明日も耕す 農業問題の今 昆虫食は未来を救うか? 伝統食と異なる工業製品
週刊『三里塚』02頁(1097号02面04)(2022/10/10)
明日も耕す 農業問題の今
昆虫食は未来を救うか?
伝統食と異なる工業製品
ウクライナ戦争と気候変動で人類は「飢餓」に直面している。日本でも、2万品目に及ぶといわれる食品が10月から値上げされるなど、食料問題は人ごとではない。こうした中で今、昆虫食への注目が集まっている。
JAL傘下のLCC・ジップエアは、7月から食用コオロギを使った機内食の提供を始めた。「トマトチリバーガー」と「ペスカトーレ」の2品目で、国産の食用コオロギの粉末がパンとパスタに練り込まれている。「空飛ぶ昆虫食」してマスコミの注目を集めた。コオロギを食材として使うことで環境負荷を減らすというが、どういうことか。
コオロギは家畜などに比べて生育に必要とされる土地や飼料が大幅に少なく、タンパク質などの栄養素を豊富に含む。雑食でエサは食品廃棄物などでも賄え、食品ロスや環境負荷を低減できるというわけだ。
1千億円の市場
昆虫食に注目が集まるきっかけのひとつが、2013年に国連食糧農業機関(FAO)が公開したレポートで、食料問題の解決策として、昆虫を食用としたり、家畜の飼料にしたりすることを推奨した。世界中で昆虫食に目を向ける動きが年々高まり、19年度に70億円だった昆虫食の世界市場は、25年度には1000億円規模に拡大するという予測もある。
昆虫を食べると聞いて、皆さんはどのように感じられるだろうか。嫌悪感を感じる方も多いと思うが、日本でも大正時代にはハチ、カミキリムシ、カイコなど50種類以上の昆虫が日常的に食べられていたという。
たしかに幼少期を振り返ると、母の実家の田んぼで捕まえたイナゴを祖母に佃煮にしてもらい、喜んで食べていた記憶がある。「昆虫食は古い食文化」「古代からきた未来食」といった言葉を目にすると、「なるほどそうかもな」という気にさせられる。
だが、ビッグビジネスと目されて、もうけを競い合うようになると話は違ってくる。昆虫食とはいっても、昔ながらの伝統食とは全く違う。
企業間競争激化
病気や寄生虫を避けるとして、昆虫はIT技術を使ったスマート養殖で育てられる。その粉末を原材料に使い、昆虫の原型をとどめない加工食品が主だ。生産技術、加工技術の開発に企業がしのぎを削る「工業製品」だ。そしてここでも問題になるのがゲノム編集だ。今年の5月、京都大学などの研究チームは、多くの昆虫に使える簡単なゲノム編集の手法を開発し、「昆虫食などへの技術の応用が期待できる」と報じられた。ゲノム編集による付加価値をうたった昆虫食の登場も時間の問題だろう。
前々回に取り上げた細胞農業と同様に、昆虫食も食の支配をかけて、安全を二の次にした金もうけの競争になる。
資本主義を倒す以外に食料問題の解決はない。