千葉県で鳥インフル猛威 470万羽処分 「巨大工場のようなやり方変える時」 養鶏農家にインタビュー 聞き手 小川浩さん(全国農民会議共同代表)
週刊『三里塚』02頁(1064号02面01)(2021/05/24)
千葉県で鳥インフル猛威 470万羽処分
「巨大工場のようなやり方変える時」
養鶏農家にインタビュー
聞き手 小川浩さん(全国農民会議共同代表)
(写真 〈上〉殺処分に向かう職員【2月8日 匝瑳市】〈左下〉平飼いの鶏〈右下〉ケージ飼いの鶏)
この冬、鳥インフルエンザが猛威を振るい、千葉県内で総計470万羽以上が殺処分されました。今回の被害は、アニマルウェルフェア(AW=家畜福祉)の問題にとどまらず、資本主義における農業の矛盾を鋭く突きだしています。全国農民会議機関誌「ゆい」に掲載の小川浩共同代表による養鶏農家へのインタビューを転載します。
政治家への賄賂接待の果てに…
——鳥インフルが見つかったのは。2月に入ってから。匝瑳市で見つかった鳥インフルの最初が、直線距離で200㍍あるかないかの近くの農場。心配していたが、それから4日後に自分のところで出た。それから大変だった。
いすみ市、横芝光町、匝瑳市、さらに旭市、多古町と広がっていって、千葉県全体で470万羽を殺処分した。茨城県の鶏卵大手のイセフーズにも広がっている。
——アキタフーズが最初?
そうだね。元代表(秋田善祺、吉川元農相への贈賄罪などで在宅起訴)はうちらの業界のボスで、西川公也(元農水相)が書いた「TPPの真実」という本を2万円で3冊買わされた。多古町の養鶏経営者が養鶏協会の会長をしていたが、TPPに反対するとしてアメリカでの交渉の際に会社の幹部4人で行って、(森山裕農相・当時らに)一人20万ずつ80万円の賄賂を渡した。日本に帰ってから養鶏協会の役員に80万を割り振ろうとしたから、総会で問題になりアキタフーズに引きずり降ろされた。浜松市の小さな養鶏者に会長をやらせ、自分は政策顧問として全部動かしていた。河井案里の家宅捜索で、アキタフーズによる自民党議員や農水省官僚への賄賂や接待が明らかになった。そうしたら千葉のアキタフーズ関係の鶏舎で鳥インフルが出た。その時はざまあみろと思っていた。
——焼却・埋却は終わったの?
まだ終わっていない。俺のところは、掘ると水が出るから埋却できないと、栗源町の8反歩の土地は地元の同意が得られなかった。結局、市の土地2反歩に埋めると決まったところ。殺処分し自衛隊がペール缶に処理した鶏を、毎日焼却場に持っていっている。1カ月半くらいかかるだろう。1日2千羽しか焼却できない(注1)。千葉県には大規模の鶏舎があるから、もしもの場合に産業用の焼却場を準備しておかないと。穴掘って埋めるは時代錯誤だ。
(注1 殺処分した鶏を焼却できるのは千葉県では1カ所だけ。他の焼却場では断られている)
——処分が終われば再開?
いや、ウイルスがなくなったかの確認をする。それからひよこで試験、30羽を20日間育て血液採取、それから3週間様子を見る。鶏舎ごとに30羽だから、20カ所あれば600羽の血液を検査する(注2)。千葉の検査場だけではやれない。これから検査するというが、それでなくても1カ月も遅れている。頭にくるよ。話にならない。
(注2 鶏舎内を1週間間隔で3回の洗浄消毒、その後に床、壁、天井のウイルス検査。それからひよこを20日間育て、ウイルス検査を行ってから鶏舎に鶏を入れる)
——遅れている原因は?
鶏が多いのは鹿児島、茨城、千葉の順。茨城のイセフーズが多古町に200万羽の鶏舎を作ろうとしていた。大規模養鶏が千葉にも来ている。日本の平均が6万羽ということで対処策が決められているのが原因じゃないか。24時間以内に殺して、72時間以内に焼却・埋却するのは6万羽ならできる。解放鶏舎を建て替え、どんどん羽数を増やしたから、2カ月経っても処分が終わらないし検査も追いつかない。
——再開はいつごろ。
5月の中旬くらいに再開できるかどうか。被害が出なかった育成舎にいる鶏を成鶏舎に入れないと、次のひよこを育てる場所がない。千葉県で470万羽の鶏がいなくなったから、ひよこの奪い合いになっている。注文したのをキャンセルすると次のひよこが手に入らなくなる。
数の競争は限界AW取り入れる
——経営的には保険でやれる?雇っているのは鶏舎で10人、休業しているパッケージセンターでパート40人、直売所でも働いている。約100人の雇用を維持することはきつい。卵を産み始めれば回り始めるが。今回は中小企業金融公庫が融資してくれるが、来年も鳥インフルになったら大変。
——今年流行した理由は?
