COMMUNE 1998/11/01(No.280 p48)

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11月号 (1998年11月01日発行)No.280号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉 戦争・恐慌・大失業の時代

翻訳資料 アフリカ諸国の鉱物資源をめぐる新たな動向 フランソワ・ミセ、オリビエ・ヴァレー
『ルモンド・ディプロマティック』98年5月号より


翻訳資料2 新興市場の金融システムの修復と再建
98年9月9日 サマーズ米財務副長官 村上和幸訳

●国際労働運動 南朝鮮・韓国/xxxxxxxxx−−室田順子

    国労解体路線を粉砕した国労第63回大会

三里塚ドキュメント(8月) 内外情勢(8月)

日誌(7月)

翻訳資料

 翻訳資料-1

 アフリカ諸国の鉱物資源をめぐる新たな動向

フランソワ・ミセ、オリビエ・ヴァレー

『ルモンド・ディプロマティック』98年5月号より

 江原 良訳 

【解説】

 今回掲載した資料は、現在のアフリカ、特に中・南部アフリカにおける鉱物資源の支配をめぐる新たな情勢に関するフランスの二人の研究家の共同論文を翻訳したものである。
  今日、アフリカ諸国は世界経済危機のもとでの第一次産品の価格低落によって、軒並み経済危機を深刻化させている。
  さらに加えて、旧宗主国であるフランス帝国主義やイギリス帝国主義のアフリカからの歴史的後退と、そのすきをついたアメリカ帝国主義の介入策動の激化によって、政治的・社会的不安定化と内戦が連続的に爆発する情勢に突入してしまっている。@ql
  こうした中で、帝国主義によるアフリカの資源の支配を巡る争闘戦はますます激化している。とりわけ、アフリカの石油やアフリカにのみ集中する希少金属・金などを巡る再分割戦は、アフリカ諸国の経済危機と内戦の爆発を一挙的に激化させる要因となっている。@ql
  今年三月にクリントン大統領がアフリカ諸国を歴訪し、米帝がアフリカに本格的に侵略していくのろしを揚げたのにたいし、仏帝のシラク大統領は六月に英語圏アフリカを歴訪して対抗の姿勢を示した。また英帝もサハラ以南アフリカの債務問題に全面的に関与する姿勢を示している。@ql
  本資料で分析しているように、こうした動向がアフリカ諸国の資源を巡るさまざまな国内勢力の活動を刺激し、国家から独立した武装勢力や傭兵組織の形成と、そうした勢力の内戦への介入や資源の支配、帝国主義勢力と提携した資源支配策動などを生み出し、アフリカ諸国の分裂と内戦化の危機を激しく促進している。
  帝国主義のアフリカでの資源分割戦がアフリカ諸国の経済危機をいかに深刻化させ、内戦的危機を醸成するかを理解するための資料として本資料は参考になるであろう。

