翻訳資料
QDR(4年ごとの戦力見直し)(下)
アメリカ国防省 1997年5月19日発表
松永洋訳
【ゴシックによる強調と〔 〕内の補足は訳者】
●「ビジネス革命」の活用
……間接費削減とインフラ合理化、〔装備〕調達改革の最大限の利用、競争的条件がある場合には広範な支援活動の外部委託化ないし民営化、民需技術・軍民両用技術や開放システムの活用、不要な規格・仕様の撤廃、生産工程・製品開発の一体化、同盟国との共同開発事業の拡大などが「ビジネス革命」である。これらの措置によって、特に成熟したシステムの調達のサイクルなどの短縮、計画の安定性の強化、効率性の増大、諸任務の中の核の部分へのマネージメントの力の集中が可能となり、、資金を節約し、優先度が高い分野への投資に回すことができるようになる。……
◆戦略を裏づける軍事能力
……
●あらゆる事態に対処可能な軍事力とは何か
安全保障環境への対処とその形成のために短期的に必要なことを行うためには、米軍は、すでに明らかな脅威に対処するだけでなく、予想される広範囲な任務や作戦環境で必要となる能力を持たなければならない。すなわち、平時にも、非常時にも、戦時にも、米国の利益を守り、拡大するための実現可能な幅広い選択肢を国家指導者に提供しなければならない。今後十五〜二十年間に米国が直面する可能性が高い軍事的課題の数と種類は多い。したがって軍の規模と能力は、敵の大規模な通常戦力の撃破、侵略と脅迫の抑止、あらゆる種類の小規模有事作戦と〔国際安全保障環境〕形成活動の遂行ができるだけのものでなければならない。しかもこれらはすべて、非対称的な挑戦を受けて遂行できなければならない。米軍部隊は、現役も予備役も、多種の任務が遂行できる能力を持ち、自分の戦闘任務の中の核になる部分については練達し、平時の活動・作戦から非常時の抑止強化や戦争に移行する能力を持たなければなければならない。この基準は、軍全体だけではなく、各個の通常部隊に適用される。
このような、あらゆる事態に対処可能な軍事力には、海外プレゼンス〔駐留・展開〕と軍投入能力のバランスのとれた組み合わせが必要である。
十分な海外プレゼンス態勢の維持は、われわれの戦略の〔国際安全保障環境の〕“形成”の要素にとっても、〔危機への〕“対応”〔応戦〕の要素にとっても死活的である。海外プレゼンスは、わが国の二国間および多国間の安全保障コミットメントの形態と内容となる。これが地域の安定を強化し、力の真空と不安定の拡大の防止に寄与するのである。それは、米国・同盟国・友好国の決定的地域における権益および危機に迅速に対応しうる米国の足場を守る決意を示し、抑止に貢献する。また、統合訓練・共同訓練の推進によって、あらゆる種類の紛争に対する連合作戦の実効性を高め、友好国および同盟国の責任分担を促し、地域のまとまりを容易にする。
世界の遠隔地域に軍事力を迅速に移動し、集中する能力も、同様に不可欠である。……その能力によって、必要とあらば、わが軍が入れなかった戦域への道を開き、あるいは前方作戦基地を建設・防衛することができる。
●決定的諸条件
軍事力投入および国際安全保障環境の形成とあらゆる種類の危機に対応するわが国の並ぶ者なき能力のためには、軍事力の世界大的な使用を可能とする次のような多くの能力や資産が決定的である。
▽優れた指揮官によって指導された有能な軍人が、わが軍のもっとも決定的な資産である。……最良の国民を募集し、定着させ、彼らにやりがいのある軍務と良好な生活水準を提供し、世界最良の戦士として継続的に訓練することは、わが国にとって最重要のことの一つである。…
▽世界的な警戒情報システムが必要である。それによって、〔紛争〕当事者がますます増え、テクノロジーがいっそう高度化して、環境が複雑化していく中で、脅威を探知し、危機に対する戦略的警報を早期に発しうるようにしなければならない。……
▽わが国のグローバルな通信は、情報、データ、決定、命令を適時に交換し、同時に、敵のわが国の情報活動への介入能力を封殺するものでなくてはならない。世界中いかなる場所においても、またいなかる条件下でも、不断に流入する信頼できる精確な情報を収集・処理・分配する能力は、巨大な戦略的・軍事的優位をもたらす。……
