COMMUNE 2000/01/01(No291 p48)

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No291号 2000年1月号〈2000年1月1日発行)

定価 315円(本体価格300円)

〈特集〉 激動するインドネシア情勢

 □

●翻訳資料  21世紀の米国安全保障(上)……村上和幸 訳

ニューズ & レビュー
  政治/新破防法=団体規制法案を絶対阻止……益子孝史

 11・7全国労働者集会

三里塚ドキュメント(10) 内外情勢(10月)日誌(9月)

羅針盤団体規制法の暴挙

 沖縄の10・23県民大会は、名護市の住民500人を始め沖縄の1万2千人の大結集で、新たな島ぐるみの反基地闘争を出発させる大きな高揚を示した。沖縄の闘いは稲嶺知事の普天間移設先候補地の発表、地元名護市の市議会や市長の受け入れ表明をめぐるきわめて緊迫した局面を迎えている。安保の最大実体の沖縄での新基地建設を許さない闘いを本土と沖縄現地で大高揚させなければならない。「闘う労働者の全国ネットワークをつくろう」を掲げた11・7労働者集会の高揚は、安保・沖縄闘争の発展という点でも画期的な新しい段階を切り開いた。都労連決戦を先頭に、倒産、リストラ、首切り、賃下げ攻撃を全労働者の闘いで打ち砕く闘いとともに、新ガイドライン体制下、小渕・自自公連立政権に対する人民の総反乱の時である。
 茨城県東海村の核燃工場臨界事故と「核武装」を叫ぶ西村真悟の超反動発言は、結合してとらえる必要がある。臨界事故の根底には日帝の核武装化政策がある。ところが日帝にとって核武装の問題は、日米安保の破棄・日米間の軍事的な決裂という問題をはらんでいる。敗戦帝国主義として軍事的な独自展開を封じられてきた日帝の現状破壊の衝動が西村発言として噴出してきたのだ。核の問題が帝国主義にとって死活的な問題であるのだ。西村発言は、同時に朝鮮侵略戦争宣言であり、軍事大国化宣言であり、女性差別の扇動であり、あらゆる意味で日帝の超反動的現状突破の意識的策動である。これらの反動発言は、日帝の凶暴性、侵略性を示すひとつながりのものであり、けっして例外的な突出ではないのである。
 今臨時国会の当面の最大テーマは新破防法(第2破防法)としての団体規制法案を粉砕する闘いである。これは「オウム真理教対策法」という押し出しで提出されたものだが、その狙いはまったく違う。要するに日帝の朝鮮・中国侵略戦争に向かっての国内治安弾圧体制づくりの攻撃である。「無差別大量殺人を犯した団体」を規制の対象としているが、これは「破防法4条の規定」すなわち「暴力主義的破壊活動」の「政治目的をもった殺人」であると定義づけられている。破防法と比べて適用のハードルを極端に低くしていること、公安調査庁と警察の権限を強化し、「観察処分」で組織をガラス張り化し、「再発防止処分」で解散を強制するという恐るべき法律である。法案の成立絶対阻止へ、事態はきわめて切迫している。
 99年秋の階級闘争の大きな特徴は、闘いの新たな高揚に追い詰められたファシスト・カクマルが、革共同および闘うすべての人民に対して凶暴な本性を現して襲いかかってきたことである。革共同から脱落し権力に投降した白井朗の策動に便乗してニセ「白井パンフ」を作ってデマ宣伝したのを始め、全面的な攻撃に出てきている。カクマルの策動の根底には、カクマル=JR総連の戦争翼賛勢力への転落がある。これを擁護し、JR総連を防衛するのがカクマルデマ運動の動機なのである。10月の連合大会でJR総連は安保・自衛隊を公然と容認し、JR総連の軍事輸送を担うと発言し、戦争協力の立場を打ち出した。それをカクマルは自分たちの『解放』紙上で肯定した。今や、カクマル=JR総連の反労働者性、反革命性は全人民の前に明らかになり、カクマル打倒が全労働者の課題であることが明白になったのである。   (た)

 

 

翻訳資料

 21世紀の米国安全保障(上)

