明日も耕す 農業問題の今 安全より規制緩和を優先 高級牛の対中輸出再開へ
週刊『三里塚』02頁(1033号02面05)(2020/02/10)
明日も耕す 農業問題の今
安全より規制緩和を優先
高級牛の対中輸出再開へ
いま、牛肉の輸出入をめぐって「生後30カ月以下」というBSE(牛海綿状脳症)リスクからの月齢制限が問題になっている。とは言っても、米からの輸入制限は撤廃され、実は日本が中国に輸出する際の問題だ。
日米貿易協定が1月1日に発効したことから、各県でその影響試算が行われている。その報道を見ると、いずれも牛肉への影響が最も大きく、長野県は6億4600万円、熊本県は21億4千万〜41億8千万円、岩手県は7億2千万〜14億4千万円減少すると試算している。
畜産農家が苦境に立たされる中で、安倍首相は1月20日に召集された通常国会での施政方針演説で「日本の農林水産物の世界への挑戦を、力強く後押しする」と述べ、農産物輸出の拡大に強い意欲を示した。
その目玉が中国への牛肉輸出だ。4月にも予定される習近平国家主席の訪日までに、消費量が急拡大している中国への輸出再開を目指しているというのだ。
月齢制限を撤廃
中国への牛肉輸出は、日本国内でのBSEが発生した2001年から禁止されていたが、昨年12月に中国が輸入の解禁令を出した。約20年ぶりとなる牛肉の対中輸出をめぐり、月齢制限の撤廃に向けた要望が銘柄牛の産地から上がっているという。BSEの発生リスクが低いとされる「生後30カ月以下」の輸出条件がそのまま適用された場合、長期肥育が特徴の「神戸ビーフ」などの輸出が難しくなるというわけだ。BSEは対策が講じられ、今ではほとんど報じられることもなくなった。だが、問題がなくなったわけではない。鈴木宣弘東京大学教授によればアメリカのBSE検査率は1㌫程度で、発症していても検査から漏れている牛が相当程度いると疑われるということだ。
しかし、アメリカは一応BSEの「清浄国」になっているため、制限そのものをしてはいけないという貿易ルールに沿うように、昨年5月17日、厚生労働省はアメリカ産牛肉の輸入について月齢制限をすべて撤廃すると発表した。
そして今度は、立場を変えて中国に制限を無くせと言うのだ。
得するのは誰か
日本の労働者には外国産の安い牛肉を食わせ、日本の農民は力あるものだけがブランド牛を外国に売ればいい。売買のためには安全など二の次で、つまるところは流通資本の儲けになる。やっぱりこんな農政はおかしいだろう。新型コロナウイルスの感染拡大で、牛肉輸出の話がどう転んでいくかはわからないが、おりしも1月16日、東京都港区で和牛生産に情熱を注ぐ全国の農高生が集い、日頃の取り組みや肉質を競う「和牛甲子園」が開催された。彼らの情熱がどっちの方向を向いていくことになるのか。
農業のあり方を農民自身の手に取り戻さなければならない。