●国際情勢
9・11後のアメリカ 軍事独裁型の治安弾圧
不屈の大反撃の始まり
事実上の戒厳令
9月11日以来、米帝は「テロとの戦争」をふりかざし、戦時非常体制に移行している。事実上の戒厳令下にある。
「戒厳令」という用語を使ったが、比喩的表現ではない。
戦争・非常事態を理由に
@軍隊が直接に国内の暴力支配に乗り出している
Aもっとも基本的な憲法上の規定が取り払われている、というマーシャル・ロー=戒厳令の2つの指標が存在するからだ。
9・11直後から多数の人々が秘密裏に逮捕されたが、その人数も拘留場所も容疑内容も明らかにされていない。少なくとも千数百人の人々が、とつぜん社会から消えている。このようなことが実態として先行したうえで、法律的にも「USAパトリオット法」が制定され、裁判所の令状によらなければ逮捕・家宅捜索・押収をされない権利、弁護士の支援を受ける権利・自分の容疑事実を知る権利、適正手続で裁判を受ける権利という米国憲法のもとでの基本的な権利の破壊が行われている。
そして上下両院を軍が取り囲む中で国会が開かれるというアメリカ合州国の歴史からみても異常な状態が進行している。
審議らしい審議もなしに、多数の超反動法案が次々に通過している。
また、米本土に「ユニファイド・コマンド」が設置されようとしている。ユニファイド・コマンド(「統一部隊」)とは、太平洋軍、欧州軍、中央軍などのことで、米軍が、世界をいくつかのブロックに分けて、それぞれが管轄地域を担当する(地域管轄の他に機能別管轄による輸送軍・戦略軍などの統一部隊もあるが)。これまでは、米本土を管轄するユニファイド・コマンドは存在していない。それは、国家のあり方の原則にかかわるからだ。国家の2種の暴力部隊である警察と軍がそれぞれ国内管轄と国外管轄に分離されていることは、国家権力のあり方の根幹であって、米国憲法の根本である三権分立よりもさらに根本的な原則だ。したがってこれまでは、これには歴史的に手をつけられてこなかったのだ。
ブッシュ政権は、国外でも国内でも「テロとの戦争」を行うと宣言し、侵略戦争と国内での排外主義攻撃・弾圧・有事立法を一体にして進めている。軍隊と警察の垣根を取り払い、そして対外諜報機関であるCIAと国内治安機関であるFBIの垣根も取り払った。ここに9・11以後のブッシュ政権の歴史を画する特徴がある。
したがって、本稿のテーマは国内の治安弾圧だが、まず現在の米帝の対外戦争をみたうえで、それと一体のものとして国内をみていく。【ここでは侵略戦争の手口の一例にとどめる。アフガニスタン侵略戦争と米軍事戦略の全体的把握については、本誌前号の特集と12月、2月、3月号のQDRとその解説を参照】
SOA、CIAの中南米人民弾圧の手法
アフガニスタン侵略戦争では、長いあいだ米帝が中南米で行ってきた凶暴な攻撃の手法がそのまま使われている。米帝はそこで、ゲリラがいると見なした地方の村落を空爆でまるごと破壊し、また反動勢力を反革命的に訓練し、民族解放闘争への襲撃・暗殺・拷問・民族抹殺攻撃をやらせてきた。
米帝は、ジョージア州の米軍基地内で、SOA(スクール・オブ・アメリカズ)という治安弾圧・民族解放闘争鎮圧のための学校を運営してきた。パナマのノリエガなど中南米の悪名高い軍事独裁政権はSOAの卒業生で作られてきた。SOAでは、ゲリラ勢力はもとより、野党や慈善団体、修道院にいたるまで少しでも政府批判的な勢力に対してスパイを浸透させたり、暗殺部隊を使って襲撃し、残虐な反ゲリラ作戦をする方法が教え込まれた。拷問マニュアルがあったことも暴露されている(悪評をかわすため、現在はWHICと改名している)。
また、CIAが中南米など外国軍機関の教育に使っていた「人的資源活用訓練マニュアル」も近年明らかにされた。夜明け前に奇襲をかけること、逮捕して目隠しをし衣服をはがして裸にすること、面会をさせないこと、取調室は窓がなく音がもれず暗い部屋を使うことが書かれている。そして、拷問は逆効果を生みかねないといいつつ、強制の技術について詳述されている。長期間の束縛、いちじるしい暑さや寒さ、食事や睡眠を奪うこと、独房への収容、痛みの脅し、感覚的刺激を奪うこと、薬物の使用などだ。
こういうことを米帝は、教室だけでなく実地に教えていた。89年にグアテマラ軍に捕まって拷問された米国人の修道尼は、複数の米国人が取調室と拷問室に同席していたと証言している。
アフガニスタンでは、米帝自身の特殊部隊が、こうした暗殺部隊・秘密警察部隊となっているのだ。