21世紀最初の四半世紀の安全保障環境についての第1段階レポート

99年9月15日 米21世紀安全保障委員会

【解説】

 この報告書は、米国防長官の諮問機関「21世紀安全保障委員会」によって作成された。この委員会の委員は、ギングリッチ前下院議長(前共和党院内幹事)をはじめ、ゲルプ外交評議会会長、ヤング元国連大使(60年代の公民権運動の幹部、民主党系)などである。実務的には、国防省の本省と欧州軍・太平洋軍等の司令部・在韓米軍など、国務省の本省とさまざまな国にある大使館・領事館、CIA、司法省、国家安全保障会議など多数の政府機関が全面的に協力した。
 従来から米帝は、他の帝国主義諸国と比べ、国家形成の歴史の浅さ・支配階級の数の多さ・地理的な広大さなどのために、支配階級の階級意志形成に多大なエネルギーを使ってきた。この歴史的な特質に加え、現在では世界的な過剰資本・過剰生産力という解決不能の矛盾、米帝の歴史的な衰退のため、そしてなによりも90年代の超長期のバブル経済の破綻によるすさまじい危機が近づいているために、支配階級の意志一致はますます重大問題となっている。そのために本文書も民主・共和両党のさまざまな潮流や全政府機関が挙国一致的体制をとって作り上げる方式をとったのである。そういう性格の文書であるだけに、米帝の本音があけすけに語られている。
 まず第1に、階級対立の激化に全力で身構えている。特に、情報技術の発展・普及・産業構造の変化と経済のグローバル化によって国内的・国際的に貧富の格差が拡大し、恨みが蓄積し、それがテロ活動の元になると言っている。
 もともと「情報産業化」「経済のグローバル化」なるものは、米帝(帝国主義諸国)の政治的・経済的・軍事的・社会的・歴史的・文化的な総合力の上にはじめて成り立ったものである。その核心に米帝を基軸とした帝国主義の暴力的な世界支配がある。それに対して新植民地主義体制諸国の人民が怒り決起することは当然だが、本報告書はそれを逆転し、《文化的な衝突》《自分たちに技術を根づかせる力がない責任を認めずに先進諸国を逆恨みしている》ときわめて差別的に描き出している。
 本報告書は第2に、従来のような外交的考慮がほとんどない表現で、日帝とEU帝国主義に対する激しい争闘戦の意志をあらわにしている。激しい争闘戦を行いつつも建前上は同盟国として扱うという方式は、今度の文書ではほぼ完全に払拭されている。該当個所の訳文の掲載は次号になるので、本号では一部を引用しておく。
 「西欧の諸機構の今後25年間の展開の中で、米国との間で政治的利害が分岐し、経済競争と深刻な緊張が発火する……」
 「アジア、特に東北アジアは大戦争が発生する可能性がもっとも高い地域である。ここは、大国間の大きな領土紛争が存在する唯一の地域である」
 「中国が民族主義的で好戦的になることからも、朝鮮が核武装して統一するということからも、日本が軍事的に自己主張するようになるということからも、三国関係の中で大火災をおこす火花は発生しうる」「(日本の経済が劇的に収縮するならば、軍事的伝統を復活させる保守的なリーダーが出てきて)日米の二国間の安全保障の合意を破棄するであろう」
 日米帝は、新ガイドラインをはじめとして日米安保体制を強化し、朝鮮・中国|アジア侵略戦争を共同で準備しつつ、そのなかですさまじい争闘戦をすでに開始している。日米の同盟関係が永続するものではないということを、すでに文書で公然と言うまでになっている。むしろ、日米帝の全面激突のあまりの破壊性のために、当面は日米安保同盟を強化する力学が働いているのである。
 29年型恐慌の過程への突入、日米帝の争闘戦激化、朝鮮侵略戦争の歴史的切迫の情勢を正確に把握し、帝国主義を打倒する闘いに決起していこう。
【〔 〕内の補足とゴシックによる強調は訳者】

………………………………………

目次

序文〔略〕

はじめに〔略〕

序章
第1章 世界の動態
 科学・技術の未来|「人々は何を学び作っていくか」
 グローバルな経済|「富はいかに作り出されるか」
 社会・政治的未来|「世界はどのように統治されるか」〔以下次号〕
 軍事・安全保障の領域|「社会はどのように自己を防衛するか」
第2章 激動する世界
 広域ヨーロッパ
 東アジア
 広域中東
 サハラ以南のアフリカ
 南北アメリカ
第3章 米国内の未来
 社会の趨勢
 技術の趨勢
 経済の趨勢
 価値観、姿勢、国民の意志
 国家安全保障に影響するさまざまな趨勢
第4章 世界の展望
 民主的な平和
 保護主義と民族主義
 勝ち誇ったグローバリゼーション
 パッチワーク状の未来
第5章 主な諸問題とそれらが意味するもの

