米2000年国防報告
村上和幸訳
【解説】
本資料は本年2月8日発表の国防報告の戦略の部分である。
これは、97年のQDR(4年次戦力見直し)にもとづいて「二つの遠隔地域(朝鮮と中東)で同時に大規模戦域戦争を戦える戦力」の保持をかかげている【本誌97年8、9、10月号にQDRの翻訳を連載】。その戦力によって実際に戦争を戦い(「対応」と称する)、その威圧力を軸にして米帝に好都合な軍事情勢を世界的に「形成」し、同時に将来の世界的大国との戦争を今から「準備」するのが国防報告のいう3面戦略だ。
すなわち米帝は、一方で現在、世界支配の維持のためには全力で侵略戦争をする必要があるが、他方、それで国力を消費すると将来への投資が足りなくなる。逆に必要なだけ投資すれば、現在の戦争ができず世界支配体制が崩壊し結局将来への投資もできない。
侵略戦争とは量的質的に格段に違う帝国主義間戦争に使う最先端の装備・訓練・組織形態を準備するには莫大な資金が必要になる。そこで現在は、費用のかかる戦争を最重点地域に絞りつつ勢力圏をめぐる争闘戦で他帝国主義としのぎをけずり、なおかつ当の相手の他帝国主義に米帝の軍事費の肩代わりを求め、それで節約した資金を将来のその帝国主義との戦争の準備にむける、というわけだ。
そして今次国防報告の特徴は、米国と肩を並べる世界的ライバルとして将来台頭する危険のある国として中国とロシアが考えられるとしながら、それを直ちに否定していることだ。この両国については、崩壊的危機こそが安保問題になるのであって、世界的大国としての台頭など非現実的だと事実上断定している。公文書でこのように言うことは、実際には日独を将来の激突の相手と名指したに等しい激しい軍事外交行為だ。そのうえで東アジア10万人体制の堅持、その要としての日米安保体制の維持強化をうたっているのだ。
なお、アフリカの項でのみ、同盟国のプログラムと競争しないとわざわざ断言したことは、英仏帝のアフリカでのヘゲモニーを正式に承認すると宣言し、他地域での協力を求めるということだ。日独相手の争闘戦のために合従連衡政策をとると明言したに等しい。
日帝は、米帝の没落の最大の原因、米帝の帝国主義争闘戦の最大の相手だ。だが、日帝は帝国主義間争闘戦を激化させつつも、当面は日米安保体制の強化以外に選択肢はない。争闘戦が激化すればするほど、沖縄人民に米軍基地強化をおしつけ、朝鮮・中国侵略戦争にむかっている。衆院決戦で日帝小渕を打倒し、名護サミット=帝国主義強盗会議を粉砕しよう。
【〔 〕内は訳者による補足】
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第一章 防衛戦略
安全保障環境
21世紀の開始にあたって、米国は流動的で不確実な安全保障環境に直面している。この環境には良好なことが多い。世界戦争の脅威は遠ざかったままであり、米国の核心的価値である代議制民主主義と市場経済は世界の多くの地域で受け入れられ、それが平和と繁栄をさらにおしすすめ、諸国の協力関係を強める新たな条件となっている。米国経済は成長を続けている。NATO諸国、日本、韓国や他の枢要な同盟国との関係は強力であり、また現在の課題への適応を続けている。ロシアや他の旧ワルシャワ条約機構諸国などのかつての敵国は、今や安全保障の領域で米国と協力している。世界の多くは、米国を安全保障のパートナーとしうると考えている。
現在の安全保障上の課題
だが、国際環境の良好な進展にもかかわらず、この世界は複雑、動的で危険な場所なのである。この安全保障環境がいかに進展していくかはきわめて不確実であり、今後米国は安全保障上の大きな課題に直面するであろう。それが発生する時と所の正確な予測は不可能だが、その種類は次に挙げるものの中に入るであろう。
