COMMUNE 2001/9/01(No309 p48)

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No309号 2001年9月号 (2001年9月1日発行)

定価 315円(本体価格300円+税)

〈特集〉 靖国神社は戦争動員の梃子

 ・極右・小泉の強引な公式参拝策動を弾劾する
 ・戦死者を「英霊」化し愛国心高揚の装置に転化
 ・参拝を拒否して軍部から弾圧された上智大学
 ・ 戦後の靖国神社国営化・公式参拝攻撃の狙い

●翻訳資料/ブッシュ政権の新戦略・3資料 村上 和幸 訳
 ・ラムズフェルト国防長官の上院軍事委員会聴聞発言
 ・米国とアジア-米国新戦略と戦力態勢(ランド報告)
 ・”ブッシュ・ドクトリン”(C・クラウトハマーの論説)

 ニューズ&レビュー  南朝鮮・韓国/金大中政権と6月ゼネストで激突 室田 順子

     関空反対全国集会

三里塚ドキュメント(6月) 内外情勢(6月) 日誌(5月)

羅針盤 勝利に向かう試練

 都議選において東京・杉並区から立候補した結柴誠一氏(都政を革新する会)は、9450票を獲得したが、残念ながら当選には及ばなかった。4月に登場した小泉政権のすさまじい反革命攻撃に敗れたことは悔しいかぎりである。だが、同時にこの闘いの中で大きな前進をかちとったことも事実である。今回の選挙は、介護保険をめぐる闘い、学校給食の民間委託を阻止する闘い、「新しい歴史教科書をつくる会」の歴史・公民教科書の採択を阻止する闘いという杉並の戦闘的区民の大きな大衆運動をともに闘いつつ、そうした区民の自主的決起とともに進む議員のあり方を示しながら闘われた。それは、これからの小泉反革命と真っ向対決の中で必ず大きな力となるものだ。9450票の貴重な支持は、新たな闘いの基礎である。

 小泉は、「痛みを伴う改革」を掲げ、旧勢力を打破するかのような振る舞いで登場したが、その「構造改革」は日帝金融独占資本を救済するために、大倒産と大失業をもたらすものである。それがあまりにも現状破壊的なものであるために、小泉は思想的には帝国主義的愛国主義、国粋主義、排外主義をむき出しにして、人民に襲いかかってきている。小泉は、8月15日に靖国神社に公式参拝することを首相就任以前から公言し、それに対する内外からのごうごうたる弾劾に対して、「反対の理由が分からない」とうそぶき、あくまで強行しようとしている。戦前の戦争動員は「死ねば靖国に祭られて神になる」と扇動して行われた。小泉は今日的な戦争国家化攻撃の「魂」の問題として、靖国思想を復権しようとしているのである。

 この靖国問題は、「つくる会」教科書の採択をめぐる攻撃と一体のものである。「つくる会」は、日帝の15年戦争を「大東亜戦争」とたたえる立場を子どもたちにたたき込み、再び国家のために銃を持つ子どもを育てようとしている。この問題では朝鮮人民、中国人民が猛然と怒りの決起に立ち上がっていることが決定的に重要である。「つくる会」勢力はこれを「内政干渉だ」とし、「日本の教育に外国から口出しさせるな」と叫んで排外主義をあおっている。これ自体が、かつての朝鮮・中国への侵略と侵略戦争の歴史を居直り、再びじゅうりんするものである。南北朝鮮と中国からの抗議をはねつけることによって、小泉は日帝の侵略を決定的に開き直った。朝鮮・中国人民と連帯して、小泉反革命政権を打倒しよう。

 小泉反革命との闘いの中で、ファシスト・カクマルの排外主義、愛国主義があぶりだされてきている。カクマルは、「つくる会」教科書に対してアリバイ的に「採択反対」などと言う。だが、「朝鮮・中国人民の闘いに連帯する」とは絶対に言わない。朝鮮、中国からの「非難」に「唱和」するのはナンセンスだというのだ。それは、「つくる会」と同様、「内政干渉反対」という立場なのだ。そもそも、カクマルの頭目である黒田寛一が出版し、カクマルの「聖典」となっている『実践と場所』全三巻は、「日本人の情緒」を手放しで礼賛し、「みずほの国」のシンボルとして天皇を美化し、アメリカ人を「ヤンキー」と憎悪を込めてののしる、驚くべき愛国主義の書である。黒田は太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼んで恥じない。これを帝国主義戦争として弾劾する立場ではないのだ。「つくる会」教科書と同じなのだ。(た)

 

 

