●国際情勢
アメリカ階級支配の破綻が生みだしたブッシュ政権
米帝ブッシュ政権の対日争闘戦を最重点にした帝国主義間争闘戦の激化、対中戦争重圧-転覆政策、アーミテージ報告の路線にそった世界軍事戦略の転換などについては、すでに『前進』や本誌でかなり論じてきた。ここでは、それを基礎にして、主にアメリカの国内問題からみていくことにする。
アメリカ大統領制とは何か
アメリカは、16世紀以来先住民族の土地を征服したうえに、さまざまな出身地、背景をもって移民してきた人々を政治的に集約した国家だ。しかも、広大な国土の中で、現在でも州ごとの独自性が高い。たとえば、商取引に欠かせない商法等々でさえ、いまだに各州の法律の共通化運動が行われているくらいだ。刑法、刑訴法などは、さらに独自性がはなはだしい。
このような各州を連邦に集約することは、なだらかに行われてきたのではない。南北戦争とその後の「再建期」の南部統治を通して、南部奴隷制諸州の分離を粉砕して、連邦の統一性を確保してきたのだ。南北戦争は、その後の対外戦争を含めても米国社会にとって最大規模の大戦争であり、いまもアメリカのあり方を規定し続けている。
全アメリカ国民を統合し、ブルジョアジーの下に統一的に支配していくことには独特の困難性をともなっている。
したがって、欧州や日本以上に求心力を維持・強化する努力を不断に行わなければ、国家の存立そのものが成り立たない。大統領は、その国家の中心として決定的位置を持っている。
大統領の権威の維持のために、行政府はもとより、民主・共和両党、全ブルジョア報道機関、教育機関をあげて徹底的に力がそそがれている。まず、新大統領が誕生すると政治休戦が行われ、対立党派もマスコミも、新大統領への批判をひかえることが慣例になっている。
だが、ブッシュ政権は、最初から強力な求心力を欠いた不安定な政権として出発した。
まず、ブッシュ自身が、ブルジョア政治家として評価される実績も見識もない。ベテラン政治家をスタッフに配置することによってかろうじて一方の大統領候補としてブルジョアジーの信任をえた人物だ。
さらに重大なことは、選挙結果をめぐる紛糾だ。フロリダでの大統領選挙人選出の過程は、不正選挙で選ばれた大統領だということを強烈に刻印した。ブッシュは、アメリカ支配階級が長い間作り続けてきた《大統領=国民統一の中心》という虚構を、みずからうち砕くことによってしか政権につけなかった。
今回は、政治休戦期間はなかった。また、ブルジョア政党間の対立以上に重大なことは、広範な人民の鋭い敵意に最初から包囲されていることだ。
なぜ、こんな極度に危機的な政権が生まれたのか。そしてブッシュ政権は、これからどこに行くのか。
史上例のない借金超大国
まず、ブッシュ政権誕生の基礎にあるもの、つまり米帝の経済的、政治的、社会的危機について検討していこう。
日帝支配階級、日本の報道機関の論調では、この10年間は、日本経済にとっては「失われた10年」であり、「アメリカ経済の一人勝ち」の時代だったとされている。
日帝経済の危機がこの10年でとことん深刻化したという点では、そのとおりだ。そして、それが、米帝との関係で(特に帝国主義間争闘戦)引き起こされていることもそうであろう。
だが、米帝経済の側から考えれば、「一人勝ち」どころではない。経済の基礎の基礎が、資本主義の歴史上例のない深刻な危機にある。
まず、全世界的な過剰資本・過剰生産力は、もはやどんな繰り延べ策もできないほど肥大化し、29年型世界恐慌の爆発過程がはじまっている。
そして、米帝の対外収支、対外ポジションをみてみよう。
2000年、アメリカの経常収支の赤字は、4354億jに達し、1999年の史上最高記録、3315億jを大幅に上回った。うち、財・サービス貿易の赤字は、3685億jだ(99年は2650億j)。
アメリカの経常収支の赤字は、年々急速に拡大している。巨額の赤字は、外国からの資金流入でまかなわれている。だから、対外債務が、資本主義の歴史上かつてない規模にふくれ上がっている。