国境を越えた侵略。いくつかの諸国は、米国にとって決定的な地域で他国の領土主権を脅かしつづけるであろう。南西アジアでは、イラクが近接諸国およびその地域からの石油の搬出を脅かしつづけている。東アジアでは北朝鮮が悲惨な経済的・人道的状況にもかかわらず、きわめて予測困難な脅威になっている。他の諸国も侵略者になりうる。たとえば東アジアでは、主権問題と領土問題が紛争源になる可能性がある。国境を越えた侵略の多くは小規模なものになるであろうが、現在から2015年までの間には、1つ以上の野心的な地域大国が、米国の利益を軍事的に脅かす動機と手段を持つようになる可能性が大いにある。
国内紛争。国境を越えた侵略以外の政治的暴力も米国の利益を脅かしうる。たとえば内戦、内的攻撃(国家によるその国民への攻撃、1つの民族グループによる他の民族グループへの攻撃など)、武装蜂起、社会騒乱などである。これらは、発生当初の当事者を越えて拡大し、他の勢力の干渉を招き、米国の経済的利益に影響し、あるいはその地域の米国民の安全と福利を脅かしかねないのであるから、米国の利益の脅威となる。たとえ米国の重要な利益が脅かされない場合でも、こうした事態の影響を受ける人々の安全・福利・自由を守る人道的な利益を米国は持っている。
危険な軍事技術の開発と拡散。NBC〔核・生物・化学〕兵器やその運搬手段をはじめとする先進兵器および軍やテロリストに使用される先進技術の開発と拡散は、国際社会の最善の努力にもかかわらず、今後も続いていくであろう。米国は、これらの兵器と技術の拡散によって直接に脅かされかねない。また枢要な地域が不安定化し、米国に敵対的な比較的小さな諸国や諸勢力も大きな軍事能力を持つようになり、潜在的な敵国の数が増大しかねない。
とくに重大なことは、米国に対する弾道ミサイル攻撃の脅威の増大である。かつてはミサイル攻撃の脅威は遠い将来の問題だと思われていた。北朝鮮やイランのような国が長距離弾道ミサイルの開発と輸出をめざすようになって、この脅威が増してきたのである。そのうえ、事故によって、あるいは統制がとれずにロシアや中国からミサイルが発射される可能性は、さほど高くはないとはいえ、今も存在している。
超国家的な脅威。米国の安全保障と広範な国際社会の安定に影響しかねない諸勢力の数と能力が増大しつづける可能性が高い。たとえばテロリストの能力と暴力性がさらに高まり、米国民の生命と社会機構を直接に脅かし、米国と同盟国の政策を妨害しようとするであろう。テロリストは、海外にいる米国民や同盟国だけでなく、米国領土と決定的な社会基盤をも攻撃してくる。テロリストの手段は、通常兵器による攻撃から、情報戦争、NBC兵器にまでおよぶであろう。こうした攻撃は独自に行われることも、国家が背後について行われることもありうる。攻撃目標の設定、プロパガンダ、政治工作は、高度化していく。
そして、麻薬密輸、国際的な組織犯罪、海賊行為、米国のエネルギー供給地や基軸的戦略資源へのアクセスの妨害によって、友好諸国の政府の正統性が脅かされ、決定的な地域とシーレーンが不通になり、米国民の安全が国内でも海外でも脅かされていく。
人道的災厄。人道的危機も米国の利益に影響する。今後発生する国家の破綻、飢餓、洪水、暴風雨などの天災や人災のなかには、安定化・災害救助その他の緊急援助のためには米軍にしかない能力が必要になる場合がある。
今後ありうる 安全保障上の難題
現在の安全保障上の課題に加えて、将来は他の深刻な課題が発生するかもしれない。
世界規模の同等な競争者。現在米国は世界規模のライバルに直面していないし、2015年までに直面しそうもない。しかし2015年の後は、地域的大国あるいは世界規模の同等の競争者が台頭する可能性がある。そのような競争者になる可能性がもっともあるのは中国とロシアであると思えるが、両国の将来はきわめて不確実である。中国経済は急速に成長してきているし、人民解放軍は近代化を続行し、軍拡している。大きくはないが米国本土に到達しうる戦略核をすでに保有している。しかしながら、おそらく中国は経済的にも政治的にも多数の国内問題に直面しつづけるであろう。そのため、軍の近代化のペースは落ちる可能性がある。
