切迫する世界的食料危機 ウクライナ戦争と気候変動で人類は「飢餓」に直面 今問われる労農連帯
切迫する世界的食料危機
ウクライナ戦争と気候変動で人類は「飢餓」に直面
今問われる労農連帯
8月1日、ウクライナ南部オデッサ港から穀物を満載した貨物船が中東のレバノンに向けて出港した。ロシアの黒海封鎖によって滞っていたウクライナからの穀物海上輸送が、この日から再開されたのだ。
だが、前日の7月31日には南部の港湾都市ミコライウへのロシア軍の激しい攻撃があり、ウクライナの大手穀物商社経営者夫妻の住居が狙い撃ちされ死亡したとされる。
また、ウクライナ側が敷設した機雷は黒海から取り除かれていない。
トルコの仲介によって「合意」にこぎつけた穀物輸送再開だが、双方の敵意と戦闘の中でそれが安定的に継続する保証はどこにもない。
いやむしろ、ウクライナを発火点とする世界戦争危機と表裏一体で、全世界的規模での食糧危機が迫っていることを、今はっきりと見すえなくてはならない。
穀物不安深刻化
世界の小麦の輸出量は年間約2億㌧、そのうちロシアとウクライナの両国の輸出は約6000万㌧で約30%、カロリー換算で世界の食料貿易の12%を占める。
ウクライナでは、毎年4〜5月に冬小麦の収穫、5〜6月に春小麦やトウモロコシなどの作付が始まる。しかし戦争が長期化する中で、冬作物については20%の農地で収穫ができず、春作物は30%の農地で作付が断念された。今年の穀物収穫高は約4850万㌧で、昨年の8600万㌧からほぼ半減したとされる。農民は「小麦の国内価格は戦争前の3分の1程度。収穫しても赤字が膨らむだけでとても出荷できない」と嘆く。
ウクライナ穀物危機は特に、中東・北アフリカ諸国を直撃している。
ウクライナ産小麦への依存度はソマリア(人口1600万人)で5割、レバノン(同500万人)では8割に達する。レバノンでは小麦の輸入が滞ったことでパンの価格が倍に跳ね上がり、パン販売店が襲撃される事態も起きていた。
小麦自給率が4割で、輸入小麦の約8割をロシア・ウクライナ産に依存するエジプトでも、侵攻後に経済制裁や供給減少に対する不安が高まり、パンの価格が50%上昇した。人口2億7000万人のインドネシアは、小麦輸入の3割をウクライナに依存する。
小麦生産で世界第2位のインドの穀物輸出増が期待されていたが、観測史上最高の熱波に襲われ、インド政府は国内供給不足を恐れて輸出を一時停止した。
国連世界食糧計画(WFP)によると、世界で食料不足に陥る人々の数は約3億4500万人。そのうち深刻な「急性飢餓」状態の人口が前年から約4000万人増え、過去最悪の1億9300万人に上った。
調査は侵攻前に行われており、地域紛争、気候変動に拍車をかける形でウクライナ戦争が世界の食料不安、食糧危機を加速させているのだ。
肥料輸入が途絶
食料問題と直結する肥料の価格が、全世界的に高騰している。今日の大規模農業では、化学肥料の使用を抜きに収穫を得ることはできない。
窒素、リン、カリ(カリウム)は肥料の3要素と呼ばれる。
世界銀行によると、2022年4月の肥料価格は前年同月比で、窒素が181・9%、リンが79・1%、カリが177・8%の異常な上昇となった。経済制裁によってロシア、ベラルーシ両国から西側諸国への輸出が激減したからだ。
2019年実績で、ロシアは窒素で世界輸出第1位の15・5%を占め、カリは18・7%で第2位、リンは13・7%で第3位。ベラルーシもカリで18・2%を占める第3位の輸出国である。カリはロシアとベラルーシが世界の生産シェアの35%を占める
ロシアは広大な国土を抱えて塩化カリやリン鉱石の鉱山を持つ資源国だ。豊富な天然ガスや石油による低コストのエネルギーを使って窒素肥料原料も合成する。高い国際競争力を武器にシェアを拡大してきた。
肥料生産には大量のエネルギーが必要で、世界最大の天然ガス輸出国ロシアが化学肥料輸出でも世界トップに立つ。
日本の化学肥料の国内需要は年90万㌧超で、ほぼ全量を海外に頼る。1㌶当たりの消費量は268㌔で、中国の389㌔に次ぐ世界第2位だ。
日本もロシア、ベラルーシからの化学肥料の輸入を停止した。このため塩化カリウムは、3月に1㌧562㌦と前年の2・8倍まで急騰。
リン酸アンモニウムの9割、尿素の4割を日本に供給していた中国も昨年10月、国内価格の上昇に対処して輸出規制を実施した。「今後、中国からリンが入らず、経済制裁を受けるロシアとベラルーシからカリも入らないとなると、無資源国・日本には最悪の状況」と農業関係者は嘆く。
さらに、日本の加工食品にあまねく使用されているパーム油の世界最大の生産国インドネシアでも、肥料不足が深刻化している。原材料であるアブラヤシの栽培に窒素、リンなどが大量に必要であり、それらのロシア、ベラルーシからの輸入が経済制裁で途絶の危機にあるからだ。こうした状況下で今秋、日本国内の食料品値上げは2万品目に及ぶと予想される。
展望示す三里塚
食料をめぐるこのような事態に対し、日本帝国主義(自民党政権)はあまりにも危機感に乏しく、「国内農業を守り、人々を食わせていく」という使命感も薄い。
それは、新自由主義政策のもとで、中小農業は廃業し競争力のある農家だけが生き残ればいい、企業の農業進出を促進すればいい、食料自給率は下がるにまかせ(現在38%)食料が足りなければ輸入すればいい、という姿勢を取り続けてきたからだ。
そして岸田政権は今、安倍の死をも利用しつつ軍備予算増強、改憲・戦争の道を進みつつある。まさに「バターより大砲を」と叫び再軍備へと進んだナチスと同じだ。
今年後半から来年以降、人類は未曽有の食糧危機=飢餓に直面する可能性を否定できない。その時、労働者階級と農民の革命的連帯が国際的、実践的に問われる。
われわれは労農連帯の拠点として半世紀を超えて闘う三里塚の意義を確認しつつ、三里塚で先進的に取り組まれてきた、完全無農薬有機栽培の産直運動(化学肥料の大量投下を基盤とした現代農業からの脱却)の展望を示さなければならない。残された時間はあまり多くない。
(田宮龍一)