「空港拡張など論外」 請求異議控訴審で市東さん証言 強制執行の違法性明らかに
「空港拡張など論外」
請求異議控訴審で市東さん証言
強制執行の違法性明らかに
9月2日、市東孝雄さんの請求異議控訴審第3回が、東京高裁第4民事部(菅野雅之裁判長)で開かれた。この日は証人尋問と市東さんの本人尋問が行われ、反対同盟と弁護団、支援の労働者ら90人が法廷内外で終日ともに闘い抜いた。
102号法廷には裁判所職員が過剰に配置され、その一方傍聴席は「コロナ」を理由に3分の1に制限されている。
午前10時30分開廷。最初に弁護団が、この日提出した準備書面の要点を陳述した。コロナショックで訪日外国人客の99%以上が減少した成田空港の壊滅的状況を報告し、「市東さんの農地を取り上げ、空港施設に転用する目的が消滅した。強制執行は権利濫用。原判決を取り消せ」と迫った。
次に経済学者の鎌倉孝夫さんが証言に立った。新型コロナによって生じた現在の状況を「人間関係そのものを破壊する重大な危機」と位置づけ、航空バブルをもたらした新自由主義を批判し、空港の虚偽の「公共性」を厳しく指摘した。
午後はまず、東峰地区で有限会社・三里塚物産を営む平野靖識(きよのり)さんが証言した。孝雄さんの父、市東東市さんから恩義を受けた思い出などを交えながら、空港反対運動に身を投じてきた経緯を語った。その上で空港1期の建設過程であまりにも残虐な機動隊の暴力が行使された事実を踏まえ、シンポジウム・円卓会議(1991〜94年、運輸省、空港公団、熱田派などが参加)において「用地取得のために、今後あらゆる意味で強制手段を用いない」との確約がなされたことを強調した。そのことについて、この裁判でNAAが「民事訴訟に訴えることや、判決に基づいて強制執行することには関係ない、問題ない」と確約を踏みにじり居直っていることについて、「ありえない。議論をゆがめるものだ」と明確に否定した。
次にいよいよ市東さんの本人尋問となった。B滑走路閉鎖中の天神峰の状況について聞かれて、「騒音が消え、鳥のさえずりも聞こえる。タイヤのすれる臭いや排気ガスもなくて本当に気持ちがよく、これが本来の姿だと感じた」と述べた。そして、NAA田村明比古社長がこの期に及んでなお、「空港機能強化を進める」と主張していることについて、「旅客が激減しB滑走路など使う必要なくなったのに、それでも無理して開いているのは反対する者への嫌がらせ。この上さらに空港を大きくするなど論外だ。勝手に(旅客数増加の)右肩上がりのグラフをつくって、それに合わせて年間50万回飛ばすなど許せない」と弾劾した。
無農薬有機栽培
さらに現在の南台と天神峰の畑の耕作状況を具体的に説明し、「その時の旬の野菜を消費者に届けている。化学肥料も除草剤も使わない完全無農薬の有機農業で年間50〜60品目を栽培している」と誇り高く確認した。
そしてNAAによる違法かつ卑劣な農地強奪の策動を弾劾した。「収用法で取れないとなると、農地法を悪用して民事裁判で取ろうなどというNAAの魂胆に腹が立つ。小作であろうと農民としての生きる権利がある」
「うちにはだまって公団は旧地主から底地を買収していた。成田市農業委員会は、『書類さえそろっていれば』と違法な買収と賃貸借契約解除を認めた。国策なら何をやってもいいというのか」
そして、農業に取り組む自らの姿勢を語った。「南台と天神峰の農地を取り上げられたら、農家として成り立たない。表土を運んでよそへ持っていけばよいというのは、物事を知らない人の発想だ。それでは土が死ぬ」
「私が心がけていることは、『うそをつかない』こと。新鮮で安全な無農薬野菜を消費者に届けたい」
「お金は確かに大切だが、1億8千万円の離作補償を受け取ることより、消費者から『おいしい』という言葉を聞いて自分の体を動かして働く方が大事だ」
終わりに、「私は自分の体の続く限りこの天神峰の地で農業を続ける」と述べて締めくくった。
続いて補佐人として、農業学者の石原健二さんが、新自由主義のもとで苦境を強いられる日本農業の現状と、市東さんの農業実践の意義を陳述し、「強制執行は市東さんの人格を否定する権利濫用だ」と批判した。
裁判長は最後に、NAA側に「反論」の提出を命じ、次回期日を10月22日として閉廷した。
10・22最終弁論
弁護士会館で伊藤信晴さんの司会で報告集会が開かれた。1時間に及ぶ証言をやり切った市東さんは晴れ晴れとした表情であいさつに立ち、「コロナ禍のもとで向こうも簡単には農地に手をかけられないだろうが、気構えはくずさずがんばります」と述べた。
葉山岳夫弁護団事務局長は各証言を振り返りながら、「充実した内容でNAAを完全に圧倒した」とこの日の勝利を確認し、最終陳述に向けて全力で闘う決意を表した。続いて弁護団一人ひとりが発言し、この日の証言の積極的な意義を確認し、さらに動労千葉の中村仁さん、関西実行委、「市東さんの農地取り上げに反対する会」の連帯発言を受けた。
最後に萩原富夫さんがまとめのあいさつに立ち、9・27全国集会、10・22請求異議控訴審最終弁論のスケジュールを確認した上、「追い詰められているのはNAA。反対同盟54年の歴史の上に、われわれは今本当に勝利できる状況を切り開いている」と一同を激励した。