ロシアが今後周辺地域に大規模な攻撃的軍事力を投入する能力を再建することもありうるが、そのためには米国の目につくような大きな準備が必要になる。たしかにロシアは戦術核も戦略核も膨大に保有しつづけているが、通常軍事力は、兵力投入能力も戦闘継続能力も、そうとう弱化している。ロシアの将来は経済発展いかんにかかっており、そして経済発展は国内の政治環境の安定にかかっている。ロシアの政治体制の安定化が長期的に失敗するならば、統一国家ロシアの解体が米国と国際社会にとって大きな安全保障問題になりかねない。
予測外の事態。米国の国内外の利益が、予測できない事態で深刻に脅かされる可能性もある。このような事態は、予期できない新技術による脅威から緊要な施設へのアクセスや重要地域との交通・通信ラインの切断、友好国の体制の敵対的勢力による制圧にいたるまで広範囲にわたりうる。たしかに一つひとつの事態の発生確率は低いとはいえ、全体のうちの少なくとも一つが発生する確率ははるかに高くなる。そしてそれが発生した場合の影響は、はるかに大きくなる。したがって、米国はこのような予想外の事態に対処するために十分な柔軟性をもった軍事力を維持する必要がある。
関与の必要性
以上の安全保障環境の予測は、次の2つを前提にしている。つまり、米国が政治的・軍事的に今後15〜20年間世界に関与しつづけることであり、世界級の軍事力を維持することである。もし米国が国際的関与から撤退し、外交的リーダーシップを捨て去り、あるいは軍事的に圧倒的な地位を失うならば、世界はいっそう危険になり、米国および同盟国・友好国とその利益に対する脅威はいっそう厳しいものになるであろう。
大統領の国家安全保障戦略
この安全保障環境がもたらす課題とチャンスに対処するために、クリントン政権は米国の世界規模の利益にのっとった国家安全保障戦略をたててきた。米国は、海外に関与しつづけ、安全な自由市場と民主主義国のコミュニティーの拡大を支え、平和と繁栄のために新たなパートナーを作っていく。一方で米国は必要ならば単独でも行動する能力を保持していくが、この国家安全保障戦略は共同作戦によって米国の基本的国家目標を達成し、米国の利益を守り、推進し、好ましい国際状況を作り出すことを強調している。米国が直面している諸課題はまさに、同じ目的をもった諸国の間で負担を分担する多国間のアプローチを必要としているのである。たとえばNBC兵器の拡散を効果的に抑止するには、共通の拡散防止の目標を持つ諸国やNBC兵器の供給・運送に決定的な役割を果たす諸国との協力を積み重ねる必要がある。したがって、世界の影響力ある諸国との密接な協力関係の形成に取り組むことが不可欠である。
関与戦略には、強力な軍の維持とそれを国益の防衛のために使用する意志が不可欠である。現在、米国は並ぶものない軍事能力を持っている。自国から遠く離れて大規模で効果的な統合軍事作戦を組織し、指導し、遂行する能力がある唯一の国として、米国は無比の位置を占めている。米国のみが大規模な地域的脅威への効果的な軍事的対応を組織することができる。この能力は、相互に利益になる多くの同盟や安全保障パートナーシップの基礎であり、世界の決定的な地域の安定の基盤である。この指導的な地位を保持するために、米国は国境を越えた大規模な侵略の抑止や撃破から比較的小規模な有事(SSC)への参加やテロリズムなどの超国家的な脅威への対処にいたる多様な軍事活動と作戦を遂行する能力がある、即応的で柔軟な軍事力を維持する必要がある。だがしかし、米国の国益からみても、限られた資金からみても、米軍の使用は厳選すべきである。軍事力を使用すべきか否か、そして何時使用するかの決定は、何よりまずそこにかかっている米国の国益とそこへの軍事介入の費用とリスクが見合うかどうかを基準にしなければならない。かかっている国益が死活的な場合、つまり国家の延命、安全保障および活力にとって広範で最優先的な重要性がある場合は、米国はその防衛のためにはいかなる費用とリスクをかけても行動する。必要なら単独でも軍事力を使用する。米国の死活的な国益とは、以下のもの等である。