▽米国は、宇宙における優位を保たなければならない。グローバルな情報収集、ナビゲーション支援〔測位システム〕、気象予報、通信中継は、宇宙施設によって行われている。宇宙へのアクセスと能力を開発している国が増えているのであるから、現在のわが国の優位を維持するためには、外国の宇宙施設利用をモニターすること、またわが国のシステムを守り、敵による宇宙の敵対的な利用を阻止する能力を開発することに力を集中しなければならない。
▽制海権・制空権によって、米国は長大な距離を越えて軍事力を投入し、世界中で国益を守ることができる。わが国の戦略の“形成”“対応”の二つの要素がそれで支えられている。強靱かつ効率的な戦略輸送能力は、決定的なものであり、単なる航空機や船舶だけでできることではない。そのためには、国内にも、また輸送途中でも、十分なインフラによる支援が必要であり、また、戦略的位置に事前集積された装備・ストック、全資産の明確な掌握、航空・海上輸送の確保が必要である。……
◆W.防衛態勢の選択肢
……今後数年間、わが国は、さまざまな小規模有事作戦、大規模な越境侵略の脅威、先進技術の拡散の継続、国を越えた様々な脅威等々、多くの課題に直面するであろう。また、化学・生物兵器、そしてますます高度化する、場合によっては核兵器も使われる非対称的攻撃、わが軍の情報システムや国のインフラに対する攻撃、テロリズムその他多数の「予測を越えた」事態に直面するであろう。その次の十年間にわが国が直面する地域的脅威は、さらに困難性が増し、非対称的攻撃への対処の必要性はいっそう高まり、米本土への脅威の可能性がきわめて現実的なものとなる見込みが大きい。そして、二〇一〇〜二〇一五年以降には、地域大国あるいは〔米国と〕肩を並べる世界的競合者が台頭する可能性がある。
◆財政状況
財政計画立案に向けて、QDRは、年間防衛予算を一九九七年度のドル価値換算で約二五〇〇億jで固定することを提案している。世界情勢が顕著に悪化しないかぎり、国防費の大幅増額を国民が支持することはまずありえない。それどころか、連邦予算の中の国防省のシェアを下げる圧力さえかかってきかねない。こうした状況の中で、現在の資金難が国防省予算の増加で解消するという仮定の上に防衛計画を作ることは非現実的である。
これまで国防省は、年間約二五〇〇億jの予算制限の枠内で、ボトム・アップ・レビューで必要とされた兵力構成を保ててきたし、同時に、高度な即応性を維持し、軍人に良好な生活水準を提供する計画を推進してきた。しかしながら、近代化のための支出は不十分であった。調達予算は四〇〇億jレベルにとどまった。……
この数年の予算では、国防省は、戦力の維持、将来の米国のテクノロジー優位の確保のために、調達費を再拡大することを計画してきた。しかし、この再拡大の計画は、運営費の予想外の増大のため、繰り返し延期されてきた。このような出費は、さまざまな分野での計画外の支出、たとえば補給処や不動産管理への予算付けの欠陥、さまざまな経費削減計画の未達成、有事作戦などによってひきおこされた。……
以上のような財政的な脈絡の中で、次のような選択肢が検討されるのである。
◆選択すべき道
●第一の道・・短期の必要が焦点
この道が主要な挑戦とするものは、現在の地域的侵略者、〔高度技術やABC兵器の〕拡散、国を越えた脅威による危険である。これは、現在の脅威には多大な配慮が必要であるが、将来の脅威への対応までには、まだ十分に時間があるという立場である。この道の目的は、世界的なプレゼンスおよび地域的侵略の抑止によって短期的な国際的安定を確保することであり、将来の安全保障上のいっそう大きな課題が生起する可能性に対する準備は、大きく延期される。……
現在の作戦計画を使用した大規模戦域戦争に勝利するために十分な大きさと即応性を持った兵力が維持される。これはまた、米軍要員に過重負担をかけずに、小規模作戦を遂行する要請にも応えうる。しかしこの道には、近代化計画を延期して、将来の紛争で優勢を占める米軍の能力を危うくするリスクがある。
この道の方向に行くなら、二〇〇三年度まで、現行の計画による一四〇万人の現役兵員、九〇万人の予備役兵員、七〇万人の軍属が維持される。また、現在の戦力構造、すなわち空軍戦闘航空団二〇個(現役一三個、予備役七個)、陸軍現役師団一〇個、予備軍構成部隊旅団四二個、空母一二隻、水上戦闘艦一三一隻、海兵隊遠征軍三個などが維持される。
投資は、新たなインフラ合理化計画で生み出される資金程度しか、現在の水準から増加しない。現行の調達計画と比較して、投資(調達費、研究・開発費の総額)水準はわずかに年間約八五〇億jにまで増えるだけで、新規調達は五〇〇億jとなる。……
