COMMUNE 1998/04/01(No.271 p48)

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04月号 (1998年04月01日発行)No.271号

定価 315円(本体価格300円+税)


〈特集〉 日米発世界恐慌の始まり

●翻訳資料 ドイツ改憲=盗聴拡大で出版の自由を圧殺
『シュピーゲル』98年2月6日号 社説と特集記事

    東富士・北富士で演習に痛打

三里塚ドキュメント(1月) 内外情勢(1月)

日誌(11-12月)

翻訳資料

 翻訳資料

●ドイツ改憲=盗聴拡大で出版の自由を圧殺

  坂田 充訳 

『シュピーゲル』98年2月6日号 社説と特集記事

【解説】

 二月六日、ドイツ連邦参議院は憲法第一三条の改悪を可決し、住居不可侵原則を破壊した。現行の盗聴法を拡張し、当局が住居、労組事務所などに侵入し、盗聴器をしかけるための改悪だ。
  刑事訴訟法の施行規則改定によるジャーナリスト・弁護士・医師への盗聴の拡大は、一月に連邦議会(衆院)で可決されたが、その後の反対運動の高まりで、連邦参議院での可決は阻止された。この盗聴範囲の問題は、三月二日からの両院協議会を経て決定されることになる。
  CDU/CSU(キリスト教民主同盟=社会同盟)とFDP(自由民主党)の連立与党系だけでなく、この翻訳資料の本文中で改憲に反対することが期待されているブレーメンの社会民主党市長シェルフも含め、野党SPD(社会民主党)系の州が賛成票を投じ“改憲に必要な三分の二”が確保された。決議後、シェルフは「この決議で市民に悪影響が出ないようSPDは力をつくす」と述べた。だが土壇場で改憲に賛成した裏切りの罪は、こんな空言でごまかせない。(日本社会党の社民党への変更は、その名称も実践も、ドイツ社民党をモデルにしている)
  この翻訳資料は、この歴史的改憲を前にしたシュピーゲル誌の社説と特集記事である。商業誌としての階級的限界はもちろんあるが、シュピーゲル自身の体験にふまえてジャーナリズムへの警察権力のすさまじい弾圧の実態とそれへの記者たちの日常的抵抗が生々しく伝えられている。
  本誌ニューズ&レビューとあわせて検討し、この改憲が、戦争と大失業の時代、国内階級闘争の大爆発が開始されている情勢の中での独帝の凶暴な治安国家化であることを読み取ってほしい。
  日帝も、戦争と大失業攻撃の重大な一環として、今国会での組織的犯罪対策法成立を狙っている。日帝はこの法案を米帝のRICO法・盗聴法【本誌昨年十一月号】および独帝の盗聴法を学んで作ったのだ。われわれ労働者人民も、日帝に勝利するために、米独の経験を学んでいこう。
  現在の電子通信体系は、きわめて盗聴しやすくなっている。ISDN(総合デジタル通信網)を通した電話・ファックス・Eメール等は、その場や電話局内に盗聴器を付けなくても、別の所のISDN回線にコンピュータを接続すれば盗聴できる。革命党を先頭に、闘う人民すべてが警察権力の非合法な盗聴・盗撮に対して、常に警戒体制を築かねばならない。盗聴を実地に打ち破ることと、盗聴の合法化−組対法の粉砕を車の両輪にして、日帝の治安体制構築を打ち破ろう。