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【アフリカの鉱物資源めぐる新たな動向】

 アフリカのダイヤモンドと希少金属の生産諸国は、その資源の途方もない豊かさのゆえに、「地質学的に不当に優遇された国」と言われることもあるが、同時に、最も発展の遅れている諸国でもある。これら諸国の指導者たちは、この富を国民のために役立てようと努力するよりは、その支配を確保することに多くのエネルギーを注いできた。アンゴラ、リベリア、シエラレオネ、コンゴ民主共和国の内戦は、国際的香具師により大きな利益をもたらすためのものであったが、鉱物資源はこれらの内戦の資金源であった。第二次世界大戦以降、アフリカ大陸は戦略的金属の主要な生産地であった。ベルギー領コンゴはアメリカへのウランの供給を保障し、ナチスはウラン鉱石を後送するためのアルジェ−ニジェール間の鉄道路線敷設を構想した。アフリカのコバルト生産は世界の総需要の四〇%をカバーし、コンゴ民主共和国だけで、世界の確認埋蔵量の五〇から六〇%を保有している。第二のコバルト生産国はザンビアであるが、カセセ鉱山の操業以降はウガンダがそれに続く生産国になるであろう。
  アフリカはまた、世界のダイヤモンドの半分を供給している。大生産国は、コンゴ民主共和国、ボツワナ、南アフリカ共和国である。アメリカ鉱物局によれば、白金族元素類(プラチナ、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、オスミウム)の九〇%は、南アフリカ共和国に埋蔵されている。ジンバブエも白金族元素の生産国であり、ブルンジ、エチオピア、シエラレオネ、ケニアなどの国も、埋蔵が確認ないし予測されている。
  八〇年代初頭までは、この豊富な戦略的鉱物資源は、アメリカや西欧諸国のアフリカ大陸に対する政策の核心要素をなしていた。一九六〇年のカタンガ州の分離独立の際の軍事介入、七〇年代末の二度の「シャバ戦争」、アパルトヘイト時代の南アフリカ共和国に対する秘密の援助などの際、軍部や西欧の産業的安全を管理する者たちは、「喜望峰ルートを守り」、自由世界の鉱物的富が「赤」の手に落ちるをことを防ぐ、ということを共通の大義とすることができた。
  しかし、ボーキサイトの取引を除外すれば、世界的取引における非エネルギー関連の鉱物取引額は炭化水素資源の取引額に比べて依然として少ない。取引の量的伸び悩みや価格の不安定性は、特にアフリカ大陸に打撃を与えた。
  コンゴでは、大会社によってずっと以前に設立された鉱山企業は(例えば上カタンガ鉱物ユニオンは一九〇六年以来、銅を採掘し、一九二四年以降はコバルトを採掘している)、国有化でこの企業がモブツ大統領の側近の利益の源泉にされてしまった後は、投資不足に悩んだ。一九八八年から一九九三年の間に、銅の生産は四六万五〇〇〇dから四万八四〇〇dに低下した。同期間に亜鉛の生産は、四万七三〇〇dから四二〇〇dに低下し、コバルトの生産は一万dから二四〇〇dに低下した。ダイヤモンドだけが例外で、生産量は一三〇〇〜一八〇〇万カラットの間で変動した。
  概算値であることが多いダイヤモンドに関する統計、「非公式」の生産と流通、輸入規制の甘い国による免税通過措置などは、実際の交易量が正確にはわからないこの部門の実態をさらに不明確にしている。密売や横流しという問題は、アフリカのダイヤモンド全体に係わる問題であるが、そうした問題はコバルト、金、銅などの鉱物にも拡大してきている。これらの鉱物は、コンゴやその他の国で略奪され、外国の売買人に売られ、他国に送られている。
  モブツ大統領は、鉱業部門の収益を独占したうえに、自国の地下の大部分を私有化した。世界市場がアフリカの鉱業生産を支える役割をほとんど果たさず、行政機関や生産企業のカードルもほとんどいないという状態が、政治的経済的危機に陥ったアフリカ全体で生じた。l
  こうして、アフリカの鉱物市場の停滞とともに、八〇年代末以降、ダイアモンド採掘権付き用地の分譲が相次いで行われたことが、新たな採掘業者の関心を刺激し、工業的生産と対抗する手工業的生産のかたちをとった非公式的経済活動を広汎化した。コングロマリットのデビアス社やアフリカ諸国家の公営輸出会社によるダイヤモンド産地の独占支配は解消され、税金や外貨管理を逃れるための密貿易が行われるようになった。
  貧困や紛争や腐敗に打ちのめされた諸国に、ダイヤモンドをめぐるこのような利益獲得の論理がもたらされたことは、その手口や市場や野心を国際的マフィアにならい、地政学的利害という観点やマネーロンダリングの観点を持つ勢力の急激な出現を容易にした。ダイヤモンドの密貿易は数百万jに及び、ダイヤモンド鉱石の売却額が、アフリカからの輸出額総体に占める位置は、石油についで第二位になっている。
  石油の場合と違って、国際的企業グループの管理を免れているダイヤモンドは、リベリアやシエラレオネ、アンゴラなどで戦争をしている勢力の欲望をかき立てている。ダイヤモンドを掘り出すアフリカの手工業者である「採鉱業者」と全世界の購買業者は、この政治的・武装的衝突を促す者であるし、共犯者でもある。これらの諸国の鉱業生産活動になんらかの支障が生ずると、傭兵やバクワンガ鉱業会社(MIBA)のような準軍隊組織が呼び寄せられる。
  国家もこうした冒険主義的組織と共同して行動している。密貿易組織の複雑な外交的取引は、アフリカ大陸の大部分をいわゆる「低密度」紛争や悲惨な内戦に巻き込むのである。

