書評 食べものから学ぶ現代社会 平賀緑著 資本主義経済の根本を批判

週刊『三里塚』02頁(1135号02面04)(2024/05/13)


書評
 食べものから学ぶ現代社会 平賀緑著
 資本主義経済の根本を批判


 ジェノサイド(大量虐殺)とともに、飢餓を戦争の武器としているイスラエル。小麦の高騰によって食料不足の問題が深刻な問題となっているウクライナ戦争。「戦争と農業」——この関係をひも解く上で参考になるのが本書だ。
 著者は前著『食べものから学ぶ世界史』(21年)で数百年にわたる食料の歴史をわかりやすく描いた。本書はこの続編として、1970年以降の新自由主義化された農業と経済の世界のカラクリを鋭く暴きだす。
 冒頭、コンビニのおにぎりの値段を切り口にしながら、新自由主義化された食料システムを立体的に展開する。
 たとえば、小麦価格の高騰。これはウクライナ戦争における農地の焼失や輸送供給ルートの途絶が原因と見られがちだ。しかし、著者は「小麦の価格を決めるシカゴ相場も、ドルや円の交換レートも、需要や供給より、ただ値動きでもうけようとする『投機筋』が9割方を動かしている」と述べる。また、「日本の食料自給率が低い」ということが盛んに議論されるが、問題の原因は、戦後、商社と食品会社が手を携えてアグリフードビジネスを輸入材料に依存しながら作ってきた輸入原料多用システムにあると指摘する。
 つまり、新自由主義におけるグローバル化、巨大企業、金融化、技術革新が、農業と食料システムの根幹にあると結論づける。いまや投機やマネーゲームとなったグローバルな金融取引が、飢餓や気候危機の原因となって爆発し、世界に住む何十億人という生命を左右している。同時に、このシステムの大きな渦に、労働者階級も引き込まれる。「砂糖、油脂などの生産コストを抑えてくれる安い食材が、飢餓と肥満を併存させ、消費者にもっと買わせるためにも利用される兵器となっている」という。それは社会に不可欠な労働=エッセンシャルワークが資本に安く買いたたかれることと一体の構造だ。この矛盾の極限の形態として、戦争がある。
 著者は「少し乱暴な言い方をすれば、資本主義とは、絞れるところから資源や富を絞って、もうけや利益をあげて競争を続けるシステム」「人や自然など、できるだけ『タダ』で搾り取れるものを搾り取って、お金で計られる部分だけの利潤を追求してきたのが、資本主義経済」と断じる。社会矛盾の根本問題が資本主義経済システムにあることの具体的暴露に学ぶところ大だ。岩波ジュニア新書、1034円。
(是永真琴)
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