明日も耕す 農業問題の今 「食料自給力」のまやかし 有事の増産強制を狙う

週刊『三里塚』02頁(1119号02面05)(2023/09/11)


明日も耕す 農業問題の今
 「食料自給力」のまやかし
 有事の増産強制を狙う

(写真 「有事には芋を食え」と農林水産省は言う)


 農水省は8月8日、「不測時における食料安全保障に関する検討会」の初会合を開いた。気候変動や紛争など食料の安定供給を脅かすリスクで輸入が滞るといった有事に、政府全体で意思決定できる体制を整えるのだという。
 農水省が開いた検討会は、政府が6月に決定した「食料・農業・農村基本法」見直しの指針を踏まえ、不測の事態の定義やそれに対する対策、政府の役割などについて議論し、流通制限や増産指示を可能とする法制度などを検討するものだ。
 年内に検討結果をまとめ、来年の通常国会への法案提出を目指す。
 こうした議論の元になるであろう数字として、「食料自給力指標」(以下、「食料自給力」)を取り上げておきたい。

戦時向けの指標

 食料自給力は、海外に頼らずに国内の農業生産能力をフル活用し効率よく生産した場合、どの程度の食料が得られるかカロリーで表したものだ(農地や農業者が減少すれば低下する)。
 2015年3月に農水省が発表した「食料・農業・農村基本計画」で初めて指標化された。
 いざという時に備えるためには、この食料自給力を維持・向上させることが重要で、そのためには、「食料供給に不可欠な農地や労働力などの国内の農業生産基盤を確保し、更なる技術開発を進めていく必要がある」というわけだ。
 先ごろ農水省が発表した2022年度の食料自給力は、現在の食生活に近い「米・小麦中心の作付け」と、供給熱量の確保を優先した「芋類中心の作付け」(戦時における食事?)の2パターンで示されている。
 前者は1人1日当たり1720㌔カロリーで、後者は2368㌔カロリー。
 農地面積や労働力の減少が響き、いずれも過去最低で、米・小麦中心の作付けでは、体重維持に要する「推定エネルギー必要量」の2168㌔カロリーも下回った。
 そもそもこの指標は絵に描いた餅だ。
 肥料や農薬、燃料、種子などは国内生産に十分な量が確保されているとの仮定のうえに、再生利用が可能な荒廃農地の活用も前提にされている。
 およそ現実離れしているうえに、現状でも「国民を食わせる」には厳しい数字だが、こうした数字もテコにして、食料有事法の制定が進められようとしているのだ。

農業を守る道は

 気候危機や生産資材の暴騰で廃業も相次ぎ、日本の農業危機は深刻さを増している。農地も農民も減り続けているのに、抜本的な対策もしないまま、まやかしの数字を示し、食料安保を声高に叫び、有事の増産強制を議論し始めたことは、まさに岸田政権の戦時体制づくりだ。
 食料と農業を守る道は、国産自給力を云々することではない。戦争を止めることだ。
 戦争のための有事法制定を打ち砕こう。
 農民は今こそ労働者とともに反戦に立ちあがろう。

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