第1項 アフガニスタン空爆
ニューハンプシャー大学のマーク・ヘラルド教授によれば、昨年12月6日現在で3767人のアフガニスタン民間人が死亡したという。これは、確認された死者だけの数で、交通通信の手段がなくて確認できない地域の犠牲者は含まない。また、爆撃・銃撃などによる直接の犠牲者だけであって、難民化や食糧難の激化による犠牲者も含まない。
「イザ・ブルザさん(38)は、彼女の家族と一緒に、戦争と干ばつを逃れて、難民キャンプにやってきた。食糧があるといううわさにひかれてここに来たが、現在まで何も受け取っていない。
『私たちは200`も先からキャンプにやってきたんです。ここに来たときは4人の子がいたのに、今は2人です。もう1週間何も食べていません』」
「ヘラートから50`のこのマシュラハという難民キャンプでは毎日100人が死んでいる」(英ガーディアン紙1月3日)
米軍特殊部隊の村落襲撃
米帝が特殊作戦部隊(グリーンベレーや各軍の特殊部隊など)やCIA準軍事部隊を送り込んで行っているアフガニスタンでの地上戦の実態は、徹底的に隠されている。ブルジョア・マスコミの記者に対しても、戦場に向かおうとしたところを銃口を向けて排除したり、カメラマンの資材をたたき落として破壊するなどのケースが頻発しており、従来の枠を超えた暴力的な報道統制が行われている。
だが最近、米軍特殊作戦部隊とCIAがカイザル政権側の村人をタリバン・アルカイダ部隊と誤認して攻撃する事件があり、現地の住民とそこで捕虜にされた人の証言で、日頃、米軍の地上戦がどのように行われているかが具体的に明らかになってきた。
「カンダハルから北東に車で2日間の所にウズルガン村がある。そこで午前2時に攻撃が始まった。
警官アッラー・ノール氏は、たぶん銃声だと思われるような騒音がして目が覚め、起きあがって役所の建物から外の暗闇の中に出た。そこで、黒い覆面とゴーグルを着け、先端にライトを着けた銃を持った兵士を見た。兵士たちは、ノール氏には分からない言葉を話していた。
ノール氏は、すぐに部屋に引き返し、彼の上司に話した。
警察署長アブドゥル・ラウフ氏は『大丈夫だ。味方だよ』と言った。
そのとき、銃口が火をふいた。
数時間後に日が昇った時には、21人が死んでいた。役場の建物と村の学校は、ライフル、ロケット砲、機関砲によってがれきにされていた。ノール氏と他の26人が手と足を縛られ、ヘリコプターで150マイル南のカンダハル航空基地に運ばれた。その中の数人が別々のインタビューで語ったところによれば、そこで、彼らは砂利の上にうつ伏せにさせられた。脇を膝で蹴られ、顔を地面に押し付けられた。そして米軍部隊によって歩かされた。
警察署長のラウフ氏によれば、釈放の前の日、カンダハルの一人の米軍将校が来て、両手を自分の顔の前に合わせて懇願するような仕草をした。そして通訳を通じて、『申し訳ない。われわれは間違いをした』と言った。……
他の多くの人にも別々にインタビューした。
1時から2時の間にヘリコプターが荒れた麦畑に着陸した。その畑は学校の近くだが、アブドゥル・ワリ氏の家はもっと近い。ヘリから少なくとも2つの車両と多数の特殊部隊が出てきた。ワリ氏の16歳の息子によると、そのうちの何人かは2時間後に戻ってきてワリ氏の家のドアを吹き飛ばし、彼を縛り上げ、彼の妻と子どもたちを脅迫したという。…
学校への攻撃は、初めは地上から行われた。…アマヌラー氏(25)によれば、『私が起きあがった時、アメリカ人は地上にいて、人を撃っていた』という。彼は、窓から飛び出して走った。彼のいとこのトル・ジャン氏(26)は彼の後ろを走っていた。アマヌラー氏は、はだしで、コートもなく、凍った地面を走った。そして倒れた時、後ろを見ると、アメリカ兵が彼のいとこに手錠をかけようとしていた。
朝になって、学校の外で、いとこの死体が見つかった。乾いた血がたまっていた。トル・ジャヤン氏は3カ所撃たれていた。首、胸、腹がみな後ろから撃たれたようだ。小さい傷、弾丸の入口が後方にあり、大きい傷、弾丸の出口が前方にあったから。
トル・ジャン氏は、この朝に後ろ手にプラスチック手錠をかけられて死んでいた8人の男性の1人だ。…
住民と生き延びた人々によると、学校では19人が殺された。学校から逃げられたのは、アマヌラー氏を含めて4人だけだ。そこではアメリカは捕虜はとらなかった。…
アハタール・モハメッド氏(17か18)は、役場にいて銃声で目を覚まし、起きあがったところで、目に閃光を浴びた。黒い覆面を着けた兵士が彼を地面に投げ飛ばし、手錠をかけた。
