明日も耕す 農業問題の今 アニマルウエルフエア 「畜産福祉」新基準の波紋 矛盾広がる養鶏の現状
週刊『三里塚』02頁(1061号02面05)(2021/04/12)
明日も耕す 農業問題の今
アニマルウエルフエア
「畜産福祉」新基準の波紋
矛盾広がる養鶏の現状
前号で「食料における国際標準づくりに乗り遅れない」ために菅政権が進めている「みどりの食料システム戦略」を紹介したが、畜産の分野では「アニマルウェルフェア」という言葉を新聞で見かけることが多くなった。
アニマルウェルフェアとは、家畜を生き物として、できる限りストレスを少なくして健康的に飼育するという欧州発の畜産の考え方で、「動物福祉」や「家畜福祉」と訳されてきた。
「国際獣疫事務局(OIE)」という機関では、2017年から採鶏卵に関するアニマルウェルフェアの国際規約が検討されていて、加盟する182の国と地域から出された意見を集約して2021年5月の総会で採択する予定。
輸出農業を第一に掲げる菅政権は、これに乗り遅れるわけにはいかない。2月19日の予算委員会で、野上浩太郎農水相は、「アニマルウェルフェアの推進は重要な課題」との認識を示した。
ケージ閉じ込め
だが、この基準づくりをめぐって起きたのが、昨年、吉川貴盛元農水相と鶏卵生産大手の「アキタフーズ」元代表が500万円の現金を授受したという汚職事件だ。養鶏場に止まり木や巣箱の設置を義務づける流れに対し、これに反対してもらおうと賄賂を渡したのだ。日本政府は、日本で主流の金網のケージ飼いも基準の中に認めるよう働きかけ、これが採用される方向で進んでいる。これでは骨抜きもいいところだ。本来、鶏は1日1万回以上地面を突き、とまり木で眠り、巣に隠れて卵を産み、砂浴びで寄生虫や汚れを落とし、日光浴をし、運動をして健康を保つ。しかし、いま日本の採卵養鶏場の92%は、ほぼ身動きが取れないケージに鶏を閉じ込め、健康とはほど遠い環境で飼育している。形骸化した基準でビジネスチャンスを広げようとは本末転倒だ。
「物価の優等生」
世界の養鶏は、ケージで飼育することをやめ、平飼いに切り替えるという「ケージフリー」の飼育に変わってきている。規模拡大競争の養鶏は、もはや行き詰まっている。鳥インフルエンザの爆発的な拡大も、こうした不健康な飼育形態と無縁ではあるまい。全国農民会議・小川浩さんの知り合いで、鳥インフルエンザの被害に遭った方の話を1058号で紹介したが、直接話を伺う機会を得た。「コロナや鳥インフルをきっかけに、今までやってきたことを見直さなければならない。アニマルウェルフェアを取り入れて。だけど価格は高くなる。それを消費者がどこまで認めてくれるか」と率直な思いを口にされていた。
消費者の理解と行動は大事だ。だがそもそも卵を「物価の優等生」と言いなし、安売り競争をしてきたのは大資本だ。そして、安いものを買わざるをえない労働者の低賃金の問題だ。「コロナ×大恐慌」の中で労農連帯を深め、資本主義を倒して農業の未来を拓こう。