明日も耕す 農業問題の今 「農業切り捨て」の指標 食料自給率とは何か③
週刊『三里塚』02頁(1040号02面04)(2020/05/25)
明日も耕す 農業問題の今
「農業切り捨て」の指標
食料自給率とは何か③
改悪の強行を許すか否かという緊迫した状況から、急きょ種苗法の問題を2度取り上げたが、コロナ危機の中で、食料自給率の低さを危惧する声も大きくなっている。途中になっていた食料自給率の話をまとめたい。
前の話で「実は食料自給率は突っ込みどころ満載」と、そのあやふやさを述べたが、これに対して「じゃあ結局、食料自給率って何なの?」というご質問をいただいた。 そこでもう一度おおもとに立ち返りながら、私見を述べてみたい。
食料確保の体裁
「食料自給率とは、我が国の食料全体の供給に対する国内生産の割合を示す指標です」 これが農水省のサイトで一番最初に出てくる説明だ。なぜこんな数字を出すかと言えば、政府の農業政策を示して行く上で必要だからだ。現在の農政は、ざっくり言えば「クルマを売るために農産物を輸入する。農業は競争で勝てるものだけ残ればいい」というものだろう。だがそうすると、どうやって食わせていくのかが問題になる。
その考え方は現在、食料・農業・農村基本法に示されていて、「安定的な供給については、世界の需給と貿易の不安定性にかんがみて国内生産の増大を基本とし、輸入と備蓄を適切に組み合わせる(2条2項)」としている。「食料はちゃんと確保する」こと示すため、また「国内生産の増大」を目指すことを示すために、現状を分析したデータとして自給率を表しているのだ。
農政映し出す鏡
前の話では「自給率の分母となる供給カロリーは、実際に摂取しているカロリーではない」とか「野菜や果実などの動向がカロリーベースでは反映されない」という突っ込みを取り上げた。これらは「自給率にそんなにこだわるな」とか「もっと輸出に力を入れろ」と言わんがためになされているものが多い。食料自給という言葉で何を語りたいのか、観点が違い、取り上げる数字が変わればどうとでも言えるのだ。けれど、その中で政府がどういう意図でどういう数字を採用しているか、それを検証する視点が重要だと思う。
農水省が示す自給率は、食料安全保障の観点から「国内生産はこれこれだけど、輸入や備蓄も合わせて食料供給は問題ないですよ」と示すものだろう。
しかし、食料自給率が37%にまで減り、「日本の食料は大丈夫か?」という懸念が高まる中で、新たに、飼料が輸入か国産かを問わない「食料国産率」が設けられ、46%という数字が示されている。これは「国産も結構ありますよ」と目先を変えるものでしかないではないか。
そもそも「食料安保」そのものが国としての考え方だ。農民や労働者の立場からすれば、食料自給率は日本の農政を映し出す鏡として、農業切り捨ての指標として見ていく必要があるのではないか。
(この項終わり)