翻訳資料

 ブッシュ政権の新戦略重点は世界大的戦争

村上和幸訳 

【解説】

 本号は、米帝軍事戦略に関する3つの翻訳資料を掲載する。
 Tは、ラムズフェルド国防長官の6月21日の上院軍事委員会の聴聞会での証言。ブッシュ政権の公式の態度表明であり、分析の中心にせねばならない。
 米帝ブッシュ政権は、新QDR=「4年毎の防衛見直し」の議会提出日である9月末をめどに、戦略改定作業を進めている。聴聞会はこれに関するものだ。
 議長を勤める上院軍事委員長レビン(民主党)は開会にあたって次のように言っている。
 「『財布を開ける前にまず頭を働かせねばならない。国防予算は、現実主義的な戦略によって決められなければならず、その逆であってはならない』という国防長官の見解に、私は賛成だ」
 「いわゆる『2つの大規模戦域戦争要件』が、時代遅れになってきていると私は感じてきた」
 レビンは、財政が厳しくても軍事戦略上必要なものは出すと最初に確認している。民主党は、ブッシュ政権の減税政策などに対して財政危機を招くと反対してきたが、ブッシュの軍事予算増加路線には基本的に賛成なのだ。
 「2つの大規模戦域戦争への同時対応」という従来の米帝の基本戦略の転換にも賛同している。
 米帝支配階級内では、軍事戦略転換の具体的なあり方については、激しい対立がある。ミサイル防衛計画(TMD、NMD)や陸・海・空・海兵のそれぞれの構成や、兵器調達が争点になっている。ブッシュ共和党政権と民主党の間で、また共和党内部でさえ、対立は激烈だ。だが、@軍拡、Aアジアへの重点転換、の2点では一致している。米帝が世界帝国としての延命のための選択肢は限られているということだ。
 97年のQDRでは、基本的に現有装備の量的拡充で足りる現在の戦争への対応(侵略戦争)と戦力の質的な圧倒的高度化が必要な将来の世界的な大戦争の準備とが、並列的に位置づけられていた。だが、今回のラムズフェルド証言では、将来の戦争への投資に圧倒的力点が置かれている。
 米帝は、世界大的戦争への突入を目指して動き出した。「二つの大規模戦域戦争」戦略からの転換の本質もここにある。
 Uは、ランド研究所が5月に出した報告書。ランド研究所は、共和党主流の政策立案に基軸的役割をはたしている。ラムズフェルドが最近まで理事長を務めており、現政権と人脈的にも密接だ。
 この報告書は、米空軍の委託研究の報告で、準公文書の性格を持っている。
 「アジアでのいかなる潜在的覇権国の登場も米国のアジアにおける役割を浸食する」として、覇権国登場の阻止を宣言したことは重要だ。報告書が直接名指ししているのは中国だが、「いかなる」をつけて日帝をも暗に指している。
 そして短期的には朝鮮有事対応態勢を維持するが、中国・台湾有事態勢に移行すべきだと論じている。
 ランド研は6月にも『日本と弾道ミサイル防衛』という報告書をだした。ここに翻訳を載せる紙数はないが、そこでは日帝の米帝への軍事協力の拡大が日米安保同盟からの決別につながるのではないかとの懸念が語られている。
 日米安保同盟全般において、そうした共同と争闘のきしみがますます激しくなっているが、特にミサイル防衛計画には独特の緊張がある。6月の報告書では、ミサイル防衛への賛同のコンセンサスが日帝内にできていないと述べられている。だが、国内外の反対とは別に、日帝支配階級自身にとっても一直線には推進できない理由があるのだ。レーガン時代のSDI(スターウォーズ計画)の時、すでに日帝は軍事共同研究に込められた米帝の対日争闘戦的狙いを実感している。米帝は知的所有権・軍事秘密によって日帝企業を、民生部門も含めてがんじがらめにしようとし、日帝企業はあと少し共同研究にのめり込んでいたらその狙いどおりにされていたという恐怖を感じた。
 この報告書でも認めているが、ミサイル防衛計画の技術開発は、スピンオフ(民生品への転用効果)がさほど期待できないといわれる戦闘機開発などと比べても、スピンオフがさらに少ない。企業的利益からは、参入のメリットがほとんどない。
 しかしブッシュ政権は、ミサイル防衛を軍事戦略転換の1つの軸にまで高めようとして、必死で日帝に働きかけている。日帝も、SDI開発当時とは次元の異なる戦争国家化・改憲への動きの中で、米帝との安保協力を格段に進める方向に向かっている。
 こうしたことからも、ミサイル防衛は、日米間で矛盾に満ち、緊張をはらんだテーマになっているのだ。
 5月、6月の報告書はともに、日本の集団的自衛権をめぐる解釈改憲だけでなく、9条の明文改憲をも明示に奨励・支持する言葉を繰り返している。(ベーカー駐日大使の7月17日の改憲発言は、両報告書を始めとした意志一致をもとにして行われたのだ)。特に6月の報告書は、ミサイル防衛計画への参加の意志決定をめぐる、日帝内のさまざまな勢力、陸・海・空それぞれの自衛隊の利害、産業・通商的利害、日本人民の反対、アジア諸国の日帝への不信など、つっこんだ論じかたをしている。その中で、ミサイル防衛への本格的参加には日本の戦後的なあり方の根本的変更が必要とされ、日帝の改憲推進が中心的に論じられている。
 「憲法改革がミサイル防衛の決断の糸口」「憲法上の制約」などと「憲法」という語が、6月報告書に少なくとも17回登場する。
 Vは、ピュリッツァー受賞コラムニスト(ワシントンポスト紙の常連)が共和党右派系の雑誌に載せた論説。米帝ブッシュ政権の本音がストレートに表現されている。
 ブッシュ政権の手法の特徴は゛ユニラテラリズム″(「単独決定主義」ないし「一方的行動主義」)だ。この語は、米国が京都議定書離脱、ミサイル防衛推進などの決定を何の外交的連絡もなしに、一方的に(ユニラテラルに)行ったのはけしからんと、欧州帝国主義などが非難の言葉として使ったことで知られている。だが実は、それ以前から米帝支配階級の少なからぬ潮流が「ユニラテラリズム」を推進すべきだとみずから積極的に使ってきた用語だ。帝国主義間争闘戦と侵略を、国際法・国際慣行・外交手続に縛られず力ずくでやるべきだという、すさまじい主張が米帝の体内から公然と噴出してきているということだ。
 この手法は、他帝国主義の側に激しい反作用を生んでいる。
 欧州委員会は、米帝の通信傍受システム=「エシュロン」について、産業スパイだ、人権侵害だと公式に激しく非難した。
 国連人権委員会では、従来欧米に3議席が割り当てられており、うち2つが欧州の、1つが米国の「指定席」だった。だが今年の人権委選挙では、欧州3カ国が立候補し、それに他地域に根回しして得た票も集中させて、3議席を独占して米帝を排除した。従来は少なくとも形の上では同盟国間関係だった米欧間が、非難合戦と公然たるけ落とし合いの関係に入ったのだ。
 日米対立は、米欧対立ほどは表面的に目立っていない。だが実は、日米対立こそ死活的なのだ。だからこそ、米帝は軍事戦略の焦点を決定的にアジアに移したのだ。
 欧州は、EU内に米帝と特殊に近い英帝があり、また独仏間・独英間の対立がある。こうした構造が日米間では働かず、矛盾が本当に爆発する時には日米の直接の大激突しかないという深刻さがある。何より、日帝の不均等発展こそが米帝の歴史的没落の大要因なのだ。そして、巨大なアジアの勢力圏化をめぐる争闘戦の相手なのだ。

