明日も耕す 農業問題の今 緑食い尽くすバッタの群れ 大量発生の原因は何か
週刊『三里塚』02頁(1044号02面05)(2020/07/27)
明日も耕す 農業問題の今
緑食い尽くすバッタの群れ
大量発生の原因は何か
(写真 光文社新書 税込1012円)
今年の初めからたびたび報じられていたが、アフリカ東部から南アジアにかけてサバクトビバッタの大量発生が大問題となっている。新型コロナ感染拡大の中で、世界の食糧危機を危惧する大きな要因となっている。
サバクトビバッタは、ひとたび大発生すると数百億匹が群れ、東京都くらいの広さの土地がすっぽりと覆い尽くされる。農作物のみならず緑という緑を食いつくし、風に乗ると1日200㌔メートル以上移動するため被害は一気に拡大する。
それではなぜバッタが大量発生するのか。
大量発生と聞くと「新自由主義の問題だ」と批判したくなるが、そう考えるのは早計だろう。
バッタの被害は、古くは聖書やコーランにも記されている。
ベストセラーとなったバッタ博士・前野ウルド浩太郎氏の『バッタを倒しにアフリカへ』(2017年、光文社新書)によると、サバクトビバッタが大発生できるのは、まばらな時はおとなしいのに、混み合うと群れを成して活発に動き回る状態に変身する特殊能力を秘めてるからだと言う。
過去の歴史的なバッタの大発生は決まって干ばつの後の大雨の時だそうだ。干ばつでバッタは天敵もろとも死滅する。しかし、翌年大雨が降って緑が芽生えた時、生き延びたバッタがその移動能力でいち早くその場にたどり着き、天敵がいないうちに短期間で爆発的に増加するのではと前野氏は考察している。
「害虫じゃない」
バッタの話から、ふと以前農民新聞(全日農)で読んだ有機米種子生産農家・稲葉光國さんの講演の話を思い出した。稲葉さんによれば、「昔はカメムシは害虫ではなかった」という。1997年頃から全国一斉に育苗箱への殺虫剤ネオニコチノイド散布が普及した。その結果害虫はいなくなったが使い始めて3年後、突如カメムシが害虫として出現した。
ネオニコチノイドで一番ダメージを受けるのはユスリカで、それをエサとするクモが田んぼで生息できなくなり、そこにカメムシがどっと入ってきたのだという。
生態系バランス
だから農薬を使う農家ほどカメムシの被害が多いという話だ。前野氏の話に戻ろう。氏は前著『孤独なバッタが群れるとき』の中で昆虫学者・桐谷圭治氏の「害虫も数を減らせばただの虫」という言葉を紹介し、バッタを撲滅する気は毛頭ないと記している。原因はどうあれ、大発生するから人間の都合で害虫と呼ばれるのであり、生態系のバランスが大事なのだ。
現状での対策は大量の殺虫剤散布で、人や家畜にとっても有害であり、生態系も破壊する。それは根本的な解決にはつながらない。
どうすれば愛するバッタの暴走を止められるのか、その生態を明らかにしようとモーリタニアに渡り、過酷なフィールドワークに取り組んだ前野氏の奮闘には、理屈抜きで引き込まれた。