◇米国の主権、領土、住民の防衛
◇敵対的な地域的連合や覇権の台頭の防止
◇決定的な市場、エネルギー供給、戦略資源への自由なアクセスの確保
◇米国の同盟国・友好国に対する侵略の抑止および必要な場合にはその撃破
◇公海、航空路、宇宙空間の自由航行権および死活的な交通・通信ラインの安全保障
その他、かかっている国益が重要だが死活的ではない場合、つまり国家の延命には影響しないが国家的福利や米国人が住む世界の性格には大きく影響する場合がある。その場合は、軍事力が米国の利益を増進し、その目標を達成する確率が高く、そして他の手段ではそれを達成するには不十分な時に限定して使用される。そこでは軍事力使用は、米国の国益の程度におうじて厳選し限定的に行う。
かかっている利益がおもに人道的な性格である場合には、米軍の関与は、被害の大きさ、その被害を軽減する米軍の能力、そして米国人の生命および物質的費用の予測、米国の他の危機への対応能力の限界におうじて決定される。軍事力は、他の手段が尽きたとき、あるいは不十分だと判定されたときはじめて関与することになる。
防衛戦略
国家安全保障戦略に規定された関与義務を支えるために、国防省は1997年のQDRにおいて国家防衛戦略とそこからでてくる防衛プログラムを定めた。QDRは、1997〜2015年の期間の国益を貫徹するために米国のリーダーシップを適切に活用するものである。この戦略は、国際安全保障環境を米国の利益になるように形成し、あらゆる種類の危機に対応し、不確実な将来の課題に今から準備する道を国防省に指示している。この形成、対応、準備という3要素は、今から2015年までの米国の防衛戦略の核心を明らかにしている。〔この項、以下省略。ほぼQDRどおりの叙述〕
戦略の各地への適用
国防省は世界のどの地域でも、米国の国家安全保障の利益を確保するために活動している。前述の米国の死活的利益に加えて、それぞれの地域には独自の好機も難題もある。このようなさまざまな地域的課題に対処する国防省の戦略は、国際環境の形成とあらゆる種類の危機への対応準備の維持のための全般的な取り組みにとって決定的である。まさに、米国がいかに力を行使するかということは、世界中の味方や敵に米国の利益や影響力や価値観について明確なシグナルを送るものなのである。
欧州
米国の防衛目標。欧州における米国の防衛努力の目標は、欧州地域の平和と安定である。欧州では、拡大NATOが米国のリーダーシップを通じて安定と安全保障を推進しつづけている。そして、米国はロシアとNATO、ウクライナとNATOの積極的で協力的な関係を追求しており、NATO外の中欧・東欧諸国との関係強化をはかっている。米国は、すべての当事者が宗教的、政治的、民族的な緊張を既存の安全保障機構、安全保障メカニズムを通じて平和的に解決することを望んでいる。米国と欧州諸国は、麻薬密輸、テロリズム、NBC兵器やその運搬手段の拡散に対しても協力しなければならない。
米国の地域的防衛態勢と活動。欧州の安全保障の米国の利益にとっての重要性は、約10万人の米軍人の駐留、地中海への米海軍部隊の持続的配備によって明らかにされている。これらの部隊は、米国がNATOの中で、またこの地域のNATOのパートナーに手をさしのべる活動のなかで積極的で卓越した役割を保つことを保証している。また、欧州を基地にした米軍部隊は欧州、アフリカ、中東の危機に初めに対応する部隊となることが多い。