 経済活動の軍事化

(中略)コンゴ民主共和国は、経済的自由主義と民主主義的移行過程にある不安定なアフリカでの新たな鉱物開発戦略のあり方を提示している。コンゴ民主共和国は、世界のコバルト埋蔵量の三分の二、銅の十分の一、ダイヤモンドの三分の一、かなりの量の金、ウラン、マグネシウムを有している。@ql
@em=wa=モブツ元帥の友人で、国際政治に首を突っ込みつつ、大量の銅とダイヤモンドを取引していたモリス・テンプルスマンのような人物は、鉱物採掘業者の占める位置を浮き彫りにしている。彼は、アメリカの民主党出身の前大統領ジェームス・カーターに、コンゴの宝の最良の守護者がモブツ元帥であるということを納得させる術を心得ていた。実際にはモブツ元帥がその宝を盗む者であったにもかかわらず。当時CIAはアフリカ最大の事務所をキンシャサに置いていた。かつて民族主義者の首相であったパトリス・ルムンバに対して行った闘いを引き継いでいたCIAの要員は、ダイヤモンドの採掘と分離作業の際に、ダイヤモンド商人の手先となって働いた。
  このような鉱山管理方式は、この鉱業部門の破滅をもたらし、危機を全部門に拡大し、フランス政府とアメリカ政府が長期にわたって庇護していた専制体制への抵抗を生み出す誘因となった。
  一九九一年の民主主義への移行とともに、ザイールの将軍たち自身も、弾圧という自分たちの仕事に熱意を示さず、ダイヤモンド狩りに参加した。モブツの政治的・財政的後見から少しずつ脱却した将軍たちは、詐欺師や偽造人たちと利害関係を共にしていながら、あらゆる統制から免れている「砕石場の支配者」になっていった。
  旧ザイールは鉄の独裁から徐々に地方分散の私的な寡頭政治に移行していった。それは、ローラン−デジレ・カビラに指導されたコンゴ解放民主勢力連合(AFDL=コンゴ民主共和国の政権党)の前進に対抗するために必要な力を有していなかった。AFDLは、キブ州に文字通りの聖域を有していた。また、「宝石」が餓死しないための唯一の希望をもたらすものであった貧困社会の非中央集権的ザイールで、「私的利権」になりつつあった新たな鉱物経済に関与してもいた。しかし、モーリス・テンプルスマンは、アメリカ政府がウガンダのヨヴェリ・ムセベニやルワンダのポール・カガメなどの新たな指導者を用いて作りだした新たな政治サークルに反対することはできなかった。
  アンゴラの政権政党であるアンゴラ解放人民運動(MPLA)も、ダイヤモンドを豊富に埋蔵している地方のルンダ・ノルテでは、ジョナス・サビンビの抵抗に直面している。サビンビは、自分たちが採掘し、飛行機で輸出している鉱物資源のおかげで、中央政府に対する反政府党のアンゴラ統一国民連合(UNITA)の無慈悲な闘争を遂行できた。MPLAは、ローラン−デジレ・カビラのAFDLが旧ザイールの鉱物資源の豊富なシャバを制圧する際に援助せざるをえなくなった。これは、ルンダ・ノルテのダイヤモンド搬出ルートの一つを閉鎖するためであった。
  支配下においた地域の鉱物資源のおかげで、AFDLは自分たちの解放戦争に必要な武器を手に入れることができた。AFDLは、マニエマの金を採掘しているキブ州のコンゴ鉱業会社のもっとも重要な所有者でもあり、パトリス・ルムンバを殺害し、モブツ元帥を政権につける行動に参加したベルギーの軍人たちの戦友でもあるベルギーのビリー・マラン大佐などと、臨時的な、あるいは予想外の同盟を結んだりした。
  ジャン−レイモン・ブルのような人物も、そしてそうした人物の行動も、アフリカの政治的変貌をもたらした鉱物資源を巡る情勢の急変に関与している。モーリシャスで生まれたブルは、旧ザイールのデビアスの最も若い専務取締役であった。後にテキサスで大量のダイヤモンド販売を行い、一九九二年にはダイヤモンド・フィールド・リソース社を創立した。一九九六年には、取引所でニッケルとコバルトの巨大な鉱脈に値が付けられると、彼はこの会社をカナダのインコ社に売却した。一九九五年には彼は、アメリカン・ミネラル・フィールド社を創立した。公表されたこの会社の目的は、アメリカの投資家がアフリカの地下資源の市場化に参加できるようにすることであった。