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 ラムズフェルド国防長官証言

 6月21日上院軍事委員会聴聞会 

 5カ月前に就任してから、私は非常に多くの質問をし、わが軍が21世紀の安全保障の新たな課題に対処するためにどうしたら最善かと重要な議論を重ねてきた。この場で、われわれの議論の進展を報告したい。
 今月中に、02年度〔今年9月からの会計年度〕予算の修正について討議できると期待している。しかし、予算の問題に入るまえに、今日は…大きな戦略的枠組みとわれわれの防衛戦略策定作業について討議したい。…
 〔QDR策定作業の〕討議を始めるにあたって、かつてないグローバルな経済拡大の利益をわれわれは享受しているが、まず世界平和の実現なくして世界の繁栄を実現できないという事実から出発した。… この平和と繁栄の時期を続けていこうとするなら、今後数十年間にわれわれが直面する新たな、異なった脅威への準備を今から始めねばならない。その脅威の台頭まで待っていてはならない。その準備を複雑にしていることは、誰が今後数十年でわが国の脅威になるかは、正確には分かっていないということだ。…
 私の生涯を振り返ってみたい。生まれた年、1932年は、大恐慌の最中だった。30年代の防衛計画の前提は、10年間は戦争は無いだろうというものだった。39年に欧州で戦争が始まった。41年には、戦争抑止のために建造された米国の艦隊が太平洋での最初の海上攻撃の標的になった。この世紀の始めには飛行機は存在しなかったが、第2次世界大戦までには爆撃機、戦闘機、輸送機などの飛行機が戦争の行方を決定的に左右する普通の軍事手段になっていた。イギリス戦では、国の命運が空で決せられた。
 そのすぐ後で、原子時代が世界を揺さぶった。それは奇襲だった。50年代までには、わが国の第2次世界大戦の同盟国だったソ連が冷戦の敵国となった。それから、ほとんど警告もなく、わが国にとっては奇襲として、朝鮮戦争が始まった。60年代の初期には、ベトナムに注目していた者は少なかった。しかし、60年代末までには、米国はベトナムでの長く犠牲の多い戦争にのめり込んでいた。
 70年代中ごろイランは米国の基軸的な同盟国で、地域大国だった。それからわずかの年月でイランは反欧米革命のただ中に入り、イスラム原理主義のチャンピオンになった。89年3月にチェイニー副大統領が本委員会の就任承認聴聞会に出席した時、誰一人「イラク」という言葉を発した者はなかった。しかし彼は、1年もたたずイラクとの戦争の準備を始めた。
 このような近年の歴史をみれば、われわれは謙虚にならざるをえない。歴史が語っていることは、2015年の世界は、現在との共通性が非常に少ないものになるということだ。疑いもなく今日の専門家たちが予測しているものとは相当違っている。
 しかし、今後数十年間で誰が、どこで、いつわが国を脅かすようになるか正確に知ることは困難であるにしても、どのように脅かされるのかの予測はさして難しくない。たとえば、レビン委員長が冒頭に述べたように、わが国の開かれた国境、開かれた社会は、…国民にテロリストが攻撃をしかけることを容易にしている。コンピュータ通信網へのわが国の依存は、新たな形のサイバー攻撃の絶好の標的になっている。
 潜在的な敵が先進的な通常兵器を入手しやすくなっていることは、われわれに通常戦争と戦力投入における新たな課題をつきつけている。それは、潜在的な敵にとって、米国の前方基地へのアクセスを破壊する新たな能力をもたらすものなのだ。われわれの対弾道ミサイル防衛能力の欠如は、ミサイル拡散の誘因になる。核・化学・生物の大量破壊兵器の開発と結びついて、将来の敵にとってわが国民を人質にとり、恐喝する誘因になる。
 議論の余地がない重要な事実がある。核・化学・生物の大量破壊兵器を開発している国の数は増大している。地球上の弾道ミサイルの数、その保有国の数は増えている。
 72年には、生物兵器を開発していた国の数は知られていなかった。現在ではわが国が把握しているだけで少なくとも13カ国で、まだ把握していない国もあることは確かだ。そして、生物兵器の開発は、高度化し、致死性を高めている。72年には、10カ国が化学兵器を開発していることが分かっていた。現在では16カ国だ。…72年には5カ国が核兵器を持っているにすぎなかったが、現在われわれが把握している核保有国は12カ国だ。…
 これらが示していることは、歴史上初めて、意志決定の緩衝装置になる機構がない個人が、核・化学・生物の大量破壊兵器とその運搬手段を持つに至ったことだ。これは冷戦とは非常に異なる課題をつきつけている。ソ連でさえ、共産党書記長は独裁者だったとはいえ、政治局があり、そういう兵器を彼の気まぐれだけで使わないようにそれなりのチェック・アンド・バランスの役を果たしていた。サダム・フセインや金正日に、どんなチェック・アンド・バランスがあるのか。…
