書評 国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係
書評
国民は知らない「食料危機」と「財務省」の不適切な関係
鈴木宣弘 森永卓郎
講談社+α新書
990円
農業と地方の崩壊的現実を突き出す
スーパーマーケットやコンビニに並べられている豊富な食品群を眺めると、「食料危機」はこの日本では無縁の出来事と思ってしまうかもしれない。だが、実際の深刻な食料危機がわれわれの生活のすぐ隣りに迫っていることをこの本はリアルに告げ知らせる。
著者は、日本農業の危機について警鐘を鳴らし続けてきた東京大学教授・鈴木宣弘氏と、経済アナリストで獨協大学教授の森永卓郎氏の二人。
鈴木氏は前書きで「日本農家の平均年齢は68・4歳である。この数字は、あと10年もしたら、日本の農業・農村が崩壊しかねない、という事実を示している」と述べ、日本の農業と地方の崩壊的現実を容赦なく突き出す。
そして二人の対談に入る。冒頭で、37%という異様に低い日本の食料自給率を確認し、一方でトマホーク、オスプレイなどの購入に莫大な金を投じながら、他方で食料危機には花卉(かき)農家に強制的に芋や米への転作を命令しようなどという政府の「有事」対応策を、「農業の現場を何もわかっていない」と強く批判する。
そしてドローンやAIを駆使した「デジタル農業」が何の解決にもならないこと、企業の参入を促進したり商品価値の高い作物だけを優遇すれば、農業全体の衰退を招くこと、化学肥料(窒素とリン)と農薬の大量投入によって土壌や水資源の劣化が全世界的に引き起こされていること、そうした崩壊的事態の原因は常に目先のもうけを追求し続ける「グローバル資本主義」にあると解き明かす。
鈴木氏は「台湾有事」となれば食料輸入が途絶え日本が飢餓に直面することを繰り返し強調し、具体的方策として「国産の食料を確保するために、日本の農業強化のために予算を使え」と政府に迫る。森永氏は自らの経験に基づき「みんなが農業をやる」ことを提唱する。
随所でマルクスを引き合いに出して資本主義の限界を指摘するが、二人とも米国はじめ他国の干渉から日本の国益としての農業を守るという方向からしか問題を立てていない。こうした国益主義からの脱却は、三里塚闘争を闘い、労農連帯論を鍛え発展させる上でのわれわれ自身の課題だ。
国境をこえた労働者・農民の連帯の力で、自国をはじめ全世界の帝国主義支配を打ち倒す。その道を進む以外に日本農民の生きる道もない。本書を読み、そのことをあらためて現実に即して肝に銘じた。
マルクスは「経済学批判序説」で、「これらの諸関係〔既存の生産諸関係〕は、生産諸力の発展諸形態からその桎梏(しっこく)へと一変する。このとき社会革命の時期がはじまる」と述べた(唯物史観のテーゼ)。資本主義において爆発的に増進した生産力(科学力)は、社会の「発展」を促進するものではなくなり、自然からの極度な収奪、生活環境の人為的破壊、何よりも兵器開発と戦争によって、ついに社会存続条件の破壊にまでいたっている。成田第3滑走路計画はその一つの象徴と言えよう。われわれは、今ただちに「社会革命」を開始しなければ生き永らえない時代に置かれているのだ。
(田宮龍一)