その規模を、米国の純在外資産という指標でみてみよう。これは、外国にある米国の資産から米国にある外国の資産を差し引いたものだ。
純在外資産は、90年には1668億jのマイナスだった。99年には1兆4737億jのマイナスとなっている(各年末。市場価値ベース)。2000年には、このマイナスが約4000億j増えたと推計されている。
つまり現在、外国が保有する米国債、株式、融資、直接投資などが、およそ2兆j余分にあるということだ。これだけの額について、金利や収益が外国のものになる。それでますます、米国の対外資産ポジションの赤字が雪だるま式に膨張する。
2兆jとは、どんな数字か。
同年の米国の財・サービスの輸出総額が8543億jだ。かりに、輸入を極端に制限して、輸出で稼いだ額の10lを償還にあてても、2兆jの約4・3lにしかならない。10年物国債の利回り、6lにも及ばない。
一挙に貿易黒字国になるという現状からかけ離れた想定の下でも、債務の元本は今後減らないどころか、増え続けるのだ。
人民の生活水準の長期的低下
しかも、このような天文学的な対外債務の膨張をともなったバブル的な成長過程さえ、国内の労働者人民の生活水準を長期的に引き下げつづけてはじめて可能になった。
米国勢調査局の資料によれば、次のようになっている。70年から99年まで、アメリカの全世帯を所得階層別にそれぞれ20%ずつに分け、各階層の世帯所得が全世帯の総所得に占める割合をみると、所得第1位の層は、70年に40・9%だったものが、47・2%に増えている。しかし、第2位の層から下はすべて減少した。中位の層(第3位)は、17・6%から15・6%に、第4位にいたっては、12・2%から9・9%に、最下位は、5・4から4・3に大幅に減少した。
第1位の層のうち、全世帯の5%にあたる最上位層は、15・6%から20・3%に大幅に伸びている。特に80年代からの変化が激しくなっている。
だが、このような大幅な貧富の差の増大をあらわす統計数字でさえ、人民の生活水準の下落の実態よりかなりマイルドだ。
教育の分野では、公立学校の荒廃放置と私立学校や準私立学校(チャータースクール)への補助金の支出という形で低所得層から高所得層への資源の移転が行われた。たとえ以前と同じ所得があっても、低所得層は、いっそう貧困な教育しか受けられなくなっている。
家賃は、低所得層の賃金低下にもかかわらず、高騰している。これは非持ち家層にとって、生活水準の大幅低下を意味する。
失業や賃金下落と家賃高騰、そして再開発=貧民追い出し計画によってホームレスが街にあふれている。だが、ホームレス世帯については、国勢調査が事実上されていないので、そうした生活水準の激しい低下が統計にはほとんど反映されない。
平均給与の下落
つぎに平均給与所得の動きをみてみよう。
左の表は、非管理職労働者の平均時間給と平均週間所得を99年のj価値で表示したものだ。
傾向的に賃金が低下していることがわかる。ただし、バブル経済の過熱で失業率が下がるとともに95年からは平均賃金がもちなおしてきている。
だがこれも、雇用主が払っていた健康保険分及び年金分が減少したので、それらを考慮すると、事実上の賃金は世にいわれるほど上昇したわけではない。
失業率低下の終わり→大失業へ
米労働統計局の発表によると、今年5月の失業率は、前月の4・5%から4・4%に下がったことになっている。実際は、統計数字の取り方の問題にすぎない。真の失業率は上がっている。就業者の数は、4月に18万2千人減少し、5月に1万9千人下がった。2カ月間の減少としては、91年半ばの不況時以来。
1月以来、労働力人口(就業者プラス求職者)が68万3千人も減少した。これが、「失業率の低下」という統計数字をつくりだしたのだ。このかんに求職をあきらめた人をいれれば、少なくとも失業率は0・4%は上がるはずだ。
失業者の中で、レイオフされた労働者の比率が50・4%。これは、93年12月以来の高さだ。
製造業の被雇用者は、5月に12万4千人減少。今年は、現在まで、月平均9万4千人減少。減少した主要な業種は、電子機器、自動車、衣料、工業設備。