●第二の道・・遠い将来の脅威への準備
この道が主要な挑戦とするものは、二〇一〇〜二〇一五年以後に台頭する可能性がある地域大国あるいは〔米国と〕肩を並べる世界的競合者、そしてまたさまざまな非対称的脅威の組み合わせである。この道の目的は、将来のいっそう困難な脅威の台頭に対する準備を現在行うことによって、米軍の長期的な優位を確保することであり、短期的な必要に応える能力の減退は覚悟する。
この道は、米軍のテクノロジーの革命的強化によって、小さくとも敏速な兵力によって、戦場優位を獲得し、将来の挑戦者の米国との軍事的競合を断念させ、戦略目標を達成しようとするものである。しかし、この道は、起こりうる地域紛争に、縮小された戦力で対処するのであり、短期的にはリスクをおかすのである。また、軍の海外プレゼンスの縮小によって、米国の世界的なリーダーシップを危うくする。
この道をとれば、兵力の代わりに投資を選ぶということになる。削減されるのは、現役兵員が約一〇〜一二万人、予備軍構成部隊兵員が一一万〜一一万五千人、軍属が約九〜一〇万人となる。これは全体の約二〇%であり、残るのは、空軍戦闘航空団一六個、陸軍現役師団八個、予備軍構成部隊旅団三三個、空母一〇隻、水上戦闘艦一〇八隻である。海兵隊遠征軍三個は、戦闘能力が大きく削減される。
この道が焦点にしているテクノロジーの優位を達成するためには、投資を年間一〇〇〇億jまで増大させる必要があり、そのうち少なくとも六五〇億jは調達に向けられる。
●第三の道・・現在の必要と不確実な将来とのバランス
この道は、短期と長期の双方の挑戦に焦点をあわせる。これは、世界の中のわが国の位置が、二者択一を許さないという考え方による。短期的には、小規模作戦の継続やアラブ湾岸地域および朝鮮半島での地域的脅威がある。長期的には、潜在的にもっと強力な地域的侵略者や高度化した非対称的な脅威が徐々に台頭する。第三の道の目的は、目標を絞った投資で短期的な課題と長期的な脅威とのバランスをとることにより、米国の世界的なリーダーシップを、この不確実な期間を通じて維持することである。……
現役兵員六万人、予備軍構成部隊兵員五万五千人、軍属八万人の削減が必要となる。現在の戦力構造は若干変更され、空軍戦闘航空団二〇個(現役一二個、予備役八個)、陸軍現役師団一〇個、予備軍構成部隊は縮小、空母一二隻、水上戦闘艦一一六隻、攻撃潜水艦五〇隻、海兵隊遠征軍三個となる。〔ここでいう「攻撃潜水艦」とは、戦術潜水艦、すなわちSSGN(非弾道ミサイル搭載攻撃型原子力潜水艦)およびSSN(攻撃型原子力潜水艦)のこと。九六年八月現在七八隻。なお、QDRは戦略潜水艦(弾道ミサイル搭載)などの戦略核兵器体系の数量には言及していない〕……
この戦力削減によって、年間九〇〇〜九五〇億jの水準まで投資を拡大することが可能になり、うち約六〇〇億jは調達に向けられる。
◆戦力見積もり
……
●海外プレゼンス分析
海外プレゼンスの適正な諸水準と諸タイプを確保し、わが国の戦略目標を満たすためには、すべての地域における海外プレゼンスの目標と態勢・・恒常的に駐屯する部隊、ローテーションで駐屯する部隊、一時的に展開する部隊、事前集積された装備・ストックなどの組み合わせなど・・を詳細に検討する必要がある。……
われわれは、海軍プレゼンスモデルを使って空母および水陸両用群の戦力構造を分析し、欧州軍・中央軍・太平洋軍の各管轄地域の現行のプレゼンスと比較した。水上戦闘艦の戦力構造も同様に分析した。その結果、現行の空母前方展開政策を遂行し、世界のスケジュールをこなすには、一一隻の現役空母プラス一隻の予備役あるいは訓練空母が必要とされた。現在の戦争の必要を満たし、また海外プレゼンスを行うには、水陸両用群一二個が必要である。水上戦闘艦は、一一〇〜一一六隻あれば、戦争遂行と海外プレゼンスのために十分である。……
空軍と陸軍については、QDRは、戦術航空団相当の部隊二〇個と陸軍現役師団一〇個が、二つのほぼ同時に発生する大規模戦域戦争をわずかなリスクで遂行するために必要であると見積もっている。また、QDRは、非現実的な戦力削減が海外プレゼンスや人員繁忙度〔PERSTEMPO〕に及ぼす影響についても考慮している。特に、空軍と陸軍の現役戦力の中には、すでに作戦繁忙度〔OTEMPO〕が高くなっているものがあり、もし、現行の前方展開を変えないならば、いっそう作戦繁忙度が高くなってしまう。……
