不当判決を徹底批判する 葉山岳夫弁護士インタビュー 農地収奪は絶対に許されない
不当判決を徹底批判する
葉山岳夫弁護士インタビュー
農地収奪は絶対に許されない
三里塚芝山連合空港反対同盟顧問弁護団事務局長の葉山岳夫弁護士に、昨年末の請求異議控訴審判決を全面的に批判していただいた。
「文書がない」と公約否定
----12月17日、東京高裁第4民事部・菅野雅之裁判長は、控訴棄却判決を下しました。
きわめて不当、違法判決です。原告・市東孝雄さんの控訴を棄却し、第4民事部が出していた強制執行停止決定を自ら取り消し、仮執行を認めたのです。弁護団は12月21日に執行裁判所である千葉地裁と交渉し、担保保証金100万円の支払いを条件に執行停止決定を獲得しましたが、この効力の期限は3月31日までとされ、それまでに最高裁で執行停止決定をとらねばなりません。
----判決の内容の批判をお願いします。
第一に、「あらゆる意味で強制手段を用いない」との空港公団の公約について、苦しまぎれにその法的効力を否定しました。
成田空港問題シンポジウム(※)で、1994年に隅谷調査団が最終所見を出し、その中で「平行滑走路に関する農地の取得に関しては、あらゆる意味において強制的手段が用いられてはならない。あくまでも話し合いにより解決を」と提言しました。空港公団総裁がこれを全面的に受け入れると公約しました。明らかに強制執行権の放棄、または不執行の合意であり、これを破ってNAAは市東さんの農地を収奪しようとしています。
一審の高瀬判決では「あらゆる意味での強制的手段」から民事的な訴訟、仮処分決定に基づく強制執行について、これを無理やり外してしまった。それは理由不備であり、判決の最大の弱点だったわけです。高裁・菅野判決はそれを修正する形で、断行的な仮処分によって多数の権利侵害を起こしたこと(1977年岩山鉄塔破壊など)について、事実としては認めた。認めた上で、市東さんの農地問題については強制執行権の放棄、不執行の合意の成立を認めないと言う。なぜならば、合意書等の書面がないからと言うのです。とんでもない詭弁であり、法的に欺まん的な矛盾した判決です。
また「強制手段用いず」の公約について、「社会的・政治的な決意表明といった意味合いのものであり、直ちに法的な効果を生じない」と言う。つまり、安倍発言のようなもので、その場限りのいい加減な話に過ぎないから、法的効力がないというのです。
農民の命奪う権利濫用だ
第二に、強制執行は権利濫用(らんよう)だというこちらの主張について、まともな判断をせず、門前払い的に否定しました。
市東さんの農地は祖父・市太郎さん、父・東市さん、孝雄さんと三代百年にわたり耕されてきました。強制執行は、農民の命に等しい農地を奪い、生活を破壊する過酷執行です。
しかし菅野判決は、基本事件(農地法裁判)の口頭弁論終結の前から論じられてきたことだから請求異議の事由にあたらないとして、一切これをはねつけた。
そして、空港公団は地主から「平穏に所有権を取得した」と言って権利濫用の主張を否定するのです。
ふざけるなと言いたい。公団は、東市さん署名を偽造して同意書・境界確認書をねつ造、行使し、東市さんに無断で耕作権のある農地を地主からこっそりと違法に「取得」したのです。市東家は、それをまったく知らされず、15年間もだまされて旧地主に地代を払い続けた。このようなコソ泥的犯罪行為を行って、何が平穏かということです。
第三に、コロナ状況の深刻さを否定して「航空需要回復」を強弁しています。
全世界的にまん延した新型コロナ感染症のもとで、巨大独占資本と自民党政府が当て込んだインバウンド、観光立国政策が裏目に出て、航空バブルがはじけ、成田は今や閑古鳥が鳴いています。19年に比し乗客は2%。壊滅的打撃です。
この状況下で、B'滑走路の誘導路直線化のために市東さんの農地を奪うという必要性・緊急性は皆無だと主張しました。今後長年月にわたって航空需要は回復しないことを、埼玉大学名誉教授の鎌倉孝夫さんが経済学的に論証しました。
ところが判決はそれを「鎌倉証人の独自見解」「需要は回復する」と証拠もなしに否定して、強制執行を容認します。
NAA自身は「必要性・緊急性」について具体的に主張したことは一度もないのに、菅野裁判長はNAAの代理人よろしくそんなことを代弁した。怒りに堪えません。
いい加減な「決意表明」!?