 このような拡散の趨勢が進んでいるとともに、別の否定的でも肯定的でもある趨勢も進んでいる。それは、高度化した先進的な通常兵器の力と射程と高度化の拡大だ。われわれによって支配されるなら、こうした先進兵器は現在の平和と安全保障を新世紀に拡張していく助けとなる。しかし、敵に支配されれば、こうした技術は今後、わが国に重大な奇襲をもたらしかねず、敵対勢力による現在の繁栄と平和の破壊を許すものとなる。
 将来の敵は、わが国の遠方の作戦戦域へのアクセスを破壊する先進的通常能力を使う可能性があり、また有効射程を拡大してわが国の領土、インフラ、宇宙資産、住民、友好国、同盟国をその中に含めていく新たな兵器を入手していく可能性がある。将来の紛争は、もはやその発生源の地域に限定されないかもしれない。このようなあらゆる理由からして、新たな抑止力へのアプローチが必要となる。現在は、冷戦の脅威が退場したが21世紀の新たな危険な脅威がまだ完全には姿を現していない、ユニークな時期なのだ。
 われわれは、この時期を利用して今後数十年に必ずや直面する課題への準備をせねばならない。…
 ひとつの決定的な問題は、2つのほぼ同時の大規模戦域戦争(MTW)という戦力規模概念を続けるのか否かだ。2つの大規模戦域戦争というアプローチは、冷戦終結後の革新だった。その基礎になった命題は、米国は、2つの地域紛争の同時発生の可能性に備えるべきであり、もし米国が1つの戦域の紛争で交戦するなら第2の戦域の敵は米国が反応する前に自分の目的物を獲得しようとするだろうという可能性を計算に入れておくべきだというものだった。
 2MTWアプローチは、南西アジアと北東アジアの双方を米国の高い国益がかかった地域として特定していた。この両方の地域では、米国とその同盟国・友好国に敵対的な体制が脅迫と力で自分の目的を達する能力を持ち、その意図を示していた。このアプローチは、2つのほぼ同時の紛争が勃発した場合に、米国がその戦時目標を達成するために必要になる戦力構成を特定した。こうした戦力構成は、一方で敵の戦闘能力および可能性の高い作戦形態の見積もりに基礎をおき、他方で「砂漠の嵐」〔91年のイラク中東侵略戦争〕で示された米軍の戦略思想に基礎をおいていた。
 2MTWアプローチは、あの時期には役立った。核保有超大国との世界戦争に適応していた戦力を、もっと小さい地域有事に焦点をあてた小さい戦力へと、形態と規模を変えていくための道しるべとなった。しかし、現在このアプローチを検討してみると、いくつか問題がある。第1に、わが軍への資金が少なすぎ、またわが軍を使いすぎた。許容しうるレベルのリスクに対応するためには師団が少なすぎる。航空輸送力が不足だ。老朽化したインフラや施設への資金が不足している。…許容できる即応能力の基準以下に下がりつづけている。
 私は、もしほぼ同時に2つの紛争が勃発するなら、わが軍が敵を圧倒することを疑うわけではない。しかし、能力・戦力の浸食は、現在および将来直面するリスクが2MTW基準が設定された当時より相当高くなることを意味する。
 第2に、この期間に、わが軍人たちに出し惜しみをし、彼らの信頼とわが軍の安定性をそこねた。最良の男女を引きつけ、保持することなしには、米軍は、軍の仕事をすることができない。
 第3に、将来のリスクに対処するための投資が過少だった。新世紀の台頭しつつある脅威に対処するために必要になる先進軍事技術への投資が十分にできていない。新たな能力の開発と配備に長いリードタイムが必要なことを考えれば、これ以上こうした能力への投資を待ちつづけることはリスクを生む。
 第4に、機構リスク――つまり国防省の運営方法――の増大に本当には対処してこなかった。国防省のやり方から生まれる浪費、非効率、不信によって、時とともに公衆の支持が失われ、国益を損なう。
 第5に、2つの大規模戦争に備えるアプローチは、軍事立案者を長期的脅威への準備を犠牲にして短期のことに集中させる。ある真珠湾研究者の言葉を借りると「予測の貧困。いくつかの危険についてのマンネリ化した強迫観念。可能性の高さよりもなじみによる危険認識」に、現在の軍事計画は支配されてしまっている。しかし、新世紀に可能性の高い危険は、前の世紀になじんだ危険とはまったく異なりうる。新たな概念は、今後数十年の中でわれわれが直面するだろうと考えられる、なじみはないが可能性が増大している危険についての計画を支えることに適したものとなるであろう。
 以上のすべてのことから、…2つのほぼ同時の大規模な地域的な戦域戦争というアプローチが、今後の時期にも最適なものかという疑問がでてくる。…