●小規模有事作戦分析
軍の中の多数の部分が、平時において、わめて高い作戦繁忙度(OTEMPO)で、使用されてきたこと、そしてそういう状態は今後も続く可能性が高いことを、国防省はかなり前から知っていた。しかし、この分析が示していることは、この状況が、数年前から言われてきた「少人員/多任務(LD/HD)」部隊だけのことではないということである。多数の「普通の」部隊も、非常に多い任務を抱えている。特に司令部要員は、その指揮下の部隊よりも多忙なのが一般的である。大規模で長期間の作戦がOTEMPOに大きく影響するのは驚くまでもないが、今度の研究によって明らかになったことは、小規模でも長期間の作戦は大きな影響を及ぼすことである。……
●大規模戦域戦争分析
ボトム・アップ・レビュー以来、国防省内の戦争遂行分析の多くは、イラクや北朝鮮の規模の地域的侵略者による脅威に焦点をあわせてきた。QDR策定の過程で行われた分析は、こうした詳細な分析を基礎にして、さらにそれを拡張したものである。この分析は、とりわけ、朝鮮半島と南西アジア〔中東〕において、二〇〇六年に二つの大規模戦域戦争が重なった場合に、米軍が地域の同盟国と連携して、その戦争を戦い勝利するために十分なものかどうかを検討している。その際、次の四つのカギになる条件・・敵の化学・生物兵器の使用、警報期間、米軍の規模、最初の大規模戦域戦争の勃発時の米軍の平時作戦への関与の程度・・を変数として検討した。
この分析の結果が示したことは、二つのほぼ同時の大規模戦域戦争に、地域同盟国と連携して勝利するためには、現在の規模と構造に近い戦力が必要だということである。基本的なケースを想定した分析では、やや小さな戦力でも、大きなリスクなしに勝利しうるということであるが、敵が化学兵器を使うケース、あるいは警報期間が短いケースでは、もっと大きな戦力でなければリスクが大きすぎると判定された。現在の戦力でも、敵の化学兵器や生物兵器の使用は、米軍や連合軍にとって、大きな困難をもたらす。また、この分析の結果によって、現在計画中のいつくかの近代化事業や、化学・生物兵器の使用の阻止およびそれからの防御の能力を高める投資がきわめて重要であることも明らかになった。
●地域大国分析
二〇一〇〜二〇一五年以前に地域大国あるいは〔米国と〕肩を並べる世界的競合者が台頭するかどうかは、けっして確実ではない。しかし、イラン・イラクや北朝鮮よりはるかに巨大な能力を持つ侵略者〔の出現〕によって、何が必要になるのか分析することは重要だと国防省は考えた。将来何が必要となるかは、特に近代化の分野では、近いうちに決定すべきことの資料となるからである。
この分析は、二〇一四年の米軍と仮想地域大国との大規模戦域戦争を想定した戦闘シュミレーションモデルを使って行われた。……この分析は、大規模戦域戦争分析とは違って、北朝鮮やイラクとの単一大規模戦域戦争におけるよりもはるかに巨大で高能力の脅威を対象にするものであり、より能力の大きい同盟諸国に依拠し、また米軍のより多くの部分を使用するものである。これは、同盟諸国と連携して、米軍が仮想的な被脅威国の領土に展開し、防衛すると想定したシナリオを使っている。この分析の目的は、近代化プロジェクト・警報期間・侵略者と同盟国の能力・兵器体系の有効性などの基軸的諸条件を変化させた場合に、結果がどのような範囲にわたるかを調べることであった。……
個々の必要性・・海外プレゼンス、小規模有事作戦、大規模戦域戦争・・だけでは、軍の全体的な規模や構成を決定するには十分ではないことが、全般的な分析によって明らかになった。規模と構成は、戦略によって設定される全任務の必要性を満たすように、個々の軍〔陸・海・空軍と海兵隊の各々〕によって算定されるだけでなく、統合的に算定されねばならない。前述の見積もりが示唆したことは、全般的に言って、やや縮小しつつ大胆に近代化計画を進めたほうが、長期にわたって戦略的必要性を満たす能力が大きくなるということである。
◆選択すべき道の戦略的見積もり
選択すべき道の見積もりは、戦略から出発した。それぞれの道に照応する防衛態勢によって、戦略の各要素がどのように遂行できるか検討されたのである。われわれは、わが軍の〔国際安全保障環境〕形成の能力、そして現在および将来の予見しうる、ないしあるかもしれない挑戦に対する対応の能力に見積もりの焦点を当てた。われわれは一九九七〜二〇一五年にも、その後も国家安全保障を提供する必要があるのだから、ただ一つの課題あるいは別の課題のために最適化された戦力では不十分である。したがってわれわれは、現在と将来の両方の目標を達成しうるバランスの取れた能力を明らかにするようにしたのである。……