  (中略)結局、新たなタイプの鉱業グループは、デビアス社のようなコングロマリットと協定し、カビラやムセベニなどの新たな政治的指導者とともに歩む北アメリカ、とりわけバンクーバーやトロントの取引所に従属した金融組織である。それは近代的な小火器などの優秀な兵器を装備した傭兵の助けを借りてもいる。アフリカの鉱山採掘業者の中には、少数の小規模優良企業(資本金は少ないが、取引所では将来有望であり、技術的にも挑戦を行っている企業)も存在する。鉱物資源地帯の争奪の際には、経済活動の軍事化も多く見られる。
  有名な傭兵組織である「エクゼキューティブ・アウトカム」の周りに結集した傭兵たちは、銃に依拠した私的政治への回帰をもっともよく体現している。この傭兵たちは、反乱軍と闘うために、一九九三年にはアンゴラに介入し、一九九七年にはシエラ・レオネに介入した。反乱軍が鉱物資源を脅かす場合には、特に積極的に介入するのである。この準軍隊的企業の旗手であるアンソニー・バッキンガムやエーベン・バーロウなどの擁する傭兵が駐留しているのは一国だけではない。彼らの戦争手当は、鉱脈の採掘権によって支払われる。この権利は、ブランチ・エネジーやブランチ・マイニング・ヘリテージなどの彼らの掘削専門会社に委ねられる。
  ヨヴェリ・ムセベニ大統領の異母兄弟であるサリム・サレーは、ウガンダのキデポ国立公園内の金鉱の共同採掘者であるブランチ・マイニングの経営に参加している。サレーは、金鉱の安全を保障し、ウガンダの反乱勢力に対する軍事活動を行っているサラセン・ウガンダ社の経営権の四五%を保持している。こうして、紛争の切迫度に応じて、鉱山と安全保障、ダイヤモンドとボーキサイト、バンクーバーの取引所とバンコクやテルアビブの投資家の利益などの関係が織り成されるのである。ここにはシエラ・レオネからウガンダまでの戦略的鉱物に殺到する中心人物のほとんどが登場する。これらの人物の中には、マリやニジェールなどのサハラ地域に利権を有している者もいる。
  フランス語圏ではフランス系の新たなタイプの採掘業者は存在しないので、鉱業分野におけるフランスのプレゼンスの軸をなすのはいまだにMIBAである。MIBAは、コンゴ民主共和国のダイヤモンドの大工業的採掘を行っている大企業グループであり、コンゴの共済農業銀行が主要な株主になっている。最初はベルギーの金融グループが、次にフランスの金融グループが支配権を掌握した。
  民主共和国は、ジャン−レイモン・ブルのグループのような、ジュニア・パートナーの集団を「戦友」として有していたが、今日再び「確実な価値」をもつ鉱業に目を向けている。一九九七年十二月末、ローラン−デジレ・カビラはアメリカン・ミネラル・フィールド・インターナショナル(AMFI)やテンケ・フングリウムの銅とコバルトの埋蔵地に関心を持ったスエーデンの財界の大物であるルンディンとの巨大なプロジェクト契約をキャンセルした。この穴を埋めるために、ジェカミン社は、アングロ−アメリカン社やビリトン社、Iscor社、鉱物連盟、中国の非鉄金属企業などと、ジェカミン社の銅とコバルトの五分の四を埋蔵する西コルベジの開発のためのコンソーシアムを創立することになっている。
  「新アフリカ」の鉱物部門における大国の比重の大きさは次のような点に見られる。すなわち、準軍事組織を含む中小の企業は、アフリカの鉱物資源に係わる政治的リスクを管理できたとしても、財政的負担や巨大で複雑な鉱脈に関する技術的リスクを乗り越えることはできない。またアフリカ諸国政府が鉱業面の規制緩和の門を開くにあたっての一契機となる民営化は、今日、中小優良企業を好まない世界銀行の密接な管理のもとで行われている。最後にアメリカの鉱業権益は、歴史的・金融的・政治的理由から不信の目で見られている。
  だがリベリアのニンバ山の鉄やブラザビル−コンゴのマグネシウムなどの鉱物資源の活用によって新たな展望が開かれることを望むアフリカ諸国家にとって、略奪を免れ、荒廃した経済の最後の富を支配するための内戦の連鎖から抜け出す余地はあまりない。
(おわり)

