明日も耕す 農業問題の今 農業とウイルスの深い関係 「益か害か」では語れず
明日も耕す 農業問題の今
農業とウイルスの深い関係
「益か害か」では語れず
コロナウイルスの感染拡大で、私たちは否応なしにウイルスの存在を意識させられている。「ウイルスとは何か」という話もあちらこちらで目にする。ウイルスを農業から見たら、という話をちょっとしてみたい。
ウイルスと言えば、真っ先に思いつくのは今回の新型コロナウイルスのように感染症を引き起こすものということだろう。農耕・畜産から言えば、鳥インフルエンザのようにさまざまな病害を引き起こす。
そもそもウイルスは牛の急性伝染病である口蹄疫とタバコの葉に斑点ができるタバコモザイク病の原因として、19世紀末に初めて発見されたということだ。野菜の病害虫事典でも、たびたびタバコモザイクウイルスという言葉を目にしたことを思い出す。
ウイルス農薬
6月14日の日経新聞で「ウイルス農薬」という言葉を目にした。ウイルスは人間にとって益にもなるという話で、西太平洋・パラオでの事例が紹介されている。
1970年代、ヤシの木をタイワンカブトムシの食害から守るために、「ヌディウイルス」に感染させた成虫を野外に放つという方法だ。ウイルスにまみれたフンを含む腐葉土を食べると幼虫がウイルスにやられてしまい、個体数が減るというやり方だ。
人間や他の昆虫には感染しないウイルスを、目的の害虫に感染させて広げれば、効率よく退治できて化学農薬を使う駆除よりも自然環境や健康への影響が少ないというのがうたい文句だ。こうしたやり方は意図したことだけが起こるわけではない。耐性・抵抗性を持ってウイルス農薬が効きにくい害虫も現れた。
ウイルスというのは実に多種多様で、動植物との関わりも未知な部分がまだまだ多い。人間のからだも実は進化の過程で感染したウイルスからさまざまな遺伝子を受け継いでいるという。益か害かだけで簡単に論じるわけにはいかない。
コロナ禍の先に
だが、先のパラオの話から50年の時が経ち、現在は遺伝子組み換えやゲノム編集と合わせて「益になる」技術の開発が進められている。
一例として、小頭症を引き起こす「ジカウイルス」の感染対策で、ウイルスを媒介する蚊を遺伝子組み換えやゲノム編集を使って減らしてしまおうという研究がある。ゲノム編集の技術を用いれば、雄の蚊を不妊にさせる遺伝子を組み込んでその種を絶滅させることもできる。さすがに「そこまではやりすぎ」ということで、実用化にストップがかかっている。
感染症の歴史は人間が農耕と野生動物の家畜化を始め、集団的居住を行うようになってからであり、ウイルスの問題は社会のあり方を抜きには語れない。だが、新自由主義のもとでは、「克服」のために金もうけの技術開発競争を加速させる。
コロナ問題を契機に何が行われていくか、注視する必要がある。