サービス業でも雇用の延びが止まっている。今年の1〜5月の月平均の雇用増大は、2万7千人。昨年同期は10万5千人。しかも、この4、5月には、ホテルで2万2千人の減。卸売、小売業で1万4千人と5千人の減となっている。
このようにバブル経済過熱による失業率の低下がついに停止し、失業率増大に転換した。これから、本格的に大失業攻撃が始まる。
バブル崩壊で年金激減
バブルの崩壊開始によって、2001年の第1四半期末には、前年同期比で、ダウ平均株価が10%、ナスダックが60%も下落した。
今年3月の連邦準備制度統計によると、99年末から2000年末までに、家計が直接に保有している株式の名目価格は、2兆2000億j減少した。24%減っている。
たしかに、直接的な意味での資産減少は、多くの株式を保有している家計に限られている。しかし、このかんアメリカの社会保障制度が民営化されてきたため、実際には多くの世帯が影響を受ける。実際上、ほぼすべての年金資金が株に投資されている。この減少分の一部は、株以外の他の資産に転換したことによるが、他の投資信託や年金ファンドなどの資産も、株価下落により大幅に下がっている。
家計の金融資産の総額(名目値)は、99年末から2000年末までに1兆7000億j減少した。5%の減少だ。インフレ調整すると、8%の減少になる。74年以来最大の減少率だ。
2000年末の家計の負債総額は6000億jで、名目で前年比9%増だ。この資産減少分と負債増大分を合わせると、名目で2兆3000億j(9%)、実質で、1兆9000億j(11%)の資産減となる。
米帝バブルの崩壊は、まだこれからますます激しくなる。この春までの段階でこれほどなのだから、今後の家計への影響は計り知れない。
そして、これまでにない大失業、階級的大激動が必ずおこる。
現在ブッシュ政権は、貧富の格差をさらに拡大し、いっそうの窮乏を強制してきている。
特に、選挙戦の時から公約にしてきた減税政策は、レーガン政策に輪をかけた露骨な金持ち優遇だ。軍事費増加政策は、大戦争の準備であり、また社会保障費などの極限的な切り捨てだ。
「働く権利法」などの労組破壊立法策動は、賃下げ、首切りの自由を確保するためのものだ。
だが大恐慌におびえて戦争と大失業攻撃で必死に延命しようとする米帝・ブッシュに対して、アメリカ労働者階級人民は新たな闘いに決起しつつある。
労組壊滅攻撃の破綻と労働運動の戦闘化
80年代のレーガン政権の超反動的な労組破壊攻撃を受けて以来後退を強いられてきたアメリカの労働運動も、90年代、従来の超右翼的な指導部を乗り越えて、あらたな戦闘性をもった部分がとってかわりはじめた。
新たな労働者階級の党の建設も模索されている。
この戦闘化を全世界に示したのが97年のUPS(全米一の宅配便会社)のストだった。
チームスター(トラック運転手などの組合)は、右派御用組合どころか、マフィアとさえ結びついた腐敗した組合だったが、TDU(チームスター民主化同盟)などの戦闘的潮流が推した新指導部が選出されてから一変した。この新指導部の支援のもとに、チームスター傘下のUPS労組の正規労働者とパート労働者がパートの正規化を主要要求として固く団結した大ストをうって勝利した。これまでのパート化、低賃金化の流れに痛打を浴びせたのだ。
その後、連邦政府が指導部選挙の際に「不正があった」として組合内に介入し、旧指導部の潮流が復活させられたが、組合内の力関係は簡単には元には戻らなかった。支部レベルでは戦闘的な闘いが頻発している。
98年、ノースウェスト航空のパイロット組合が90年代前半に強いられた準パイロット制などの二重賃金体系の廃止などの要求をかかげてストをうち、勝利的に決着し、他の航空関係の諸労組の闘いに火をつけた。
2000年のボーイングの40日間ストの勝利
ボーイングのストライキは、アメリカ労働運動始まって以来の大規模な民間ホワイトカラー・ストライキといわれる。昨年の2月から3月にかけて40日間不屈に闘われ、画期的な勝利をおさめた。
