明日も耕す 農業問題の今 下水汚泥を肥料に活用? 危機に乗じた新ビジネス

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週刊『三里塚』02頁(1089号02面03)(2022/06/13)


明日も耕す 農業問題の今
 下水汚泥を肥料に活用?
 危機に乗じた新ビジネス


 ウクライナ戦争が引き起こしている食料危機は、小麦をはじめとした生産物の流通停止だけでなく、肥料の需給ひっ迫・高騰が大きな要因となっている。各国は肥料の確保に懸命だが、新たな懸念も生じている。
 肥料原料は、ベラルーシに対する経済制裁と中国の輸出規制などで価格が高騰していたが、ウクライナ戦争で世界的に需給がひっ迫した。
 日本でも輸入尿素が前期比で94%値上げとなるなど、多くの品目で過去最高水準の価格となった。さまざまな国内農業への影響が、連日報じられている。
 この状況下で、気になる動きがある。アメリカではすでに広く使われている下水汚泥の肥料としての活用だ。
 下水汚泥には植物に有益な窒素、リン酸などの栄養分が豊富に含まれることに着目したもので、日本でも使われている。
 農水省も「汚泥肥料とは、汚泥を乾燥や粉砕、発酵させることにより肥料としてリサイクルするものです。近年、肥料原料価格の高騰により、汚泥の肥料原料としての利用が増えています」と下水汚泥の利用価値を認めている。
 ウクライナ戦争で化学肥料が高騰するなら、下水汚泥を活用しようという動きが強まることは容易に想像される。

分解しない物質

 では、下水汚泥の何が問題か。PFAS(ピーファス)の残留だ。
 PFASとは耐熱、耐水、汚れ防止などのために、洗剤や消化剤などさまざまな製品に使われてきた有機フッ素化合物だ。自然環境では分解せず生体内に蓄積する。近年、がん、甲状腺異常、肝臓障害などさまざまな健康被害の可能性が指摘され、欧米では急速に規制が強まってきている。 2020年4月に普天間飛行場から大量の泡消火剤が周辺住宅地に漏出した事故で問題になった物質で、沖縄では各地で汚染が深刻な問題になっている。

汚染に基準なし

 汚泥肥料の場合はこうだ。工場排水などでPFASに汚染された水が下水に流れ込んだ場合、下水処理場で水は浄化されるが、汚泥の中にPFASは残留する。その汚泥が肥料として使われれば、農地が汚染される。 市民団体の報告では、アメリカの農地2000万エーカー(約800万㌶=日本の全農地の約2倍)がPFASに汚染されたという。
 農水省も、汚泥肥料に重金属や放射性物質などが含まれる可能性には注意を呼びかけ、基準を設けて規制している。だが、PFASについては、何の基準も設けていない。それどころか、実際に汚泥肥料を製造・販売する会社では「環境に優しい有機肥料」をうたい文句にしている。みどりの食料システム戦略の中で、新たな有機資材と認められ可能性もある。
 戦争による惨事便乗型の金もうけと一体で農地と農業を破壊する危険極まる下水汚泥の肥料化を許してはならない。
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