他の26人の捕虜と同様、彼の両足もチェーンで結ばれた。チェーンは長くて、歩けるようになっていた。目隠しをされた上に、覆面もかぶせられた。
『彼らはなぐった。ひざまずかせた。手でなぐり、銃でなぐった』
拘束された人は、互いにつながれて、ヘリコプターの所まで歩かされ、カンダハルに運ばれた。
目撃者によると、地上作戦が終わった後で、ヘリコプターが2つの現場の上空を旋回しながらロケット、機銃、砲を発射した。……
カンダハル航空基地に着くと、捕虜は再び互いにつながれた。砂利の地面にうつ伏せに押し付けられ、また殴られた。この日、伝統服のズボンとシャツは引き裂かれ、はがされた。その後、青い制服が与えられた。
一種のオリの中に閉じこめられた。オリは、戸外に置かれ、兵士たちが周囲を動き回ってるのが見えた。
2日目に何人かの捕虜が尋問を受けた。名前、任務、タリバンに所属しているか、アルカイダかを聞かれた。……
捕虜たちは、ずっと、自分たちがカンダハルにいることを知らなかった。なぜ、そこで捕らわれているのかもわからなかった。21人があの夜に殺されたことも知らなかった」(ロサンゼルスタイムズ2月11日)。
「投獄された27人は、水曜日〔2月6日〕に釈放された。米兵に粗暴に扱われ、殴打されたので、うち2人が意識を失い、他の人は、肋骨を折られたり、歯を折られたり、鼻がはれ上がったりしたという。
農民で新政府の警察官のアラー・ノール氏(40)は、『彼らはわれわれの頭や胸をなぐった。そしてお前たちはテロリストだ! アルカイダだ! タリバンだ! といって、拳でなぐり、足で蹴った』といっている。彼は、投獄されていた軍基地で、肋骨を2本折られた。……
殺された人の家族には、CIAが賠償金を配っているという」(ワシントンポスト2月11日)
米帝の侵略戦争は、一方でクラスター爆弾、デイジーカッターなどによる空爆で無差別大量にアフガニスタン人民を殺傷し、国土を荒廃させるとともに、地上作戦では、SOAやCIAの暗殺・襲撃・尋問の手口どおりのことが行われているのだ。
今回のウズルガン村の事件は、たまたまカルザイ議長の出身地で、彼と密接な関係にある有力者につながる警察署長などを誤って捕虜にして虐待するという経緯があったために、事態が表面化したにすぎない。もっと残虐な行為が行われても、そうした立場にない人々には事態を外部に伝えるすべがなく、真相が握りつぶされているのだ。
そして米帝の対応は、襲撃の相手を誤ったか否かに焦点があるというものだ。相手が本当にタリバンやアルカイダであれば、捕虜処刑や虐待があっても当然という態度をとっている。
戦争捕虜でも刑事被告人でもなく
米帝は、捕虜をキューバのグアンタナモ基地に収容している。米帝がアルカイダだと認定した捕虜については「戦争捕虜ではない」と主張して、ジュネーブ条約を適用しないことを宣言している。また米国領ではないグアンタナモでは、米国憲法・国内法が適用されないと明言している。つまり、アフガニスタン侵略戦争で捕虜にした兵士たちには国際取り決めにもとづく最低限の保護も、米国の刑事事件容疑者・被告としての憲法上・刑事訴訟法上の最低限の保護も認めないのだ。
拷問を使った尋問、虐待による病気・死亡、そしてアフガニスタン人民、イスラム諸国人民の民族的尊厳と人間的尊厳への侮辱に対するブレーキは何もないことを当然のこととして居直っているのだ。
米帝のジュネーブ条約適用拒否にたいして、全世界の非難が高まり、アメリカの諸団体もグアンタナモの視察、捕虜との面会を要求している。だが米帝は、頑強にそうした情報公開の要求を拒んでいる。捕虜の人間的・民族的・宗教的尊厳の蹂躙、拷問や恐るべき虐待を隠していることは明白だ。
米帝は、「米国軍要員保護法案」を12月7日上院で可決した。国際刑事法廷で米軍要員の戦争犯罪が裁かれることを実力で拒否するためだ。この法案は、米政府に国際刑事法廷への協力を一切禁止するとともに、それでも米国人が戦犯としてこの法廷にかけられる場合には、軍事力を使ってもその戦犯を奪い返す権限を大統領に与えた。最初から米軍が戦争犯罪を頻繁に行うことを前提にし、その犯罪を軍事力によって居直るということだ。
米帝は、基軸帝国主義として、国連本部所在地国として、安保理常任理事国として、国連の圧倒的なヘゲモニーを握ってきながら、そしてユーゴスラビア問題などでは「戦犯追及」を叫びたてながら、米帝自身は国連の取り決めである国際刑事法廷を拒否するというのだ。この一事をとっても、米帝が桁違いの戦犯行為をしている証拠だ。