ストの発端になったのは、組合(SPEEA)の経済的要求に対する会社側のかたくなな拒否と不当労働行為だった。
SPEEAは、高級技術者を含む技術者の組合で、ボーイング社員のうち2万3000人の従業員を組織していた。この組合が、9カ月間、会社側と新たな労働協約を結ぶために団体交渉を重ねてきた。
だが、会社側は、記録的な高利潤を得ているにもかかわらず、また積極的な吸収合併を行っているにもかかわらず、組合の経済的要求に実質上答えてこなかった。また、団交の組合側代表が従業員の立場に立った主張を行ったことに、処分攻撃を加えてきた。そしてストの権利を行使しようとする従業員に報復措置をすると脅迫してきた。
組合は、これらを不当労働行為として提訴するとともに、99年12月に組合員投票を行い、ほぼ全員一致で、諸手当の大幅削減を求める会社側の新労働契約案を拒否する決定を行った。
この組合員の意志決定をもって再度団交に臨んだ交渉団に対して、会社側は、諸手当の削減項目の多くを撤回したものの、労働契約期間中の賃上げ保証等の組合要求はほとんど拒否してきた。そして、この新契約案を受け入れないなら諸手当の大幅削減を含む旧契約案を一方的に実施すると通告し、恫喝してきた。SPEEAの団交委員会は屈服して、新契約案を受け入れることを組合員に提案した。
だが組合員は2月2日、この会社側の新契約案を拒否した。ストを前にして、連邦仲裁調停所が介入してきたが、会社側は一切の譲歩を拒否した。2月8日、史上最大の技術者ストが始まった。
会社側のスト破りの攻撃に対して、徹夜のピケットラインで反撃し、スト期間中にむしろスト参加者の増加をかちとった。
ケープ・カナベラルのタイタン4型ロケット打ち上げの代替要員として労働するように会社側から言われた労働者がストに合流。これで、フロリダ州の電機技術者の100%がストに参加した。
カリフォルニアでは、スト中に1億jの通信衛星を打ち上げたが、直後に墜落した。
結局、3月17日に会社側がスト収拾の条件を出してきた。
@3年間の賃上げ保証
A健康保険などでの労働者側への譲歩要求(健康保険料の全部または一部を賃金から差し引く)の撤回
B2500jのボーナス
C年金の改善
労働者全面勝利の内容だ。
17日の交渉担当者間の合意成立後も、ピケットラインは一糸の乱れもなく維持され、19日の組合員投票での批准、20日(月曜)の労働再開まで、ストライキは最後まで貫徹された。
さらに6月29日には、組織拡大に成功した。ボーイング社のカンザス州ウィチタの施設で4200人の労働者の投票が行われ、組合側が勝利したのだ。
病院スト
また、全米各地の病院で10日から数週間におよぶ長期ストライキが頻発している。たとえば、首都ワシントンでの「ワシントン・ホスピタル・センター」では、2000年9月20日から1200人のDC(ワシントン特別区)看護協会の組合員がストライキに決起した(DC看護協会の組合員総数は4500人)。超過勤務の強制、人員不足、恒常的な三交代勤務、訓練されていない職域への異動などがテーマだ。
長期のストライキの末に、11月6日、病院側と看護協会側交渉団は次の合意に達した。
◇超過勤務の制限。十分な休息なしの長時間労働や、予告なしの超勤をしなくてもすむようにする。また看護副主任も、疲労、病気その他の事情がある場合には、超勤を拒否できる。
◇患者看護の方針と運営に直接に関係する病院の諸委員会に看護副主任も参加させる。24時間の直接の看護者であるにもかかわらずこれまで意志決定のレベルから閉め出されていたことを改善させる。
◇週末の人員確保。患者が十分な看護を受けられるように土日も人員を配置する。
◇3年間で14%の賃上げ。最初の年に5%、次の年に4%、3年目に5%。
マサチューセッツ州ウスターのセイント・ビンセント病院では、約500人の看護婦・看護士らがストに入った。3・5%の賃上げでは合意したが、超勤義務をめぐって交渉が決裂したのだ。この病院は教会が経営する非営利病院だったが、96年に営利企業に売却された。オーナーである大企業が労働者と患者を犠牲にして暴利をむさぼっていて、怒りをかっている。