新たな能力による新たな対応を進めるにあたって国防省は、NATOが将来直面する安全保障環境が過去とは根本的に異なるものであり、今後さらに変化することを認識している。冷戦終結によって、米国と欧州の同盟国〔NATO諸国〕およびパートナー〔PFP協定調印国〕は新たな戦略環境に直面することとなった。昨日までの一枚岩の脅威に代わって、今日ではリスクは予測不可能であり、多方面からのものであり、多次元のものである。ボスニアの経験を通じてNATOは、もっと機動的、柔軟で、継戦能力、生存能力があり効果的交戦ができる部隊の必要性を学んだ。1999年4月のワシントンでの50周年サミットで、NATOは米国防省が提案したそれらの問題に対処する防衛力計画を承認した。この計画は、NATOの軍事力を次の5つの決定的分野で強化するものである。すなわち、展開能力・機動性、継戦能力・兵站、効果的な交戦、部隊とインフラストラクチャーの生存能力、指揮・統制および情報システムである。欧州の防衛能力の広範な変革を支持し、米国は、NATOを基礎にした欧州独自安保防衛イニシアティブを歓迎する。これは、NATOの目標に貢献する責任をとる欧州の能力の強化をめざすものである。米国は、ロシアとウクライナを含むパートナー諸国の役割を高めることを積極的に支持している。また、NATOの新規加盟への門戸開放政策を承認し歓迎している。米国はNATOの南西欧州イニシアティブや南東欧州防衛閣僚会議プロセスに積極的に参加して、同盟国とパートナーが参加するさまざまな協力機構を後押している。これらの協力機構は長期的に、この地域の安全保障と安定の強化に大きく貢献できる。これらの機構は、多国間の平和支援能力の強化から情報共有網や軍事工学上の熟練度の改善にわたる実践的な措置にかかわっている。また、中欧の各国と米国の間の行方不明米軍要員の解明問題についての協力は、拡大されたNATOパートナーシップの成功を確保するために不可欠な信頼を深めている。
新独立国家群
米国の防衛目標。米国は、ロシア、ウクライナおよび他の新独立国家群(NIS)〔バルト三国以外の旧ソ連新独立国〕が国際社会に完全に統合され地域的安全保障と安定を推進する協力的なパートナーになっていくことを追求している。この目標と一体のものとして、旧ソ連のNBC兵器・兵器材料および関連した運搬システムや技術の安全を確保し拡散を止める努力や、またロシア以外の新独立国に残っている旧ソ連の核運搬システムの除去を支援している。国防省は、NISと協力して、NBC兵器の除去、その製造のための材料物質や技術の統制、その無許可搬出を防ぐための自前の国境管理能力の増強の努力を支援している。米国は、ロシアがボスニアとコソボで示したように欧州問題で建設的役割をはたすことを望んでいる。また、NATOとロシアのパートナーシップの発展を望んでおり、またNATOとウクライナのパートナーシップが発展してウクライナの欧州への、そして欧州・大西洋の諸機構への統合が促進されることを望んでいる。またNISの民族的・地域的緊張の平和的解決をめざしており、兵器と麻薬の密輸、テロリズム、国際的組織犯罪、環境悪化との共同のたたかいの強化を追求している。