米帝は、これまで中南米などで行って来た残虐行為を、もっと大規模かつ悪質にして、いっそう直接に米帝自身が手を下して行っているのだ。
実際、米帝は、公然と拷問を語るようにさえなっている。
「拷問について考える時だ」
「現在、4 人の重要なハイジャック容疑者が、まったくしゃべっていない」
「たとえばわれわれは、少なくとも彼らを心理的拷問にかけることはできないものだろうか。たとえば、民主主義国家であるイスラエルでも拘束したパレスチナ人の85%を拷問している」
これが、米帝巨大マスコミ『ニューズウィーク』誌11月5日号の論説だ。 国内での侵略戦争
ブッシュ政権は今、排外主義、人種差別主義をあおりながら、国家権力による襲撃をかけている。そして、それを突破口にしながら、憲法的制約を破壊し、全労働者階級人民に対する治安弾圧を一挙にエスカレートしている。
これまで米帝が中南米で軍事独裁政権などを育成しながらやってきたことを、今回は米国内でも全面的におこなっている。国内での侵略戦争・植民地戦争といえることが行われているのだ。
国家非常事態宣言
9月11日の反米ゲリラの直後、ブッシュ政権は全米・全軍を最高度の警戒態勢に入れた。そして14日、ブッシュは「国家非常事態」を宣言した。これによって大統領は通常の権限を大幅に超える裁量権をふるうことを宣言したのだ。だが、ブッシュはこれにとどまらず、さらに強権的権力の拡大へと走っている。
移民および国籍法改定法
航空・運輸安全保障法
航空運輸の安全およびシステム安定化法
海事安全保障法
などの「反テロ」をふりかざした有事立法、治安弾圧立法を次々に強行し、また
02会計年度諜報認可法
などによる予算措置で、治安弾圧・諜報機関の大幅拡大をはかっている。
なかでも、もっとも包括的で反動的な新法が次の法律だ。
USA PATRIOT法
「テロ行為を傍受し遮断するのに必要な適切な手段を与えることにより、アメリカを団結させ強化する法」の頭文字をとって、「ユーエスエー・パトリオット」すなわち「アメリカ合州国愛国者」と読ませる仕掛けになっている。愛国主義・帝国主義的民族排外主義をあおって戒厳令的治安弾圧を貫こうとするこの新法の狙いを表している。
昨年両院を通過し、10月26日にブッシュが署名して法律となった。300ページにおよぶ長大な法律で多数の問題があるが、特に重要な諸点は次のようなものだ。
・テロリズムの定義の拡張といっそうのあいまい化
従来、連邦法では、テロリズムに次の3つの規定を与えていた。
国際テロ、国境を越えたテロ、連邦テロ
USA PATRIOTでは新たに「国内テロ」という罪を加えた。これは、合州国内において人命に危険な活動を合州国法または州法に違反して行い、その意図が(T)民間住民に脅迫または強要を行う、(U)脅迫または強要によって政府の政策に影響を及ぼす、(V)大量破壊、暗殺または誘拐によって政府の行為に影響を及ぼす、ことであるものだ。
この法律は、テロの定義に「財産に相当の損害を与えるために、兵器または他の危険な機器を用いる」ことを含めている。
何らの傷害をもたらす危険のないものも含まれるのだ。たとえば、さまざまな実力闘争で軽微な器物破損を行った団体もテロ組織とされて、弾圧される。
・所属(関係)による罪
所属(関係)による罪は、米国憲法の権利章典の第一条(信教、言論・出版の自由、集会、請願の権利)を基礎にして禁じられてきた。たしかに今までも、この基本原則に反する法令で、たとえば50年代の「赤狩り」の時期などに共産党への所属ないしそれとのさまざまな関係を持つことが処罰されてきた例はある。しかしそれも、67年の最高裁判決で違憲とされ、この基本原則が判例法としても再確立されている。たとえば82年のレーガン反革命時代の最高裁でも、NAACP(全米有色人地位向上協会)の指導するボイコット行動で暴力行為があっても、NAACPのリーダーが暴力を意図していた証拠がないから、その暴力行為の責任を問われないという判決をだしている。
【権利章典とは、憲法に1791年に採用された修正第1条〜第10条のこと。権利章典は、個人の基本的権利を連邦政府の簒奪から守る保障として、また既存の権利に対する介入の禁止として作られた】
これまでも、移民法(「移民および国籍法」)には、国務長官が外国の「テロリスト組織」を指定する権限を有するという反動的規定があったが、さまざまな手続的な歯止めがあった。