【〔 〕内の補足・注は訳者】

……………………………………

◆社説

受話器の中で、ギシギシ、ザワザワと音がする。シュピーゲル社の電話交換手には、初めての経験である。「通話が、特にボンとの通話がひっきりなしに中断されたました」。同じハンブルクにある新聞社『ツァイト』などでも、うわさが飛び交った。同紙女性記者ペトラ・キップホフは、親戚との電話中に、盗聴者に、「盗み聞きするんなら、そんなに音をたてるな! まったくあつかましい」とどなりつけた。すると、「そんなつもりはないよ」とそっけない声が返ってきたという話である。『モルゲンポスト』でも、通話中に、二人の男の業務中の会話が入ってきた。「この線はどこにつながってるんだ」「『モルゲンポスト』だ」「そうか、じゃ関係ないな」。当時、六二年秋には、シュピーゲルだけが盗聴者の関心の的だった。
  この盗聴は、報道機関に対する前代未聞の警察の襲撃の直前のことである。これが、「シュピーゲル事件」という出版の自由への凶暴な攻撃に発展していったのである。シュピーゲル編集部の占拠の数日後には、ハンブルクの内務相(後の連邦首相)ヘルムート・シュミットも「シュピーゲル捜査の中で、権限のない者が電話を傍受した」ことは確実だと言っている。調査結果は不明だったが、おそらく、連邦国防省の軍防諜局が当該の連邦検事に協力をもちかけ、「いくつかの監視グループ」を作って、超法規的にシュピーゲル捜査に参加したようである。
  今、合法化されようとしていることは、当時の盗聴よりはるかに大きい。「大盗聴攻撃」である。連邦政府与党と社会民主党が共犯になって、連邦市民の貴重な基本的人権を一掃し、さらに、保護されるべき医師や弁護士の使命にさえ手をかけようとしている。特に、出版に手をかけようとしていることは重大である。本号特集記事で述べているように、「この『大々連立』〔注1〕は、公然たる憲法違反をおかすところまで来ている」。シュピーゲル発行人は、ドイツ・ジャーナリスト連盟、「グルナー+ヤール出版」代表取締役、北ドイツ放送、ハンブルク新聞発行者連盟とともに先週の共同書簡に署名し、ハンブルク政府首脳に送った。この書簡は、「大盗聴攻撃は、今回決定された形では、調査報道の基盤を奪うものである」と述べている。
  この攻撃を阻止すること、少なくとも、議員と聖職者についての盗聴禁止をジャーナリストにも拡大する望みはまだ残っている。連邦参議院〔州政府代表で構成〕では、ブレーメン州が修正を要求しようとしている。ブレーメン州の首長ヘニング・シェルフは、シュピーゲルとのインタビューで、今の規定は「まったくの出来損ないだ」と言っている。
  仮に、何をやっても盗聴攻撃の進行が止められないとしても、シュピーゲルはそこで妥協する気はない。われわれは、カールスルーエの憲法裁判所に提訴する。フランクフルトの国法学者エアハルト・デニンガー教授が訴状を書くことになっている。
【注1 ドイツの基本的な大政党は、CDU/CSUとSPD(社会民主党)の二つ。その他、自由民主党(FDPいわゆるリベラル)、緑の党などの小政党がある。二つの大政党のいずれかと他の小政党が組んだ政権は「小連立」、二大政党が組むと「大連立」と呼ばれる】
     *    *