米国の地域的防衛態勢と活動。国防省は、NISとの軍間交流のなかで、各国軍との運用協力の改善を、またNISの防衛意志決定への文民指導原則、防衛資産の管理、透明性、軍事改革と構造改革の浸透を追求してきた。この軍間交流は、冷戦の遺産である互いの不信と猜疑を克服し、米軍とNISの軍との間の相互運用性の基盤を形成することに役立つ。このような二国間の取り組みは、平和のためのパートナーシップ〔PFP〕協定のプログラムや欧州安保協力機構〔OSCE〕などの諸機構の多国間の取り組みによって補完されている。統合コンタクトチーム・プログラム、国家パートナーシップ・プログラムおよびマーシャルセンターは、この取り組みを支える枢要なプログラムである。国防省は、軍と文民による防衛接触をさらに拡大していく。たとえば、ロシアの核・化学・生物兵器および関連施設の安全性強化と解体を支援すること、新独立国との合同訓練・演習を遂行してNATOとの相互運用性を強化し新独立国の多国間作戦能力を改善することである。行方不明米軍要員の解明についての協力の続行も、米国と新独立国との二国間関係のなかで優先順位が高い問題である。
東アジアおよび太平洋沿岸
米国の防衛目標。米国は、東アジアが、安定し、経済的に繁栄すること、そして民主主義的改革と市場経済の立場に立つことをめざしている。この目標達成のための中心になるものは、米国のこの地域での強力な同盟関係、とくに日本、オーストラリア、韓国との同盟関係である。それに加え、中国に関与しつづけて中国が地域の安定に貢献し国際社会の責任あるメンバーとして活動するようにすることが緊要である。米国は朝鮮の紛争の平和的解決、非核の民主的な和解し最終的に統一した朝鮮半島の実現を望んでいる。同様に、台湾と中華人民共和国の紛争をはじめとする他の紛争の平和的解決を望んでいる。テロリズム、麻薬取引、NBC兵器の拡散に対する取り組みの成功も、この地域における米国の主要な目標である。そして、アジアにおける行方不明米軍要員の可能なかぎり完全な解明を求めていく。
米国の地域的防衛態勢と活動。米国は東アジアと太平洋沿岸における現水準の軍事能力を必ず維持する。この軍事能力によって、米国は安保を保証する者としての、また地域の均衡を保つ者としての枢要な役割をはたすことができる。米国は同盟諸国と協力して前方展開政策を続行する。それはこの地域における米国の利益となる政策であり、また長期的に安全保障環境の変化に適応するためにも必要である。現在、米国はこの地域に約10万人の軍事要員を駐留または展開させている。うち半分以上は日本、40%近くは韓国に駐留している。米国は、日本、韓国、タイ、フィリピン、オーストラリア等この地域の枢要な諸国との二国間、多国間の演習の続行を追求していく。
この地域でのもっとも大きな短期的危険は、朝鮮民主主義人民共和国がもたらしつづけている軍事的脅威である。米国は、韓国を北朝鮮の侵略から防衛する条約上の義務を必ず完全にはたしつづける。また、韓国や他の同盟国・友好国の共通の目標であるNBC兵器のない朝鮮半島をめざしていく。米朝基本合意は、ヨンビョンとテチョンの北朝鮮核施設をIAEAの査察のもとで凍結した。この基本合意は、今も核拡散防止条約による北朝鮮の非拡散の約束履行を確保する最善の手段となっている。国防省は、太平洋の同盟諸国とも、化学兵器や生物兵器を抑止しまたその使用を撃破する彼らの集団的能力を強化するために協力している。
日本との安保同盟はアジアにおける米国の安保政策の要であり、米国の世界的目標の多くにとっても枢要である。両国は近年、二国間関係の強化と安全保障環境に対応した協力の枠組みと機構の改訂のために積極的に動いてきた。この地域の他の諸国、特にオーストラリアとの強力な同盟を基礎にする米国の取り組みは、経済的・政治的に重要性が増してきている東南アジア地域の安定性を確保するという米国の目標を支えている。ASEAN諸国とのASEAN地域フォーラムを通じた安全保障対話と信頼醸成措置の強化は、東南アジアの同盟国・友好国との政治的・軍事的・経済的なきずなの強化のためのさまざまな方策の一つである。アジア太平洋戦略研究センターは、意見交換をし地域の安全保障の課題を探求するアカデミックな場を米国とアジアの軍人・文民の意志決定者に提供して相互理解と協力を促進するものであり、米国の緊要な事業である。