昨年ヨーロッパで今回の型が広がった。それが中国、ロシアに渡り、北海道でシベリアから渡ってきた白鳥からウイルスが出た。北朝鮮や韓国から四国・九州にも広がった。ある程度対策していたが、それぞれの距離が近すぎるので、手の打ちようがない(注3)。
(注3 感染した渡り鳥の糞をネズミなどの小動物が鶏舎に持ち込むことが大きな感染ルート)
——茨城で300羽だけ飼っている農家があるというが。
コロナが収束したら一度見に行きたい。300羽の半分が卵産めば、1日150個、1個100円で売れば、1日1万5千円になる。平飼い卵を通販で売っている。コロナをきっかけに、もう一回やり方を見直さなければならない時かもしれない。巨大工場みたいなやり方を。アキタフーズが反対したアニマルウェルフェアを、政府もSDGsといって進めると言っているのだから。
戦後の日本でも動物性たんぱくとして卵が重宝された。経済発展とともに養鶏が増えて大規模化したが、今のような数の競争はもう無理。AWを取り入れ、消費者が認めてくれるかどうかが重要だ。栄養的には卵は豆腐と同じ。いい豆腐は100円、卵は10円。餌屋と、伊藤忠や丸紅などの商社が組んで安売り競争している。
——エサ米はどうなっている?
エサ米(飼料米)がいま1000㌧残っている。1月に茨城の全農から200㌧買った。どこかの倉庫を借りるしかない。1000㌧でも元の羽数になれば半年分。配合したものは全部、穴掘って捨てたよ。卵も30〜40㌧埋めた、陰性だが出荷しなかった。
農民が生きられる新しい運動を
——日本は医療先進国だが、コロナですぐ医療崩壊した。日本では産業動物に携わる獣医が少ない。岐阜大の定員は30人。10年間で獣医になったのは2人で、あとは役人や防疫検査官になっている。
——ヨーロッパの養鶏は?
今から30年くらい前にオランダで、夫婦2人が養鶏10万羽を飼っていた。日曜日に小学生の子どもがオートパッカーで卵を取っていた。地域で2000万羽いて、鶏を移動する専門の会社、掃除する会社もあった。夫婦2人で毎日、卵を取っていればいい。物事を合理的に考えている。
2012年にEUで、ケージ飼いが禁止になった。アメリカも連邦政府はケージ飼い禁止、しかし輸出する卵はケージ飼いでいいとなっている。
野菜農家が農薬を使わなければ収量は落ちる。農薬使わないので川の水がきれいだから、上水道に使うことができる。上水道の水道料金に、農家の収入補填の料金を上乗せすることをヨーロッパでは国民が納得してる。
——千葉の酪農グループが牛に負担がかかる3回搾りをやっているとの話を聞いた。
3回搾りをやると、お産が2〜3回で終わってしまう。普通は4回、5回お産する。Y牛乳の組合員で、息子が自殺したのが2〜3人いると聞いてショックだった。Y牛乳の牛乳と俺のところの卵を一緒に配達することから生協ができたんだ。搾乳は朝と夜、365日の仕事、友だちもできない。農作業でも公休の取れるようにしないとやり手がいない。
——畜産の場合、難しいよね。
俺のところは年俸制の雇用だ。今年は長野と北海道から新規採用した。今年から飼料米を使って、ブランド卵「こめ卵」を生産したい。
それと、ビニールハウスを作って平飼いをしようと思っている。以前、ベトナムで見た平飼いの鶏、その卵を見て鶏がいい状態だと思った。ビニールハウスに換気扇と窓を付ければ、夏の暑さも防げる。それをやろうと思った半年後に、鳥インフルが起きてしまった。
——大規模競争、安売り競争になるとおかしくなる。小さい規模でも大規模でも農家が食っていけるようになれば、後継者は絶対出てくる。
畑を貸してくれと言っていないのに、俺のところはアッという間に20町歩になった。近所のじいさんから「もう歩けなくなったから、この畑を使ってくれ」と頼まれた。普段はヘルパーが来て介護を受けてる人だ。
——新自由主義は「今だけ、金だけ、自分だけ」だ。昔はみんな同じような農家だったから協力してやっていた。千葉ではほとんどエサ米の生産で、作っても売れるかわからないと8割くらいが契約栽培だ。
このままいったら農家は食品産業の下請けになっちゃう。
大分にある鈴木養鶏場は、何百軒の農家の飼料米を買って15〜20万羽飼い、地域と一体化している。農家同士や地域との連携ができるかだ。販売だけでつながろうとすると、農家をダメにする。若い連中は個人のライフスタイルがあるので、それを保ちながら農業やれるようにしないと。
——全日農も農民連もダメだと思い、全国農民会議の共同代表をしている。成田の市東さんの農地が強制的に取られようとしている。でも日本共産党は何もやらない。昔、共産党に入ろうとした時、ちょうど成田の闘いが始まって、共産党が追い出された。当時はよくわからなかった。その後、成田で暴力的衝突になったのを見に行った。成田の農民がどんなことやっているのかと、冬場に援農に行った。そこから運動にかかわった。農地取り上げは農民にとって死活的だ。怒りを持つ人なら支援できる。だから新しい運動を作ろうと思っている。