◆机の中にスパイが

夜九時すぎの暗闇の中、ハンブルク警察の人員輸送車がシュピーゲル社前に停車した。三十数人の警官が守衛の前を通り抜け、事務所に突入した。
  警官は、二九三三・八平方bの編集・出版室をしらみつぶしに捜索し、秘密書類を探した。電話交換センターのテレックス室には、警官がいて、外部への連絡は断たれた。ルドルフ・アウグステン〔編集長〕と彼の「国家反逆」なるものの共犯者が逮捕された。
  四週間、シュピーゲル社は「お上」に占拠されつづけた。街頭では、「シュピーゲルの死は自由の死」と数千人がデモをした。六二年十月二十六日に始まったシュピーゲル事件は、連邦政府の二人の大臣の辞任にまでいたった。
  それでも当時は、まだ良かった。今は誰もデモしない。誰も辞任しない。そして、逮捕さえ不要になるかもしれない。今後国家権力は、気に入らないジャーナリストを、音もなく、大衆に気づかれず、費用もかけず、つかむことができるようになる。
  必要なのは盗聴器だけだ。
  六二年の連邦軍の防衛即応体制についての特集記事で、シュピーゲルは国家反逆及び贈収賄の嫌疑を受けた。連邦検事にとっては、その嫌疑だけで、ハンブルクの国家防御室から盗聴許可を得るに十分だった。
現在ハンブルクのシュピーゲル編集部には、一日平均七十人の訪問客がある。そのうち二、三人が、情報提供を装って来ることもできる。これが連邦検事局のスパイで、ペニヒ硬貨くらいの大きさの小型発振器を置いていく。こんなことは、プロには朝飯前だ。
  そうなると本誌の編集部員は数カ月間も国家の電子的手綱につながれる。すべての支配者の夢・・ジャーナリストが支配者についての情報を入手する経路の掌握・・がついに実現されるわけだ。
今週金曜日〔二月六日〕に連邦参議院で採決される大盗聴攻撃は、市民のプライベートな空間を知らぬ間に脅かし、家族の信頼関係を破壊するばかりか、弁護士への依頼や医師の診療を受けることさえ危険なものにしてしまう。そして、六二年のシュピーゲル事件以来の出版の自由への危険きわまりない攻撃となる。
  SPD〔社会民主党〕、CDU/CSU、FDPの「大連立」は、憲法違反を計画している。ドイツの民主主義にとって「絶対不可欠の構成要素」だと連邦憲法裁判所が判断したその当の基本的人権・・市民の情報獲得の自由・・を、盗聴国家は侵害するのだ。
この法案は、連邦議会をすでに通過した。これが、〔連邦参議院を通り〕法律になってしまったら、弁護士も医師も、またジャーナリストも、机の中にスパイがいることを常に覚悟しなければならなくなる。国家が特に嗅ぎ回りたいと思っている人物との接触は、ジャーナリストの職業では、日常のことなのだ。
  議員や僧職と同様に自分たちも盗聴から除外せよというこの当事者の訴えは、聞き入れられないままだ。ブレーメン市〔州と同格〕の市長ヘニング・シェルフ(SPD)は「連中には、そのくらいのことも出来ないんだ」と怒っている。
  それどころか、ジャーナリストの証言拒否権〔注2〕の事実上の廃棄について警鐘を鳴らしても、そのSPDの大多数が頑固な態度を取っている。SPDの政党間協議担当者オットー・シリーは「ジャーナリストのことは憲法には書いてない」とけんもほろろだ。
ドイツ・ジャーナリスト連盟のヘルマン・マイン会長は、全連邦議員への公開状で次のように述べている。「ジャーナリストの特権が問題になっているのではない。編集部の秘密、出版の自由の構成要素が問題になっているのである。ジャーナリストと情報提供者が編集室や住居での盗聴を恐れねばならなくなれば、われわれの自由の秩序の主柱が折れてしまう」
  その結果は、破滅的だ。情報提供者が保護されなくなるから、権力乱用とスキャンダルの暴露はほぼ不可能になる。盗聴器で身元が割れることを恐れて、誰も、編集部に重大資料を委ねなくなる。
  ジャーナリストのうちの誰かが、刑事犯罪の容疑者との接触を疑われれば、単なる疑いだけで、国家は住居侵入が許される。無線技術者も、警官も、そして憲法擁護庁職員〔注3〕さえ、編集室に忍び込ませられるようになる。
  ジャーナリストの盗聴から得た情報は、誰に対する裁判手続きの中でも使用できるようになる。この使用から除外されるのは、「犯罪事実の調査または犯罪行為者の滞在場所の捜査の利益に無関係な」信頼関係であるという。
  基本的人権の連邦議会における解体は、今度の総選挙後に大連立政権が発足した場合どうなるかを示す悪い予兆だ。改憲しうる多数派、CDU/CSU・FDP連立政権とSPDが、改憲と刑事訴訟法の改定に合意し、法治国家的な立法の基盤を放棄したのである。つまり、犯罪対策という人気のある要求のためとして、人権を無条件に犠牲にする治安国家への道に踏み出したのである。
【注2 医師等の職業グループには、職業上知った情報を秘匿しかつ被雇用者(看護婦等)をして情報を秘匿させる義務(守秘義務)が法的に厳格に課せられ、また法廷での証言を拒否する法的権利=証言拒否権が与えられている。
  注3 憲法擁護庁は、日本の公安調査庁同様の治安機関】