アジアの金融危機は、この地域が前提としていた不断の経済発展を揺るがした。インドネシアの経済的・政治的難局は特に、国内的にも地域内的にも既存の秩序に難題をつきつけている。インドネシアへの米国の関与継続は、この困難な変革期に対処するために必要な安定の強化に役立つであろう。
アジア太平洋地域において中国は決定的に重要であるから、米国は、中国を国際社会にいっそう深く統合していくために働いている。米国はとりわけ、兵器拡散防止・国際貿易・人権の国際標準を中国が採用するようにさせつつ、地域の安定と経済的繁栄を推進するために中国に関与しているのである。また、中国の軍需調達・計画立案をはじめとする防衛計画の透明性をさらに高めることをめざしている。そして協力と信頼醸成を目的とした中国との対話に関与しつづけていく。軍間交流プログラム、寄港、専門家セミナーは、この対話を助け、持続的関係を形成するものであり、米国と中国のリーダーの間での協力と信頼醸成を促進する。
中東および南アジア
米国の防衛目標。米国は、中東と南アジアが平和で、戦略的天然資源への安定価格でのアクセスが妨害されないこと、そして自由市場を拡大することをめざしている。この地域は、アラブとイスラエルの間での公正かつ持続的・包括的な和平の実現、インド・パキスタン紛争の平和的解決までは安定しえない。また、イラク、イラン、リビアが国際基準に従うようになり、地域安全保障を脅かさなくなるまでは安定は達成できない。国防省は、これらの国による化学・生物兵器や長距離ミサイルによる脅迫やその使用に対処し抑止するため、協力防衛イニシアティブおよびさまざまな多国間の作業を通じて地域的パートナーとともに積極的に活動している。国防省は、NBC技術のいっそうの拡散の防止とテロリズムへの対抗にも勢力をそそいでいくであろう。
米国の地域的防衛態勢と活動。米国のこの地域における軍事プレゼンスは、限定的な長期プレゼンスと多数の交代展開部隊・一時的展開部隊を含む。1万5000人の軍事要員の大部分および事前集積された緊要物資は、侵略を抑止し安定を高めるためにこの地域に置かれている。これらの部隊は、国連決議を執行し、資源への自由なアクセスを確保し、地域的パートナーと協力して相互運用性および地域の諸国の自衛能力を改善している。中東および南アジアの友好国との間で発展してきた緊密な軍事関係は、米国の安全保障援助プログラムとあいまって、米国の危機対応展開を地域の諸国がいっそう即応的・効果的に支援する環境をつくるのに役立っている。これは米国の抑止活動に不可欠である。
米国は、地域紛争の解決を押しつけることはできないが、米国の軍事的・政治的に無比の地位のために、地域の安定を促進し平和の大義を推進する積極的な役割をはたすことが求められている。外交的努力とともに、米軍は、この地域の軍の透明性と職業倫理を高め、人権を支持する価値観と民主主義的価値観を示すために、軍同士の接触を続けていく。南アジアの拡散防止問題が満足できる解決に達するまでは、米軍のこの地域での役割は、この地域を安定させ、国際的拡散防止の基準を守るための多国間の取り組みの支援に焦点をあてていく。
アメリカ諸国
米国の防衛目標。米国は、すべてのアメリカ諸国が経済的に繁栄し、平和的で民主的なパートナーであることを望んでいる。米国の防衛戦略は、これらの国が軍の文民統制、建設的な文民−軍人関係、人権尊重、兵器購入と軍事予算の抑制を強力に進める姿勢を示すことを求めている。また米国は、この地域の領土紛争の平和的解決が特に重要であると信じている。軍の資産と支出の透明性および信頼醸成措置と安全保障形成措置は、直接かつ決定的にこの目標に影響をおよぼす。米国はパナマ運河の中立維持および地域のシーレーンの航行の自由の維持に力を注いでいる。そして、この地域の麻薬の栽培・製造・密輸、武器密輸、テロリズム、NBC兵器の拡散、組織犯罪、違法移民および難民の流出はすべて、米国領土の安全保障と領土保全にとって中心的な問題である。