また、最近商業新聞にも大きく取り上げられた例では、イリノイ州フランクフォートの助教員が健康保険などを要求したストがある。同一労組に属する教員はもとより、他労組のチームスターに属する調理員、事務員、用務員も強力に支援した。ストの日、調理員は全員登校しなかった。
フロリダ不正選挙
大統領選挙の不正、特にフロリダ州の選挙は、全米、全世界の焦点になった。
そして不正選挙疑惑は、現在ますます強まっている。
USCCR(合州国公民権委員会)は、昨年のフロリダ州での大統領選挙人選挙について、10万点以上の文書を調査し、100人に対して聞き取り調査をおこなった。その結果を、6月初旬に「報告書原案」として公表した。そこには、この選挙の投票と開票の過程で不正があったことを疑問の余地のない言葉で述べてある。
これは、まだ最終報告ではないとされている。だが、法律にもとづいて米政府の独立機関として設置され、民主・共和両党系の人物で構成されるこの委員会が、詳細な資料にもとづいて不正選挙と断じたことの影響力は計り知れない。これまで民間の諸団体が批判してきたことが、公式にも確認されたのだ。
報告書によれば、
「選挙権剥奪が、本件の核心であることはあきらか」
「選挙権剥奪は、個々のエピソード的なものではない。州の担当官たちは、この侵害を防ぐ自分の義務を果たさなかった」
そしてさらに次のことなどを指摘している。
◇貧しい郡は、富裕な郡よりも悪い投票システムを使い、その結果無効票が多くなった。
◇ヒスパニックの有権者には、スペイン語による投票ができない場合が多く、「障害者」は物理的なバリアで投票所に入れないことが多かった。
◇犯罪者の選挙権剥奪、二重登録、死亡による選挙登録簿からの抹消について、明確な基準が設けられておらず、その結果、黒人などに対する重大な差別が発生した。
◇ブッシュ・フロリダ州知事と同州ハリス州務長官には、この選挙に重大な責任がある。
差別選挙 この報告書によれば、アフリカ系アメリカ人の票は、白人の票よりも無効とされる確率が10倍も高い。しかし、これは一応投票できた人のことで、そもそも投票すら阻止された人が多い。報告書でも、
「選挙権を奪われた人の31%以上は、アフリカ系アメリカ人」
だという。
フロリダでは、「前科」が選挙権剥奪の理由とされる。
のちに述べるように、アメリカの警察・裁判所は差別の固まりであって、そこで作られる「前科」の比率は白人と非白人では大きく違う。しかも、今回の調査で明らかになったことは、「前科」で選挙権を剥奪された黒人のきわめて大きな部分が、当局が「誤って」有権者リストから削除したということだ。実際、自分が有権者リストから外されていることが気がついて異議申立をした黒人の半分以上が、「前科」の認定に誤りがあることを当局に認めさせることに成功している。
そして、さまざまな運動団体の報告によれば、次のように、さらにむきだしの暴力的な手段で不正選挙が行われてた。
◇投票所に向かう道路で、非白人、特に黒人の車をねらい打ちにして長々と検問を行った。
◇投票所で、係官に別の投票所に行けと言われて、何度もたらい回しにされ、時間切れで投票できなかった。
◇係官におまえは選挙権がないと言われて押し問答になっているうちに、投票所閉鎖の時間になってしまった。
◇投票時間が過ぎたといわれて、投票所に入れてもらえなかった。ところが、白人有権者は投票所に何人も入っていった。
奴隷制度・南軍を賛美するアシュクロフト司法長官
非白人大衆は、レーガン・ブッシュ(父)政権の大反動・過酷な政策を体験している。だから、それへの回帰指向をにじませて大統領選を行ったブッシュ候補に対しては、最初から強い警戒感と敵意を抱いていた。
だが、大統領選の投票過程で行われたことは、その予想をもはるかに越えることだった。
非白人大衆は、ブッシュ政権の徹底的な差別主義について骨身にしみて感じさせられた。