これまで憲法第一三条(「住居は不可侵である」)は、簡素で誇るに足るものだった。これに次のような長々しい規定が加えられ、制約のないものにされる。
▼「公共の安全に対する切迫した危険」があると警官及び憲法擁護庁職員が自分たちで推測するだけで、裁判所の事前の許可なしに、盗聴器及びビデオカメラを住居及び・・法的に住居と同等とされる・・編集室、医療施設、弁護士事務所に設置できるようにする。・・いわゆる予防盗聴、予防盗撮影だ。
▼捜査員は・・裁判所が許可すれば・・嫌疑をかけられた者の住居にも、また被疑者が滞在しているという「疑い」がある場所、つまり何も知らない市民の住居や事務所にも盗聴器を置けるようにする。必要なのは切迫した犯罪容疑だけである。単なる法律違反の推測だけでよい。
  連邦議会は、改憲案とともに盗聴の細目を規定する刑訴法改定案を可決した。改定刑訴法は規則と例外のごった煮で、法律家にも読めた代物ではない。この刑訴法の推進者たちは、厚かましくも自分の改憲案にさえ違反している。この非公式の大連立が、組織犯罪のみならずありとあらゆる者を盗聴しようとしているのは明白だ。
  改定憲法案一三条は、「特に重大な犯罪」に対してのみ盗聴が許可されると約束している。だが、同時に可決された施行法では、単なる万引きにさえ盗聴できる。少年の学校カバンにナイフがあれば、親の家に盗聴器をしかけられる。そして、秘密の省通達の中では、編集部の盗聴が正当化されているのだ。
  国家秘密漏洩などの政治犯、まさにマフィアの得意な犯罪領域でないものでも、ジャーナリストは、疑いだけで盗聴される。
  「民主主義と市民にはすばらしい日、犯罪者には暗黒の日だった」。これが、SPDの政党間協議担当者グロゴフスキー(ニーダーザクセン州内相)の昨年八月のCDU/CSU、FDPの連邦・州代表との協議の後の発言だ。
  SPDは、かつては法治国家の限度というものを当たり前のコンセンサスとしていた。だが、よりによってこのSPDが、この限度をはるかに踏み越えたことに、多くの法律家があぜんとしている。ベルリン弁護士会はこれを、「ドイツ連邦共和国が、忌まわしい監視国家・密告国家DDR〔旧東独〕のような状態になってしまう危機」と言っている。外国でも、同じように見ている。フランスの新聞『リベラシオン』は、人権活動家が「このようなやり方を見ると、ゲシュタポやシュタジ〔東独秘密警察〕を思い出す」と言っていることを報じている。
  九五年の盗聴攻撃をめぐる論争の中で辞任したFDPの法相ザビーネ・ロイトイサー=シュナレンベルガーは当時、「それなら、なぜ拷問を合法化しないのか」と盗聴攻撃を批判して、憎しみの集中砲火をあびた。もう、彼女は一人ではない。
  法治国家は、断崖絶壁に立っている。盗聴国家の構想が現実化するかどうかは、一人の男にかかっている。ブレーメンのSPD市長ヘニング・シェルフは、ジャーナリストなどの職業に対する保護が改善されないかぎり、連邦参議院で賛成票を投じることを拒否するであろう。ブレーメンの票なしでは、連邦参議院で改憲に必要な三分の二議席を確保できない。

●ハンズフリー電話機を盗聴器として使う

現在、ドイツ国民の電話は日常茶飯に盗聴されている。新聞に情報提供する人が電話で名を名乗ることは、今は皆無に近い。
  六八年に、盗聴が正当化される犯罪のリストを定めた刑法第一〇〇条a項が導入されて以来、この条項は十五回も、改定・拡張されてきた。
  ニーダーザクセン州の緑の党の連邦議会議員マヌエル・キーパーと仲間の情報技術者インゴ・ルーマンの最近の論文によれば、すでに「デジタル機器による監視の爆発的増大」が始まっている。「すき間なく、平面をおおいつくす、立地条件に左右されない保証つきの」盗聴管理という連邦内相カンターの構想の実現が、一般に考えられているよりはるかに近づいているという。
  九〇年から九六年にかけて、電話盗聴命令は、二四九四件から六四二八件に増加した。九六年の六四二八件の盗聴命令によって、八一一二本の電話線が盗聴された。専門家の見積もりによれば、これは約百万人の電話使用者が盗聴されたことを意味する。
  九四年のネオナチの行進は、長年続いてきた規定を変えるきっかけとして使われた。極右が携帯電話で盗聴されずに相互に通信したことによって、警察は裏をかかれたという。
  当時、連邦刑事局長官ザッハートと憲法擁護庁長官ベアテバッハは、法律にすき間があると声高に叫んだ。
  CSUの郵政相ベッチとCDUのカンター内相は、さほど騒がれずに、すき間のない治安の網をかぶせていった。携帯電話の通話を把握し、蓄積することが可能になった。
  電子メール、データバンクも安全ではない。手放し★通話装置つきの電話機は、盗聴器として機能させることができる。場合によっては、コンピュータによる外部からの遠隔操作によって盗聴器化させることもできる。これらすべてが、完全に合法になったのだ。