●“形成”
防衛戦略に必要なものは、平時関与の十分な水準を保障できる戦力である。それには、恒常的に海外駐屯する部隊、ローテーションで海外展開する部隊、一時的に演習のために展開する部隊、合同訓練、軍間交流、そして防衛協力や安全保障支援、国際軍事教育訓練計画、国際軍備協力などの諸事業といった、広範な〔国際安全保障環境〕形成手段が用いられる。わが軍は、許容範囲内の人員繁忙度で、このような関与を維持できなければならない。
第一の道で示された防衛態勢には、短期的な“形成”のためのもっとも柔軟な選択肢がある。この態勢では、欧州・アジア両方の約十万人の兵員をはじめとする現在の海外コミットメントおよび海・空・陸軍のローテーションによるコミットメントも維持できる。同盟国や友好国との広範な演習・訓練を行いうる十分な柔軟性もある。また、わが国の“形成”活動を強化するための海外展開の一時的増加を吸収することもできる。つまり、この態勢は、“形成”のための要件を満たしているといえる。
第二の道は、短期的な“形成”のための選択肢の柔軟性がはるかに低い。また、海外プレゼンスのコミットメントを果たすには、人員集約度が少ない新たな方法の開発が必要になることは明らかである。恒常的に駐屯する部隊の削減が必要になり、欧州・アジア双方に約十万人に兵員を維持するわが国の約束に影響する。海・空・陸軍のローテーションによるコミットメントは、大幅減となる。また、同盟国・友好国との演習・訓練や、海外展開の一時的増強の柔軟性も低下する。多くの部隊では、人員繁忙度と展開繁忙度が著しく高まり、長期的な人員確保への懸念が増大しかねない。
第三の道の短期的“形成”の選択肢には、妥当な柔軟性がある。欧州・アジア双方に約十万人は維持できる。現在の海・空・陸軍のローテーションによるコミットメントも維持できる。必要な演習・訓練、同盟国・友好国との交流も、軍の一部の部隊のストレスを増加させるとはいえ、維持できる。
●“対応”〔応戦〕
……
第一の道で示された防衛態勢には、短期的なあらゆる種類の危機・有事に対応する、もっとも強靱な能力がある。われわれの見積もりによれば、この態勢で、危機において侵略者を抑止し、あらゆる種類の小規模有事作戦を遂行し、小規模有事作戦から大規模紛争への移行を行い、二つの離れた戦域での時期が重なる大規模越境侵略を抑止し、必要ならそれを撃破することができる。しかし長期的には、近代化事業が遅れるにつれ、この能力は浸食されていく。
第二の道では、短期的な能力は小さく、QDRがカバーしている期間の初期に発生しうるあらゆる種類の危機に対応するにはリスクが大きいことを覚悟する必要がある。この道では、小規模有事作戦、とりわけ長びきそうな作戦は、精選して遂行せねばならない。そして、予備軍構成部隊を早期かつ大量に動員し、また同盟国・友好国の相当大きな貢献に期待することになる。大規模侵略を撃破するためには、一つの戦域から他の戦域への戦闘部隊・支援部隊の両方の「スイング」〔迅速輸送〕に依存することになる。この道は、小さい総戦力で戦場優位をつかめる新たな能力・新たな作戦概念を利用するのであるが、しかし、この能力は、短期的には得られない。
第三の道の能力は、短期的なあらゆる種類の危機・有事に対応するに十分であるが、第一の道よりややリスクが大きい。小規模有事作戦、特に長びきそうな作戦の遂行は、今後も精選していかねばならない。しかし、複数の大規模侵略を撃破する能力は保てる。さらに、第二の道同様、ただしもっと先のことになるが、わが軍の対応能力を改善し、小さな総戦力で戦場優位を達成できる新たな能力・新たな作戦概念を利用できるようになる。
●〔将来への〕“準備”
〔第一・第二の道は省略〕
第三の道は、不確実な将来への準備を焦点にしているが、それによって現在の課題にこたえることを犠牲にするわけではない。第三の道の投資資金は、第二の道ほど速くはないが、軍事革命を利用し、ジョイント・ビジョン二〇一〇で設定された目標を達成する裏付けとなる。…〔以下略〕
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