その政策が、自分たちに過酷になるというだけではない。そもそも自分たちを人間とは認めず、自分たちを侮辱しきったやり方で政権を盗み取ったやつだということだ。不倶戴天の敵だということだ。
ブッシュは、国務長官にパウエル、安保担当補佐官にライスと2つの重要ポストに黒人をすえた。だがこれをもってしても、かなりの上層を含めた黒人の敵意を緩和することはできない。
決定的なことは当選後早々と、司法長官に、差別主義で悪名高いアシュクロフトを指名することを明らかにしたことだ。司法省は、60年代の公民権運動の獲得物を担当する要の位置にある。よりによってその最高責任者にこの数年間、差別主義者として全米で中心的に糾弾されてきた人物をすえたのだ。
たとえば彼は、ミシシッピ州知事時代に、黒人女性の州最高裁判事への任命に強硬に反対した。ひとえに黒人女性を判事にすること自体に反対したのだ。アシュクロフトは、アファーマティブ・アクション〔差別の結果の歴史的蓄積を考慮して、被差別者に機会・ポストを優先的に与える措置〕という考え方そのものに反対してきた。
さらに重大なことは『サザン・パルチザン』という極右紙でアシュクロフトは、南北戦争時の南軍をほめたたえた。むろん、これは単なる過去の戦争の話ではない。現在の黒人に対する襲撃の扇動そのものだ。『サザン・パルチザン』は、黒人への襲撃・リンチで悪名たかい白人至上主義団体゛クークラックスクラン″につながっている。そのインタビューをうけること自体が重大だが、彼はそこでクークラックスクランのイデオロギーを肯定する発言をしたのだ。
アシュクロフトの司法長官任命が、こうした白人至上主義団体を勢いづかせることは明白だ。
しかしまた、60年代の公民権運動の戦闘的な翼を60年代末から70年代にかけて暴力的に圧殺し、改良主義的所潮流を取り込み育成することによってかろうじて黒人解放運動を抑え込んできた手法が今後通じなくなることも確かだ。ブッシュ政権は、連邦政府、司法省への幻想の最後の残りかすさえ、みずから粉砕してしまった。
シンシナチ暴動 ブッシュがスパイ機事件で中国との軍事緊張を高めていたその時、国内でも、もうひとつの大事件がおこっていた。
4月7日、オハイオ州シンシナチ市で白人警官が黒人少年、ティモシー・トーマス君を射殺した。彼は、武器も持っていなかったし、犯罪の現行犯だったわけでもない。軽微な交通違反などで警察に出頭を求められ、「逃亡しようとした」だけで射殺された。怒りの暴動は3日間続き、12日、市長は非常事態を宣言し州兵などを導入した。
非常事態宣言後の最初の夜だけで、「夜間外出禁止違反」で153人が逮捕された。逮捕者には、外出禁止のことを知らなかった人も多くいたが、警官に暴行された。
今回の暴行の背景には、この市で95年から昨年12月までに警察に射殺された黒人が14人にもなるということがある。特に昨年の虐殺については、その責任者の処罰を求める運動が高まっていた。この運動のなかで、警察の゛人種差別主義的な要注意人物像″が追及された。つまり、職務質問や車の検問のためのマニュアルに「黒人」が、要注意人物像の項目にあげられていることが弾劾されたのだ。
だが、シンシナチの警察署長らは、「そういう要注意人物像には根拠がある」傲然と居直っていた。
こうした中で4月7日の15人目の虐殺の直後、ついにシンシナチ市の黒人大衆の怒りが爆発したのだ。
新たな人種隔離 シンシナチ警察の人種差別主義的な要注意人物像は、全米の黒人や他の非白人にとって、けっして人ごとではない。このように署長が公然と居直ることはなくても、事実上ほとんどの警察に広がっているからだ。肌の色が黒いというだけで、車を止められ、長い間検問される。
スポーツ選手や勲章を受けた軍人などの有名人が不当検問された時などは、マスコミも問題視して報道することもあるが、普段はあたり前のことのように横行している。黒人社会では、「ドライビング・ホワイル・ドランクン(飲酒運転)」をもじった「ドライビング・ホワイル・ブラック(黒人運転)」という言葉が使われているほどだ。