 われわれが検討していくアプローチは、次の諸リスクのバランスをとったものとなるであろう。すなわち、軍要員への現在のリスク、現在の作戦に必要なものと戦争計画を満たすことへのリスク、そして現在の米国の明確な優位性を利用してまず人員・士気・インフラ・装備への投資不足をカバーして必要な人員を引きつけかつ保持し同盟国・友好国に保証を与え先進技術・致死性の高い兵器やさまざまな脅迫手段で武装した潜在的敵国を抑止・撃破するために必要な将来の能力のための投資の欠如のリスク、だ。
 そのようなアプローチをしつつ、米国は次のことを行う能力を確保する必要がある。第1に、米国を防衛すること、第2に、友好国・同盟国に保証を与え、安全保障協力を追求し、紛争を抑止し、いかなる敵も力や強要によって目的を達成できないようにし、決定的な地域において多数の攻撃を撃退し、そしてまた限られた数の小規模有事を処理する能力を持ちつつ世界のどこにおいても米国の死活的利益を脅かす敵に決定的に勝利する能力を確保することだ。…
 そして今日では、戦争はますます短時日で決せられるようになってきている。敵は、自分たちの成功が、米国とその同盟国・友好国が反応する前に目標を達成してしまう能力にかかっていることを知っている。
 このような趨勢を考えると、最小限の増強部隊派遣をもって敵の軍事活動を撃破するために、さまざまな地域における前方展開兵力の能力強化の道を探ることには理由があると思う。それは、平時には強力な抑止力となり、各地域に部隊構成を適合させ、いつどこで敵が米国と同盟国・友好国の利害に挑戦してきても敵と交戦し、軍事的目的を阻止しうる能力を与えるであろう。
 しかし結局のところ米国は、敵に決定的に勝利する力を持たねばならない。米国は、地域的平和と安定を確保する条件を敵に課す力を持たねばならない。それには、必要とあらば敵の領土を占領し、体制を変えることも含まれる。
 この戦略アプローチは、近い時期に起こる可能性が高い脅威への対処の能力を確保すると同時に、将来わが国が必要とすることになる安全性の限界を確保するために、将来の戦力のために投資することができるように作られてきた。
 不確実性への取り組みが米国の防衛立案の中心でなければならないのだから、この戦略は、いわゆる脅威ペース立案と能力ベース立案とを組み合わせるものとなるであろう。脅威ベース立案は短期的脅威への対処に使われ、能力ベースのアプローチはより理解が困難な長期的脅威に対応する戦力の確保のためにより多く使われる。
 このようなアプローチにもとづいて、われわれは米軍の諸能力の最適組合せを選択し、発展させ、維持するようにするであろう。この諸能力は、現在の脅威を圧倒するだけでなく――すでにその能力はあるのだから――、潜在的な敵自身に危険な新規能力の開発から手を引かせるものであることが望ましい。われわれが討議してきた投資の選択肢には、次のことが含まれる。すなわち人員への投資、諜報、宇宙・ミサイル防衛、情報作戦と前紛争期管理の諸手段――これらは私の考えでは現在必要とされる姿とは異なってくる――、精密攻撃能力、急速展開可能な常設統合部隊、無人システム、指揮・統制・通信・情報管理、戦略的機動性、研究開発基盤、インフラと兵站だ。
 この諸能力の最適組合せは、新たな戦略とともに、次の4つの重要な防衛政策の目標の達成に役立つ。第1は、友好国・同盟国に、わが国が予期せざる危険と新たな脅威の台頭とに対応でき、彼らへの約束を守ることができるから、米国との協力が安全かつ有益だと保証すること。第2は、潜在的な敵が競争への誘惑をほとんどおぼえないような能力を配備し、可能な限り、彼らが脅威となる能力の開発から手を引くようにさせること。第3は、米国、米軍、同盟国に対する潜在的な敵の強要や敵対行為に反撃しあるいは抑止すること。そして第4に、抑止が成功しなかった場合に、米国、海外の米軍、友好国・同盟国をあらゆる敵から防衛することだ。同時に、それで思い知らせることができる場合には、場所と方法を選んで決定的に勝利することだ。…
 21世紀のための準備は、すぐに米軍を改変することを必要とするものではない。変えるのは戦力の一部のみ、小部分でよいのだ。いわれてきたように、電撃戦は巨大な成功だった。しかし、それは10ないし15%改変されただけのドイツ軍によって遂行されたのだ。変革は困難だ。しかし、われわれの現在の地位に対する最大の脅威は自己満足にほかならない。幸い、米国は毎朝起きてはソ連との熱核戦争の可能性について心配する必要はなくなった。…
 われわれは、知恵と歴史感覚、そして謙虚さを持ち、米国には確かに能力があるが不死身ではなく、現在の米国の状況は永遠ではないことを認識せねばならない。米国が現在行動しないなら、新たな脅威が台頭し、米国を奇襲するだろう。過去にも、そうだったのだ。過去との違いは、今の兵器ははるかに強力だということだ。…

