明日も耕す 農業問題の今 「有事に備え食料増産を」 基本法改悪し農家を統制
週刊『三里塚』02頁(1113号02面05)(2023/06/12)
明日も耕す 農業問題の今
「有事に備え食料増産を」
基本法改悪し農家を統制
(写真 戦争中は国会議事堂前も耕作地に【1943年】)
農業政策の基本方針となる「食料・農業・農村基本法」の改正について、農水省は5月29日、中間とりまとめ(以下「中間案」)を公表した。中間案は食料安保について、これまでにない踏み込みを示している。
中間案は、ウクライナ戦争やコロナ禍の経験から、世界的な凶作や有事といった不測の事態に備えるとして、関係省庁の連携体制や、輸入に依存する産業構造の転換などさまざまな制度変更を掲げている。
9月に正式決定し、来年の通常国会に基本法改正案を提出するという。
「食料安保」掲げ
注目すべきは、農家への増産や流通の規制を政府が命令できるよう、新法も視野に検討するということだ。中間案は、「不測時における食料安全保障」として「深刻な食料安全保障リスクが発生した場合には、食料生産に必要な農地、農業者、農業機械・施設の活用、生産資材の優先的な配分等を、行政命令により行うというような制約を伴う手法も想定する必要がある」と述べる。
野村哲郎農水相は5月23日の記者会見で「コメの代わりにイモを植えろと命令しても農家は聞かない。法律で明確にする必要がある」として根拠となる新法が必要との認識を示した(朝日新聞)。不測時とはすなわち有事のことだ。
戦中よりも食料事情が悪化した1948年、食糧確保緊急措置法が定められた。
主要農産物の生産・供出数量の割当てや肥料、農薬、農機具等の配給数量が定められ、市町村長が生産者別・作物別の計画を定めて指示する。
例えば花の作付けを制限して穀物、イモ類の作付けを指示するというものだった。
事例は戦後の話だが、中間案は、まさに戦時統制経済への道なのだ。
平時からの備蓄
もうひとつ特徴的なことは「平時における安全保障」を掲げたことだ。平時からの食料安全保障確立を理念に掲げ、国内生産の増大や備蓄の有効活用、持続可能な食料システムをうたっている。フードバンクや子ども食堂などの活動支援も盛り込まれている。
「食料は輸入すればいい」と農業を破壊しておいて「今さら」という話ばかりだが、一見すると食料・農業へのまじめな取り組みに見える。
JAをはじめ、農業関係の団体やメディアほど中間案を歓迎し、積極的な提言が行われている。
だが、「平時」というのは「有事に備えて平時から」以外のなにものでもない。
軍事予算を2倍化し戦争サミットを強行した岸田政権の掲げる食料安保は、戦争遂行のための戦時農政への転換なのだ。
戦争反対、岸田政権打倒を抜きにして中間案を語れば、岸田の戦争推進に取り込まれることにしかならない。
中国侵略戦争に向けた戦時農政を許すな! 農民を戦争に動員する法律の制定を粉砕しよう。