翻訳資料

 翻訳資料-2

 新興市場の金融システムの修復と再建

98年9月9日 サマーズ米財務副長官

村上和幸訳 

【解説】

 八月三十一日、ニューヨーク株式相場はついに八〇〇〇jを割り、以後乱高下しつつも暴落を続けている。米国のヘッジフォンド各社の巨額の損失も相次いで表面化した。
  本資料は、こうした事態のさなかの九月九日に、米国連邦預金保険機構主催の政策当局者や経済専門家を集めた会議で行われた講演である。ここでサマーズは、まずアジア危機の世界的な大きさ、深刻さ、その解決困難性を強調している。そして、その労働者人民への過酷な影響を認識しながらも、なおかつ世界基準=米帝の基準へのアジア経済の統合を強硬に要求している。アジアの地場の金融機関の帝国主義への全面的情報開示=無条件の全面従属をはじめとして、いっそうのアジア支配の自由化を求めているのである。
  講演の結論部分では、日本の銀行システムの問題こそすべての軸だと主張している。世界大恐慌の現実化の情勢の中で、アジア勢力圏化をめぐる日米争闘戦は、一挙に激化している。侵略戦争・帝国主義戦争が急接近しているのである。
  反帝・反スタ世界革命で、この戦争への道を断ち切ろう。

………………………………………

【新興市場の金融システムの修復と再建】

 一年あまり前アジアで始まった危機は、ロシアなどにも広がり、世界中の市場に懸念をよびおこした。そのためわれわれは、新たな難局にある。ただ、次のことは確実である。つまり、困難に陥った金融システムの修復、および将来のための健全な金融システムの構築は、ともにこの難局を安全に乗り切るために不可欠なのである。
  ここで私は、これらの課題を一つひとつ論じ、新興市場経済諸国の金融システムの強化および現在のアジアの金融部門の深刻な危機への果敢な取り組みに向けた一般原則について述べたい。しかしまず初めに、若干のことを全般的に確認しておこう。

