
ISR作戦統合。インフォメーション サイクルのすべてのフェーズは、作戦意志決定と兵器システムのプロセスに統合される。たとえば、アフガニスタンにおいては、プレデター無人偵察機からのリアルタイムの画像がGPSの位置情報と統合されて、航空機にデータリンクされ、みつかった優先度の高い標的に時間ないし日単位ではなく分単位で攻撃できるようにされた。時間が決定的なあらゆる標的に対する全天候の精密打撃を支援するプロセスをさらに効率化するための作業が現在行われている。たとえばDARPA〔国防高等研究事業局〕の「低価格移動地上水上標的交戦」の実演などの技術的作業は、必要なISRと兵器システムの諸要素を偵察打撃統合体へと統合していくことを焦点にしている。
諜報計画
9月11日からの数週間、奇襲と非対称能力という世界の中で、米国が直面した諜報の課題が強調された。国防省は、情報と諜報のアプローチをこの課題に対処するために変革する必要がある。2つのトレンドが、この変革を推進している。1つは、米軍の任務分野と作戦地域の拡大の結果、新たなタイプの情報と異なった観点を加えねばならないということだ。2つ目は、情報の流れが、指揮系統と分離されるようになってきたし、また今後もそうなるということだ。この2つがあわさって、情報源の拡散と情報の分配と利用の根本的な変化がおこっている。
その結果、多種多様の国家安全保障上の課題が生じている。第1に、米軍の情報需要は従来よりも予見性が少なくなり、もっと動的になっている。第2に、多くのデータが収集されるようになるにもかかわらず、戦闘指揮者と政策決定者が必要とする価値ある情報を引き出すことは難しくなっている。諜報の量だけからしても、またタイムリーに報告しなければならないということからしても難しくなっているのだ。第3に、米国は、入手可能な諜報を評価するさまざまな観点と専門性を有する諸個人を集めた、強力な諜報分析能力を必要としている。米軍の作戦概念がますます情報に依存するようになるにつれて、情報収集、情報共有、協力的諜報プロセスに重点を置く必要が増してくる。
グローバル・ネットワークを築いたら、そこに質の高い情報を流す必要がある。そうした情報は、正しいデータの収集とそのデータを種々のユーザーに入手できるようにすること、さまざまな彼らの需要目的のためにさまざまな方法でそれを処理し結合する作業の成果として作られる。この情報には、敵についての諜報だけでなく、味方部隊のもの、たとえば位置データ、人員、医療、兵站アップデート、財務管理、電子商取引アプローチなどが含まれる。大統領の予算案は、情報・諜報変革計画に33億jの支出を提案している。
〔以下略〕
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