米帝の中国侵略戦争宣言 米国家安全保障戦略 大没落する米帝の延命かけ中国スタの体制転覆に突進

週刊『前進』04頁(3426号03面01)(2025/12/15)


米帝の中国侵略戦争宣言
 米国家安全保障戦略
 大没落する米帝の延命かけ中国スタの体制転覆に突進


 アメリカ帝国主義・トランプ政権は12月初旬、2025年版国家安全保障戦略(NSS)を発表した。その核心は、「(中国が)台湾を奪い取る試みを阻止するために米国と同盟国の能力を強化する」と明記したところにある。インド太平洋地域を「主要な経済的・地政学的戦場」だと強調し、「第一列島線(九州沖―沖縄―台湾―フィリピンを結ぶライン)のいかなる場所においても侵略を阻止できる軍隊を構築する」と軍事的な方針にまで言及したのだ。米帝の中国侵略戦争―世界戦争への突入を「国家戦略」として鮮明にしたものが今回のNSSにほかならない。

帝国主義こそが台湾を強奪

 NSSの「Ⅳ 戦略」における「アジア」の項目は冒頭で、「トランプ大統領は、30年以上にわたるアメリカの中国についての誤った想定をたった一人で覆した。すなわち市場を中国に開放し、アメリカ企業の中国への投資を促し、製造業を中国にアウトソーシングすることで、いわゆる『ルールに基づく国際秩序』への中国の参入を促進できるという想定だ。この想定は実現しなかった。中国は富と権力を獲得し、その富と権力を大いに活用して自らの利益を図った」と述べている。
 米帝は、歴史的な没落のなかで自己の延命のためにグローバリズムなどをとおして中国市場への資本・商品の輸出に全力をあげてきた。日本帝国主義・ドイツ帝国主義なども広大な中国市場をめざして進出し、帝国主義間争闘戦が展開されてきた。2008年恐慌の危機で、中国の「世界の工場化」がさらに激しく進められ、米帝―帝国主義は危機をのりきろうとあがいてきた。だがこうした米帝の関与政策による対中国支配の強化という「想定は実現しなかった」。のみならず、中国はスターリン主義体制下のままで米帝に次ぐ経済大国化を遂げた。米帝―帝国主義にとってこれ以上中国が「富と権力を獲得し、大いに活用する」ことなど許容できないまでになったことをNSSでは後悔し、今のうちに中国スターリン主義体制を転覆しなければならないと決断しているのである。
 NSSは「インド太平洋地域はすでに、そして今後も、来世紀における主要な経済的・地政学的戦場の一つであり続ける。国内で繁栄するためには、インド太平洋地域での競争に勝ち抜く必要がある」と続く。米帝は中国をはじめとするインド太平洋地域は「戦場」だとして、この中国侵略戦争に「勝ち抜く」と宣言している。そのために「単独の競合国(中国のことだ)による支配を防ぐ」として日本と米国、オーストラリア、インド(クアッド:QUAD)4カ国の協力強化も強調した。
 そして「軍事的脅威の抑止」という項目を設定し、「台湾をめぐる紛争を抑止することが最優先事項である」と言及する。この項目は他の地域に言及した部分にはない。米帝が中国侵略戦争に焦点をしぼりあげていることは明らかだ。
 それを具体化するものとして「台湾海峡の現状の一方的な変更を支持しない」と強調し、「第1列島線のいかなる場所においても侵略を阻止できる軍隊を構築する。米軍はこれを単独で行うことはできないし、そうすべきでもない。同盟国は、集団防衛のためにより多くの資金を投入しなければならない。アメリカの外交努力は、第1列島線の同盟国およびパートナーに対し、米軍による港湾その他の施設へのアクセス拡大、自国の防衛費の増額、そして何よりも侵略抑止のための装備への投資を強く求めることに重点を置くべきである。これにより、第1列島線沿いの海洋安全保障問題が相互に関連し、台湾を奪取しようとする(中国の)いかなる試みも阻止し、台湾防衛を不可能にするほどわれわれにとって不利な戦力均衡を(中国が)達成することを阻止する米国と同盟国の能力が強化される」と述べている。
 「台湾奪取の試みを阻止する」とは何だ! 米帝にとって台湾は〈自分の獲物である〉と言っている。米帝は戦後、中国革命を圧殺するために台湾を「奪取」し、軍事基地国家としてアジア支配の要としてきた。戦後における帝国主義とスターリン主義の体制の行き詰まりのなかで、帝国主義の基本矛盾の爆発としての帝国主義戦争が、経済大国化した中国スターリン主義を転覆する侵略戦争として、台湾強奪という形で開始されているのである。
 すでに米帝は台湾関係法で事実上公式に軍事支援をしてきたが、2020年に成立させた台湾保証法をこの12月に「台湾保証実行法」に改悪し、外交面においても台湾を「独立国」として扱う姿勢を強化してきた。中国が「レッドライン」「核心的利益の核心」と位置づける「台湾問題」に首を突っ込み、中国スターリン主義・習近平政権の反人民的軍事対抗を引き出し、それを餌食として侵略戦争に突入しているのだ。
 NSSは、米日帝の中国侵略戦争で「第1列島線」すなわち沖縄・南西諸島―フィリピンを地獄の戦場にたたき込むことを改めて明言している。「第1列島線上の海洋安全保障問題が相互に連携する」とは、日帝が提唱した「ワンシアター構想」(現「オーシャン」構想)が確立した重要な焦点だ。シアターとは軍事用語で「戦域」のことだ。対中国で日帝が直面する東中国海シアターとフィリピンが直面する南中国海シアターを統合し、この戦域に関係する東南アジアや朝鮮半島を中国侵略戦争に巻き込んでいくことだ。
 こういった帝国主義的外交・軍事政策をさらに推し進め、中国を包囲して「台湾奪取を阻止する」ことがNSSで鮮明にした唯一の軍事目標なのである。