T 金融の中軸性および歴史の教訓

 今週のワシントン・ポストでは、融資の断絶と金融崩壊は、収益や損失の問題よりはるかに深刻な人道的影響をもたらすと論じられている。今日韓国では、十一歳の子が物乞いをするために学校をやめさせられ、また三世代続いた農家が破産している。しかし、かりにこうした国々がこの危機から誤った教訓を汲み取るなら、つまり、「世界システムからの撤退が正しく、機能的な市場経済の構築は誤りだ」と考えるようになるなら、もっと大きな破局になってしまう。残念なことに、この懸念には、根拠がなくもない。金融の誕生以来、金融の混乱も存在した。しかし、国際金融の一員としての行動−−義務と契約を守り、例外的事態において必要なら債権者と協力して対処する−−は、世界共同体のメンバーとしてその利益と支援を得るために不可欠である。改革・協力のかわりに一国的な一方的措置をとる諸国は、世界システムを傷つけ、世界市場との結合を断ち切り、なによりも自国民の将来を害する。
  したがって、何が基本的な目標であるべきか、何がその手段となるかは明らかである。市場原理の方向への前進にもとづいた発展途上諸国の急速な成長の継続、そして世界経済へのさらに緊密な統合こそ、われわれすべてが望んでいる。世界中の資本の移動を止めることではなく、この資本が効率的に流れそれが持続するような金融システムを構築することである。
  近年の金融部門の問題からまぬがれている国はない。これに対処する最善の方法を見出す知恵を独占している国もない。今回の危機発生以前でも、IMF加盟諸国の三分の二以上の先進国も途上国もが、この十五年間に重大な銀行問題に直面し、経済と納税者に多大な負担となってきた。
  スペインは、銀行問題の解決のために結局GDPの一五%を支出した。チリでは、二〇%弱である。米国のS&L〔貯蓄金融機関〕危機では、納税者に結局GDPの約三%の負担をかけた。監督・規制における誤りが、危機発生の一因となり、危機を長引かせ、負担額を膨れ上がらせたのである。
  しかし、これらは教訓となった。最近の事態で明らかなことは、これらの教訓を個々の国のレベルでも国際的レベルでも適用することが必要だということである。
  かなり前から米国は、工業諸国および発展途上国の政府の間で、国際金融の仕組みについての密接な討議を提唱する先頭に立っている。この討議は、四月に始まり、リヨン・サミットで手はずが決められたG7の取り組みに支えられている。この討議は、多岐にわたる建設的なもので、改革の可能性がある多数の領域をカバーしていくことになる。個々の案件は、国際的な作業部会の結論を待って練り上げられる。さてここで、まず危機を回避し、また危機発生時にはそれを効果的に解決するための、国内金融システム強化についての全般的な原則をざっとみていこう。

