COMMUNE 1998/05/01(No.272 p48)

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05月号 (1998年05月01日発行)No.272号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉  Q&A 新ガイドライン

●翻訳資料  FRBグリーンスパン議長の通貨政策報告
98年2月25日 米下院銀行金融委員会での証言

    イラク人民を殺すな

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翻訳資料

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 FRBグリーンスパン議長の通貨政策報告

98年2月25日 米下院銀行金融委員会での証言

  松永 洋訳 

 【解説】

 米国経済は、現在、実に特異なバランスの上に立っている。
  長年の経常収支赤字の蓄積で、八五年以来債務国に転落し、すでに九五年には、七千七百億j以上の対外債務をかかえるにいたっている。同年の財・サービス輸出七千九百億jとほぼ等しい借金である。実質上、アメリカはすでに破産している。
  だが、戦後帝国主義世界体制の基軸国アメリカの破産=ドルの破産は即、世界経済・世界体制の大分裂=大恐慌と戦争になる。そこで、ある種の恐怖のバランスが成立し、アメリカ経済を一時的に延命させているのである。
  アジア発・日本発の恐慌がすでに開始されている。だがそれも、現在の段階では、恐慌が先行的に始まった諸国から逃避した資金が、アメリカの国債・株式の相場を押し上げ、バブルを持続させる力として働いている。だから、雪だるま式に借金を膨張させつつ、見かけ上の「好景気」に浮かれることもできるのである。アジア・日本の恐慌の深まりはいずれ、アメリカからの資金引き上げを引き起こす。
  また、現在の米経済の唯一の成長部門=情報通信産業でも、すでに九八年第一四半期には、インテル、モトローラなどがついに減益になっている。
  資本の利潤確保のための賃金引下げ・不安定雇用化・社会保障破壊・社会基盤と家族の破壊に苦しめられてきたアメリカの労働者階級は、大規模な反乱を開始している。
  本資料は、このような経済情勢のなかでのFRB議長グリーンスパンの証言である。彼は、かつては米経済のバブル崩壊の危機を警告してきたが、昨年夏から、好況継続論・楽観論に転じた。崩壊が現実に切迫してきたたからこそ、通貨当局者の立場での発言でその引き金を引くことを恐れざるをえないのである。この経過を踏まえて、この資料を読んでほしい。