………………………………………

 第1章 世界の動態

 科学・技術の未来|「人々は 何を学び作っていくか」

 ……たとえ実験室で大きな技術革新が行われたとしても、それが世界的規模での大きな変化を引き起こすには、十分な生産・運搬・販売のインフラストラクチャーが必要であり、それを作り出すには25年近くかかってしまうであろう。実験室でのたえざる前進と大きな実用レベルでの技術革新があることは期待できるが、エネルギー源については、エネルギーを使う機器の効率化ほどは期待できない。電池の大きな進歩はほぼ確実で、都市で使われる車が燃料電池で走るようになることも大いにありうる。多くの先進国の経済がテレコミューティング〔在宅勤務〕、テレマーケティング、電子商取引などの普及で知識型になり、エネルギー消費のパターンが良い方向に変わる可能性がある。
 しかし、化石燃料とその埋蔵地域は今後も経済的に重要であり、主要な大国の政治の計算の中に入ってくる。いやそれどころか、アジアをはじめ他の発展途上地域の経済成長につれて化石燃料の需要は増大するのである。今後25年間燃料価格が安価のままで、限界的ないし掘削困難な埋蔵地の開発が抑えられることは大いにありうることだが、そうなればペルシャ湾の石油生産地の重要性は1970年代中頃を思わせるレベルにまで高まるであろう。
 ここは今後25年間のわれわれの生活をつくっていく科学と技術の革新される点や革新されない点について詳細に述べる場所ではない。この研究の目的にとって重要なことは、科学・技術それ自体ではなく、それが社会と政治に及ぼす影響である。その点でみれば、展望は交錯している。一方で新たな科学的発見や技術革新は巨大な利益をもたらすが、他方で多くの難題をなげかける。その難題のあるものは知的・実践的なものであり、あるものは倫理的・哲学的なものであろう。
 新たな難題がでてくることを予想するひとつの理由は、かつてなく急激な変化がやってくるということである。新たな技術革新が商業化され、社会の主流に入っていくスピードは、ますます速くなり、社会がそれに適応するための時間は少なくなる。……
 情報技術は、米国や他の技術的先進国の人々に大きな影響を与えている。個人が持っている情報圏の広がりは、今後25年間にわたって縦にも横にも広がりつづけるであろう。技術的環境がこのようになっていくことは、ある種の問題を提起している。人々は新たなレベルの複雑な課題に対処しなければならなくなる。この技術的環境について、誰も完全には理解できなくなる。また大量のたえまない情報の流れをマスターすることはできなくなる。ある人々、ある組織は、この状況に他の人々、他の組織よりもうまく対処することができる。取り残された者は、経済的損害を受ける。つまり、新たな技術は社会の勝者と敗者を選り分ける新たなふるいとなる。……
 技術によって……プライバシーの維持はますます難しくなる。個人の労働を監視し、通信を傍受し、データベースから個人情報を引き出す能力がたえず拡大することは、民主主義国における個人の権利との間で衝突を引き起こす。個人であれ、企業であれ、政府であれ、秘密保持は困難になるが、個人も組織も秘密保持のために懸命に努力するであろう。暗号化と暗号解読のレースでどちらが勝利するかは、まだわからないが、他人の都合の悪いことを知ろうする意志のある者にとっては、おそらくいっそう多くの基礎情報を入手できるようになるであろう。
 労働力の両極化も、深刻化しうる社会問題である。シンボル操作に熟達していない者は、新たな技術経済環境に適応しにくくなるであろう。……米国でも他の工業社会でも、中産階級が分化することになるであろう。上昇する者は国際的なコンピュータ経済と結合し、他はもっと経済領域の隅の方に追いやられていく。
 教育の分化が人種的・民族的な分化を反映しているかぎり、現在の社会的分裂が新たな構図の労働の階層化によってさらに悪化するであろう。これは、社会的・流動性に比較的恵まれた歴史をもつ米国をはじめとする諸国に、特に爆発的な危険をもたらす問題となりうる。新たな技術は、社会的経済的な階層分化にもとづく社会のパターンにも影響する。すでに先進諸国では、銀行の自動預け払い機やオフィスでのボイスメールなどの自動化されたサービス機器の登場によって、異なる社会階層の人が顔を合わせる回数が減少している。このように社会的・経済的グループごとにますます隔離されていくことがどういう社会的・政治的影響をもたらすかは明らかではないが、大衆民主主義において軽視すべき事柄ではない。
 技術の進展は明らかに社会のパターンに影響し、社会的公正の問題を提起する。先進的社会では、こうした問題は疑いもなく大きな政治課題になっていく。いやすでに、ある程度そうなっている。この数十年間、米国や他の先進的社会では所得配分がますます偏っていった。それは逆進的な課税政策のせいだと言う人もいる。しかし技術によって金持ちの間で資産の膨張が促進されたことは「金ぴか時代」〔南北戦争後の空前の好況期〕の基本的な経済的動力と本質的には同じであろう。……

