明日も耕す 農業問題の今 競争激化するゲノム編集 遺伝子特許で支配権争い

週刊『三里塚』02頁(1054号02面05)(2020/12/28)


明日も耕す 農業問題の今
 競争激化するゲノム編集
 遺伝子特許で支配権争い


 2020年のノーベル化学賞は、狙った遺伝子を非常に高い精度で操作するゲノム編集技術「クリスパー・キャス9」を開発した研究者2人が受賞した。軌を一にして、ゲノム編集をめぐる動きが加速している。
 12月11日、ゲノム編集技術を使って品種改良したトマトが「ゲノム編集食品」として厚労省に届け出され、受理された。安全性を担保するためとして昨年10月に届け出制度がつくられて以来、初だ。

本当に安全か?

 今回届け出が認められたトマトは、血圧を下げる効果があるとされる「GABA」と呼ばれるアミノ酸を通常のトマトよりも5倍ほど多く含むという。ゲノム編集技術でGABAの量を制限する遺伝子の一部を壊して含有量を増やしたもの。
 開発した企業は、来年5〜6月頃に家庭菜園向けの苗を無償提供し、7〜8月に種の販売を始めるとしている。
 遺伝子組み換えのように外来の遺伝子が残らないので人体への悪影響はなく、栽培に伴う環境影響もないという。
 ゲノム編集は、生物がもともと持っている遺伝情報の変更で、他の生物の遺伝子が入らないから

「自然の中での変異と同じ」とされる。

 だが、実際には狙っていない遺伝子が破壊されたり、大量の遺伝子が破壊されたり、狙い通りの遺伝子が破壊されても予期せぬ影響が現れることが指摘されている。
 ところが厚生労働省は、2019年3月、外来遺伝子が残らず、元々持っている遺伝子の働きを失わせるだけのゲノム編集なら、従来の品種改良と同列に、届け出だけで販売できるとした。
 消費者庁は同年9月、これらのゲノム編集であれば表示を義務付けないとする流通ルールを公表しているのだ。

金もうけ許すな

 官民あげて安全性を強調し、開発を急ぐのは知的所有権、すなわち特許をめぐる競争があるからだ。
 現在、ゲノム編集に関する基本特許は、モンサント(現バイエル社)とデュポン(現コルデバ社)の2社によって握られている。
 そして、アメリカではすでに2018年からゲノム編集食品の商業栽培が始まっている。
 これに対して、2018年6月15日、安倍政権は「統合イノベーション戦略」を閣議決定した。知的所有権を取得し、高度化された農産物を販売しようとする戦略で、その中心がゲノム編集による作物や動物の開発だ。有力な特許を取得することで、種や農産物市場の支配権争いに参入しようとしているのだ。
 難病の治療や新薬の開発をも錦の御旗にして、ゲノム編集の開発競争は激しさを増している。農業だけでなく、さまざまな分野で遺伝子が特許の対象となり、私たち自身の遺伝子をめぐる商売も広がっている。
 ゲノム編集などの遺伝子操作による金もうけを許してはならない。
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