USA PATRIOT法第411条で移民法に付加された条項では、国務長官が外国および国内の「テロリスト組織」を指定する。そして、手続的な歯止めがはずされている。
・組織支援の罪
また第411条による移民法改悪で、テロリスト組織として指定されていないグループを合法的に支援しても拘留と追放がありうることになった。移民は、自分の支援がテロ活動を助長しなかったということを自分で証明しなければならないのだ。
こうした組織に属する、あるいはそれを支援したと見なされた非米国市民は、自分がテロ活動を助長していたことを知らなかったか知り得なかったことを証明できないかぎり、拘束され、国外追放される。
また、支援者が支援していた時は「テロ組織」とは指定されておらず、後に政府が「テロ組織」と指定した場合、そのことは支援者に通告されることはない。知らないうちに、「テロ組織の支援者」にされてしまうのだ。
・無罪推定の原則、不遡及の原則の破壊
こうした被疑者・被告に無罪の立証責任を負わせるということは、検察側が有罪立証できないかぎり無罪が推定されるという大原則の否定であり、これまでの刑事裁判の根本的な逆転だ。
また第411条によれば、事実上、「テロ組織」として指定される以前の支援行為を罪に問うことになり、法律不遡及の原則を破壊するものだ。
・令状主義の破壊
従来、権利章典の第4条は、「不合理な捜索及び逮捕押収に対して身体・住居・書類及び所有物の安全を保障される人民の権利は、これを侵害してはならない。令状は……相当な根拠に基づいていない限り、また捜索する場所および逮捕押収する人または物が明示されていない限り、これを発してはならない」と規定している。
この憲法の規定にもとづいて、強制捜査の前に、捜査官は裁判所に対して、確度の高い証拠を示す必要がある。
1978年制定の外国諜報監視法(FISA)も憲法違反の反動的法律であり、そこではFBIが「外国の諜報情報」を得るために秘密捜査を行うことを認めているが、それでもその証拠を刑事裁判で使おうとする場合には予め令状を取っておく必要がある。
USA PATRIOT第218条でFISAが、「FBIの捜査の目的が『外国の諜報情報』を得ること」から「捜査のひとつの重要な目的が……」と変更された。こうして事実上、対外諜報に限定されなくなった。そして、確度の高い証拠を示す必要がなくなったのだ。
第215条は、FBI捜査官に、個人や企業から書類・記録等を提出させる命令を裁判所から得る権限を与えた。この命令は、FBIの申請にもとづいて直ちに出されることになっており、裁判官の裁量の余地はない。
・盗聴・傍受の大幅拡大
これまでも米帝は大規模な盗聴・傍受を行ってきた。94年の盗聴令状の発布件数は1154だ。そして一件あたり約2000回の会話が手当たりしだい盗聴された。同年、容疑事実とは無関係な会話が約190万回盗聴されている【本誌97年11月号】。その後のインターネットの普及で盗聴・傍受はさらに拡大している。
だが従来は、盗聴令状を得るためには、捜査機関は確度の高い証拠を示す必要があると規定されていた。実際には令状は乱発されていたが、少なくとも法文上の歯止めはあった。
USA PATRIOT法第216条は、「確度の高い証拠」条項が「犯罪捜査に関係があるらしいという検察の認証」に変えられた。しかも、216条の規定では、盗聴・傍受令状を出すのは、裁判所の裁量ではなく義務とされている。FISAで認められた盗聴・傍受は、対外諜報収集を主目的とするものであったが、今度はそれに、刑事捜査を主目的にするものも付加された。法文上も完全に捜査機関の意のままに令状が発行されることになったのだ。
インターネット傍受のために電信会社に出される通信記録提出命令も自動的に裁判所から出される。それには、検察がきわめて低いレベルの「認証」をするだけでいいのだ。しかも、1つの令状で全国的な通信記録が取れる。こうなると、権利章典第4条の「捜索する場所および逮捕押収する人または物の明示」という規定は有名無実になってしまう。令状主義が破壊され、捜査官に白紙委任状が出されるに等しい。
全国的規模で、誰がどのサイトにアクセスしたか、誰がどんなメールを誰に送ったか等の、厖大な情報が当局に入手される。
