〝農家は戦時に穀物つくれ〟 「食料安全保障強化」を叫び 基本法改定に進む岸田政権 労農連帯こそ飢餓からの解放の道

週刊『三里塚』02頁(1117号02面01)(2023/08/14)


〝農家は戦時に穀物つくれ〟
 「食料安全保障強化」を叫び
 基本法改定に進む岸田政権
 労農連帯こそ飢餓からの解放の道



(写真 ウクライナ戦争)

(写真 カリフォルニア山火事)


 軍拡と改憲、戦争政策を進める岸田政権は「戦時における食料問題」へと本格的に踏み込んできた。「有事」において輸入がストップし国内で食料不足が生じた場合、国・農林水産省が農産物の増産を農家や民間事業者に命令できる制度をつくる、そしてそのために現在の「食料・農業・農村基本法」を来年をめどに改定するという方向で、今検討が進められている。
 具体的には、花卉(かき)農家に米や穀物への転作を命じたり、限られた食料がまんべんなく消費者に届くように関係事業者に指示したり、食料の価格統制や買い占め防止、配給制などを、強制力をもって行えるよう法を整備していくというのだ。
 現在農水省は「基本法改正」に向けて食料・農業・農村政策審議会基本法検証部会を頻繁に開催し、キャンペーンに血道をあげている。5月29日には「中間とりまとめ」が出された。
 そこではロシアのウクライナ侵攻、気候変動などを挙げて、周囲を海に囲まれた食料自給率38%の日本が、いかに深刻な食料危機に直面しているか警鐘を鳴らし、「食料安全保障」の強化が喫緊の課題であることを強調している。そして「実際に不測の事態に備える体制が十分に講じられているとは言えない状態」とし、今から国内生産の強化、安定的輸入先確保などを進め、自給率だけでなく輸入依存度の高い小麦、大豆、あるいは肥料や飼料の調達などでも数値目標を設けて手を打つべきだと危機感をあらわにしている。
 国家のつごうに合わせて企業はもとより、農民、農業関係者、労働者を直接統制し、戦争協力に動員しようとするこのような言いぐさを怒りなしに読むことができるだろうか。

誰が農業を破壊してきたか

 1965年には73%だった食料自給率が38%にまで下がるにまかせていたのは誰のせいか。ほかならぬ歴代自民党政権の農業切り捨て政策の結果だ。とりわけ安倍農政において顕著だったように、もうけを出せる農業、輸出できる農作物ばかりが重要視され、官邸から「大規模化、農地集積」を呼号するばかりで、農家の苦境は放置され農家戸数は激減してきた。食料は「安ければ安いほどよい」とばかりに、遺伝子組み換え作物や残留農薬の基準を下げ、海外からの農産物輸入を徹底的に促進してきた。TPP(環太平洋連携協定)やRCEP(地域的包括的経済連携)など、巨大自由貿易協定が一つ結ばれて関税が撤廃・引き下げされるごとに、日本の自動車産業は約3兆円もうかり、農業は1兆数千億円規模の損失を被ってきたと言われる。
 国の当初予算に占める農林予算の割合は、2000年度4%から23年度2%に半減している。その一方で軍事費は2倍化だ。
 その日本政府が今になって、農家に「有事には穀物を作れ」などと命令しようというのだ。
 農水省が独自に定める「緊急事態食料安全保障指針」にも同様の規定があるが、法的強制力がないため、野村哲郎農水相は「農家の皆さん方になかなか効き目がない」「法律で明確にしないといけない」とあけすけに述べている(5月23日記者会見)。
 (そもそも、いきなり外部から一方的に転作を命じられて、それを直ちに実現できるとでも考えているなら、農業への無理解も甚だしい。)

深刻化する世界的食料危機

 1999年に制定された現在の食料・農業・農村基本法は、食料の安定供給、農業の持続的発展、農村の振興など、農政の基本的な理念や政策の方向性を示したものだった。それが破産した上に今や、基本法の主軸が「戦時に備えた食料確保」へと変質させられようとしている。今回の「見直し」では農家・農村が抱えるさまざまな問題も検討課題に上っているが、「スマート農業」「輸出強化」などを並べて競争をあおるばかりで、何の打開・解決にもならない。
 人間が生きていく上での絶対的基礎である食料(生産・流通)が、為政者によって戦争準備政策に制圧されることなど、けっして許してはならない。
 気候変動の激化、農地・穀倉地帯の国家間争奪戦、肥料の逼迫(ひっぱく)、そして何よりもウクライナ戦争激化の情勢のもとで、明らかに全世界的食料危機が深刻の度合いを増している。
 この状況を打破し、人類を飢餓から解放する道は「食料安保の強化」ではなく、帝国主義戦争と領土拡張に反対し、国家権力打倒に向けて進む全世界の農民・労働者の闘いの前進と勝利の中にある。市東孝雄さんの実力決起、三里塚労農連帯がその道を指し示している。
(田宮龍一)

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