 グローバルな経済―「富は いかに作り出されるか」

 経済学の根本は、次の単純な問いに帰着する。どのように富が作り出され、配分され、使われるか? という問いである。しかし、答えは決して単純ではない。未分化の生存手段の生産という所から、われわれははるか遠くまで来てしまっている。資源の適合、高度な生産技術、教育と人的資本、マーケティング、金融、貿易、そしてそれらすべての活動をまとめあげる慣習と法律の体系があって、局地的・地域的・国民的・国際的な経済の動力は、非常に複雑になっている。
 今後25年間に関していえば、米国の国家安全保障にとって重要なことは、グローバルな経済システムがどこまで統合されるかということである。というのは、経済統合が、世界の経済的、政治的な力、究極的には軍事的な力の配分に影響するからである。ある国々は他の国々よりも繁栄するであろう。機敏な発展途上国たとえば中国などはもっとも繁栄するかもしれない。
 統合が続いていけば、米国を含むほとんどの国々に富の増加が見込まれる。しかしそれは同時に、多くの新たな弱点を生み出すものにもなる。とはいえ、もしも統合が停滞するか逆行するならば、別の諸問題が前面にでてくるであろう。
 経済の相互依存は米国経済に無防備な点を作り出す。資本市場と貿易は、米国の利益をそこなう目的で利用されることも大いにありうる。新たな経済のパターンは、国民のアイデンティティーにも影響し、国家の統治能力にも影響する。
 大部分の論者が、国際的な経済システムは急速な移行の時期にあると考えている。だがその移行の行き着く先については、彼らの見解はさまざまである。……しかしながら、新たな世界経済のそれなりに客観的な姿を描くことは可能である。まず金融および生産の領域に関する国際経済の構造的変化を把握し、世界経済の循環がその結果としてどのように影響されるかを把握しなければならない。つまり、貿易と資本移動とりわけ開発途上国への資本移動との関連を理解しなければならない。そして、経済的変化を妨げるさまざまな障壁について理解しなければならないのである。
 世界経済環境の変化の要は、国際的な資本移動の量の爆発的増加である。基本的データをみよう。ベルリンの壁崩壊後の最初の年、1990年、発展途上国には総額1000億j強の長期資本が流入していた。そのうち、半分以上が政府や世銀などの多国間機関による公的援助ないし支援であった。1998年、発展途上国への長期資本の流入は総額2750億jにまで増大し、そのうち国際資本市場からの流入および直接投資による流入をあわせた民間資本が80%以上を占めるにいたった。
 資本移動の増大とともに、民間の市場参加者の性格の変化も重要であろう。市場参加者の数とタイプ、個々の取引の規模、証券やファンドのタイプ、取引の全般的なスピードは劇的に増大した。世界的な資本移動は、今も主要に大商業銀行が担っており、資本の逃げ足の早さもまた主要にその問題である。しかし、投資の源泉は、年金基金や保険基金、個人資産にまで拡大している。要するに、世界金融システムは、少数の者が参加するものから、はるかに数多くはるかに多様な投資家・債権者が参加するものへと成長してきた。これは、経済、金融、政治の世界大の広い領域にわたって、新たな既得権益を作り出してきたのであり、そこにますます巨額な投資や短期投機資金が賭けられているのである。
 とりわけテクノロジーこそ、こうした動きを可能にしたのである。情報技術の前進によって、金融機関も個人投資家も市場情報をかつてないスピードで収集・分析し、それにもとづいて行動できるようになった。この傾向はさらに促進されるであろう。というのは、技術が普及するにつれて、現在米国などの先進国のますます多くの個人投資家や機関投資家が行っているように、世界中の人々が世界市場に参加しうるようになるからである。
 テクノロジーは、生産そのものにはさらに深く影響する。技術の前進は、企業の事業・規模・立地の諸条件を変えてきた。一方では、多くの企業が真にグローバルになることを可能としてきたし、今後はますますそうなる。他方、情報技術によって、特定の市場に向けた特定の生産を行うことが容易になった。ニッチ生産と呼ばれるこの現象は今後、生産技術とスマート・マシン自体の普及、市場情報のいっそう詳細でほぼ瞬間的な入手とあいまって拡大していくであろう。これは、繊維のような古くからの分野でも、技術がもたらした新しい製品の分野でも同様である。企業組織のグローバル化、国際市場の拡大、ニッチ生産の到来によって、製造業部門もサービス部門もリストラクチャリングをせざるをえなくなる。……