また、さまざまな企業にある「諜報」を提出させる広範な権限をFBIに与えている。FBIは、裁判所に対して、諜報捜査を行っているということと、探している当該記録がそれに関係している可能性があることを認証しさえすればいいのだ。また、その命令書には、捜査目的は明らかにされない。
こうして企業が顧客情報として近年大量に蓄積してきている金融、教育、医療、趣味、旅行などの個人記録がFBIに入手されてしまう。
法的権限だけでなく、予算の面からも、この盗聴・傍受は拡大していく。
第101条によって、「反テロリズム基金」が設けられ、それは財政年度の制約なしに使うことができる。また、「96年の反テロおよび効果的死刑法」という大反動法によって設置された技術サポートセンター(FBIの作戦を支援するもの)を拡充する資金として、02〜04年度、毎年2億jが与えられる(第103条)。
またスパイ、密告者に払う巨額の償金を自由に使える権限を司法長官に与えている。
・CIAの国内スパイ活動
過去のCIAの活動への人民の怒りの高まりの中で、これまでFISAには、CIAの国内活動を制限する規定が設けられてきた。
しかしUSA PATRIOT法第203条は、盗聴・傍受で収集したプライバシーにかかわる情報を含めて、CIAに他の機関が持つ情報を提供させる権限を与えた。それには、令状は必要とされない。
第901条は、CIA長官に他機関を含めた国内での諜報活動を指揮する絶大な権限を与えている。
第358条は、金融機関がCIAにも「疑わしい活動」について報告するように規定し、個人・団体の資金の流れを全面的に把握しようとしている。
・外国人の拘留
これまでの法律でも、政府の裁量で、予防拘禁も含めて、きわめて広範な外国人を拘留してきた。しかし、追放できない外国人の無期限拘留については、たとえ政府が当該外国人が危険であると主張しても、政府の拘留権限には限界があるという判例が確立してきた。
USA PATRIOTの第412条は、司法長官が危険であると認証した移民を7日以内に刑法または移民法違反で起訴することを求めている。テロリズムのかどで追放できないが移民法違反(オーバーステイなど)がある移民ないし非米国市民は、テロまたは国家安全保障や社会の安全にリスクがある行動に関与していると「信じられる合理的理由がある」と司法長官が判断すれば、無期限に拘留できる。
この「信じられる合理的理由」は、従来は、「危険だと信じられた」人物の着衣の上からさわって武器の携行の有無などを調べることが許される基準として判例で確定してきた。つまりこの程度の理由では、警官は逮捕はおろか着衣の下の身体捜索もできないとされてきたのだ。この基準で無期限に人の自由を束縛するのは、とんでもないエスカレーションだ。
この拘留には、いちおう6カ月ごとの見直しが規定されているが、被拘留者が裁判や審問を受ける権利も定められていない。テロとの関連について政府は証拠を示す必要はないのだ。刑事裁判で求められる「合理的に疑いえない証拠」あるいは追放審問で求められる「明白で、説得力があり、曖昧性のない証拠」という条件は、この第412条にはない。
刑務所・拘置所規則の改悪
USA PATRIOT法成立と同じ10月26日、アシュクロフト司法長官は、司法省刑務局の規則・規制改悪案を出した。
長期の独房収容
人間は、もともと1人で生活するようにできていない。独房への収容は、自然な人間生活にあまりにも反した生活を強いるものであり、心身に苦痛を強いるきわめて残酷な措置だ。したがって従来は、独房への収容は、例外的場合に限定され、期間も限られてきた。しかも、従来の情報国家安全保障やテロ活動のおそれを理由にした120日以内の「特別行政措置」も非人道的な囚人虐待として批判されてきたものなのだ。
だが今回アシュクロフトは、「国家安全保障への脅威が120日間で消滅すると考える合理的理由はない」として、この措置を1年間に延長した。この1年も、さらに繰り返しうる。
弁護士接見への立ち会い、盗聴
弁護士の援助を受ける権利は、米国憲法の権利章典第6条に明記されている。実際上は、暴力行為・テロの恐れを理由にして弁護士との会話が盗聴され、この憲法上の権利はなしくずしにされてきたが、今回の新規則によって、弁護士との接見の場への職員の立ち会いや会話の盗聴が当局の重要業務として公然と主張されている。
そこで聞いたことは、暴力行為・テロを準備する指令・通信など以外は外に漏らさないし、裁判担当の検事との間には「ファイアーウォール」(情報遮断)を設けるから権利章典第6条の侵害にはならないとアシュクロフトらは主張する。
