明日も耕す 農業問題の今 行き詰まる「輸出農業」 農薬規制・有機で競争激化

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週刊『三里塚』02頁(1052号02面05)(2020/11/23)


明日も耕す 農業問題の今
 行き詰まる「輸出農業」
 農薬規制・有機で競争激化


 11月15日、日本、中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドとASEAN15カ国がRCEPに署名した。巨大な自由貿易圏が生まれるが、いま日本の輸出農産物は食をめぐる〟新潮流〟に対応を迫られている。
 NHKの「クローズアップ現代+」で、興味深い放送があった。「世界でどう闘う? 農産物のJAPANブランド〜求められる新戦略〜」(10月22日放送)で、2つの世界的な潮流を紹介していた。
 そのひとつが農薬の規制強化だ。基準を独自に引き上げる国が相次ぎ、日本の基準を満たしていても輸出できなくなる懸念が報じられた。
 タイの例が取り上げられ、今年の6月に禁止されて不検出が通関の条件となった農薬が日本では一般的に使われているもので、農家が対応に苦慮しているという話だ。
 農水省は「輸出先国の規制の緩和・撤廃に向けて働きかける」という見解を示したが、タイ政府の方は規制の強化を「国民に安全な野菜を届けるとともに自国の農産物の輸出機会を守るため」だという。農薬をおさえなければ、世界では売れなくなってきているのだ。
 クルマを輸出するために農産物を輸入し、そのために規制を緩和するあり方と、輸出農業の矛盾があらわになっている。

日本「150分の1」

 新潮流のもうひとつが、有機農産物市場の拡大だ。世界の有機食品の売り上げは08年の5・3兆円から18年には約11兆円と倍増している。その中でいまEUに最も輸出しているのは中国で、日本はその150分の1だ。その差を埋める産地をあげた取り組みとして、AIを活用したり新たな大型技術の導入をJAPANブランドの新戦略と紹介していたが、有機生産の土台が他国とは違っている。
 日本の種子を守る会アドバイザーの印鑰智哉(いんやくともや)氏が自身のブログでこの日の放送にコメントしているが、氏によれば中国だけではなく韓国、フィリピン、タイ、ベトナムなどでも急速に有機生産が高まっていて、それを可能にした要因のひとつが参加型認証の普及だ。

新たな認証制度

 有機JASなど従来の認証は、年間20万円前後の経費と審査のための作業など、負担がすべて個々の農家にかかる。
 これを農家相互、消費者や流通業者などが参加して関わることで個々の農家の負担を減らしつつ、より信頼できる認証をするというのが参加型認証(PGS)だ。日本での最初のPGS認証団体となったオーガニック雫石で、年間7000円ちょっとの負担で有機認証が可能だ。
 こうしたしくみも通して、裾野を広げる取り組みこそなされるべきで、有機をブランドとした金もうけの競争は必ず行き詰まる。
 国内農業を切り捨てて、一握りの輸出農業だけ生き残ればいいという安倍以来の農政に未来はない。
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