 情報技術は、在庫戦略にも影響する。そして、この分野も国家安全保障につながっている。在庫の維持費用は高いので、企業はその負担の軽減を志向する。問題は、何らかの理由で−−特に戦争によって−−供給が絶たれることが、その供給に依存する国の弱点になることである。たとえば、中国が台湾を軍事的に攻略しようとし、その過程で台湾と米国の経済的連絡を断ち切るようなことがあるとすると、米企業は経済的に重要な部品の不足に直面することになる。
 また、米国では保護主義への支持が広がっている。それは、自由貿易とグローバル化が製造業の高賃金雇用の減少の主因であることをみれば、驚くにはあたらない。保護主義的感情は、鉄鋼輸入への関税引き上げ要求や貿易交渉における大統領のファストトラック権限への反対によく現れている。こういうことが、記録的に雇用が増え、成長率が高く、経済への楽観でわきたっているこの時期におこっている。これは、元労働長官ロバート・ライクが指摘したように、やっかいな問題である。「経済が急成長している現在これほど自由貿易への反感があるのだから、経済が減速したときにはいったい何が起きるだろうか」
 保護主義的な要素は、多国間の形でも二国間の形でも現れてくる。メルコスール〔南米共同市場〕、EU、NAFTA〔北米自由貿易協定〕のようなグループ化をつうじて、地域的な結合が拡大していることは、経済成長の基礎として役立っている。今までのところ、こうしたグループ化は、その域内だけでなく、世界全体に対しても農産物を除いて貿易障壁を少なくする傾向になっている。しかしながら、厳しい状況になった時にこれらのブロックが事実上の地域カルテルに転化するならば、いままでのように景気を加速するどころか、むしろ世界の成長を脅かすものとなる。地域的な貿易ブロックの競争は、世界経済全体の新市場と資源の統合を推進するどころか、抑えつけてしまう。
 地域的貿易ブロックの保護主義的な性向には、すでに実例がある。EUと東欧・中欧の旧ソ連衛星国の間の緊張の多くは、この問題から来ている。EUの農産物は、補助金を付けられて、つまり賄賂をもらってポーランド、チェコなどに輸出するようにされ、ポーランドやチェコの農民に巨大な圧迫を加えている。その一方、多くの東欧の商品は、関税とEU市場で競争力をもっている東欧製品を特に標的にした割当制によってEU市場から効果的に閉め出されている。明らかに地域カルテルによって貿易は制限されている。
 文化も経済統合に抵抗する原因となりうる。変化をもたらす者がよそ者であり危険であると思われる場合、変化への抵抗はますます激しくなりがちである。近代的技術は圧倒的に欧米生まれである。また、現在台頭している情報社会をアメリカ文化と同一視するものも多い。ある社会では、とくに若い世代には、この文化は広く受け入れられている。しかし他の社会では、このグローバルな大衆文化は非常に恨まれている。世代間の分断を生み、その国のエリートは憤慨し、懸念している。このような憤りは、明白に反動的な勢力−−たとえばタリバンなど−−の中だけでなく、米国人が同盟国・友好国と思っているヨーロッパや他の諸国にも広範に存在する。
 好むと好まざるとにかかわらず、われわれは世界的な文化衝突の時代に入っている。さまざまな文化が新たな技術をどう吸収同化するか、台頭するグローバル経済の型をどのように利用するかの型に応じて、この文化衝突のあり方がきまってくる。開放された経済を成功させる意欲やそのための資本を獲得することよりも、開放された経済を支える姿勢−−いわば社会的なソフトウェアといえるもの−−を獲得するほうがほとんどの場合困難だということが、すでに経験上明らかになっている。35年前には「技術移転」によって第三世界の土着の経済成長が広範に生み出されるという希望が抱かれていたが、それはうち砕かれてしまった。だから今日では、大きな社会的な革新が根づき成功するためには単なる技術的過程以上のものが必要である。文化が問題なのである。技術の普及によってむしろ世界の各部分が引き裂かれていく可能性もかなり大きい。その可能性は、グローバルな経済統合の過程に世界の各部分が吸引されていく可能性と同じくらいあるのである。