だが、このペテンによって、弁護士接見への立ち会いや盗聴が際限なく拡大していくのだ。
司法長官が全被拘留者を管轄
これまでのような刑務所・拘置所だけでなく、入管収容所・軍施設なども、司法長官が最終的な権限を一元的に持つことになる。
独裁軍事法廷
11月13日ブッシュは、「軍事命令」を発し、テロ容疑の非米国市民を「ミリタリー・コミッション」という特殊な軍事法廷にかけることを決定した。
敗戦帝国主義である日本の憲法は、第76条2項で特別裁判所の設置を禁じている。その背景には、軍事裁判(軍法会議)が侵略戦争強行と内外の人民弾圧のために専横きわまる裁判を行い、憎しみの的になった事実がある。厳格な命令服従関係が貫かれた閉鎖的な軍隊組織の中で行われる軍法会議は、必ず専制的になる。本来の裁判たりえないのだ。
米帝は軍法会議のシステムを保持している。だが、今回のミリタリー・コミッションは、この軍法会議(コートマーシャル)でさえない。
米帝の軍法会議は、軍事司法統一法典(UCMJ)および軍法会議規則(RCM)と呼ばれる法規に基づいて行われる。現実には自分で費用負担しない限り弁護人までも軍人で占められる等々さまざまな制約があるが、法文上は、一般裁判所で認められている適正手続に準じ、裁判の公開も認められ、米軍控訴裁判所、米国最高裁への2段階の上訴権もある。
だが、今回の特殊軍事法廷設置の軍事命令では、そうした最低限の手続的保障もことごとく破壊されている。
ブッシュの軍事命令は、「テロリズムに対する戦争におけるある種の非市民の拘留、取扱い、裁判」という表題だ。「非市民」とは、非米国市民という意味だ。そして軍事命令の第1条は、排外主義的に「反テロ」をあおり、国家非常事態に対応してこの命令を出すことの緊急的必要性を強調している。
第2条(1)は、「この命令の対象となる個人」を、「〔犯罪と〕関連した時期にアルカイダとメンバーだったか現在そうである、または国際テロに関与・支援若しくは教唆、共謀……した、またはそれらを行ったものと知りつつ匿ったと信じうる合理的理由がある個人」と規定している。
「信じうる合理的理由」という基準は、「確度が高い証拠」という従来の基準を破壊し、容疑者や被告の範囲を際限なく広げていく。
同条(2)は、こうした人をミリタリー・コミッションにかけることを「米国の国益にかなう」の一言で合理化している。また、同条の定義にかなう被拘留者を国防長官の一元的管理下に置くことを規定している。
第3条は、拘留の場所を国防長官の裁量で国内でも国外でも設定できるとする。
第4条では、ミリタリー・コミッションで終身刑まで課されることが規定されている。また、その場所も国防長官の裁量となっている。グアンタナモのような米国憲法が及ばない場所が選べるようになっている。人員構成・任命も、また運用のルール決定も検察官・弁護人の資格の決定も国防長官の裁量だ。
そして秘密保持優先で、裁判の公開の原則が徹底的に破壊されている。
第7条では、「本命令のいかなる条項も国家機密を公開して良いと述べていると解釈してはならない」と念を押している。つまり、秘密保持を絶対的に優先させて、この命令の中にある口先だけの「裁判」らしい見せかけもすべて有名無実化しているのだ。
同条(b)では、この特別軍事法廷が「(1)排他的管轄権を持つ」として、
「(2)その個人は、直接間接に、(i)いかなる米国法廷でも、(ii)外国法廷でも国際法廷でも、救済措置を追求することができない」と規定する。高裁、最高裁などの一般の法廷に控訴・上告する道は閉ざされている。ミリタリー・コミッションと国防長官・大統領が専制的権力をふるう。
労働者階級の組織的反撃が始まった
USA PATRIOT法による国外追放処分、無期限拘留などは非米国市民に対するものとされており、また大統領軍事命令による拘留、ミリタリー・コミッションも非米国市民を対象とするとうたっている。
このように、米帝は労働者階級人民に対して排外主義をあおりつつ、全社会を一変させる弾圧体制を作ろうとしているのだ。
だが、アメリカ労働者階級は、階級的団結にかけて、不屈の反撃を開始している。ブッシュ政権の攻撃に直面して、あらためて排外主義・新植民地主義的収奪との闘いを正面課題にすえなおした労働運動が登場してきている。
ニューヨークで開かれた世界経済フォーラムに反対して1月31日にAFL-CIOなどが行った集会では、ナイキのメキシコ工場の労働者の労組組織化闘争勝利の報告など各国の多くの労組からの発言を受け、米帝の世界支配との闘いの決意を固めた。