U 国内金融システム強化についての原則

  金融危機の危険を少なくするには、まず国際的な資本の流れの量を減らすのではなく、その質を上げることである。アジアのこの数ヵ月間の事態は(その多くは過去に他の諸国でもおこったが)インセンティブが歪められ、国内的規制・監督が不十分である時に資本の出入りを開放することが危険だということを示している。良好な経済的機会を求めて資本が流入することは良いことである。しかし、政府の保証を求めて、あるいは標準的なリスクを免れていると思い込んで資本が流入することは、まったく別問題である。
  新興市場諸国の課題は、資本自由化のペースを落すことというよりも、資本が最も高い収益をあげる用途に流れるような環境を作るペースを上げることである。つまり、金融的な不均衡が生じる確率を下げるように、またその不均衡が生じた場合にはその影響を封じ込めるように、政府が法律や規則によって市場を支援していくことである。
  経験、特に昨年の経験によって、強力で効果的な銀行システムを作るための多くの不可欠の要素が明らかになっている。
  それらの要素の第一は、強力な監督体制である。つまり、参入条件の厳格化、資本・流動性・通貨総与信額についての基準の引締め、(縁故者への貸付け)の制限、所得の認定・分類・規定の基準の厳密化、報告・情報開示の義務、リスクをベースにした救済の仕組み、連結会社を含めた監査、および破綻機関への対処の有効な枠組みである。
  アジア危機は巨額の(縁故者への貸付け)の危険を米国にもたらした。その多くは暗黙のまたは明示の政府保証の約束をもとにして行われた、不透明なものである。最近、多くの人々がモラル・ハザード〔自己責任意識の喪失〕の問題を指摘している。こうした諸国の中での資本の不適切な投下におけるモラル・ハザード問題について、これまであまりにも軽く扱われてきたのである。
  第二は、規則と基準を、十分な銀行検査システムによって貫徹しなければならない。監督のためには、それらを順守させる力を持った独立した銀行監視当局が必要である。リスク資本比率が優良なだけでは不十分である。銀行検査のプロセスは、貸出しの質と内部審査の問題に焦点をあてて、現場で、詳細に、規則的に、完全に行うべきである。たとえば帳簿が整っていることは結構である。しかし、企業が、返済力を生みだせないような国内資産にもとづいて外貨借入れの返済の契約をしているなら、結構な帳簿も何にもならない。
  危機発生の直後からIMFは、銀行監督および信用管理の明らかな失敗に対処するために、債権の分類をもっと実効性があるものにすることや他の諸措置のために、タイ、韓国、インドネシアとともに作業してきた。危機発生にいたるまで、これらの国の金融機関の債権の分類や貸出しの実務の実像を知ることは、市場参加者にとって=cd=ba52=cd=ba52監督者にとってさえ=cd=ba52=cd=ba52事実上不可能であった。個々の金融機関のレベルでも、また監督機関全般にわたって実効性あるリスク管理が全般的に欠如していたことが、アジア危機において過剰に外貨負債が増大した決定的な要因である。そしてこれが、今後の国際的な改革作業の中心となる。
  しかし、この危機の深さをみるなら、第三の要素が必要になる。つまり、個々の金融機関や企業における真の信用文化である。それは結局、法の支配にもとづくものである。それには特に、司法の独立や効果的な破産制度などが重要である。公衆が、国内の金融機関の安全性と廉潔性を信頼するためには、汚職やその他の違法行為が罰せられずにすむようなことがあってはならない。
  この危機でわかったことは、これらの国の国内経済の急速な発展とその世界金融市場への密接な統合に、監督と強力な金融インフラが完全には追いつかなかったということである。すでにベイスル委員会は、効果的な銀行監督についての中心的な原則を練り上げている。これは、各国レベルで監督を改善するための青写真になりうるものである。証券監督者国際機構(IOSCO)も、同様なプロジェクトに取り組んでいる。アジアの事態によって、コーポレート・ガバナンス〔企業統治〕の分野での中心的な原則の練り上げなども焦点になってきている。
  しかし、共通の基準や原則は、各国や諸機関が実行しなければ役に立たない。実際、言葉と行為の落差が大きいことはよくあることである。危機をタイムリーに予防し、危機の連鎖を防ぐための地球規模での共同の取り組みには、インセンティブ・メカニズムの強化についての創造的な思考が必要である。とりわけ市場自身の規律効果を強化するためには、情報開示義務の拡大が重要である。
  国際的な金融機関のあいだでのこの分野での協力を改善し、金融部門の能力を高めるための最近の取り組みについても、ここで検討しておこう。
  これに関して強調すべきことは、金融部門への外資参入が、極めて有意義な役割をはたしうるということである。金融サービスに関する昨年のWTOの協定は、参加諸国を開放に踏み切らせ、外国の金融サービス提供者=cd=ba52=cd=ba52および金融サービス提供者がもたらすすべての資本、専門知識、競争圧力=cd=ba52=cd=ba52を後押しするもので、歴史的な一歩といえる。米国においては、州を超えた銀行業が、より多様性に富み、より安定性があることにかなり以前から注目されていた。これと同じように、金融の国際化の拡大は、資本のコストを下げると同時にリスクも減らすことができるのである。
  メキシコ・アルゼンチン両国は、この教訓の適用に成功した。一九九五年のメキシコ・ペソ危機の直後から、外資の金融部門への広範な参入が促されたのである。韓国とタイの改革プログラムには、国内経済の大幅な自由化に加えて、金融部門の根本的な改革が含まれていて、これらの措置を支えるものとして、外資の競争や参入が期待されている。