 グローバル経済の統合の進展で利益を受けない人々が、自分たち自身に社会資本が欠けていることに責任があると認めそうもない。彼らは、陰謀だと受けとめ、恨みを感じる可能性のほうが高い。そうなるとすると、次のことが問題になる。国境が消えていく時代に、欧米の技術によって半ば統合された世界と、それによって半ば疎外された世界とが折合いをつけていくなどということが可能なのだろうか?
 ある国ないし地域における安全保障状況の悪化は、そこの経済的な展望に根本的な影響を与える。そこが広く、重要な地域であれば、それは世界全体に影響を及ぼす。戦争が通商を妨げ、人的資源とインフラストラクチャーを破壊し、投資の方向を生産的部門から破壊的部門に変えてしまうことは明らかである。そうなると資本の安全な地帯への引き揚げが開発と雇用を害し、それはそれでまた、さらに不安定と暴力を生み出す。理由が何であれ暴力の波をくい止められない地域は、21世紀からさらにいっそう取り残されることになる。その結果、富者と貧者の格差はさらに広がる。地域や国の間の格差だけでなく、その地域や国の内部の格差も大きくなる。大国間の戦争があれば、全地球の経済システムが脅かされる。
 世界石油市場の大きな混乱も、全世界の経済成長と統合に大きな影響を及ぼす。発展途上の経済地域は、新たなグローバル経済への合流を目指すにあたって、エネルギー需要が大きくなる。アジアのエネルギー消費は、1996年から2020年までに250%以上増加するとみられる(エネルギー情報局『国際エネルギー展望』99年)。ペルシャ湾から安価な石油が豊富に入手できたことが、この10年間の石油価格の安値維持の主因であった。もしこの供給が脅かされたり制限されたりすれば、発展途上国の成長は挫折しかねない。発展途上諸国では、石油市場の不安定化がもたらす経済的なショックによって体制がもたなくなる国が多くでてくるであろう。
 他の事件も経済統合に影響しうる。ひとつの可能性は、バイオテクノロジーの副産物として、大きな予期せぬ疫病が発生しうるということである。また、インドや中国でエイズがさらに大きく広がる可能性もある。もし世界が疫病の大流行の脅威に直面するなら、経済成長率の予測はすべてはずれてしまうであろう。
 したがって、今後の経済統合は明らかに不確実である。今後25年間大きな体制的危機がないと決め込むこともできない。97〜98年のような発展途上諸国における大きな「ブーム−破裂」のサイクルが再び発生し、市場志向の政策への政治的支持を壊す可能性もある。だがしかし、少なくとも短期的にみて、もっとも重大な危険は米国経済の健全性である。
 今後5〜10年間、米国経済の強力なパフォーマンスが体制的危機を回避するために決定的である。97〜98年の金融危機直後の時期、米国は頑強な経済成長を続けた唯一の経済大国であった。この時もし、欧州とアジアが財とサービスへの需要を回復させる前に米国経済の急降下がおこっていたとすれば、世界的な不況になっていたであろう。そうなっていたら、米国と世界の繁栄について現在行っているバラ色の予測は、根底から覆ってしまうであろう。
 ある専門家たちは、現在の米国経済の弱点は、株式価格の過大な上昇及び持続不可能な水準にある消費支出にあると言っている。他の専門家たちはこれに反論し、情報革命の累積的効果による生産性の実質上昇は大きな実質成長の前兆であり、これを市場はむしろ過小評価していると主張する。また他の専門家たちは、貿易赤字及び米国の対外債務をまかなうに十分な海外からの対米投資を吸引する力に米国の弱点があるとみている。たとえばもし、日本で真の経済改革が行われ、日本の消費支出が拡大すれば、米国が借り入れられる資本額が減少してしまうという。ユーロ債市場の動向と連動して、米国は資本を吸引するために金利を上げざるをえなくなるかもしれない。それは、深刻な不況圧力となり、世界の成長率にも影響する。