こうしてきわめて頻繁に検問される道路が全米各地に数多くある。黒人にとって、時間の約束を守って社会生活をしていこうと思ったら事実上立入できない地区が作られていて、近年ますますそれが増えている。
黒人解放運動は、60年代に命がけで勝ち取った「黒人立入禁止」撤廃の成果を守るために、再び戦闘的な組織を建設し不退転の闘いに決起しつつある。
監獄国家 すでにクリントン政権時代にアメリカは監獄国家になっている。
監獄のように息苦しいという比喩ではない。投獄されている人の数が異様に多いのだ。97年の米国の住民10万人あたり645人が投獄されている。これは、米国の73年の数字の5倍であり、EU諸国の97年の数字と比較しても6倍から10倍だ。しかも保護観察、仮釈放、在宅出頭処分、訓練施設等々の準刑務所的な監視措置下にある人口は厖大だ。95年の数字で18歳以上の米国人の5%にものぼる。黒人では、20%だ(本誌98年9月号翻訳資料)。そして、レーガン、ブッシュ(父)、クリントンの各政権下で進められた規制緩和、民営化は刑務所にも及び、企業が刑務所の運営を委託され、暴利の種にしている。現ブッシュ大統領が昨年まで知事をしていたテキサス州は、刑務所民営化の最先端をきっていた。民営刑務所の中で、受刑者は、企業のための強制労働、看守による虐待、食費等のピンハネなどきわめて残虐な扱いを受けている。
このような受刑者が増えれば増えるほど利潤が上がる仕組みもあって、投獄率はその後も年々上昇している。
特に、黒人若年男性に対する差別的な重刑化が増えている。
麻薬使用率は、白人少年のほうが黒人少年よりも高いにもかかわらず、少年法廷ではなく成人法廷にまわされる麻薬関係の少年被告の75%は黒人だ。全犯罪容疑をあわせても、成人法廷にまわされる少年被告の67%が黒人になっている
警察の差別より、裁判所の差別のほうがさらに大きい。
2000年の司法省の補助金を得た報告書によれば、黒人とヒスパニックの若者は、少年法司法システムのあらゆる段階――警察、裁判所、刑務所、保護観察官――で、白人のティーンエイジャーより厳しく扱われている。たとえば初犯の場合、黒人の少年は白人の少年の6倍刑務所に送られる率が高い。麻薬犯の場合、黒人少年の刑務所行きの率は白人の48倍になる。
警察から裁判所、保護観察官にいたるまでの全段階での差別の結果、全投獄者の50%が黒人だ(黒人の人口構成比は約12%)。また、20〜29歳の黒人男性のほぼ3分の1が刑務所、留置所や保護観察処分などの何らかの監視措置下にある。黒人男性が、生涯に1回以上刑務所に入る確率は、29%にのぼる。
労働運動への弾圧 すべての黒人、すべての貧困層を犯罪者扱いしていく政策の頂点として、労働運動や黒人解放運動の活動家に対するデッチあげ弾圧が激化している。
AFL-CIO傘下のILA(港湾荷役労働組合)のチャールストン支部(サウスカロライナ州)は、昨年1月にストライキに決起した。
この組合支部と20年以上も荷役提供契約を続けてきた海運会社が、組合員を排除した荷役会社に契約を切り替えることを通告してきたことに対する、当然の怒りの決起だった。
警察は、「非組合員の働く権利を守るため」として、600人の機動隊と騎馬警官、装甲車、ヘリコプター、警備艇を動員してピケットラインの突破をはかってきた。機動隊は、労組員に警棒で襲いかかり、支部委員長の頭部を殴りつけ、多くの組合員を負傷させた。このように労働組合の権利であるピケットを警察が一方的に破壊したケースであるにもかかわらず、州司法長官がみずから乗り出し、州法上の暴動罪にデッチあげ、5人の活動家を裁判にかけ、5年の懲役にしようとしている。
この「チャールストンの5人」事件は、AFL-CIOや各黒人団体を始めとして、全米的な反弾圧闘争の焦点として取り組まれている。
アメリカには20年、30年と投獄されつづけている政治犯が多数存在する。また、無実の罪で死刑にされている人も多い。