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 ランド研究所報告書

 米国とアジア-米国新戦略と戦力態勢に向けて

 2001年5月15日

 …インドと中国、特に中国は、勃興しつつある大国であり、世界の中に彼らの地位を求めている。そして、そのプロセスの中で、地域の秩序を崩しかねない。…
 平和と秩序を確保するために…米国は多くの課題をうまく管理せねばならない。それらの中で、米国が今現在注意を払わねばならないことの一つが、朝鮮だ。米国の北東アジアにおける軍事態勢は、北朝鮮を抑止しそれから防衛するものでありつづけねばならない。しかし長期的には、北朝鮮の脅威は、朝鮮半島の政治的統一、南北協調、または北朝鮮の体制崩壊の結果として消滅する可能性がある。2000年6月の金大中韓国大統領と北朝鮮のリーダー金正日との首脳会談は、アジアの政治・軍事情勢は一時考えられていたよりはるかに速く変わりうることの証拠だ。
 たとえ朝鮮の脅威が存続するとしても、他のアジアは変化しており、米国の戦略と軍事態勢の大きな調整が必要となる可能性が高い。もっとも重要な変化の1つは、勃興しつつある大国としての中国の軍近代化計画とその東アジア地域における役割の増大だ。米軍にとっての短期的問題は、中国が台湾に軍事力行使する可能性に対してどう対応すべきかということだ。… しかし、朝鮮と中国はこのダイナミックな地域の一部にすぎない。…インドは…。日本とロシアは、政治的・軍事的地位の強化を切望している。統一後の朝鮮も同様にこの地域で重要な政治的・軍事的な役割を演じうる。…
 …米国のこの地域での包括的な長期目標は、戦争をもたらしかねない対抗関係、疑念、不安定性の増大を阻止することだ。この包括的目標のためには、次の3つの目標が必要になる。
◇地域的覇権国の登場の阻止。アジアのいかなる潜在的覇権国も、アジアにおける米国の役割を浸食することを狙うであろうし、また力によって自分の要求を通そうとする可能性が高い。アジアには人的、技術的、経済的資源があり、この地域の敵対的大国による支配は世界的な挑戦となり、現在の国際秩序を脅かす。
◇安定の維持。…
◇アジアの変革の管理。米国はアジアのすべての紛争に積極的に関与することはできないかもしれないが、それらがコントロール外にそれていかないように影響力を行使するよう努めねばならない。そして米国は、この地域全体への経済的アクセスの維持と拡大を望んでいる。…
 …たとえばWTOを拡大し中国を入れることを支持することによって、自由貿易政策を継続する…
 こうした多国間化は、現存の二国間同盟、米、日、韓、オーストラリア…の同盟にとって代わるものではなく、それを補完するものであろう。…
 そして、日本がその安全保障の地平を領土の防衛を越えて広げられるようにするために、また共同作戦のために適切な能力を取得しうるように、憲法を改訂する努力を、米国は支援せねばならない。
 そして次に、米国は、主要な勃興しつつある大国および枢要な地域国家の間で゛力の均衡″戦略を追求すべきだ。…
 日本は、最終的にはもっと独立した外交政策の方向に動きうる。…
 アジアは、NATOやEUに匹敵する共通の機構を持っていない。…同時に、アジアには、さまざまな未解決の国境紛争がある。…中国・台湾と日本の間に、尖閣列島/釣魚島〔両名並記は原文のママ〕をめぐって紛争が起こっている…。韓国と日本は、独島/竹島を要求しあっている。…
 統一朝鮮は、完全に異なった安全保障環境に直面し、いくつかの根本的な決断をせねばならなくなるだろう。たとえば、米軍のホスト国でありつづけるか否か、南北朝鮮のかなり大きな軍、特に北の弾道ミサイル部隊と核兵器計画を維持しつづけるか否か、そして中国と日本にどのような姿勢をとるかという問題だ。…
 統一ないし和解の大きな潜在的作用は、米国に南朝鮮内の軍事基地を放棄させようとする圧力であろう。これらの基地の存在の現在までの主な論拠は、北朝鮮の再度の侵入からの南朝鮮の防衛だった。軍事侵入の脅威がなくなれば、多くの当事者が米軍部隊の統一後または和解後の環境の中での駐留継続に疑問を投げかけるようになりうる。
 統一や和解は朝鮮の民族主義的感情も刺激しうる。それも米軍駐留の継続への反対を高めるであろう。それに対して、米国は朝鮮の政府と公衆に米軍の駐留は地域の安定という包括的目標に役立ち、たとえ直接の脅威がない場合でも朝鮮の利益になることを説明せねばならない。…
 北朝鮮の核とミサイル計画および中国の軍近代化は、日本に多くの安全保障問題を投げかけている。しかし、もっとも根本的な問題は、日本がこれらの新たな脅威に対する米国の保護に、かつての冷戦期のソ連の脅威の場合と同様な信頼を寄せつづけるか否かだ。さらに、単なる時間の経過と世代交代だけでも、第2次世界大戦後の日本世論の特徴だった反軍国主義を弱める可能性がある。
 ときおり、政治家や他の人びとが日本の米国依存を終わらせるべきだと主張している。日本は、今後10年間に大きな戦略的決断に直面しうる。
 もちろん、日本はすでに前記の諸課題に対応する軍事力の建設を始めているし、軍事的にさらに積極的になる意志もすでにある。…決定的問題は、日本の軍事増強が、また日本が軍事力使用を考えることにいっそう意欲的になってきていることが、米日同盟のコンテクストの中でおこっていることか、それともこの同盟から決別する一歩としておこっていることかということだ。今までのところ、米国が日本のこうした活動を励ましていることもあって、前者があたっているようだ。…
 第4・5図はこれらの島々の現存の空港の場所を示している。表4・2はさらにその特徴を示している。たとえば下地島は、台北から250`メートル以下で、1万フィートの商業空港がある。そこには、大きな港もあって日本の巡視艇の基地になってる。琉球諸島南部の1、2の島を基地にすれば、台北の防衛には明らかに利点があるだろう。…