米国の地域的防衛態勢と活動。毎年5万人以上の現役・予備役の人員が米国からカリブ海・ラテンアメリカにでかけて、演習への参加、国家援助、麻薬取り締まり支援、地雷除去作戦の訓練、および他の関与活動を行っている。
この地域の軍は立憲民主主義における彼らの適切な役割をますます受け入れるようになっているが、国防省はそれをさらに促している。このような取り組みのなかには、二国間の作業グループもあり、また多国間のアメリカ防衛閣僚会議もある。防衛閣僚会議は、アメリカ大陸の民主主義諸国の防衛閣僚を集め、共通の懸念事項を討議し、透明性を高め、疑惑を減少させ、民主主義社会における軍の適切な役割を高めている。
アメリカ諸国では、超国家的な脅威が特に重大である。麻薬密輸とそれに関連した犯罪活動は米国とこの地域における米国の利益を脅かしているため、他の政府機関が、麻薬流入をその生産地と中継地の双方で阻止し、また他国の反麻薬措置を援助しており、国防省は、その活動を支援しつづける。またカリブ海沿岸地域からの違法移民を取り締まる他の政府機関を、偵察や違法移民のグアンタナモ湾海軍基地への一時的収容によって支援しつづける。
サハラ以南のアフリカ
米国の防衛目標。サハラ以南のアフリカでの米国の防衛活動の目標は、地域の安定性を高め、次のような民主的統治を後押しすることである。すなわち、アフリカ諸国の各軍が文民統制の原則に立つこと、アフリカの軍の各部隊が軍事行動と人権との国際的標準を尊重して職業倫理にのっとった作戦と訓練を遂行すること、アフリカ諸国の国防省が正当な自衛の必要性にみあうように自国の軍を形成・組織し、文民当局によって割り当てられた資源を効率的に運用すること、そしてアフリカの軍事組織が国家自衛を遂行する能力を持ち、小地域の人道援助作戦や平和維持活動に参加できるようにすることである。
米国の地域的防衛態勢と活動。これらの目標を達成するために国防省は、小地域的組織への関与、枢要なアフリカ諸国との提携の推進、問題国家への適切な関与、同盟国のプログラム・企画との競争ではなく協力と協調、慎重な準備と必要な場合の断固たる対応を行っている。しかしながら、サハラ以南のアフリカに対する米国の地域的防衛活動とその資源は、限られたものである。限られた資源をもっとも効果的に運用するために、国防省はアフリカのパートナーの安定度と米国の国益に対するその重要度に応じてプログラムと活動に優先順位をつけている。次のうちの1つ以上に当てはまるものは、適切な資源・活動・プログラムを受けることになる。すなわち、防衛改革、軍事的職業倫理、紛争解決と平和活動、技術、ならびに衛生および環境である。こうした活動および資源とは、軍事教育訓練プログラム、合同演習、平和維持訓練、および軍の人道・民生活動プログラムなどである。このように活動を調整して国防省は、職業倫理・自衛・文民統制を基準にして米国の安全保障上の目標をつらぬき、アフリカ諸国との提携を進めている。
結論
ここに述べてきた防衛戦略は、QDR報告で詳論されているものであるが、現在および将来の安全保障環境の中で米国の国益を守り増進する道を示している。米国は世界的なリーダーとして関与しつづけなければならず、比肩するもののない軍事力を適切に使用して、国際的安全保障環境を有利に形成し、米国の利益にとって必要なときにはあらゆる種類の危機に対応し、不確実な将来における課題に対処するための今から準備を行わなければならない。この3面戦略とそこにおける軍の任務が、国防省のプログラムと活動の基礎なのである。 (以下略)
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