V 金融部門の問題を解決するための原則

 ここまで私は、健全で持続性のある銀行システムを構築するための基本的要素について考察してきた。しかし、いくつかの国が現在直面している課題は、急性的な経済危機における極めて急迫した金融システムを修復することである。しかし周知のように、金融危機においては他の危機と違って、その原因になったことを単に止めるだけでは解決に向かわないということがある。むしろ逆であることが多いのである。アジア危機の解決のためには、その危機をもたらしたものをよみがえらせる必要がある。
  簡単にいえば、この矛盾は次のようなものである。アジア諸国の経済は、企業部門への貸付けの流れが再開しなければ回復しない。しかし貸付け業務は、銀行の資本構成を変えること、そして企業の債務負担を査定し軽減することなしには、再開されない。だがまた、銀行・企業・規制者の活動の根本的変更なしに単純に信用供与を再開することは、過去と同じ誤りを繰り返す危険を冒すことになる。企業の負債/自己資本比率と不良債権の問題が発生しつづける。
  わが国も、さいわい規模は違ったが、かつてS&L危機の際に同じ矛盾に直面した。公平に言っておけば、わが国の当局もこの危機の初めには、クレジット・クランチ〔金融の極度のひっ迫〕の恐れを過大に重視し、銀行の適切な監督と規制の問題を過小に評価していた。その結果、内在的な問題がさらに膨らんでしまったわけである。ただ、数年後にクレジット・クランチ問題の兆候は、たしかに発生したが。
  タイ・韓国・インドネシアは、それぞれ銀行部門の問題に取り組み、銀行や金融会社を閉鎖したり、それらに介入したりしてきている。この三国では、問題は、当初予想されたよりはるかに大きく、複雑であることが明らかになってきた=cd=ba52=cd=ba52成長への影響も、きわめて厳しいものである。リストラにかかる費用についての政府の見積りは、インドネシアの場合は二〇〇億j、韓国の場合は一〇〇〇億jにのぼる。
  アジア諸国と企業が危機を脱し、その金融部門が再び確固たる地歩を占めることを助けるための正しい戦略に、国際社会は巨大な利害をもっている。課題は膨大である。しかし、昨年の取り組みは、重要な教訓をもたらした。
  第一に、システムの危機を解決するための戦略は、金融部門の個別的な問題への対処に必要なものとはまったく異なっているということである。「強力な」企業さえ水面下に没している時に、ケース・バイ・ケースのアプローチをすることは難しくなっている。
  第二に、システムとしての金融危機の環境の中では、金融部門のリストラは、企業のリストラと切り離して行うことは不可能である。だから、先月タイがこの論理を認めて、大きな資本構成の変更計画を発表したことは、歓迎すべき動きといえる。
  第三に、政府は、非常に巨額の公的資金を積極的に支出すべきである。財政的な懸念があることは理解できる。しかし歴史が示しているように、巨額の公的支出を先送りにして遅らせる政府は、結局は危機を長引かせ、危機を拡大する。
  第四に、危機にある銀行システムに対する流動性支援の継続は、その国にそれを効果的に遂行する金融組織が無い場合には、極度に困難である。危機に陥った多くの国では、たとえば、発達した国債市場がなく、そのため、公開市場操作の余地が狭くなっている。あるいは不可能になっている。ここでも、新たな創造的な解決が求められている。
  第五に、不良資産の処理のための効果的な戦略を見いだすことに精力を注ぐ必要がある。政府は、銀行の貸借対照表から不良資産を除き、市場がクリアになるように不良資産を処理するべきである。これまでこうした作業は、アジアでは、償還請求権を有する多数の債権者によって著しく阻害されてきた。危機に陥った諸国の立法府のなかには、この問題に取り組むことを明らかにしたものもいくつかあるが、ボトルネックを突破するには、もっと包括的な変革(そしてもっと簡便な情報開示手続き)が必要である。
  そして第六に、こうした諸国は、事前的にも事後的にも収支が合うような預金保険の仕組みを構築する必要がある。そして、銀行がリストラされる場合に、信頼性の問題を起こすことなくそれを行うべきである。むろん、安定を損ない、財政に過大な負担をかける安直な支出を避けることは言うまでもない。一方で広範なヤミの保証が危機の大きな原因だったと信じられているが、信頼しうる明快な預金保証の欠如のために銀行に見境のない圧力がかかって危機を促進したこともあったのである。
  この会議が取り組んでいる課題は、地球規模の政策担当者が直面する、どんな困難な時期におけるどんな課題にも匹敵する重要なものである。この難問の解答には、多数の要素が含まれるが、銀行部門の諸問題−−特に日本の諸問題−−への効果的な対処がきわめて重要な部分となっている。しかし、将来、金融市場が統合されていけば、その果実はいっそう大きなものとなる。