----「社会的・政治的決意表明」はいい加減でよいとは、ずいぶんひどいですね。
本来の社会的・政治的決意表明は、当然厳正に守られるべきものです。ところが判決は、安倍政権のもとでの森友・加計学園、桜を見る会など国会答弁がうそと事実隠しの連続である現状を引き写して、いい加減でよいものとして扱う。社会的・政治的公約という、最大限尊重されるべき人間の真剣な営みを愚弄し侮辱するものです。
まして運輸大臣、運輸次官、千葉県知事、公団総裁などが列席し、会議録もあり、マスコミも大きく報じた公約です。
----判決の最後に「平穏、円滑に」との付言がありますね。許しがたい言いぐさですが、これは裁判所のたじろぎかと。
そういうことです。「本件強制執行においては、時期・態様等について可能な限り当事者間で協議を行い、平穏、円滑に土地の明け渡し等が実現するよう最後まで努力することの重要性はいささかなりと失われていない」と書かれています。「強制的手段用いず」の公約の法的効力を否定しながら、強制執行断固やるべしと大上段から正当化できず、農民の命を平穏に奪ってくれと。
また市東さんの完全無農薬有機農業について、「社会的意義や有用性を高く評価する」「多大な努力に深甚な敬意を表する」などと持ち上げてもいます。それならば強制執行は、許可すべきではない。
しかし一方で、空港の公共性を盾にとって強制執行を是認し、権利濫用を否定する。矛盾した判決です。このようなことを言わざるを得ないところまで、控訴審の中で裁判所を追い詰めました。
----ところで、判決文には「反対同盟熱田派が昭和47年頃に岩山鉄塔を建設した」との記述があります。
反対同盟から分かれて「熱田派」が発足したのが1983年3・8分裂。岩山大鉄塔は70年代に建設され77年の5月に断行的仮処分に基づく強制執行で引き倒されたわけですから、熱田派の影も形もありません。大きな間違いです。
強制執行を必ず阻止する
----最後に全国の読者、三里塚支援者へのメッセージを。
昨年に続き、21年は全世界的な大激動の時代です。米国では人種差別に抗議する大衆が警察署を占拠しました。労働者人民の実力でトランプに敗北を強制しました。このコロナ禍において、医療労働者を先頭にエッセンシャルワーカーが全世界で立ち上がっています。動労千葉、関西生コン支部などの労働組合の闘いが、組合つぶし攻撃や弾圧を打ち破り前進しています。
市東さんの農地の収奪に対する闘いは、全日本農民、全労働者人民が新自由主義を打ち砕き、菅政権を打倒する闘争の重大な一環です。連帯して闘うことで強制執行を阻止し、必ず勝利できます。弁護団は三里塚反対同盟の農地死守・実力闘争と固く連帯して、菅野判決を徹底的に粉砕して上告審を闘います。
----ありがとうございました。
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東京高裁・菅野判決の骨子
①空港公団の公約「あらゆる意味で強制的手段用いず」の法的効力を否定
②市東さんの農地を奪う強制執行が権利濫用であることを否定
③成田空港の惨状を見ても「航空需要は回復する」と強弁
※成田空港問題シンポジウム
1991〜93年、「国と反対派が対等の立場で討論する」との触れ込みで、成田市と芝山町で15回にわたり開かれた「シンポジウム」。隅谷三喜男東京大学名誉教授らが主宰する形で、運輸省、空港公団、千葉県、熱田派が参加。