 しかし、「ハードランディング」は不可避であるわけではない。米国の経常赤字は、GNPの2%にすぎず、極端な数字ではない。これは、80年代の大部分の時期よりも低いのである。しかも、現在は赤字が増えているが、同時に投資も増えているのである。しかし、もしも「ハードランディング」−−ドル安による米国の輸入の縮小、米国の対外赤字の海外からの融資の減少、国内の高金利−−があれば、それが世界に及ぼすインパクトは相当なものになりかねない。
 どうなる可能性がもっとも大きいであろうか。グローバルな経済統合の継続であろうか。現在の変化のペースの減速あるいは停止、それとも後退であろうか。
 世界的な経済的あるいは政治的体制の大きな混乱がなければ、右に述べた世界の金融・製造・運輸・通信・貿易の主要な趨勢は、近い将来は逆転しないであろう。グローバルなネットワークの国境を越えた結合は深くかつ広くなり、企業の戦略的な協定・提携による生産と利潤のシェアは増加するであろう。生産ネットワークの国際化もさらに進むであろう。しかし、この統合過程に地球の他の部分が合流するスピードと、さまざまな国が変容する度合いは不均等であろう。多くの場合、予想よりも遅いと思われる。
 グローバルな経済統合は、グローバルな経済成長を意味するであろう。それは月並みな指摘のように見えるが、歴史的に考えてみればそうではない。いくつかの非OECD諸国(ブラジル、中国、インド)の年間経済成長率はほぼ5〜7%になると思える。今日のOECD諸国の年間経済成長率は、2〜3%となるであろう。したがって、現在の44%である非OECD諸国の世界GNPの中でのシェアが、成長予測の高いほうを採用するか低いほうを採用するかに応じて、56ないし67%に拡大することになるわけである。特別の経済比較の方法(*)を用いて、中国は人口がきわめて膨大であるために絶対量の比較で2020年には中国経済が米国経済を追い抜くと主張する者もいる。(*OECDは、GDP比較に購買力平価を用いるなどの方法をとっている……。たしかにこの方法では、為替レートによる比較がもたらす歪みは生じないが、この方法独自の歪みが生じる……。もっと伝統的な方法で比較すれば、中国が25年間にわたって年間12・4%の成長を続けるという明白に非現実的なことが達成されなければ米国の経済規模に追いつかない)。
 世界経済の変遷は、米国の国家安全保障にとって、何を意味するであろうか。
 まず、アイデア、知識、世界的な資源の活用によって、世界経済のアウトプットは圧倒的に増大するが、しかしまた、資産と所得の格差も大きくなるということである。そして、この格差は、国家間の国力差にも大きな影響を与えるということである。
 知識型の経済は、国内の分岐も作り出す。豊かで教育があり地位がある人はさらに金持ちになり、貧しい人は貧しいままであるか、むしろさらに貧しくなるという傾向になるであろう。中産階級は、分裂していくであろう。この趨勢は、知識型の経済の先頭を走っている諸国では、すでに現れている。ほぼ20年間米国の人口の60%が実質所得の低下にみまわれた。また、一人当たり所得でも、先進国のほうが過渡的諸国及び発展途上諸国よりも増加率が高いのが近年の経済の趨勢である。
 第2に、相互依存の拡大である。……
 多国籍企業は、ますます国際的な性格を増してゆく。企業とその出身国とのつながりは、いっそうあいまいなものになっていく。米国をはじめとする諸国の政府は、国境を越えた利害関係と提携関係を代表する選挙民の利害の競合にますます直面することになる。このような利害の競合は、重大な技術についてもおこってくる。国際企業は、全世界的に調達、販売、技術ライセンス供与についての制限の緩和を追求するであろう。しかし、米国政府も他の政府も軍事上・安全保障上の理由から、軍民両用技術の取り締まりと規制を維持しようとするであろう。
 第3に、国家安全保障は、新たな規模と性格の民間資本市場の利用とつながっている。…中国は、1980年以来世界市場で134の債券を発行し、260億jを集めた。うち、105億jはドル建てで、その60%近くが3つの法人によって提供された。そのすべてが、米国の国家安全保障の利益に敵対する軍事的活動か米国に対するスパイ活動に関係している可能性があるのである。
 (以下次号)