●盗聴攻撃を大々的に推進したのはシャーピング

 CDU/CSUは早くから盗聴規制の緩和を要求していたが、SPDとFDPは、この問題をタブーにしてきた。九四年の選挙綱領で、FDPは「密かに盗聴することは、他のどんな方法よりも、プライバシーの領域と国家との境界を破壊する」「住居は安住の地でなくなる」として盗聴攻撃をきっぱり拒絶していた。 だがSPDでは、早くも九三年の党大会で、組織犯罪に対する「最後の手段」として盗聴器を使いうるとされ、ダムは決壊した。党首シャーピング(当時)は、盗聴だけでなく、ビデオ盗撮まで推進しようとした。
  保守派の国法学者ヨーゼフ・イーゼンゼーは、強引な憲法解釈の変更を行った。人格の発展及び生命と身柄の不可侵の権利を保障する憲法第二条を、個人が国内治安を要求する権利にねじ曲げたのだ。市民は、自分の自由を脅かす犯罪からの防御を国家に要求することができるという。国家からの防御から、国家による防御に、解釈変えしたのだ。
  この新思想はSPDにも感染した。「国家による防御」なるうたい文句は、SPDの政党間協議担当者シリーの口癖になった。
  FDPでは、旧世代リベラルのゲンシャーやラムスドルフらが、医師・弁護士・ジャーナリストの盗聴に強硬に反対した。だがこのFDPのマイホーファーが大臣をしていた時代の内務省が、「盗聴攻撃」というドイツ語ならぬドイツ語をひねり出したのだ。当時の首相はSPDのシュミットだ。
  七六年一月のことだった。ケルン郊外の池で、数人の男が泊り込みでスポーツフィッシングをしていた。 彼らの本職は、憲法擁護庁職員で、池から原発企業体の幹部クラウス・トラウベの邸宅を監視していたのだ。トラウベはテロリストのシンパと接触した疑いを持たれていた。
  この時、内務省が行った作戦が「盗聴攻撃」なるものだ。攻撃の相手は留守だった。そこで国家のスパイたちは裏口から入り、まず窓を黒い幕で覆って光が漏れないようにして、懐中電灯をつけ、机の下に送信機をはりつけた。電池は千二百時間もつものだった。
  シュピーゲルは、七七年十月、「市民Tへの盗聴攻撃」を報道した。当時は、緊急事態に対する超法規的措置として必要だと正当化されたが、結局マイホーファー内相は辞任に追い込まれた。

●干渉の急増でジャーナリストの不信が高まる

 全国で編集部への不法な、際限ない干渉が行われ、ジャーナリストの国家への不信が高まっている。何度も捜索されている地方紙『アウクスブルガーアルゲマイネ』紙の古くからの編集長ゲルノート・レーマーは、「体制が糸を引いている」といっている。
  同紙は、警察と検察の権力乱用の被害を受けている数十の新聞の一つにすぎない。捜査官は、犯罪者の証拠物件の捜索を口実に、編集部の家宅捜索をますます増やしている。
  刑事訴訟法による押収禁止は、実際には、第三者がジャーナリストに託した書類や情報にしか適用されない。ジャーナリスト自身が探し出した資料、フィルム、映像は押収しほうだいだ。
  この権力行使の狙いは、組織犯罪の黒幕の捜査などではなく、「ぶんやの若造」を脅すことだ。
  九三年十二月、毛皮使用反対の活動家がミュンヘン都心で裸になってミンク売買反対のデモをした。『アーベントツァイトゥング』紙のこっけいな写真に、市民は皆大笑いした。だが同紙の写真室は、集会法違反で数人の制服警官に捜索されたのだ。写真に映った毛皮反対活動家がデモ届けをしなかったのだという。写真部員は、警察の役には立てなかった。「残念ながらネガは紛失しました」。しばらくして、今度は裸の写真を撮った写真部員の自宅に捜索が入り、すみずみまで捜し回ったが、何も出てこなかった。
  九六年のクルド人の暴力的なデモの後、判事が『フランクフルタールントシャウ』に写真の任意提供を求めた。コール編集長は、「わが社は拒否しました。そしてもし強制的に押収するなら係官を撮影するといいました。その後捜索はありません」という。
  『ターゲスツァイトゥング』(taz)はあまりに頻繁に家宅捜索されてきたので、狙われる資料の保管マニュアルを作った。そのため、今まで押収物が発見されたことはほとんどないという。
  九六年八月、tazと『ベーザークリア』の編集部および多数の編集部員宅の家宅捜索があった。ブレーメン市長シェルフは、この地元の新聞への干渉を、「破局的だ」と非難した。捜索の理由は、ブレーメン州会計検査院の内部報告書が、何者かによってジャーナリストに渡されたということだ。司法当局は、この何者かの身元を知りたかったわけだ。
  予防盗聴・盗撮が憲法の中に定着すれば、今まで編集部を警察の攻撃から守ってきた保障がすべて破壊されてしまう。たしかに何年も前から、ほとんどの州に予防盗聴・盗撮を許す州警察法がある。だが出版法で、編集部は除外されていたのだ。たとえばハンブルクの出版法は「憲法によってのみ」州出版法の保障は制限しうると規定している。
  組織的憲法解体の黒幕たちは、内輪ではその問題をはっきり言っている。人権に敵対して「治安を求める基本権」をとなえるヨーゼフ・イーゼンゼーは、出版が盗聴されないことに怒りをぶちまけている。彼は、仲間うちの小さな集まりで、「報道誌の暴露テロ、特にハンブルク州のやつらのは、もうやめさせるべきだ。それには立法が一番だ」と発言した。
  それがどうなるか、金曜日の連邦参議院でわかる。

(おわり)