 【〔 〕内は訳者の補足・注〕

……………………………………

【グリーンスパン報告】

 ●九七年のアメリカ経済

 九七年も、米経済は模範的業績をあげた。どの四半期においても、実質GDPは年率四%近く成長した。過去十年間で最高である。この高い生産のために、全国で約三百万人が新たに雇用され、失業率が4[ 四分の三] %に下がった。この低い水準は、六〇年代末以来である。工場の稼働率もあがり、工業生産は、5[ 四分の三] %増大した。
  これらの利益は広く配分された。時間当たり賃金・給与は約4%上昇し、個人所得は顕著に上昇した。過去の例では、賃金相場の急上昇は、主に財・サービス価格の急上昇を埋め合わせるものであることが多かったが、今回はそれと違い、購買力の実質増を反映しているのである。九七年一年間の消費者物価上昇率は1[ 四分の三] %で、前年より1〓ポイント低下した。食料と燃料の価格変動が、この低下に寄与している。企業は、このように実質賃金を上昇させ、しかも利潤も増加させている。九七年の利潤の集計はまだ出ていないが、企業の純益率が、六〇年代以来の大幅なものになっていることは、ほぼ確実である。このような利潤の健全な増大と今後のいっそうの増大の見通しが、株式相場を支え、主要な株価指標のほとんどが、九七年を通じて二〇%以上も上昇したのである。
  労働者と企業の実質所得の強力な伸びは、米経済がインフレをおこしていないこととけっして無関係ではない。物価水準の変動が全般的に小さいと、家計も企業も将来の計画を確実に立てられる。危険が少ないと感じられれば、投資が促進される。インフレ率が低いと、コストを抑えねばならなくなり、生産性強化の努力が促される。生産性こそ、生活水準上昇の最終的源泉である。
  経済が強力であることが、下院と政府による総合連邦予算の均衡回復の仕事を助けたのである。この均衡点を越えて大幅な黒字を生み出すことこそ、わが国の貯蓄を増大させるもっとも近く確実な道である。そして貯蓄増大は、実質長期利子率を低下させ、米企業と労働者が世界市場での競争に勝つのに必要な近代的設備の購入を促進する。財政均衡は、部分的に、いわば先取りの形で、すでに利益をもたらしている。昨年、長期国債の利回りは低下した。この原因の一部は、民間の少量の貯蓄を連邦政府と取り合っていた事態が減少したことである。しかしながら、今後の十年で総人口のうちの退職者の比率が恐ろしく変わるのであり、連邦福祉歳出へのその影響にさらに対処していかなければならない。
  コンピュータと通信の劇的進歩は、以上のような良好な動向をもたらした主要な力であろう。この技術革新は、わが国のハイテク産業内の激しい競争とあいまって、この新技術を使った資本財を年に二桁も値下げすることになった。実際、二、三年前には最先端技術と思われていた製品が、普及し、安価になり、「日用品」同然になっている。
  このプロセスで決定的なことは、米国の金融市場の効率性の急速な高まりである。これは、ニュー・テクノロジーと数年来の規制緩和の産物である。新しいアイデアを実現するプロジェクトに、資本はほとんど摩擦なしに流入するようになっている。シリコンバレーは、アメリカの創造性の賜物であるとともに、ダイナミックな企業家へのベンチャー・キャピタルの供給を増大させる金融システムの能力の成果でもある。
  ハイテクによって、アメリカの企業は、輸送費を削減し、生産と在庫管理を効率化し、市場参入の機会を拡大してきた。労働市場ひっ迫によるコスト上昇の恐れが、効率化への刺激になった。
  しかし、生産性増大より、財・サービスへの需要の増大のほうがさらに速い。そのため雇用者は、労働年齢人口及び新規移民人口の増加以上に雇用を増加させなければならなくなった。このギャップのため、公式の失業者数及び求職活動を積極的には行っていないが就職したいと思っている者の数が減少してきた。この二つのグループの人数は、この四年間、年に約百万人の割合で減少した。九七年十二月、両者の合計は、季節調整済の数字で、約百五十万人、労働年齢人口の六%にまで低下した。これは、この細目データが得られるようになった七〇年以来もっとも低い率である。わが国の十二の準備銀行に入るさまざまなエピソード的情報からも、労働市場ひっ迫は実証されている。
  最近の賃金上昇は、一部は労働市場ひっ迫、一部は生産性の上昇によるものであろう。現在、この両者の寄与の割合がどの程度かは不明だが、需要増大の鈍化か生産性のいっそうの増大がないかぎり、新たに雇用して利潤をあげうる労働者が徐々に枯渇していくことは明らかである。
  新規労働者需要が新規労働者供給を上回りつづけると、賃金所得の上昇は生産性上昇を上回り、純益を圧迫し、結局はインフレ上昇を招く。インフレが著しく上昇すれば、経済成長を阻害し、近年の労働市場の進展をほとんど逆転させてしまう。