元ブラックパンサー党の活動家で、不屈に闘い続けてきたムミア・アブ・ジャマル氏は、81年に警官殺害をデッチあげられ翌年に死刑囚となった。州知事が死刑執行命令に署名し、執行寸前までいったが、今も再審を要求して闘いつづけている。
現大統領ブッシュは、テキサス州知事当時、死刑囚の再審などの門を狭くする「制度改革」を行い、6年の任期中に152人の死刑を執行している。2週間に1人の死刑だ。ブッシュは、このように血塗られた政治家であるからこそ世界大恐慌の危機にあえぎ、階級闘争の大爆発におびえる米帝支配階級によって、大統領候補に押し上げられたのだ。 ジグザグは不可避
どう進んでも矛盾の爆発が不可避な米帝の危機の深さからして、ブッシュ政権のジグザグは不可避だ。
大統領を軸に国民統合をはかるしかない米帝の国家構造の中でブッシュ個人の政治家としての資質の低さからしても、混乱とジグザグは大きくなる。
6月のブッシュ訪欧は、貿易、ミサイル防衛計画、京都議定書問題が重なり、かつてない緊張をはらんだものだった。訪欧の最初の国スペインの右派政権は、反感に満ちた欧州諸国のなかで、どうにか手がかりが得られそうな唯一の国だった。だが、ブッシュは、そのスペインの首相アスナールを記者たちの前で「アンサール」と呼ぶ始末だった。ブッシュはこの時の対スペイン外交の重要性が理解できない程度の人物なのだ。
また、ブッシュ政権の閣僚人事は、米帝支配階級のあまりにも差し迫った危機を反映して、支配体制全体というよりも個々の企業の延命をかけたものになりすぎている。
ブッシュとチェイニー副大統領は、エクソン・モービルを始めとした石油資本の代表。
アシュクロフト司法相は、マイクロソフトと関係が深く、同社に対する独禁法違反訴訟の緩和を狙った人事。
農業相は、95年までカルジーン社(現在、モンサント社の子会社)の幹部だった人物であり、モンサントやカーギル(巨大穀物商社)、ネスレなどと関係が深い。だから、危険な遺伝子組み換え食品を推進する立場(本誌4月号の特集参照)。
チャオ労働相は、NASD(ナスダック店頭株式市場の親会社)など証券・金融会社の取締役であり、ノースウェスト航空の取締役だ。ノースウェストは、98年のパイロット組合の大ストの勝利が、全米に衝撃を与えた企業だ。
パウエル国務長官は、AOLやゼネラル・ダイナミクス社と深いつながりがある。
ラムズフェルド国防省は、航空宇宙産業のガルフストリームアエロスペース社の幹部だ。
たしかに特定企業の幹部が政府中枢に入るのはブルジョア国家には、特に米帝には通常のことだ。だが、ブッシュ政権ではそれが特に露骨だ。
たとえば、ラムズフェルド国防相は、この特定企業との結びつきのために、野党民主党ばかりでなく、共和党内部や国防省内部でも摩擦を際限なく拡大している。東アジアを重点にする戦略転換にともなう武器調達の転換について、ラムズフェルドは国防省幹部に何の根回しもせずにマスコミに自分の方針を「決定版」として公表した。すでに走り出している空母建造計画を廃止し、長距離航空輸送力を飛躍的に高める…という内容だ。自分の出身母体企業を露骨に利する計画だ。これは、それぞれの軍需産業と癒着してきた国防省幹部たちとの激烈な対立の種になっている。ミサイル防衛計画についても共和党の幹部たちを出し抜くやり方をして、もともとミサイル防衛推進派だった多くの議員が反ラムズフェルドに回っている。
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ブッシュ政権は、支配階級内のきしみを生じつつ、外に向かっては、「同盟国間関係」の建前さえ破壊し、対日・対EUの争闘戦をエスカレートさせ、戦争を引き寄せている。内に向かっては金持ち減税、労組破壊・生活破壊攻撃を激化させている。
だがレーガン時代の経験をもつ労働者階級は、敵意をみなぎらせた闘いを開始した。
アメリカ労働者人民と連帯して闘おう。プエルトルコ・ビエルケス基地撤去闘争の勝利と結びつき、名護新基地建設阻止、沖縄米軍基地撤去を勝ち取ろう。
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