エンロン破綻では、資本家が巨額の富を詐取する一方で労働者の退職金も401 年金も紙切れにしてしまった。年金消失は、バブル崩壊・大恐慌突入で厖大な労働者に襲いかかろうとしている。怒りが沸騰している。
ブッシュ政権とエンロンとの癒着が今、重大な焦点になっている。シティーバンク、バンクオブアメリカ、モルガンスタンレーなど、米金融資本の本体中の本体がエンロンの詐欺的取引と一体だったことも暴露されている。多くの労組活動家はエンロンが極悪侵略企業だったことを強調している。あらゆる怒りを結びつけて帝国主義に向けていくかつてない規模の労働運動が始まりつつある。 大学職員組合のパレスチナ人教授の解雇反対闘争
南フロリダ大学の終身資格準教授(コンピュータ科学)のサミ・アルアリアン氏(クウェート生まれのパレスチナ人)は、反米ゲリラに対して9月26日にFOXテレビに出た。反動的司会者は、イスラエルの占領・抑圧に反対する彼の発言を非難し、また彼の関係者に「テロリスト」がいるとして、「私がCIAだったら、あなたを24時間尾行する」とまで言った。
放送の直後から彼と彼を雇用する大学を脅迫する殺人予告の電話をはじめ、メールや郵便が数百も殺到した。学長と理事会は、大学の正常な運営ができないとして、すぐに彼を有給休職措置にし、12月19日には解雇を通告してきた。1月15日のFOXテレビでも大学の顧問弁護士は、アルアリアン氏に犯罪行為の証拠はないと認めながら、脅迫を招いた責任があるとして解雇を主張している。
フロリダの知事はブッシュの弟であり、大統領選の時は、警官や民間右翼が人種差別によって暴力的に非白人の選挙妨害をした所だ。組合に対する脅迫も激しい。だが、それに屈せず、フロリダ公立大学職員組合(米教員組合連盟・AFL-CIO所属)の南フロリダ大学支部は直ちに、解雇を言論の自由の侵害だとして弾劾し、アルアリアン氏擁護に立ち上がった。
統一電機労組の反人種差別決議
UE(統一電機ラジオ器械労組、独立系、約3万人)は、9・11後の暴力的な排外主義の嵐の中で大会を開き、「人種差別主義と戦い、労働者階級の団結を築け」という決議をあげた。
「反アラブ、反イスラムの偏見が新たに高まってる。われわれは直ちにこの偏見を弾劾しなければならない――まさに真珠湾の後でUEが反日本人の人種差別を弾劾したように」
「勤労人民の前進――労組形成や団体交渉や立法における――は、労働者階級の団結を勝ち取り維持する能力にかかっている。団結はあらかじめ当たり前のこととしてはならない。われわれの成功は、結局は、人種差別との闘いにかかっている」
「わが労働運動、わが組合が、人種差別が浸透した社会からの影響から免れているわけではないことを認識する必要がある。われわれは、意識的にこの力がわれわれ自身の組織に及ぼす作用を最小限にする取り組みをせねばならない」
UEはこれまでも、NAFTAに反対するメキシコの労働組合との連帯を「戦略的組織化同盟」と位置づけ、在メキシコの米企業での組合建設、組合破壊との闘い、在米メキシコ系労働者の組織化などを進めてきた。
第3項 無実の死刑囚釈放運動
12月18日には、元ブラックパンサー党の無実の死刑囚ムミア・アブ・ジャマル氏の死刑判決が、裁判官による違法な陪審への教示にもとづくものだったという連邦地裁決定がだされた。
獄中のジャマル氏は、全世界の差別と抑圧を無くす闘いの先頭にたっている。9・11後も必死に反戦闘争を呼びかけている。今回の決定は、彼の闘いと世界的規模での署名運動、労組や各種団体の大衆的集会・デモなどによって勝ち取られた大きな前進だ。
だが、死刑が当面なくなったとはいえ、有罪判決自体は認めた不当な決定だ。「反テロおよび効果的死刑法」をたてにとり、無罪証拠の検討さえ拒否している。
連邦地裁決定後、ジャマル氏と広範な支援者は、再審釈放を求めてさらに不屈の前進を開始した。
軍事独裁型の弾圧体制へと向かう米帝に対して、かつてなく巨大な層が、激しい危機意識を抱き、怒り、階級的非和解性を意識してきている。そしてそこに帝国主義の断末魔の姿を見ている。米帝打倒への新たな闘いが始まった。
この闘いに連帯し、日帝の有事立法・戦争国家化をうち砕こう。われわれ自身の長期獄中同志奪還の必死の闘いは、心の底からの国際連帯をつくりだす。一刻も早く同志を奪還しよう。
世界革命を実現する反帝・反スターリン主義の党に総結集しよう。
|