 ●九七年の通貨政策

 通貨政策は、先制的に行うときにもっとも効果があることは、歴史の教訓である。連邦準備制度の政策手段と〔家計・企業の〕支出の間には時間差があり、支出とインフレの間にも時間差がある。したがって、政策行動が物価上昇が始まるまで遅れれば、物価上昇の加速とそれに伴う経済の不安定化を防ぐには手遅れとなる。先制的に政策決定するには、台頭するインフレ圧力の広がりと、それが現実のインフレに反映する時とその程度の判断が鍵である。昨年は、ほぼ一年を通して経営諸資源のひっ迫がきわめて厳しく、連邦公開市場委員会(FOMC)〔注1〕としては通貨政策の緩和ではなく、引締めの方向に動くべき状況であった。たしかに昨年三月には、フェデラル・ファンド・レート(FFレート)〔注2〕を〓ポイント引き上げ、5〓%にした。
だが、夏から秋にかけては、労働市場がさらにひっ迫したにもかかわらず、FFレートは引き上げなかった。労働市場が過熱し、労働報酬は上昇したが、ドル為替相場上昇、国際商品価格の下落、そして生産性上昇の加速によってインフレ率が下がったのである。このような要因のために、消費者物価指数の上昇速度は著しく下がり、九七年には約〓%にまでなった。サービス価格の上昇率はそれほどは低下しなかったが、約3%になった。ただ、両者の差は、賃金上昇によるものというより、ほとんど金融・不動産サービス部門の一時的な価格上昇と取引量増大によるものである。
  名目FFレートは、三月以降変わらなかった。だが、インフレ率の大幅下落の見通しによって、実質FFレート・・名目FFレートからインフレ期待値を引いたもの・・が、企業の重要な通貨政策上の基準になった。インフレ期待の低下によって実質FFレートは上昇したことを、アナリストたちは「受動的ひっ迫」と呼んだ。FOMCの決議によらずとも、通貨政策は適切に引き締められたのである。この意味で引締めは受動的であったのだが、それはけっして無意識的に行われたものではない。FOMCメンバーは、実質FFレートの年間を通じた上昇傾向及びドル為替相場の上昇を、良いことだと考えていた。それによる引締めは、堅調な支出や労働力ひっ迫という状況の中では、適切だと見られていたのである。また、ほとんどすべての事実から見て、金融市場の資金供給力はかなり豊富であり、実際、株価上昇から判断しても、金融市場は内需を加速させている状態だった。

 ●九八年の見通し

 本年冒頭まで内需が大きな勢いを保ってきたことは、疑う余地がない。生産と雇用は、この数カ月間、強力な上昇基調にある。家計支出は、所得・資産の増加及び中期・長期金利の低下で積極的になっているので、増大が続くであろう。企業は、比較的好条件で資金が調達できるので、新たな資本財に投資して効率化し、高利潤を得ようとするであろう。この堅調な支出はそれ自体、労働市場と物価への圧力となる。とはいえ最近、米国で生産される財・サービスへの総支出は、あまり確実なものではなくなっている。西太平洋の嵐が米国に向かってきているからである。
  ここは、アジアの金融市場の問題で何が起こったのか、なぜその結果がこれほどひどくなったのかを詳細に討議する場ではない。ここでは、アジア恐慌が米国の需要とインフレに与えうる影響に絞って論じよう。 恐慌で外貨の資金繰りが厳しい多くのアジア地域の経済には、輸入を急激に削減するしか選択肢はない。金融システムと経済の崩壊によって、米国の財・サービス輸出に対する需要もさらに減少する。米国の輸出は、ドル高によっても減る。そのため、米国は、純輸出が減少し、総生産高の足を相当引っ張ることを覚悟しなければならない。当面こうした力は、米企業が需要軟化を見越して、在庫を積み増さなくなることによって、さらに強まる可能性がある。
  このようなアジアの制動的な力は、米国内で発生しているインフレ圧力を直接に相殺するものにもなりうる。非石油輸入品のドル価格は、この数カ月でさらに下落していくであろう。国内の生産者は、輸入品価格の下落でシェアを失うことを恐れ、値上げに慎重になる。アジア経済の活動低下で原材料の需要が少なくなり、世界の商品のドル表示価格は抑制される。しかしながら、輸入商品価格は、その下落が継続するかぎりでのみ米国のインフレを抑制するのである。
  決定的問題は、アジアの混乱による抑制が、国内の労働市場のひっ迫と支出の大きさからくるインフレ傾向を止めるのに十分であるか否かである。海外の調整局面の深さは、アジア経済の金融部門の弱さの程度及び金融・非金融部門の構造的非効率性の是正のスピードにかかっている。もしも、われわれが考えているとおりに、アジアからくる抑制力が米国の増大する労働年齢にある労働者の雇用に十分なだけのものであるなら、労働市場の著しいひっ迫が継続しつつ、インフレの進行は遅らされ、非常にゆるやかなものとなり、容易に後戻りしうるものとなるであろう。しかし、大変な事態になる他の二つの可能性も否定できない。一つは、アジアなどの動向によっては国内支出の勢いが相殺できない場合である。あと一つには、アジアからの力がきわめて強力な障害となって輸出量と輸入品価格を引下げ、経済活動と物価を必要以上に弱める可能性にも警戒すべきである。
  こうした状況の中で、通貨政策の立案者であるFRBの理事と連邦準備銀行〔連銀〕の総裁の今年の米経済の予測はいつになく慎重である。この二月の第一週の情報によれば、彼らの多くはゆるやかな成長を見込んでいる。実質GDPの成長率は、九八年を通してほぼ2〜2[ 四分の三] になると見積もられている。実質GDPが堅調だとすれば、失業率は、過去半年間の低い水準に止まる。インフレは、四半期ごとの消費者物価指数のパーセンテージの推移で見ると、1[四分の三] から2〓だと見込まれる。