「矢面に立て」と日帝に迫る

 NSSは、「米国が世界秩序を支えてきた時代は終焉(しゅうえん)した」と米帝の大没落を自認し、「Ⅳ 戦略」の章ではどこを切り、どこに焦点を絞るかを具体的に語っている。
 しかし大没落したからこそ、「他国のことに関心を払うのは米国の利益にコミットする場合のみである」と強調。徹底的に米帝の利害のもとに全世界を組みしき、帝国主義間争闘戦を激化させながら中国侵略戦争を遂行する意志をむき出しにしている。欧州帝国主義各国に対してすら「経済・軍事面で信頼できる同盟国であり続けられるかは全く明らかではない」と述べ、米帝に協力するよう恫喝している。
 そして、同盟国に「自分の地域で主要な責任を引き受ける」ことを求め、とりわけ「トランプ大統領が日本と韓国の負担共有の増加を強く求めている」と日本と韓国を名指しにしている。さらには「集団防衛への貢献を増やすべき豊かな国家が含まれる」と指摘。この指摘が念頭に置いているのは日本であると国防総省幹部が語っていることを日経新聞(12月7日付)が報じているように、中国侵略戦争の「前線国家」として日帝が徹底的に矢面に立つことを求めている。
 ここでの「負担の共有」とは、実際には軍事費の増加にとどまらない。10月に行われた自衛隊統合演習が示した通り、「自衛隊の基地が使えない事態」を想定した空港や港湾などの重要インフラの軍事利用、大量の死傷者が出ることを前提とした後方輸送・戦時医療訓練など、人民の命と生活、社会生活を全面的に戦争に投げ入れることが「負担」の中身なのである。

対中戦と一体の中南米侵略

 主要メディアは「NSSは西半球(南北アメリカ)を第一の優先課題にあげている」「19世紀のモンロー主義への回帰」などと報じているが、誤りである。
 NSSは「西半球」の項目において、「西半球外の競争相手が西半球に軍事力やその他の脅威となる能力を配置したり、戦略的に重要な資産を所有・管理したりする能力を排除する」と述べ、Ⅱ章では「敵対的な外国の侵入や重要な所有がなく、決定的なサプライチェーンを支える西半球を望んでいる。そして、重要な戦略的拠点への継続的なアクセスを確保したい。言い換えれば、米国はモンロー主義の『トランプ的帰結』を主張し、実行に移す」と極めて率直にその狙いを語っている。つまり、「敵対的な外国」=中国(とロシア)がすでに中南米の第一の貿易相手国になっており、交通・通信インフラや鉱物資源にまで進出している事態に対して、中国を排除して米帝資本のサプライチェーンの一環となることを要求しているのだ。中国との全面戦争に向け、中国市場と切り離されてもレアアースをはじめとした資源を米帝に供給し、米帝のために物資を生産し重要インフラを提供する場所になれ、ということだ。
 そもそもNSSで言われている「モンロー主義のトランプ的帰結(系論)」とは何か。それは、19世紀に新興の「資本主義国」であったアメリカが、南北アメリカ大陸とヨーロッパ大陸の間の「相互不干渉」を求めたモンロー主義そのものへの回帰ではない。それは20世紀の帝国主義時代に入って、セオドア・ルーズベルト政権が「モンロー主義の帰結(ルーズベルト系論)」と称して遂行した、新興の「帝国主義国」となったアメリカによるカリブ海・中南米地域への侵略戦争と勢力圏化のことだ。その「トランプ版」をやると言っているのである。米帝が中国侵略戦争―世界戦争に突き進むために、米帝の「裏庭」としてきた中南米に侵略戦争を仕掛けようとしているのだ。
 またNSSでは中東について、6月のイラン核施設への直接攻撃や、トランプによるガザ「和平」計画に言及し自画自賛している。イスラエルを前面に立てたジェノサイドとパレスチナ民族解放闘争の圧殺をあくまで続ける意志を鮮明にしている。絶対に許せない。
 大没落し追い詰められた米帝の中国侵略戦争は、トランプ関税にも象徴されるように他帝国主義への争闘戦でもある。だからこそ日帝・高市は、「前線」を引き受けて積極的に中国侵略戦争に突進し、侵略の分け前を獲得しようと必死になっている。今が歴史の分岐点だ。反帝・反スターリン主義世界革命へ向かって中国侵略戦争阻止の反戦闘争の大爆発をかちとろう。

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