明日も耕す 農業問題の今 炭素貯留農業とは何か 脱炭素ビジネスに道開く

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週刊『三里塚』02頁(1096号02面04)(2022/09/26)


明日も耕す 農業問題の今
 炭素貯留農業とは何か
 脱炭素ビジネスに道開く


 9月11日付の日経新聞「Views—先読み」というコーナーに「農業、脱炭素の主戦場に」という記事が掲載された。EUは農業の脱炭素を促すために、炭素貯留農業(カーボンファーミング)の法制化に入るという。
 カーボンファーミング(Carbon Farming)とは、大気中のCO2を土壌に取り込んだり、土壌の質を向上させて炭素を貯留することで温室効果ガスの排出削減を目指す農法だ。
 例えば不耕起栽培は、耕すことで土壌中の炭素を空気中に放出することを避け、微生物などの働きも阻害しないのでより炭素を土壌に蓄積できることになる。

「環境破壊対策」

 8月11日にNHKのBS1で「カーボンファーミング▽気候変動対策で注目の環境再生型農業」という番組が放映された。
 不耕起×無農薬×無肥料というリジェネラティブ(環境再生型)農業を紹介している。農地の広さなど日本とは事情が違う点もあるが、「地中の生態系のはたらきを阻害さえしなければ、あらゆる土が真に『生きた土』に変わる。さらに、やせた土地の回復は、農業の衰退、食料危機、環境破壊、気候変動問題などの対策にもつながる」という取り組みは非常に興味深いものだった。
 だが、環境再生型農業は結果として脱炭素につながるのであって、脱炭素を目的とする農業ではない。それをごっちゃにして、カーボンファーミングの魅力として宣伝されると「ちょっと待てよ」と言いたくなる。

抜け道を広げて

 カーボンファーミングは「温室効果ガスの排出削減を目指す農法」という言葉のとおり、農業を脱炭素の枠組みからとらえたものだ。
 EUやアメリカで進められる法整備とは、カーボンファーミングを排出量取引制度に組み込むためのものだ。法制化が実現すれば、農業生産者は温室効果ガスの削減に寄与することで報酬を得られるようになる。
 それで環境再生型農業などの拡大につながるかもしれないが、大企業はカーボンファーミングを支援することで自社事業での炭素排出量を削減することなく、炭素クレジット(削減量)を獲得できる。脱炭素の抜け道を広げるだけに過ぎない。
 課題は山積みで、土壌に貯留された炭素量をどう評価・認定するのか基準は確立されていない。政治的な駆け引きやグリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)を生み出しかねないとの指摘もある。
 他方、企業が農家からクレジットを購入するための市場を開設する会社もあらわれている。
 さらに温室効果ガスを可視化するとして、スマート農業も絡んでこようとしている。
 まさに農業が脱炭素ビジネスの主戦場にされるということなのだ。 
 カーボンファーミングは早晩日本の農政でも取り入れられ、もてはやされるだろう。その欺瞞(ぎまん)を許してはならない。
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