 ●借入・通貨総量の水準

 FOMCは、昨年七月に選定した九八年の通貨総量の伸びの暫定目標域を再確認した。これは、物価がほぼ安定しているという条件のもとで、成長率をカバーするものである。この目標域は、九七年実績値と同一で、M2は1〜5%、M3は2〜6%である。FOMCは、今年の国内非金融部門の借入の目標域3〜7%についても再確認した。九〇年代前半、通貨供給量〔注3〕の増大速度は、かつてのような所得及び金利との連動から乖離した。その原因の一部は、入手が容易化しまた収益が普通預金より相当大きい債券と株式信託に預金が移行したことである。こうして通貨供給量の動きが変則的になったため、経済の推移を示す指標としてのM2の有用性へのアナリストの信頼は大きく損なわれた。しかし近年、M2の増大速度とM2資産を保有するコストとの歴史的繋がりが再び明らかになる兆しを見せている。

 ●見通しの不確実性

 現状は、強力に逆方向に働くさまざまな力の均衡の結果であり、今後数カ月間の成り行きは簡単には分からない。そこで私は、すでに述べたアジアの動向の他に、いくつかの経済領域についての懸念を指摘するにとどめたい。
  たしかに貸手は、きわめて小さな利幅で大量の貸出を行い、この数年の支出を大きく支えてきた。株式投資家も、高い利得を期待し、リスクへの保障をあまり求めずに株に値を付け、貢献してきた。こうしたことは、経済成長が八年目を迎えようとしている現在、歴史的経験とは逆にますます良好になっている経済環境の中では、理解できる。企業は義務を果して高い収益をあげ、きわめて健全な財務状態になっている。
  だがしかし、返済のリスクについてあまりに楽観的であることには、懸念すべきである。景気循環のこの局面に銀行が拡張する貸出が圧倒的に不良債権化するという事態は、あまりに何度も起こったことなのである。FRBは銀行の監督者として、健全な承認基準に基づいて貸出するよう全力で促している。
  第二の懸念は、新たなハイテク国際金融システムにおけるわが国の役割の継続についてである。アジア経済の安定化と必要な構造改革の促進のために、わが国の主要な貿易相手国及び国際金融機関とともに、世界貿易拡大の継続と世界の経済・金融の安定化を推進しなければならない。仮に、われわれが世界のリーダーの役割を放棄し、保護主義的な政策に陥るならば、われわれ自身の経済成長の源泉を脅かすことになる。
  第三は、インフレの見通しについての楽観論である。生産性を改善するテクノロジー、財政赤字の急速な減少、抑制的な通貨政策…によって、物価はほぼ安定化した。この原因の一部は、政策が良かったことであるが、他は、幸運にも新たなテクノロジーが台頭し、輸入品価格が好都合に推移したことである。しかし歴史が教えるように、幸運が無限に続くと考えるのは賢明でない。

注1 連邦準備制度の公開市場操作機関。
注2 銀行が連銀に預ける準備金の銀行相互の融通の際の金利。政策的に設定された目標金利にニューヨーク連銀の介入で誘導される。
注3 銀行以外の法人・個人と地方公共団体が保有する「通貨」の総量のこと。M1では「通貨」を、現金+要求支払預金(普通預金・トラベラーズチェックや他の小切手にしうる預金など等)とする。M2=M1+定期性預金等。M3=M2+貯蓄勘定(信託銀行が預かる金銭信託・貸付信託等)
  (おわり)