明日も耕す農業問題の今 ゲノム編集競争の危険性 企業のための遺伝子操作
明日も耕す農業問題の今
ゲノム編集競争の危険性
企業のための遺伝子操作
昨年、激しさを増すゲノム編集の開発競争について、「遺伝子操作による金もうけを許してはならない」と小欄で警鐘を鳴らした。だが、遺伝子操作をめぐる動きは、この1年でものすごい勢いで進んでいる。
すべてのDNAを意味するゲノム。ゲノム編集は一言で言えば、都合の悪い遺伝子を切断してその働きを壊す技術だ。
遺伝子組み換え食品は違う遺伝子が組み込まれることから、国は安全性審査を義務づけた。しかし、ゲノム編集食品は、もともとある遺伝子を切るだけであり、従来の品種改良と区別できないので安全性審査は必要なしとしている。
9月15日からゲノム編集の高GABA(ギャバ)トマトの販売が始まり、10月からはその家庭菜園用苗の販売もはじまった。GABAとは血圧を下げる効果があるとされるアミノ酸で、この量を制限する遺伝子の一部を壊して含有量を増やしたものだ。
さらに、「肉厚マダイ」が販売の承認を待ち、収穫増を目指した「シンク能改変稲」、スギ花粉症対策として花粉を作らせない「無花粉杉」、光合成能力を高めた葉緑体といったものまで研究が進められている。
「切るだけ」か?
ゲノム編集は、他の生物の遺伝子が入らないから「自然の中での変異と同じ」で安全に問題はないとされる。
だが、切るだけといっても、そのためにいろいろな遺伝子がセットで挿入される。
内実は遺伝子組み換え技術そのものなのだ。オフターゲットと言って狙う遺伝子ではない別の遺伝子を切ってしまうリスクや想定外の変異が起こりうるのだ。
根本的な問題は、ゲノム編集などの遺伝子を操作するバイオテクノロジーが、安全審査をはじめとした規制緩和のもとで、企業の金もうけのために加速度的に推進されていることだ。新型コロナウイルスのワクチン開発も例外ではない。
企業や国家の戦略にもとづいたゲノム編集によって、植物、昆虫、魚、動物ついには人間までも意図的に改造し始めたのだ。
市場規模6兆円
だが、長い時間をかけて変化し多様化してきた生物の遺伝子の複雑さは、そんなに簡単なものではない。
「今や原発に続き、コントロール不能な領域に踏み込み、巨大事故に匹敵する惨事をもたらしかねないのが、バイオテクノロジーである」(天笠啓祐著『新型コロナワクチン その実像と問題点』)。
ゲノム編集は、私たちの未来とは相いれない。
インドの調査会社によれば、「世界の農業分野に関するゲノム編集の市場規模は2030年に580億ドル(約6兆6000億円)になる」(11月5日付日本経済新聞)という。この金もうけのために進められるゲノム編集を許すわけにはいかない。