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 チャールズ・クラウトハマーの論説

 ブッシュ・ドクトリン―ABM、京都、そしてアメリカの新たなユニラテラリズム

 『ウィークリー・スタンダード』誌 2001年6月4日付 

 あるがままの世界

 1989年から91年にかけて、世界はあまりに根本的に、あまりに突然に変わった。そのため、現在でもまだその影響について完全には把握されていない。30年代に始まって60年続いた20世紀の巨大なイデオロギー戦は、一夜にして終わった。ソ連はぽっくり死んでしまい、それとともに米国、西側、自由主義思想に対する最後の巨大な外的脅威もなくなった。
 この変化が途方もないものだったため、当初ほとんどの解説者、政治思想家がこの新たな一極性を認めることを拒んだ。90年代初めには、二極世界から多極世界への急速な過渡期にあるということが通念だった。日本は上昇、欧州は統一、中国は台頭、インドなどの眠れる巨人は覚醒、そして米国は没落の過程にあると。今からみると愚かに思えるが、米国没落という考えが流行していたのだ。
 10年たち、霧は晴れた。誰も日本が経済的に米国を抜くだろうとか、欧州が外交的に米国を凌駕するだろうとか、何らかの新たな反米連合が勃興して軍事的に旧共産圏的地位を占めるだろうとか言わなくなった。今日、米国は圧倒的な経済・軍事・外交・文化大国でありつづけており、ローマ帝国没落以来なかったスケールのものとなっている。
 不思議なことに、この構造の独特な性格は、米国内ではほとんど理解されていない。それを知っているのは外国だ。…ロシアと中国は、現在の世界構造の「一極性」を首脳会談のたびに必ず非難している。…フランス人は…米国の新たな地位を示す用語「ハイパー・パワー」を発明した。…
 しかし、この一極構造になった最初の10年間、米国は以前の半世紀間とほとんど同じ行動をした。
 その理由は、部分的には政治エリート、外交エリートが新たな現実を認識することを拒んだことだろう。しかしもっと重要な理由は、それを認識した権力者が、米国の力に深い不信を抱いていたことだ。彼らは、自分たちの任務は、米国の圧倒的力を国際的義務の網の中で抑制して新たな世界的調和を追求することだと考えた。彼らは米国の優位性を相続したのに、それを維持、拡大し、活用しようとはしなかった。
 この優位性を維持、拡大、活用する意志こそ、ブッシュ政権の新外交政策の特徴だ。成功すれば、ちょうど1世紀前にセオドア・ルーズベルトが遂行したことができるだろう。つまり、米国の外交政策と軍事態勢を世界の中での新たな地位に適応させるということだ。20世紀の夜明けには、それは大国への仲間入りということだった。ルーズベルトは強圧外交をもってそれを促進し、確保した。パナマ運河を建設し、世界中にわが軍の到来を公式に知らしめるために外洋艦隊を派遣した。
 21世紀の夜明けの新政権の任務は、わが国の圧倒的優越の地位に適合した軍事政策、外交政策を策定することだ。初めの4カ月間でブッシュ政権はこの任務を開始した。クリントン外交政策の諸前提をひっくり返し、新たな一極構造とその維持のために必要なユニラテラリズム〔単独決定主義〕を認める諸政策を採用した。

 ABM-二極構造の埋葬を

 2000年5月…ブッシュは、ナショナル・プレス・クラブで国家ミサイル防衛の建設を約束した。1年後…国防大学での演説で同じことを繰り返した。これらは、いつものようにミサイル防衛反対論者たちの条件反射的な反対の声を招いた。しかし、2回ともブッシュがクリントン時代に停止されていたミサイル防衛構想の復活以上のことを提案したことを見逃している。ブッシュは、攻撃的核兵器の一方的〔ユニラテラルな〕削減も宣言したのだ。これらを合わせてみると、彼の提案は、根本的に新しい核ドクトリンなのだ。つまり、軍備管理の終了だ。
 今後米国は、核兵器を攻撃用も防衛的も米国の必要に応じて製造する――他国、特にロシアが、それについてどう思うかには関わりなく。たしかに、協議はあるだろう。無作法にする必要はない。謙虚なユニラテラリズムが必要だということだ。撞着語法だが、このアプローチをもっとも良く表現している。気さくに、ものわかりよく、しかし最終的には止められない、ということだ。
 リベラルな批判者たちは、ロシアが米国の防衛を突破できるように新たな弾頭を製造するから、ミサイル防衛は新たな軍拡競争を招くと主張する。ブッシュ政権の回答は、こうだ。――「それがどうした」。もしロシアがその経済に残っているわずかなものをそういう兵器に消費したいなら、やらせておけばいい。そういう核兵器は役に立たない。ロシアが新たなミサイルを製造するか否かにかかわらず、米国の防衛はロシアの大量の第一撃を阻止することはどうせできない。そして、わが国とロシアの間での第一撃という考えはこの世界では不合理きわまるものであるが、仮にロシアがすでに巨大な第二撃能力をさらに拡大することを決定するとしても、それもまた結構なことではないか。
 ブッシュの新たな核ドクトリンの諸前提は単純だ。(1) ソ連は存在しない。(2)ロシアは、もはや超大国でも敵国でもないから現実性のある脅威ではなく、イデオロギー的脅威でもない。ロシアは考慮に入れない。(3)したがって、冷戦の最後の四半世紀のあいだ米国の強迫観念となってきた二国間軍備管理は、攻撃的なものも防衛的なものも無用な遺物だ。というより、米国の安全保障を深刻に損なうものだ。
 批判者たちは、次のような脅威を過小評価している。彼らは、北朝鮮は大陸間弾道ミサイルを建造する能力がないと言う。(98年に北朝鮮が3段ロケットを日本を超えて発射した直前にそんなことをいっていたのだ)。彼らはイラクが秘かに核能力を建造する能力はないと主張している。…
 冷戦時代には、ミサイル防衛への反対論には、もっともな点があった。たしかに、第一撃という信じがたい観念に基づいたものではあったが、当時は、米ソは生死のイデオロギー的な敵だった。ベルリンやキューバをめぐっては、戦争もありうると思われる所までいった。しかし当時さえ、第一撃という考えは奇想天外なものだったのだ。人類史上もっとも破壊的な戦争を意味していたのだから。…
 今日…もはやロシアと米国は朝鮮、ドイツ、欧州の命運をかけて争ってはいない。この10年間で最悪の対立でも、プリシュティナ空港をめぐるものにすぎなかった!
 中国はどうか。ミサイル防衛反対派の一部は、中国がわが国のミサイル防衛にうち勝つために第二撃能力を開発する必要性を感じるようになるということを頼みの綱にしている。しかし、これも愚かなことだ。中国は、第二撃能力を持つことはない。中国は、一度も第二撃能力を持ったことはない。米国のミサイル防衛が無かった時に一度も第二撃能力を持っていなかったのに、なぜ米国のミサイル防衛が米中間の戦略的不安定性の危機を作り出すのだろうか。
 しかし、ブッシュの新核ドクトリンは、MAD〔相互確証破壊〕だけを埋葬するのではない。それは、ABM条約および他の超大国との二国間核調整の考え方そのものを埋葬する。攻撃核と防衛核についてのこれらの論議は、二極世界の遺物だ。二極構造が存在しない以上、わが国の兵器をライバル超大国の必要性や脅威や希望にあわせる必要はない。…

 京都−多国間主義からの脱出

 …ブッシュには、京都〔議定書〕を廃棄する政治的・経済的な理由が十分にある。…この条約には、いくらかでも重要性がある支持層が国内に存在しない。…米国のコストは厖大で、環境的利益は取るに足りない。…
 これらはすべて、十分な理由だ。それにしても、ブッシュが京都から撤退したやり方は、気軽で無頓着とさえいえるものだった。これは、署名国が何ページも続いているからとか、国際社会の美しい衣装をまとっているからとかいう理由では多国間ナンセンスにはもはや追従しないというメッセージなのだ。ナンセンスはナンセンスであって、それはそういうものとして扱われるべきだ。…

 ユニラテラリズムの目的

 …他の覇権国や覇権志願国とちがい、われわれは、新たな世界の壮大な構想を抱いているのではない。千年王国ではない。…その地位と本性から、わが国は本質的に現状維持勢力だ。…現在の平和を執行し、維持し、拡大することによって現在の国際体制の安定と相対的平穏を保つことがわが国の基本目的だ。われわれの目標には、次のことが含まれる。
(1) あらゆる地域で、最後のよりどころである唯一のバランス役として行動することで平和を執行すること。イギリスは、2世紀以上にわたって、欧州の弱い方の連合につくことによって均衡を作り出し、欧州の力のバランス役となってきた。…
(2) 世界で最重要の拡散防止者として行動することで平和を維持すること。大量破壊兵器とそれを運搬するミサイルは、21世紀最大の脅威だ。非拡散だけでは不十分だ。ならず者国家の致死的なミサイル技術と大量破壊兵器を防ぐ受動的措置はもちろん必要だ。しかし、それだけでは足りない。結局は、防ぎきれないのだ。
 そうなったら何をすべきか。イスラエルが81年にイラクのオシラク原発を破壊したように、将来はならず者国家の大量破壊兵器に先手を打つことが必要になりうる。先手を打つことは、もちろん非常に難しい。だからこそ米国は高所にプラットフォームを移すことを考えはじめねばならない。宇宙は結局もっとも高所の基盤だ。30年間、米国は宇宙に兵器を置くことを考えることさえしぶってきた。しかし、宇宙の軍事化は不可避だ。唯一の問題は、誰がそこに最初に達するか、そしていかにしてそれを使うかだ。…
(3) 民主主義と自由の制度を広げることによって、平和を拡大すること。…たとえば、ワルシャワ条約諸国の解放は、西欧に巨大な地上軍…を置く厖大な負担からわが国を救った。…
 しかし、この目標を追求してどこまで行くべきか、どれだけの血と財貨を費やすべきかについては、大きな不一致がある。「グローバル主義」派は、われわれの価値の普及のために強力に介入する…ことを好む。…
 しかし、「現実主義」派はこうした目標が銃剣をつきつけて達成できるか懐疑的だ。確かにドイツと日本が証明してきたように、力で民主主義を課すことも可能だが、それは無条件降伏を求めた戦争とそれに引き続く全面的占領という非常に例外的な状況でおこったことだ。…
 …だが、両派とも米国の圧倒的な力が、米国のためのみならず世界のためにも良いことだという前提を共有している。ブッシュ政権は、冷戦後この前提を共有し、またそれにしたがって行動する初の政権だ。…
 (おわり)